アクセス規制を受けた方のための本スレ転載用スレッド

0gunslingergirl_ss - 10/01/09 22:51:57 - ID:gunslingergirl_s

規制を受けた方のための転載用スレッドです。
現在の本スレはCCさくら@2ch掲示板の
「社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室」です。

社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1231771865/

  • 62gunsringergirl_ss2 - 11/05/14 02:22:31 - ID:gunsringergirl_s

    >>60-61
    転載しました。遅くなりましてすみません。

  • 63保管サポータ - 11/05/17 23:22:36 - ID:rp/vx0kLfA

    (久々にアク禁ですorz
    申し訳ありませんがどなたか以下のレスの転載をお願いいたします)

    143氏、分かりやすい訳註を添えていただいてありがとうございました。

    COSCA 第七章 仁義なき誘拐
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/d/COSCA%20%20%c2%e8%bc%b7%be%cf%a1%a1%bf%ce%b5%c1%a4%ca%a4%ad%cd%b6%b2%fd

    jino氏からの御連絡は気長に待つようでしょうね。お手数おかけしてすみません。
    更新されなくなってから2年以上経つようですから、
    もしかしたらもう二次創作から手を引いてしまったのかもしれませんし。
    その場合は残念ですがあきらめるしかないですかね…

  • 64gunsringergirl_ss2 - 11/05/17 23:23:37 - ID:gunsringergirl_s

    第七章はアクション編なんですね。
    ヘンリエッタとペトラを掛けて2で割ったのを2倍にしたような…
    ヒルシャーが気の毒でならないw

  • 65保管 - 11/05/18 23:02:14 - ID:rp/vx0kLfA

    143氏連日翻訳ありがとうございます。以下に保管しました。

    COSCA 第八章 コスカ・コネクション
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/bbs/911/l50

  • 66保管サポータ - 11/05/18 23:09:48 - ID:rp/vx0kLfA

    (>>65訂正します)
    143氏連日翻訳ありがとうございます。以下に保管しました。

    COSCA 第八章 コスカ・コネクション
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/d/COSCA%20%20%c2%e8%c8%ac%be%cf%a1%a1%a5%b3%a5%b9%a5%ab%a1%a6%a5%b3%a5%cd%a5%af%a5%b7%a5%e7%a5%f3

  • 67名無し - 11/07/01 01:49:36 - ID:gkQ6+J+Lww

    転載お願いします。

    >>241
    保管サポーターさま、転載作業ありがとうございます。
    期限前に作業完了出来て、良かったです。

  • 68名無し - 11/07/02 01:23:42 - ID:tT/upOVM1Q

    思う存分休むがいいわ
    もう頑張る作業もないんだから


    転載乙です!!

  • 69名無し - 11/07/02 07:42:50 - ID:l4S7DZcDFw

    >>63-66
    タイミングがずれてしまったので転載しませんでした
    >>67-68
    転載しました

  • 70名無し - 11/07/10 23:46:14 - ID:McgbsuJHmA

    アクセス規制中なのですがちょっと長めのエルザSS上がりました
    85KBもあるのですが、ここに貼ってもよろしいのでしょうか?

    質問なので転載しなくて大丈夫です
    どなたか回答よろしくお願いします

  • 71gunsringergirl_ss2 - 11/07/11 22:24:48 - ID:gunsringergirl_s

    >>70
    大丈夫です。ぜひおねがいいたします。
    ただ、文字制限があると思うのでいくつかに分割していただく必要があるのと、
    さくら板支所への転載の際は、連投規制(7レスまで)の関係で
    おそらく2日か3日に分けて転載することになりますが、御了承ください。

  • 72名無し - 11/07/11 23:44:04 - ID:McgbsuJHmA

    >>71
    ありがとうございます!
    ではお言葉に甘えて貼らせていただきます
    何卒よろしくお願いいたします

    さくら板現行スレ>>231氏のエルザMADに触発されて
    長々と書いちゃった次第です

    作中にどうしても彼岸花使いたかったんですが
    イタリアにはない花だと聞き涙・・・
    タイトルにだけ使用させていただきました

    お楽しみいただければ幸いです

  • 73捨子花 1/16 - 11/07/11 23:58:46 - ID:McgbsuJHmA

     ヘンリエッタから銃を取り上げた時に擦った右頬が今更のように疼き、ピエトロ・フェルミは、意図的に深酒しているのにちっとも酔えていない自分に気が付いた。潰れるには早い、まだ何か残ってるぞ――義体のためについた傷がそう訴えかけてくる。
     エレノラとジョゼはもう既に仕事の話をやめ、帰りに飯を食うならどのレストランがいいか、夏のタオルミーナに来るならどのワイナリーで何を飲むべきかという、薄っぺらながらも余程楽しい話題に移っていた。朗らかに笑いながらメモを取る同僚に対して、本気で観光ガイドにでも転職した方がおまえの人生は愉快になるんだろうなと思いつつ、フェルミは感覚が色褪せないうちに話をまぜ返すことにした。
    「なあ」 ウィスキー後のシメのつもりで、マルサラ酒に手を伸ばす。「義体は優秀な戦闘員だが思春期のガキで、愛してくれなきゃあなたを撃ちますってくらい思い詰めるヤツもいるってことは分かった。だが、皆最初からそうなのか?」
     ジョゼとエレノラはぴたりと観光トークをやめ、フェルミに向き直った。
    「最初からそうなのかって、何が?」
    「いろんな不安定要素があってなお、最初からスーパー兵士なのかってってことさ。条件付けの究極は要するに、あの子らをSF映画ばりの忠実なロボット兵器にすることだろ? でもあんたはヘンリエッタに、敢えて不安因子を残してでも人間であることを望んでる。そんな調子で、どうやってあの子をいっぱしの暗殺者に鍛え上げたんだ?」
     ジョゼは愚問だとばかりにふっと笑い、ウィスキーを煽った。「その辺は訓練がものを言うのさ。それは人間も義体も変わらない。特に元健常者の義体は義肢に慣れるまで時間がかかるから、軍事訓練以外の身体活動も平行してやらせて馴染ませなければならないんだ。その過程で思考能力や精神力も同時に養ってる。例えば、ヘンリエッタにはヴァイオリンを習わせてるし、トリエラは外国語の書き取りなんかをやってるよ」
     疑問がまた増えた。「そういった活動には専属のトレーナーをつける?」
    「いや、もちろん担当官が自分でやる」
    「なるほどね」 フェルミは一つ一つの事項を奥歯で噛み砕きながら頷いた。「エルザのそういった慣らし活動も、全部ラウーロが付きっきりで担当した?」

  • 74捨子花 2/16 - 11/07/12 00:02:04 - ID:McgbsuJHmA

     エレノラがはっとしたような表情になった。ラウーロ・エルザ組は優秀なフラテッロだったという。仕事以外ではまともに義体に取り合わなかったらしいラウーロが、どうやって一からエルザ鍛え、優秀な戦闘員にまで育て上げたのか? フェルミに酒が回らない理由は、この辺のつかえが取れないからだ。
    「なんだ、こりごりだとか言っといてやっぱりいいとこ突くんだな」
    「俺は9杯目がいちばん冴えるんだ。素面の時の俺なんか仮初めさ」
    「アル中の言い訳みたいに聞こえるぞ」
    「俺の血管もローマに通じてるんだよ。なあジョゼ、俺は課長に内緒で来てるんだ。全部オフレコにするし、あんたの兄貴にだって黙っといてやる。だからもう少し教えてくれ――どうやってエルザは、ネグレクトが基本の担当官の元でそこまで優秀になれた?」



     どうして自分が社会福祉公社にいるのかエルザは知らない。目覚めたらここにいて、組織に忠誠を誓っていて、銃の使い方を知っていて、ラウーロという男が担当官だった。それらが何故かは分からないが、その理由がちっとも重要でないことだけは理解していた。彼女の意識からは“どうして”を求める部分だけが欠落している。知らなければいけないのは“どうやって”だけだ。
     目覚めてすぐは義肢を動かすことさえままならなかった。射撃は少しも上達せず、障害物コースのタイムも常人以下で、CQBでもヘマばかり、その都度ラウーロになじられた。叱責後に時折、彼がエルザの目の前で、わざと見せ付けるように上司に突っかかっていた。
    「こんな不公平な話があるかよ? あんたのリコはそこまで機敏に動けるってのに、なんで俺にだけ鈍くさい義体を押し付けやがったんだ? こんな木偶の坊は燃えないゴミにでも出して、さっさと別の奴と組ませて欲しいね」
    「焦ったって結果は出ないぞ、もっと根気よくやれ。射撃よりまず自分の身体に慣れさせろ。なんでもいいから体の動かし方を覚えさせるんだ」
    「毎日ひたすら走らせてるよ、なのにちっともまともに動けるようになりやがらねえ。慣らしたくらいじゃどうにもならないくらい、こいつには元々素質も才能もなかったんだ」

  • 75捨子花 3/16 - 11/07/12 00:04:00 - ID:McgbsuJHmA

    「素質も才能も既に補われている。それを生かす土壌が育っていないだけだ。ラウーロ、お前はエルザにかけた莫大な予算と労力を無駄にする気か? この先作戦二課でやっていきたいと思うなら、義体の能力を最大限に引き出せるようちゃんと訓練しろ」
     ちっ、とラウーロが舌打ちするのが聞こえたが、エルザはその時何とも思わなかった――ラウーロに申し訳ないとも、彼の言い草に傷ついたとも、何とも。義体が義体でいるのを嫌がることができないように、担当官も担当官でいることを拒否できるとは考えなかった。ラウーロがどれだけエルザを邪険に扱おうが意に介すべきではないことは分かっている。彼女はただ、次に下される命令に従えばいいだけだ。
    「ようヒルシャー、いいとこに来た。なあ、頼みがあるんだけどさ、座学で出す宿題、エルザの分だけ倍にしてくれねえか。ジャンさんは義肢慣らしに楽器演奏やら書き取りやらもやらせてみろって言うんだが、俺だって他に仕事があるんだし、そんなのいちいち付き合いきれねえよ。だから、いつもやらせてることを生かそうと思ってさ。脳みそにカビの生えた元軍人さんらと違って、整合性大好きドイツ人のおまえはその辺の要領くらい弁えてるよな?」
    「別に構わないがラウーロ、もちろん君が後でチェックを入れるんだろうな? エルザの世話を僕に丸投げするつもりじゃないなら請け負ってもいいが、そのつもりがある場合はお断りだ」
    「チェックなんか必要あるかよ、頭で思った通りに体を動かせるようになりゃいいだけだろ。とにかくあいつを課題責めにしといてくれ、俺からの命令だっつってな。おまえもいちいち採点しなくていいぜ、ただ何かやらせときゃいいんだからな」
     エルザはラウーロの同僚が気の毒そうな表情で彼女を見ていることに気が付いた。確かにその日から学科の宿題が倍になったが、ラウーロの命令ならそれをこなすだけだ。

  • 76捨子花 4/16 - 11/07/12 00:10:07 - ID:McgbsuJHmA




    「じゃあ、ラウーロはトリエラの担当官に義肢慣らしの面倒を見させてた?」
    「面倒を見させてたって程じゃないが、ヒルシャーの方はエルザが書いてきたジャーナルの添削を毎回まめにしてやってたみたいだな。よく彼からラウーロの愚痴を聞かされたよ。せっかくコピーを取ってファイルにまとめてやってるのにちっとも目を通そうとしないとか」
    「彼のところに行けばエルザが書いた文書がある?」
    「捨ててはいないだろう。頼めば見せてくれるかもしれない」



    「ラウーロさん」
     エルザは前を歩く担当官に声をかけたが、彼は振り返りもしなければペースを落としもしなかった。
     彼の耳に声が届いたか定かでなかったので、もう一度呼びかけた。「ラウーロさん」
     舌打ちが返ってきた。「聞こえてるよ。何度も呼ぶな、鬱陶しい」
     聞こえていたならそれでいい。「フランス語の作文、上達しつつあるとヒルシャーさんに褒められました。ラウーロさんに見ていただくように言われたので、持ってきたのですが」
    「先生がよくできましたって言うんならそうなんだろ。俺が見る必要なんかねえよ」
    「でも、見ていただくように言われました。必ずそうしろと念を押されたんです」
     ラウーロは面倒臭そうに振り返り、エルザが両手で差し出しているファイルフォルダを一瞥した。
     そして、それを手に取ることなく再び前を向いて歩き出した。「ちゃんとやってんのは分かったよ。次はもっと頑張れ」
    「……はい」 返事が一瞬遅れたのは、初めて体験する奇妙な感覚に襲われたからだ。
     ちゃんとやってんのは分かったよ。次はもっと頑張れ。成果事態は見てもらえなかったが、成果が上がったことは認めてくれた。あのラウーロが――ちゃんとやってんのは分かったよ。
     添削した教官は、「動詞活用で間違えなくなったのは進歩だ、君はよくやってる」と言った。彼も認めてはくれたのだろう、しかしその言葉には何も感じなかった。ラウーロの一言は違う。まるで心臓に突き刺さるようだった。人工の血が沸騰したように熱くなった――ちゃんとやってんのは分かったよ。
    「はい、ラウーロさん」 エルザは、彼女を置き去りにするペースで歩き出した担当官の背中に向かい、彼にもらった言葉を胸中で反芻した。「私、次はもっとがんばります」

