ハード･トゥ･ゲット･テクニック

「あなただけは特別」と持ちかけ、好意や信頼を獲得してクロージングする方法。

　これは対人迎合法=イングラチェーションにあたる。

　人は「あなただけは特別」に弱い。日常生活でも、「あなただから言うんだけどさあー」とか、「ここだけの話なんだけどー」などと使われるが、これによって何か特別な関係が芽生えてしまったように錯覚し、相手に対して好意や信頼を寄せてしまう。これは、人が自分に関心や好意を示してくれる相手に好意を持ってしまうことに起因する。

　心理学者のマズローは、人間の基本的欲望である5欲のひとつとして「承認欲」をあげている。これは誰もが自分を認めて欲しいという願望を持っていることを示している。また、アメリカの心理学者シェーラーは、ほめられることが「喜び」の感情をもたらし、その結果、好意的行動を誘発することを明らかにした。
　
　こういう人間の心理を応用して、相手を特別視していると思わせ、好意や信頼を獲得する方法を「ハード・トゥ・ゲット・テクニック」という。
　これは「手に入れにくいものをあなただけに提供しましょう」の意味である。
　クローシングに際しては、たとえ普通の条件しか提示できない時であっても「今回は特別」と言って見ると効果的。また、弱点であっても発想を転換して、「あなただけ」ということで成功する場合がある。例えば、規模の小さい会社が大きい会社に対抗するケース。規模が小さいからこそ、全社をあげて誠心誠意尽くすことができると口説き落とすのである。

【実戦①】

　「ハード・トゥ・ゲット・テクニック」は希少性をあおることによって、買いたい気持ちを起こさせるテクニックである。「あなただけは特別」というやり方には、文字通り「手に入りにくい」ことをアピールする方法も含まれる。

　例えば、ハンガー・マーケット・ポリシー。これはわざと品切れを起こして、消費者の買いたい気持ちをあおるのである。古くは村上春樹の「ノルウェイの森」、最近では人気ラーメン店が使う手である。

　また、希少性をあおるテクニックとしては「デッド・ライン・テクニック」がある。これは期間を絞り込むことによって、低価格等の条件を提示し、希少性をあおる。航空会社がやり出した「早割」がこれにあたる。フライトの数ヶ月前に買うことによって、航空券をとても安く買える。実のところは、飛行機の利用を促進したい航空会社の苦肉の策だったのだが、いまはすっかり定着して、「特割」「バースディ割」など、次々と新サービスがヒットしている。