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タグ検索で縁シリーズは14件見つかりました。
矛盾邂逅(前編)
一ノ瀬由樹(いちのせゆき)は二十歳の大学三年生である。
女の子みたいな名前だが男だ。細身で女顔のため、たまに女に間違えられることもある。
出身は神守(かみもり)市で、地元の明宝(めいほう)大学に通っている。今はちょうど就職活動中で、由樹はそのことで悩んでいた。
自分のやりたいこととは何だろう。何が自分に合っているのだろう。
説明会にも何度か行ったが、由樹にはピンとこなかった。
十二月に入っても、由樹の心はあまり晴れなかった。
そんなとき、彼が通う武術道場の師範が言った。
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縁の切れ目 言霊の約束(完)
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「……何が?」
「……だから、……その」
言い淀む依子の様子に守は訝しむ。しかし、
「…………え!?」
「察してよすぐに……」
「いや、だって、それって」
守がその意味に気付かなかったのは、そういうこととは無縁なイメージを依子に抱いていたからだ。だからその言葉に、守は驚くしかなかった。
「いや、まあ、その」
「私は、別にいいよ……好き合った人同士なら、普通……だよね?」
「それは……そうだけど、でも」
「しないの?」
「あ、だって、まだ早いかもわからない、ていうか」
「……お姉
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縁の切れ目 言霊の約束(3)
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依子は話した。姉のことを。守のことを。自分の気持ちのことを。
どちらも大好きで、だからこそ迷っていることを。
かつて依子は守に言った。相手を傷付けることを恐れて中途半端になってしまう、と。
あのとき依子は、理解のためなら踏み込むと明言した。しかし今、果たして同じことを言えるかといったら、言えないかもしれない。
あのときは縁視の力があった。だからあんなことを言えたのだ。だが今は違う。今の自分は裸に等しい。ただの弱い一人の人間だ。
それでもいい。やるべきことは決まっている。依子はそれを包
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縁の切れ目 言霊の約束(2)
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朝食を終え、依子は遠藤宅に向かった。
庭を抜けるとき、昔馴染みのお手伝いさんに出会い、少しだけ話をした。親しげで温かい口ぶりがこちらを受け入れてくれてるようで、嬉しかった。
屋敷から二百メートルほど離れたところにある小さな二階建ての家に依子は向かった。裏の方により大きな道場があるのが特徴的な、遠藤家の敷地だ。
依子は直接道場に行くために、裏門へと回る。
やや低い塀に囲まれた敷地は広いが豪奢ではない。あくまで家と道場を囲むだけの塀と、華美さに欠けた狭い庭は住人の性格を表しているようだ。
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縁の切れ目 言霊の約束(1)
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遠藤守の住むアパートの一室で、依子は呆然と固まっていた。
部屋には三人の人間がいた。依子と、守と、もう一人若い女性の三人が座卓を囲んでいる。
その女性は美しかった。
人形のように整った顔立ち。流水のように滑らかな黒髪。厚手のスーツは凛とした雰囲気を際立たせ、服の間から見える柔肌は雪のように白い。
そして、依子にとてもよく似ていた。
依子は何も考えられず、何も言葉が出なかった。色々なことが急に起こりすぎて、頭が混乱していた。
一度だけ小さく深呼吸をする。簡単に落ち着けるものではな
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縁の滅 揺蕩う少女(後編)
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自分よりも大きな少女が公園から出ていくのを見送りながら、美春は自身の魂が弱まっているのを自覚した。
彼女はここ最近、ろくに『食事』を摂っていないのだ。
このままでは長くは持たない。どこか『食事』の摂れる場所を探さなくては。美春は背後に思念を飛ばした。
あきら。
名を呼ぶと、小さな返事が返ってきた。が、それは周囲の大気を微塵も震わせない。
美春にだけ聞こえる、声なき声。
美春に付随する唯一の存在。彼女を守護し、彼女が保護する浮遊霊、明良。美春はそれに話しかける。
(ここでいいの?
