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ペンギンが死んだ


 寒いので体の温まる飲み物が欲しい。
 俺は一階の台所に下りて、何かないか探していた。
 と、鏡餅に使うような橙があったので、早速それを絞って水と砂糖を足して温める。
 完成。盆に乗せて二階の自分の部屋まで運ぶ。
 部屋には、無口な幼馴染が一人。今日は二人でゲームをして遊んでいる。
 小さな体をこたつに突っ込んで、やっているのはコナミの夢大陸アドベンチャー。
 この辺でMSXを実機でやれるのは、俺ん家くらいのものだ。
「はい、ホットドリンク」
 目の前にカップを置くと、「ピロリ」とポーズがかかる。
「……」
 湯気の立つ橙ジュースを見て、そして俺を見る。
 彼女は寒がりだ。今も上半身が冷えるのか、マフラーを巻いている。
「ポッカのホットはちみつレモンだ(大嘘)」
「……果肉、入ってる」
「黙って飲め」
 そう言って俺が口を付けると、彼女も気乗りしない風だけど、真似して口を付ける。
 ごく。
「……」
「……酸い」
 手製はやっぱり苦味とか渋みが残る感じだな。
 まぁ良いや。変な顔をしながら熱いところを啜る。
 そして温くなる前に、きゅーっと一気。
「ぷはぁー」
「……う゛う」
 唸り声に気づいて目をやると、彼女も一気飲みをしていた。
「ちょ、無理すんなって」
「……げふ」
 微妙に表情を歪ませて、それでも俺に対抗するような目で見ている。
「あ〜俺が悪かったから! よしよし」
 悪気は半分あった。宥めるつもりで、頭を撫でてあげる。
 すると彼女は一応溜飲が下がったのか、コントローラーを持ち直しゲームを再開した。

「……」
 テレビの中で、ペンギンが元気良く跳ねている。
 そして彼女は、そんな映像を無表情気味に見つめながら、がちゃがちゃと手を動かしている。
「寒がり、温まったか?」
 目線は愚か、聞こえていないといった風だ。
 じゃ、触診してみる。後から、おでこの辺りに――。
「……!!」
 びくっと凄まじい反応をして、固まる。
 温かかった。と言うより、俺の手がまだ冷たい?
「ん? どうした?」
 テレビを見ると、黒画面に白字で「GAME OVER」と出ている。
 ひょっとして、脅かしたせいでミスったのか? 残機も無かったのか。
「あ…悪ぃ、邪魔した」
「……ペンギン…死んだ……うぅ」
 やばい、泣かした。悪ふざけが過ぎた。
「あーほら、今度は二人でやれるゲームでもしようぜ? な?」
「……ペンギン…」
 彼女はペンギンが大好きらしい。真ん丸で可愛いシルエットとか、効果音の「ピィ」って鳴き声とか。
「分かったよ。お前がやってたとこまで進めてやっから、ほい、足入れるぞ」
 半ベソかいて黙っている。勿論、それで許してくれるらしい。
 何故なら、バトンタッチの代わりに、こたつの中の足が、俺を蹴ってきたから。
「……」
 プレイ中、ちらちらと彼女の表情を確かめる。
 画面を真剣に見つめていた。そんな様子がまるで子どものようで、いつも以上に可愛く思えた。
 地味な二人の時間だが、こういうのも悪くない。
2011年08月23日(火) 10:27:58 Modified by ID:uSfNTvF4uw




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