▲699年9月における勢力図
リューグ国を乗っ取ることで生まれた新興国フェルスデッド国は、数々の難題を抱えていたが、ベルザウスの才気と巧みな外交戦略により、着実に富国強国の道を辿っていた。
ロードレア国のヴェリアと、ロー・レアルス国のメファイザスは、共にお互いこそが最大にして最後の敵になるだろうという思いがあり、フェルスデッド国を中間に置くことは、緩衝材としても、最終的に従属させるにしても都合のいい存在であった。
ベルザウスもそこまで読んだ上で、両者を相手に立ち回り、厳しい情勢下の中生き残りを果たしていた。
そんな中、入れ替わるかのように天下取りの本命から転がり落ちていたシャリアル国は、フェルスデッド国にかつてない大軍勢を差し向け、一気に決着を付けようとする。
これまでの国境攻防戦とは違い、国主メスロー自らが、軍師ケリスを引き連れて行う大規模な出陣であり、この遠征でフェルスデッド国を攻め落として、再び強国の一翼を担う存在となる為の出陣であった。
シャリアル国軍は、10倍近い兵力でラケイト城を包囲し、断続的に攻撃を仕掛けた。
メスローにとってこの戦いは、単なる国境突破戦であり、これからはじまる決戦の緒戦にすぎなかった。
しかし、この城を守るのはベルザウスからも一目置かれているグフスとエルドス、そして援軍として駆けつけたシリナであった。
彼らは篭城戦の基本に乗っ取り、決して自分たちから討って出ず、守りを固めてシャリアル国軍の攻撃を何度も迎撃する。
大兵力を持って国境を突破する筈が思わぬ苦戦を強いられ、出鼻を挫かれたシャリアル国軍。
メスローは、兵の士気を上げる為、ラケイト城を包囲したまま一旦放置し、戦略的にあまり価値のない周辺の小砦をクレットに陥落させ、兵士たちの士気を盛り上げた。
だが、こうしてラケイト城が時間を稼いでいる間に、ベルザウス自らが3万の軍勢を率いて援軍として到着した為、メスローは急ぎ周辺に散っていた部隊を再結集させ、両軍は10月14日に再びラケイト城にて激突する。
しかし、援軍をあわせても兵力はシャリアル国軍の方が倍近くあり、城攻めと野戦が同時に行われ、先陣を務めたソプラナは討ち取られ、ベルザウスの軍勢も押されていく。
それでも城は持ちこたえ、陽が沈んだ為両軍は一旦距離を置き、にらみ合いの体勢となる。
フェルスデッド国軍は勇戦こそするが、このままでは戦力の差から押し切られ、城の陥落も時間の問題と思われていた。
だが、ベルザウスがこの戦いの始まる前に打っておいた策は、静かに、しかし確実に進んでいた。
10月15日、メスローの元に、本国で数日前に起きた異変を知らさる使者が到着する。
かつてシャリアル三牙王を率いてロードレア国と戦いながら、ヴェリアの策によって反乱の疑いをかけられて投獄されていたディグドが、何者かの手によって脱獄し、兵を集めて本国にて反乱を起こし、メスロー軍の後方を目指して出陣したというのだ。
何者か、それは問うまでもなくベルザウスの手によってであった。
その証拠に、ディグドが挙兵することを最初から知っていたかの様に、呼吸をあわせてフェルスデッド国軍がシャリアル国軍に攻撃を仕掛け、更にラケイト城のグフス、エルドス部隊も城から出陣、挟み撃ちの体制をとる。
メスローは、ディグドが到着すれば完全包囲下におかれるため、急ぎ本国へ撤退するため中央突破で抜けようとするが、そこに現れた第三の軍勢に我が目を疑う。
それは、フェルス城を奪取して、そのまま南下してきたロードレア国軍の旗を掲げたバイアラス部隊であった。
ベルザウスの才能を昔から警戒していたヴェリアは、この戦いの勝者はベルザウスであろうと睨み、撤退するメスロー軍に横槍を入れて壊滅させるべく、バイアラス部隊を密かに派遣していた。
バイアラスの奇襲に加えて、ベルザウス、シリナ部隊、エルドス、グフス部隊、そしてディグド部隊までも加わり、全方向から攻撃を受けたシャリアル国軍は完全に崩壊した。
