管理人さんが帰ってくるまでの仮まとめです

喪子が死んだのに後追いを許されないヤンデレ。2レスお借りします






妻が死んだ。病で死んだ。
苦しんだ期間は短かった。短かったがゆえに、彼女は何の準備もできずに死んだ。
俺の手に残されたのは、彼女の遺影とがたがたな字で書かれたリストだけだった。

“死ぬまでにやりたかったことリスト”

彼女は死ぬ間際、病に苦しみながらもこれらを俺に残した。
「これが終わるまで死んじゃダメだよ」と言って、彼女は苦しさの隠しきれない顔で笑って死んだ。
本当は後を追いたかったけれど、彼女の最期のお願いを聞かないわけにはいかない。
彼女の遺影を抱え、リストの項目を消化するべく荷物をまとめた。
リストにある場所を巡り、そこで彼女がやりたかったことを淡々とこなす。
行った証拠に写真を墓前に供えてくれと頼まれたから、嫌いな写真も彼女のためならと血を吐く思いで通りすがりにシャッターを頼んだ。
きっと彼女は俺を気遣ってこんなリストを作ったんだろう。
俺がすぐに死んでしまうことを見込んで、力の入らない手で一生懸命リストを書いてくれたんだろう。
彼女の気持ちを、努力を、無駄にしたくない。
彼女がいないのに呼吸をするのはつらい。彼女がいないのに世界を映すのはつらい。
彼女がいないのにざわめきを聞くのはつらい。でも、それも彼女のためだ。

これで何度目の小旅行を終えただろう。荷物を片づけ、遺影の中で笑う彼女に話しかけた。
実際に声は返ってこないけれど、俺の耳にはいつも確かに彼女の声が聞こえていた。今回も、返事はあった。
いつものように彼女は俺の言葉に返事をした。したのに、俺の脳に彼女の声は響かない。
彼女の声が聞こえない。思い出せない。浮かんでこない。
半狂乱で彼女の部屋のクローゼットを開けた。積み上げられた段ボールをすべてひっくり返して、中身を漁って、彼女が生きた証を探す。
ない、ない、ない。
ビデオの1本、メモリーカード1枚すらない。それもそうだ、全部俺が捨てたんだ。
彼女が俺以外の誰かと笑っている姿なんか見たくなくて。知らない時間を過ごした彼女が笑っているのを聞きたくなくて、彼女の前で焼いたんだ。
だって、だって僕はあのときからずっと喪子ちゃんが好きなのに、喪子ちゃんはあんな奴のことが好きで、何度あいつから遠ざけたってあいつの
ことが好きなままで、やっとあいつがいなくなっても喪子ちゃんは僕のことなんか見なくて、だからやっと喪子ちゃんを手に入れたときは本当に
嬉しくて、あいつの記憶なんか全部消しちゃいたかった。僕だけの喪子ちゃんだから、喪子ちゃんはもう僕のものだから。だから、だから。

251 名前:きみの声が聞こえない[sage] 投稿日:2017/04/24(月) 21:21:50
段ボールから転がり落ちた手帳を見て我に返る。すぐさまそれを拾ってページをめくった。彼女の字で、連絡先が書いてある。
うまく動かない指で、最初に彼女の実家へ電話をかけた。
「もしもし」
電子に変換された女性の声。彼女のものと似ているだろうか。思い出せない。どうやっても俺の耳に彼女の声は蘇らない。
「お久しぶりです、お義母さん。ヤンです。お義母さんに聞きたいことが……」
「喪子のビデオ? 嫁ぐときに持たせたのが全部だけど……どうかしたの」
「いえ、そうでしたよね。すみません。何でもないんです」
次は彼女の友達だ。数コールで出た声に覚えはない。だが向こうは俺を覚えてた。
「ヤン君じゃん。久しぶり」
「ああ、久しぶり。あのさ、ちょっと聞きたいんだけど……」
「喪子ちゃんのムービー? 写メじゃなく? うーん、ないと思う」
「ない?」
「だって喪子ちゃん、きみと付き合い始めてからそういうの嫌がるようになったし」
「そっか。そうだっけ。急に電話して悪かった。ありがとう」
それから手帳に書かれた人物全員にかけてみたけれど、どれも返答は同じ。彼女の声はもうどこにも残っていなかった。
これは罰だ。きっと、罰が当たった。彼女から記憶を奪った報いだ。思い出を消した報いだ。家族すら遠ざけた罰だ。
真っ白な病室で、窓の外を眺める彼女の寂しげな横顔が浮かぶ。病室で一人過ごした彼女は、俺を恨んだだろうか。
どうして僕はいつもこうなんだ。
喪子ちゃんに好かれたくてたくさん勉強したのに。
喪子ちゃんにかっこいいと言われたくて運動だって頑張ったのに。
喪子ちゃんに振り向いてほしくって興味のないおしゃれにも気をつけたのに。
喪子ちゃんの一番になりたくてあいつを池に突き飛ばしたのに。
たくさん努力したのに、喪子ちゃんの前ではうまくできなくて、振る舞えなくて、感情的になって、……そして喪子ちゃんを失って。
こんなとき喪子ちゃんはどう慰めてくれただろう。何て言ってくれただろう。言葉は思い出せても、あの声が思い出せない。
喪子ちゃんが消えていく。僕の頭から喪子ちゃんの記憶が薄れてく。
自然と涙があふれた。のどから唸り声がこぼれる。崩れるように膝を折り、何度も頭を床に打ち付け、俺は獣のように慟哭した。
...
..
.
どれだけ泣いても夜は更け、朝は来る。目覚まし時計が鳴った。今日も働かなくちゃいけない。
彼女の願いを叶えるために、彼女の代わりに成し遂げるために、俺には金が必要だ。
顔を洗い、スーツを着込み、ポケットに定期を差し入れ、ドアを開けた。

今日も胸に遺影を抱え、後悔しながら生きていく。





終わり
お目汚し失礼しました

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