大衆からの孤立感
日本的転向の外的条件のうち、権力の圧制、圧迫というものがとびぬけて大きな要因であったとは、考えない。むしろ、大衆からの孤立(感)が最大の条件であったとするのが、わたしの転向論のアクシスである。生きて生虜の耻しめをうけず、という思想が徹底してたたきこまれた軍国主義下では、名もない庶民もまた、敵虜となるよりも死を択ぶという行動を原則としえたのは、(あるいは捕虜を耻辱としたのは)、連帯意識があるとき人間がいかに強くなりえ、孤立感にさらされたとき、いかにつまずきやすいかを証しているのだ。
(「転向論」1958.11「現代批評1号」に掲載
「芸術的抵抗と挫折」1959.2未来社に収録された)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「転向論」1958.11「現代批評1号」に掲載
「芸術的抵抗と挫折」1959.2未来社に収録された)
- これこそが転向の一番大きな要因であるというのはまったくそうだと考えてしまうのだが、吉本さんがいいだすまでは誰もいうことができなかった。おそらくは、佐野、鍋山の転向とはこうしたことが一番の条件であった。だから、では日本の大衆はどのようなところにいたのかがまた問われることなのだと思う。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月03日(日) 13:50:14 Modified by shomon