アクセス規制を受けた方のための本スレ転載用スレッド

0gunslingergirl_ss - 10/01/09 22:51:57 - ID:gunslingergirl_s

規制を受けた方のための転載用スレッドです。
現在の本スレはCCさくら@2ch掲示板の
「社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室」です。

社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1231771865/

  • 9名無し - 10/04/29 00:34:45 - ID:cBj/4N9gkw

    どなたか転載していただければ幸いです。
    以下1〜2レスよろしくお願いいたします。

  • 10520 - 10/04/29 00:37:41 - ID:cBj/4N9gkw

    520です。新刊の感想のようなものを長文でだらだらと。


    12刊出ましたねー。こういう展開ですかそうですか。
    まだなんとかSS書く気力は残りそう…かな。ジャンとかリコあたりは。トリヒルもぎりぎりで。
    ジョゼッタは…なんだかもう幸せだった頃のネタを書くと泣けてきそうですよ、ええ。

    たまたま最近ブレインコンピュータシステムの記事を読んでいたのでびっくり。
    なんとなく、あれくらいの近未来設定なのかーと見当がついたようなつかないような。
    でもまあ、あれならトリヒル組とクリスティアーノの直接対決はないから自分としては一安心。

    エンリカの幽霊はジャンも見ていたけど、ジョゼの見た幽霊はまたキツイこと。
    でもあの幽霊のセリフっていうのは、エンリカの言葉と言うよりジャンジョゼそれぞれの
    内面の投影という気がしなくもない。

    ジャンに対してやや好意的に解釈すると、自己嫌悪。
      ジョゼの行動に“やりすぎだ”と責める自分の感情→エンリカが代弁
      ジョゼの行動は“仕方がないこと”と庇う→認めてやらねばならない
      なぜなら “あいつがこうなったのは俺のせいだ” 。
     
    ジョゼに対していささか意地の悪い見方をするなら、言い訳。
      「こうありたい」(人道的な行い、善行→ヘンリエッタの救済) と思っている自分が
      「こうすべき」こと(エッタの寿命を縮めてでも家族の敵討を→倫理的には問題あり)を
      「せねばならない」のは 『エンリカが望んでいるから』 →だから仕方がない。

    こんな偏見でSS書いたらますます救いのない話になりそうだ……orz
    ジョゼは偽善者、ジャンは偽悪者。そんな印象もあるけど、
    どっちも根は優しさと身勝手さを持った普通の人間なんだろうなあ。
    それは他の担当官も義体も(敵も)同じなんだけどね。

    とりあえずリコの抱き枕とかジャンの婚約指輪とかはなんか話にしてみたい気が。
    できるかどうかは分からないw

  • 11名無し - 10/05/03 22:21:09 - ID:cBj/4N9gkw

    すみません、お手数おかけしますがこちらも転載をお願いいたします。



    『端午の節句』


    トリエラ「アズキビーンズのジャム、できたよ」
    クラエス「そのライスパウダーでできた厚手のラザニアで包んでちょうだい。そしたらこのカシワリーフでくるんで…」
    リコ  「ヘンリエッタ、見て! この魚の口ってすごくおおきいよ。ほら、両足がすっぽり入っちゃう」
    エッタ 「わあ、人魚みたい。わたしもやらせてっ」

    ヒルシャ「皆、今日は何をやっているんだ?」
    ジョゼ 「やあ、ヒルシャー。今日は『端午の節句』といって、男の子の成長を祝うジャッポーネの子供のフェスタだよ。
         そうだ、君も参加してくれないか?」
    ヒルシャ「男の子の成長祝いをどうして女の子にさせる必要が……は?僕もですか?」
    ジョゼ 「まずこのヨロイアーマーとカブトヘルムを身に着けて、カタナサーベルをオビベルトにはさむだろ」
    ヒルシャ「サムライ装束ですか。なるほど、男の子のフェスタらしいですね」
    ジョゼ 「それでゴザマットを巻きつけてアラナワロープで固定して……」
    ヒルシャ「何ですかこれは!?」
    ジョゼ 「これは『スマキ』と言う風習で、こうやって拘束した上で川や海に投げ込むんだそうだ。
         そして見事滝を遡った暁にはドラゴンに変身するという言い伝えに基づいてだね……」
    ヒルシャ「死んでしまうでしょうが!!!」
    ジョゼ 「いやいや、何と言ってもニンジャの国だからね。きっとプリンセス・テンコーのように華麗に脱出して、
         フジヤマのトビウオのように素早く泳ぐんだよ」
    ヒルシャ「ドイツにニンジャはいませんし、僕はテンコーじゃありません!早くほどいて下さい!!」
    ジョゼ 「せっかく義体達が異文化に触れるチャンスなのに……」
    ヒルシャ「だったらジョゼさんが『スマキ』になればいいでしょう!」
    ジョゼ 「嫌だよ、死んでしまうじゃないか」
    ヒルシャ「……… -"-♯」

  • 12名無し - 10/05/14 23:59:24 - ID:cBj/4N9gkw

    転載しました

  • 13【】 - 10/06/29 03:52:59 - ID:cBj/4N9gkw

    アク禁中につき、お手数ですが以下の転載をよろしくお願いいたします。


    鳥昼親子話?投下。数年後、捏造設定・オリジナルキャラあり。
    不本意ですが昼者が妻子持ちです。苦手な方は御注意を。

    本スレで本誌の展開を聞いてうっかりマジ凹みしてもーたので、
    (別に鳥昼組は親子ップルのまんまでかまわないんだけど
    やもめで通してきたとーちゃんに突然再婚話がふってわいたような…orz)
    設定も文章もかなり無理ムリなのは承知ですが、己の精神衛生上
    とりあえず勢いで書き散らしました。ごめんなさい。

  • 14【その名を継ぐ者】 - 10/06/29 03:55:20 - ID:cBj/4N9gkw

    【その名を継ぐ者】


    「ヴィクトル、出かけるの?」
     ダブルのスーツを身に着けた男に、キッチンから声がかけられた。
    「ああ、彼女に会いにね」
     そう、とだけ返事をしそれ以上何も聞かないでくれる配偶者の気遣いに感謝しながら、
    今日はあの子を連れて行くよ、と告げる。
    「ヴィクトリア、おいで」
     リビングに向けて呼びかければ、はあい、とくまのぬいぐるみを抱えた幼い少女が
    父親と同じ暗褐色の髪を揺らしながら男の元へ駆け寄る。
    「ファタ(おとうさん)、おでかけ?」
    「ああ。今日はローマに行こう」

     五共和国派との戦いが終息し、社会福祉公社は対テロ組織としてのその役目を終えた。
    組織の解体はその始まりと同じように秘密裏に進められ、カモフラージュであった障害者への
    支援事業だけが社会福祉公社の業務として残された。
    子供を使った政府の暗殺組織の噂は都市伝説のひとつとして酒場の冗談にまぎれ、
    いずれは忘れ去られていくだろう。
    「あ、ヒルシャーさんっ。お久しぶりです〜」
    「やあ、プリシッラ」
     数年前まで男の同僚であったその女性は、その後児童福祉のための資格を取り、
    同じ建物の中でかつてとは全く異なる仕事に就いている。もっとも彼女の適性は、本来
    今の仕事の方にこそ向いていたのだろう。花束を持った男の足元にちょこんと佇む
    幼い少女の姿を見つけると、早速持ち前の明るさを発揮する。

  • 15【その名を継ぐ者】 - 10/06/29 03:58:27 - ID:cBj/4N9gkw

    「おおお?見たことのないお姫様がいるよ?いや〜ん、可愛いっ!ひょっとして
    ヒルシャーさんの娘さんですかあ?」
    「ああ。ヴィクトリアだ」
     お父さんのお名前をもらったんだ〜、いいねえ。しゃがみこんで子供と目線を合わせ
    屈託なく話しかける女性に、男はふっと寂しげな微笑を浮かべた。
    「プリシッラに御挨拶をしなさい――“ トリア ”」
     一瞬、プリシッラが小さく目を見開く。
    はじめまして。おあいできてうれしいです。やや舌足らずな口調で生真面目な挨拶をする
    少女に、女性は複雑な思いを抱きながらも、やさしく微笑んだ。
    「……トリアちゃんかぁ。はじめまして、愛の堕天使・プリシッラです」
     女性の微笑みにつられて、少女もはにかみながらもニカッと少年のような笑顔を見せる。
    少女の柔らかな髪を撫でながらプリシッラは男を見上げた。
    「ヒルシャーさん…『彼女』に会いに来たんでしょう? 私、今ちょうど休憩時間ですから
    戻ってくるまでトリアちゃんと遊んでましょうか」
    「ありがとう。だが遠慮するよ。―――今日はこの子を彼女に会わせに来たんだ」
    「そうですか……」
     男の言葉に、プリシッラは少女の頭をもう一度撫でると「それじゃあまたね」と立ち上がった。
    またね、と手を振る幼い娘に、男は長身を軽くかがめるようにして手をつなぐ。

  • 16名無し - 10/06/29 04:00:27 - ID:cBj/4N9gkw


     かつて毎日のように歩いた公社の敷地を、あの頃よりもゆっくりとした歩調で男は進んでゆく。
    初めて見る景色に興味津々で見回しながら幼子もそれについてゆく。
     やがて男は公社の外れにあるちいさな建造物にたどり着いた。
     その建造物は様々な用途を経てきたこの建物の始まりが、修道院であったことを示していた。
    父親に手を引かれはしゃいでいた少女も厳粛な雰囲気に気付いたのか、心なしか緊張した
    様子で父親にたずねる。
    「ファタ…ここ、なあに」
    「―――お墓だよ」
    「…おはか?」
     男は幼子に花束を持たせるとその体を抱き上げ、納骨堂の扉を開けた。
     少女が父親の言葉の意味を理解するにはまだ幼すぎたが、それでも生者の喧騒から
    切り離されたその空気を感じ取ったのだろう。花束をしっかりと胸に抱え、神妙な表情で
    おとなしく父親の腕の中に納まっている。
     天井まで続くような高さの死者のチェストには彼らの安らぎを願って美しい彫刻が施されて
    いる。男はその中のひとつに手を触れ、ささやくように言った。
    「――ここに、お前のお姉さんが眠っているんだよ」
     おねえさん?父親の言葉に首をかしげ、幼い少女は共同墓地に掲げられた数多くの
    プレートのひとつを見上げる。
     簡素なプレートには、生年は不明のまま没年と名前だけが刻まれていた。
    「おまえの名前は父さんと……お姉さんから、もらったんだ」
     かつて常に傍らにあった少女の姿を男は想う。
     トリエラ。君の名前を受け継いだこの子は、幸せに見えるかい?
     短すぎた彼女との時間の中で、自分はとても良き父親にはなれなかった。
    けれど彼女と築いてきたことを、彼女と築けなかったことを、自分はこの子に伝えたいと思っている。
    最後まで懸命に生きた彼女が自分に残してくれたものを、決して無駄にしないように。 

     トリア、お姉さんにお花をあげよう。促されて床に下ろされた少女は、大事に抱えていた花束を
    そっとチェストの前に置いた。膝を着き、両手を組んで頭をたれる父親の姿を真似て、ちいさな手を組む。
     やがて立ち上がったふたつの人影はまた手をつなぎ、死者の眠る部屋を後にした。
     去り際男はもう一度振り返り、一言、声に出さずに呟いた。
     おやすみトリエラ、私の娘、と。
     
     
    << Das Ende >>

  • 17【】 - 10/06/29 23:07:12 - ID:cBj/4N9gkw

    >>14-16転載していただきました。

    転載職人様、分割作業等お手数をおかけして申し訳ありませんでした。
    ありがとうございます!

