日本軍の実態
最終更新：
kannrininn 2024年04月01日(月) 00:05:40履歴
残虐・不法行為 
民間人偽装
- フィリピンの歩兵第20連隊第3大隊の一部は1942年12月10日、「約二百の敵兵匪ありとの土民の報告」を受けて「直ちに之を攻撃するに決し全員便衣（※軍服でない私服のこと）を着服して同日出発」、「半数以上射殺」しまた捕虜をとるなどの戦果を挙げた。文書では「教訓」として「便衣を着用して敵を欺瞞し至近距離迄近接攻撃せば効果あり」とする。*1
- フィリピンの左警備隊（歩兵第20連隊第１大隊*2）1943年1月30日付「警備会報」では「討伐に際する急襲奇襲に加ふるに変装隊の活用は相当の効果ありと認む。之に要する被服は経理室にて又拳銃等は師団兵器部にて準備する筈に付予め連絡せられ度し」*3とあり、やはり「変装隊」の効果を認めている。
- フィリピンを担任した第14軍（※渡集団）の司令部が1944年2月15日付で作成した対ゲリラ戦の手引き「謀略游撃戦の一例」では「戦闘方式の一端」の項で「敵の最も希望しある糧穀を満載したるカロマタ、水牛車等の縦列に我が部隊を偽装し…」*4とあり、軍として民間人偽装を推奨していたことがわかる。
こうした行為は太平洋戦争で始まったのではなく、日中戦争ですでに行われていた。第14軍に属する第16師団、そして第16師団に属する歩兵第20連隊は、中国戦線を経験した部隊である。
人質作戦
- フィリピンのマニラ占領後に「大日本軍司令官」名で出された1942年1月3日付「警告」*5には「加害者若くは加害を企てたる者が発見され得ざる場合は事件発生の街道或は村及びその近隈に住む有力者十名を人質として保留すべし」とある。
- またこれもフィリピンだが、1942年12月25日付の渡集団（※第14軍のこと）参謀部「匪首捕獲の参考」は「本資料は奈良兵団（第65旅団）に於て匪首捕獲に方り採用せし参考資料なり 参考の為印刷配布す」*6という性格ではあるが、「討伐間急速に密偵□入るるを要するときは付近在住の有力者等を逮捕して之に□じ其の妻子近親は之を人質（優遇す）とし通匪し能はざらしむる如く著意すること緊要なり」*7とあり、人質を取ることを勧めている。
- またこれもフィリピンだが、1943年1月、垣第六五五〇部隊（※第16師団のこと）参謀長名で出された「俘虜等の留置場施設に関する件通牒」*8には「各部隊に於て抑留中の俘虜、容疑者、人質等にして適々其留置場設備の不備なるに乗じ逃亡せるが如き事例散発しある現況に鑑み…」とあり、実際に人質を取って留置場に入れていたことがわかる。
- またこれもフィリピンだが、渡集団（※第14軍のこと）司令部が作成した1944年2月18日付「情報収集に関する参考」*9では「諜者使用上の一般原則」の項で「出来得る限り家族を獲得（人質）し置き同時に家族援助に充分□慮を払ふべきこと」と記している。
捕虜・投降者の殺害
フィリピンを担任した渡集団（第14軍）は、1942年10月31日作戦主任者会同で「各隊に通報すべき事項」として「俘虜の取扱に就て 雑兵は現地に於て処分して可なるも後害を残さざる様注意し俘虜は軍迄送致するを要す」*10と記しており、捕虜をその場で殺害することを容認していたことが分かる。
実際、渡集団の第16師団歩兵第9連隊第１中隊陣中日誌1942年11月2日の項には「敵の俘虜五名刺殺処分す」*11とある。
また1942年12月25日付の渡集団（第14軍）参謀部「匪首捕獲の参考」は「本資料は奈良兵団（第65旅団）に於て匪首捕獲に方り採用せし参考資料なり 参考の為印刷配布す」*12という性格ではあるが、「土民等にして頑強に否認し敵意を示す場合等は衆の面前に於て断呼処分し威力を示すを適当とすることあり」*13「最近兵匪は軍の寛大なる処置に狎れ我が武威を軽視しあるの形跡あり故に抗戦せし俘虜、抗戦後投降せし兵匪は徹底的に情報を獲得したる後一刀両断すべし」「兵匪たりや良民たりや判然し得ざる者は断乎処断するを優れりとす但し通訳少き実情に於て所謂処断には言語不通に依る過誤なき様注意を要す」「土民頑冥にして敵意を示す場合は其の有力者等断乎処断し我に協力するに非ざれば□存し得ざることを感ぜしめたる後…」*14と、非常に厳しい表現を並べているが、一刀両断はもちろんだが「断呼処分・断呼処断」も殺害を意味するのは明らかだろう。
こうした方針を疑問視する声も無かったわけではなく、フィリピン憲兵隊長長濱彰は1942年11月15日付「ビサヤ地方憲兵服務指示」*15において、「殺より利用」の項で「戦闘に於て敵味方となり殺すか殺さるるかの時は元より問題外なるも戦闘後に於て或いは検挙検索等に於て得たる抗日分子を軍律会議にかけることなくむやみに厳重処分するが如き、衆人環視の中で斬首してさらすが如き、 又はMG（引用者註：ＭＧ＝Machine Ｇun 機関銃）で掃射するが如き、拷問にて殺すが如きは最も不可にして将兵は勢いの赴く処時に斯る暴挙に出づることなしとせざるが斯様の態様にて一人の比島人を殺害する時は却って十人の抗日分子を作るものなり」と、軽々しく殺害などしないよう指示している。しかしこれは同時に、そこに列挙された行為がフィリピンで実際に行われていたことを示すものである。
こうした行為は太平洋戦争で始まったのではなく、日中戦争ですでに行われていた。歩兵第9連隊は、中国戦線を経験した部隊である。
実際、渡集団の第16師団歩兵第9連隊第１中隊陣中日誌1942年11月2日の項には「敵の俘虜五名刺殺処分す」*11とある。
また1942年12月25日付の渡集団（第14軍）参謀部「匪首捕獲の参考」は「本資料は奈良兵団（第65旅団）に於て匪首捕獲に方り採用せし参考資料なり 参考の為印刷配布す」*12という性格ではあるが、「土民等にして頑強に否認し敵意を示す場合等は衆の面前に於て断呼処分し威力を示すを適当とすることあり」*13「最近兵匪は軍の寛大なる処置に狎れ我が武威を軽視しあるの形跡あり故に抗戦せし俘虜、抗戦後投降せし兵匪は徹底的に情報を獲得したる後一刀両断すべし」「兵匪たりや良民たりや判然し得ざる者は断乎処断するを優れりとす但し通訳少き実情に於て所謂処断には言語不通に依る過誤なき様注意を要す」「土民頑冥にして敵意を示す場合は其の有力者等断乎処断し我に協力するに非ざれば□存し得ざることを感ぜしめたる後…」*14と、非常に厳しい表現を並べているが、一刀両断はもちろんだが「断呼処分・断呼処断」も殺害を意味するのは明らかだろう。
こうした方針を疑問視する声も無かったわけではなく、フィリピン憲兵隊長長濱彰は1942年11月15日付「ビサヤ地方憲兵服務指示」*15において、「殺より利用」の項で「戦闘に於て敵味方となり殺すか殺さるるかの時は元より問題外なるも戦闘後に於て或いは検挙検索等に於て得たる抗日分子を軍律会議にかけることなくむやみに厳重処分するが如き、衆人環視の中で斬首してさらすが如き、 又はMG（引用者註：ＭＧ＝Machine Ｇun 機関銃）で掃射するが如き、拷問にて殺すが如きは最も不可にして将兵は勢いの赴く処時に斯る暴挙に出づることなしとせざるが斯様の態様にて一人の比島人を殺害する時は却って十人の抗日分子を作るものなり」と、軽々しく殺害などしないよう指示している。しかしこれは同時に、そこに列挙された行為がフィリピンで実際に行われていたことを示すものである。
こうした行為は太平洋戦争で始まったのではなく、日中戦争ですでに行われていた。歩兵第9連隊は、中国戦線を経験した部隊である。
毒ガス等の使用
第一復員局「緬甸作戦記録」の「付表第四 第十五軍主要射耗弾一覧表」*16によると「中北部緬甸作戦」（「付表第１ 第１５軍綜合戦果一覧表」*17では1942年3月11日から6月10日とする）において「ちび」11発を使用している。
毒ガス使用は太平洋戦争で始まったのではなく、日中戦争ですでに行われていた。「中北部緬甸作戦」に参加した部隊*18のうち第18師団・第33師団は中国戦線を経験していた。
フィリピンの歩兵第122連隊第１大隊本部の陣中日誌1942年10月16日の項には、ゲリラ討伐作戦で「青酸」を「部落内の流水に投じたるも効果少きものゝ如し」*19とある。
毒ガス使用は太平洋戦争で始まったのではなく、日中戦争ですでに行われていた。「中北部緬甸作戦」に参加した部隊*18のうち第18師団・第33師団は中国戦線を経験していた。
フィリピンの歩兵第122連隊第１大隊本部の陣中日誌1942年10月16日の項には、ゲリラ討伐作戦で「青酸」を「部落内の流水に投じたるも効果少きものゝ如し」*19とある。
| 歩兵第122連隊第１大隊本部陣中日誌1942年10月分より抜粋 | |
| 10月6日 | 約一週間の予定を以てダグリカンーマヨヤオ付近一帯を徹底的に討伐掃蕩すべし 家屋は全部焼却するを要す |
| 10月7日 | マヨヤオ付近の住民は武力のみにて殲滅は困難なるべきを以て左の如き謀略手段を併用し徹底的報復を実施せられ度 |
| 10月8日 | 救護班を以て青酸の使用等謀略を講ずる計画なり*20 |
| 10月16日 | 青酸は一部マヨヤオ部落内の流水に投じたるも効果少きものゝ如し*21 |
日本軍自身の指摘する問題点や実態
戦艦大和の水上特攻について
大和沈没後の戦闘詳報*22には次のような指摘が記されている。
- 徒に特攻隊の美名を冠して強引なる突入戦を行ふは失ふ処大にして得る処甚だ少し。
- 整備不十分なりしのみならず訓練も殆ど実施することなく出撃するの已むなきに至れり。…駆逐艦砲術長にして射撃を実施せざる者数名ありし情況なり。
- 突入戦は実施せられざる方針なる処突然之が実施を下令せられたる為燃料搭載出撃準備警戒要領等に関し電報量を激増し我が企図を察知せられたりと認めらるる点多し。 …極力成算ある作戦を実施する要あり。思ひ付的作戦或は政略的作戦に堕し貴重なる作戦部隊を犬死せしめざること特に肝要なり。
航空特攻隊について
戦後作成された「芙蓉部隊天号作戦々史」*23では「特攻を口にし乍ら果して司令部及び各隊幹部自らの戦争感は如何に、あれ程の若人を殺し乍ら終戦となり終戦処理も考へずに家庭に逃げ帰りし事実は…」と述べる。
インパール作戦について