  • 77捨子花 5/16 - 11/07/12 00:12:25 - ID:McgbsuJHmA




    「――ここまではいいか? 要するに、古代ローマ初期の文学はギリシャ文学の模倣から始まり、直接の影響を受けた上で方向性が反転したものと考えていい。この辺は前回説明した通りだが、ギリシャではディオニソス神の祭りで演劇を上演することが制度化された、だから舞台技術が発達し、最優秀悲劇詩人を投票で決めるため悲劇のジャンルが伸びた。これがローマ期に入ると――」
     フェルミとエレノラが入室すると、黒板に文字を書きながら喋っていた黒髪の二課員が振り返り、一旦言葉を区切った。面識はないが見覚えはある――以前、南部マフィアの件でちょくちょく作戦一課のオフィスを訪れていたドイツ人だ。他の課からの頼まれ仕事といい、ラウーロからの押し付け仕事といい、ねだれば案外何でもやってくれる男なのかもしれない――ラウーロ・エルザ事件の黒幕は五共和国派ということで片付けられた今でも。
     階段状の講堂にまばらに座っている義体たちも一斉にフェルミたちに注目し、2人が最後列に着席するまでの動作を目で追った。ほとんどがただの興味本位、動いているものがあったから見ていただけ、という理由もへったくれもなさそうな彼女たちの視線だが、リコの隣に立っているトリエラの目だけは分かりやすかった――「まだ納得できないことが残ってるの?」 ついこの間までエルザもこの中に混じって授業を受けていたのかと思うと、ここにいる少女たちもすぐに一人、また一人と消えてゆくであろう錯覚を覚える。演壇の向こうにいる、ねだれば意外と何でもやってくれそうなトリエラの担当官は、一瞬の間を置いた後、何事もなかったかのように淡々と続けた。
    「ローマ期に入ると喜劇が主流になった。もう誰も悲劇なんか見たくないというわけだ。ここからまたパンとサーカスの影響で割とすぐに演劇は廃れる。現存するギリシャ悲劇に対してローマ喜劇が圧倒的に少ないのはこのせいだな。そこで今日の課題なんだが、今黒板に書いたギリシャ悲劇とローマ喜劇の著者、彼らをそれぞれのカテゴリから一人ずつ選び、さらにその著作の中から好きなものをそれぞれ一本ずつ選んで、感想文を対比論文形式にして来週のこの時間までに提出するように。質問がなければ今日はこれで終わりにするが、次回は民主制と共和制についてディスカッションするから予習を忘れずに」

  • 78捨子花 6/16 - 11/07/12 00:14:02 - ID:McgbsuJHmA

     義体たちが席を立ち、他愛もないお喋りをしながらぞろぞろと退室し始めた――相変わらず宿題が難しいだのお願いクラエス手伝ってだの何だの。もうフェルミとエレノラに注意を払う少女は誰もいない。トリエラが黒板消しでボードの掃除を始めたので、消される前にフェルミは、ヒルシャーが書いた文字を読み取った――ローマ喜劇:プロータス、テレンティウス。ギリシャ悲劇:ソフォクレス、アイスキュロス、エウリピデス。
    「あんまり子供向けのラインナップじゃないな。特にギリシャの最後のやつ、“愛はビョーキ”がテーマの、怖い女がトチ狂って肉親殺しになる話を義体に読ませるのはさすがにどうかと思うぞ」
     ヒルシャーが階段を上ってきた。「彼の著作は『メデイア』だけじゃありませんよ。それに、義体だって創作は創作と割り切ることくらいできます。エルザ事件は五共和国派の仕業ということでクローズしたはずですが、捜査班の方が僕に何の用ですか?」
     エレノラが立ち上がったので、フェルミも一応立ち上がって手を差し出した。「作戦一課のピエトロ・フェルミとエレノラ・ガブリエリだ。まだ少し気になることが残っててな、エルザをよく知ってるだろうあんたに話を聞ければと思ったんだが」
     ヒルシャーは2人の手を無視した。「二課が事件を第三者のせいにしたのが納得できない、違いますか?」
     エレノラが気まずそうに手を引っ込め、フェルミはその手で胸ポケットの煙草を掴んだ。
    「話が早そうだが、事情は複雑そうだな。あんたは事件の真相を知らされて尚且つ、それを隠蔽するようにロレンツォ課長やらおっかないジャンやらに釘を刺されてるのか?」
    「僕が知らされた真相は、義体と担当官をまとめて殺害できるほどの凄腕が五共和国派にいるということだけです。だから用心しろと。あなた方がどんな答えを導き出したいにしろ、憶測できる材料はもうこれ以外に残っていないでしょう」
     ヒルシャーは本やノートを重ねた荷物の中から一冊のファイルを取り出し、フェルミの前に置いた。煙草を引っ込めて表紙をめくってみると、一番上はたどたどしい筆跡のイタリア語で書かれたレポートだった。『イタリア以外の半島国家における南北格差について』 エルザ・デ・シーカ。

  • 79捨子花 7/16 - 11/07/12 00:15:56 - ID:McgbsuJHmA

    「いくらなんでも話が早すぎる。隠蔽工作の一端で偽物を掴ませてるって風にしか取れないぞ」
    「真実を突き止めたいのは僕も一緒です。ただの仮説ですが、エルザはラウーロと無理心中を図ったのではないですか? あなた方が証明したい答えはそんなところではないかと思って、ここに来るのを待っていました」



     エルザは、励んだ。ラウーロにもう一度認めてもらうためなら何でもやるつもりだったし、そのための活力が際限なく湧いてきた。ちゃんとやってんのは分かったよ。次はもっと頑張れ。彼のその声、その言葉を思い出すだけで体が軽くなり、射撃の精度も身体の反応速度も見違えるほどに飛躍した。見てください、ラウーロさん、私、もっとがんばれるんです。あなたの言った通りにできるんです――そうして励むうちに、いつしか彼女はリコに次ぐ優秀なスナイパーになり、接近戦でもトリエラに引けを取らないくらいの強力なファイターになっていた。もちろん、勉強面でもトリエラやクラエスに負けていない。他の義体たちはグループで教え合いながら学習するので、たった一人でも学力を伸ばせるエルザは自分を誇ると同時に、群れることしかできない彼女たちを見下していた。
     エルザの中には他の義体と競い合うという概念こそなかったが、ラウーロの注目を求めれば求めるほど、彼が他の少女に目を向けることが許せなくなった。ラウーロが他の担当官と話すときに、相手の義体の名前を口に出すことにさえ、激しい憎しみを覚える。ある日、ラウーロがマルコーと話している時、とうとう彼女の怒りが爆発した。
    「なあマルコー、あんたのアンジェリカは最近忘れっぽいらしいが、それがかえって羨ましいよ。一応断っとくが、嫌がらせで言ってるんじゃないからな? 些細なことまで何でもかんでも覚えてられてさ、『ラウーロさん、私あなたが頑張れって言ったから頑張りました』とか聞かされながら四六時中付き纏われてみろよ。最近それでちょっとノイローゼ気味だ」
     マルコーがラウーロに軽蔑的な睥睨を投げかけるのが分かった。「そりゃ気の毒に。ここの技術部棟にいい医者がいるから、どぎつい向精神薬をたっぷりもらってくるんだな。毎日服用してればそんな悩みとは一生無縁のおつむが手に入るぞ」

  • 80捨子花 8/16 - 11/07/12 00:18:07 - ID:McgbsuJHmA

    「おいおい怒るなよ、単純に羨ましいだけなんだって。忘れっぽいのを差し引いても、アンジェリカは爽やかなもんだろ? 一緒にいるとこっちまで陰気になるような義体、俺に選択権があったら絶対に選ばなかったよ。やっぱりジャンの野郎に一杯食わされたのは間違いじゃなかったんだ、畜生め」
     エルザは素早く周囲を見回した。すると、向かい側の通路を通り過ぎていくアンジェリカが目に入った。トリエラの押す車椅子に乗り、クラエスを傍らに歩かせて、3人で楽しげにお喋りしながらどこかに向かっている。
     エルザは自分でも驚くほどの速さで中庭を突っ切り、アンジェリカの前に立ちはだかった。3人がぴたりと歩みを止め、何の用かとばかりに一斉に彼女に注目した。
     エルザは、ありったけの憎悪を込めてアンジェリカを睨みつけた。「……ラウーロさんの前から消えなさい」
     アンジェリカはわけが分からないといった風にエルザを見つめ、硬直した。
    「聞こえなかったの? 二度とラウーロさんの視界に入らないで。ラウーロさんは、あなたなんかにかかずらってるほどお暇じゃないのよ」
    「……あの……? ええと……」
     低脳なアンジェリカ。これだけで何も言い返せなくなるなんて、なんて出来の悪い義体だろう。私はもっと優秀なのに、ラウーロさんはこの子のどこがそんなに羨ましいって仰るの? ただのがらくたのくせに。自分の担当官にすら相手にされていない、ごみのくせに。
     トリエラがアンジェリカを庇うように間に入った。「ちょっとエルザ、よく分からない言いがかりをつけてアンジェをいじめるのはやめなよ。何があったか知らないけど――」
    「あなたには関係ないわ。いちいち口を挟んでこないで」
     目障りなトリエラ。この独善的な目立ちたがりはいつもいつも何様のつもりなのだろう? 担当官に逆らうような欠陥品のくせに、自分が一番有能だから他の義体の面倒を見るのは当然という態度をどんな時でも崩さない。この女ばかりがもてはやされるせいで、ラウーロさんはなかなか私を見てくださらないのかもしれない。こんな女がいるせいで。

  • 81捨子花 9/16 - 11/07/12 00:20:07 - ID:McgbsuJHmA

     クラエスがトリエラの肩に手を置いた。「トリエラ、言わせておきなさいよ。きっとエルザは何か勘違いしてるんでしょ。全部吐いてすっきりしたら、我に返ってそこをどいてくれるはずだわ」
     存在自体が無意味なクラエス。彼女がまだ生きているのが信じられない――担当官なしの義体の人生に何の意味があるっていうの? 無意味な絵を描き、無意味な音を鳴らし、無意味な畑を耕す、ただそれだけの馬鹿げた毎日に。義体は担当官のためにいるのに、どうして担当官と一緒に死なないのかがさっぱり理解できない。私ならそうするのに。ラウーロさんのためだけに存在している私なら、そうしないはずがないのに。
    「とにかく、あなたには自分の担当官がいるんだから、今後一切ラウーロさんに近づかないで。今度ラウーロさんを煩わせたら、私があなたを殺すわよ」
     きょとんとこちらを見つめるアンジェリカを尻目に、エルザは踵を返して再び中庭を横切り始めた。もう既にラウーロの姿は見えなくなっていて、彼女は舌打ちした――あんなジャンクどもに関わっていなければ。
     彼女の強化された聴覚に、再び前進を始めたジャンクどもの会話が引っかかってきた。
    「アンジェ、気にしちゃだめだよ。エルザは本当に何か勘違いしてたみたい。きっと、担当官のことでむしゃくしゃしてたんだろうね。八つ当たりの的にされちゃって、とんだ貧乏くじだったね」
    「さっきの子、エルザっていうんだね。トリエラとクラエスはよく知ってるの?」
    「うん、まあ…… 知ってるけど、そんなによくは、ってかんじかな。実は、私もそこまでたくさん話したことないんだ。あんなに喋ってるあの子を見たの、今日が初めてだしね」