  • 18名無し - 10/07/30 22:19:03 - ID:tivX4/xNCg

    以下1レス、転載お願いいたします

  • 19571 - 10/07/30 22:27:16 - ID:tivX4/xNCg

    >>577
    ふぬあ!なんか色々アンカー間違えたり忘れたりorz 何やってるんだ自分…
    ちょっと装具付けて10キロ走ってきます。
    >>756>>576
    >>755>>575
    もひとつ需要→もひとつ>需要

    >>578
    ご指導有難くあります大尉殿 "<(`・ω・´)
    バラクの銃把の指型はゴツいんですね。確かにビーチェが持つにはちょっと大変かも。
    でもニキータがブッ放してたのがデザートイーグルなら、同じようなもの…かな?
    まあそこは義体の握力でがっちりホールドしてもらうことにしよう。
    では任務の遂行に微力を尽くします〜

  • 20【】 - 10/08/08 22:06:01 - ID:tivX4/xNCg

    アクセス禁止中につき、以下7レス、転載をお願いいたします。
    大量転載で申し訳ないのですが、どうかよろしくお願いいたします。

    多重規制でいつアク禁が解除されるか分からない状況です…。
    夏だからしょうがないけどつらいわー。

  • 21【】 - 10/08/08 22:06:58 - ID:tivX4/xNCg

    >>573
    >グエルフィ検事護衛任務。
    >武器はIWIからチョイス。
    >昼間、待機している車輛でジェラート舐めてるビーチェと
    >外環で不審な車輛を監視しているベルナルドでお願いします。

    御報告いたします、571こと【】、任務を完了しました!
    >>576 >>578 御指導ありがとうございました、大尉殿 "<(`・ω・´)

    …てな訳で。できる限り盛り込んでみましたが、素人にはこれが限界でアリマスorz
    やっぱもっとポリティカルアクション物とか読まないといけませんなあ。
    でもこういうチャンスがなければ書きそうにない話だったので、楽しかったですw
    調子に乗って他のフラテッロにも挑戦してみようかと画策中。気分は夏休みの宿題。

    不出来な点は多々あろうかと思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

  • 22【ピュア・バニラ】 - 10/08/08 22:07:58 - ID:tivX4/xNCg

    【ピュア・バニラ】


     ローマ地方裁判所に程近い通り。まぶしい日差しは夏のものだが吹き抜ける風が
    涼を呼ぶ。その風を正面から受けながら一人の少女がてくてくと道を歩いていた。
    音楽プレイヤーのイヤホンを耳に掛け、風にひらひらと泳ぐ栗色の髪は
    襟足につかない程度にまっすぐ切りそろえられている。前髪は短く、
    広いおでこが子供らしい。
     ヴィオラのケースを左手に下げたその少女は、出迎えの車でも探しているのか
    道路わきに並ぶ縦列駐車に視線を向けて歩いていたが、ふと足を止めて
    楽器ケースを歩道に下ろしてしゃがみこむ。編み上げ靴の紐が緩んだようだ。
     可憐なワンピース姿にはやや不似合いのしっかりとした編み上げ靴は、男兄弟の
    お下がりだろう。おなかの前にある丈夫そうな緑のウェストポーチが邪魔にならないように
    片膝を立て、小柄な身体に似合いの指が力加減を試すように慎重に靴紐を引っ張る。
     靴紐を直した少女は何気なく傍らに止まっていた車の後部バンパーに手をつき、                                                           
    それを支点にして立ち上がった。少女の体重がかかり、車のサスペンションがしなる。
     ――と、勢いよく車のドアが開いた。
    「何してやがるテメェ!?」
     麻のジャケットにサングラスの厳つい男に怒鳴りつけられ、一瞬パニックに陥ったのか
    少女の表情は固まっている。

  • 23【ピュア・バニラ】 - 10/08/08 22:08:54 - ID:tivX4/xNCg

    「何だあ?このガキ」
     近付いてくる男に、財布が入っているらしいウェストポーチを押さえた少女は軽く後ずさった。
    運転席からもう一人が声をかける。
    「おい、騒ぎを起こすな」
    「……すみません。立とうとして車に触って――」
    「ああ?」
     目の前に立ち居丈高に聞き返した男の声に少女の言葉は途切れ、顔を上げないまま
    すんすんと鼻を鳴らし始める。
    「―――ち、泣き出しやがった」
    「騒ぎを起こすなと言ってるだろう!――悪かったな嬢ちゃん、コイツ車に傷が付くと
    キレんだよ。ほら、いいからさっさと帰んな」
     小さな声ではい、と答えた少女は歩道に置いていた楽器ケースを手に取り、小走りに
    車の側から立ち去った。小柄な子供の姿は通行人にまぎれてすぐに見えなくなる。
     先ほどの車輌から1ブロックほど後方まで戻ると、迎えの車を見つけたらしい。
    少女が近付いたありふれたワゴン車には片耳にイヤホンをかけた人影がある。車内の
    人物は少女の姿を認めると助手席の窓を開けた。少女は特段嬉しそうな顔もせず、
    男を見上げると口を開いた。
    「ベルナルドさん、確認しました」
    「おう。ご苦労さん、ビーチェ」

  • 24【ピュア・バニラ】 - 10/08/08 22:10:12 - ID:tivX4/xNCg


    「車輌のナンバーは監視カメラで推定されたものと同じです。爆薬の臭いは取れません
    でした。車から降りてきた男はジャケットの中にガンホルダーを吊っていました。銃種は
    不明です」
     嗅覚を強化された少女は表情を変えないまま淡々と報告する。
    「そっか。まあ、いかにも陽動くせえあからさまな監視をしてる連中だ。端から物証は期待
    してなかったさ。――しっかし下手な言い訳だな。あの車の汚れっぷりじゃ、小キズひとつで
    100マイル先まで追っかけるタイプにゃ見えねえよ」
     耳かけ式のイヤホンに偽装した集音マイクで少女と不審者のやり取りを聞いていた
    担当官はそう言うと、小型の無線機を手にし待機している課員に連絡を取る。
    「ベルナルドだ。車輌ナンバーは確認した。持ち主の割り出しを頼む」
    『――了解』
    「……さて、地元警察に問い合わせが済むまで小休止だな。ビーチェ、あそこにジェラート屋の
    車があるだろ。好きなものを買ってきな」
    「私には、好きなものは特にありません」
    「怖いオッサンにいじめられた『妹』が泣いて帰ってきたら、甘い物のひとつも買ってやるのが
    兄貴<フラテッロ>の勤めってモンなんだよ。いいから行ってこい。ああ、タボールは
    置いてっていいぞ」
    「はい」
     少女が車の床に置いた弦楽器のケースがごとりと重そうな音を立てた。高級楽器メーカーの
    ロゴが入ったそのケースは、良く見なければ分からないが金具が正規のものよりも頑丈な物に
    交換されている。――重量が3.6キロを越える軍用小銃を収納するにはヴィオラケースの
    掛け金や蝶番はあまりにも華奢すぎるのだ。
     同様に拳銃を収めたウェストポーチも内側にホルダーを仕込み、バックルは金属製のものだ。
    こちらも予備弾装を含め1キロあまりだが、人工の筋骨格で補強された少女の身体の動きは
    その重さをまったく感じさせない。担当官から小銭を受け取ると、ひらりと身をひるがえして
    10メートルほど先に停車している移動式店舗に向かって駆け出す。

  • 25名無し - 10/08/08 22:10:59 - ID:tivX4/xNCg

     男はその後姿を見ながら任務前に少女と交わした会話を思い出していた。
    『―――おい、ベアトリーチェ、クローチェ事件は知ってるか?』
     おしゃべりな担当官は、振り返った彼の義体が返答するのを待たずにぺらぺらと説明を
    始める。もっとも同じ姓を持つ同僚との関係については言及しない。
    『極右勢力撲滅の急先鋒だったクローチェ検事とその家族が、五共和国派によって
    車ごと爆殺されたって事件さ。首謀者は未だに捕まっていねえんだがな』
     先日、その事件関係者の裁判を担当する検事が爆弾テロによって殺害された。
    今回の任務はその後任の担当検事ロベルタ・グエルフィの警護であり、ヒルシャー・トリエラ組と
    サンドロ・ペトラ組のフラテッロはそれぞれの義体が変装し、SPとして直接対象を警護する
    手はずになっている。
    『……で、化け様のないお子様組は外環の監視だ。まだ暑いってのに外回りに当たっちまう
    とはツイてねえな、ビーチェ』
     大げさに肩をすくめてにやりと笑う担当官に、少女は無表情のまま少し首をかしげる。
    『装備はハンドガンとSMGでいいですか』
    『ああ、マイクロウージーは市街戦にゃ向かないからな。タボール21あたりがいいだろ。
    俺はネゲフを持ってくからよ。まあそんなもん使わないで済めばそれに越した事ぁねえがな』

    ―――今日のところはネストを確認して終りかね。銃火器持ってのピクニックにしちゃあ
    平和な日だな。
     不審車輌に向けた無線・携帯電話の電波を傍受するため盗聴器は、ベアトリーチェが
    不審者と接触した後も沈黙を保っている。
     『子供を暗殺要員に使う政府組織』の存在はテロリストの間に確証のない噂として
    まことしやかにささやかれている。それは潜入捜査にあたっている公安部員からの報告でも
    上がっていることだ。それでいて何の動きもないというのは噂も知らない素人なのか、
    陽動ゆえの警戒心の薄さか、それとも盗聴を警戒しての対応か。どちらにしても
    監視を始めたばかりの今の時点ではまだ判断をつけるべきではない。

  • 26【ピュア・バニラ】 - 10/08/08 22:13:32 - ID:tivX4/xNCg

     コツコツと窓を叩く音に男が振り返れば栗色のおかっぱ髪が目に入る。
    「ベルナルドさん、戻りました」
     少女は不審車輌の確認を報告した時と変わらぬ口調で言う。助手席の扉を開け
    小銭の残りを受け取りながら、男は少女の手にしたやわらかいイタリア風アイスクリームに
    軽く眉を上げる。
    「なんだ、バニラなんかで良かったのかよ。他にも色々種類があっただろうが」
    「これが一番単純な匂いだったんです」
    「…そっか」
     嗅覚を強化された彼女にとって、それぞれの味をよりはっきりと主張させるための香料は
    邪魔なものでしかない。義体の能力は本人が集中しなければフルに発揮されることはないが、
    それでも普通の人間よりは敏感だ。
    あの移動店舗はバニラが “売り” のようだが、彼女が気に入ったのなら使っている香料も
    天然のものなのかもしれない。だとすれば真っ白なジェラートに点々と見える細かな黒い粒は
    バニラビーンズなのだろう。
     もっとも条件付けによって感情の起伏が抑えられているベアトリーチェには、彼女自身が
    言っていたように物事に対する好悪の感情はない。“気に入った” と言うより “一番身体に
    悪影響が少ないもの” という判断に基づいいて選択したにすぎない。
     無論担当官であるベルナルドはその事を承知しているはずである。しかし気に留めて
    いないのか故意なのか、先程の『泣いて帰ってきた』――実際は泣いていたのではなく
    臭いを確認していただけなのだが――にしてもそうだが、この男はしばしばそういった
    言い回しを用いる。

  • 27【ピュア・バニラ】 - 10/08/08 22:14:32 - ID:tivX4/xNCg

     ベルナルドは助手席で無心にジェラートを舐めている少女に話しかける。
    「おいビーチェ、『王様のアイスクリーム』って話知ってるか」
    「いいえ」
    「昔々、まだジェラートがなかった頃に、冷やした生クリームがお気に入りの王様がいてな。
    ところがある夏の盛り、井戸水がぬるまっちまって生クリームが冷やせねえ。
    王様お楽しみのドルチェが間に合わなかったら大事だ。そこでコックの娘が
    氷の上で牛乳缶を転がして冷やしたら、これが偶然固まった。
    そいつがアイスクリームの始まりって訳だ」
     もちろん砂糖や卵も入れるだろうが、要は攪拌しながら冷やすってのが肝だな。
    無口な少女が返答するのはいつも大抵質問か命令に対してのみで、今も担当官の
    おしゃべりには相槌も打たないが、男は身振り手振りをつけながらぺらぺらと話し続ける。
    「今度寮で作ってみろよ。―――そしたら、余計な匂いのしねぇ美味いジェラートが食えるぜ」
     そう話を締めくくった担当官に、少女ははい、と答えた。
     返事をしたって事は今のは命令だと受け取ったのかね。半眼を閉じた少女が
    まるで科学の実験か何かのように軽量カップで生クリームの量を確認する姿を想像して、
    ベルナルドは陽気な笑い声を上げた。少女は担当官が笑っている理由が分からず、
    ジェラートを舐めながら不思議そうにその様子を見ている。
     ベアトリーチェには好悪の感情はない。それでも手にしたジェラートはすでに3分の2が
    姿を消している。
    ―――これで嫌いってこともないだろうよ。
    「無事に戻れりゃ、帰る途中で料理の本とバニラビーンズでも買ってやるよ」
     陽気な男の言葉にベアトリーチェはありがとうございますと答える。
    少女の白い歯がまた甘い香りのするジェラートにかぶりつき、男の耳にコーンが砕ける
    パリッという音が小気味よく響いた。


    << Das Ende >>

  • 28保管サポーター - 10/08/10 00:20:36 - ID:tivX4/xNCg

    本スレッドのURLがサーバ移転に伴い変更になりました。

    社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1231771865/l50

    (旧URL:ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1231771865/)

  • 29【】 - 10/08/15 22:22:27 - ID:tivX4/xNCg

    >>21-28
    転載していただきました。
    転載職人様、ありがとうございました!
    レス数が多くて御面倒をおかけしました。感謝です^^

  • 30【】 - 10/08/27 01:46:25 - ID:tivX4/xNCg

    PCも携帯もマックもつながらないので、以下5レス、
    申し訳ありませんがまた転載をお願いいたします。

  • 31【】 - 10/08/27 01:50:40 - ID:tivX4/xNCg

    >>579氏、転載ありがとうございました!