1944年ミャンマーのインパール作戦で撤退を決断した佐藤幸徳第31師団長は「コヒマ攻略以来兵団長の最も憂慮せしは後方よりする補給にして…現地自活は五月末以後不可能の状態に陥れり…何等補給を受くることを得ず軍司令部に於ては弾薬、糧秣、軍靴、衛生材料等発送を命じたりとの電報を受けしも殆ど実行せられある形跡を認めざるのみならず其の誠意さへ疑はざるを得ざる状況なり…当時砲弾は皆無の状態にして敵は一日五千乃至一万発を発射するに反し我が軍山砲は已むを得ざる場合のみ僅かに数発を射撃し得るに過ぎず」*24と補給について厳しく批判する。
「輜重輸卒（しちょうゆそつ）が兵隊ならば蝶々トンボも鳥のうち」と補給を馬鹿にするような言葉が戦前言われたが、戦後1946年4月に作成された「大東亜戦史資料（後方関係）」では「後方勤務を蔑視する国軍伝統の誤られたる武士的精神…国軍輜重の編成装備は近代用として必須の要素を欠きたる処少からざるを以て、将来国軍の再建に方り深く考慮すべき事項なり。」*25と記している。
「輜重輸卒（しちょうゆそつ）が兵隊ならば蝶々トンボも鳥のうち」と補給を馬鹿にするような言葉が戦前言われたが、戦後1946年4月に作成された「大東亜戦史資料（後方関係）」では「後方勤務を蔑視する国軍伝統の誤られたる武士的精神…国軍輜重の編成装備は近代用として必須の要素を欠きたる処少からざるを以て、将来国軍の再建に方り深く考慮すべき事項なり。」*25と記している。
ソ連軍満州侵攻で民間人を置いて逃げた関東軍
元参謀は「（住民らを置き去りにして関東軍や軍家族は先に逃げた、といった）批判は甘んじて受ける。ただ、軍人は命令に従うしかない」*26と述べている。
民間人証言
- 終戦直前になって関東軍司令部から市民に対して三日間の禁足命令が出されたのだが気がついたら軍のどの兵舎も官舎の家族も既にもぬけのからで…あとの頼りは少数の警察官と僅かな自警団くらいで（チチハル）*27
- 開拓地は琿春街から豆満江の支流の琿春河を渡って、ソ連国境へはわずかに十二キロの地点にあった……琿春橋が黒煙を上げていたのだ。関東軍は私たちを置き去りにして、渡り終えた橋を向こう側から爆破して退却した。信じられない黒煙である。（和良村分村開拓団）*28
- 私どもが住んでいる吉林が戦場になるのは、もう時間の問題であった。…威容を誇っていた関東軍なのに、司令部は空っぽだし、兵隊の姿も見えなかった。十三日、市と警察と協和会の指導者たちが会談した結果、軍が頼りにならない以上、吉林を脱出して樺甸の山中で越冬するしかないと決まった。（吉林）*29
- 近所の方々の話ではＢ29爆撃機の空襲らしいと言われて…後で分かったことはソ連の参戦とのことで…そのころ、近くの緑園住宅の関東軍宿舎から毎日のようにトラックが新京駅に向かっているとの話で持ち切りになっていました（新京）*30
- 汽車に乗るのも関東軍、満鉄、官庁、一般の家族と順番が決められ、駅周辺は順番待ちの疎開者で大混乱でした。（新京）*31
- 新京駅は関東軍関係の家族達を最優先として疎開で大混乱をていしていた（新京）*32
関東軍参謀らの証言
〇関東軍参謀高杉恭自少佐
関東軍参謀（第一課作戦班）*33高杉恭自少佐は次のように記している。*34
〇筆者不明の「作戦経過概要」
筆者不明の「作戦経過概要」*36は関東軍参謀（航空）中佐有沼源一郎が書いた可能性があるが*37、そこでは関東軍総司令部がソ連参戦後早々に通化に移転した理由について、移動自体は「既定計画」でありそれが早かったのは「敵軍作戦速度予想以上に迅速なりし為」だとし、さらに細かく2つに分けて第三方面軍司令官と関東軍参謀部第二課が原因だと説明している。また軍の家族が先に逃げたことについても説明を加えている。
〇第137師団参謀長三原七郎陸軍大佐
第137師団参謀長三原七郎陸軍大佐は、以下の通り「機密保持」などの理由で邦人引揚が遅れたと述べている。
〇第135師団参謀長井上敏助大佐
第135師団参謀長*40だった井上敏助大佐は「軍人家族は八月九日朝より先づ東安付近の家族より列車にて敦化方面に逐次後退せしめたり」*41と記しており、ソ連侵攻当日の朝には早くも軍の家族が避難を始めたことがわかる。
〇第１方面軍参謀松本博大佐
第１方面軍参謀だった松本博大佐*42は次のように述べている。
〇第148師団参謀中佐丸岡茂雄
復員局資料整理部「第百四十八師団作戦記録」（1948年8月20日）は「第百四十八師団参謀中佐丸岡茂雄記述せるもの」だが、「開戦後在満邦人百数十万を犠牲にして総軍司令部の通化転進は日本戦史上一大汚点なり」と記している。*44
関東軍参謀（第一課作戦班）*33高杉恭自少佐は次のように記している。*34
満洲国を事実上放棄といふ新作戦計画の内容である、作戦班はいとも簡単に（私自身満洲国及日本居留民はどうしたらよいかと不安だったが、処置ないので黙っていた、）書いたが、満洲国をヒックリカヘスといふ放れ業は今迄の様な幕僚仕事ではなく、最大の政治であった、然るにこの方面の政治的指導は殆ど何もなかった様である 少くも結果的に見て開戦迄何も動いていず、あるのは関東軍の後退といふ漠然たる不安だけだった…今でも当時のあの情勢の中で新作戦計画が正しかったかどうかといふことに疑問を持っている、即ち満洲に於て歴史的因縁を持ち百万の日本人を抱え強制的に国境近くに移民した軍として、之を見棄る如き計画を立案したことが正しいかどうかといふ問題である、
第一方面軍は開拓団の処置に苦慮し、屡々之を後方地区へ移動せしめると意見具申して来た、然し全般企図の秘匿の為終始之は禁止された。…「作戦班としては当時としては出来るだけの手を打ってきた、唯もう一つ“開戦近し”と示していたら満点だった」とは終戦后哈府収容所に於て草地大佐が私に話した言である（十月頃だった）
（略）
九日午前、在新京日本人を通化地区へ（後平壌に変更）避難すべく、先づ大鉄（※大陸鉄道隊のこと）をして約十本の貨物列車を準備せしめ、そして満州国へ示したが実行不可能として断られ、それではといふので先づ軍家族から輸送を開始した、
午后一時頃から軍家族は手荷物一つで続々忠霊塔広場に集り、異状な状況を呈した、
本問題は在満日本人から強く批難□れた問題であるが実状は右の通りであった
（略）
佳木斯の134D（※第134師団のこと）は計画に基き直ちに方正（※佳木斯の南西）へと移動を開始し、作計にうたった空室清野の方式に則り佳木斯市街は放火した（但し実際は日本の家のみであった）
（略）
（第3方面軍の）後宮大将は…連京線沿線の日本人を見殺しには出来ないこと及山中に入っても自活できないから軍は宛〔ﾏﾏ〕まで日本人を守り総力を以て連京線地区で両方よりの敵と決戦するといふのである、…草地参謀は、今３HA（※第３方面軍のこと）が過早なる決戦をやっては全軍の作戦構想は根底から崩れるので数回に亘り電話で同大将と激論し、在留邦人は今涙を呑んで見棄るべきを声涙共に下る状況で説いたがどうしても同大将の決心を変へさせることは出来なかった（※引用者注：ただし後宮はその後考えを変えて「涙を呑んで総軍の意図に従ふ」と述べた）*35
〇筆者不明の「作戦経過概要」
筆者不明の「作戦経過概要」*36は関東軍参謀（航空）中佐有沼源一郎が書いた可能性があるが*37、そこでは関東軍総司令部がソ連参戦後早々に通化に移転した理由について、移動自体は「既定計画」でありそれが早かったのは「敵軍作戦速度予想以上に迅速なりし為」だとし、さらに細かく2つに分けて第三方面軍司令官と関東軍参謀部第二課が原因だと説明している。また軍の家族が先に逃げたことについても説明を加えている。
総司令部の移動を促進せし理由は二なり
其の一は第三方面軍司令官が規定計画を変更して連京線会戦を指導せんとせし為新京は直に第一線の戦場となる惧れありし為なり
其の二は西正面の敵機甲部隊突進速度以外に大なりし為第二課が戦況判断を誤りたるが為なり即ち…
（略）
兎も角、右二項の理由により総司令部の通化移動は過早に発起せらるゝことゝなり…邦人間に『関東軍は戦況非なりと見るや我等を見捨てゝ待避せり」との悪質デマを生起せしむる結果となりたり
新京の将校家族を最先頭に疎開せしむるに至りたる経緯
（略）
満州国側と其（※邦人避難の）順序方法に関し協議せり 其の結果第一列車は新京を当日（※8月10日）夕刻頃出発する如く準備しあるも満洲国政府側又は国策会社等より優先に疎開を希望するものなかりし為已むを得ず将校家族を二三時間以内に急遽準備せしめ全く着のみ着の儘にて疎開せしむることゝなりたり*38
〇第137師団参謀長三原七郎陸軍大佐
第137師団参謀長三原七郎陸軍大佐は、以下の通り「機密保持」などの理由で邦人引揚が遅れたと述べている。
此等在留邦人の惨禍に関しては今次敗戦の成行の如き政府及関東軍としては既に早くより予測しありたるべきに拘らず邦人の根本対策に就ては機密保持、不安動揺防止更に多数邦人の後退上の困難等各種事情ありたるべきも国家国軍の敗戦を予測される時期に於ける邦人の引揚保護は最も重大事項にして之が殆んど一として為されることなく惨禍を蒙られしめられたる所に政府及軍が国民の大なる怨嗟に付深く反省ざるべからざるものあるべし（※語句はそのまま）*39
〇第135師団参謀長井上敏助大佐
第135師団参謀長*40だった井上敏助大佐は「軍人家族は八月九日朝より先づ東安付近の家族より列車にて敦化方面に逐次後退せしめたり」*41と記しており、ソ連侵攻当日の朝には早くも軍の家族が避難を始めたことがわかる。
〇第１方面軍参謀松本博大佐
第１方面軍参謀だった松本博大佐*42は次のように述べている。
軍の作戦行動と民心の把握
今次作戦に於て総軍司令部の通化移動、方面軍司令部の敦化移動各兵団部隊の□□（予定？）後方陣地への移動を以て「逸早き軍の逃走」と誹謗せるが如く士気沮喪する民心を鼓舞する為軍として適時所要の説明的声明を発するの要なかりしや*43
〇第148師団参謀中佐丸岡茂雄
復員局資料整理部「第百四十八師団作戦記録」（1948年8月20日）は「第百四十八師団参謀中佐丸岡茂雄記述せるもの」だが、「開戦後在満邦人百数十万を犠牲にして総軍司令部の通化転進は日本戦史上一大汚点なり」と記している。*44
行軍の厳しさ
- 1944年ミャンマーのインパール作戦で撤退を決断した佐藤幸徳第31師団長「軍靴概ね破損し素足の者多きに至れり」*45
- （足のマメが）悪化した者の靴を脱がせて靴下も除き、裸の足にしてみると、皮膚が破れて肉に穴があき奥に骨が覗いているという重症もあった。もう精も根も尽き果てて、携行用の手榴弾で自爆した悲惨な者も出てくる。落伍して部隊より取り残されて独りになると、残敵や便衣隊の餌食になり、身ぐるみはがされて、裸の死体が路上に転がっていると言う結末になる。決して落伍はできない。（1944年現役入隊し中国戦線の湘桂作戦に参加）*46
