その血の運命
最終更新：ID:zW2O41enZw 2019年03月12日(火) 01:19:54履歴
その血の運命 
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ノスフェラトゥ。通り良くいえばヴァンパイアの一族であり、限界まで穢れを有する事による高い戦闘能力に加え特殊な血統による滅する事の難しさからも恐れられている蛮族。 彼らはごく稀に人族と子を成す事がある。その子らは『ラルヴァ』と呼ばれる。通常は中途半端ながら持つ穢れから人族には淘汰され、親を憎みつつも立場上にも困難な生涯をを送る……はずだった。
とある場所にもノスフェラトゥと人族の夫婦、そしてラルヴァの少女が住んでいるのだが……家族は至って良好だった。
｢おーよしよし、今日も我が妻は可愛いなぁ！｣ ｢あら嬉しい、けどライラも見ている前で良いのかしら？｣ ん？と父親が周りを見渡すと成人を目前にした娘、ラルヴァの『ライラ・べレーヌ』が不機嫌そうな顔でこちらを見ている。「お母さんばっかりズルいです！私も褒めて下さい！」
「おーごめんよ、我が愛しい娘よ。今日もいっぱい可愛がってあげるからな！」
「わーい！お父さん大好き！！」
訂正、家族共々仲良し過ぎるほどである。この家族が一重に仲つむまじいのは、妻がグラスランナーであり蛮族も人族も気にしない能天気な性格性があったからに尽きるだろう。それにより大切に箱入り娘として育てられた。
故に彼女はーーーーーーーーーーーー
ライラの誕生日当日。彼女の家では盛大にパーティーが行われた。ディナーを食べ、プレゼントを貰い、さて寝ようとした時、いつもにこやかな父親が神妙な顔をして口を開いた。
「あー……ライラ成人になった期に1つ伝えておく事がある。」
「え、なぁにお父さん？」
「実はだな……お前は母さんとは違う、人族ですらないラルヴァという種族なのだ。」
「ど、どういう事ですか...私はお母さんと同じグラス……」
「いくらお前でも薄々気が付いていただろう？鋭い牙に暗闇でもよく見えるその目……母さんには無いものだろう。」
「お前は人族ではない。」
思わず頭が真っ白になった。理解が追いつかないというか、戸惑いと混乱で思わず家を飛び出してしまった。ライラは自分が穢れを持っている事を知らなかったのだ。
◇
当てもなく各地を彷徨いていると人間だろうか、どうやらボガード達に襲われていているように見える。ボガード達はライラの方を見るやいなや、その小さな身体に向かって武器を振るって襲い掛かって来た。しかしその無数の攻撃は空を斬るのみ。
｢逃げ足だけは達者なやつめ...だが足がもつれた時がお前の最後だ！｣ ｢その子の人、何か武器を。｣「え、でも……武器になるものなんか……」
「その農作業の鍬でも構いません。早く！」
｢おっ、今度は攻撃か？ たかがグラスランナーの攻撃なんか自慢の肉体で受け止めて返り討ちにしてくれるぜ！」
配下のゴブリン達も下衆な笑いを浮かべていると、ライラの持つ鍬が眩い光を放った。周囲がどよめく中、振り下ろした一撃は蛮族の急所を的確に突き一刀両断した。
｢な、なんなんだお前は！｣ ｢名乗るほどのものでは無いです、自分を見失ったただの彷徨い人ですよ。｣ ｢おのれ、こんなチビにぃぃぃぃ……！｣
蛮族の群れを片付けると、住民は彼女に感謝を述べた。助けてくれたお礼に私達に出来る事なら何かお手伝いを……と言っていたのでライラは口を開いた。
｢何か食べ物ぉ下さいませんかぁ...もう3日も何も食べてないのです...｣ ｢そ、そうでしたか...ではうちの村に来て下さい。道中お話もお聞きしたいです。｣
言われるがままに着いていくと彼女は一心不乱に食べ物を口に放り込んだ。気を良くしたのかどこから来たのか、家出した事等を話してしまった。そして今はその日暮らしで各地を彷徨っているということを...。しかし、穢れが有ると話しても対して避難することは無く、ある提案を受けた。
｢ならうちの村で働くかい？貴方みたいな用心棒がいればきっと安心ですよ！｣ ｢いえ、しかしそういう訳には...迷惑をおかけしないか。｣ ｢嫌な顔をする人は確かにいるかもしれないけど……それか、冒険者になるとかが妥当じゃないかねぇ。｣ ｢冒険者、ですか。なんですかそれは……？｣ ｢何でも屋って感じかねぇ、蛮族の退治から各地の探索まで色んな事をするんだよ。もちろん危険な仕事だがね...その分名声は貰えると思うよ。」 ｢うーむ...｣ ｢どうしても迷うならちょうど近くの街に占い屋さんが来てるからそこで聞いたらどうかな？｣