  • 82捨子花 10/16 - 11/07/12 00:21:45 - ID:McgbsuJHmA




     ファイルは分厚い。一つのジャーナルは長くてもレポート用紙2枚程度だが、ラウーロが休みの日もエルザは毎日書いていたのか、日付に穴がまったくない――彼女の死の前日まで。
     最初はたどたどしいながらも学術的な記述が大半を占める。イタリア語、ドイツ語、フランス語、英語、スペイン語。国内の社会問題、欧州の政策、中東情勢、アフリカの内情、世界経済。読み進めるうちに筆跡が流麗になり、赤インクで正された綴りや文法ミスが減っていく。上達が驚くほど早く、これだけでエルザがどれほど呑み込みの早い生徒だったかが分かる。
    「教室ではいつも一人で座っていました。基礎学力にバラつきがあるので、授業中はトリエラにTAの役目を任せているのですが、エルザが彼女に助けを借りているところは見たことがありませんでしたね」
     エレノラがメモを取りながら尋ねた。「その時点で、エルザが複数での任務に向かないことが明確だったんですね。そのことについてラウーロにアドバイスしましたか?」
     ヒルシャーは溜息をついて頷いた。その様子が、トリエラが「馬鹿言わないで」と言っていた時の仕草に似ていて、なんとなく彼女の方が彼を真似ているのだという印象をフェルミは受けた。
    「何度も指摘しました。一度も取り合ってもらえませんでしたが。彼はエルザのことについて話すのを嫌がっていました。他のことは何でも陽気に話す男でしたし、いつもの礼と称して何度も飲みに誘ってくるほどざっくばらんな性格でしたが、義体はただの武器であればいいという考えは生涯揺るがなかったようです」
     フェルミは、先を急いで読み進めた。まだまだ枚数がある。読んでいくうちに、最初はレプブリカ紙の社説みたいだったがちがちに堅い小論文が、だんだん夢見る乙女の妄想日記みたいなエッセイを含んで緩やかになり始めた。序盤を脱したと思ったのは、英語で書かれた読書感想文を見つけた時だ――『“オセロ”はなぜ悲劇と呼ばれるか』

  • 83捨子花 11/16 - 11/07/12 00:23:31 - ID:McgbsuJHmA

    『私は“オセロ”を悲劇だとは思いません。デズデモーナを殺したオセロは自害し、結局彼女と一緒になれるのですから幸せです。そうなるように奸計を弄したイアーゴーは悪役ではないと思いますが、妻エミリアを刺して自分は生き延びたので可哀想な人です。全体的に幸せな雰囲気に包まれた喜劇的作品だと思いますが、もし悲劇的要素があるとすれば、オセロが最後までデズデモーナを信じられなかったことでしょう。私なら、愛する人を疑うことなんて考えられません』
    「なあヒルシャー、さっきあんた、義体だってフィクションと現実の区別くらいはつけられるとか言ってなかったか?」
    「この時点では変に捻じ曲がった共感を抱いていただけと解釈しました。凄まじいのはもう少し先です」
     フェルミは、特に気にならないページを適当に飛ばした。すると、どんな言語を用いても達者だった今までの筆跡が荒れ始めた――『ラウーロさんについて』
    『今日はラウーロさんがアンジェリカに多大な迷惑をかけられました。私が殺すわよって注意してあげても、彼女は少しも反省しているようには見えませんでした。なんて傲慢な義体でしょう、彼女みたいな子は即刻廃棄処分にすべきです。でもラウーロさんはお優しいから、私がその出来事について話したら、「おまえの言ってることの何もかもがさっぱりだ。壁に向かって話し方を練習しろ」と仰って、アンジェリカをお許しになりました。ラウーロさんは神様よりも寛容で、空よりもお心が澄み切り、海を渡る風のように真っ直ぐで、磨きたてのSIGみたいに清廉な方です。彼のためなら、私は壁とでも話せます』

  • 84捨子花 12/16 - 11/07/12 00:25:12 - ID:McgbsuJHmA

     その辺からはもう学術的な小論文はなく、ラウーロのことについて詳細に記したストーカーの妄執ポエムみたいな怪文書ばかりになった。筆跡が正常に戻った日、特に美しい日、荒れ放題で読むことさえままならない日など、同じ人物が書いたと思えないほど起伏の振り幅が毎日大きい。涙ぐましいことに、赤インクの修正は毎回律儀に入れてあった。『もう少し実のある内容を書くように』と文末にコメントが載った次の日など、レポート用紙いっぱいに大きな文字でこう書き殴ってあった。『ラウーロさんのこと以上に実のある内容なんてないわ!!』
     フェルミは労わるつもりで深々と嘆息した。「こんなのに毎日付き合ってやったのか?」
     当時の様子を思い出したのだろう、ヒルシャーがうんざりした表情で頷いた。「エルザは絶対にそのうち何かやらかすだろうと思っていたので、様子見目的で続けました。かなり初期の変調の頃からラウーロに知らせてはいたんですが、当然の如く彼は耳を貸さなかった。彼の態度に諦めず、条件付けがあるからと油断もしないで上に進言していれば、或いはあんなことにならなかったのかもしれません」
    「そうか」 フェルミは確信をもってヒルシャーの目を見た。「後悔してるから協力してくれるのか」
     ヒルシャーは目を伏せた。「腹立たしいこともありましたが、ラウーロは決して悪い人間ではありませんでした。エルザには冷淡でしたが、それが彼のやり方だったんです」

  • 85捨子花 13/16 - 11/07/12 00:27:21 - ID:McgbsuJHmA




     エルザは筆を置いた。最後のジャーナルは満足のいく出来だ。今回は提出するつもりはない。最後の最後なのに、口うるさい教官に無粋なけちをつけられたくない。
     誤字・脱字・表現ミスがないかどうか確かめるために、もう一度彼女は文章に目を走らせた。フランス語で書いたのは、最初にラウーロに認めてもらった思い出の言語だからだ。
    『ラウーロさんに担当官になっていただいたことは、私の人生で最良の出来事でした。あの日以来私の働きをお認めいただくこともできなかったし、トスカーナでは失望させてしまったけれど、それでもラウーロさんへの愛情は揺らぎません。むしろ、ますます強くなりました。私をここまで絶望に追い込むことも、たった一言で幸せの絶頂に押し上げることも、ラウーロさんにしかできないことだと分かったからです』
     涙が溢れて文字が霞んだ。エルザは目元を乱暴に拭い、読み進めた。時間がない。
    『最初にラウーロさんと出会った時は、自分がこんなに人間的な感情を持つことができるとは思いませんでした。義体はただの人形で、ただ戦っていればいいだけだと目覚めた時から思い込んでいたからです。でも、私は愛することを知りました。喜ぶことも、怒ることも、悲しむことも、何もかも。すべてラウーロさんのおかげです。ラウーロさんと一緒にいる限り、私はただのサイボーグではなく、ラウーロさんと同じ人間でいられるのです。永遠に一緒にいればきっと、ラウーロさんもいつか私のことを理解してくださって、もう一度「ちゃんとやってんのは分かったよ、次はもっと頑張れ」とお声をかけてくださるかもしれません。永劫の時を一緒に過ごせば、必ずその時が訪れると私は信じます』
     涙は止まった。冷静になってみると、満足のいく出来とはどうしても思えなくなった。どうしてこんなに不幸な筆致になってしまったのだろう? 自分はこれから幸せになりに行くのに。それを思うだけで、誰よりも幸せなはずなのに。
     やはりこのジャーナルは途中で捨てていこう。そう考え、エルザはレポート用紙をくしゃくしゃに丸めてポケットに突っ込んだ。
     もう行かなくちゃ。銃弾は2発。愛するラウーロとの待ち合わせまで、あと5分。

  • 86捨子花 14/16 - 11/07/12 00:29:41 - ID:McgbsuJHmA

     修道院跡の入り口で偶然、ヘンリエッタと鉢合わせした。可憐な姿の殺し屋は、今日はその小さな手に銃でなく数本の野花を持っていた。その辺から適当に摘んできた花だろうが、硝煙の臭いなんかよりはよく似合う。少女に花。モッツァレラチーズにプロシュートかというくらいの王道の組み合わせ。
     王道を地でいく今日のヘンリエッタは、フェルミの隣でエレノラが抱える豪華な花束を見て、さっと顔を赤らめた。
    「あの…… きれいですね。私、その…… もっとすてきなお花にしたかったんですけど、これしか咲いてなくって、それで……」
     どんな花を供えたって、エルザはきっと嫌がりも喜びもしないだろう。彼女の感情を動かせるのはラウーロだけだ。ラウーロが好きだと言えばエルザはその花を愛でるだろうし、何も言わなければエルザにとって何の価値もない。
     フェルミはヘンリエッタの肩をぽんと叩いてやった。「いいんだ、こんなものは気持ちで。エルザの墓参りに行くんだろう?」
    「はい……」
    「俺たちもそうなんだ、案内してくれ」
     ヘンリエッタは恥ずかしそうに頷き、フェルミたちを先導して歩き出した。回廊型の館内の壁際に彫られた、膨大な数の死者たちの名前が行き過ぎる。生ける3人の傍らで、過去の遺物たちが瞬間ごとにすり替わる現在の背後に取り残されてゆく。
     誰も注意を払わないような部屋の片隅で、ヘンリエッタが足を止めた。天使の像が見守るタイル大の石碑の一枚に、目当ての名前があった――エルザ・デ・シーカ。

  • 87捨子花 15/16 - 11/07/12 00:31:40 - ID:McgbsuJHmA

     生年月日はない。没年も記されていない。十字架も、“安らかに眠れ”といった銘文もなければ、“愛に生きた少女”だの、“触ると怪我する危険なワルキューレ”だのといった、人目を引きそうな気の利いた文句も刻まれてない。ラウーロにもらった彼女の財産だけがそこにある。
     隣にラウーロのフルネームがあった。こちらには生年月日と没年も彫り込まれているが、“もう少し優しければ死ななくて済んだ男”だの、“諜報上がりの割食い野郎”などといった文言はやはりない。普通に生きていれば大半の人間の墓に刻まれるであろう、“なにがしの息子”も、“誰それの最愛の――”もない。この不運な男のことも、隣に眠る哀れな少女のことも、半年後には誰も思い出さなくなるのだろう。闇の中で生きるということは、そういうことだ。
     ヘンリエッタは枯れた花を取り除き、新しい野花をエルザの墓の下に置いた。水には挿さない。この花もすぐに枯れる運命にある。「少しだけ、エルザを羨ましいと思っちゃうんです」
     エレノラがぎょっとしてヘンリエッタを見つめた。「どうしてそう思うの?」
     少女は瞬きもせず、エルザの名前をじっと眺めていた。「私はジョゼさんに対して、そこまで思い切ることができませんから。ジョゼさんのためになら何でもできますけど、それでジョゼさんを幸せにできる自信があるかって聞かれたら、そうじゃありません。エルザは、ずっと2人でいられればいつか2人とも幸せになれるって確信を持ってたから、一緒に死んだんだと思うんです。ジョゼさんは、もし、私と一緒に死んでも…… 幸せだと感じてくださるでしょうか」
     フェルミはエレノラから花束を受け取り、ヘンリエッタの花の隣に置いた。花瓶はないが水は含ませてある。こちらの花はヘンリエッタのものよりはもう少し長持ちするだろう。

  • 88捨子花 16/16 - 11/07/12 00:33:59 - ID:McgbsuJHmA

    「さあな、死んだ奴の考えることは生きてる奴には分からんよ。他の誰かを幸せにしたいなら、生きてるうちにしといた方がいいぞ。天国だって地獄だって広いんだ、同じ所に行けるとは限らないんだからな」
     ヘンリエッタが、そうですよね、と微笑みながら呟くのを見て、改めてフェルミは、本当に義体はもうこりごりだ、と胸に刻み込んだ。
     エルザ・デ・シーカが最愛の担当官から与えられたものは、名前と、写真と、もう一つ。感情――機械仕掛けのコラムニストが、狂気じみた愛の言葉しか綴れなくなるほどの。それこそが彼女の心を温め、優秀な兵士に育て上げたことは事実だろう。しかし、同時に何よりも大事な人間と彼女自身を焼き尽くして灰にした。元々貧乏な人間が宝くじに当たって億万長者になると一瞬で破産するのと一緒だ――金を持ったことがないから、使い方が分からないのと。こんな感覚の中で当たり前に生きてる義体なんかと一緒にいたら俺なんかじゃ一日も神経がもたねえよ、やっぱり一課をクビになったって二課だけは絶対にお断りだと胸中で独りごち、フェルミは隣のエレノラに笑いかけた。
    「しかし、寂しい墓だな。課長に内緒で一課の経費使って、こいつらの碑面に何か彫ってやろうぜ。ラウーロには“死ぬほど愛された男”、エルザには…… 何がいい? エレノラ、おまえが考えろ」



    -la fine-

  • 89名無し - 11/07/12 00:36:42 - ID:McgbsuJHmA

    すみません、14/16のド頭にスペース入れ忘れました
    三行ほど空けていただければ幸いです

    よろしくお願い致しますm(__)m

  • 90名無し - 11/07/12 23:31:03 - ID:tbHtL18XGg

    転載職人様、お疲れ様でございます
    エルザSSを書かせていただいた者です
    この度は誠にありがとうございますm(__)m

    本スレの方で不都合が生じたとの書き込みを目にいたしました
    何かマズいこと書いちゃったでしょうか・・・
    できることがありましたらお知らせください

    よろしくお願いいたしますm(__)m
    連絡事項ですのでこのレスは転載なしで大丈夫っす!