    >>575
    >え〜っ、それでは「キアーラ×名無しの担当官」のフラテッロでw

    ご指名をいただいたわけじゃないけど、せっかくなので作戦前のシーンで書いてみた。
    担当官は名無しのまま、フケ顔だったので年齢差は親子で。
    ごめんなさい、明るい話にはなりませんでしたorz

    以下、校了後の言い訳あれこれ。
    聖女キアーラ(クララ)の遺骨が納められているのはアッシジですが、
    アッシジの守護聖人は聖女キアーラの師である聖フランチェスコのようです。
    ただ、イタリアは町ごとに守護聖人がいるそうなので聖女キアーラを祀っている町も
    あるのではないかと。(これについては調べたのですが裏付けが取れませんでした。
    御存知の方がいらっしゃったらぜひ教えてください〜)
    ちなみに自分は除夜の鐘とか神社の鈴の音にほっとする八百万の神様信奉者です。
    こんな奴が欧州の一神教文化をネタに話を書いていーんだろーか。
    タイトルは伊語じゃないけど「鐘」ってことで超絶技巧練習曲「ラ・カンパネラ」から。
    そういや関係ないけどカンパニュラって釣鐘草とか釣鐘花って意味の名前なんだね。

  • 32【 ラ・カンパネラ - 10/08/27 01:54:01 - ID:tivX4/xNCg

    【 ラ・カンパネラ -鐘- 】


     その少女に『キアーラ』と名付けたのに大した意味はなかった。
    女の名を考えろと言われて最初に思いついたその名を登録したに過ぎない。
    聖女キアーラ。男の出身地の守護聖人の名だ。
     カンパニリスモ――地元の鐘楼に忠実であること――は、国家よりも
    出身の地域性・家族性に重きを置くイタリア人の根底に流れる思想である。
    彼女は、その地域性を偏重し国家からの独立を果たそうとするテロリストらを
    掃討するための暗殺要員なのだから、思えばずいぶんと皮肉な名をつけたものだ。

      彼女と出会ったのは3年ほど前になる。
    記憶を封じ洗脳を施し、身体の8割を機械に置き換えられた彼女ら『義体』は、
    無論のこと非合法な存在だ。強力な戦闘能力を有し、だが外見は愛らしい子供である。
    『担当官』と呼ばれる直属の上司兼教育係の命令に対して絶対服従。死の危険さえ省みない。
    暗殺要員としては申し分ない。
     だがその優秀な機能には代償が要求された。義体化手術、条件付けと呼ばれる洗脳には、
    どちらも多量の薬物が必要とされ、それは確実に子供らの脳に悪影響を及ぼす。
    機械の身体はいくら損傷を受けても修復が可能だが、脳の機能低下には打つ手がない。
    次第に記憶障害を起こすようになり、ついには脳死――すなわち寿命を迎える。

  • 33【 ラ・カンパネラ - 10/08/27 01:55:50 - ID:tivX4/xNCg

    .


     その冬、一人の義体が寿命を迎えた。
    最も初期に義体化された少女ではあったが、『一期生』と呼ばれる方式で手術、洗脳を
    受けていることは、キアーラもその少女と同様であった。 
     それ故、記憶障害が現れ始めた彼女がその作戦で捨て駒として配置されるのも
    当然の成り行きであったのだ。
     ヴェネツィアの大鐘楼に立て籠もったのは伝説のテロリスト。いかなる犠牲を払ってでも
    仕留めねばならない相手だった。水没しつつある水の都、ヴェネツィア。鐘楼へのルートは
    ただひとつ、遮蔽物のない浮き橋だけだ。だがそこを攻める部隊は陽動であり、
    別働の義体が鐘楼の壁を登攀、突入し、テロリストの殲滅を謀る。
     陽動は敵の目を惹きつけることが目的であり、必然、敵の猛攻にさらされることとなる。
    軍の特殊部隊と共に陽動に配置される義体は2名。その内の一人にキアーラが選ばれた。
     男は上司の元に呼び出され、作戦の趣旨と危険性について説明を受けた。
    戦闘能力に秀で生身の特殊部隊員よりも頑丈な義体は、当然陽動部隊の先頭を務める。
     ―――最悪の場合は殉職の可能性も高いが、承知して欲しい。
    組織に所属する者として、男にその命令に異を唱える必然性はなかった。

  • 34【 ラ・カンパネラ - 10/08/27 01:57:06 - ID:tivX4/xNCg

    .


    「―――さん」
     黒髪の少女が振り返り、男をまっすぐに見上げる。
     少女が呼ぶ名前は男の名ではない。
    男の本来の名前は別にあり、それは彼女に呼ばせるために名乗る偽りの名だ。
    義体は『仕事』のための道具。そう割り切るため、距離を置くために採った手法だ。
    少女に対して語る言葉は、全て自分ではない『担当官』という男が話している言葉。
    その言葉によって彼女がどうなろうが、自分が良心の呵責など感じる必要はない

     今までがそうであったように、男は少女に作戦内容を淡々と説明し装備の指示をする。 
    条件付けによって恐怖心を取り払われた少女は、いつものように従順に命令に従う。
    これが最後の会話になるとしても、だからといって特別な言葉をかけてやるつもりは
    なかった。
     銃火器を手にした少女がふと視線を上げる。
    「―――鐘の音が聞けたら良かった」
     ヴェネツィアの象徴である大鐘楼を見やり、言う。
    「教会の鐘の音を聞くとほっとするって、―――さん、おっしゃってましたよね」 
     無邪気な言葉に男は虚を突かれた。
    「覚えていたのか…そんなことを……」
     それは確かに男が口にしたことのある言葉だった。
    生まれ故郷にほど近い街で、仕事を終え、遠く聞こえた鐘の音にふと郷愁を覚えた。
    あの町を離れることなく生きていたならば。地味だが堅実な職に就き、妻を得て、
    ――もしかしたら、この少女くらいの娘がいたかもしれない。
     そんな思いにとらわれたのは後にも先にもその一度きりだった。
    ただあの時自分は、確かにこの少女に対して『担当官』としてではない
    何がしかの感情を持ったのだ。

  • 35【 ラ・カンパネラ - 10/08/27 01:57:57 - ID:tivX4/xNCg


     男は石造りの床に膝を着いた。少女の目線の高さで彼女の顔を見る。
    出会ってから3年、そんな視点で彼女の顔を見たことはなかった。
    少年のように短い髪。従順な瞳。
     男の故郷を守護する聖女に使える尼僧たちは、男性と同様に髪を切り、
    清貧、貞節、従順を誓い、修道院という囲い地の中で一生を終える。
    彼女の髪は自分の命令で切らせた。彼女の従順さは条件付けで強いた。
    彼女の一生は公社という囲い地に閉じ込められたまま終わるだろう。
     それはどこか運命付けられた皮肉な類似性に思える一方で、男の思考は
    それをただの感傷によるこじつけだとも判断していた。――だが。
    「気をつけて行ってこい。――おまえに聖女の御加護があるように」
     男の口をついて出たのはそんな言葉だった。
     男の言葉に少女は目を見はると、嬉しそうに「はい」と返事をした。


    << Das Ende >>

  • 36名無し - 10/08/27 02:06:07 - ID:tivX4/xNCg

    *追記
    (名前欄がwikiの規定上
    【 ラ・カンパネラ
    で以降を省略していますが、本スレへの転載の際には、恐縮ですが
    【 ラ・カンパネラ -鐘- 】
    と入れていただけませんでしょうか。お手数をおかけしますが
    よろしくお願いいたします。)

  • 37名無し - 10/09/01 22:31:46 - ID:tivX4/xNCg

    >>31-35
    転載ありがとうございました!

  • 38【】 - 10/09/03 01:29:22 - ID:tivX4/xNCg

    (アクセス規制中につき、以下転載をお願いいたします)

    >>596
    レスありがとうございますw
    悲しい話で申し訳ない。(これでもこの前に書いたもうひとつの話よりはまだ大人しめなんですが)
    9巻以降の設定で明るい話は自分には難しいです。嗚呼ほのぼの話が書きたい読みたい。
    もうじき最終戦のようですが、キアーラのエピソードもあるといいですね。

  • 39【】 - 10/09/04 02:44:45 - ID:tivX4/xNCg

    >>38
    転載ありがとうございましたw

    PC規制解除されたぞ♪でも何日もつかな・・・

  • 40名無し - 10/11/01 23:19:21 - ID:tivX4/xNCg

    (久々に規制くらいましたorz 花園になってから回避できてたのになー。
    転載職人様、お手数ですが以下の文章の転載をお願いいたします)


    >>626
    >技術部保管庫のリンクは貼ってらっしゃらないんで

    すみません、リンクありました。何故見落としたしorz
    そうすると御本人の書き込み待ちか>>625氏の確認待ちですね。


  • 41名無し - 10/11/04 00:23:09 - ID:tivX4/xNCg

    転載ありがとうございましたw

  • 42名無し - 10/11/12 23:34:22 - ID:tivX4/xNCg

    第2分室が落ちてました。
    200以内にあったのに何事??
    とりあえず自分は今規制中なのでどなたかスレ立てをお願いいたします。

    以下テンプレ

  • 43名無し - 10/11/12 23:35:49 - ID:tivX4/xNCg

    1
    さくらちゃんに何となく似ているリコが大活躍したり
    知世ちゃんに何となく似ているアンジェが大変な事になる
    GUNSLINGER GIRL のスレです

    ◇前スレ◇
    社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1231771865/l50

    ◇保管庫、サブ掲示板◇
    社会福祉公社技術部保管庫
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/
    アクセス規制を受けた方のための本スレ転載用スレッド
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/bbs/911/l50

    * 1レスは30行、2048バイトまで書き込めます
    * sage進行でお願いします

    以下テンプレは>>2-6

  • 44名無し - 10/11/12 23:36:42 - ID:tivX4/xNCg

    2
    >ガンスリンガー・ガール達に(;´Д`)ハァハァするスレです。
    >(;´Д`)ハァハァと言いながら実質のSSスレ
    だったらいいな

    2chスレで投稿された名無しさんの作品で
    「無断転載倉庫」に掲載されていないSSを”発掘”して保全も。
    他サイトからの転載は執筆者の許可を貰いましょう。

  • 45名無し - 10/11/12 23:37:39 - ID:tivX4/xNCg

    3
    今は亡きこんなスレをリスペクトしてるみたいです

    「ガンスリンガー・ガール」ハァハァスレ @+1(漫画キャラクター板)
    ttp://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1099215397/
    「ガンスリンガー・ガール」ハァハァスレ @+2(漫画キャラクター板)
    ttp://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1145293079/
    「ガンスリンガー・ガール」ハァハァスレ @+3(漫画キャラクター板)
    ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1170134431/

    ガンスリンガーガールスレ(エロパロ&文章創作板)
    ttp://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1063912806
    ガンスリンガーガール 2人目の義体(エロパロ&文章創作板)
    ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1099669994
    ガンスリンガーガール 3人目の義体(エロパロ&文章創作板)
    ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1115286133
    ガンスリンガーガール 4人目の義体(エロパロ&文章創作板)
    ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1178375722/
    ガンスリンガーガール 5人目の義体(エロパロ&文章創作板)
    ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1191260180/

    社会福祉公社技術部さくら板支所 (CCさくら板)
    ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1198349410/l50
    社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室 (CCさくら板)
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1231771865/l50

  • 46名無し - 10/11/12 23:38:37 - ID:tivX4/xNCg

    4
    ◇関連スレ◇
    相田裕「GUNSLINGER GIRL」#81(漫画板)
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/comic/1286113265/l50
    GUNSLINGER GIRL ガンスリンガー・ガール 57挺目 (懐アニ平成板)
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ranimeh/1275570837/l50
    GUNSLINGER GIRL -IL TEATRINO- part40(アニメ2板)
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1251616674/l50
    GUNSLINGER GIRL inサバゲ板 陸挺目 (サバゲ板)
    ttp://toki.2ch.net/test/read.cgi/gun/1251748690/l50
    ▼ ガンスリンガー・ガールでエロパロ 3 ▼ (エロパロ板) *21歳以上*
    ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1278604450/l50

