管理人さんが帰ってくるまでの仮まとめです

1レス異物混入ショタヤンです







 中学生になった春。肺の病気を患って、おばあちゃんちで療養することになった。
 おばあちゃんは優しくて、おばあちゃんと住んでる伯父さんたちも優しくて、近所の子たちと過ごすのも楽しくて。
 このまま住んでいたいなぁなんて思っていたある日、おばあちゃんがぎっくり腰になった。
 伯父さんは仕事中で、伯母さんが病院まで車を出すことになり、家には私と従兄弟のチビ君だけ。
 いつも家には誰かがいたし、外でも近所の子供たちが一緒だったから、チビ君と二人だけになるのは初めてだ。
「ねえ喪子ちゃん。さんすうおしえて!」
 チビ君は小学一年生。私を「喪子ちゃん」と慕ってくれて、弟がいたらこんな感じかなぁと彼を可愛がっていた。
「ねえ喪子ちゃん。喪子ちゃんいつまでうちにいるの?」
「病気が良くなるまでだよ」
「良くなったら帰っちゃうの?」
「うん」
「ふぅん」
 頷いたチビ君はすぐに話題を変えてしまって、私は寂しがってくれてるのかなぁなんて思っていた。
 その翌日のこと。
 妙に眠くてだるくって、少し寝坊してしまった。台所へ行くと、珍しいことに、チビ君が配膳を手伝っていた。
「すわってて。僕がやるから!」
 チビ君がそう言うから、私は甘えることにして席に着いた。
 伯父さん、おばあちゃん、伯母さんとお椀を配り、私にもにっこり笑って差し出した。ありがとう、と受け取ったとき。チビ君の目はきらきら輝いてた。
「いただきます」
 伯父さんの声で手を合わせて、皆で復唱する。全員でご飯を食べるときはいつもこう。お箸を取り、まずお味噌汁に手を伸ばした。
 伯母さんのお味噌汁は少し甘い。玉ねぎがコツよと教えてもらったことがある。その甘さが、今日はない。変な味がする。一口飲んだだけでわかる違和に、私はお椀の中を何気なくお箸でくるりとかき混ぜた。
 そこに溜まる、溶けきらない白い粉。つぶつぶわ混じる鮮やかな青。思わず口を押さえて、洗面所に駆け込んだ。
 口をすすいで、うがいして、えずきそうになるのを我慢して。息も絶え絶えな私の後ろで、伯父さんがチビ君を怒鳴ってた。ああ、伯父さん、怖い声。
 どうしてこんなもの入れたんだと怒る伯父さんに、チビ君はわあわあ泣きながら訴える。
「だって喪子ちゃん、病気じゃなくなったら帰っちゃう。病気のままなら帰らないって、帰れないって、思ったのに」
 泣きじゃくる彼を、私は責めることはできなかった。



 そんなことを思い出したのは、ずいぶん背の高くなったチビ君が、大きな荷物を持ってうちにやってきたからだ。
 チビ君はこの春、医大生になる。
 父さんが「大きくなったなぁ」と嬉しそうにチビ君に話しかける。息子も欲しかったと、父さんは常々言っていた。チビ君はにこにこ笑って父さんや母さんと話している。あのときの苦い味を思い出してる私にも、彼は笑いかけてきた。
「久しぶりだね、喪子ちゃん」
「う、うん。そうだね、チビ君」
「チビ君なんてやめてよ。俺、もうチビじゃないよ。ヤンって呼んでほしいな」
「や……ヤン、くん」
「大学に通う間、ここでお世話になるんだ。よろしくね、喪子ちゃん」
 にこにこと、あのときの面影が残る顔で笑う。
「俺、絶対医者になるよ。だから喪子ちゃん、病気になったらいつでも俺に言ってね。風邪っぽいとか、どんな些細なことでもいいから。俺が必ず、喪子ちゃんを治してあげる」
 彼の肩越しに、父さんたちの感動した顔がよく見える。父さんたちには見えていない、ヤン君の笑顔もよく見える。
 あの日私にお椀を渡したときと同じ、きらきら輝いた目が私を映していた。

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