- ニューブリテン島における転進程悲惨なものはあるまい…大ジャングル、敵機の銃爆撃と、野蛮な現地人の襲撃を受けながら、延べ四百キロ余を、飲まず喰わずで歩いたあの転進行…足の裏がはれて歩行困難となり、加えて栄養失調、悪性マラリア、アメーバー赤痢、熱帯潰瘍、毒草による中毒等々で次第に衰弱し、一度落伍すればもう二度と追い付けませんでした…転進中、数十名の兵が裸で土人部落にいる。理由を尋ねると「到底帰れそうもないので土人になるつもりだ、酋長も親切だし」と言う。*47
トイレの時間が無い
歩きながら眠る
中国戦線では行軍しながら眠る話がよく出てくる。
- 昭和十七年五月作戦開始。…ちょうど中支では雨季に入り雨の降らぬ日は五十日間のうち僅か九日間でした。したがって道路は水没し、一歩誤れば水死の危険がつきまとっていました。とくに夜間行軍の連続では歩きながら眠る訳ですから、うっかりすると道だと思って水たまりの中へ入り込んで、転んだら最後、誰も助けてくれません。「○○はいないか、どうした」という者もいないのです。疲労困憊の極みになると自分を守るだけで精いっぱいなのです。*51（※装備が数十ｋｇあり水中から起き上がるのが難しい）
- 昼は行軍、戦闘、夜は平均二〜三時間しか眠れない。…行軍中、行進が止まると、決まって前の馬の尻に頭をぶっつけて止まる。一歩、一歩足を運んでいる感覚はなくて、無意識に機械的に足を動かしているのですよ。…行軍中に敵と出くわさないか、なと期待する。戦闘が始まれば伏せられるからです。…一寸した時間でも腰を下ろして眠り、歩きながらも眠れるようになる。禁じられてはいるが、みな馬の尾をつかんで行軍するようになりました。（1943年常徳作戦）*52
- 夜行軍となりますと日中の作戦で疲れも早く、眠くなると将校が乗っている馬の尻尾に手をまいて歩く。これは楽なもので、歩くにも半分の力しかいりません。眠りながらも馬の尻尾から手をはなさない限り、真っすぐに歩けます。(1944年山西省）*53
- 連日連夜（一週間以上睡眠をとらないと）行軍中眠っているのか、眼を開いているのか解らないことが多い。そんな時目前の人が止まっていたりしても後から行って必ず前の人の鉄帽にドカン?「この野郎。眠っていたな」「いや眠っていません」。*54
寝入ったら置いて行かれる、誰も起こしてくれない
- 昼はアメリカの空襲に遇うから藪の中で寝て、夜になって行軍する訳です。昼間はそう眠れず夜行軍で小休止がかかるとその場に眠り込み、目がさめたら部隊がおらず、置き去りにされたりしました。（フィリピン）*55
- 夜行軍で怖いのは小休止に居眠りをして、目が覚めると誰も居ず自分一人が取りされている、ということで、私も一度ありました。幸いにも先へ行った本隊から一分隊が探しにきてくれ助かったのです。（1943年入営し中国戦線）*56
- 失敗談を一つ。討伐に出て大休止。夜間、眠り込んで取り残された。…話によると数時間も経た後、戦友が気付いて後戻りして探すと、無惨にも丸裸にされた死体が転がっていたとか。その例も少なくない由。（1944年5月頃、中国戦線）*57
装備は40ｋｇ超
- 食糧三週間分、米一斗二升、粉ミソ、粉醤油、肌着等、特に戦闘に必要な小銃弾百二十発、手榴弾四発、十字鍬（※つるはしのこと）、円匙（※シャベルのこと）、鉄帽、防毒面を持つと優に四十キロを越える装備での行軍は言語に絶するものである。牛馬も力つき次々に倒れ、将兵の中にも体力消耗激しく落伍者も続出、なかにはその苦痛に耐えかね自殺者も出る始末、アラカンの山系を踏破すること約三週間余、チンドイン河より三百五十キロを超えたインド・アッサム平原に到着したのは四月上旬であった。*58
- 中国戦線の第27師団「衛生業務要報」では1944年4月の状況として「兵員の著しき過重装備の状況にありて兵個人の負担量総計約四十五瓩（キログラム）に及びあり。小官の記憶にして誤りなければ当時の兵員平均体重は五二瓩余なりしなり。」*59
- 1943年徴兵検査を受け翌年１月に大阪で入営した兵士は1944年湘桂作戦について「完全武装（銃・弾薬・食料・被服・その他）で重さ四〇キロを持ったり背負い、毎日四十キロを歩く。行軍する者にとっては『早く戦闘が始まれば、一時でも休めるのに』と心に思いながらの辛い行軍の毎日でした」と回想する。*60
- 印度洋のアンダマン島（ベンガル湾の南の列島）に転戦しました。…完全武装で我々を迎えに来た舟艇に乗り込む時、誤って吊り梯子から海中に転落した上等兵がいました。「アッ」と叫んだがどうすることもできません。本人も完全武装だったので浮き上がることなど到底できるわけがありません。…妻子のいたことを思うと、本当に気の毒なことだったと未だに脳裏に焼き付いています。*61
何でも人力
- 山砲は分解して馬で搬送しますが、山に入ると人力搬送に切り替えます。砲身だけで二〇〇キロもあり、二人で担ぐのですが中々大変です。ビルマは竹が多いので、竹を割って砲身を包み、馬で曳いたこともあります。*62
- 次に苦しんだのは、砲身（一一二キロ）の搬送でした。…二人一組で砲身を担いで行く訓練をよく行いました。…野戦では特に山の上まで砲を上げるのに、馬は山の上まで登れないので、途中で馬から人に替わり、分解搬送する。今思うと、よう頑張ったものと我ながら感心しています。*63
- 私は重機関銃の射手であるから、トウマ撤退までは銃身を一人で担いで行軍した。勿論駄載する馬はいない。一人が脚を、他の弾薬手は弾薬箱を担いで歩く。銃身の重さは二八キロであるから、他の装具や食糧水筒などを入れると五〇キロを超す。食糧も乏しく、しかもマラリアの四〇度以上の発熱での行軍は身を削る思いだ。（ミャンマー）*64
海上の厳しさ
魚雷で船が沈むのをボカチンと言っていた。特に台湾・フィリピン間のバシー海峡で米潜水艦に待ち伏せされ多くの輸送船が沈み、多くの兵士や民間人、武器物資類が海に消えた。
- 昭和二十年一月十二日、輸送船神祗（しんぎ）丸が仏領印度支那のサイゴン（現、ベトナムのホーチミン市）からシンガポールヘ向かう途中…まだ多数の兵隊が波間に漂い必死に助けを求めている。だが船は見捨てて行く。再度の敵襲が必至なので時間がないのだという。*65
- 艦内生活で一番不自由なのが飲み水です。からになった通路にある食器洗い用のタンクの水を一滴、二滴とのどをうるわしたこともあります…駆逐艦の「白雪」が救助に来てくれていました。…なにしろ敵前のことで夜が明けると敵機にやられるので、残念ですが一人残らず救助することが出来なかったようです。駆逐艦のカッターをおろし水だると乾パンを積み、運悪く救助が出来なかった人のためにはなされました。（1942年重巡古鷹が沈没し救助された）*66
- 口にマスクした患者六名が車で来た。実は船が沈んで四時間浮いていたところを助けられたのだが、船から流れ出た重油の火災で首から先が火傷でやられ、耳が焼かれて無くなった人や眉や鼻がただれている人ばかりだった。（1942年入営し衛生兵としてサイゴンの病院で勤務）*67
- 「筏を投げよ」と救助用に積んであった広さ畳四帖半の大きさの竹で組んだ筏が海へ投げ込まれたが、運の悪い兵隊は、その下敷きになり、再び浮上しませんでした。「総員退去！」が号令された時は、ほとんどの者が海中にいました。将校は救命ボートに乗り、救いを求めてボートに近寄る兵隊を軍刀で追い払っていました。*68
- 魚雷の当った船倉からは兵隊たちの「助けてくれ！助けてくれ！」の絶叫が聞こえましたが手の下しようがありませんでした。…それから後に戦友会での話しですが、海に飛び込んだ兵の中には火傷を負った者がたくさんいて、ボートに乗せてくれと頼んだそうですが、乗っていたのは将校ばかりで、軍刀を振り回してボートに乗ることを拒絶したため、怒った兵隊達がボートを引っくり返したそうです。*69
- 私の乗った船の後の船が魚雷攻撃を受けて沈没。船が沈む前に海に飛び込むが、スクリューが回っているため、船から遠くに離れる前に吸い込まれて血しぶきが立ち上り、見るも悲惨であった。*70
- 昭和二十年二月十二日に運命の出航…台湾海峡を渡って基隆に入港したのは門司出航一週間目の深夜だった。…食器代わりの飯盒は一度も洗った事はなく、船が南下するにつれて蒸れて臭くなった飯盒に、また次の食事時に盛って手渡しで送り込んで食べたので、全員アメーバ赤痢に罹り下痢に悩まされた。下痢の体で便所への出入りがまた大変で…便所は船の外、波の上に梯子（はしご）を突き出した形の危険なもので、うねりで船が傾くと振り落されないよう両手でしがみつかねばならず*71
- 一人の兵士が飛行甲板に座っている。「早く飛び込まないと艦が沈むぞ」「泳げません、艦に残ります」（瑞鶴沈没時）*72
沈没時は人間より天皇写真の退避が先
- 空母赤城沈没時（1942年6月6日ミッドウェー海戦）の戦闘詳報*73
- 重巡加古沈没時(1942年8月10日）の戦闘詳報*74
- 空母雲鷹沈没時（1944年9月17日）の戦闘詳報*75
〇〇三五 艦首約一〇度左転の情況に於て舵取機室下部右舷に被雷し一〜二秒後主機械室右舷に第二魚雷命中す
(略）
〇七四五 …御写真をカッターに移す
〇七四八 「総員上れ」を令す
〇七五二 軍艦旗降下総員退去を始む
〇七五五 沈没す
空母瑞鳳沈没時（1944年10月25日レイテ沖海戦）の戦闘詳報*76
一三一〇 敵降爆（※急降下爆撃機のこと）四十機中約半数及雷撃機約二十機四周より来襲
一三一七 羅針艦橋前端直下に魚雷一命中
一三一八 後部昇降機に六番爆弾一発命中
（略）
一四四九 御写真を艦橋に奉迎す
一四五六 重要書類を全部処理す
一四五九 御写真をカッター（原文は舟偏に「力」）に御移しす
一五〇〇 傾斜右二十三度となる
一五一〇 軍艦旗を撤す 総員退去を令す
一五二六 艦影を没す
食事
食糧不足
- 「自昭和二十年一月至終戦 振武集団（※フィリピンにいた第41軍のこと）作戦の概要案」の「衛生状況」の項では「病死者（主として栄養失調に基因す）は戦死者の数倍にして七月以降に於て損耗の大部は栄養失調患者なり」とする。*77
- 1944年ミャンマーのインパール作戦で撤退を決断した佐藤幸徳第31師団長「独歩患者（※一人で歩ける患者のこと）の外健康者も長期間に亙る栄養失調熱発下痢脚気等の為続々落伍し又担送患者中死亡者漸く増加す」*78