  • 91gunsringergirl_ss2 - 11/07/12 23:33:15 - ID:gunsringergirl_s

    >>72様、おつかれさまでした。

    ところで申し訳ありませんが、転載作業にて不都合が発生しました。
    『本文に長すぎる行があります』ということでエラーが出てしまいます。

    大変お手数をおかけしますが、改訂版をもう一度貼っていただけますでしょうか。
    それとも、転載作業の時のみこちらで適当なところで改行してしまってよろしいでしょうか?
    (もちろん保管時には原文のまま保管いたします)

  • 92名無し - 11/07/12 23:42:34 - ID:tbHtL18XGg

    >>91
    お知らせありがとうございます&申し訳ありませんでした!!

    改訂版でこちらのレスを長々と消費させていただきますのもおこがましく・・・

    もしお手数でなければ、職人様に改行作業をお願いしてしまってもよろしいでしょうか?

    本当にすみません!!
    今度書く時は工夫いたします

    よろしくお願いいたしますm(__)m

  • 93gunsringergirl_ss2 - 11/07/13 00:05:47 - ID:gunsringergirl_s

    >>92
    了解です。では僭越ながらこちらで改行作業をさせていただきます。


    で。実は当方、231でございます。
    なんという御褒美!!ありがとうございました!
    睡眠時間を削って頑張った甲斐がありました(笑)

    >>72氏の作品でエルザの背景について色々と納得がいきました。
    >自分はこれから幸せになりに行くのに。
    こういう見方は今まで全然していませんでした。目から鱗と塩水が。
    ずっと天城越えだと思ってたよ。(純情一途が行き過ぎちゃった方の)
    そしてエッタ…その怖くも可憐な情景が浮かんで、なんともいえないゾクゾク感が。
    あとヒルシャー先生の授業受けたいw
    中学生の頃にこんな授業されてたら泣いてたかもしれませんが。
    全然違う方向性の話だけれどトリヒル組とフェルミがらみの話で
    オセロを持ってこようと思っていたんですが、先を越されてしまいました(笑)

    こんな素敵なエルザSSが読めるとは。2ちゃんやってて良かった。
    本当にありがとうございました!
    >今度書くとき
    次回作も期待してよろしいんでしょうかwwぜひ!お待ちしておりますw

  • 94名無し - 11/07/13 00:37:33 - ID:tbHtL18XGg

    >>93
    ありがとうございます!
    本当に恐縮です。よろしくお願いいたしますm(__)m

    なんと231氏でいらっしゃいましたか!
    あまりにあのMADがかっこよすぎて思わず長々と書き殴ってしまいましたよw
    自分も天城越えだと思ってたんですが、書きながらいろいろ考えてるうちに
    これもアリか?・・・などなど解釈を加えてしまいました
    本当はエッタが摘んできた花を彼岸花にしたかったんですが、イタリアではマイナーな花らしく
    その辺に生えてたっていうのが通らなそうで断念しましたorz
    クラエスが植えてたって設定は・・・毒草だから無理でしょうかorz

    トリヒル組&フェルミでオセロな話是非!!読みたいっす!!!
    期待して待っておりますwww


    では、返す返すもよろしくお願いいたします!m(__)m

  • 95gunsringergirl_ss2 - 11/07/13 22:07:48 - ID:gunsringergirl_s

    転載作業についてお詫びです。
    携帯で連投避けを入れれば7レスこえてもいけると聞いたのでやってみたんですが、
    大変うっとうしいことになったので残りは明日にします。
    やっぱり無理しないで12〜16でまとめた方が良かったorz
    作品の雰囲気を台無しにして申し訳ない。

  • 96gunsringergirl_ss2 - 11/07/13 23:03:32 - ID:gunsringergirl_s

    >>94
    あのMADは素材が良かったんですよ。曲を紹介してくださった225氏に感謝です。
    動画も結構、切らずにそのまま使ってタイミングが合うものが多かったのが驚きでした。
    一番手間が掛かったのは初っ端の彼岸花と歌詞のタイミング合わせだったという(笑)気に入っていただけて光栄ですw

    彼岸花の別名に捨子花というのがあるとは知りませんでした。
    >本当はエッタが摘んできた花を彼岸花に
    ああ、いいなその情景。花言葉が「情熱」「独立」「再会」「あきらめ」「悲しい思い出」
    「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」だとか。エルザのお墓に供えるにはぴったりですね。
    ねずみ避けの目的で農地に植えたそうですからクラエスが植えていても不思議は……
    あ、クリスマスにはもう咲いてない!orz

    >トリヒル組&フェルミでオセロ
    さくら板支所に投下するのはちょっとあれな話なんですがw
    >>72氏ほど突っ込んだ内容にはなってないですよー。台詞をちょっと引用するくらい。
    白水Uブックスのはどうもイメージが合わないんだけど…お薦めの訳書はありませんかね;;;
    プロット立てた後放置しっぱなしですがエルザSSの御礼に頑張ってみます。

  • 97名無し - 11/07/13 23:50:29 - ID:tbHtL18XGg

    転載職人様、作業お疲れ様です!&ありがとうございます!!
    いやはや、転載作業がそんなに大変だとは・・・
    丸投げさせていただいておりますこちらは恐縮でガクブルです
    今後ともよろしくお願いいたします

    オセロは大昔に図書館で借りて読んだだけなのでオススメを紹介することが;;
    役立たずですみません
    役立たずですが期待して待っております!!

    あのMADは終盤の「私は一人きりで・・・」という箇所の彼岸花の色が
    反転して揺れるという表現にぞくりときました
    初っ端にタイトルと交互に入るのも映画の予告編的でカッコよくて、と思ってたら
    そこ苦労されてましたか!!

    あああやっぱり彼岸花使いたいぃぃぃぃ
    という気持ちに歯止めがかからなくなってしまったので
    14〜16を改変して無理矢理花突っ込んでみましたwww
    最後の三篇だけ挿げ替えお願いします
    毎度ながらお手数をおかけしますm(__)mよろしくお願いいたします!!

  • 98捨子花 14/16改 - 11/07/13 23:54:29 - ID:tbHtL18XGg




     修道院跡の入り口で偶然、ヘンリエッタと鉢合わせした。可憐な姿の殺し屋は、今日はその小さな手に銃でなく数本の切り花を持っていた。ラッピングはされていないので市販品ではないだろうが、その辺から適当に摘んできたとも思えない、珍しい花だ。少なくとも、フェルミは見たことがない――細く長い棘みたいな緋色の花弁が何本も、空に向かって放射状に突き出た形は炎そのもので、美しいといえば美しいが、死者に手向けるにはあまりにも業火に似すぎている気がした。
     何にしろ、こうして花を持っている方が、硝煙の臭いなんかを振りまくよりはずっといいとフェルミは思った。少女に花。モッツァレラチーズにプロシュートかというくらいの王道な組み合わせだ。
     王道を地でいく今日のヘンリエッタは、フェルミの隣でエレノラが抱える豪華な花束を見て、さっと顔を赤らめた。
    「あの…… きれいですね。私、その…… もっとすてきなお花にしたかったんですけど、冬だから外に何も咲いてなくって、それを検査の時に話したら、技術部の人がこれをくれて……」
     エレノラが身を乗り出し、花に鼻を近づけた。「へえ、彼岸花ね。技術部の温室、完成したんだ。ちょっと待ってね、確かこれを栽培してる製薬課の友達から聞いた話のメモがあったな……」
     彼女はポケットからお得意の手帳を取り出し、片手で器用にページを繰り始めた。
    「あった。ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草、リコリスとも呼ばれる。原産地は中国で、主に東洋に分布。有毒性で、毒成分の一つであるガランタミンはアルツハイマー病の治療薬として利用されている。花言葉は…… まあ、いろいろね。綺麗な花には毒があるって本当みたいよ、ヘンリエッタ」
     アルツハイマーの治療薬ね、とフェルミは皮肉な思いを噛み締めた。子供の気後れを紛らわすためにウィンクしてみせている同僚は気付いているのか分からないが、要するに技術部の職員は、条件付けだか何だかに使う、義体の中枢神経をいじる成分のためにわざわざ輸入した研究用植物をヘンリエッタにくれてやったということだ。条件付けがなければ今も生きていたであろう、年端もいかない少女の墓を飾るために。
    「エレノラ、やっぱりそこに俺のナニのサイズまで書いてあるんだろ。ちょっと見せてみろ」
    「霊前で下ネタは控えてくださいフェルミさん、子供の前でもあるんですよ」

  • 99捨子花 15/16改 - 11/07/13 23:56:29 - ID:tbHtL18XGg

     2人のやりとりを見て、ヘンリエッタがくすくすと笑い出した。その笑顔にフェルミは、まあ何でもいいか、と気を取り直した――どんな花を供えたって、エルザはきっと嫌がりも喜びもしないだろう。彼女の感情を動かせるのはラウーロだけだ。ラウーロが好きだと言えばエルザはその花を愛でるだろうし、何も言わなければエルザにとって何の価値もない。
     フェルミはヘンリエッタの肩をぽんと叩いてやった。「花なんてものは何だっていいんだ、気持ちがあれば。エルザの墓参りに行くんだろう?」
    「はい」
    「俺たちもそうなんだ、案内してくれ」
     ヘンリエッタはにっこり笑って頷き、フェルミたちを先導して歩き出した。回廊型の館内の壁際に彫られた、膨大な数の死者たちの名前が行き過ぎる。生ける3人の傍らで、過去の遺物たちが瞬間ごとにすり替わる現在の背後に取り残されてゆく。
     誰も注意を払わないような部屋の片隅で、ヘンリエッタが足を止めた。聖母子像が見守るタイル大の石碑の一枚に、目当ての名前があった――エルザ・デ・シーカ。
     生年月日はない。没年も記されていない。十字架も、“安らかに眠れ”といった銘文もなければ、“愛に生きた少女”だの、“触ると怪我する危険なワルキューレ”だのといった、人目を引きそうな気の利いた文句も刻まれてない。ラウーロにもらった彼女の財産だけがそこにある。
     隣にラウーロのフルネームがあった。こちらには生年月日と没年も彫り込まれているが、“もう少し優しければ死ななくて済んだ男”だの、“諜報上がりの割食い野郎”などといった文言はやはりない。普通に生きていれば大半の人間の墓に刻まれるであろう、“なにがしの息子”も、“誰それの最愛の――”もない。この不運な男のことも、隣に眠る哀れな少女のことも、半年後には誰も思い出さなくなるのだろう。闇の中で生きるということは、そういうことだ。
     ヘンリエッタは枯れた花を取り除き、彼岸花をエルザの墓の下に置いた。水には挿さない。この燃え盛るように激しい花も、すぐに枯れ果てる運命にある。「少しだけ、エルザを羨ましいって思っちゃうんです」
     エレノラがぎょっとしてヘンリエッタを見つめた。「どうしてそんなこと思うの?」