攻撃側 | 守備側 | |||||||||||
シャリアル国軍 | 軍勢 | フェルスデッド国軍 | ||||||||||
メスロー | 総指揮 | グフス | ||||||||||
ケリス | 軍師 | エルドス | ||||||||||
主要参戦者 | ||||||||||||
メスロー | ケリス | ガルダ | フォール | リッシンバー | ベルザウス | グフス | エルドス | シリナ | メスリウ | |||
リガード | クレット | |||||||||||
北方方面 | ||||||||||||
軍勢 | ロードレア国軍 | |||||||||||
総指揮 | バイアラス | |||||||||||
軍師 | ザロ | |||||||||||
バイアラス | ザロ | |||||||||||
西方方面 | ||||||||||||
軍勢 | シャリアル反乱軍 | |||||||||||
総指揮 | ディグド | |||||||||||
軍師 | ||||||||||||
ディグド |
この包囲網は、同盟関係でも何でもないロードレア軍、フェルスデッド軍、ディグド率いる反乱軍の三軍が、互いの利害により何の打ち合わせもなく自然と「連合軍」を組むという、戦史上でもあまり見られない興味深い行動が行われている。
10月16日の戦いにおいて、完全包囲下におかれたシャリアル国軍は壊滅的打撃を受け、フォールは捕虜となり、猛将クレット、軍師ケリスも戦死し、各部隊は散り散りになって撤退した。
翌17日、本国へ戻るべく最後の突破を図ったメスローであったが、脱出口に待ち構えていたベルザウスの火計によって焼死した。
ディグドは混迷のシャリアル国から脱出し、ベルザフィリス国へ逃れ、ルーディアと会見してその幕僚となる。
また、捕虜となったフォールはシリナの説得によりフェルスデッド国に仕官することとなった。
シャリアル国は、メスローの長男ラフィが継ぐものの、幼い国主の下でそれぞれの将が勝手な行動をとりはじめ、完全な混乱状態となり、実質的にはこの時点で滅亡したといっていい。
この戦いの後、ロードレアは北から、ベルザフィリス国は西から、更にこれに便乗してロー・レアルス国も南から次々とシャリアル国の城を陥落させていくが、その一方で、最大の勝利者であった筈のフェルスデッド国は、国力の違いからラケイトの防衛戦に全ての力を集中したため、シャリアル国侵攻戦には大きく出遅れ、わずかな領土拡大に留まった。
これも全ては、ヴェリアの遠謀によりベルザウスのクーデターが数年遅れたことが原因であった。
周辺諸国の狩場と化したシャリアル国は、700年5月に地図から完全に姿を消すこととなる。
ルーは、ゾルデスクを守りながらガルダと共にロー・レアルス国へ逃れ、メファイザスに見出されてロー・レアルス国将軍となる。
リッシンバー、ゾゥド、バンガーナはそれぞれ経緯は異なるものの、最終的にベルザフィリス国に仕官することとなる。
この戦いの後、ロードレアは北から、ベルザフィリス国は西から、更にこれに便乗してロー・レアルス国も南から次々とシャリアル国の城を陥落させていくが、その一方で、最大の勝利者であった筈のフェルスデッド国は、国力の違いからラケイトの防衛戦に全ての力を集中したため、シャリアル国侵攻戦には大きく出遅れ、わずかな領土拡大に留まった。
これも全ては、ヴェリアの遠謀によりベルザウスのクーデターが数年遅れたことが原因であった。
周辺諸国の狩場と化したシャリアル国は、700年5月に地図から完全に姿を消すこととなる。
ルーは、ゾルデスクを守りながらガルダと共にロー・レアルス国へ逃れ、メファイザスに見出されてロー・レアルス国将軍となる。
リッシンバー、ゾゥド、バンガーナはそれぞれ経緯は異なるものの、最終的にベルザフィリス国に仕官することとなる。
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