- ボルネオの第37軍「停戦前奥地部隊特にサポン、テノム、ボーホード付近部隊の如きは日量精米一〇〇瓦（グラム）他に補足すべき第二主食其の他を合しても平均四〇〇瓦に満たず兵員の大半は栄養失調の状態にありき」*79
- 戦後1950年に作成された中国・湘桂作戦（1944年）についての文書には「戦争栄養失調患者の多発」「後方よりの補給は少量の食塩のみで為に独歩患者は自ら夕食後稲刈り」「軍医の如きは雑炊すら採る事が出来ず未熟のミカンで露命をつないだ」とある。*80
個々の兵士の証言
- 衡陽の戦闘は…蛙、おたまじやくし、糸みみず、蛇などを捕り、草花などと一緒に炊いて食べる…敵兵も長期間の籠城で、食糧は欠乏状態とみえ、夜間になると敵、味方入り乱れての稲刈りが始まったのですが、不思議とその間は、銃声が止んでいました。（1944年中国戦線の湘桂作戦で）*81
- マッチも塩も何も無くなり、食べるものはすべて、生そのものです。デンデン虫からヘビ、オタマジャクシ、蛙、やわらかそうな草、または根、茎などです。（フィリピン）*82
- 南鳥島に上陸しました…内地よりの補給は時々潜水艦が来て接岸すると危険なので、ゴム袋にいれた干飯を風上より流し、拾い集めて配給されました。半分も手に入れれば良い方です。…私も現役当時は五十キロありましたが四十キロ位に低下していました（筆者は徴兵を一度終えて召集で二度目の兵役）。…食糧を補うため自分の壕の回りに内地から持ってきたカボチャ・トマト等を植えたのですが、折角実がついても熟れない内に他の隊の者に持って行かれ*83
初年兵は古兵の残飯あさり
- 初年兵には空腹はつきもの。いつもごろごろと雷のように腹が鳴る。飯上缶を洗いに行くのも役得の一つ。古兵が残す残飯が目当てである。洗い場まで行く間にきれいになっている。パンの耳なんかは食べ残ったらポケットの中へ遮二無二押し込んで持ち帰り、便所へ入って食ってしまうという案配である。ある時、炊事場裏の箱の中に残飯が盛り上がっているのを見つけ、手づかみでやっているところを週番兵に見つかり、強かにビンタを取られた。曰く「皇軍の体面を汚す」と。空腹に耐えるのも訓練の一つである。（1943年入営）*84
- 昭和十九年七月二十日頃やっぱり令状が届きました。…海軍水兵として舞鶴海兵団へ入団で…暑い日が続くので、水と食い物には飢餓のようでした。…上司の分は沢山盛りつけなくてはなりません。少ないときは「今日の当番は誰だ」と怒鳴られるので、皆食事当番になったら上司の分を多く盛り、自分の分は少なくなるのですが仕方がありません。寝ても覚めても「食いたい、食いたい」の一念でした。そのためか誰も彼もがだんだんと身体が弱ってしまい、ある者は残飯の中の物を拾って食べていたと聞きました。[440]
- 入営は昭和十九年十一月十日…一期の検閲までの三カ月間は例の通り昼夜を問わぬ猛訓練の連続でした。初年兵の腹は乞食腹といっていくら食べても食べるそばから腹が空いて、残飯を漁り、見つかってビンタを頂戴するパターンはどこでも同様でした。*85
- 昭和十七（一九四二）年十二月一日、入隊するよう役場より通知が届き…起床から消灯まで軍人勅諭、戦陣訓、歩兵操典の教育、それに教練、飯上げ、洗濯など班内の業務に走りながらの行動です。腹が空き古兵の残飯で助かりました。*86
- 一片の赤紙にて昭和十七年四月一日鳥取中部四十七部隊に入隊…本日より大日本帝国軍人として張り切る。朝の起床ラッパで始まり、九時の消灯ラッパまで初年兵は忙しい。軍人勅諭、戦陣訓、歩兵操典、教練、飯上げ、洗濯と目が廻る。走り行動で気合が入る。よく腹が空き、古兵の残飯を手づかみで食すことなどがあった。*87
戦地で農業
- 中国山西省に駐屯した第37師団司令部（冬第3540部隊）は1943年2月「中隊農場経営法」という手引きを作成しており、「中隊所要の野菜類は其の警備地区内に於て極力自給を本旨とし現地調弁と自隊生産とに依り自活の途を構ずるものとす」とある。*88
- 満州にいた部隊の陣中日誌1943年5月12日の項には「現地自活農場整理 二十日大根播種を実施し」とある。*89
| 阿部隊陣中日誌 1943年5月分より抜粋 | |
| 5月11日 | 八時三〇分より〇〇軍曹以下一〇名現地自活農場整理を実施し一二時終了す 一三時三〇分より〇〇軍曹以下八名午前と同様現地自活農場整理を実施し一七時終了す |
| 5月12日 | 八時三〇分より〇〇軍曹以下二〇名現地自活農場整理 二十日大根播種を実施し一二時終了す*90 |
| 5月13日 | 本日は休日に付一般に休養をなす*91 |
| 5月14日 | 一三時三〇分より〇〇軍曹以下一〇名自活農場整理を実施し一七時終了す*92 |
- 南洋の「アル諸島」にいた第109野戦飛行場設定隊も精力的に農作業を行っている。*93
（1944年）十一月四日
一、部隊は引続き現地自活のため総出農園作業に従事す
１、〇〇伍長以下一〇名（軍夫五）第一農園の主食代用タピオカ内の除草及諸手入作業に従事せしむ
２、××軍曹以下一三名（軍夫八）第二農園蔬菜類内の除草及緑豆の害虫駆除作業に従事せしむ
３、△△中尉以下四四名（軍夫三五）第五農園開墾作業に従事せしむ
- フィリピンの歩兵第33連隊第1大隊（鎌田隊）は1944年9月30日付報告[460]で以下の収穫・漁獲を記している。
| 歩兵第33連隊第1大隊1944年9月30日付報告より「自活農場の作付」 | |||
| 品種 | 作付反数 | 成果 | 給養総量に対する割合 |
| 甘藷 | ４町歩 | 約4,000kg | 8分の1 |
| タリヌム | 同 | 約2,000kg | 15分の1 |
| 玉蜀黍 | ２町歩 | 約500kg | 12分の1 |
| カモテ、カホイ | 同 | 未収穫 | |
| 同報告より「直営漁場の漁獲」 | ||
| 品種 | 漁獲高 | 給養総量に対する割合 |
| 各種魚類 | 約1,000kg | 9分の2 |
徴発
軍が現地で物資を調達することを「徴発」と言ったが、特に食糧の場合は対価が支払われないただの強奪、盗みであるか、あるいは価値の無い軍票と無理やり交換することが多かった。
- 戦闘中はいつも食糧は無く現地徴発で賄っていたので、その時も下っ端の我々が菜方、飯方に分かれ近くの農家へ入る。どの農家も数日前から安全地帯へ逃げ去っていた。我々はすぐ米を手に入れ、留守宅の炊事場を借用炊飯を始めた。（1945年中国戦線）*94
- 分隊長は食糧の徴発のため、手分けして出掛けました。二キロほど歩いて農具小屋のある畑にたどり着くと、保存して有る籾を分隊長が見付け、歓声を上げて皆で携帯天幕に包んで意気揚々と分隊の家に帰りました。（1945年フィリピン）*95
- 土民がこれはただの紙くずだといっている軍票を無理やりに押しつけて、米やらトウモロコシ、芋などを徴発してきたが、少量なのでいつも空腹での突貫工の壕掘りは苦しかった。（フィリピン）*96
食料目当ての同士討ち
- 砲撃の途切れた夕刻、喜屋武岬に引き返した。海岸に出て水汲み場で水を求め、今日はお米がないのでサツマイモの茎を塩水で茹でて灰汁を抜き、カタツムリ等を食べた。粗食が効果あったのか血尿は止まっていた。先月ここで、水・食糧を狙って日本兵同士が銃で撃ち合うシーンもあったが、人間極限の状態に追い込まれると、一人ではできなくとも集団になると何をやらかすかわからないなぁと感じた。（沖縄戦）*103
- 海軍が駆逐艦で米を入れたドラム缶を流すようになったが…米を手に入れた部隊に、食料を持たないほかの部隊が夜襲をかけるようになった。すれ違う兵士の一団から「これから〇〇部隊に夜襲に行ってくる」というのが頻繁に聞こえるようになる。（ガダルカナル）*104
- 次第に食糧目当てに日本軍同士、日本兵同士で襲いあうようになった。こういう事は一度自分たちもそういう目に合うとやる事を覚える。（フィリピン）*105
軍幹部の贅沢
国民や下級兵士に耐乏生活を強いる一方で、軍幹部は贅沢をした。
| 東京師管区司令部「国防思想普及費」使途の例 （1944年5月）*106 | ||
| 支払月日 | 金額 | 使用区分 |
| 5月10日 | 62円08銭 | 師団長殿御転属に伴ふ炊事接待 |
| 661円63銭 | 東京都長官以下招宴費 | |
| 294円60銭 | 東６招宴費 | |
| 12円75銭 | 靖国神社宣伝打合会昼食費 | |
| 5月15日 | 27円81銭 | 板橋兵器倉庫招宴費 |
| 5月18日 | 316円83銭 | 軍楽隊招宴費 |
| 5月20日 | 54円60銭 | 贈答用ブドー酒代 |
| 5月27日 | 390円00銭 | 近衛師団幕僚招宴 |
| 大本営陸軍部戦争指導班「機密戦争日誌」1945年7月の抜粋*107*108 | |
| 7月3日 | 柴田総務課長東海軍参謀長転出送別会 |
| 7月4日 | 夜大東亜次官杉原総務局長と神田龍名館に於て会食 |
| 7月12日 | 地区司令部配属将校の送別会を行ふ 大東亜政務一課長以下と会食あり |
| 7月16日 | 夜外務省政務局長の招宴あり闇料理とて無理すること大なり 陸海軍軍務課の懇談会を船橋三田浜にて行ふ |
| 7月18日 | 夜政務次官の招宴あり戦備軍事課長とともに会食す 内務省保安課長の招宴にて竹下、椎崎、畑中出席す |
| 7月19日 | 此の日国内班と右翼との会食を丸の内ホテルにて行ふ至極円満也 |
| 7月21日 | 杉田大佐朝鮮軍に転出 種村、親泊、村上、四人にて会食 |
| 7月23日 | 夜総長の課長以上招宴あり 一杯気嫌にて上々なり |
人数不足、武器不足
日本は戦争長期化と戦線拡大のため兵力不足が深刻となり、大学生など対象に卒業期繰り上げ*109や学徒出陣を実施し、20歳だった徴兵年齢を1944年には19歳に引き下げ、朝鮮半島でも徴兵制を開始するなどして兵力の確保に努めた。
兵力不足の具体例を挙げると、ビルマの第18師団から参謀本部第11課へ転任した戸梶少佐が記した「北部ビルマの諸問題」[489]（1944年5月）には「（師団の）担任地域の面積は関東平地全域よりも広く」「（師団の）二万の人員中二千人は入院、残り一万八千の中九千が第一線、残りの九千が後方勤務其の他に宛てられてゐた。師団自らあきれる様な実情である。…兎に角師団定員の五割は戦闘に直接参加してゐない。」[490]とある。関東平野が約1万7千㎢なので、２万人師団の半分１万人が戦闘を担当するとして一人当たり１.７㎢（甲子園球場のグラウンド部分12〜3個分）を守備することになる。そしてその戦闘員１万人にも負傷者や栄養失調者、マラリア・赤痢などの感染者（だが入院していない者）が多数含まれるわけである。さらに飛行機も自動車も無く、馬も大抵は無く、食料・弾薬も常に不足している。そこに航空機、戦車、自動小銃など装備して補給も豊富な連合軍がやってくる。