  • 47名無し - 10/11/12 23:41:53 - ID:tivX4/xNCg

    5
    ◇関連サイト◇
    JEWEL BOX (相田裕公式サイト)
    ttp://www.remus.dti.ne.jp/~jewelbox/
    電撃大王
    ttp://daioh.dengeki.com/
    TVA「GUNSLINGER GIRL」公式サイト
    ttp://www.gunslingergirl.com/
    北米版アニメ(1期)公式サイト
    ttp://www.gunslingergirl.tv/index.htm
    ゲーム公式サイト
    ttp://www.dimps.co.jp/gunslingergirl/index.html

    GUNSLINGER GIRL DB
    ttp://tunes.sakura.ne.jp/gsg/
    GUNSLINGER GIRL.‐二次創作物無断転載倉庫
    ttp://tokyo.cool.ne.jp/gunslinger-girl/
    MEDIA GUN DATA BASE
    ttp://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/?MEDIAGUN%20DATABASE
    ONE MORE DAY
    ttp://page.freett.com/onemoreday/index.htm
    ガンスリ板@萌えBBS
    ttp://so.la/gunslingergirl/
    雑談inガンスリ板
    ttp://so.la/test/read.cgi/gunslingergirl/1066456383/l50
    GunslingerGirl ガンスリンガー・ガールSS書きの控え室 2
    ttp://so.la/test/read.cgi/gunslingergirl/1095225218/l50

  • 48名無し - 10/11/12 23:42:50 - ID:tivX4/xNCg

    6
    監督の浅香守生つながりであるとも言えるわけですが
    二期の監督の真野玲もカードキャプターさくらの演出スタッフだしね

  • 49名無し - 10/11/12 23:59:21 - ID:tivX4/xNCg

    スレッド名は 
    社会福祉公社技術部さくら板支所 第3分室
    でお願いいたします。


    またテンプレ5◇関連サイト◇に加えようかと提案されていた

    ガンスリンガー・ガール占い
    のURLはlivedoor wikiの設定上書き込めないようですので
    割愛しました。

    SORANOの宇宙
    についてもブログ管理人さんの了承が確認できませんでしたので
    今回のテンプレには加えない方向でいかせていただきました。
    今後御了承いただければ、まず技術部保管庫トップの関連サイト欄にリンクを貼り、
    第4分室のスレ立ての際に改めてテンプレに加えさせていただこうと思います。

  • 50管理人 - 10/11/14 02:24:24 - ID:gkQ6+J+Lww

    了解しました。
    スレ立てに行ってきます。
    上手く立てられるといいんですが。

  • 51管理人 - 10/11/14 02:30:31 - ID:gkQ6+J+Lww

    社会福祉公社技術部さくら板支所 第3分室
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1289669136/

    無事に立てられたようです。

  • 52管理人 - 10/11/14 02:35:33 - ID:gkQ6+J+Lww

    livedoorwikiでは「外部リンクはできない」とでるのでhttp〜で始まるものは
    書き込めないようです。
    リンクを書く場合は「ttp〜」とhを抜かして書いてください。

  • 53gunslingergirl_ss - 10/11/14 03:07:35 - ID:gunslingergirl_s

    トップページも編集しました。
    2chのスレにリンクを張りました。
    ただし原作者の相田先生を始め個人サイトと思われるものは
    許可を取ってないので直接のリンクを張っておりません。

  • 54保管サポーター - 10/11/15 01:15:10 - ID:tivX4/xNCg

    ありがとうございました!
    >>52>>53
    了解です。お手数おかけいたしましたm(_ _)m

  • 55名無し - 10/11/20 02:55:23 - ID:gkQ6+J+Lww

    (アクセス規制で本スレに書き込めないようです。どなたか転載お願いします。)

    >>13
    面白かった。金木犀を取っておくヒルシャーにニヤニヤさせてもらった。
    金木犀は日本ではありふれているけど
    イタリアではそうでもないんだな。
    匂いのする花ってヨーロッパじゃなんだろう?
    ライラックかな。

    >>14
    電撃大王はひもで閉じているから買わないと見れない。
    内容がどこまで進んだか見てないからあまりわからないけど
    義体たちに幸せに笑って最後を迎えてほしいよなぁ。

  • 56名無し - 11/01/15 23:01:48 - ID:yGOxxap5CA

    (規制中につき、申し訳ありませんが以下の転載をお願いいたします)

    >>34
    お言葉に甘えて蘇芳氏の『ポーチ』のイメージをお借りしました。
    (ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/d/%a5%dd%a1%bc%a5%c1)
    ありがとうございました。そして申し訳ありません。今はこれが精一杯…orz
    ttp://p.pita.st/?m=zdthbv1v

  • 57名無し - 11/01/23 21:56:43 - ID:tivX4/xNCg

    (規制中につき、申し訳ありませんがどなたか転載をお願いいたします)

    >>52
    いいえ、むしろ13巻が出る前に書き上げたい話がいくつもあります。
    単に忙しくて筆が進まないだけですorz
    がっちり規制されてて転載もできないしねー。
    とりあえず保管庫の生理整頓が大体終わったので、これから頑張りますです。

  • 58gunsringergirl_ss2 - 11/01/24 23:20:12 - ID:gunsringergirl_s

    2011.1.24.現在、55レス目まで転載されています。
    56、57レスの転載をどなたかよろしくお願いいたします。

  • 59gunsringergirl_ss2 - 11/01/25 22:39:35 - ID:gunsringergirl_s

    56,57レス 転載しました。

  • 60蘇芳#すおうAG - 11/05/11 04:22:37 - ID:Q/JhosmfDw

    1つだけではまとまらなかったネタたちでオムニバス形式に挑戦です。
    モノローグってやりやすいんですよねえ…これにばかり逃げてはいけないと思いつつ。
    ほかのキャラでもいいセリフがあればやってみたいところです。
    おすすめのセリフがあったら教えてください。

    タイトル:嘘
    「遺言ですよ。言っておかないと後でヒルシャーさんが苦しむから。」
    彼に言った言葉は、すべてが本当ってわけじゃない。
    私は強がりだ。
    強がることをやめたら、きっとそれはもう私ではない。
    私が条件付けのリセットを容認するのは、怖いからだ。
    マリオ=ボッシに聞いた私の過去。
    私には目覚めることもできなくなるほどのトラウマがある。
    条件付けが切れたら、私はヒルシャーさんに別れを言うことすらできないまま眠り続けるかもしれない。
    それは嫌だ。
    何より怖い。
    だから、もう私は条件付けを、公社を、恨まない。
    ただ眠り続けて死ぬだけの命よりは、短くても生きたのだから。
    トラウマが何の代償もなく消えればそれが一番よかったけど、それは都合がよすぎるから。
    だから私は受け入れよう。
    恐怖する自分も、私で実験した公社も。

  • 61蘇芳#すおうAG - 11/05/11 04:29:37 - ID:Q/JhosmfDw

    「私は苦手なので、嘘はジャンさんの担当です」
    私は嘘は苦手。
    だけど私には「言っちゃいけないこと」がたくさんある。
    パパやママの顔を覚えていること。
    私は夢を覚えていること。
    他にもたくさん、ジャンさんに教わった。
    私は「半端な義体」だから。
    ジャンさんは「実験中の技術」は信用できないから、できるだけ条件付けの要らない子を選んだといっていた。
    ジャンさんは絶対成功しないといけないから、って。
    私は嘘は苦手。
    だから嘘はつかない。
    代わりに黙ってにこにこするだけ。
    ジャンさんはそれでいいと言ってくれたから。
    みんなを騙しても、ジャンさんがそれで喜ぶなら。
    私はずっと笑っていよう。


    「トリエラは死が怖いのね。私には日々の暮らししかないから」
    日々の暮らししかないから、なんなのだろう。
    私だって死ぬのは怖いのに。
    トリエラだけが怖がっているような言い方をしてしまった。
    私はうそつきだ。
    覚えていないけれど、私の心の底には誰かがいて、その誰かを失った悲しみは澱になって私の心に沈んでいる。
    条件付けで表面的には忘れても、心の底の澱までは消せない。
    だから私がいなくなれば、トリエラやヘンリエッタやリコの心に澱が残るはず。
    それが怖い。
    残された人の心を思い悩むことはできるのに、自分自身のこととして死を怖いと感じない私が怖い。
    けれど、恐怖は口に出したら広がるばかりだから。
    せめて私だけは泰然としていよう。

  • 62gunsringergirl_ss2 - 11/05/14 02:22:31 - ID:gunsringergirl_s

    >>60-61
    転載しました。遅くなりましてすみません。

  • 63保管サポータ - 11/05/17 23:22:36 - ID:rp/vx0kLfA

    (久々にアク禁ですorz
    申し訳ありませんがどなたか以下のレスの転載をお願いいたします)

    143氏、分かりやすい訳註を添えていただいてありがとうございました。

    COSCA 第七章 仁義なき誘拐
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/d/COSCA%20%20%c2%e8%bc%b7%be%cf%a1%a1%bf%ce%b5%c1%a4%ca%a4%ad%cd%b6%b2%fd

    jino氏からの御連絡は気長に待つようでしょうね。お手数おかけしてすみません。
    更新されなくなってから2年以上経つようですから、
    もしかしたらもう二次創作から手を引いてしまったのかもしれませんし。
    その場合は残念ですがあきらめるしかないですかね…

  • 64gunsringergirl_ss2 - 11/05/17 23:23:37 - ID:gunsringergirl_s

    第七章はアクション編なんですね。
    ヘンリエッタとペトラを掛けて2で割ったのを2倍にしたような…
    ヒルシャーが気の毒でならないw

  • 65保管 - 11/05/18 23:02:14 - ID:rp/vx0kLfA

    143氏連日翻訳ありがとうございます。以下に保管しました。

    COSCA 第八章 コスカ・コネクション
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/bbs/911/l50

  • 66保管サポータ - 11/05/18 23:09:48 - ID:rp/vx0kLfA

    (>>65訂正します)
    143氏連日翻訳ありがとうございます。以下に保管しました。

    COSCA 第八章 コスカ・コネクション
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/d/COSCA%20%20%c2%e8%c8%ac%be%cf%a1%a1%a5%b3%a5%b9%a5%ab%a1%a6%a5%b3%a5%cd%a5%af%a5%b7%a5%e7%a5%f3

  • 67名無し - 11/07/01 01:49:36 - ID:gkQ6+J+Lww

    転載お願いします。

    >>241
    保管サポーターさま、転載作業ありがとうございます。
    期限前に作業完了出来て、良かったです。

  • 68名無し - 11/07/02 01:23:42 - ID:tT/upOVM1Q

    思う存分休むがいいわ
    もう頑張る作業もないんだから


    転載乙です!!

  • 69名無し - 11/07/02 07:42:50 - ID:l4S7DZcDFw

    >>63-66
    タイミングがずれてしまったので転載しませんでした
    >>67-68
    転載しました

  • 70名無し - 11/07/10 23:46:14 - ID:McgbsuJHmA

    アクセス規制中なのですがちょっと長めのエルザSS上がりました
    85KBもあるのですが、ここに貼ってもよろしいのでしょうか?

