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あるニートは賭に出た(仮題)

77 あるニートは賭けにでた。
一酸化炭素が部屋に充満する前に
愛らしい無口っ娘が「死んじゃ・・・ダメだよ・・・」って
玄関から駆け込んでくることに、生死を賭したのだ


79
だが、その無口っ娘は口がきけないのだ。
伝えたい言葉があるのに口がきけないのだ。
今にも死にそうな77に声をかけられないのだ。
77が欲しい言葉をかけてあげられないのだ。
口元を両手で覆いながら、無口っ娘は涙した。
煙で燻された所為でも、呼吸のままならぬ所為でもなく。
己に声が無いことに涙した。
生まれてこの方、役目を果たさぬ喉のことは諦めてきた。
声の代わりとなる術を得て、不自由なく生きてきた。
だが、ここにきて、本当に大切な時にきて、在らざる声に涙した。
スケッチブックは生憎とココにない。
手話は視界が霞んで伝わらない。
部屋から引き摺り出すには致命的に体力がなかった。
ただただ77の意志を取り戻さねばならなかった。
それでも、それでも、無口っ娘には声が無いのだ。
声をかけてやれんのだ。
長年の体質が奇跡によって払われることすらないのだ。
絶望する無口っ娘の耳に嫌な声が聞こえる。
77の呼吸がいよいよ限界に達してきたのだ。
もう時間がないのだ。
無口っ娘は、己の利けぬ口を呪った。
呪って、呪って、呪い尽くして、その果てに。

気がついた。

呪われたこの身に出来ることを思いついたのだ。
上手くいくかは知らぬ。
失敗するかも知れぬ。
想いが伝わらないかも知れぬ。
けれど、それならそれでいいと思ったのだ。
独りでこの部屋から出ることは叶わぬ。
独りでこの部屋から出るなんて嫌だった。
二人で出たかった。
出れぬ時は―――。

無口っ娘は決意した。
77に想いを伝え、生きて貰う事を。
最悪、77だけでも生き延びる方法を実行するのだ。
身を寄せ、口を覆っていた手をのけた。
77の頭をしかと抱きしめた。
そして、役立たずで、呪われていて、大キッライだった己の口を。
77の口に重ねた。
清浄な空気が77の肺に送り込み―――。
とさり、と無口っ娘はひれ伏した。

作者 5-79
2008年03月18日(火) 21:32:26 Modified by n18_168




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