兵力不足の具体例を挙げると、ビルマの第18師団から参謀本部第11課へ転任した戸梶少佐が記した「北部ビルマの諸問題」[489]（1944年5月）には「（師団の）担任地域の面積は関東平地全域よりも広く」「（師団の）二万の人員中二千人は入院、残り一万八千の中九千が第一線、残りの九千が後方勤務其の他に宛てられてゐた。師団自らあきれる様な実情である。…兎に角師団定員の五割は戦闘に直接参加してゐない。」[490]とある。関東平野が約1万7千㎢なので、２万人師団の半分１万人が戦闘を担当するとして一人当たり１.７㎢（甲子園球場のグラウンド部分12〜3個分）を守備することになる。そしてその戦闘員１万人にも負傷者や栄養失調者、マラリア・赤痢などの感染者（だが入院していない者）が多数含まれるわけである。さらに飛行機も自動車も無く、馬も大抵は無く、食料・弾薬も常に不足している。そこに航空機、戦車、自動小銃など装備して補給も豊富な連合軍がやってくる。
- 1943年の第27師団（この年北支から満州に移駐）衛生業務要報には「十月 補充兵（国民兵の再徴集者）約二千名到着其の過半数が結核性疾患の既往あり其の年齢と共に体力の劣弱に喫驚す」*110とある。
- 北支にいた元兵士は1944年頃の回想で「内地から来た補充兵の様子を見て一抹の不安があった。補充兵の中には三十歳を超えている者も多く、その年寄り染みて見えること、また体格も貧弱で、騎兵時代に入隊した我々に比べると子供のようで、着剣して直立不動の姿勢をとると頭より剣尖の方が上に出る」と述べる。*111
- 常徳、衡陽、芷江作戦を戦った元兵士は「（1944年の）衡陽陥落後、補充隊が到着したが三十四、五歳から四十歳ぐらいの第二国民兵の老兵で…この戦争の前途が心配になった」と述べている*112。
- 先任兵から渡された鉄帽、銃、帯剣を見て吃驚、何とオランダ軍のものです。（1944年末ジャワ島）*113
- 「有力な機動部隊及び多数の輸送船団が…地上戦闘員は、出来るだけ所有の武器を持って、銃のない者は個人の刀でも、またそれがない者は竹槍を持って、〇三〇〇に現在地に集合のこと。(1945年霞ケ浦航空基地）*114
- 当時兵器は南方戦線に全部持ち出されていたため不足していました。兵隊も三八式歩兵銃や新式の九九式単小銃は二人で一銃という状態でした。（1945年満州）*115
- 昭和十九年七月二十五日、召集で久留米連隊に入隊…重機一銃に対し弾薬二箱、千二百発しか携行させてくれない。終戦までこれだけですから、敵が前にいるのに撃てなかった。実戦でも撃てなかったことは情けなかった。なにしろ千二百発の弾を重機では十分で撃ってしまうからです。（フィリピンで終戦）*116
未教育で戦地、未教育で実戦
- 大東亜戦争中の昭和十九年三月、現役兵として広島西部四部隊に入営しました。…作戦の末期、湘桂作戦に移行、軍の防空部隊として諸部隊の渡河地点、橋梁の通過援護に日夜の別なく行動を続けた。…私たちは入営以来一度も初年兵教育を受けたことなく、いきなり戦線に投入されたのであって、戦陣そのものが初年兵教育であった。この橋梁警備二十日の間私たちの初年兵教育であった。（中国）*117
- 復員局「支那方面作戦記録 第六方面軍の作戦」（1949年8月調製）では「（1944年の）湘桂作戦初期の状況として看過し得ざる重要事項の一は人馬補充の実情なり」と指摘する。この年の後半「補充兵十万余、馬匹四万に近く」が武漢に続々到着、彼らは「其の大部は未教育兵」でありながら、そこから目的地まで「自ら糧秣を収集し自活しつつ行軍せざるべからざる状況」であった。「部隊としての訓練なき是等補充人馬」は右も左もわからぬ異国の戦地のしかも敵制空権下で自活＝徴発しながらの「炎熱長期の夜行軍」を強いられ「損耗極めて大にして馬匹に於て殊に著しく衡陽到著までに其の三分の一を失ひたるもの尠からず」という有様であった*118。
銃の撃ち方を知らない
大本営陸軍部「戦訓特報第二十五号 西部ニューブリテンに於ける月兵団の作戦」*120（1944年6月10日付）では「後方部隊と雖も戦闘訓練は必要なり」の項で「ツルブ方面に在りたる部隊中小銃を持ちたることなしと云ふ兵ありたり此等は全般の志気に影響を及すこと大なるを以て…」とある。また「付録」として「��/53i（※歩兵第53連隊第2大隊のこと）長の体験談」が紹介されている。
大隊（長以下六五〇名）は〇八〇〇、勇躍敵上陸地点に向ひ前進を開始した
（略）
この頃前方から日本兵が来るので
「何部隊か」と聞くと
「船舶工兵です、敵が上陸して来ましたから退却して来ました」
「どうして戦闘をしないのか」
「私共は鉄砲の撃方を知りません」
と云ふ、後方部隊にはこんな兵が居るのである
- ビルマの第18師団から参謀本部第11課へ転任した戸梶少佐が記した「北部ビルマの諸問題」*121（1944年5月）には「内地を出て半年経っても到著せぬ初年兵、補充兵「タマコメ（※弾込めのこと）」の碌に出来ぬのに到著した時は既に上等兵に進級の時期に達してゐる我が軍の初年兵、補充兵」とある。*122
- 比島ゲリラの第三期粛正討伐戦に参加し、マニラへ戻り、レイテへ行くことになりました。しかし部隊が海没したので兵員がそろわない。内地から補充兵が来るのを待っていたが、第二国民兵で、早稲田大学の焼印が銃把に押してある銃口が無く、銃身は単なる鉄の棒の擬銃を持って来た。したがって銃の手入れも知らない。これでは兵隊の員数だけそろえても駄目だと思いました。*123
- 「小銃を持っての教育は、皆それぞれ入隊までに習ったものとする」と教官に言われた。そのため早速、戦車肉迫攻撃から訓練が始まった。支給された明治時代製作された服は、匍匐前進や模型戦車肉迫攻撃する棒地雷や背負って戦車の下に飛び込む破甲爆雷攻撃などの訓練によって破れ、そのうえ生傷の絶えぬ毎日であった。（1944年9月入営）*124（※戦前は青年学校で、あるいは中学校以上で軍事教練があり銃の扱いを教えていた）
隊長も練度不足
陸軍では中隊が日常生活や作戦行動の基本的集団であり兵士にとっては中隊長（大尉か中尉であり現場では非常に偉い）が「父親」的存在であったが、大本営陸軍部「西南太平洋方面に於ける防空戦闘の教訓」（1944年1月）*125では、その肝心の中隊長も召集者が多く訓練不足だと指摘している。
防空部隊には動員（臨時編成）後訓練、団結、兵器整備等の為相当期間（少くも二箇月）の余裕を与へたる後戦場に到らしめ以て戦闘の初動より十分なる自信を堅持せしめ置くを要す
幹部は為し得る限り事前に召集し戦時職務に応ずる識能を十分研鑽せしむるを要す…動員完結直後到著せる部隊は人的素養の低下に加へ団結、訓練等に余裕なかりしを以て戦力不十分の儘戦場に臨み任務に服する初動より十分なる自身なきが如し。五月北部ニューギニヤに到著せる高射砲大隊は算定具を装備し大いに期待せられありしも前期の如き弱点を認められ特に算定具の訓練不十分にして幹部以下之を活用する迄には尚幾多の訓練を要すべし
（略）
高射砲中隊長は現役者たること緊要なり
南海方面に於ける高射砲中隊長の過半数は召集将校にして中隊長として其の技能熟達する頃は既に長期服務者となり帰還交代を画せらるる時期なり。高射砲中隊長の射撃機眼の養成、技能の錬磨は他部隊の比にあらざるを以て防空部隊に関する限り特に現役者の配当を必要とす。
特攻兵器はベニヤ製
我々と同乗する船舶挺身隊の少年兵が上等兵の襟章を付けて乗り込んできた。船には、青く塗られたベニヤ板作りのモーターボート（※震洋と考えられる）が大量に積み込まれた。船倉にはこれに装備される魚雷が格納されており、少年兵はまだ十八歳未満の志願兵であった。*126
練習機で特攻
「徳島空白菊特攻隊戦闘詳報（第１号）」*127（1945年5月24日付）の「白菊」とは練習機であり、非常に低速である。また「赤とんぼ」と呼ばれた練習機も特攻に使用された。
兵士の価値は一銭五厘、兵士より馬・武器が大事
- 一路千葉県柏の第四航空教育隊へと向かった…班長の訓示では「お前達は消耗品である。一銭五厘（郵便葉書の値段）で幾らでも入ってくる。また、日に乾ききった桶である。これもみっちり締めなければ水が漏れる、水が漏れぬよう締め上げてやるから覚悟するように」と言われた。（1941年9月入営）*128
- 昭和十六年十二月中旬、ついに来た白紙召集（教育召集）令状を受けとった。…呉軍港に碇泊している輸送船に乗船を完了した。ただちに出航である。客船ではなく貨物船である。設備はお粗末なもので、牛、豚並みである。この輸送船で思ったことは、静岡の第三十四連隊では、「お前達は一銭五厘並みだ、歩兵銃の弾丸は消耗品でもお前達より高価である。一発の弾丸でも貴重だ」と言われたことを思い出し、なるほど荷物並みで人間扱いではない、これが戦争かなと思った。*129
- 昭和十八年五月召集令状を受け取りました。…二年余りの馬との生活。人間より馬の方が大切に取り扱われていました。普段、馬の手入れや扱いをするとき、古兵から言われる言葉に「兵隊は一銭五厘の葉書で集められるが、馬は百円もする。人間より馬が大切だ」とあります。したがって馬の生死に関する疝痛を起こすと大変でした。*130
- そのような時に空襲を受けるようなことがあると、我々騎兵にとってはまことにみじめである。近くに林でもあれば馬をとばせてかくれるすべもあるが、はげ山の頂点ではただくつわをもって、じっと待つよりしかたがない。馬は活兵器である。これを手から放して自分だけ物陰にかくれることなど絶対に出来ないのだ。敵機の退散を待つばかりである。（1944年湘桂作戦で）*131
- 昭和十九年七月、国境の饒河へ一個中隊二百名ぐらい移駐した。…そこで訓練です。その辺は湿地帯があり、木を切って組んで渡るが、馬が落ちると沈んでいく、もがきながら扇状の跡を残して沈んでいく。兵隊も一緒の時もある。兵は直ぐ降りればと思うが、馬は人命より大切とさえいわれている軍隊故、そうはいかない。*132