    質問なので転載しなくて大丈夫です
    どなたか回答よろしくお願いします

  • 71gunsringergirl_ss2 - 11/07/11 22:24:48 - ID:gunsringergirl_s

    >>70
    大丈夫です。ぜひおねがいいたします。
    ただ、文字制限があると思うのでいくつかに分割していただく必要があるのと、
    さくら板支所への転載の際は、連投規制(7レスまで)の関係で
    おそらく2日か3日に分けて転載することになりますが、御了承ください。

  • 72名無し - 11/07/11 23:44:04 - ID:McgbsuJHmA

    >>71
    ありがとうございます!
    ではお言葉に甘えて貼らせていただきます
    何卒よろしくお願いいたします

    さくら板現行スレ>>231氏のエルザMADに触発されて
    長々と書いちゃった次第です

    作中にどうしても彼岸花使いたかったんですが
    イタリアにはない花だと聞き涙・・・
    タイトルにだけ使用させていただきました

    お楽しみいただければ幸いです

  • 73捨子花 1/16 - 11/07/11 23:58:46 - ID:McgbsuJHmA

     ヘンリエッタから銃を取り上げた時に擦った右頬が今更のように疼き、ピエトロ・フェルミは、意図的に深酒しているのにちっとも酔えていない自分に気が付いた。潰れるには早い、まだ何か残ってるぞ――義体のためについた傷がそう訴えかけてくる。
     エレノラとジョゼはもう既に仕事の話をやめ、帰りに飯を食うならどのレストランがいいか、夏のタオルミーナに来るならどのワイナリーで何を飲むべきかという、薄っぺらながらも余程楽しい話題に移っていた。朗らかに笑いながらメモを取る同僚に対して、本気で観光ガイドにでも転職した方がおまえの人生は愉快になるんだろうなと思いつつ、フェルミは感覚が色褪せないうちに話をまぜ返すことにした。
    「なあ」 ウィスキー後のシメのつもりで、マルサラ酒に手を伸ばす。「義体は優秀な戦闘員だが思春期のガキで、愛してくれなきゃあなたを撃ちますってくらい思い詰めるヤツもいるってことは分かった。だが、皆最初からそうなのか?」
     ジョゼとエレノラはぴたりと観光トークをやめ、フェルミに向き直った。
    「最初からそうなのかって、何が?」
    「いろんな不安定要素があってなお、最初からスーパー兵士なのかってってことさ。条件付けの究極は要するに、あの子らをSF映画ばりの忠実なロボット兵器にすることだろ? でもあんたはヘンリエッタに、敢えて不安因子を残してでも人間であることを望んでる。そんな調子で、どうやってあの子をいっぱしの暗殺者に鍛え上げたんだ?」
     ジョゼは愚問だとばかりにふっと笑い、ウィスキーを煽った。「その辺は訓練がものを言うのさ。それは人間も義体も変わらない。特に元健常者の義体は義肢に慣れるまで時間がかかるから、軍事訓練以外の身体活動も平行してやらせて馴染ませなければならないんだ。その過程で思考能力や精神力も同時に養ってる。例えば、ヘンリエッタにはヴァイオリンを習わせてるし、トリエラは外国語の書き取りなんかをやってるよ」
     疑問がまた増えた。「そういった活動には専属のトレーナーをつける?」
    「いや、もちろん担当官が自分でやる」
    「なるほどね」 フェルミは一つ一つの事項を奥歯で噛み砕きながら頷いた。「エルザのそういった慣らし活動も、全部ラウーロが付きっきりで担当した?」

  • 74捨子花 2/16 - 11/07/12 00:02:04 - ID:McgbsuJHmA

     エレノラがはっとしたような表情になった。ラウーロ・エルザ組は優秀なフラテッロだったという。仕事以外ではまともに義体に取り合わなかったらしいラウーロが、どうやって一からエルザ鍛え、優秀な戦闘員にまで育て上げたのか? フェルミに酒が回らない理由は、この辺のつかえが取れないからだ。
    「なんだ、こりごりだとか言っといてやっぱりいいとこ突くんだな」
    「俺は9杯目がいちばん冴えるんだ。素面の時の俺なんか仮初めさ」
    「アル中の言い訳みたいに聞こえるぞ」
    「俺の血管もローマに通じてるんだよ。なあジョゼ、俺は課長に内緒で来てるんだ。全部オフレコにするし、あんたの兄貴にだって黙っといてやる。だからもう少し教えてくれ――どうやってエルザは、ネグレクトが基本の担当官の元でそこまで優秀になれた?」



     どうして自分が社会福祉公社にいるのかエルザは知らない。目覚めたらここにいて、組織に忠誠を誓っていて、銃の使い方を知っていて、ラウーロという男が担当官だった。それらが何故かは分からないが、その理由がちっとも重要でないことだけは理解していた。彼女の意識からは“どうして”を求める部分だけが欠落している。知らなければいけないのは“どうやって”だけだ。
     目覚めてすぐは義肢を動かすことさえままならなかった。射撃は少しも上達せず、障害物コースのタイムも常人以下で、CQBでもヘマばかり、その都度ラウーロになじられた。叱責後に時折、彼がエルザの目の前で、わざと見せ付けるように上司に突っかかっていた。
    「こんな不公平な話があるかよ? あんたのリコはそこまで機敏に動けるってのに、なんで俺にだけ鈍くさい義体を押し付けやがったんだ? こんな木偶の坊は燃えないゴミにでも出して、さっさと別の奴と組ませて欲しいね」
    「焦ったって結果は出ないぞ、もっと根気よくやれ。射撃よりまず自分の身体に慣れさせろ。なんでもいいから体の動かし方を覚えさせるんだ」
    「毎日ひたすら走らせてるよ、なのにちっともまともに動けるようになりやがらねえ。慣らしたくらいじゃどうにもならないくらい、こいつには元々素質も才能もなかったんだ」

  • 75捨子花 3/16 - 11/07/12 00:04:00 - ID:McgbsuJHmA

    「素質も才能も既に補われている。それを生かす土壌が育っていないだけだ。ラウーロ、お前はエルザにかけた莫大な予算と労力を無駄にする気か? この先作戦二課でやっていきたいと思うなら、義体の能力を最大限に引き出せるようちゃんと訓練しろ」
     ちっ、とラウーロが舌打ちするのが聞こえたが、エルザはその時何とも思わなかった――ラウーロに申し訳ないとも、彼の言い草に傷ついたとも、何とも。義体が義体でいるのを嫌がることができないように、担当官も担当官でいることを拒否できるとは考えなかった。ラウーロがどれだけエルザを邪険に扱おうが意に介すべきではないことは分かっている。彼女はただ、次に下される命令に従えばいいだけだ。
    「ようヒルシャー、いいとこに来た。なあ、頼みがあるんだけどさ、座学で出す宿題、エルザの分だけ倍にしてくれねえか。ジャンさんは義肢慣らしに楽器演奏やら書き取りやらもやらせてみろって言うんだが、俺だって他に仕事があるんだし、そんなのいちいち付き合いきれねえよ。だから、いつもやらせてることを生かそうと思ってさ。脳みそにカビの生えた元軍人さんらと違って、整合性大好きドイツ人のおまえはその辺の要領くらい弁えてるよな?」
    「別に構わないがラウーロ、もちろん君が後でチェックを入れるんだろうな? エルザの世話を僕に丸投げするつもりじゃないなら請け負ってもいいが、そのつもりがある場合はお断りだ」
    「チェックなんか必要あるかよ、頭で思った通りに体を動かせるようになりゃいいだけだろ。とにかくあいつを課題責めにしといてくれ、俺からの命令だっつってな。おまえもいちいち採点しなくていいぜ、ただ何かやらせときゃいいんだからな」
     エルザはラウーロの同僚が気の毒そうな表情で彼女を見ていることに気が付いた。確かにその日から学科の宿題が倍になったが、ラウーロの命令ならそれをこなすだけだ。

  • 76捨子花 4/16 - 11/07/12 00:10:07 - ID:McgbsuJHmA




    「じゃあ、ラウーロはトリエラの担当官に義肢慣らしの面倒を見させてた?」
    「面倒を見させてたって程じゃないが、ヒルシャーの方はエルザが書いてきたジャーナルの添削を毎回まめにしてやってたみたいだな。よく彼からラウーロの愚痴を聞かされたよ。せっかくコピーを取ってファイルにまとめてやってるのにちっとも目を通そうとしないとか」
    「彼のところに行けばエルザが書いた文書がある?」
    「捨ててはいないだろう。頼めば見せてくれるかもしれない」



    「ラウーロさん」
     エルザは前を歩く担当官に声をかけたが、彼は振り返りもしなければペースを落としもしなかった。
     彼の耳に声が届いたか定かでなかったので、もう一度呼びかけた。「ラウーロさん」
     舌打ちが返ってきた。「聞こえてるよ。何度も呼ぶな、鬱陶しい」
     聞こえていたならそれでいい。「フランス語の作文、上達しつつあるとヒルシャーさんに褒められました。ラウーロさんに見ていただくように言われたので、持ってきたのですが」
    「先生がよくできましたって言うんならそうなんだろ。俺が見る必要なんかねえよ」
    「でも、見ていただくように言われました。必ずそうしろと念を押されたんです」
     ラウーロは面倒臭そうに振り返り、エルザが両手で差し出しているファイルフォルダを一瞥した。
     そして、それを手に取ることなく再び前を向いて歩き出した。「ちゃんとやってんのは分かったよ。次はもっと頑張れ」
    「……はい」 返事が一瞬遅れたのは、初めて体験する奇妙な感覚に襲われたからだ。
     ちゃんとやってんのは分かったよ。次はもっと頑張れ。成果事態は見てもらえなかったが、成果が上がったことは認めてくれた。あのラウーロが――ちゃんとやってんのは分かったよ。
     添削した教官は、「動詞活用で間違えなくなったのは進歩だ、君はよくやってる」と言った。彼も認めてはくれたのだろう、しかしその言葉には何も感じなかった。ラウーロの一言は違う。まるで心臓に突き刺さるようだった。人工の血が沸騰したように熱くなった――ちゃんとやってんのは分かったよ。
    「はい、ラウーロさん」 エルザは、彼女を置き去りにするペースで歩き出した担当官の背中に向かい、彼にもらった言葉を胸中で反芻した。「私、次はもっとがんばります」

  • 77捨子花 5/16 - 11/07/12 00:12:25 - ID:McgbsuJHmA




    「――ここまではいいか? 要するに、古代ローマ初期の文学はギリシャ文学の模倣から始まり、直接の影響を受けた上で方向性が反転したものと考えていい。この辺は前回説明した通りだが、ギリシャではディオニソス神の祭りで演劇を上演することが制度化された、だから舞台技術が発達し、最優秀悲劇詩人を投票で決めるため悲劇のジャンルが伸びた。これがローマ期に入ると――」
     フェルミとエレノラが入室すると、黒板に文字を書きながら喋っていた黒髪の二課員が振り返り、一旦言葉を区切った。面識はないが見覚えはある――以前、南部マフィアの件でちょくちょく作戦一課のオフィスを訪れていたドイツ人だ。他の課からの頼まれ仕事といい、ラウーロからの押し付け仕事といい、ねだれば案外何でもやってくれる男なのかもしれない――ラウーロ・エルザ事件の黒幕は五共和国派ということで片付けられた今でも。
     階段状の講堂にまばらに座っている義体たちも一斉にフェルミたちに注目し、2人が最後列に着席するまでの動作を目で追った。ほとんどがただの興味本位、動いているものがあったから見ていただけ、という理由もへったくれもなさそうな彼女たちの視線だが、リコの隣に立っているトリエラの目だけは分かりやすかった――「まだ納得できないことが残ってるの?」 ついこの間までエルザもこの中に混じって授業を受けていたのかと思うと、ここにいる少女たちもすぐに一人、また一人と消えてゆくであろう錯覚を覚える。演壇の向こうにいる、ねだれば意外と何でもやってくれそうなトリエラの担当官は、一瞬の間を置いた後、何事もなかったかのように淡々と続けた。
    「ローマ期に入ると喜劇が主流になった。もう誰も悲劇なんか見たくないというわけだ。ここからまたパンとサーカスの影響で割とすぐに演劇は廃れる。現存するギリシャ悲劇に対してローマ喜劇が圧倒的に少ないのはこのせいだな。そこで今日の課題なんだが、今黒板に書いたギリシャ悲劇とローマ喜劇の著者、彼らをそれぞれのカテゴリから一人ずつ選び、さらにその著作の中から好きなものをそれぞれ一本ずつ選んで、感想文を対比論文形式にして来週のこの時間までに提出するように。質問がなければ今日はこれで終わりにするが、次回は民主制と共和制についてディスカッションするから予習を忘れずに」

  • 78捨子花 6/16 - 11/07/12 00:14:02 - ID:McgbsuJHmA

     義体たちが席を立ち、他愛もないお喋りをしながらぞろぞろと退室し始めた――相変わらず宿題が難しいだのお願いクラエス手伝ってだの何だの。もうフェルミとエレノラに注意を払う少女は誰もいない。トリエラが黒板消しでボードの掃除を始めたので、消される前にフェルミは、ヒルシャーが書いた文字を読み取った――ローマ喜劇:プロータス、テレンティウス。ギリシャ悲劇:ソフォクレス、アイスキュロス、エウリピデス。
    「あんまり子供向けのラインナップじゃないな。特にギリシャの最後のやつ、“愛はビョーキ”がテーマの、怖い女がトチ狂って肉親殺しになる話を義体に読ませるのはさすがにどうかと思うぞ」
     ヒルシャーが階段を上ってきた。「彼の著作は『メデイア』だけじゃありませんよ。それに、義体だって創作は創作と割り切ることくらいできます。エルザ事件は五共和国派の仕業ということでクローズしたはずですが、捜査班の方が僕に何の用ですか?」
     エレノラが立ち上がったので、フェルミも一応立ち上がって手を差し出した。「作戦一課のピエトロ・フェルミとエレノラ・ガブリエリだ。まだ少し気になることが残っててな、エルザをよく知ってるだろうあんたに話を聞ければと思ったんだが」
     ヒルシャーは2人の手を無視した。「二課が事件を第三者のせいにしたのが納得できない、違いますか?」
     エレノラが気まずそうに手を引っ込め、フェルミはその手で胸ポケットの煙草を掴んだ。
    「話が早そうだが、事情は複雑そうだな。あんたは事件の真相を知らされて尚且つ、それを隠蔽するようにロレンツォ課長やらおっかないジャンやらに釘を刺されてるのか?」
    「僕が知らされた真相は、義体と担当官をまとめて殺害できるほどの凄腕が五共和国派にいるということだけです。だから用心しろと。あなた方がどんな答えを導き出したいにしろ、憶測できる材料はもうこれ以外に残っていないでしょう」
     ヒルシャーは本やノートを重ねた荷物の中から一冊のファイルを取り出し、フェルミの前に置いた。煙草を引っ込めて表紙をめくってみると、一番上はたどたどしい筆跡のイタリア語で書かれたレポートだった。『イタリア以外の半島国家における南北格差について』 エルザ・デ・シーカ。

