漱石との出会いは『硝子戸の中』
十五の頃でしたか、友人から「おまえ、赤シャツに似ている」といわれて、何のことかときょとんとしたことがあります。「知らんのか。漱石の『坊つちやん子だよ」といわれたものの、わからなかったのです。悔しいから、すぐに神田の書店へ行った。たまたま文庫の棚に『硝子戸の中』しかなくて、それを求めました。読むと、これが随筆ながら、けっこう重たいものでした。ともあれ、これが最初の出会になりました。
(「漱石の巨きさ」2004.12.15文藝春秋「夏目漱石と明治日本」に掲載された)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「漱石の巨きさ」2004.12.15文藝春秋「夏目漱石と明治日本」に掲載された)
- これを読んで私は、非常に驚いたものです。私も同じなのです。鹿児島の照国神社の前の古い小さな古書店で、私はこの『硝子戸の中』を中学2年の秋、購入しました。この古書店が、小さくて古くて、暗くて、おばあさんがいつもひとりで、そしていつも安い古本を、私にはさらに値引きしてくれました。その店と同じで、『硝子戸の中』は、暗くて重い小説でした。そして、この古書店は私が見つけて通いだしてから3カ月で、忽然と姿を消しました。私には、漱石への思い出は、この古書店と『硝子戸の中』が最初で、そしてずっと抱いてしまった印象なのです。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月10日(日) 20:43:16 Modified by shomon