概要

シャリアル遠征とは、蜉蝣時代の戦乱の中で、アルファ698年2月、ロードレア国軍とシャリアル国軍の間に起きた戦いである。
シャリアル国への出兵から、アルヴァドスの反乱、アレスによる撤退までの一連の戦いを総称してシャリアル遠征と呼んでいる。
シャリアル国に進軍した国は多々あるにも関わらず、単に「シャリアル遠征」といえば、この戦いを指すほど有名なものとなっている。

戦闘に至るまでの背景


▲698年3月における勢力図

遅れてきた英雄というものがいる。
類稀な才能を持ちながら、戦乱の時代に身を乗り出した時、既に国の大勢が決まり、自らの才能を持て余す者、または評価されない者、そして才能を開花させつつも結果を出すには時間があまりにも限られた者たちのことである。
シャリアル国の若き将ルーは、後に登場するリディと並んで「遅れてきた英雄」の代名詞となる。
その彼が始めて歴史に登場したのがこの戦いの序盤戦である。
この頃ロードレア国は、ロッド国に大勝し、次の矛先をシャリアル国に向けていた。
シャリアル国は、国境に4万の軍勢を集結させ迎撃の体勢を取るが、レイディックはこれに対してアルヴァドスに第一陣をまかせて国境を攻撃させる一方で、自らは密かに真の目的である国境の重要拠点フェルス城を奪おうとしていた。

2月26日、フェルス城を任されていたゾルデスクは、若き将ルーから「レイディックは国境に軍勢を向けると見せかけて、この城を狙いに来る」と告げられて衝撃を受けていた。
ルーは、レイディックが長期的な準備をして軍勢を派遣した割には、兵站の拠点がない事に疑問を持ち、国境軍は囮で、この城を狙っている事に気付き、さらにその目的が拠点確保である以上、下手に城から打って出ず、篭城して時間を稼ぐべきだと進言した。
ゾルデスクは、まだ実績のない若きルーの進言を採用するが、更にゾルデスクを驚かせたのは、城主たる彼の決断を待たずに、ルーは既に軍勢を集結させていたのだ。

2月29日、レイディックの策に不安を覚えたアレスが、レイディックの元へ赴いた。
ロッド国での捕虜虐殺の一件があってから、多くの将がレイディックに意見することを避けていたが、アレスはあえて真正面から「この策が見破られていた場合、国境軍と城攻め軍を同時に失うこととなる」と自重を促した。
しばしの沈黙の後、レイディックは、確かにリスクが高いと、アレスの意見を受け入れて、フェルス城攻めを諦めて撤退を命じた。

こうしてレイディックルー、二人の対決は実現しなかった。
だが、この作戦変更により、手柄を独占しようと焦って予定よりも早く進軍していたアルヴァドスは、国境で孤立し部隊にかなりの損害を出しながら後退する。
これまでもレイディックとの間にいくつかの遺恨を残していた彼は、これがきっかけとなりレイディックへ怨嗟の感情を持つ。

しかし、シャリアル国との戦いそのものが終わったわけではなく、一旦軍勢を引いたロードレア国軍は再結集し、再びシャリアル国との交戦状態へと突入するが、この国境突入戦で戦果を上げた若き将達がいる。
メネヴァグローリヴァスファルザス、そしてフィリスの息子アルガードである。
ラディアアリガルといった良将を失ったロードレア国だが、その国土から新たな若き将が生まれていた。
彼らの活躍もあり、シャリアル国軍を押し込むロードレア国軍。

だが、運命の歯車は、このときゆっくりと、しかし確実に廻りはじめていた。

両軍の戦力

アルヴァドスの乱



3月25日午後1時30分、先の戦いで軍勢を失っていたアルヴァドスは、本陣から大量の兵を補充すると、更にアルガードファルザスの2将を呼び寄せた。
この報告を聞いたアレスは、軍勢全体が扇状に広がってしまい、どこか一箇所でも破られれば本陣まで一気に攻め込まれる事を懸念して、若干の不安を感じていた。
シャリアル国境守備部隊は、数を集めたものの、総兵力ではロードレア国軍が圧倒していた為、副官のルガッツにも考え過ぎではないかと指摘され、アレス自身もその自覚はあったが、これは実戦を潜り抜けた者が本能的に感じる直感であったのかもしれない。
結果的に彼女の直感は最悪の形で的中することとなるが、危険性の内容は大きく異なっていた。



アレスは自らの軍勢を大きく動かして部隊を後退させ、扇状の中心点に移動し、どの部隊に急変が起きても駆けつけれる体勢を維持した。
午後3時38分、ロードレアの若獅子と呼ばれるアルガードファルザスが武功を上げていた頃、アルヴァドスはこの若き2人に戦線を任せて、軍勢を立て直すために一旦後退すると告げる。
レイディックの旗揚げから従ってきた大先輩に最前線の戦線を任され、若い彼らは感動にも似た感情で奮戦した。

