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タグ検索で◆mz3g8qnie16件見つかりました。
ファントム・ペイン 1話 少女/傘
飛行場から足を踏み出すと、むわりとした湿気が私を出迎えた。 聞いてはいたが、確かに蒸し暑い。 これから8月にかけて、更に暑くなるのだという。 すこし、憂鬱だ。 ふと、冷たいものが私の顔を撫でる。 見上げると、糸の様に細い雨粒が疎らに降り注ぐ。 スコールのような激しさはない、やさしい雨。 この国、この地方には良くあることらしい。 あの人が生まれた場所。 私がこれから生きる場所。 * 雨が降っていた。 土砂降りと言うほどでもないが、小雨とも呼び難い、梅雨時の雨。 「いつになったら止むんだよ。……ちっ、鬱陶
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a5%d5%a5%a1%a5%... - 2011年08月24日更新
ファントム・ペイン 2話 傘/包帯
その人は私に何も言わなかった。 その人は私に何も求めなかった。 その人は私の方を見ようとはしなかった。 私は、その人について何も知らなかった。 でも、私は―――― ――――ただ、彼の冷たい瞳の奥にある寂しさを、溶かしてあげたかった。 * 世の中の兄弟姉妹というものがどういう関係を指すのか、俺には判らない。 きっとその家族ごとに全く違う形の兄弟関係があるのだろう。 仲が良かったり悪かったり、密接だったり疎遠だったり、複雑だったり単純だったり。 だが少なくとも、彼ら彼女らの間には、長い時を一緒に過ごし成
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a5%d5%a5%a1%a5%... - 2011年08月24日更新
ファントム・ペイン 3話 包帯/掌
真夜中の3時。白熱光の灯る洗面所。 誰にも言えない確認作業がはじまる。 翻るカミソリの刃。 切り刻まれる薬指。 肉を切り裂く感触。 合間に見える骨の白。 剥れる爪の断面。 滴り落ちる鮮血。 なのに、そこにあるべきものがぽっかりと抜け落ちている。 それがどんなものだったか、どんどんわからなくなっていく。 徐々に失われる情感 助長される無感動。 排水溝へ向かう紅い渦をぼんやりと眺める。 私はいつまでまともでいられるのだろう。 朱は水の中に拡散し、やがて完全に消えうせた。 それを見届けてから一人で包帯を巻き、血
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a5%d5%a5%a1%a5%... - 2011年08月24日更新
ファントム・ペイン 番外編 出汁巻き/厚焼き
「珍しいやん」 「何がだ」 昼休みの、学園の中ほどに設置されているサロン。 昼食を取る高校生、中学生が散見される中、その一員である北大路侑子は同級生である伊綾泰巳の弁口箱を見て感嘆の声を上げた。 小奇麗なミニおにぎり、鮭の塩焼き、卵焼き、ピーマンのおかか和え、ズッキーニとナスのグリル、プチトマト、そして彩にバジルの葉。 「カラフル。いっつもはじみーな茶色のもんばっかしやのに」 「親父がメタボだからだ。俺の趣味じゃない」 「飯もいつもはべたーって広げてるだろ。今日は手ぇこんでるじゃん」 同席していた快活そう
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a5%d5%a5%a1%a5%... - 2011年08月24日更新
ファントム・ペイン番外編2 男の子/女の子
爽やかな朝であった。 開け放たれた窓から適度な風がそよぐ。 太陽はまだ地平線近く、日差しも穏やか。 今なら蝉の声すら心地よく聞こえる。 日中大地が溜め込んだ熱もあらかた宇宙空間に吹き飛び、関西地方の夏場としては格別に涼しい。 着替え終えた伊綾泰巳は大きく伸びをして自室を出ると、台所へ向かう。 何時もより少し早い時間。 弁当を用意した後は、朝食に何か一品付け加えても良い。 普段はご飯に味噌汁と簡単な卵料理だけだが、これではビタミンが足りない。 果物のヨーグルト和えでも良いし、生野菜をサラダにしても良い。 ―
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a5%d5%a5%a1%a5%... - 2011年08月24日更新