  • 100捨子花 16/16改 - 11/07/13 23:59:10 - ID:tbHtL18XGg

     少女は瞬きもせず、エルザの名前をじっと眺めていた。「私はジョゼさんに対して、そこまで思い切ることができませんから。ジョゼさんのためになら何でもできますけど、それでジョゼさんを幸せにできる自信があるかって聞かれたら、そうじゃありません。エルザは、ずっと2人でいられればいつか2人とも幸せになれるって信じてたから、一緒に死んだんだと思うんです。ジョゼさんは、もし、私と一緒に死んでも…… 幸せだと感じてくださるでしょうか」
     フェルミはエレノラから花束を受け取り、彼岸花の隣に置いた。花瓶はないが水は含ませてある。パステルカラーのバラやユリをまとめたこちらの花は、炎の形をした毒草に比べれば束になっても大人しいものだが、すぐに燃え尽きる宿命を背負った隣人よりは、もう少し長持ちするだろう。
    「さあな、死んだ奴の考えることは生きてる奴には分からんよ。他の誰かを幸せにしたいなら、生きてるうちにしといた方がいいぞ。天国だって地獄だって広いんだ、同じ所に行けるとは限らないんだからな」
     ヘンリエッタが、そうですよね、と微笑みながら呟くのを見て、改めてフェルミは、本当に義体はもうこりごりだ、と胸に刻み込んだ。
     エルザ・デ・シーカが最愛の担当官から与えられたものは、名前と、写真と、もう一つ。感情――機械仕掛けのコラムニストが、狂気じみた愛の言葉しか綴れなくなるほどの。それこそが彼女の心を温め、優秀な兵士に育て上げたことは事実だろう。しかし、同時に何よりも大事な人間と彼女自身を焼き尽くして灰にした。元々貧乏な人間が宝くじに当たって億万長者になると一瞬で破産するのと一緒だ――金を持ったことがないから、使い方が分からないのと。こんな感覚の中で当たり前に生きてる義体なんかと一緒にいたら、俺なんかじゃ一日も神経がもたねえよ。やっぱり一課をクビになったって、二課だけは絶対にお断りだ、と胸中で独りごち、フェルミは隣のエレノラに笑いかけた。
    「しかし、寂しい墓だな。課長に内緒で一課の経費使って、こいつらの碑面に何か彫ってやろうぜ。ラウーロには“死ぬほど愛された男”、エルザには…… 何がいい? エレノラ、おまえが考えろ」



    -la fine-

  • 101名無し - 11/07/14 00:03:21 - ID:tbHtL18XGg

    あ、改行入れ忘れた・・・

    またお手数をおかけします・・・サーセン・・・orz

  • 102gunsringergirl_ss2 - 11/07/14 22:58:12 - ID:gunsringergirl_s

    転載終了しました。
    14、15ですが、さくら板に投下するのにサイズが大きかった為、
    勝手ながら3レスに分けて投下させていただきました。申し訳ありません。

  • 103名無し - 11/07/14 23:33:41 - ID:tbHtL18XGg

    転載ありがとうございました!!

    本当に本当にお疲れ様でした
    何度もご迷惑をおかけ申しまして・・・・

    ええと・・・
    こんな時 なんて言うんだっけな・・・

    ああ そうか・・・

    ありがと

  • 104gunsringergirl_ss2 - 11/07/15 01:04:13 - ID:gunsringergirl_s

    改訂版いいですねw情景が一気に色彩感が増したかんじで。やっぱりエルザには彼岸花が似合う。
    アルツの治療薬って資料は自分も読んだのに義体に結びつきませんでした。掘り下げ方がうまいなあ。

    >>97
    レスありがとうございますw
    ですがさすがにこのままこのスレで続けていくとスレ違いになってしまいますね;;;
    エロパロ保管庫でよければSS書きの雑談スレ立てようかな……

  • 105名無し - 11/07/15 23:27:01 - ID:tbHtL18XGg

    改訂版までお読みくださりありがとうございます!!

    雑談スレができましたら日参ですかねw

  • 106名無し - 11/07/19 00:45:40 - ID:RHCT30NYZw

    「リボンの結び方教えて」
    リコに一番初めにかわした言葉。
    トレーニング用のスニーカーを与えられたけれど紐が結べず、演習場に言えないと寮でべそをかいていたリコ。
    あの後も手先が不器用なリコにいろいろ教えたなあ…

    「私のほうが先輩なのに、トリエラのほうがお姉さんみたい」
    アンジェリカは背が低いのをずっと気にしていたな…
    一度せがまれて私のスーツを着せてあげたら、パンツの裾が床を引きずって、二人で笑ったな。

    ヘンリエッタもエルザも、「初めまして」の一言のあとは黙り込んじゃって、私だけがしゃべっていたな。
    クラエスは…「私も仕事のためには髪を結んだほうが…」って考え込んじゃった。
    ベアトリーチェは「ベルナルドさんと違う…なんで匂いがしないの?」
    ビーチェの鼻がいいって知らなかったから、この一言にはビックリしたな。

    ねぇ、みんな。
    私はいいお姉さんだったかな…

  • 107gunsringergirl_ss2 - 11/07/19 23:55:30 - ID:gunsringergirl_s

    転載しました。
    トリエラ…(つд`。)

  • 108名無し - 11/08/26 23:09:51 - ID:5IWVyso7tA

    332 :CC名無したん:2011/08/26(金) 15:38:35.44 ID:GdVNPn2e0
    サーバーが落とされたのか、移転したのか閲覧できない状態が続いているな

    ↑さくら板支所に書き込まれてたんだけど、書き込めるけど読めないってことなのかな?
    自分はIEで普通に閲覧できるけどなあ。移転もしてないと思うんだけど。
    それとも他のスレとかサイトの話なのかな。一応SSスレのURL貼っておくよ。

    社会福祉公社技術部さくら板支所 第3分室
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1289669136/l50

  • 109名無し - 11/11/08 00:20:21 - ID:XecKxTOUbw

    サーセン、規制やられたんでどなたか以下2篇だけ転載お願いします

  • 110In Vino Veritas 8/9 - 11/11/08 00:22:01 - ID:XecKxTOUbw



     窓を締め切り、ガスの元栓を全開にして管を抜き、俺は屋敷を後にした。殊更ゆっくり歩き、前庭を抜けた
    ところで振り返り、台所のあたりを狙って9 パラを一発ぶち込む。すると、凄まじい轟音をあげて紅蓮の炎が
    満天の星空を突き、木屑やら石屑やらガラスの破片やらを飛散させて、貧乏庶民の夢の館は跡形もなく
    吹っ飛んだ。
     外門を出たところにヒルシャーがいた。奴は自前のメルセデスに寄りかかって、暇そうに燃え盛る屋敷の
    残骸を見ていたが、俺が出てきたのに気付くと、俺が普段吸わないお高めの煙草の箱を投げ寄越してきた。
    「一箱全部吸っておけ。ガス臭い」
     箱を開けて早速最初の一本を頂戴する。一口目で分かったがワインと一緒で好みに合わない。いつもの
    俺の安煙草の方がいい。
    「おいおい、飲酒運転で俺のストークかよ。執行猶予つき保護観察2年プラス俺への接近禁止命令は硬いぞ」
    「僕のストーカー行為から逃げ回ってたってことにするか? それとも、金が足りなくてあの黒髪の彼女を逃し、
    不貞腐れて僕の家で飲み明かしたってことにするか?」
     趣味は合わないが気は利く野郎だ。ヒルシャーのことはまだよくは知らないが、どうやら生真面目一辺倒
    ってわけでもないらしい。トリエラとたびたびギスつくのはあれだ、ティーン少女の扱いが分かってないだけ
    ってことなんだろう。大人のことなら分かってる。俺のことも。同じ野郎同士遠慮はいらねえってことなら、
    俺だって遠慮なく奴の家に転がり込むくらいのことはやらせてもらったっていい。
    「ワインはもういい。テキーラあるか? ショットガンやっても悪酔いしない上物、できればパトロン」
    「あるわけないだろ。ライムもない。途中で買っていけばいい。塩ならある」
    「カードは?」
    「僕に勝てると思ってるなら甘いぞ」
    「女は?」
    「連れ込みたいなら自宅まで送る」
     俺は笑いながらメルセデスの助手席へ滑り込んだ。俺が乗ってきた車は適当にギってきた盗難車だから
    当然ここへ乗り捨てて行く事にする。明日は不運な誰かが手柄を急く警察にたっぷりこってり搾られ、
    やってもいない罪を白状させられるだろう。今回ばかりは獲物が巨大だ。すべての人間の目が眩む。
    ある意味俺の目も。

  • 111In Vino Veritas 9/9 - 11/11/08 00:24:23 - ID:XecKxTOUbw

     ヒルシャーが素早くイグニションのキーを回し、発車させつつ、笑ってる俺を横目で見た。
    「何か可笑しいことでも?」
    「いや、おまえって、見かけによらず付き合いいいなと思ってさ」
     溜息。「自分でも信じられない。呑みに付き合うだけの予定だったのに。明日は早出で今日できなかった
    仕事を片付けなければいけないんだ」
    「多分、その調子でおまえは、地獄の果てまで付き合ってくれるんだろうな。女の子を義体になんか改造して
    汚れ仕事をやらせるような俺たちのこった、行き着く先は皆一緒だろうさ」
     奴は正面に向き直り、本人は全然そのつもりはないんだろうが、俺から見たら十分キザったらしく見える
    笑いを漏らした。「道連れができて何よりだよ」
     ヒルシャーがお上品バーで言ってた言葉が脳裏に蘇る。ベアトリーチェ、高貴な女性に多い名前、ダンテを
    助ける永遠の淑女。呑み直すには十分な肴、なかなか上等な名前に思える。それに夢中になるために、
    これから大量に酒を買い込むとするか。サイコ野郎の言葉を洗いざらいヒルシャーにぶちまけても笑って
    いられるくらいの量が欲しい。そんなもんでヘコんでる暇はないほどフラテッロってのは大変なんだぞって
    いう先輩の言葉を真摯に受け止められるくらいの量が欲しい。


    -initium-

  • 112名無し - 11/11/08 00:29:50 - ID:XecKxTOUbw

    すいません!よろしくお願いします

  • 113名無し - 11/11/08 22:00:04 - ID:XecKxTOUbw

    >>110-111
    規制解除されました!
    今から投下してきます
    お騒がせしてすみませんorz

  • 114gunsringergirl_ss2 - 11/11/09 00:14:50 - ID:gunsringergirl_s

    スミマセン今気付きましたorz
    お役に立てず申し訳ない。自力投下乙です。

  • 115名無し - 11/11/10 00:31:19 - ID:XecKxTOUbw

    >>114
    いやはや本当にお騒がせして申し訳ないです
    おかげさまで無事投下できました!ありがとうございます

  • 116【】 - 11/12/05 00:50:38 - ID:sJj66hZGcw

    (サーバが復帰しましたらお手数ですがどなたか以下の転載をお願いいたします)


    シュトレン祭りの日なので小ネタをと思ったらアク禁と鯖落ちとかorz
    日曜毎に食べることにした近所のパン屋さんのシュトレン美味いww
    無印のはパネトーネとパンドーロ一緒に24日まで熟成させてみようかな。

    【流儀】


    昼「アドベントの第二主日(2回目の日曜日)にはドレスデンでシュトレン祭りが催される。
      巨大なシュトレンを山車に乗せて街を練り歩くパレードで、1730年に強王アウグストが
      園遊会に招いた24,000人の客に振舞うために、1.8トンにもなる巨大なシュトレンを
      ドレスデンのパン屋組合に注文したことから始まったものなんだ」
    鳥「え、第二?第一主日(1回目の日曜日)から日曜日ごとに切り分けて食べるものなのでは?」
    昼「各地域や家庭で習慣は異なるようだな。今君が言ったように日曜のミサの後毎に食べる家もあれば、
      充分熟成させたシュトレンをクリスマスケーキのように24日に切り分ける家庭もあるそうだ」
    鳥「ヒルシャーさんはどうやって召し上がるんですか」
    昼「僕は毎日薄く切って食べるよ。シュトレンを乗せた台紙に28等分の目盛りをふっておいて」
    鳥「……あなたらしいですね」


    << だすえんで >>

  • 117名無し - 11/12/05 22:32:06 - ID:T7NG/dPUWA

    >>116
    転載しましたよ〜

  • 118名無し - 11/12/05 23:34:29 - ID:sJj66hZGcw

    >>117
    ありがとうございました!

