短編@台詞なし(5)
ぽつ、ぽつ、ぽつ。雨が降る。
一人きりの雨は嫌い。いつもの外の騒がしい音が聴こえなくて、余計に寂しくなる。
お出かけもできないし、退屈だ。
びゅー、びゅーびゅー。風が吹く。
窓が揺れていて、ちょっと怖い。
そこそこ古い家だから、壊れるかもしれない。
そういえば、網戸をまだ外していなかった。今度晴れた日にやっておこう。
ごろ、ごろ、ごろ。雷が鳴る。
ときどき遠くに落ちて、大きな音が聴こえる。
おかげで停電だし、ご飯も作れない。
雨も、風も、雷も、嫌い、嫌い、嫌い。
でも一番嫌いなのは、自分の声。
暗くて、怖くて、歪で、不快な声。
だから喋らない。
人の前では喋らない。
何も言わない。
人の言葉に逆らわない。
布団にもぐって耳を塞ぐと、何も聴こえなくなる。
雨が屋根を叩く音も、風が窓を揺らす音も、雷が落ちる音も。
自分の声も。
でも、何か聴こえる。
ドアの外。
こん、こん、こん。誰かが扉を叩く音。
優しく、優しく、私が驚かないように、扉を叩く音。
その後に、扉の向こうから聴こえる、大好きな声。
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
雨が、大好きな彼を運んでくる。
2011年10月22日(土) 19:09:13 Modified by ID:yaigDm7HYA