ロシア宗教>スラヴの神々と精霊たち
スラヴの民間信仰: 東スラヴの神々
伊東 (1987)によれば、東スラヴの神々は...
「原初年代記」にある「ウラジーミル公のパンテオン」とは...
そして、「ウラジーミル公のパンテオン」にいない神「ロード」とは...
「家の神格」あるいは「家の精霊」とされる「ドモヴォーイ」あるいは「ダマヴォーイ」は...
スラヴの民間信仰: 東スラヴの神々 
伊東 (1987)によれば、東スラヴの神々は...
- ペルーン (Perun)
東スラヴの古神界では主神的位置にあった。樫を神木とする雷神。 - ヴォーロス(Volos)
ペルーンの次にあげられる家畜の神。ヴェーレス (Veles)とも呼ばれるが、この名では家畜の神とは形容されない。 - ストリボーグ (Stribog)
「イーゴリ軍記」で風がストリボーグの孫と呼ばれており、気象現象一般を支配する神と推定される。 - ダージボグ (Dazhbog)
東スラヴでの太陽神と推定される。「イーゴリ軍記」でロシア民族がダージボグの孫と呼ばれており、ロシア民族の守護神とみなされていた。 - スヴァログ (Svarog)
火の神。ウラジーミル公のパンテオンには含まれていない。かまどの神としてのイメージは家霊（ダマヴォーイ）に残っていると考えられる。 - ホルス(Xors)
ペルーンの次にあげられることがあり、太陽神と推定される。 - モコシ(Mokosh)
女性的原理を代表する地母神と考えられる。 - セマルグル (Semargl)
機能は不明。セマルグル以外のキーエフのパンテオンの神を統合したものとみなす研究者もいる。 - ロード(Rod)あるいはロジャニツァ(Rozhanitsa)
出産の神。
「原初年代記」にある「ウラジーミル公のパンテオン」とは...
《ヴラヂミルがキエフおよびノヴゴロドに偶像を立てる》
しかしてヴラヂミルは一人でキエフに君臨し始め、テレムの邸（やしき）の外の丘の上に偶像を建てた。銀の頭と金の髭を有（も）つ木造のペルーン、ホルス、ダージヂボグ、ストリボーグ、セマルグラ及びミコーシを《建てた》。しかして彼等を�辰噺討鵑如�彼等に禮拝し、おのが息子達と娘達を伴ひ來り、惡鬼共に禮拝し、おのれの生贄（いけにへ）によって大地を穢（けが）した。しかして《生贄》の血によってルーシの地とかの丘が穢された。
[ 除村吉太郎(訳): "原初年代記" in "ロシヤ年代記", 弘文堂書房 (1943) ]
- 三浦清美: "中世ロシアの異教信仰ロードとロジャニツァ (前編 資料), 電気通信大学紀要17,1-2, pp.59-88 (2004)
- 三浦清美: "中世ロシアの異教信仰ロードとロジャニツァ (後編 分析), 電気通信大学紀要18,1-2, pp.59-88 (2006)
そして、「ウラジーミル公のパンテオン」にいない神「ロード」とは...
「家の神格」あるいは「家の精霊」とされる「ドモヴォーイ」あるいは「ダマヴォーイ」は...
ダマヴォーイ ドーム（家の意）ということぱから出た《ダマヴォーイ》は、家の神格もしくは精霊である。スラヴの農民たちは迷信からそれを正しい名で呼ぷことをさける。あるいはそれを《おやじ》という名で指し、あるいは《家の主》と呼ぷ。またある者にとっては、それは《あれ》とか《例のあれ》とかいうことになる。
《ダマヴォーイ》の外観ははっきりしていない。人問の姿をし、毛の生えた生物として現われることがもっとも多い。掌に至るまで絹のようなやわらかい毛でおおわれており、その掌は人問の掌そっくりである。時には角を生やしたり、尾をもっていたりすることがある。だが、それはまた、時には家畜や単に干し草の束の姿となって現われることもある。
この《ダマヴォーイ》の姿を見ることは人間にとっては難かしい。また、危険でさえある。
しかしながら、この《ダマヴォーイ》の声は、その溜息ャ抑えたすすり泣きの声などを、しぱしぱ聞くことができる。《ダマヴォーイ》の話し方は、ふだんはやさしく温い感じだが、時には陰気だったりせかせかしたロ調だったりする。
この《ダマヴォーイ》や他のいくつかの小神格たちの起源については、次のように説明されている。
至高神が地上の世界と天上の世界とを創造した時、彼をとりまいていた精霊たちの一部が謀叛を起した。至高神はその天の叛徒たる精霊たちを追い払い、地上に投げ落とした。彼らのうちの幾人かは家々の屋根や人家の庭に落ちた。森のなかゃ水のなかに落ちて邪悪な心を持ち続 けた精霊たちとは反対に、彼らは人問との交渉のなかで善良になって行った、というのである。
《ダマヴォーイ》は自分の住む家に親しむと、そこから離れようとはしなくなる。ロシアの 農夫が新しい《イズパ》（丸木小屋）を建てると、彼の妻はそこに住むに先立ってパンを一切れ切り暖炉の下において《ダマヴォーイ》を新しい家に惹き寄せる。《ダマヴォーイ》は暖炉のそぱや、入口の扉の敷居の下に住むのを好む。《ダマニャー》とか《ダマヴィッカ》とか呼はれる彼の 妻は、地面の下に住む方を好む。
《ダマヴォーイ》は、家の住人たちに、彼らにおそいかかろうとする不幸を予告する。家族の誰かが死ぬ前にはこの《ダマヴォーイ》の泣声がする。また、妻の髪をひっぱって、夫が彼女を打てないように防いでやったりする。
《ダマヴォーイ》は、スラヴ人の間で家族が部族のなかから区別され独立するに至って、始めて現われた。それより以前、スラヴの神話は、《ロード》とか《チュール》とかの異名で呼ぱれる部族の精霊の存在を認めていた。これは極めて翻訳しにくいことぱだが、祖先とか先祖 とかいう意味である。
[ G.アレグザンスキー: スラヴの神話, ロシアの神話 : スラヴ,リトワニア,フィンランド (みすずぶっくす) (1960), pp.24-26 ]
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