  • 119蘇芳 - 11/12/24 02:48:06 - ID:RHCT30NYZw

    あの子は最期に、俺を忘れた。
    あの子が最後に忘れたのは、俺だった。
    同じようで全く違う、2つの事実。
    だが、導き出される真実は1つ。

    あの子に最後に残ったのは、王子様とお姫様の物語。
    きっと、それが「夢」ってやつなんだろう。
    一番始めの実験体だったからこそ生まれた、義体化と条件付けのタイムラグ。
    それが生み出した、うたかたの夢。

    俺はアンジェリカに何を伝えたかったのか。
    俺も何もわかっていなかったというのに。
    努力、そんなものは無駄だった。
    お前は俺から去っていく、お前の意思とは無関係に。

    でも、知識も思い出も忘れても、物語が残るなら。
    俺にも何か残せるかもしれない。
    俺には御伽話を作る才能はなかった。
    結局のところ、話の冒頭以外は俺が考えたわけじゃないんだ、あの物語は。
    だから、今度こそ俺は自分の物語を綴る。

    それは夢に溢れた絵本ではないだろう。
    苦い、重苦しい物語だ。
    きっと、文字にするには重過ぎる物語になるだろう。
    だから俺は歌おう。

    お前の中にはきっと、残ってたんだ、何もかも。
    閉じ込めただけだったんだ。
    薬なんて、条件付けなんて。
    そんな大したもんじゃなかった筈なんだ。
    鍵さえあれば、きっと扉は開けた。
    嫌な記憶すら思い出せるんだ、嬉しい記憶が思い出せないわけないだろう?

  • 120蘇芳 - 11/12/24 02:49:47 - ID:RHCT30NYZw


    そして。
    俺は鍵を持っていなかったが、ペロは少しだけ鍵を開けてくれた。

    今までは時計の針を見ても人生が削られていくなんて思わなかった。
    それだけ人生は膨大だった。
    今は違う。
    お前の命は一瞬一瞬削られていたんだ。
    だから、俺はもっと鍵を探すのに努力すべきだったんだ。

    アンジェリカ。
    俺は歌おう。
    苦い歌を、怒りを込めて。
    お前の好きだった第九は、しばらく歌えそうにない。
    歓びは今の俺には遠すぎる。
    俺がお前のところに行くその日まで。
    喜ぶべきことに、俺はまだまだ忘れない。
    だから、その日まで歌い続ける。


    スレの612様の歌より作りました。
    ナタレだというのに、「人大杉」表示で書き込めません…
    セッション期待してたのですが、これでは無理ですかねえ…

  • 121名無し - 11/12/24 14:06:32 - ID:/s2CW/8jPw

    >>119-120
    転載しました
    乙です

  • 122名無し - 11/12/29 18:43:59 - ID:Jx8Z6WQYvw

    >>119-120
    本スレに転載されてない気がするんだが大丈夫?
    自分が見れないだけでしょうか?

  • 123名無し - 11/12/29 21:26:37 - ID:7Ja7lob3jA

    >>122
    もしかして鯖移動する前のスレを見てるんじゃないかな?
    こっち見てみて。
    http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1289669136/l50

  • 124名無し - 11/12/29 23:07:09 - ID:Jx8Z6WQYvw

    >>123
    そのとおりで前のスレ見てた。
    ごめん&ありがとう!

  • 125【】 - 12/04/03 23:26:10 - ID:Q1EDdJq51A

    (久々に規制くらいましたorz
    申し訳ありませんがどなたか以下3レス転載をお願いします)


    >>722
    今年の復活祭っていつだっけ……

    14巻のダメージから未だに回復できずにリハビリ中ですが、
    桜の時期がきたので久々にジョゼッタ組でちょいシリアスを投下します。
    イタリアだし桜でも桃でも杏でもアーモンドでもお好きなイメージでと丸投げしてみる。

  • 126【花びら】 - 12/04/03 23:27:15 - ID:Q1EDdJq51A

    【花びら】


     満開の花の下で妹が笑う。
    『ジョゼ兄様、知ってる? 花びらが地面に落ちる前につかまえることができると、
    願い事がかなうのよ』
     春の風に薄紅色の果樹の花が舞い散る中、どこで覚えてきたのか少女はそんなことを言う。
    妹は小さな手のひらを空に伸ばした。勢いよく掴んだ手から、花びらがふわりと逃げ出す。
    『あっ』
     不満そうに声を上げて妹はまた花びらを追いかける。
    くるくると回るようなその姿を目の端に止めながら、兄は片手を上げた。
    浮遊する花びらの動きも少し落ち着いて観察すれば、それを掴むことは
    兄にとってそれほど難しいことではない。
    手の中に納まった花びらを見せれば、すごいわ、さすが兄様!と嬉しそうに妹が歓声を上げる。
    『ジョゼ兄様、どんなお願いごとをしたの?』
    『え?……そういえば、何も考えずに掴んでしまったな』
    『もう、兄様ったら』
     苦笑する兄に、それじゃあ意味がないじゃないと楽しげに妹は言う。


  • 127【花びら】 - 12/04/03 23:28:03 - ID:Q1EDdJq51A


     満開の花の下、男はあの頃の妹と同じ年頃の少女を伴い佇んでいた。
    「ヘンリエッタ、知ってるかい? 花びらが地面に落ちる前につかまえることができると、
    願い事がかなうんだよ」
    「そうなんですか?」
     すてきです。ジョゼさんは、何でもご存知なんですね。尊敬と幼い恋慕の視線が男を見上げた。
    そうとも。と応え、男はやわらかな春の風に手をかざす。
     男に倣って花を見上げていた少女は、やがてあの時の妹と同じように手のひらを空に伸ばし、
    花びらを追いかけ始めた。
     今の自分の願いは妹を奪った者達への復讐。
    この少女の存在もその願いを成就するための手段の一つだ。
    だがそんな血なまぐさい願いはこのはかなげな花に託すには似つかわしくない。
    今も昔も、自分には花に願うような望みはない。
    それならせめて、この少女の望みがかなうようにと願ってやるべきだろうか。
    漠然とそんな思惟を巡らせつつ、男は目の前に舞い降りてきた花びらを捉える。
    「――ジョゼさん、つかまえられました!」
     駆け寄ってきた少女はすぼめた両の手のひらにちいさな花びらを大事そうに捧げ持ち、
    嬉しそうに報告する。
    「そう、よかったねヘンリエッタ。どんなお願い事をしたんだい?」
     問いかけた男に、少女ははにかみながら答える。
    「あの…ジョゼさんとずっと一緒にいられますように…って……」
     一瞬眉を上げた男は微笑を浮かべた。
    「――大丈夫、願い事はかなうよ」
     幼い望みを口にする彼女は、長くは生きられない運命を背負っている。
    しかしだからこそ、彼女の短い一生の間、共に過ごしてやることくらいは自分にもできるだろう。
     男の言葉に少女は幸せそうにほほを染めた。


    << la fine >>

  • 128名無し - 12/04/05 23:32:06 - ID:Q1EDdJq51A

    >>125-127
    転載していただきました。
    ありがとうございます。

  • 129第4分室 テンプレ案 - 12/09/26 19:11:21 - ID:a1O6wJwQlg

    次スレ

    社会福祉公社技術部さくら板支所 第4分室

    のテンプレ案を貼っておきます。

  • 130第4分室 テンプレ案 - 12/09/26 19:12:41 - ID:a1O6wJwQlg

    1
    さくらちゃんに何となく似ているリコが大活躍したり
    知世ちゃんに何となく似ているアンジェが大変な事になる
    GUNSLINGER GIRL のスレです

    ◇前スレ◇
    社会福祉公社技術部さくら板支所 第3分室
    ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1289669136/l50

    ◇保管庫、サブ掲示板◇
    社会福祉公社技術部保管庫
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/
    アクセス規制を受けた方のための本スレ転載用スレッド
    ttp://wiki.livedoor.jp/gunslingergirl_ss/bbs/911/l50

    * 1レスは30行、2048バイトまで書き込めます
    * sage進行でお願いします

    以下テンプレは>>2-7

  • 131第4分室 テンプレ案 - 12/09/26 19:13:33 - ID:a1O6wJwQlg

    2
    >ガンスリンガー・ガール達に(;´Д`)ハァハァするスレです。
    >(;´Д`)ハァハァと言いながら実質のSSスレ
    だったらいいな

    2chスレで投稿された名無しさんの作品で
    「無断転載倉庫」に掲載されていないSSを”発掘”して保全も。
    他サイトからの転載は執筆者の許可を貰いましょう。

  • 132第4分室 テンプレ案 - 12/09/26 19:14:25 - ID:a1O6wJwQlg

    3
    今は亡きこんなスレをリスペクトしてるみたいです

    「ガンスリンガー・ガール」ハァハァスレ @+1(漫画キャラクター板)
    ttp://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1099215397/
    「ガンスリンガー・ガール」ハァハァスレ @+2(漫画キャラクター板)
    ttp://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1145293079/
    「ガンスリンガー・ガール」ハァハァスレ @+3(漫画キャラクター板)
    ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1170134431/

    ガンスリンガーガールスレ(エロパロ&文章創作板)
    ttp://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1063912806
    ガンスリンガーガール 2人目の義体(エロパロ&文章創作板)
    ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1099669994
    ガンスリンガーガール 3人目の義体(エロパロ&文章創作板)
    ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1115286133
    ガンスリンガーガール 4人目の義体(エロパロ&文章創作板)
    ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1178375722/
    ガンスリンガーガール 5人目の義体(エロパロ&文章創作板)
    ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1191260180/

    社会福祉公社技術部さくら板支所 (CCさくら板)
    ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1198349410/l50
    社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室 (CCさくら板)
    ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1231771865/l50
    社会福祉公社技術部さくら板支所 第3分室(CCさくら板)
    ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1289669136/l50

  • 133第4分室 テンプレ案 - 12/09/26 19:15:37 - ID:a1O6wJwQlg

    4
    ◇関連スレ◇
    相田裕「GUNSLINGER GIRL」#98(漫画板)
    ttp://kohada.2ch.net/test/read.cgi/comic/13478015...
    GUNSLINGER GIRL ガンスリンガー・ガール 58挺目(懐アニ平成板)
    ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/ranimeh/132974...
    GUNSLINGER GIRL -IL TEATRINO- part41(アニメ2板)
    ttp://ikura.2ch.net/test/read.cgi/anime2/12954053...
    GUNSLINGER GIRL inサバゲ板 陸挺目(サバゲー板)
    ttp://awabi.2ch.net/test/read.cgi/gun/1251748690/
    ▼ ガンスリンガー・ガールでエロパロ 3 ▼ (エロパロ板) *21歳以上*
    ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1278604450/l50

  • 134gunsringergirl_ss2 - 12/09/26 19:17:29 - ID:gunsringergirl_s

    5
    ◇関連サイト◇
    JEWEL BOX (相田裕公式サイト)
    ttp://www.remus.dti.ne.jp/~jewelbox/
    電撃大王
    ttp://daioh.dengeki.com/
    TVA「GUNSLINGER GIRL」公式サイト
    ttp://www.gunslingergirl.com/
    北米版アニメ(1期)公式サイト
    ttp://www.gunslingergirl.tv/index.htm
    ゲーム公式サイト
    ttp://www.dimps.co.jp/gunslingergirl/index.html

    GUNSLINGER GIRL DB
    ttp://tunes.sakura.ne.jp/gsg/
    MEDIA GUN DATA BASE
    ttp://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/?MEDIAGUN%20DATABASE
    ONE MORE DAY
    ttp://page.freett.com/onemoreday/index.htm
    ガンスリ板@萌えBBS
    ttp://moebbs.net/test/subject.cgi?next=gunslingergirl&page=2
    雑談inガンスリ板
    ttp://moebbs.net/test/read.cgi/gunslingergirl/1066456383/l50
    GunslingerGirl ガンスリンガー・ガールSS書きの控え室 2
    ttp://moebbs.net/test/read.cgi/gunslingergirl/1095225218/l50

  • 135第4分室 テンプレ案 - 12/09/26 19:18:15 - ID:aZCFTySSIw

    6
    監督の浅香守生つながりであるとも言えるわけですが
    二期の監督の真野玲もカードキャプターさくらの演出スタッフだしね

  • 136第4分室 テンプレ案 - 12/09/26 19:19:28 - ID:aZCFTySSIw

    7
    ◇海外SSサイト◇
    fanfiction.net
    ttp://www.fanfiction.net/
    fanfiction.net・GunslingerGirl作品検索ページ
    ttp://www.fanfiction.net/anime/Gunslinger_Girl/
    *和訳職人絶賛募集中。
     訳文を投稿する際は作者さんの許可を貰いましょう。

  • 137gunsringergirl_ss2 - 12/10/01 00:46:32 - ID:gunsringergirl_s

    新スレ立ちました

    社会福祉公社技術部さくら板支所 第4分室
    http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/sakura/1349018493/l50

