失業
失業をしていたとき、街を職さがしに歩きながら、何か用事あり気に路をゆく勤め人や商人が、別世界の人間のように羨やましくてならなかったことがある。わたしとそれらの人々は、たかが明日はどうなるか判らない職をもっているか、いないかのちがいにすぎないのに、まるで別世界の人間のようにこっちだけが窪んでみえるのはどうしたことか、おれの思想は、この程度のことに耐えないものなのか、こういった自問自答をなんべんもこころに繰返して歩いていた。
(「石川啄木」1961.4.10「読書新聞」に掲載 「自立の思想的拠点」1966.10徳間書店に収録された)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「石川啄木」1961.4.10「読書新聞」に掲載 「自立の思想的拠点」1966.10徳間書店に収録された)
- これは誰もが思い当たることなのではないだろうか。私も随分失業を繰返したから、そのなんともいいようのない想いに打ちひしがれていたことをいくらでも思い出してしまう。公園のベンチに座って忙しげに歩く人々をずっと見ていたことがある。そうだ、この程度のことに耐えられないものなのだ。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月05日(火) 23:55:20 Modified by shomon