- 昭和十七年二月十日…弘前の部隊に入った。…大行作戦で河南省まで行ったりした。我々は火砲を持っているので山越えの時日本馬は大きいので崖から落ちたりした。大きな音がするので、見ると同年兵が手綱を持ったまま馬と一緒に落ちて行く。離せば助かるのに戦死してしまった。*133
- 内閣情報部「写真週報」1944年12月13日「御紋章と小銃 …制定された各式小銃にも前例に基づいて御紋章が記刻せられることとなって今日に至った…自己の身命を顧みず小銃を尊重擁護する至高の精神もまたこゝに発するのであって、実に畏き極みである」*134
- （1944年）一月二十五日 晴 中部二十二部隊（元歩兵第八連隊）に入隊。…消灯ラッパが鳴り響いてきます。…休む間もなく働き通しのうえ、怒鳴られ叱られ殴られて一日が終わります。カチッと音がします。「第二班の初年兵！起きろッ」やっと疲れた体を横にしての寝入りばな、整列した自分たちを不寝番の古参兵が睨みつける。「貴様たちは、よくものうのうと寝られるもんだな。この銃は畏くも天皇陛下から授けられたものである。その銃の撃鉄が起きていた、ということはこの鉄はまだ今まで働いていたんだ。鉄を手入れした貴様たちの全員の責任だ。鉄に、あなたを働かせて自分は寝ていて申し訳ありませんでした、と謝れ」*135
- 実は、その当時、このことが分かれば確実に死刑にされる菊の御紋章のある銃の木質部を焚いて暖をとり、それで私共は生き延びましたが、それができない多くの戦友達は、この四一〇〇メートルの山頂で凍死してしまいました。（ニューギニアのサラワケット越えで）*136
- 昭和二十年六月八日、陸軍部隊五百人ぐらいを乗船させて移動中、バンガ海で島陰に隠れていたイギリスの潜水艦が発射した魚雷が、…さあ大変「救命具を海へ投げ込め」「海へ飛び込め」の大騒ぎとなりました。…陸軍の兵隊たちは銃を握り、片手で器具に掴まり泳いでいるので、目に付いた兵隊には「銃を捨てなさい！自分が死ぬぞ！」と叫び、銃を捨てさせました。菊の紋章が付いている歩兵銃をしっかり持っている兵隊さんに頭が下がりました。*137
盗んででも「員数」をつける、泥棒の横行
- 昭和十七年の一月末、呉鎮守府より、「五月一日、広島大竹海兵団に入団せよ」との、待ちに待った令状を受け取った。…身に付ける支給品には、すべて分隊名、兵籍番号、氏名などを墨字で書き入れておく。でも洗濯後、なぜかよく支給品が紛失するから不思議で、我々は員数確保が大変である。*138
- 昭和十七（一九四二）年の七月十日、兵隊検査で甲種合格となり…（馬の蹄鉄の）釘を打って取り付けているうち右に左にと曲がり使用不能になると隣の相手の釘を盗んで来なければ自分の任務が果たせない。まるで泥棒の集まりのような職場でした。軍隊と言うところは、支給された物品の員数観念が徹底していて、常に数だけは整えて置かなければならないと教育をされた。だから数が足りなくなったら、よその隊に行って盗んで来ても数を揃えると言うのである。*139
- 昭和十九年、私は二十歳で徴兵検査を受け…先輩殿の衣服を洗濯し、干し、演習から帰り、取りに行けば洗濯物は無い。盗られたのだ。それを上官殿に訴えると「馬鹿もん、ボサッとしとるけん盗られるのだ」と反ってどなりつけられる。娑婆では人の物を盗った者が悪いのに、ここでは盗られた者がどなられる、困ったところだ。員数をつけるため自分も盗って来なければならない。員数員数の厳しきところである。*140
- 私の徴兵検査は昭和十七年で…入隊前日の夕刻…出征祝賀の酒宴を盛大に催して下さいました。この席での話題は主として新兵時代の心得の指導でした。一、軍人は要領を本分とすべし 二、発声は大きな声で 三、支給品は盗まれたら盗み返せ と軍隊のＯＢは経験談を話してくれました。*141
弾を撃ってはいけない、火も焚けない
- 大本営陸軍部「ソロモン群島方面戦闘に基く教訓」（1944年2月5日）には「敵機を射撃せば爆撃せらるるの故を以て一向に射撃せざるものあり」「炊爨は最も困難なる事項の一にして炊煙は直ちに砲爆撃の目標となるを以て…ジャングル内は多くは無風状態にして炊煙は約三時間停滞するに因り後半夜の炊爨は対空上危険多く」とある。*142
- 昭和十八年九月三日、金沢の歩兵第七連隊の留守部隊に入隊…中隊の重機関銃が敵機に応戦したら、上官から「撃つな」と叱られました。また艦砲射撃を受けたとき、速射砲を撃って連隊本部から「止めろ」と叱られました。火力も、兵器も全然違うのだから、こちらの位置が分かれば徹底的にやられてしまうからです。（マーシャル諸島）*143
- 絶えず観測機の監視、さらに海上からの艦砲射撃で身動きも出来ず、また集中攻撃を避けるためにこちらからの銃砲の反撃も出来ない有様でした。(フィリピン）*144
- 壕に入って上空をにらむ。何回目かのＰ40が頭上に来た。悔しくってしょうがない。持っていた三八銃の引鉄を無意識に引いた。銃弾は見事にはずれてしまった。残念だ。飛行機が去った後、古年兵に呼ばれた。「貴様弾撃ったろう」「ハイ、悔しくって、黙っておれませんでした」「馬鹿野郎。当たるもんか。それより敵機に位置を知られたら、余計危ないじゃないか」というが早いか、ポカン、ポカン、ポカンと殴られた。(ビルマ）*145
- 炊事の煙が敵に発見され、六月十三日より三日間は迫撃砲の集中砲火や、ガソリン弾投下でジャングルは焼け野原にされてしまい、以後、日中は一切の行動が取れなくなりました。（フィリピン）*146
- ある中隊では、夜間タバコの火で機銃掃射と艦砲射撃を受け、中隊全滅との報がありましたので、米はあれども炊飯不能となりました。（フィリピン）*147
- 体をかわかしたいが…葉や立枯の枝を集め、ようやく火がつくと、敵機が低空飛行で来て全部機銃掃射を受ける。ブーンとくれば火を消さねばならない。ようやくの火を消したりで、その時の気持は切なかった。（ビルマ）*148
私的制裁
非常に多くの証言があり、制裁を受けていない方が珍しいくらいである。陸軍のビンタや海軍のバッター（軍人精神注入棒で尻を叩く）は有名だが、その他にも様々な体罰・制裁が考案・実行された。私的制裁は何度も禁止されたが、それは何度禁止されても止まなかったことを示している。
- 昭和十七年三月一日、現役兵として第六航空教育隊に入隊…「君達の態度を一週間見ていたら皆弛んでいる。今から軍人精神を入れてやる。眼鏡をしている者は、外して全員歯を食いしばれ」と言った途端、平手で頬への往復ビンタ、終わると「今日は小指の爪程だぞ、よし、早く寝ろ」です。…私的制裁は日増しに酷くなり、編上靴によるビンタ、柱に昇って蝉の真似を毎度三十分、敷布がちょっとでも汚れていると赤チョークで金魚が書かれる（チョークの赤色落としに苦労しました）。編上靴の手入れが悪いと言って舐めさせられる等々*149
- 私は赤紙召集の昭和十九（一九四四）年兵の一人です。…〇〇班内上等兵は皆を向かい合わせに二列に並ばせ、対抗ビンタをやるよう命令する。お互い顔見知りだから相手の頬を軽く撫でていたら「そんなたるい叩き方では駄目だ」と近くの兵隊を殴り倒した。そこで真剣に殴り合いとなり、取っ組み合いとなったので中止となった。*150
- 私にも「（1945年）四月一日、朝鮮第一〇四部隊入隊のために東公園に集合せよ」との令状が参りました。…巻脚絆の手入れが悪ければ頭にターバンのように巻かされ、靴紐の洗い不充分では、口に食わえ「××二等兵は……のため各班廻りを命ぜられました」と。床や頭上の衣類整理棚の整理が不揃いの時は、班長が木銃で跳飛ばし「会寧のそよ風に吹き飛ばされました」である。…消灯ラッパが静かに鳴りひびく。夢の床に就くや、コツコツ週番下士官が巡回しつつ銃の引金点検である。次々と引く。俺は何番目…「よかった」と思う。「カチン」と鳴ると「〇〇出てこい」で捧げ銃をして「三八式歩兵銃殿、長々と……致しまして申し訳ありません」である。軍隊は馬鹿にならないと勤まらない。*151
- （1944年予科練に入隊）「初年兵集合、一列に並んで歯をくいしばれ」「君等は二十歳未満だ。酒、煙草は禁じられていること知らんか。吸った者に注意しない。君達にも連帯責任がある」、途端に拳でのビンタが飛ぶ。よろよろすると「弛んでいる」とさらに一発、中には口から血を流す者や、二、三日食事が満足に出来ない者もおりました。…（外出時に）欠礼したら大変、民間の方のおる前で殴る蹴るの制裁、民間の方は手で目を塞ぎ、中には涙を流しておられる方もおられました。…軍靴の手入れが悪い、軍足が汚れている、軍服の襟布が汚れている等でビンタが飛ぶ。ハンモックにぶら下がり蝉の真似、狭い衣類箱に頭から押し込まれ、しゃがんでの長時間、練兵場円周の駆け足、海軍精神教育棒の所構わずの殴打等です。*152
恨みの文句「弾は前からとは限らない」
- 私は昭和十八（一九四三）年徴集兵で、…馬を使う部隊では人より馬が尊重されます。たまたま馬の扱いが悪く負傷でもさせたら「貴様ら兵隊は一銭五厘でいくらでも補充できるが、馬様はそんなわけにいかないんだ、この野郎！」と悪口雑言の上、目から火の出るビンタを見舞われました。心の中では「弾は前からだけではないぞ」と憤懣を吐き出したものです。*153
- 令状には「昭和十七年十二月二十日東部第三十七部隊に入営を命ずる」とありました。…古年兵の戦友はよく「弾丸は前からばかりくるのではないぞ」と言っていた。*154
- 昭和十八（一九四三）年徴兵検査を受け…意地の悪い不届きな古兵や上等兵等がいる。同年兵同志で歓談している最中に「タマは前からとは限らんぞの― ！ 後の方も用心せんと！」と暗に下級者にひどい仕打ちをすると、その反動を気をつけよとおどし上げる。これも共同防衛である。*155
- 昭和二十年二月ごろ、十八歳の自分にも現役兵として検査があり、甲種合格。…何十回打つか数えていたところ、四十五回以上打ったところで手が痛くなったのか、今度は説教を始めた。さんざん叱られて、とうとう一時間くらい洗濯もできず怒られていた。自分はその中で、今に見ておれ、戦争が始まったら弾は前からばかりは来ないぞ、と自分に言い聞かせていた。*156
上下関係と敬礼への過度のこだわり
- 私は昭和十九（一九四四）年兵であり…班長当番に当たり班長室へ食事を持って行く際に、班付兵長さんより「上官の飯を持って行く時は、自分の口より上に高くお膳を上げて持ってゆかねばいけない。持って行った飯に初年兵の息がかかって失礼になる。以後気を付けよ」と注意されました。*157