午後4時17分、アレスは自らの軍勢から兵800を裂いて、副将ルガッツに本陣への増援に向かわせた。
慎重を通り越したこの命令に、これまで一度もアレスに逆らったことのないルガッツが、はじめて「そこまでする必要がありますか」と反論するが、アレスの必死の形相を見て、兵を率いて本陣へと向かった。

同じ頃、本陣へと向かうアルヴァドスの脳裏に、様々な過去が流れては消えていく。
691年の反乱鎮圧事件、それは小さな地方反乱の鎮圧作戦であった。
アルヴァドスは先発隊を率いて反乱軍と戦ったが、一向にレイディック率いる後続部隊が到着せず、彼の部隊は壊滅した。
ラディアが独断で援軍を送った為、アルヴァドスはかろうじて生還したが、この戦いで二人の弟も戦死し、父ヴォレンとの間に確執がうまれた。
実際は情報伝達が機能しなかったことから発した不幸な事故であったが、反乱軍の将がアルヴァドスと同郷だった事から自分も反乱に加担していると疑い軍勢を送らなかったとアルヴァドスは思い込み、自分を見殺しにしようとしたレイディックに不信感を覚えていた。

696年のエスデリアの戦いにおいては、レイディックの命令により捕虜を虐殺するという不名誉な任務を実行し、彼は未だにその時の悪夢にうなされていた。
今回の遠征においても、作戦の突然の変更により、彼は国境で自らの部隊を半壊させた。(ただし、これは彼自身が独断先行した為でもある)
一度生まれた不信感は、胸中で増幅され、もはや彼が仕えるべき国主は、怨嗟と憎悪の対象となっていた。

午後5時42分
軍勢を大きく迂回させ、本陣を見下ろす位置についたアルヴァドス
「自らが仕える主を誤り、そのために自らの生涯を貶めることは本意にあらず……」
そう呟くと、アルヴァドスは、レイディック本陣に自らの軍勢を突撃させた。
この時代の兵士はそれほど教育されてはおらず、部隊の将がここを攻撃しろと言えば、そこにいるのは敵だと信じ込んでいた。
そのため、アルヴァドス部隊のほとんどの兵士が、反乱に加担していることを知らないままレイディック本陣へと強襲した。
アルヴァドス部隊の将も、表立って反抗すればその場で殺される異様な雰囲気に逆らえず、また、戦乱の時代においては国主よりも自分の直属部隊の将に忠誠を誓う者も多く、アルヴァドス本人も部隊内でそれなりの人望があった為、部隊は一斉にレイディック本陣へと攻撃を仕掛けた。
これは、名もなき将にとって、国主の栄達は直接自分に関わる部分が少ないが、直属の将軍が栄達すれば、それはダイレクトに自分に見返りが返ってくる為である。

午後6時31分
アルヴァドス謀叛の報告がロードレア国軍全軍に届き、自らの不安が最悪の形で的中したことにアレスは気を失ったという。



レイディック部隊は総兵数こそ6000であったが、それは大部隊の合計兵数であり、いくつかの小部隊に分散して外敵から本陣を守る様に配置されていた為、レイディックが自ら引き連れた兵はおよそ1000であり、後方から攻め込んできたアルヴァドス軍9000の前では一瞬にして崩壊していった。
アレスの命令によって本陣防衛に駆けつけたルガッツも討ち取られ、本陣は崩壊する。
アルヴァドスは、レイディックが逃げ込んだ森に火を放ち退路を断った上で、シャリアル国に伝令を送る。

シャリアル国軍は、フェルス城から援軍を引き連れて到着したルーが異変に気付くと、自分の名前を隠して、「本国からの援軍」と偽装して、ゾゥドフォールたち歴戦の勇士たちをまるで自分の部下の様に一瞬にしてまとめあげ、ロードレア国軍を一気に追撃していく。
本陣の異変もあり、最前線で戦っていた若き将たちは苦戦を強いられ、退路も援軍もなきレイディック
覚悟を決めた彼は「思えば、人の人生など瞬きのようなもの」と自嘲の笑みを浮かべると、「アルヴァドス、貴様如きに我が剣をやる訳にはいかない」と言い残して、自ら炎の中に身を投げた。
この時代、名のある将を討ち取った証として、その将の剣を掲げる風習があった為、レイディックは自らの愛剣と共に炎の中に姿を消した。

