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タグ検索でファントム・ペインは8件見つかりました。
ファントム・ペイン 1話 少女/傘
飛行場から足を踏み出すと、むわりとした湿気が私を出迎えた。
聞いてはいたが、確かに蒸し暑い。
これから8月にかけて、更に暑くなるのだという。
すこし、憂鬱だ。
ふと、冷たいものが私の顔を撫でる。
見上げると、糸の様に細い雨粒が疎らに降り注ぐ。
スコールのような激しさはない、やさしい雨。
この国、この地方には良くあることらしい。
あの人が生まれた場所。
私がこれから生きる場所。
*
雨が降っていた。
土砂降りと言うほどでもないが、小雨とも呼び難い、梅雨時の雨。
「いつになったら止むんだよ。……ちっ、鬱陶
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ファントム・ペイン 2話 傘/包帯
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その人は私に何も言わなかった。
その人は私に何も求めなかった。
その人は私の方を見ようとはしなかった。
私は、その人について何も知らなかった。
でも、私は――――
――――ただ、彼の冷たい瞳の奥にある寂しさを、溶かしてあげたかった。
*
世の中の兄弟姉妹というものがどういう関係を指すのか、俺には判らない。
きっとその家族ごとに全く違う形の兄弟関係があるのだろう。
仲が良かったり悪かったり、密接だったり疎遠だったり、複雑だったり単純だったり。
だが少なくとも、彼ら彼女らの間には、長い時を一緒に過ごし成
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ファントム・ペイン 3話 包帯/掌
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真夜中の3時。白熱光の灯る洗面所。
誰にも言えない確認作業がはじまる。
翻るカミソリの刃。
切り刻まれる薬指。
肉を切り裂く感触。
合間に見える骨の白。
剥れる爪の断面。
滴り落ちる鮮血。
なのに、そこにあるべきものがぽっかりと抜け落ちている。
それがどんなものだったか、どんどんわからなくなっていく。
徐々に失われる情感
助長される無感動。
排水溝へ向かう紅い渦をぼんやりと眺める。
私はいつまでまともでいられるのだろう。
朱は水の中に拡散し、やがて完全に消えうせた。
それを見届けてから一人で包帯を巻き、血
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ファントム・ペイン 番外編 出汁巻き/厚焼き
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「珍しいやん」
「何がだ」
昼休みの、学園の中ほどに設置されているサロン。
昼食を取る高校生、中学生が散見される中、その一員である北大路侑子は同級生である伊綾泰巳の弁口箱を見て感嘆の声を上げた。
小奇麗なミニおにぎり、鮭の塩焼き、卵焼き、ピーマンのおかか和え、ズッキーニとナスのグリル、プチトマト、そして彩にバジルの葉。
「カラフル。いっつもはじみーな茶色のもんばっかしやのに」
「親父がメタボだからだ。俺の趣味じゃない」
「飯もいつもはべたーって広げてるだろ。今日は手ぇこんでるじゃん」
同席していた快活そう
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ファントム・ペイン番外編2 男の子/女の子
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爽やかな朝であった。
開け放たれた窓から適度な風がそよぐ。
太陽はまだ地平線近く、日差しも穏やか。
今なら蝉の声すら心地よく聞こえる。
日中大地が溜め込んだ熱もあらかた宇宙空間に吹き飛び、関西地方の夏場としては格別に涼しい。
着替え終えた伊綾泰巳は大きく伸びをして自室を出ると、台所へ向かう。
何時もより少し早い時間。
弁当を用意した後は、朝食に何か一品付け加えても良い。
普段はご飯に味噌汁と簡単な卵料理だけだが、これではビタミンが足りない。
果物のヨーグルト和えでも良いし、生野菜をサラダにしても良い。
―
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ファントム・ペイン 4話 掌/鼓動
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お腹から?
そんな所から出て来るんだ、ヒトって。
「そう。人間は普通ここから生まれてくるの」
彼女はそう言って笑いながら下腹を叩いた。
「これぐらいの小さい赤ちゃんとしてね。
それまではずっとお母さんのお腹の中で、十分な大きさになるまで眠っているわ」
教科書に書いてはあったけど、何だか信じられない、そんな風に言うと
「女の子のコメントじゃないわねー」
彼女は深々と溜息を吐く。
「何にせよ、本当のことよ。実際に生んだことがあるから間違いない」
彼女の子供。
もう15歳になるのだと彼女は言う。
「すごく長い間
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ファントム・ペイン 5話 鼓動/沈黙
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"おはよう"
ある日の朝。
窓の無い、真っ白な部屋。
時計の短針が真下を指し、いつも通り目を覚ます。
"おはよう"
"おはよう"
朝の挨拶を、同室の子供達と交わす。
"おはよう"
"おはよう"
いつも通りの日課。
"おはよう"
"……"
その日は、一人だけ返事を返さなかった。
ベッドの上を覗き込む。
異変は直ぐに見て取れた。
露出している顔面全体を覆い尽くす腫瘍。
見開いた瞼。
濁った眼球。
痙攣する唇。
腫瘍が全身に広がっているのは明らかだった。
先生を呼ぶ。
やがて、彼女は横たわったまま
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ファントム・ペイン 6話 沈黙/告白
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*
――――あつい
――――くるしい
――――いたい
――――なにも、みえない
――――なにも、きこえない
――――たすけて
――――おかあさん
――――おとおさん
――――こえを、きかせてよ
――――つな
――――
――――――――
(――――綱!)
「大丈夫か、結」
渡辺結は目を覚ますと、直ぐ間近で兄の綱が心配そうに覗き込んでいる事に気付いた。
総合病院の待合室。ベンチに座ったまま眠り込んでいたらしい。
見回すと辺りは薄暗く、人気も無い。
時計を見るとすでに10時を回っていた。
「うなさ
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