  • 79捨子花 7/16 - 11/07/12 00:15:56 - ID:McgbsuJHmA

    「いくらなんでも話が早すぎる。隠蔽工作の一端で偽物を掴ませてるって風にしか取れないぞ」
    「真実を突き止めたいのは僕も一緒です。ただの仮説ですが、エルザはラウーロと無理心中を図ったのではないですか? あなた方が証明したい答えはそんなところではないかと思って、ここに来るのを待っていました」



     エルザは、励んだ。ラウーロにもう一度認めてもらうためなら何でもやるつもりだったし、そのための活力が際限なく湧いてきた。ちゃんとやってんのは分かったよ。次はもっと頑張れ。彼のその声、その言葉を思い出すだけで体が軽くなり、射撃の精度も身体の反応速度も見違えるほどに飛躍した。見てください、ラウーロさん、私、もっとがんばれるんです。あなたの言った通りにできるんです――そうして励むうちに、いつしか彼女はリコに次ぐ優秀なスナイパーになり、接近戦でもトリエラに引けを取らないくらいの強力なファイターになっていた。もちろん、勉強面でもトリエラやクラエスに負けていない。他の義体たちはグループで教え合いながら学習するので、たった一人でも学力を伸ばせるエルザは自分を誇ると同時に、群れることしかできない彼女たちを見下していた。
     エルザの中には他の義体と競い合うという概念こそなかったが、ラウーロの注目を求めれば求めるほど、彼が他の少女に目を向けることが許せなくなった。ラウーロが他の担当官と話すときに、相手の義体の名前を口に出すことにさえ、激しい憎しみを覚える。ある日、ラウーロがマルコーと話している時、とうとう彼女の怒りが爆発した。
    「なあマルコー、あんたのアンジェリカは最近忘れっぽいらしいが、それがかえって羨ましいよ。一応断っとくが、嫌がらせで言ってるんじゃないからな? 些細なことまで何でもかんでも覚えてられてさ、『ラウーロさん、私あなたが頑張れって言ったから頑張りました』とか聞かされながら四六時中付き纏われてみろよ。最近それでちょっとノイローゼ気味だ」
     マルコーがラウーロに軽蔑的な睥睨を投げかけるのが分かった。「そりゃ気の毒に。ここの技術部棟にいい医者がいるから、どぎつい向精神薬をたっぷりもらってくるんだな。毎日服用してればそんな悩みとは一生無縁のおつむが手に入るぞ」

  • 80捨子花 8/16 - 11/07/12 00:18:07 - ID:McgbsuJHmA

    「おいおい怒るなよ、単純に羨ましいだけなんだって。忘れっぽいのを差し引いても、アンジェリカは爽やかなもんだろ? 一緒にいるとこっちまで陰気になるような義体、俺に選択権があったら絶対に選ばなかったよ。やっぱりジャンの野郎に一杯食わされたのは間違いじゃなかったんだ、畜生め」
     エルザは素早く周囲を見回した。すると、向かい側の通路を通り過ぎていくアンジェリカが目に入った。トリエラの押す車椅子に乗り、クラエスを傍らに歩かせて、3人で楽しげにお喋りしながらどこかに向かっている。
     エルザは自分でも驚くほどの速さで中庭を突っ切り、アンジェリカの前に立ちはだかった。3人がぴたりと歩みを止め、何の用かとばかりに一斉に彼女に注目した。
     エルザは、ありったけの憎悪を込めてアンジェリカを睨みつけた。「……ラウーロさんの前から消えなさい」
     アンジェリカはわけが分からないといった風にエルザを見つめ、硬直した。
    「聞こえなかったの? 二度とラウーロさんの視界に入らないで。ラウーロさんは、あなたなんかにかかずらってるほどお暇じゃないのよ」
    「……あの……? ええと……」
     低脳なアンジェリカ。これだけで何も言い返せなくなるなんて、なんて出来の悪い義体だろう。私はもっと優秀なのに、ラウーロさんはこの子のどこがそんなに羨ましいって仰るの? ただのがらくたのくせに。自分の担当官にすら相手にされていない、ごみのくせに。
     トリエラがアンジェリカを庇うように間に入った。「ちょっとエルザ、よく分からない言いがかりをつけてアンジェをいじめるのはやめなよ。何があったか知らないけど――」
    「あなたには関係ないわ。いちいち口を挟んでこないで」
     目障りなトリエラ。この独善的な目立ちたがりはいつもいつも何様のつもりなのだろう? 担当官に逆らうような欠陥品のくせに、自分が一番有能だから他の義体の面倒を見るのは当然という態度をどんな時でも崩さない。この女ばかりがもてはやされるせいで、ラウーロさんはなかなか私を見てくださらないのかもしれない。こんな女がいるせいで。

  • 81捨子花 9/16 - 11/07/12 00:20:07 - ID:McgbsuJHmA

     クラエスがトリエラの肩に手を置いた。「トリエラ、言わせておきなさいよ。きっとエルザは何か勘違いしてるんでしょ。全部吐いてすっきりしたら、我に返ってそこをどいてくれるはずだわ」
     存在自体が無意味なクラエス。彼女がまだ生きているのが信じられない――担当官なしの義体の人生に何の意味があるっていうの? 無意味な絵を描き、無意味な音を鳴らし、無意味な畑を耕す、ただそれだけの馬鹿げた毎日に。義体は担当官のためにいるのに、どうして担当官と一緒に死なないのかがさっぱり理解できない。私ならそうするのに。ラウーロさんのためだけに存在している私なら、そうしないはずがないのに。
    「とにかく、あなたには自分の担当官がいるんだから、今後一切ラウーロさんに近づかないで。今度ラウーロさんを煩わせたら、私があなたを殺すわよ」
     きょとんとこちらを見つめるアンジェリカを尻目に、エルザは踵を返して再び中庭を横切り始めた。もう既にラウーロの姿は見えなくなっていて、彼女は舌打ちした――あんなジャンクどもに関わっていなければ。
     彼女の強化された聴覚に、再び前進を始めたジャンクどもの会話が引っかかってきた。
    「アンジェ、気にしちゃだめだよ。エルザは本当に何か勘違いしてたみたい。きっと、担当官のことでむしゃくしゃしてたんだろうね。八つ当たりの的にされちゃって、とんだ貧乏くじだったね」
    「さっきの子、エルザっていうんだね。トリエラとクラエスはよく知ってるの?」
    「うん、まあ…… 知ってるけど、そんなによくは、ってかんじかな。実は、私もそこまでたくさん話したことないんだ。あんなに喋ってるあの子を見たの、今日が初めてだしね」

  • 82捨子花 10/16 - 11/07/12 00:21:45 - ID:McgbsuJHmA




     ファイルは分厚い。一つのジャーナルは長くてもレポート用紙2枚程度だが、ラウーロが休みの日もエルザは毎日書いていたのか、日付に穴がまったくない――彼女の死の前日まで。
     最初はたどたどしいながらも学術的な記述が大半を占める。イタリア語、ドイツ語、フランス語、英語、スペイン語。国内の社会問題、欧州の政策、中東情勢、アフリカの内情、世界経済。読み進めるうちに筆跡が流麗になり、赤インクで正された綴りや文法ミスが減っていく。上達が驚くほど早く、これだけでエルザがどれほど呑み込みの早い生徒だったかが分かる。
    「教室ではいつも一人で座っていました。基礎学力にバラつきがあるので、授業中はトリエラにTAの役目を任せているのですが、エルザが彼女に助けを借りているところは見たことがありませんでしたね」
     エレノラがメモを取りながら尋ねた。「その時点で、エルザが複数での任務に向かないことが明確だったんですね。そのことについてラウーロにアドバイスしましたか?」
     ヒルシャーは溜息をついて頷いた。その様子が、トリエラが「馬鹿言わないで」と言っていた時の仕草に似ていて、なんとなく彼女の方が彼を真似ているのだという印象をフェルミは受けた。
    「何度も指摘しました。一度も取り合ってもらえませんでしたが。彼はエルザのことについて話すのを嫌がっていました。他のことは何でも陽気に話す男でしたし、いつもの礼と称して何度も飲みに誘ってくるほどざっくばらんな性格でしたが、義体はただの武器であればいいという考えは生涯揺るがなかったようです」
     フェルミは、先を急いで読み進めた。まだまだ枚数がある。読んでいくうちに、最初はレプブリカ紙の社説みたいだったがちがちに堅い小論文が、だんだん夢見る乙女の妄想日記みたいなエッセイを含んで緩やかになり始めた。序盤を脱したと思ったのは、英語で書かれた読書感想文を見つけた時だ――『“オセロ”はなぜ悲劇と呼ばれるか』

  • 83捨子花 11/16 - 11/07/12 00:23:31 - ID:McgbsuJHmA

    『私は“オセロ”を悲劇だとは思いません。デズデモーナを殺したオセロは自害し、結局彼女と一緒になれるのですから幸せです。そうなるように奸計を弄したイアーゴーは悪役ではないと思いますが、妻エミリアを刺して自分は生き延びたので可哀想な人です。全体的に幸せな雰囲気に包まれた喜劇的作品だと思いますが、もし悲劇的要素があるとすれば、オセロが最後までデズデモーナを信じられなかったことでしょう。私なら、愛する人を疑うことなんて考えられません』
    「なあヒルシャー、さっきあんた、義体だってフィクションと現実の区別くらいはつけられるとか言ってなかったか?」
    「この時点では変に捻じ曲がった共感を抱いていただけと解釈しました。凄まじいのはもう少し先です」
     フェルミは、特に気にならないページを適当に飛ばした。すると、どんな言語を用いても達者だった今までの筆跡が荒れ始めた――『ラウーロさんについて』
    『今日はラウーロさんがアンジェリカに多大な迷惑をかけられました。私が殺すわよって注意してあげても、彼女は少しも反省しているようには見えませんでした。なんて傲慢な義体でしょう、彼女みたいな子は即刻廃棄処分にすべきです。でもラウーロさんはお優しいから、私がその出来事について話したら、「おまえの言ってることの何もかもがさっぱりだ。壁に向かって話し方を練習しろ」と仰って、アンジェリカをお許しになりました。ラウーロさんは神様よりも寛容で、空よりもお心が澄み切り、海を渡る風のように真っ直ぐで、磨きたてのSIGみたいに清廉な方です。彼のためなら、私は壁とでも話せます』

  • 84捨子花 12/16 - 11/07/12 00:25:12 - ID:McgbsuJHmA

     その辺からはもう学術的な小論文はなく、ラウーロのことについて詳細に記したストーカーの妄執ポエムみたいな怪文書ばかりになった。筆跡が正常に戻った日、特に美しい日、荒れ放題で読むことさえままならない日など、同じ人物が書いたと思えないほど起伏の振り幅が毎日大きい。涙ぐましいことに、赤インクの修正は毎回律儀に入れてあった。『もう少し実のある内容を書くように』と文末にコメントが載った次の日など、レポート用紙いっぱいに大きな文字でこう書き殴ってあった。『ラウーロさんのこと以上に実のある内容なんてないわ!!』
     フェルミは労わるつもりで深々と嘆息した。「こんなのに毎日付き合ってやったのか?」
     当時の様子を思い出したのだろう、ヒルシャーがうんざりした表情で頷いた。「エルザは絶対にそのうち何かやらかすだろうと思っていたので、様子見目的で続けました。かなり初期の変調の頃からラウーロに知らせてはいたんですが、当然の如く彼は耳を貸さなかった。彼の態度に諦めず、条件付けがあるからと油断もしないで上に進言していれば、或いはあんなことにならなかったのかもしれません」
    「そうか」 フェルミは確信をもってヒルシャーの目を見た。「後悔してるから協力してくれるのか」
     ヒルシャーは目を伏せた。「腹立たしいこともありましたが、ラウーロは決して悪い人間ではありませんでした。エルザには冷淡でしたが、それが彼のやり方だったんです」