- 下士官室に食事を運ぶときは食膳に息が掛からぬようマスクをして目の上に捧げて持って行きますが、それ以前に汚いことが行われていました。下士官の飯の上に坊主頭をカリカリとかいてフケを落して持って行ったり、蠅を細かく刻んでみそ汁の中に入れたりしてほくそ笑み、空になって戻ってきた食器に「今日の班長の飯は一段と旨かったろう」と言って日頃の恨みを晴らしていた兵も事実いました。（1944年入営し満州の関東軍）*158
- 独立歩兵第六十大隊の第三中隊（安徴四河口）に入隊…班長室に食事を運ぶ者がいないので、私が大声で「入ります！」と言って食膳を差し出したら！ 捧げていた食膳をいきなり足で蹴っ飛ばされた。私の顔面に味噌汁、飯がもろにかぶり、「お前の口臭が掛っている。膳は目の上まで上げて持って来い」と言われた。こんな侮辱を受けたのは初めてだ。初年兵たちが集まってきて、私の服を拭いてくれたり、食事を新しく揃えてくれた。「飯」の上に私の頭の「フケ」をかき落し、味噌汁の中に「つば」を吐き入れて、目の上より高く差し上げて持って行った。（1943年入営）*159
- 昭和十九年七月二十日頃やっぱり令状が届きました。…軍隊では、一日でも早く入隊した者が上級者ですから、訓練をつけるのは若僧で、二十歳前の小僧が私のような三十八歳の兵隊を制裁するのです。上官の命令は「朕の命令」、即ち「天皇の命令だ」と言ってビシビシと叩くのです。*160
- 日曜の外出には…何時でも上官に出会えば敬礼、欠礼すれば大変、初年兵は外出しても敬礼演習のようなり。（1943年入営）“太平洋戦争従軍回想録”. 労苦体験手記 軍人軍属短期在職者が語り継ぐ労苦（兵士編）第４巻. 平和祈念展示資料館. pp. 157-174（p.157,160）
- 野砲・小銃・帯剣・軍靴の手入れをします。手入れ中にもし古参兵の一等兵が通ると、手入れを止めて起立、拳手の敬礼をします。何度会ってもしなければなりません。（1943年入営）*161
- あちらもこちらも身の回りは全部が上級者ですから…片手だけでは足りなくて両手で左右を見て敬礼しなければならないほどでした。欠礼をしようものなら「コラッ！そこの初年兵待てッ！」ハッと気付いて敬礼してももう遅い「何中隊の何班の者だ。官姓名を名乗れ」とくる。…用を足して班に戻ると…もう既に先程の欠礼の通報がきているのです。そこでまたこってりと油を絞られます。（1944年入営）*162
陸軍作成の「軍紀風紀上等要注意事例集（1944年印刷）」*163から欠礼を理由とした私的制裁を二、三挙げると
- 比島派遣第一〇二教育飛行連隊「現」大尉某は高雄より枋寮行列車中に於て同乗しありたる中尉一、少尉一を欠礼（事実は欠礼しあらず）せりと一般乗客多数の面前に於て殴打し
- 船舶病院船第五五班「補」衛生兵長某は船舶衛生隊教育部に分遣を被命同部第二内務班教育係助手として服務中二月二十八日同班の二等兵（二国兵）一が欠礼したるを憤激し班内に於て手拳を以て同兵の左頬部を強打し全治一週間の打撲傷を与へ
- 四月三日名古屋幼年学校生徒二名が外出先にて飛行第十七戦隊整備隊兵長某より「何故敬礼せぬか」と注意を受け左頬を一回宛殴打せられたるも…再び四月二十九日同校生徒四名が外出先より帰校途中右飛行部隊兵長二名に遭遇両兵長より敬礼を要求され口論の結果生徒二名が両兵長より殴打され生徒は之に反撃格闘を演じたる事件発生せり。
ソ連軍の場合
第149師団参謀長印南清大佐は次のように記している。
将校と下士官兵との関係 公務上特に必要なる場合の外敬礼を行はず平常の談笑は上下の区別無きものの如し但し少佐以上の将校は特別扱ひとなりあるものの如く自他共に威厳をつけ居る如く見ゆ*164
将校と下士官兵との関係 公務上特に必要なる場合の外敬礼を行はず平常の談笑は上下の区別無きものの如し但し少佐以上の将校は特別扱ひとなりあるものの如く自他共に威厳をつけ居る如く見ゆ*164
名ばかりの野戦病院
- 野戦病院はジャングルのなかで、小さな赤十字の旗だけが病院であることを示し、名ばかりの病院でもある。手当は一切なし、死体の始末にぼうさつされていて治療を受けた覚えはなかった。衛生兵がうすい粥を飯ごうのふたにタラタラとたらしてくれただけだった。「助けてくれェー」の声と、ウメキ声もいつしかたえて、病院は屍体処理場と化していた。（ビルマ）*165
- 野戦病院とは名ばかりの山の中腹の樹の下です。土の上にゴロ寝です。…薬はヨーチンのみ、傷の手当は数日に一回、傷にヨーチンを塗って傷口の「ウジ虫」を取り除くことが手当のすべてだ。…私の横に寝ていた准尉さんは大腿部と顔とあごをやられウジが湧いている。這い回っている。「衛生兵殿、衛生兵殿」と小さな声で呼んでいる。夕方動かなくなった。元気な頃は当番兵が面倒見てくれた（※准尉は現場ではかなり偉い）のに、今は赤土の上で果てるとは全く気の毒である。内地では妻子が帰りを待っているだろうに。（ビルマ）*166
- 昭和十七年十二月一日、仙台の東部第二十九部隊（工兵第二連隊）へ入営。…私は作戦中、右脚の踵を敵弾の破片で飛ばされ野戦病院に入隊する予定のところ軍医さんが「〇〇、入院するな、入ったら殺されるぞ、赤チン塗って俺が治してやるから」と忠告してくれました。不思議に思って尋ねると「入院しても食物が無い。手当もいい加減だ、殺されるぞ」と言われ（中国戦線）*167
- 昭和十九年二月一日、佐世保第一海兵団へ入団…上海陸戦隊の配属新兵として…赤痢にやられました。班長さんに申し出ました。班長さんは「医務室へは行くな。行くと隔離されて、どこか分からない所へ入れられて、その後消息不明である。よいか。ここにおれ。薬は貰って来てやるから、それを飲んで静かにしておれ。医務室へは行くな」と。*168
- 戦後1950年作成された中国・湘桂作戦（1944）についての報告書では「新市野戦予備病院第十五班」の項で「一日七〜八回の空襲は必ずある」「収容家屋狭隘の上に連日空襲に対する恐怖、給養亦極めて粗悪にして治癒を待たず希望退院する者が多かった」とする。*169
麻酔が無い
- 昭和二十年五月九日、海防地区の八路軍の掃討作戦中、八路軍が張り巡していた地雷に触れたため…麻酔なしの手術ですから両手両足、後方から肩を六人が私の全身を押えて患部の地雷の破片の取り出し等を始めましたがその痛いこと歯をくいしばって「うんうん」といいながら、手足を押えてくれている初年兵たちが「古兵殿頑張って下さい」…衛生兵が傷ついた指を切断しましょうかというので「切断するな」と叫びました。*170
- 前の馬が、敵機より落下した風船爆弾の不発弾に触れ…麻酔薬も無く衛生兵が三人が馬乗りになっての切開手術ですからその痛いことは筆舌にはつくせませんでした。(1945年中国戦線）*171
- 木かげに設けられた仮包帯所では負傷の弾ぬきが麻酔なしで行われた。「痛い、痛い」と泣き叫ぶのを軍医官は「辛抱せい、死にたいか」と荒療治していた。（ボルネオ）*172
重傷者の「措置」
大本営陸軍部「大宮島（※グアム島のこと）、テニアン島作戦の教訓」（1944年8月30日）では、大宮島8月7日の項に「陸海軍重傷者の措置本夜之を終了す」*173とあり、これは8月10日玉砕の前に注射等で殺害したと考えられる。
伝染病・感染症・寄生虫との戦い
- 戦後1950年作成された中国・湘桂作戦（1944）についての報告書では第116師団の項で「第二野戦病院…戦傷病者中瓦斯壊疽敗血症内科は赤痢戦争栄養失調症等で死亡するもの多く其の数約一千に及んだ」「第四野戦病院…九月上旬衡陽周辺にコレラ患者爆発的に慢延し阿鼻叫喚の状を呈した」とある。*176
- 「第十五軍衛生概況報告」では「-マラリア防遏に関しては…(ビルマの）マンダレー攻略までの患者発生は僅かに〇・五％内外にして…然るに北部緬甸（ビルマ）作戦終局し…(1942年）七月に於ては遂に総兵力の約八％に当る新患発生を見たり」とあり、開戦して一年も経たない内にかなりのマラリア感染が出たことがわかる。*177
- 第105兵站病院の1942年4月25日付「状況報告」の「勤務員並其保健状況」の項では、「将校三七名下士官以下三二三名計三六〇名其れに配属中の日本赤十字救護班救護班二箇班人員四八名」「三月中旬盤谷（バンコク）を出発して緬甸（ビルマ）に進駐致しましてからデング熱続発し将兵の之に罹らないものは一名もない状況でありまして為めに非常に健康を害し平均体重に於ても将校六・五キロ 下士官三・三キロ 兵〇・五キロの減少を示して居ります」とあり、病院職員も感染していたことがわかる。*178
- 「東部ニューギニア方面部隊略歴」では、多くの部隊について「空襲及-マラリアに依る損害は地域及時期の如何を問わず全期に亘り不断に多発せり」の文言が一様に記されている。*179
- 大本営陸軍部「西南太平洋方面に於ける防空戦闘の教訓」（1944年1月）では「新に到著せる部隊の多くは南方作戦に対する予備知識不十分にして上陸直後よりマラリヤ又は腸管系疾患多発し上陸一箇月を経過せる某時機に於ては地形の関係等に依り差異あるも平均三十乃至四十パーセント甚だしきは六十パーセントに達する患者を生じ戦力低下を来せるものあり」とする。*180
- 中国戦線では回虫に悩まされる話がしばしば出てくる。*181*182*183
- 戦後に岡部隊（※マレー半島とインドネシアを担任した第7方面軍のこと）軍医部少佐が米軍に提出した「年度別疾病別患者収容調査表」*184から抜粋すると
| 銃創 | 砲創 | 爆傷 | マラリア | 赤痢 | 脚気 | 肺結核 | 胸膜炎 | 花柳病（性病） | 精神病 | |
| 1942年 | 744 | 593 | 137 | 1098 | 133 | 584 | 320 | 233 | 188 | 7 |
| 1943年 | 754 | 614 | 138 | 2474 | 345 | 1281 | 812 | 488 | 189 | 39 |
| 1944年 | 859 | 712 | 158 | 4244 | 585 | 2211 | 1365 | 802 | 1037 | 169 |
| 1945年 | 684 | 610 | 138 | 4562 | 494 | 1954 | 1245 | 648 | 923 | 182 |
これは「収容」数なので、病院に入っていない者は含んでいないと考えられる。また第7方面軍の担任地域は他地域（ビルマ、フィリピン、ニューギニア、中国など）に比べればまだマシな戦況だったと一般的には考えられている。