アレスの撤退戦

アルヴァドス謀叛、レイディック戦死、本陣壊滅。
それは、前線で戦っていたロードレア国軍の士気を挫き、シャリアル国軍に数倍もの勇気を与えるには十分すぎる報告であった。
ロードレア国軍は互いに連絡もとれず、各個に撃破されていき、多くの将が散っていった。
ファルザスグローリヴァスメネヴァアルガードは、残存兵を引き連れてアレスの元に集結。
しかし、完全な包囲網に置かれたアレス達の運命も、風前の灯であった。



アルヴァドスは反乱を起こしたが、シャリアル国に寝返った訳ではなく、あくまでもロードレア国軍の内乱部隊という立場であったが、この時点でルーがあえてアルヴァドスを攻撃する理由はなく、逆にアルヴァドスを「そう動くしかない」状態に持ち込むことで、見事にロードレア国軍残存部隊の包囲網の一部に取り込む。
気を失っていたアレスが目を覚ました時、すでに闇夜が辺りを包み込んでいた。
包囲網を敷いたシャリアル国軍が総攻撃にうつるのは翌日の朝とみたアレスは、しばらく思考した後に決意を決めると、兵士達に皆を必ず故郷へ帰すと約束し、その証として自らの美顔に護身用の小刀で傷をつけた。
アレスの左頬の傷はこれ以後消えることはなく、彼女の代名詞となる。



3月26日深夜0時、アレスはまずファルザスに兵700、メネヴァに兵460を与えて、それぞれアルヴァドス部隊とシャリアル国軍へと向けさせる。
包囲網を敷き、早朝の攻撃開始を待ちわびていた彼らは、ロードレア国軍の突然の攻撃に一瞬は戸惑うものの、夜の闇を利用しての脱出は想定の範囲内だった為、落ち着いて迎撃体勢をとる。
この時、ファルザスメネヴァ部隊は素早く部隊を4つにわけ、そのまま引き返していく。
シャリアル国軍とアルヴァドス軍は、お互いを敵軍と誤認して攻撃を開始、闇夜の同士討ちを始める。
しばらくたち「アレスの同士討ちに仕掛けられたのが気付かないのか、既にアレスは南へと落ち延びたぞ!」と将が叫びはじめ、この声に漸く同士討ちに気付いたアルヴァドスは、ここでシャリアル国と問題を起こせば、ルーの気が変わり、まだロードレア国軍として認識されている自分達も一瞬にして殲滅の対象になるという恐怖もあり、急ぎ軍勢を南へと派遣する。
こうして、まさか同士討ちを教えてくれた者がアレスの手のものとは気付かないまま、アルヴァドスは包囲網を開けてしまう。
後は手薄となった北側からアレスは部隊をまとめて本国へと帰国した。

アレスの撤退を知ったアルヴァドスは、ルーの報復を恐れて自らもロードレア国方面へと撤退していく。
その報告を聞いたルーは「彼はこのまま歴史の表舞台から消えるべきだろう、もし再び天下取りの野心を持てば、一年と持つまい」と呟き、自らも軍勢を引き上げさせた。
ここではじめてゾゥドたちは、自分たちを操っていた指揮官がルーだと知って驚愕する。
これが初陣とはとても思えない、熟練の名将の如き采配であった。

戦いの結末

レイディックを失ったロードレア国の混乱はあまりにも大きすぎた。
空席となった国主の座。それを狙う将は、それぞれの軍勢を勝手に動かし始めていた。
ロッド国との国境にいたヴェリア、そのヴェリアの元へ向かうアレス
ボルゴスデイズミルフィーフィリス、そして自身の領地に戻り、再起を賭けたアルヴァドス
彼らのロードレア国国主を巡っての戦いが始まる……

4月12日
流浪の末、ようやくヴェリアの元へ辿り着いたアレス一行。
ナッシュ部隊に発見されたアレスは、まずはヴェリアの元へと赴き、事の真相を伝えた。
そのアレスヴェリアは涙を流しながら殴り、レイディックを守れなかった事を責める。
天才軍師の名を欲しいままにした彼が感情をむき出しにした珍しい光景ではあったが、やがて涙を止めると、自らがレイディックの遺志を継ぐと宣言、ロードレア国国主を巡る戦いへと身を投じることとなる。

この時、アレス子飼いの隠密出身の将リディも軍勢に加わるが、彼女こそルーと並んで、後に「遅れてきた英雄」となる将であった。
ヴェリアの旗に集った主な武将はアレスリディメネヴァアルガードグローリヴァスファルザスナッシュ
ヴェリアは、メネヴァロッド国境へ、アルガードシャリアル国境へ派遣して守備の指揮を任せると、アレスを伴ってロードレア本国へとその軍勢を向けていた。

こうして、建国以来最大の内乱となる、ロードレアの内乱が幕を開ける。


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