ライラは礼を言いつつ、言われた占い屋の所に走っていったのだった。
何日たっただろうか。言われた占い屋は各地を気ままに転々と気まぐれに街を移動しているらしくいつの間にかライラは16歳になっていた。そんなある日、ようやく見つけた大きな屋敷の前に小さいテーブルと椅子があるのを見つけた。テーブルの前方には汚い字で『るーちーのうさないや』と書いてあった。何だこれは……。呆然としているとライラより小さい者が声をかけてきた。
｢やぁやぁいらっしゃい！ここにお客さんが来るなんて久し振りだよー！いやー、人生何があるかなんて分からないものだね！｣
いかにも呑気そうな少年はケタケタと笑っている。
｢えーと……貴方は誰ですかね。｣ ｢僕はルーサー・ラナー！ここのてんちょーだよ！｣ ｢君が占うの？｣ ｢うん！｣ ｢大丈夫なの？｣ ｢うん！｣ ｢本気？｣ ｢うん！！｣
ライラは思った。駄目そうだなぁ...と。寄りによってこんないかにも世間知らずな子供が占いをしているなんて……まともに占えるはずがない。
｢まぁなんでも言ってみなよー、君の迷いはなんなんだい？｣ ｢あぁはい、実は働き口を探していてですね...こう見えて私、ただの人間じゃないらしくて……｣ ｢ほえー、じゃあ少々待ってねー。君の為に僕が占ってしんぜようー。｣
ルーサーは真剣な目になるとオーブを取り出し何かを念じ始めた。正直ライラは、ふざけているのかと思っていたが少しは信じていいのか...とは思う程度には考えを改めたのだった。
｢はいはい、結果でたよー。お待たせしたねー。｣ ｢う、うむ。それで私はどうしたらいいんですか？｣ ｢ここからすぐ隣に大きいお店が見えるでしょ？｣ ｢えぇ、見えますね。それがどうかしたのですか？｣ ｢石鶏亭って所なんだけどねー、そこで冒険者として働くといいと思うよー。｣ ｢おねーさんみたいな人でも気にしないで雇ってくれるよー、それにいい人ばっかりだし！ご飯も美味しいよ！｣
彼はそうにこやかに言うとおもむろに血を吐き出した。
｢おい、大丈夫なんですかそれ……｣ ｢気にすることないよー、僕は占いに向いてない体質らしくてねー。皆最初は驚くんだー。｣ ｢なんでそこまでして……そんな事｣ ｢好きだから以外に理由がいるかい？｣ ｢好きだから？それだけか。｣ ｢そだよー、僕は呑気にしてるけどやりたい事のためなら本気になるんだからね！それが日々の楽しみでもあるしねー！｣
そうか、自分の好きな物のためなら本気になれる、か……。
｢かく言う僕もあそこの冒険者の1人なんだよー！いやー、新人さんが来てくれてよかったよ！｣ ｢って、宣伝のつもりだったのですかー！｣ ｢まぁそれもあるけどね。本当に占ったのはこれだよー。ラッキーアイテム。｣
ルーサーはそういうと懐から綺麗な眼帯を取り出した。鋭くオッドアイの彼女の目を隠すのにはピッタリな代物だ。
｢君は、いかにも強そうだしねーこれとかオシャレでいいと思うよ！あとは自分で源氏名とか付けるのとかカッコイイだろうねー！｣ ｢全く貴方はふざけているのか本気なのか……掴みどころがない人ですね。本当に。｣
そういって久し振りにライラは楽しそうに笑うのだった。
｢お、やっぱり美人さんだねー。それに、みんなと違う力を持ってるのって僕羨ましいなー｣ ｢よしてください、なんだか...照れますよ。｣
その考えがあったか、この時からだ。ライラは自分を最強の冒険者と思うようになったのは。こうしてライラの冒険者としての生活が幕を開けたのだった……
｢これから私は光鮮血の王(キング・ブラッドレイ)と名乗りましょう。 私の血は獲物に垂らすと光り輝き誰をも切り伏せる最強の証となるのです！どうです、カッコイイでしょう！｣ ｢ふーん、なんかダサいけどいいと思うよー。｣ ｢ダサいとはなんですか……私は最強の力で大切なものを守るんです！｣ ｢はいはい、誰かいるかなー……お、ヴェロニカだっけ。えーと頭の痛い子！こっち新人のライラって子なんだってー、仲良くしてあげてね♪｣ ｢誰が痛い子じゃ！そこに直れチビ助が！無礼であるぞ！｣ ｢……女神。｣ ｢...ん？どうかしたのじゃそこの下々民、精々余の優秀な駒として働いてもら……｣ ｢貴女とっても可愛いですね！女神のよう！少しでいいから貴女の血を吸わせてくださいぃぃぃぃ！！｣ ｢な、なんじゃお前は！！ 離せぇぇぇぇ……｣
石鶏亭は今日も平和。だが前途は多難そうだ。
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