▲685年7月における勢力図
レイディックは、バルド国との同盟は拒否したものの、デスレーダとの会見以後、彼の心の中に乱世を統一させて覇者になるという野望に火が付いた事は確かであった。
父親の代より国境を挟んでにらみ合っていたロッド国との本格的な衝突が始まったのもこの時期である。
ロッド国との戦いを前に国力を増強するべく、まずは隣国の小国であるゴアル国を平定することを決意、国主の急死により内乱状態になっていると聞いたゴアル国へと向かってレイディック自ら軍勢を率いて出陣した。
その準備の最中、レイディックの元に森の賢者と呼ばれたエルフのエルラディースが訪れる。
レイディックは、幼い頃に国主になるべき英才教育を受けるため、ソフィス、アリガルを供としてこの賢者の下で教育を受けていた。
その時共に私塾にいた孤児サファリア(後のレイディック婦人)を連れてやってきたエルラディースは、今まさに戦いに出ようとする教え子達に教訓を残していた。
だが、森の賢者を持ってしても知らないことがあった。
ほぼ同時刻、戦う相手であるゴアル国内で政権交代が行われ、同じ教え子であったフィリスが国主となっていたことを。
ゴアル国軍は、守りやすいリイラード地帯に軍勢を布陣して待ち構えていた。
しかし、ロードレア国軍は不利な地形を逆利用する作戦をとると、まず最初にアリガルが突撃を仕掛け、傾斜になっている地帯を駆け上がる。
初戦こそ勢いで敵軍を押すが、軍師であるバヌス隊の到着によって徐々に押し戻されていく。
一旦後退するアリガル部隊を、勢いにのったバヌスが指揮するゴアル国軍が傾斜を駆け下りて追撃するが、そこに待ち構えたのはレイディック、ザロ、ファリア部隊による完全な包囲網であった。
アリガル部隊が、味方部隊とぶつかることなく最初から決まっていたルートで駆け抜けるのとは違い、傾斜を駆け下りたバヌス部隊は勢いが止まらず、味方同士で混乱状態となり四方から攻撃を受けて壊滅する。
バヌスはかろうじて撤退するが、元々兵力でも負けていたゴアル国軍は、圧倒的に不利となる。
その翌日、再びにらみ合いとなった両軍だが、この日はお互いに本陣の位置を変えつつ戦火を交えることはなかった。
だが、その日の夜、バヌスは新たに与えられた部隊を率いて、密かに迂回ルートからロードレア国軍本陣に近づくと、夜襲を仕掛ける。
しかし、彼が襲い掛かった本陣には、無人のテントと旗が残るだけであった。
驚くバヌスに四方から火矢が襲い掛かり、更に残されたテントにはたっぷりと油が染み込んでいた為、この火計によってバヌスは再び軍勢を失った。
そして三日目の朝となる12月24日。
霧が晴れると同時にロードレア国軍は新たに構えた本陣から出陣、両軍は正面から激突するかと思われたが、ゴアル国の国主フィリス自らがロードレア国本陣に向かって降伏を申し込む。
あまりにも拍子抜けしたこの結末ではあったが、レイディックはゴアル国のフィリスを見て驚愕する。
ゴアル国では、前国王の急死による内乱状態が続いていたが、この戦いの数日前にフィリスが国をまとめることで、ようやく落ち着いていた。
彼は、エルラディースの私塾におけるレイディックの先輩にあたり、この戦いでレイディックの力量を確かめた結果、国を託せると確信し、降伏する決意をしたのだ。
この降伏を不服としたバヌスは戦場から離れるが、ゼネディオをはじめとする主だった将、そして何よりもゴアル国の民衆は、「混乱した国をまとめてくれたフィリスの決断ならば」と、これに賛同することとなった。
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