▲693年2月における勢力図
この頃、ロードレア国は、ロー・レアルス国との戦いを継続する傍ら、南の隣国リューグ国、バルド国(バルドの国替え後はシャリアル国)との戦いも強いられていた。
既に一軍を任せる頼もしい将となっていたバイアラスは、国境最前線ノーウェイ砦で指揮を執り、既に何度も敵軍を撃退していた。
そんな、多少の攻撃では揺るぐことのない彼から、突如本国に援軍を求める使者が届いた事に、レイディックは少なからず驚いたが、援軍として派遣されたラディアは、彼を追い詰めているリューグ国の将の名前を聞き、全てを納得した。
その男の名はキルレイツ。
かつてラディアと共にアゾル国の将として戦い、誤解が元で袂を別った将であった。
二人の間にいかなる出来事があったのか、アルディアが残した「蜉蝣戦記」にはそこまでの記述はないが、外伝となる小説からの抜粋によると、二人はアゾル国の将として共に戦っていた頃、作戦内容をめぐって何度も対立していたが、それでも互いにないものを見出して徐々に惹かれ合っていた。
そんな中、マラが攻め込んできたパザルアンの戦い(686)で、火攻めを行う事となったが、キルレイツ部隊が囮となり敵を誘い込むが、戦場での極限状態からか、リン部隊がラディアの制止を無視してキルレイツ部隊の撤退を確認する前に火をつけてしまう。
これにより、キルレイツは味方のつけた火によって部下も兵士も奪われ、自らを葬ろうとしたラディアを恨み、そのまま姿をくらます。
一説によると、出陣前に二人は「この戦いが終わったら夫婦の契りを交わそう」と約束したともあるが、愛憎の感情は完全に逆転し、復讐の鬼と化したキルレイツは、リューグ国に仕官すると各地の戦いで戦功を重ね、ロードレア国攻略部隊の指揮官にまで上り詰め、ラディアの前に立ちはだかろうとしていた。
キルレイツが敵将だと知ったラディアは、着陣した翌日にたった一人で敵陣へと向かう。
それを待ち構えるかのように、こちらも他の将の制止を聞かずに単身姿を現すキルレイツ。
バイアラスをはじめとする両軍の諸将が見守る中、二人は一騎討ちを繰り広げた。
戦いながらもキルレイツに、過去の誤解を解こうとするラディアだが、もはや聞く耳を持たない復讐鬼と化したキルレイツは、ラディアを一方的に押し込む。
このときバイアラスが見かねて加勢にくるが、それをラディアは制し、やむを得ず自らの剣だけをラディアに投げ渡し、ラディアはこれを受け取り、咄嗟に二刀流の構えを見せた。
これにより両者の剣戟は互角となるが、その瞬間を狙って伏せていたメスリウ、ソプラナ部隊が出陣し、砦に総攻撃を仕掛ける。
これは、開戦前に名乗りをあげての一騎討ちの最中は、部隊を動かさないというこの時代の暗黙のルール(開戦後に偶発的におきた場合は含まれない)を無視しての不意打ちであり、ラディアの知っているキルレイツは、その様な行動をとる男ではなかった。
だが、キルレイツは、それをあえて破ってまで、ノーウェイ砦に部隊を仕向ける。
ラディアの性格からして、自分を信用しきっているだろうと思っての不意打ちであった。
さすがのバイアラスも、不意打ちで混乱を起こした兵を統率することはできず、砦への侵入を許した時点でラディアを連れて撤退する。
ノーウェイ砦は、そこまで重要拠点という訳でもなく、動員された兵数も国境の小競り合いと言ってもいい規模であったが、それでもラディアとバイアラスという当代の名将を二人も揃えながら、ロードレア国軍は完敗を喫した。
しかし、このままで終わる二人ではなかった。
砦は奪われたものの、すぐさま反撃作戦に出て、全軍撤退したと見せかけて伏せさせ、国境を侵入しようとするメスリウ部隊を撃退、キルレイツに手柄を総取りされることを恐れた彼女は、必要以上の兵力を率いていた為、ソプラナの援護でようやく撤退するが、この壊滅はリューグ国軍にとって痛手となった。
現在の戦力ではこれ以上の深入りは難しいと考えたキルレイツは、守備隊だけを残して本国へ引き上げた。
なお、この戦いでは、ラディアの同郷で共に滅亡するアゾル国からロードレア国に亡命し、彼女に憧れ念願かなって副将の1人となっていたヴィムウィークが参戦していたが、この戦いで負傷し、彼女は将軍職を辞することとなる。
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