  • 85捨子花 13/16 - 11/07/12 00:27:21 - ID:McgbsuJHmA




     エルザは筆を置いた。最後のジャーナルは満足のいく出来だ。今回は提出するつもりはない。最後の最後なのに、口うるさい教官に無粋なけちをつけられたくない。
     誤字・脱字・表現ミスがないかどうか確かめるために、もう一度彼女は文章に目を走らせた。フランス語で書いたのは、最初にラウーロに認めてもらった思い出の言語だからだ。
    『ラウーロさんに担当官になっていただいたことは、私の人生で最良の出来事でした。あの日以来私の働きをお認めいただくこともできなかったし、トスカーナでは失望させてしまったけれど、それでもラウーロさんへの愛情は揺らぎません。むしろ、ますます強くなりました。私をここまで絶望に追い込むことも、たった一言で幸せの絶頂に押し上げることも、ラウーロさんにしかできないことだと分かったからです』
     涙が溢れて文字が霞んだ。エルザは目元を乱暴に拭い、読み進めた。時間がない。
    『最初にラウーロさんと出会った時は、自分がこんなに人間的な感情を持つことができるとは思いませんでした。義体はただの人形で、ただ戦っていればいいだけだと目覚めた時から思い込んでいたからです。でも、私は愛することを知りました。喜ぶことも、怒ることも、悲しむことも、何もかも。すべてラウーロさんのおかげです。ラウーロさんと一緒にいる限り、私はただのサイボーグではなく、ラウーロさんと同じ人間でいられるのです。永遠に一緒にいればきっと、ラウーロさんもいつか私のことを理解してくださって、もう一度「ちゃんとやってんのは分かったよ、次はもっと頑張れ」とお声をかけてくださるかもしれません。永劫の時を一緒に過ごせば、必ずその時が訪れると私は信じます』
     涙は止まった。冷静になってみると、満足のいく出来とはどうしても思えなくなった。どうしてこんなに不幸な筆致になってしまったのだろう? 自分はこれから幸せになりに行くのに。それを思うだけで、誰よりも幸せなはずなのに。
     やはりこのジャーナルは途中で捨てていこう。そう考え、エルザはレポート用紙をくしゃくしゃに丸めてポケットに突っ込んだ。
     もう行かなくちゃ。銃弾は2発。愛するラウーロとの待ち合わせまで、あと5分。

  • 86捨子花 14/16 - 11/07/12 00:29:41 - ID:McgbsuJHmA

     修道院跡の入り口で偶然、ヘンリエッタと鉢合わせした。可憐な姿の殺し屋は、今日はその小さな手に銃でなく数本の野花を持っていた。その辺から適当に摘んできた花だろうが、硝煙の臭いなんかよりはよく似合う。少女に花。モッツァレラチーズにプロシュートかというくらいの王道の組み合わせ。
     王道を地でいく今日のヘンリエッタは、フェルミの隣でエレノラが抱える豪華な花束を見て、さっと顔を赤らめた。
    「あの…… きれいですね。私、その…… もっとすてきなお花にしたかったんですけど、これしか咲いてなくって、それで……」
     どんな花を供えたって、エルザはきっと嫌がりも喜びもしないだろう。彼女の感情を動かせるのはラウーロだけだ。ラウーロが好きだと言えばエルザはその花を愛でるだろうし、何も言わなければエルザにとって何の価値もない。
     フェルミはヘンリエッタの肩をぽんと叩いてやった。「いいんだ、こんなものは気持ちで。エルザの墓参りに行くんだろう?」
    「はい……」
    「俺たちもそうなんだ、案内してくれ」
     ヘンリエッタは恥ずかしそうに頷き、フェルミたちを先導して歩き出した。回廊型の館内の壁際に彫られた、膨大な数の死者たちの名前が行き過ぎる。生ける3人の傍らで、過去の遺物たちが瞬間ごとにすり替わる現在の背後に取り残されてゆく。
     誰も注意を払わないような部屋の片隅で、ヘンリエッタが足を止めた。天使の像が見守るタイル大の石碑の一枚に、目当ての名前があった――エルザ・デ・シーカ。

  • 87捨子花 15/16 - 11/07/12 00:31:40 - ID:McgbsuJHmA

     生年月日はない。没年も記されていない。十字架も、“安らかに眠れ”といった銘文もなければ、“愛に生きた少女”だの、“触ると怪我する危険なワルキューレ”だのといった、人目を引きそうな気の利いた文句も刻まれてない。ラウーロにもらった彼女の財産だけがそこにある。
     隣にラウーロのフルネームがあった。こちらには生年月日と没年も彫り込まれているが、“もう少し優しければ死ななくて済んだ男”だの、“諜報上がりの割食い野郎”などといった文言はやはりない。普通に生きていれば大半の人間の墓に刻まれるであろう、“なにがしの息子”も、“誰それの最愛の――”もない。この不運な男のことも、隣に眠る哀れな少女のことも、半年後には誰も思い出さなくなるのだろう。闇の中で生きるということは、そういうことだ。
     ヘンリエッタは枯れた花を取り除き、新しい野花をエルザの墓の下に置いた。水には挿さない。この花もすぐに枯れる運命にある。「少しだけ、エルザを羨ましいと思っちゃうんです」
     エレノラがぎょっとしてヘンリエッタを見つめた。「どうしてそう思うの?」
     少女は瞬きもせず、エルザの名前をじっと眺めていた。「私はジョゼさんに対して、そこまで思い切ることができませんから。ジョゼさんのためになら何でもできますけど、それでジョゼさんを幸せにできる自信があるかって聞かれたら、そうじゃありません。エルザは、ずっと2人でいられればいつか2人とも幸せになれるって確信を持ってたから、一緒に死んだんだと思うんです。ジョゼさんは、もし、私と一緒に死んでも…… 幸せだと感じてくださるでしょうか」
     フェルミはエレノラから花束を受け取り、ヘンリエッタの花の隣に置いた。花瓶はないが水は含ませてある。こちらの花はヘンリエッタのものよりはもう少し長持ちするだろう。

  • 88捨子花 16/16 - 11/07/12 00:33:59 - ID:McgbsuJHmA

    「さあな、死んだ奴の考えることは生きてる奴には分からんよ。他の誰かを幸せにしたいなら、生きてるうちにしといた方がいいぞ。天国だって地獄だって広いんだ、同じ所に行けるとは限らないんだからな」
     ヘンリエッタが、そうですよね、と微笑みながら呟くのを見て、改めてフェルミは、本当に義体はもうこりごりだ、と胸に刻み込んだ。
     エルザ・デ・シーカが最愛の担当官から与えられたものは、名前と、写真と、もう一つ。感情――機械仕掛けのコラムニストが、狂気じみた愛の言葉しか綴れなくなるほどの。それこそが彼女の心を温め、優秀な兵士に育て上げたことは事実だろう。しかし、同時に何よりも大事な人間と彼女自身を焼き尽くして灰にした。元々貧乏な人間が宝くじに当たって億万長者になると一瞬で破産するのと一緒だ――金を持ったことがないから、使い方が分からないのと。こんな感覚の中で当たり前に生きてる義体なんかと一緒にいたら俺なんかじゃ一日も神経がもたねえよ、やっぱり一課をクビになったって二課だけは絶対にお断りだと胸中で独りごち、フェルミは隣のエレノラに笑いかけた。
    「しかし、寂しい墓だな。課長に内緒で一課の経費使って、こいつらの碑面に何か彫ってやろうぜ。ラウーロには“死ぬほど愛された男”、エルザには…… 何がいい? エレノラ、おまえが考えろ」



    -la fine-

  • 89名無し - 11/07/12 00:36:42 - ID:McgbsuJHmA

    すみません、14/16のド頭にスペース入れ忘れました
    三行ほど空けていただければ幸いです

    よろしくお願い致しますm(__)m

  • 90名無し - 11/07/12 23:31:03 - ID:tbHtL18XGg

    転載職人様、お疲れ様でございます
    エルザSSを書かせていただいた者です
    この度は誠にありがとうございますm(__)m

    本スレの方で不都合が生じたとの書き込みを目にいたしました
    何かマズいこと書いちゃったでしょうか・・・
    できることがありましたらお知らせください

    よろしくお願いいたしますm(__)m
    連絡事項ですのでこのレスは転載なしで大丈夫っす!

  • 91gunsringergirl_ss2 - 11/07/12 23:33:15 - ID:gunsringergirl_s

    >>72様、おつかれさまでした。

    ところで申し訳ありませんが、転載作業にて不都合が発生しました。
    『本文に長すぎる行があります』ということでエラーが出てしまいます。

    大変お手数をおかけしますが、改訂版をもう一度貼っていただけますでしょうか。
    それとも、転載作業の時のみこちらで適当なところで改行してしまってよろしいでしょうか?
    (もちろん保管時には原文のまま保管いたします)

  • 92名無し - 11/07/12 23:42:34 - ID:tbHtL18XGg

    >>91
    お知らせありがとうございます&申し訳ありませんでした!!

    改訂版でこちらのレスを長々と消費させていただきますのもおこがましく・・・

    もしお手数でなければ、職人様に改行作業をお願いしてしまってもよろしいでしょうか?

    本当にすみません!!
    今度書く時は工夫いたします

    よろしくお願いいたしますm(__)m

  • 93gunsringergirl_ss2 - 11/07/13 00:05:47 - ID:gunsringergirl_s

    >>92
    了解です。では僭越ながらこちらで改行作業をさせていただきます。


    で。実は当方、231でございます。
    なんという御褒美!!ありがとうございました!
    睡眠時間を削って頑張った甲斐がありました(笑)

    >>72氏の作品でエルザの背景について色々と納得がいきました。
    >自分はこれから幸せになりに行くのに。
    こういう見方は今まで全然していませんでした。目から鱗と塩水が。
    ずっと天城越えだと思ってたよ。(純情一途が行き過ぎちゃった方の)
    そしてエッタ…その怖くも可憐な情景が浮かんで、なんともいえないゾクゾク感が。
    あとヒルシャー先生の授業受けたいw
    中学生の頃にこんな授業されてたら泣いてたかもしれませんが。
    全然違う方向性の話だけれどトリヒル組とフェルミがらみの話で
    オセロを持ってこようと思っていたんですが、先を越されてしまいました(笑)

    こんな素敵なエルザSSが読めるとは。2ちゃんやってて良かった。
    本当にありがとうございました!
    >今度書くとき
    次回作も期待してよろしいんでしょうかwwぜひ!お待ちしておりますw

  • 94名無し - 11/07/13 00:37:33 - ID:tbHtL18XGg

    >>93
    ありがとうございます!
    本当に恐縮です。よろしくお願いいたしますm(__)m

    なんと231氏でいらっしゃいましたか!
    あまりにあのMADがかっこよすぎて思わず長々と書き殴ってしまいましたよw
    自分も天城越えだと思ってたんですが、書きながらいろいろ考えてるうちに
    これもアリか?・・・などなど解釈を加えてしまいました
    本当はエッタが摘んできた花を彼岸花にしたかったんですが、イタリアではマイナーな花らしく
    その辺に生えてたっていうのが通らなそうで断念しましたorz
    クラエスが植えてたって設定は・・・毒草だから無理でしょうかorz

    トリヒル組&フェルミでオセロな話是非!!読みたいっす!!!
    期待して待っておりますwww


    では、返す返すもよろしくお願いいたします!m(__)m

  • 95gunsringergirl_ss2 - 11/07/13 22:07:48 - ID:gunsringergirl_s

    転載作業についてお詫びです。
    携帯で連投避けを入れれば7レスこえてもいけると聞いたのでやってみたんですが、
    大変うっとうしいことになったので残りは明日にします。
    やっぱり無理しないで12〜16でまとめた方が良かったorz
    作品の雰囲気を台無しにして申し訳ない。

  • 96gunsringergirl_ss2 - 11/07/13 23:03:32 - ID:gunsringergirl_s

    >>94
    あのMADは素材が良かったんですよ。曲を紹介してくださった225氏に感謝です。
    動画も結構、切らずにそのまま使ってタイミングが合うものが多かったのが驚きでした。
    一番手間が掛かったのは初っ端の彼岸花と歌詞のタイミング合わせだったという(笑)気に入っていただけて光栄ですw

    彼岸花の別名に捨子花というのがあるとは知りませんでした。
    >本当はエッタが摘んできた花を彼岸花に
    ああ、いいなその情景。花言葉が「情熱」「独立」「再会」「あきらめ」「悲しい思い出」
    「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」だとか。エルザのお墓に供えるにはぴったりですね。
    ねずみ避けの目的で農地に植えたそうですからクラエスが植えていても不思議は……
    あ、クリスマスにはもう咲いてない!orz

    >トリヒル組&フェルミでオセロ
    さくら板支所に投下するのはちょっとあれな話なんですがw
    >>72氏ほど突っ込んだ内容にはなってないですよー。台詞をちょっと引用するくらい。
    白水Uブックスのはどうもイメージが合わないんだけど…お薦めの訳書はありませんかね;;;
    プロット立てた後放置しっぱなしですがエルザSSの御礼に頑張ってみます。

  • 97名無し - 11/07/13 23:50:29 - ID:tbHtL18XGg

    転載職人様、作業お疲れ様です!&ありがとうございます!!
    いやはや、転載作業がそんなに大変だとは・・・
    丸投げさせていただいておりますこちらは恐縮でガクブルです
    今後ともよろしくお願いいたします

    オセロは大昔に図書館で借りて読んだだけなのでオススメを紹介することが;;
    役立たずですみません
    役立たずですが期待して待っております!!

