初期
たれにとっても初期というのは、かけがえもなく自己のみの所有でありながら、ある普遍に属している。この普遍は、未熟、多感性、初々しさ、甘美さ、愚さ、などどんな言葉でくくりとられても、その指すところはおなじである。ただ、書くという自己慰安を覚えたものと、幸いにもそういう病いに侵されなかったものとに別れるだけだ。そしてこの病いに侵されたものは、それなりに生涯を自分の手で苅りとらねばならない。それを毒をもって毒を制するという危うい方法で、である。そのうちに廃疾にちかくなり、これを免れることはたれにもできない。かれはただ、廃疾だという自覚だけでこの過程に耐えるほか術がない。
(「全著作集のためのメモ」1974.4「吉本隆明著作集15初期作品集」1974.5.20勁草書房)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「全著作集のためのメモ」1974.4「吉本隆明著作集15初期作品集」1974.5.20勁草書房)
- 「ある普遍」というのはいいえているなと思う。だがもし書くということを始めてしまったものには、「毒をもって毒を制する」しかないのだろうか。私がこれを実感として判りえるのにはもう少し時間がかかりそうである。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月10日(日) 11:43:04 Modified by shomon