即時的な現実体験をひとつの対自性に転化する
ある現実的な体験は、体験として固執するかぎり、どのような普遍性をももたないし、どのような歴史的教訓をも含まない。ただ、かれの「個」にとつて必然的な意味をもつだけである。この体験の即時性を、ひとつの対自性に転化できない思想は、ただ、おれは「戦争が嫌いだ」とか、「平和が好きだ」という情念を語っているだけで、どんな力をももちえないものである。うまく展開されているかどうかは別にしても、この即時的な現実体験をひとつの対自性に転化することによつて、「個」の体験を普遍化し、いわば対他的な「類」の存在にいたろうとする努力は、わたしたちによつてのみ戦後開拓されてきたのである。
(「過去についての自註」1964.2「初期ノート」1964.6.30試行出版部)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「過去についての自註」1964.2「初期ノート」1964.6.30試行出版部)
- わたしたちはたくさんの現実的体験を強烈にもっている。だがそれに固執しているだけでは駄目なのだ。その体験をひとつの対自性に転化し、これを普遍的なものとする努力を日々続けなければならないのだ。私も日々そうしているつもりである。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月06日(水) 23:17:42 Modified by shomon