ファントム・ペイン 4話 掌/鼓動
お腹から? そんな所から出て来るんだ、ヒトって。 「そう。人間は普通ここから生まれてくるの」 彼女はそう言って笑いながら下腹を叩いた。 「これぐらいの小さい赤ちゃんとしてね。 それまではずっとお母さんのお腹の中で、十分な大きさになるまで眠っているわ」 教科書に書いてはあったけど、何だか信じられない、そんな風に言うと 「女の子のコメントじゃないわねー」 彼女は深々と溜息を吐く。 「何にせよ、本当のことよ。実際に生んだことがあるから間違いない」 彼女の子供。 もう15歳になるのだと彼女は言う。 「すごく長い間
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ファントム・ペイン 5話 鼓動/沈黙
"おはよう" ある日の朝。 窓の無い、真っ白な部屋。 時計の短針が真下を指し、いつも通り目を覚ます。 "おはよう" "おはよう" 朝の挨拶を、同室の子供達と交わす。 "おはよう" "おはよう" いつも通りの日課。 "おはよう" "……" その日は、一人だけ返事を返さなかった。 ベッドの上を覗き込む。 異変は直ぐに見て取れた。 露出している顔面全体を覆い尽くす腫瘍。 見開いた瞼。 濁った眼球。 痙攣する唇。 腫瘍が全身に広がっているのは明らかだった。 先生を呼ぶ。 やがて、彼女は横たわったまま
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ファントム・ペイン 6話 沈黙/告白
* ――――あつい ――――くるしい ――――いたい ――――なにも、みえない ――――なにも、きこえない ――――たすけて ――――おかあさん ――――おとおさん ――――こえを、きかせてよ ――――つな ―――― ―――――――― (――――綱!) 「大丈夫か、結」 渡辺結は目を覚ますと、直ぐ間近で兄の綱が心配そうに覗き込んでいる事に気付いた。 総合病院の待合室。ベンチに座ったまま眠り込んでいたらしい。 見回すと辺りは薄暗く、人気も無い。 時計を見るとすでに10時を回っていた。 「うなさ
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a5%d5%a5%a1%a5%... - 2011年08月24日更新
◆MZ/3G8QnIE
[[じぇみに。]] [[君の匂いを 前編]] [[君の匂いを 中編]] [[君の匂いを 後編]] [[ヤンデレになれません]] [[じぇみに。に]] [[黒い犬は吠えない]] [[じぇみに。酸]] [[黒い犬は懐かない]] [[黒い犬はもういない]] [[ファントム・ペイン 1話 少女/傘]] [[ファントム・ペイン 2話 傘/包帯]] [[ファントム・ペイン 3話 包帯/掌]] [[ファントム・ペイン 番外編 出汁巻き/厚焼き]] [[ファントム・ペイン番外編2 男の子/女の子]] [[ファントム・ペイ
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a2%a1MZ/3G8QnIE... - 2011年08月24日更新
黒い犬はもういない
「ここか……」 プリントされた地図と携帯電話に表示された現在地を見比べ、俺は足を止めた。 興信所に迷い犬飼い主探しの名目で依頼して、たどり着いた住所。 周りは閑静な住宅街。高層の集合住宅は少なく、小奇麗な平立ての一軒家が並ぶ。 目の前には、偽レンガで覆われた新築の洋風2階建て。 敷地面積は100坪程だろうか、庭もそれなりに広い。 請った造りの門の脇に、"鈴木"の表札。 ふと、横を見やると付いて来ている筈の姿が見えない。 「……なにをやってるんだ」 黒いワンピースの上に白いカーディガン姿。 同行者である小
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%b9%f5%a4%a4%b8%... - 2011年08月23日更新
黒い犬は懐かない
この所、仕事の帰りが早い。 今までは2、3時間の残業は当たり前だったが、最近は効率を上げ、業務時間中に仕事を終わらせるようにしている。 女でも出来たか、などと同僚に揶揄されてしまった。 女。 成る程そうかもしれない。 確かに女性であるにはある。 俺は苦笑しながら、窓から電灯の光が漏れているのを確認して、我が家のドアノブを捻った。 「ただいま」 「あ、……おかえりなさい」 フライパンと菜箸を操りながら、ツーピースの部屋着にエプロン姿で、ショートカットの少女が俺の方に笑顔を向ける。 「夕飯
