おまじない系無口さん
「…………」
一心不乱。
まさにそう表現するに相応しい勢いで、彼女は机を擦っていた。
今日買ってきたばかりらしく、まだカバーに汚れ一つついていない、
新品の消しゴムで、ごしごし、ごしごしと擦っていた。
「何やってんの、沢崎さん?」
「……!」
あ、止まった。
かと思うと、ギギギ、と音が鳴りそうな感じでこちらを振り返り、
僕の顔を見てまた止まった。……なんか、まずい所に声かけちゃったのかな?
「な、なんか、邪魔しちゃったかな?」
声をかけても、彼女は固まったまま動かない。
「おーい、沢崎さーん? おーい?」
眼前で手をひらひらとさせていると、彼女はようやく動いた。
「……!? っ……!!」
というか……脱兎の如き勢いで、教室の外へと駆け出して……見えなくなった。
「……な、なんなんだ一体……?」
見られちゃった! 見られちゃったよぉ!
「あ、由奈……ってちょっと!」
ぎゅむ。
「なんで休憩時間に全力疾走?」
うー、痛いよぉ。離してよ、美樹ちゃん。
「ああ、ごめんごめん。痛かった?」
こくり。……うん。
「そりゃ悪かったわ。ごめんね」
ふるふる。別にいいよ。
「あんたはホントカワイイわねぇ……それはともかく、どうしたのよ?」
ふるふる。……ごめんね、美樹ちゃんにも言えないの。
「……何か深い事情がありそうね。あんたがそんな深刻な顔してるなんて」
……う、うぅ……深い事情があると言えばあるんだけどぉ。
けど、このおまじないは誰かに言っちゃうと効果なくなっちゃうから、
美樹ちゃんにもいえないの。ホントにごめんね。にこっ。
「……むぅ……ま、あんたがいいならいいけどさ」
美樹ちゃんはホントいい人だなぁ……私みたいな無口で根暗なのを
こういう風に心配してくれるなんて。持つべき物は友、だね。
「なんかわたしの事褒めてない? よしてよ、照れるわ……って、
あんた何持ってるの?」
え、あ、これは……!
「ちょっと見せて?」
駄目ぇ! 駄目だよぉ!
「……なんかそんなに嫌がられると余計見たくなるんですけどっ!」
ああっ、取られちゃったっ!?
「えっと……これって、消しゴム? なんか新しいのに、中身は大分
小さくなってるわね? ……あ」
ぎくっ。
「……なるほど、これを見られたわけね、佐伯君に」
ひ、酷いよぉ、美樹ちゃん! おまじないの効果がぁ……。
「あはは、ごめんごめん。お詫びに今度ダブルデートセッティングして
あげるからさ! わたしの彼氏、佐野君の友達だし」
………………。
「……あれ?」
………………だ、だぶるでーと……。
「もしもーし、由奈ー? 沢崎由奈さーん?」
きゅぅ。
「ああっ、由奈が倒れたっ!?」
うきゅぅ……。
「……刺激が強すぎたかなぁ、いきなりダブルデートは」 終わり
作者 5-635
一心不乱。
まさにそう表現するに相応しい勢いで、彼女は机を擦っていた。
今日買ってきたばかりらしく、まだカバーに汚れ一つついていない、
新品の消しゴムで、ごしごし、ごしごしと擦っていた。
「何やってんの、沢崎さん?」
「……!」
あ、止まった。
かと思うと、ギギギ、と音が鳴りそうな感じでこちらを振り返り、
僕の顔を見てまた止まった。……なんか、まずい所に声かけちゃったのかな?
「な、なんか、邪魔しちゃったかな?」
声をかけても、彼女は固まったまま動かない。
「おーい、沢崎さーん? おーい?」
眼前で手をひらひらとさせていると、彼女はようやく動いた。
「……!? っ……!!」
というか……脱兎の如き勢いで、教室の外へと駆け出して……見えなくなった。
「……な、なんなんだ一体……?」
見られちゃった! 見られちゃったよぉ!
「あ、由奈……ってちょっと!」
ぎゅむ。
「なんで休憩時間に全力疾走?」
うー、痛いよぉ。離してよ、美樹ちゃん。
「ああ、ごめんごめん。痛かった?」
こくり。……うん。
「そりゃ悪かったわ。ごめんね」
ふるふる。別にいいよ。
「あんたはホントカワイイわねぇ……それはともかく、どうしたのよ?」
ふるふる。……ごめんね、美樹ちゃんにも言えないの。
「……何か深い事情がありそうね。あんたがそんな深刻な顔してるなんて」
……う、うぅ……深い事情があると言えばあるんだけどぉ。
けど、このおまじないは誰かに言っちゃうと効果なくなっちゃうから、
美樹ちゃんにもいえないの。ホントにごめんね。にこっ。
「……むぅ……ま、あんたがいいならいいけどさ」
美樹ちゃんはホントいい人だなぁ……私みたいな無口で根暗なのを
こういう風に心配してくれるなんて。持つべき物は友、だね。
「なんかわたしの事褒めてない? よしてよ、照れるわ……って、
あんた何持ってるの?」
え、あ、これは……!
「ちょっと見せて?」
駄目ぇ! 駄目だよぉ!
「……なんかそんなに嫌がられると余計見たくなるんですけどっ!」
ああっ、取られちゃったっ!?
「えっと……これって、消しゴム? なんか新しいのに、中身は大分
小さくなってるわね? ……あ」
ぎくっ。
「……なるほど、これを見られたわけね、佐伯君に」
ひ、酷いよぉ、美樹ちゃん! おまじないの効果がぁ……。
「あはは、ごめんごめん。お詫びに今度ダブルデートセッティングして
あげるからさ! わたしの彼氏、佐野君の友達だし」
………………。
「……あれ?」
………………だ、だぶるでーと……。
「もしもーし、由奈ー? 沢崎由奈さーん?」
きゅぅ。
「ああっ、由奈が倒れたっ!?」
うきゅぅ……。
「……刺激が強すぎたかなぁ、いきなりダブルデートは」 終わり
作者 5-635
2008年09月25日(木) 21:48:31 Modified by n18_168