特攻機の特攻強制
特攻隊の強制を参照
心の変調
- 久留米陸軍病院の二十二病棟のマラリア病専門の病室勤務となりました。その病棟にはガダルカナル島でマラリアに罹って入院している人がいてガダルカナル島や南方戦線での苦労も知り勉強になりました。二十一病棟は精神病病棟で鉄格子がはめられ、二十人余りが収容されていました。叩かれて気が狂ったり、厳しい訓練で精神に異状を来たした人達だと聞きました。*185
- 昭和十八年二月二十七日、鯖江を真夜中に出発した。…我々を乗せた軍用列車は釜山・京城（ソウル）・平城（ピョンヤン）・天津・徐州そして蛙埠で准南線に乗り換え、大隊本部のある下糖集に到着した。そこからトラックで一時間ほど走った野原の中にあった土壁造りの第三中隊に到着…ある初年兵が風呂敷を抱えて兵舎を出ようとするので「お前どこへ行くんだ」と聞くと「家に帰る」と行って営門の方へ歩いて行った。毎日陰惨な「いじめ」で頭がおかしくなってしまったらしい。他の中隊では初年兵の首吊り自殺があったらしい。（1943年入営）*186
- 昭和十八年七月名古屋で編成された誉兵団第四十三師団一三五連隊…一人の兵隊が急に銃を手に何か分からぬことを叫びながら出て行きましたが、間ぱつ入れず敵の射撃に崖下へ転がって行きました。(テニアン島）*187
- 昭和十八年十月、海軍施設部に徴用された部隊名は「ウ二三三部隊」でウとは内南洋の略記号、海軍第二三三設営隊です。…頭が変になる者、これを人は「南方ボケ」と名付ける。幼稚園級の童謡を歌ったり、ニヤニヤ、ホヤホヤしてまともに口をきかないボンヤリ型、何処へ行ったか行方不明者も出る。致し方なく、要注意人物は木陰の木に犬なみにつないで置いたりした。(テニアン島）*188
死の間際に「天皇陛下万歳」
- 昭和十六年十二月十五日に入隊し…私は〇〇上等兵を抱きかかえ、「〇〇しっかりしろ、頑張れよ」と勇気付ける以外はなかったのです。〇〇は私に抱かれ悲痛な力のない声で「天皇陛下万歳！」としっかりした口唱〔ﾏﾏ〕で二回絶叫し、三回目の「天皇陛下万歳！」はかすかな声と共に壮烈な戦死を遂げられたのでした。*189
- よく「天皇陛下万歳」と唱えた人はいない「お母さん」だった。というけれども、〇〇班長をはじめ、何人かの人の「万歳」は現実に聞いていたし、実際に唱えた人が九死に一生を得て生還した実例は、我が部隊ではありました。*190
- 一瞬のこと〇〇上等兵の臀部は砲弾のため左半分ズボンごともぎ取られておりました。それでもうめき声で「天皇陛下万歳」を唱えています。「お母ちゃんとかおやじ…」とかの言葉はないのでしょうか、その当時としては当然の言葉かも知れません。私もこのような時期がきた時、いわなければと心の隅でチラッと思ったものです。が今体験文を書きながらあふれる涙をどうすることもできません。(テニアン島）*191
- 空母雲龍沈没時の戦闘詳報*192「沈没の已むなき状況を認め艦長は総員退去を下令し艦橋内にて『天皇陛下万歳』を三唱副長航海長と共に艦橋に立し儘艦と運命を共にせり」
降伏時、降伏後の日本兵
降伏を知った兵士たちの反応
- 「ただいま帰ってきた！戦争は終わったぞ、日本は無条件降伏だ！」その直後、洞窟内はバンザイ、バンザイの歓声は嵐となって響きわたり、抱き合う仲間、踊り狂う一団、喜びか悲しみかなぜか泣き叫ぶ者、軍歌の大合唱……、洞窟はまさに崩れんばかりの興奮に包まれながら、湖南前線の夜は深々と更けて行くのでした。これが我が部隊の終戦の姿でした。（中国）*193
- そしてついに終戦の日を迎えました。…机上のラジオは将校の軍刀で真っ二つに切り裂かれており…我々は落胆やる方ないまま二、三人の友人と「俺たちは武装解除を受けるより死を選ぶ」と申し合いました。（北海道）*194
- 十三日の午前に、いよいよ降伏らしいとの噂が誰からともなく伝わる。二日後正服で集合するようにとの命令伝達があり、急ぎ農家の庭に集合する。内容は分からないが全面降伏の玉音放送であることを知らされる。当日はにわかに増配された食糧に、エタノールを持ち出して飲んで自暴自棄になる者等があり、誰も収拾する者もなく夜が更ける。（内地）*195
- 八月十五日の終戦を知りましたのは、たまたま私は済南の街角で、日本の婦人達が話していましたので「終戦はほんとうですか」と尋ねますと…私が日本のご婦人の話を報告しますと、隊長（中隊長）は「またデマだろう、そんなことはない」といい旅団本部に電話されました。その結果、終戦は事実と判明し騒然となりました。（中国）*196
- 昭和二十年九月中旬、米軍特使による停戦の通達があり「ホッと一息付きました」とこれが偽らざる心境でした。正式の終戦命令が発令され陣地を後に下山しました。米兵がニコニコと笑顔で迎えてくれるのが不思議なようでした。ただ命より大切に扱った「天皇陛下」から与えられし銃火器は米軍に子供の玩具のごとく取り扱われ足蹴りされた時は、腹が立ち顔色が変わったと思いました。[387]（フィリピン）*197
- 「これで日本の国も敗戦の憂き目を見るんだ。男はアメリカ兵に金玉を抜かれ、女は女郎とて慰め者で連合軍の兵隊達に提供されるのだ」と言ような流言飛語が、その頃から誰とは無しにささやかれるようになった。（内地）*198
- 終戦となり、連隊副官が東京へ行き、召集解除は八月二十九日でした。男は金抜きとなるというので十名ほどが逃亡しましたが全部捕まりました。思えば嘘のような、笑い話ですが、そのとき兵隊は本当に深刻な気持ちでした。（内地）*199
日本兵に対する首実検
- やっと着いた所は鉄条網が三重の収容所である…何日目であったか現地人が来て、彼等にＭＰが付き添って首実験された。彼等に指を指されたら最後であるという噂が流れて、ルソン島行きということを全員が知っていた。中には呼び出されて連れていかれた者も何人か出た。（フィリピン）*200
- ここで、首実験なるものを経験した。いわゆる戦犯探しのためである。部隊全員両手間隔一列横隊、その前を英軍憲兵の連れるビルマ人関係者一行がゾロゾロ、立ち止まってよく見つめ次へ移る。その気持ちの悪いこと、間違われたら大変だ。護送用トラックを従えている。（ビルマ）*201
- 全員二列横隊に命ぜられた通り並んだ。首実検だ。…以前に原住民に暴力を振るった者など、身に覚えのある者は決まって後列に並ぶ。ある者はメガネを外し、あるいは他人のメガネを借りるなどして出来るだけ人相を変える涙ぐましい努力をしている。（ボルネオ）*202
遺骨箱の中身
- 昭和二十一年五月三日に名古屋港に復員、上陸し懐かしの我が家に軍服を脱いだが、兄の戦病死を知らされ涙が止まらなかった。遺骨箱には「小さじ」一杯の砂が入っているだけだった。*203
- その後、父は、昭和二十年四月十五日、フィリピン・セブ島にて戦死の報を受け、昭和二十三年九月に、中には何も入っていない白木の箱が帰りました。*204
- 小学生の頃、（父の）戦死の知らせがあり、白木の箱が軍から送られてきた。砂が入っていた。*205
- 戦隊は部隊ごと内地勤務となり…事務屋としては、命令受領、兵器受領、遺骨受領、分任官業務その他雑多な業務に多忙を極め…遺骨の件では、外地の戦隊よりの遺骨には、遺骨はなく遺品（爪や髪の類）もないことが多く、命令により鹿児島県の海岸の砂を靴下に詰めては留守家族へ送ったこともありました。*206
復員兵への冷たい視線
- 昭和二十一年六月七日、内地送還のため上海を出帆した。…二十二日に上陸、召集解除となる。名古屋までの列車のなかでは敗残兵扱いでした。*207
- 南の遠いビルマより何年ぶりかで内地へ帰ったのだから、内地の人の我々を見る眼は温かいものと勝手に期待しているのに、内地の人はまるで敗残兵でも見るような感じ。戦争中まではなかった、若い男女が手を繋いでいる事。アレもコレもショックの連続でした。*208
- 昭和二十一年十一月二十日ごろ、現地で乗船、十二月一日、名古屋港に上陸しました。…名古屋からの帰途、多くの日本の人たちに会いましたが、誰からも「ご苦労さん」の声一つありませんでした。*209
- 何年ぶりかの本土の大地をしっかりと踏み締めた時、心にジーンとくるものがあった。…日本の警察官の指示で二列縦隊に整列…若い警察官が「お前達がこんな風だから、日本が負けたのだ。お前達は敗残兵だ。しっかり整列して歩け」と侮辱的な発言があった。*210
- 私は、能登半島より呉軍港に上陸、復員準備をして、九月十五日に帰路につきました。そのとき、ほかの兵隊が、島の子供に小石をぶつけられました。子供でも負けるとは思わなかった悔しさがあり、それが理由だったかもしれません。*211
- 自分では丸三年三ヵ月も御国のために苦労して来たつもりなのに、浦賀から我が家へ帰る道すがらの人々の態度はあまり心嬉しいものでは無かった。疲れいらだった人々は心までがゆがんでしまったのか「大きな荷物を背負った復員の軍人さんは物持ちで得をした。わしらは焼け出されて何も無い」みたいなことを聞こえよがしに話した。*212
復員後
- 昭和二十二年六月二十四日、ようやく我が家に帰りました。大声で「ただいま！」と申しますと、のこのこと出て来た親父に「お前は誰じゃ」と言われてなかなか信用されなかったのです。…その時、すでに、役所から本人は戦死者として届けられてきており…本物の我が子を見て、長時間親父は泣いて喜んでくれました。（中国から復員）*213
- 十二月三十日の夕方、雪の七〇センチ余り積もった生家へ辿り着けば、両親はいましたが、一目見て「お前誰じゃ、家の子は戦死して役場から通知が一年も前に来ている。お前は贋者だ」と言って、いくら説明しても駄目で…[714]（フィリピンから復員）*214
- 復員後あまりに多くの人達が、親、子、夫を尋ねて来られ、苦しかった戦後の説明に苦しんだ。（中国から復員）*215
現地に残った日本兵
大規模な事例としては中国・山西省の日本兵残留があるが、それ以外にも各地で日本兵が諸事情により残留した。
インドネシア残留日本兵についての論文では、残留動機を「独立支援」「日本の将来を悲観」「現地の暮らしやすさ」など６つに分類し「インドネシア残留を選択した人々の動機は多様であった」とする。*216
インドネシア残留日本兵についての論文では、残留動機を「独立支援」「日本の将来を悲観」「現地の暮らしやすさ」など６つに分類し「インドネシア残留を選択した人々の動機は多様であった」とする。*216
タグ