  • 138【】 - 12/12/19 15:08:53 - ID:o7LXxaCN3Q

    PC規制に巻き込まれました。
    申し訳ありませんが以下3レスほど転載をお願いいたします。

  • 139【】 - 12/12/19 15:11:49 - ID:o7LXxaCN3Q

    最終巻発売おめでとうございます。クラエスのエピソードは良かった。

    双子座の流星群がきれいだったので
    全然最終巻と関係ない鳥昼親子ップル話を投下。

  • 140【コート】 - 12/12/19 15:18:31 - ID:o7LXxaCN3Q

       【コート】


     軍施設での訓練の帰り。広い駐車場を少女は担当官と並んで歩いていた。
    すっかり暗くなった冬の舗装路に靴音を響かせながら、男は傍らの少女に話しかける。
    「今夜は流星群の極大期だそうだな」
    「そうなんですか」
    「ああ。夜中にかけて西の空を中心に見られるらしい」
     言いながら足を止め、男は夜空を振り仰ぐ。少女も担当官に倣って視線を上げる。
    駐車場の周囲には照明が灯っているが、それでも見上げた空にはぽつぽつと星明かりが見て取れた。
    「   やはり公社の演習場の方が良く見えたな」
    「そうですね」
     少し前、少女は彼に引率を頼んで仲間と共に流星雨の観測をしたことがあった。
    担当官は彼女が天文に興味を持ったとみたのだろう。これまで彼がそんなことを言い出したことはなかったのだから。
    実際のところ、観測会を提案したのは彼女の仲間であり、彼女自身が特に強く星に興味を持っているわけではない。
    だから以前の彼女ならば、物事の表面を見ただけの儀礼的で浅はかな御機嫌取りだと
    担当官のそんな言動には苛立ちを覚えたものだった。
    「トリエラ」
    「はい?」
     名を呼ばれ振り返った少女の肩がぬくもりを伴った布地で覆われた。
    かすかな煙草の匂いと共にそれが担当官の着ていたコートであることに気付き、少女はまばたきする。

  • 141【コート】 - 12/12/19 15:23:43 - ID:o7LXxaCN3Q

    「冷えるから着ていなさい。流れ星はすぐに見られるものじゃない」
    「大丈夫です、私もコートは着ているんですから。あなたこそ、マフラーだけでは風邪をひきますよ」
    「僕はいい。風邪をひいたら薬を飲めばそれですむ」
     だが君は、と男が続けることはなかった。けれども男が言外に危惧している内容を、少女もまた理解していた。
    義体である彼女は条件付けにも身体の調整にも多くの薬物を使用されている。
    男の行動は少女に不要な薬物を摂取させないための不器用な気遣いだ。
    ――もっとも、彼女がそんな風に考えられるようになったのは比較的最近のことだが。
     男は視線をそらすようにまた上空を見やった。
    スーツの上に大き目のマフラーを巻いただけのその姿はナポリで目にしたものと同じだ。
    一年に一度くらい、男の御機嫌取りに腹の立たない日があってもいいだろう。
    あの時はそんなことを考えた。
    それが、次第に腹の立たない回数が増えてきている。むしろ嬉しくさえ感じている。
    そんな自身の変化を少女は自覚していた。
     少女は男の視線の先を追い澄んだ冬の夜空を見上げた。またたく星々の光はまばらだが美しい。
    黒い闇間をすっ、と一条の光が通り過ぎた。あ、と同時に声が上がる。
    「今、流れたな」
    「ええ」
     空を見上げたまま言葉を交わす。二人の人影は白い吐息をけぶらせながら、しばし冬の静寂に佇む。
     流れ星に願いを掛けるほどロマンチストではない、と少女は思う。
    それでも男の傍らに並び立ち同じ光景を見つめているこの時間は、仲間との流星雨観測とどこか違う感じがする。
    冷たく静かな夜気の中、コートの暖かさだけではないぬくもりが少女の胸を心地よく満たしていた。


    << Das Ende >>

  • 142名無し - 12/12/20 23:42:25 - ID:o7LXxaCN3Q

    >>139-141
    転載していただきました。ありがとうございます!

  • 143【】 - 13/04/26 00:16:34 - ID:RA9NTAFNBQ

    規制中につき申し訳ありませんがどなたか転載をお願いいたします。
    連投規制除けのため2回に分けて投下させていただきます。
    一回目は>>144->>145の2レスです。

  • 144【】1/9 - 13/04/26 00:20:06 - ID:RA9NTAFNBQ

    【ロシアンルーレット】


     午後の作戦二課に淹れたてのエスプレッソの香りが広がった。
    イタリア人にしては忙しすぎる職場に所属している社会福祉公社の面々だが、
    人生を豊かにする三大要素を放棄するつもりは無く、
    たちまち大容量のエスプレッソメーカーの周りに手の空いた人間が集まる。
    「あ、お茶請けにこれどーぞ」
     チョコレートやビスケットが並ぶ小さなテーブルに、愛の堕天使が大きめの菓子箱を載せた。
    「なんだこれ?」
    「ふっふっふ。新商品の“ロシアンルーレット・タルト”だよ〜んっ」
    「はあ? ロシアンルーレットぉ?」
     明るいプリシッラの声にわらわらと物見高い課員たちが集まってくる。
    「20個の内1つだけが激辛タルトなのさ。一個ずつ取っていって」
    「なんでそういうキワモノを買ってくるんだよ」
    「いーじゃないの。確率は20分の1なんだから大したことないでしょ。
    誰が一番運が悪いか、さあさ運試し、運試し!」
     うえ〜っと嫌そうな顔をしながらも手を伸ばす同僚たちに、
    あらら意外と付き合い良いなあとプリシッラは内心驚く。
    元々、作戦2課はあちらこちらの組織から貧乏くじを引かされて弾き出された
    あぶれ者の集団である。運の悪さには誰もが心当たりがあるわけで、
    イタリア人の国民性であるオーバーアクションを差し引いても、
    嫌そうな顔には結構本気が混じっているだろうことは想像に難くない。
    それでも皆が菓子箱に手を伸ばすのは、まあプリシッラの人徳と言うものであろう。
     もっとも参加者たちにも多少の計算はあった。
    彼女が言うように確率はそれほど高いものではないし、
    それになんと言っても運無し者ぞろいの作戦2課でも極めつけに運の悪そうな人間が
    その場にいたからである。

  • 145【】1/9 - 13/04/26 00:21:03 - ID:RA9NTAFNBQ

    【ロシアンルーレット】


     午後の作戦二課に淹れたてのエスプレッソの香りが広がった。
    イタリア人にしては忙しすぎる職場に所属している社会福祉公社の面々だが、
    人生を豊かにする三大要素を放棄するつもりは無く、
    たちまち大容量のエスプレッソメーカーの周りに手の空いた人間が集まる。
    「あ、お茶請けにこれどーぞ」
     チョコレートやビスケットが並ぶ小さなテーブルに、愛の堕天使が大きめの菓子箱を載せた。
    「なんだこれ?」
    「ふっふっふ。新商品の“ロシアンルーレット・タルト”だよ〜んっ」
    「はあ? ロシアンルーレットぉ?」
     明るいプリシッラの声にわらわらと物見高い課員たちが集まってくる。
    「20個の内1つだけが激辛タルトなのさ。一個ずつ取っていって」
    「なんでそういうキワモノを買ってくるんだよ」
    「いーじゃないの。確率は20分の1なんだから大したことないでしょ。
    誰が一番運が悪いか、さあさ運試し、運試し!」
     うえ〜っと嫌そうな顔をしながらも手を伸ばす同僚たちに、
    あらら意外と付き合い良いなあとプリシッラは内心驚く。
    元々、作戦2課はあちらこちらの組織から貧乏くじを引かされて弾き出された
    あぶれ者の集団である。運の悪さには誰もが心当たりがあるわけで、
    イタリア人の国民性であるオーバーアクションを差し引いても、
    嫌そうな顔には結構本気が混じっているだろうことは想像に難くない。
    それでも皆が菓子箱に手を伸ばすのは、まあプリシッラの人徳と言うものであろう。
     もっとも参加者たちにも多少の計算はあった。
    彼女が言うように確率はそれほど高いものではないし、
    それになんと言っても運無し者ぞろいの作戦2課でも極めつけに運の悪そうな人間が
    その場にいたからである。

  • 146【】2/9 - 13/04/26 00:23:13 - ID:RA9NTAFNBQ

    それぞれが手にしたタルトを口に放り込めば、果たせるかな課室の一角から鈍い悲鳴が上がる。
    「うぐっ!?」
     振り返った皆の視線の先には、口元を押さえ長身を折り曲げて悶絶するドイツ人の姿。
     ――あ、やっぱり。
    気の毒にと苦笑する者、遠慮なく爆笑する者。
    反応は様々だったが、抱いた感想は薄情なことに概ね同じである。
    お約束な人だなあと半ば呆れながらも、菓子を用意した人間は責任上笑ってばかりもいられない。
    「大丈夫ですかぁ、ヒルシャーさん?」
    「Danke...!」
     愛の堕天使が差し出した水を受け取ったドイツ人が、咳き込みながら思わず母国語で礼を言う。
    普段ほとんど訛のないイタリア語で話すヒルシャーだが、さすがにその余裕はないらしい。
    手渡されたグラスの水を一気に飲み干し、男はいささか情ない表情で溜め息をつく。
    どうやら辛いものは得意ではないようだ。
    「………すごい味だな」
    「いやあ、期待通りのいいリアクションでしたねえ」
     あははーと悪気のない笑いで答えるプリシッラに、男は苦笑いである。
    「次回があるなら、今度は当たり外れの無いものの方がありがたいんだが」
    「それじゃあ、今度はお詫びに『ジオリッティ』で一番人気のチョコラータをご馳走しますよ」
     100年以上の歴史を持つジェラテリア(アイスクリーム屋)の名前を出され、
    ヒルシャーは顔をしかめた。
    「それは僕よりもトリエラに食べさせてやってくれ。甘いものは苦手なんだ」
    「担当官が好き嫌いしてちゃ駄目じゃないですか〜」
     生真面目なドイツ人をからかいながらも次の休みには義体の少女たちに
    アイスクリームを買ってくることを約束し、
    その日の小休憩は大変和やかな雰囲気でお開きとなった。
    ――しかし、このささやかなレクリエーションが後日阿鼻叫喚を巻き起こそうとは、
    この時は誰も予想しなかったのである。

  • 147【】 - 13/04/26 00:27:30 - ID:RA9NTAFNBQ

    >>143
    すみません!ミスりました
    >>145-146の2レスを転載でお願いいたします。

  • 148【】 - 13/04/26 22:37:54 - ID:RA9NTAFNBQ

    転載ありがとうございました。
    お手数をおかけしますが後半もお願いいたしします。
    >>149-155 の7レスになります。

  • 149【】 3/9 - 13/04/26 22:41:16 - ID:RA9NTAFNBQ



    「こんにちは、プリシッラさん」
    「あ、トリエラ。ヒルシャーさんだったら今資料室に行ってるよ〜。呼んできてあげようか?」
     明るく軽く元気よく。いつもの調子で応えた愛の堕天使に、
    ツインテールの優等生は礼儀正しくそれを遮る。
    「いえ、いいんです。今日はプリシッラさんと二課の皆さんに差し入れを持ってきたんですから」
    「へ?差し入れ?」
    「どうぞ。クラエス特製の “ロシアンルーレット・クッキー” です」
    「――はい?」
     妙に既視感を覚える少女の台詞にプリシッラの本能が黄色信号を点滅させた。
    少女が差し出した小さなバスケットには直径4センチ程のきっちりと積み上げた赤いクッキーが20枚。
     ―――なんだかステキにヤバイ予感がするんですけど?
    「あの、なんかスゴイ赤いんだけど…これ、ナニが入ってるのか…な…?」
    「唐辛子ですよ。ハバネロとかいう種類だそうです」
     ――ハバネロ。東洋の島国では『暴君ハバネロ』の異名を取る、激辛の誉れ高き唐辛子。
    「昨日は随分と楽しいお茶会だったと担当官に聞きましたから、私たちも真似してみようかと。
    でも全く同じパターンでは芸がないですから、ひとひねりしてみました。
    20枚のうち19枚がハバネロクッキーで、一枚だけ辛くないパプリカクッキーが入っています。
    どうぞ一個ずつ取っていってください。誰が一番運がいいのか、運試しですよ」 
     ひねらなくていい、ひねらなくていい。
    自分がタルトを勧めた時のセリフを変化球で返されて、愛の堕天使は引きつった笑いを浮かべる。
     勿論、義体は公社の人間に危害を加えないように条件付けされているのだから、
    この真っ赤なクッキーも生命の危機に立たされるようなシロモノではないだろう。――そのはずだ。
     しかし相手は義体一条件付けの緩いトリエラである。
    『クラエス特製』と言ってもおそらくトリエラ自身も手伝ったであろうし、
    その際このクッキーの肝であるところのハバネロの量が彼女によって決められたとすれば、
    結構スゴイ事になっている可能性は高い。

