小林秀雄の功罪
小林秀雄の功罪を言いますと、僕は「こんなことを言うべきじゃないな」と思ったことがひとつあって、それは何かというと、作家協会か文学集団の会合で言ったことで、小林秀雄ともあろう人がといいますか、戦前に一所懸命にプロレタリアート文学者と論争したことを忘れてしまったのかと思いましたが、ソ連に行って、ソ連のことをべた褒めしたんですよ。「何カ年計画はうまくいっている。こういうことをするのはもっともだ」とべた褒めした。「何ということを言う人だ。これで戦前にやったことは全部帳消しになったじゃないか」と僕はこのときに思いました。
(「批評とは何か」1997.4.17談話収録「吉本隆明が語る戦後55年第12巻」2003.11.10三交社に掲載)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「批評とは何か」1997.4.17談話収録「吉本隆明が語る戦後55年第12巻」2003.11.10三交社に掲載)
- 私は中学生のときに、「無常といふこと」を始めて読みました。同時のたくさんのプロレタリア文学も読みました。やはり子どもの私にも、はるかに小林秀雄の文章のほうが迫力があるように思えたものでした。それなのに、戦後になってソ連の現実を目の前にしているのに、こんなことを言ってしまうんですね。なんだか思想の退廃としか私には思えません。残念なことです。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月10日(日) 15:35:04 Modified by shomon