    あのMADは終盤の「私は一人きりで・・・」という箇所の彼岸花の色が
    反転して揺れるという表現にぞくりときました
    初っ端にタイトルと交互に入るのも映画の予告編的でカッコよくて、と思ってたら
    そこ苦労されてましたか!!

    あああやっぱり彼岸花使いたいぃぃぃぃ
    という気持ちに歯止めがかからなくなってしまったので
    14〜16を改変して無理矢理花突っ込んでみましたwww
    最後の三篇だけ挿げ替えお願いします
    毎度ながらお手数をおかけしますm(__)mよろしくお願いいたします!!

  • 98捨子花 14/16改 - 11/07/13 23:54:29 - ID:tbHtL18XGg




     修道院跡の入り口で偶然、ヘンリエッタと鉢合わせした。可憐な姿の殺し屋は、今日はその小さな手に銃でなく数本の切り花を持っていた。ラッピングはされていないので市販品ではないだろうが、その辺から適当に摘んできたとも思えない、珍しい花だ。少なくとも、フェルミは見たことがない――細く長い棘みたいな緋色の花弁が何本も、空に向かって放射状に突き出た形は炎そのもので、美しいといえば美しいが、死者に手向けるにはあまりにも業火に似すぎている気がした。
     何にしろ、こうして花を持っている方が、硝煙の臭いなんかを振りまくよりはずっといいとフェルミは思った。少女に花。モッツァレラチーズにプロシュートかというくらいの王道な組み合わせだ。
     王道を地でいく今日のヘンリエッタは、フェルミの隣でエレノラが抱える豪華な花束を見て、さっと顔を赤らめた。
    「あの…… きれいですね。私、その…… もっとすてきなお花にしたかったんですけど、冬だから外に何も咲いてなくって、それを検査の時に話したら、技術部の人がこれをくれて……」
     エレノラが身を乗り出し、花に鼻を近づけた。「へえ、彼岸花ね。技術部の温室、完成したんだ。ちょっと待ってね、確かこれを栽培してる製薬課の友達から聞いた話のメモがあったな……」
     彼女はポケットからお得意の手帳を取り出し、片手で器用にページを繰り始めた。
    「あった。ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草、リコリスとも呼ばれる。原産地は中国で、主に東洋に分布。有毒性で、毒成分の一つであるガランタミンはアルツハイマー病の治療薬として利用されている。花言葉は…… まあ、いろいろね。綺麗な花には毒があるって本当みたいよ、ヘンリエッタ」
     アルツハイマーの治療薬ね、とフェルミは皮肉な思いを噛み締めた。子供の気後れを紛らわすためにウィンクしてみせている同僚は気付いているのか分からないが、要するに技術部の職員は、条件付けだか何だかに使う、義体の中枢神経をいじる成分のためにわざわざ輸入した研究用植物をヘンリエッタにくれてやったということだ。条件付けがなければ今も生きていたであろう、年端もいかない少女の墓を飾るために。
    「エレノラ、やっぱりそこに俺のナニのサイズまで書いてあるんだろ。ちょっと見せてみろ」
    「霊前で下ネタは控えてくださいフェルミさん、子供の前でもあるんですよ」

  • 99捨子花 15/16改 - 11/07/13 23:56:29 - ID:tbHtL18XGg

     2人のやりとりを見て、ヘンリエッタがくすくすと笑い出した。その笑顔にフェルミは、まあ何でもいいか、と気を取り直した――どんな花を供えたって、エルザはきっと嫌がりも喜びもしないだろう。彼女の感情を動かせるのはラウーロだけだ。ラウーロが好きだと言えばエルザはその花を愛でるだろうし、何も言わなければエルザにとって何の価値もない。
     フェルミはヘンリエッタの肩をぽんと叩いてやった。「花なんてものは何だっていいんだ、気持ちがあれば。エルザの墓参りに行くんだろう?」
    「はい」
    「俺たちもそうなんだ、案内してくれ」
     ヘンリエッタはにっこり笑って頷き、フェルミたちを先導して歩き出した。回廊型の館内の壁際に彫られた、膨大な数の死者たちの名前が行き過ぎる。生ける3人の傍らで、過去の遺物たちが瞬間ごとにすり替わる現在の背後に取り残されてゆく。
     誰も注意を払わないような部屋の片隅で、ヘンリエッタが足を止めた。聖母子像が見守るタイル大の石碑の一枚に、目当ての名前があった――エルザ・デ・シーカ。
     生年月日はない。没年も記されていない。十字架も、“安らかに眠れ”といった銘文もなければ、“愛に生きた少女”だの、“触ると怪我する危険なワルキューレ”だのといった、人目を引きそうな気の利いた文句も刻まれてない。ラウーロにもらった彼女の財産だけがそこにある。
     隣にラウーロのフルネームがあった。こちらには生年月日と没年も彫り込まれているが、“もう少し優しければ死ななくて済んだ男”だの、“諜報上がりの割食い野郎”などといった文言はやはりない。普通に生きていれば大半の人間の墓に刻まれるであろう、“なにがしの息子”も、“誰それの最愛の――”もない。この不運な男のことも、隣に眠る哀れな少女のことも、半年後には誰も思い出さなくなるのだろう。闇の中で生きるということは、そういうことだ。
     ヘンリエッタは枯れた花を取り除き、彼岸花をエルザの墓の下に置いた。水には挿さない。この燃え盛るように激しい花も、すぐに枯れ果てる運命にある。「少しだけ、エルザを羨ましいって思っちゃうんです」
     エレノラがぎょっとしてヘンリエッタを見つめた。「どうしてそんなこと思うの?」

  • 100捨子花 16/16改 - 11/07/13 23:59:10 - ID:tbHtL18XGg

     少女は瞬きもせず、エルザの名前をじっと眺めていた。「私はジョゼさんに対して、そこまで思い切ることができませんから。ジョゼさんのためになら何でもできますけど、それでジョゼさんを幸せにできる自信があるかって聞かれたら、そうじゃありません。エルザは、ずっと2人でいられればいつか2人とも幸せになれるって信じてたから、一緒に死んだんだと思うんです。ジョゼさんは、もし、私と一緒に死んでも…… 幸せだと感じてくださるでしょうか」
     フェルミはエレノラから花束を受け取り、彼岸花の隣に置いた。花瓶はないが水は含ませてある。パステルカラーのバラやユリをまとめたこちらの花は、炎の形をした毒草に比べれば束になっても大人しいものだが、すぐに燃え尽きる宿命を背負った隣人よりは、もう少し長持ちするだろう。
    「さあな、死んだ奴の考えることは生きてる奴には分からんよ。他の誰かを幸せにしたいなら、生きてるうちにしといた方がいいぞ。天国だって地獄だって広いんだ、同じ所に行けるとは限らないんだからな」
     ヘンリエッタが、そうですよね、と微笑みながら呟くのを見て、改めてフェルミは、本当に義体はもうこりごりだ、と胸に刻み込んだ。
     エルザ・デ・シーカが最愛の担当官から与えられたものは、名前と、写真と、もう一つ。感情――機械仕掛けのコラムニストが、狂気じみた愛の言葉しか綴れなくなるほどの。それこそが彼女の心を温め、優秀な兵士に育て上げたことは事実だろう。しかし、同時に何よりも大事な人間と彼女自身を焼き尽くして灰にした。元々貧乏な人間が宝くじに当たって億万長者になると一瞬で破産するのと一緒だ――金を持ったことがないから、使い方が分からないのと。こんな感覚の中で当たり前に生きてる義体なんかと一緒にいたら、俺なんかじゃ一日も神経がもたねえよ。やっぱり一課をクビになったって、二課だけは絶対にお断りだ、と胸中で独りごち、フェルミは隣のエレノラに笑いかけた。
    「しかし、寂しい墓だな。課長に内緒で一課の経費使って、こいつらの碑面に何か彫ってやろうぜ。ラウーロには“死ぬほど愛された男”、エルザには…… 何がいい? エレノラ、おまえが考えろ」



    -la fine-

  • 101名無し - 11/07/14 00:03:21 - ID:tbHtL18XGg

    あ、改行入れ忘れた・・・

    またお手数をおかけします・・・サーセン・・・orz

  • 102gunsringergirl_ss2 - 11/07/14 22:58:12 - ID:gunsringergirl_s

    転載終了しました。
    14、15ですが、さくら板に投下するのにサイズが大きかった為、
    勝手ながら3レスに分けて投下させていただきました。申し訳ありません。

  • 103名無し - 11/07/14 23:33:41 - ID:tbHtL18XGg

    転載ありがとうございました!!

    本当に本当にお疲れ様でした
    何度もご迷惑をおかけ申しまして・・・・

    ええと・・・
    こんな時 なんて言うんだっけな・・・

    ああ そうか・・・

    ありがと

  • 104gunsringergirl_ss2 - 11/07/15 01:04:13 - ID:gunsringergirl_s

    改訂版いいですねw情景が一気に色彩感が増したかんじで。やっぱりエルザには彼岸花が似合う。
    アルツの治療薬って資料は自分も読んだのに義体に結びつきませんでした。掘り下げ方がうまいなあ。

    >>97
    レスありがとうございますw
    ですがさすがにこのままこのスレで続けていくとスレ違いになってしまいますね;;;
    エロパロ保管庫でよければSS書きの雑談スレ立てようかな……

  • 105名無し - 11/07/15 23:27:01 - ID:tbHtL18XGg

    改訂版までお読みくださりありがとうございます!!

    雑談スレができましたら日参ですかねw

  • 106名無し - 11/07/19 00:45:40 - ID:RHCT30NYZw

    「リボンの結び方教えて」
    リコに一番初めにかわした言葉。
    トレーニング用のスニーカーを与えられたけれど紐が結べず、演習場に言えないと寮でべそをかいていたリコ。
    あの後も手先が不器用なリコにいろいろ教えたなあ…

    「私のほうが先輩なのに、トリエラのほうがお姉さんみたい」
    アンジェリカは背が低いのをずっと気にしていたな…
    一度せがまれて私のスーツを着せてあげたら、パンツの裾が床を引きずって、二人で笑ったな。

    ヘンリエッタもエルザも、「初めまして」の一言のあとは黙り込んじゃって、私だけがしゃべっていたな。
    クラエスは…「私も仕事のためには髪を結んだほうが…」って考え込んじゃった。
    ベアトリーチェは「ベルナルドさんと違う…なんで匂いがしないの?」
    ビーチェの鼻がいいって知らなかったから、この一言にはビックリしたな。

    ねぇ、みんな。
    私はいいお姉さんだったかな…

  • 107gunsringergirl_ss2 - 11/07/19 23:55:30 - ID:gunsringergirl_s

    転載しました。
    トリエラ…(つд`。)

  • 108名無し - 11/08/26 23:09:51 - ID:5IWVyso7tA

    332 :CC名無したん:2011/08/26(金) 15:38:35.44 ID:GdVNPn2e0
    サーバーが落とされたのか、移転したのか閲覧できない状態が続いているな

    ↑さくら板支所に書き込まれてたんだけど、書き込めるけど読めないってことなのかな?
    自分はIEで普通に閲覧できるけどなあ。移転もしてないと思うんだけど。
    それとも他のスレとかサイトの話なのかな。一応SSスレのURL貼っておくよ。

    社会福祉公社技術部さくら板支所 第3分室
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1289669136/l50

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