  • 150【】4/9 - 13/04/26 22:43:15 - ID:RA9NTAFNBQ

     なんとかして危険を回避しようと、愛の堕天使はお愛想笑いのまま人差し指を立てて優等生に指摘する。
    「ええと、でもトリエラ、そしたらヒルシャーさんにもその激辛クッキーが当たる可能性があるじゃん?
    昨日に続けて辛いお菓子って、ヒルシャーさんが気の毒じゃないかなあ」
    「大丈夫です。ヒルシャーさんの分は私が代わりに食べますから」
     きっぱりと答えるトリエラ。
    担当官の身代わりは義体の本領。とは言え、担当官に反抗的なことで有名だった彼女が、
    わざわざこんな手間ひまかけてヒルシャーの仇を討ちにくるとは。
    乙女心って変わるものよねとからかってやりたい所だが、
    ちょっとこの場でそれを口にするのは命が惜しい。
    「自分にだけ分かるように目印がつけてあるんじゃねぇの?」
     度胸の使い所を間違えているジョルジョが疑わしげにそう言えば、
    少女はにこりともせずに生真面目に答える。
    「そんな卑怯な真似はしませんよ。私は皆さんが選んだ後で、最後の一個をいただきます。
    それなら公平でしょう」
     相打ち上等。少女の背後に立ち昇る不穏なオーラに課員たちは思わずたじろぐ。
    「えーと俺は課長に報告に行くから……」
    「オレも資料取りに行かなくちゃ……」
    「ではどうぞ最初に選んでください」
    「う……」
     下手な言い訳で逃げ出そうとしたアマデオとアルフォンソは、
    目の前に突き出されたバスケットに進路を塞がれる。
    助けを求めて周囲を見回すが、無論援軍はない。
     何で俺らがこんな目に。
    昨日彼女の担当官の有様にひとかけらの同情もなく笑い転げていた己の行動を棚に上げ、
    二人は哀れっぽく真っ赤なクッキーを見やる。天を仰いで十字を切ると
    それぞれ一枚を手に取り思い切って口の中に放り込んだ。
    ぼりぼりぼり…不気味に静まり返った課室にクッキーを噛み砕く音が響く。

  • 151【】5/9 - 13/04/26 22:44:24 - ID:RA9NTAFNBQ

    「……なんだこれ、以外と辛くな―――」
     陽気なイタリア男たちがほっとしたように言いかけた、その途端。 
    「辛ッ!!? つか痛ェっ!!」
    「水!水、水っっ!!!」
     たちまち響く阿鼻叫喚。周囲の課員はいっそう青ざめる。
    「これもらうぞプリシッラ!」
    「あっ、まだそれ熱い……」
    「〜〜〜〜〜ッッッ!!!」
     近場にあった熱いコーヒーをあおったアマデオは声にならない悲鳴を上げて廊下に飛び出し、
    給湯室へ向かって瞬く間に走り去る。
    アルフォンソが手にした自分のマグカップのコーヒーは幸いそれほど熱いものではなかったが、
    口内の消火活動には到底不十分な量であり、こちらもやはり同僚の後を追って課室から駆け出す。
    「……………」
    「……………」
     己の未来予想図を目の当たりにした課員たちの沈黙に、トリエラは挑戦的な笑みを浮かべた。
    「―――さあ、皆さんもどうぞ」


     その後の光景はおおむね先行の二人に倣うものだった。
    青い顔をした課員が一人また一人と恐怖の焼き菓子におそれおののく手を伸ばし
    ――冷静になってみればこんなゲームに付き合う義務はないはずなのだが、
    なんだかんだ言っても皆彼女の担当官に対する多少の罪悪感は持ち合わせているため、
    有無を言わさぬ義体の迫力に呑まれてつい手を出してしまうのである――
    口に入れた途端に真っ赤になると給湯室に向かってすばらしい俊足を披露する。
    辛い物は好物だと豪語していた連中はさすがに踏みとどまったものの、
    発汗量と水分摂取量が増加しているのは明白だ。

  • 152【】6/9 - 13/04/26 22:45:59 - ID:RA9NTAFNBQ

     そんな次々に課員が飛び出していくオフィスの出入り口から、ドスの効いた低い声が聞こえた。
    「何の騒ぎだ」
    「!ジャンさん!」
     鬼のリーダーの登場に、トリエラも含めた全員に緊張がはしる。
    「ジャンさんも一つどうすか、トリエラの差し入れです!」
     すかさずクッキーを勧めるジョルジョ。
    一枚でも枚数を減らして自分の分担を回避しようという思惑か、
    冷厳冷徹なリーダーのポーカーフェイスを崩してやろうという危険な遊び心か、
    はたまたやんちゃの過ぎる義体に対する教育的指導を誘発しようという計算か。
    どれにせよ傍迷惑なこの行動に『やめろこの馬鹿!』と同僚たちの声なき絶叫が上がる。
     じろりと赤いクッキーを一瞥したジャンは、しかしこれに対して予想外の対応をみせた。
    担当官の後ろから興味深々でバスケットを覗き込んでいるショートカットの少女に顎をしゃくり、一言。
    「いらん。リコ、俺の分を食べておけ」
    「はい」
     嬉しそうに返事をする純真無垢なフラテッロ。
    無関係な友人に被害が及ぶことに危機を覚えたトリエラが止める暇も有らばこそ。
    ひょいと一番上に乗っていたクッキーを取り上げて口に入れ、ぽりぽりと健康的な咀嚼音が響く。
     ―――が。
     その後は何事も起らない。
    周囲の大人たちが無言で見つめる中、ごくんと口の中のものを飲み込んで
    ごちそうさまでしたと礼儀正しく挨拶をした年下の友人に、トリエラがおそるおそる問いかけた。 
    「……辛くない?リコ」
    「うん、ぜんぜん。でもなんだか変わった味だね」
    「あー、うん…多分パプリカの味……」
    「そうなんだ」
     野菜のクッキーって身体に良さそうだね、と幸運の女神に愛された少女は無邪気に笑う。
    どうやら通りすがり様子を見に来ただけだったらしいリーダーは、自分のデスクには向かわず
    リコが食べ終わると「行くぞ」と短く声を掛けてまたオフィスを出て行った。

  • 153【】7/9 - 13/04/26 22:47:16 - ID:RA9NTAFNBQ

     あとに残されたのはハズレ確定のクッキー数枚と呆然とした表情の課員たち。
    「…………さあ。どうぞ、残りを召し上がってください」
     相打ちを覚悟したトリエラの目はすわっている。
    背筋につつーっと流れる冷たい汗を自覚しながら愛の堕天使は必死の抵抗を試みる。
    「い、いやぁ、今ので一番運がいいのか分かったじゃん。あとはもう食べなくてもさ――」
    「たまたまリコが辛いものが得意なだけだったのかもしれませんし、
    本当に当たりのクッキーが一枚だけなのか、全員食べてみないと確証は得られないでしょう」
     それにここで食べずに済ませたらすでに食べ終わった方から後々恨まれますよ、と言われ
    ついにプリシッラは観念した。なにしろこの騒動の発端であるジョーク菓子を買ってきた本人なのだ。
    トリエラの言うとおり、食べなければ後が怖い。
    「……あんたも同罪でしょ」
    「……分かったよ」
     唯一の希望をリーダーとそのフラテッロに振ってしまったジョルジョを堕天使が睨んで促せば、
    自分だけが泣きを見てたまるかと傍迷惑男は残りの課員に強制的に赤いクッキーを配布する。
    ほどなく危険物が全員に行き渡り、一同は情けなさそうに顔を見合わせると
    せーのでそれを口に放り込んで一気に咀嚼し嚥下した。
    「〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
     涙目になって口元を抑える大人たちの様子に、恐怖のゲームの企画者である二つ髪の少女は
    担当官の仇を討ち果たしたことを満足げに確認すると、もはや厳かともいえる仕草で
    宣言どおり最後にひとつ残った赤い暴君の潜む焼き菓子に手を伸ばした。

  • 154【】8/9 - 13/04/26 22:48:34 - ID:RA9NTAFNBQ

    ――と、突然背後からスーツ姿の腕が現れ、褐色の指がクッキーをつまむ前にそれをさらい上げる。
    驚いて振り返った少女の鼻先には見慣れたダブルのスーツ。
    あわてた少女が警告の叫びを上げようとしたその瞬間。
    「――げほごほっっ!!?」
     盛大にむせ込んだ担当官の姿に少女が悲鳴を上げた。
    「ヒルシャーさんっ!?」
    「……だ、大丈夫だ。ほとんど噛まずに飲み込んだから」
     昨日の経験を生かして最小限のダメージでやりすごしたらしいドイツ人は、
    持参していた水のペットボトルを一気にあおる。
    「どうしてあなたがそれを食べるんですか!?」
    「君の健康管理は担当官である僕の役目だ。“たとえ実害はないにしても”
    無用な刺激物を摂取しようとするのを見過ごすわけにはいかないだろう」
     年下のパートナーをかばってのセリフだろうが、辛味成分の刺激でガラガラになっている声で
    言っても説得力がない。案の定、それを聞いた少女の悲鳴が怒声に変わる。
    「それを言うなら担当官の安全を図るのは義体の役目でしょう!
    これでは何のために自由時間を削りリスクを負ったのか…まるっきり無意味です!」
    担当官の身に危険が及ぶほど唐辛子を盛ったのかよ!と声に出さずに突っ込んでいる
    激辛クッキーの被害者に対する牽制も含め、げほげほむせながらもヒルシャーは果敢に
    義体の説得を試みる。
    「だから実害はないと言っているだろう!僕が危険な目にあったわけでもないのだから、
    君が役目を果たせなかった事にはならない!」
     しかしながら相手は優秀なくせに一度感情的になると判断力が低下しまくる不器用娘である。
    今回もヒートアップした彼女に担当官の意図は伝わらず、スーツの裾をぎゅぎゅっと握りしめ
    青い瞳の縁に涙を一粒盛り上がらせる。
    「あなたはいつもそうやって……もういいです!!」
    「トリエラ!待ちなさい!!」
     暴風のごとく走り去る少女と後を追う担当官。
    派手な痴話喧嘩、もとい兄妹喧嘩を繰り広げたお騒がせフラテッロが課室を去れば、
    後には取り残された課員が唖然として立ち尽くすばかり。

  • 155【】9/9 - 13/04/26 22:50:22 - ID:RA9NTAFNBQ

    「…………」
    「…………」
    「………あ〜…えーと……おつかれ?」
     あははーと乾いた笑いで周囲を見回した愛の堕天使に、恨みがましい目つきの面々がうなる。
    「……後でおごれよプリシッラ」
    「……は〜い」
     ジョーク菓子なんか買うんじゃなかった。三日後に振り込まれる予定の今月の給料が
    瞬く間に消えてゆく様を想像し、プリシッラはため息をつく。
    「あ〜、でもまさかあそこでリコに持っていかれるとは思わなかったな〜〜。
    まぁおかげでジャンさんの雷が落ちずにすんで助かったけどさ」
    「結局一番運がいいのは、強運のフラテッロを持ってるジャンさんってことか」
     ジョルジョの言葉に納得しかけたプリシッラだったが、そこではたと首をひねる。
    「あれ?でもさ、昨日参加してなかったジャンさんの分をリコが食べたって事は、
    誰か一人食べないですんだって事だよね?」
    「ああ?……そう言やそうだな。けど今課室にいる人間は全員食ったぜ。誰が食わなかったんだ?」
     辺りを見回した視線の先に、タイミングよろしくオフィスのドアをくぐった大柄な女性の姿が。
    「ただいま。ああもう、トリノまで列車で往復とか勘弁してほしいわ」
    「オリガ!!」
     

     その後、自分のあずかり知らぬところで同僚の恨みを買ってしまったロシア人は、プリシッラとともに、
    しばらくの間これをネタに呑み代をせびり倒されることになるのであった。


    << だすえんで >>

  • 156名無し - 13/04/27 23:34:19 - ID:RA9NTAFNBQ

    >>144-155 転載していただきました。
    転載職人様ありがとうございます!

このスレッドに投稿する(は入力必須)

全角1000文字以内

※それぞれ5MB以下のJPG,PNG,GIF形式のファイルを3枚までアップロードできます。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

編集にはIDが必要です