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縁の滅 揺蕩う少女(前編)
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十一月。
霜月の空気は肌寒く、季節はあと一歩で冬に辿り着くところまで来ていた。
街は徐々に様変わりを始め、人々の服装も厚みと枚数を増している。商店街では一ヶ月先のクリスマスに向けて装いを改め、駅前にはイルミネーションの鮮やかなツリーが立てられた。
依子はそんな駅前のオープンカフェで、注文の品を待ちながら、人の波を眺めていた。
土曜日の午後。人の数はなかなかに多い。平日でも休日でも、賑わいは常にあった。
房総半島の一隅にある街、神守市。
百万都市にはまったく届かないが、交通のアクセ
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言霊の力 神守の当主(後編)
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『言霊』とは一般的に言葉に宿る霊力のことを指す。神守でもそれは同じだが、依澄の言う言霊とは、もう少し狭い意味合いを持つ。
依澄の放つ言霊は、自身の感情を乗せることが出来るのだ。
普通の人間にもある程度それは出来るが、彼女の言霊は桁違いだ。なぜなら、相手の心に直接自分の感情を侵蝕させるほどの力を持つからだ。
──わかりやすく言うと、『強制的に相手を従わせる』といったところだろうか。
圧倒的な霊力を乗せて感情をぶつける。すると相手はその感情にあてられて、自らを保てなくなる。
狂おしく愛せば相手は自分
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言霊の力 神守の当主(前編)
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秋も深まる十月十日。
遠藤守はアパートの自室で眠っていた。
もう正午過ぎである。しかし青年はベッドの上で、うつ伏せのまま身じろぎ一つしない。
ほとんど死人のような様だが、これには彼なりの理由があった。
学校の課題を幾つか溜め込んでいたため、守は一昨日から昨日にかけて徹夜で片付けていたのだ。
提出したのが昨日の夕方。そのあと友人に無理やり合コンに付き合わされ、帰ってきたのが今朝の六時。守は疲労に満ちた体を柔らかい寝台に預けると、一分で眠りの園へと旅立った。
で、今に至る。
自業自得は世の常。こ
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1-527 かおるさとー氏「縁の傷 沈黙の想い」2
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『振り回してしまってごめんなさい』
静梨がメモ帳を広げて頭を下げた。
「静梨ちゃんが楽しかったならぼくは満足だから、そんなに謝らないでよ」
「……」
申し訳なさそうに小さくなる静梨。
そういう態度はやめてほしかった。静梨の笑顔を見たいのだから、そんな顔はしないでほしい。
それに、今から聞かなければならないこともある。
「ねえ、静梨ちゃん」
呼び掛けに顔を上げる。
訊きたいことがある、と言うと、小首を傾げた。
「森嶋君という子、知ってるよね」
静梨の顔が、心なしか強張ったような気がした
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1-527 かおるさとー氏「縁の傷 沈黙の想い」1
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神守病院301号室。
遠藤守(えんどうまもる)は小さな丸椅子に腰掛けて、左右の手を細かく動かしていた。
右に包丁、左にりんご。膝上の皿に赤い皮が、しゃりしゃりと音を立てて落ちていく。なかなかに器用な手つきだ。
守の目の前には大きなベッドがある。
そして、その上には無表情な少女の姿。
顔立ちは綺麗だった。しかし左の頬には大きなガーゼが、頭部には真っ白な包帯が巻かれており、逆に痛々しく映る。
顔だけではない。右の手首、左の前腕、左右の内太股、左腹部と、それぞれに傷を負っている。打撲で痣がひどく、全
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1-443 かおるさとー氏 「縁の糸、ゆかりの部屋」3
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義母は小さなハンドバッグを提げ、玄関から出てきた。
「私、今から買い物に行ってくるから、留守番お願いできるかしら?」
ゆかりは頷き、笑みを返した。
「うん。遅くなる?」
「少しね。七時には帰ってくるから」
「わかった。行ってらっしゃい、お母さん」
義母はなぜか驚いたように目を見開いた。しかしすぐに微笑んで、
「ええ、行ってくるわね、ゆかり」
今度はゆかりの表情が揺れたが、すぐにそれは消える。
離れていく後ろ姿を見送るゆかりは、どこか穏やかで嬉しげだった。
「仲良くやってるんだな」
「
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1-443 かおるさとー氏 「縁の糸、ゆかりの部屋」1
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明日から夏休みという日、終業式を終えて、俺は帰路についていた。
学校が午前中のみだったため、太陽はまだかなり高い位置にある。真上からの熱波が髪を照り付けて、じりじりと痛い。蝉の鳴き声がどこまで行っても響いている。
「もし」
暑さにため息をついていると、そんな短い声が耳に入った。聞かない声だったが、反射的に俺は立ち止まって後ろを振り返る。
そこには、知らない女の子が立っていた。
すげえ美人だった。
整った顔立ちはまるで御伽噺から出てきたかのようだ。ポニーに結った栗色の髪が柔らかく映える。肌は日向
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1-443 かおるさとー氏 「縁の糸、ゆかりの部屋」2
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甲高い蝉の鳴き声に、暑さと汗が入り混じる。
ゆかりは細い裏道を指して、先に店があると言った。知らなかった情報に感心する。
民家の屋根瓦が、灰色のブロック塀が、ひび割れそうなくらいに日を浴びている。電柱は短い影しか落とさず、アスファルトの日除けにさえなってくれない。飛ぶことで涼しい風を浴びようとするかのように、雀が電線の上を通過していった。
本当に暑い。
でも、ゆかりはどこか楽しそうだった。
店に入ってバニラのカップアイスに喜び、店を出て夏の日射しの強さを嘆く。何気ない反応を当たり前のようにして、
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