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%b9%f5%a4%a4%b8%... - 2011年06月12日更新
じぇみに。酸
「妹、さん?」 少年の後ろに立つ、彼とどことなく似た風貌の、しかし確実に女性である少女。 睦月の通う中学の制服を纏った、すらりとした体つき。 ハネ毛気味の兄と比べると落ち着いた流れでセミショートの髪が首元にかかっている。 少年からその娘を紹介されて、睦月は呆気に取られていた。 「ああ、結。渡辺結。俺の双子の片割れ。 ちょいと事情があって数年別に暮らしてたけど、明日から同じ学校に通うことになった。 よろしくな」 少年はにっと笑って、一歩横にずれる。 少女はにこりと微笑んで歩み出ると、一礼し
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a4%b8%a4%a7%a4%... - 2011年05月08日更新
黒い犬は吠えない
アパートの敷地の前で、レトリーバー系の中大型犬が死んでいた。 否、まだ死んではいない。息はしている。 ただ、車に撥ねられたのだろう、右後足があらぬ方向に折れ曲がっている。 加えて、腹にあばらが浮き出るほどに痩せ細っていた。 首輪はしているが、汚れきったなりを見るに、恐らくは捨てられて日が浅い元飼い犬だろう。 さて、どうしたものだろうか。 俺は買い物袋を提げたまま、玄関の前で途方にくれていた。 折角の休日、まず買い物を済ませ、その後はゆっくり茶でも飲みながら読書と決め込もう。 優雅なプランは
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%b9%f5%a4%a4%b8%... - 2011年03月28日更新
じぇみに。に
私は馬鹿だ。 夕方のキッチン、半日かけて作ったそれを前にして、滝口睦月は自分の愚かしさに愕然としていた。 大きなハート型。 純白の地の上に黒いイタリックで"I Love You"。 仕上げにピンク色のリボン、後は小奇麗な包装紙に包み、更にリボンを結べば完成。 凄まじい馬鹿馬鹿しさであった。 正しく阿呆の所業であった。 どこのラブコメだ、今時少女漫画でもこんな愚挙は見られない。 これを冗談でもなんでもなく、大真面目で想い人に渡そうとしている自分は、きっと病気なのだろう。 恋と言う精神疾患だ
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a4%b8%a4%a7%a4%... - 2011年03月13日更新
君の匂いを 前編
「君達、止まりなさい」 休日の白昼、町の商店街を歩いていた僕達は、突然呼び止められた。 振り返ると、そこに立っていたのは警官の制服と制帽を身につけた若い男。 きちんとした身なりと、倣岸とまでは行かずとも他人に命令し馴れているその態度は、どこからみても警察官らしい。 腰にこれ見よがしに下げた一丁がモデルガンであることを除けば。 別に僕はグリップ部分を見ただけで拳銃の真贋を見分ける事ができるようなミリタリーマニアと言う訳ではない。 ただ金属の匂いも火薬の匂いもしなかったから。 「保護者の方は居る
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%b7%af%a4%ce%c6%... - 2008年09月27日更新
じぇみに。
「イヤッッ・ホゥ――――!」 時は、真夏。 さんさんと照りつける太陽の下、周りの海水浴客の奇異の視線をものともせず、ビーチに少年の雄叫びが響き渡る。 「夏だ! 海だ!! 海水浴だッ!!!」 「うるさい」 海パン一丁姿で叫びまくる少年に足払いをかけて黙らせたのは、セパレートタイプの水着を着た三つ編みの小柄な少女。 ともすると小学生程度に見えなくも無いが、実は少年と同い年で中学生である。 「うう、強くなったな、滝口」 「綱、周りの人の迷惑」 滝口と呼ばれた少女、下の名は睦月、は言葉少なに砂浜
https://seesaawiki.jp/w/n18_168/d/%a4%b8%a4%a7%a4%... - 2008年09月27日更新



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