出張帰りと幼馴染み(仮題)
「皆様、ただいま当機は東京羽田に着陸いたしました。本日もローンスターアライアンスメンバーの全日本航空を・・・」
客室アナウンスが、自分が出発地に帰ってきたことを知らせる。
やがて飛行機は、全日本航空の使用する第1ターミナルの16番スポットに駐機した。前列の座席なので早々に降りる。
国内の短期出張なので預けた荷物は無い。その足で普段どおり京急線乗り場に向かってゆく、とふといつも気にはしなかったものが目に留まった。
辛いものが好物な自分が今までここの辛子明太子屋に気づかなかったのか、と思いつつ、次の品川行きまで時間があることもあって覗いてみた。
なるほど、さすがに専門だけ合っていろいろとおいているが、その中で特に目に留まったのは「白魚明太」と「辛さ2倍明太子」だった。
後者は試食もあり、試してみたが確かに辛い。良い意味で。
一つずつ包んでもらい、品川行き乗り場に向かう。西多摩在住だと、乗り換え回数だけを考えれば成田のほうが楽かもしれない。バスは高いし。
自宅に戻り、カバンを放る。買ってきたものは冷蔵庫に入れておく。
上着を脱いで安酒をグラスに注いだところで、ドアチャイムが鳴った。こんな時間に来るのは一人しかいない。
「はい、どちらさま?」
の質問にも無言。宅急便の最終配達時間帯ぎりぎりでは合ったがその線は消えた。やはり彼女だ。ドアを開けた。
「おかえり」
一言だけこちらに告げ、入ってきた。3件隣の部屋に住む幼馴染兼恋人。手にはありがたいことに3つのタッパー。
「今日帰る日だって言ってたから」
覚えていて、わざわざ夕飯を持ってきてくれたらしい。出張から帰ったばかりの腹と身にはありがたいことこの上ない。
ただ、何時かは分からなかったとのことで、6時ごろにはもう用意しておいてくれたらしい。本当にありがたい。
温め直したい、とのことで電子レンジのほうに向かって行った。その間、自分はカバンから出した洗濯物を洗濯機に押し込んでくる。
…と、「何か」聞こえた気がした。台所から。とりあえず、そちらに向かってみる。
やはり、彼女からの無音の叫びだった。なにやら、口を押さえているが、まな板を見て何故かは分かった。わざわざ、箸休めに明太子を切っていてくれたようである。
…例の、辛さ2倍のを。知らずにつまみ食いしてしまったらしい。
状況を理解したので、対策に移る。グラスに水を入れ渡す、が両手で口を押さえて受け取ってくれない。仕方ないからいったん置いて背中をさすろうとした。
と、途端抱きついてきた。両腕に重みが伝わると同時に、視界も急に塞がった。
…辛い。彼女の舌に残っているだけの唐辛子だけで十分辛い。唇は甘いのに絡む舌に伝わる味は辛い。そのギャップに頭がクラクラする。まさに夢の中にいるような…
やがて、舌から伝わってきた辛さが消え、さらにしばらくして唇同士が離れる。
そして、一言言われた。「口直し」…と。
まずい、かわいすぎる。
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客室アナウンスが、自分が出発地に帰ってきたことを知らせる。
やがて飛行機は、全日本航空の使用する第1ターミナルの16番スポットに駐機した。前列の座席なので早々に降りる。
国内の短期出張なので預けた荷物は無い。その足で普段どおり京急線乗り場に向かってゆく、とふといつも気にはしなかったものが目に留まった。
辛いものが好物な自分が今までここの辛子明太子屋に気づかなかったのか、と思いつつ、次の品川行きまで時間があることもあって覗いてみた。
なるほど、さすがに専門だけ合っていろいろとおいているが、その中で特に目に留まったのは「白魚明太」と「辛さ2倍明太子」だった。
後者は試食もあり、試してみたが確かに辛い。良い意味で。
一つずつ包んでもらい、品川行き乗り場に向かう。西多摩在住だと、乗り換え回数だけを考えれば成田のほうが楽かもしれない。バスは高いし。
自宅に戻り、カバンを放る。買ってきたものは冷蔵庫に入れておく。
上着を脱いで安酒をグラスに注いだところで、ドアチャイムが鳴った。こんな時間に来るのは一人しかいない。
「はい、どちらさま?」
の質問にも無言。宅急便の最終配達時間帯ぎりぎりでは合ったがその線は消えた。やはり彼女だ。ドアを開けた。
「おかえり」
一言だけこちらに告げ、入ってきた。3件隣の部屋に住む幼馴染兼恋人。手にはありがたいことに3つのタッパー。
「今日帰る日だって言ってたから」
覚えていて、わざわざ夕飯を持ってきてくれたらしい。出張から帰ったばかりの腹と身にはありがたいことこの上ない。
ただ、何時かは分からなかったとのことで、6時ごろにはもう用意しておいてくれたらしい。本当にありがたい。
温め直したい、とのことで電子レンジのほうに向かって行った。その間、自分はカバンから出した洗濯物を洗濯機に押し込んでくる。
…と、「何か」聞こえた気がした。台所から。とりあえず、そちらに向かってみる。
やはり、彼女からの無音の叫びだった。なにやら、口を押さえているが、まな板を見て何故かは分かった。わざわざ、箸休めに明太子を切っていてくれたようである。
…例の、辛さ2倍のを。知らずにつまみ食いしてしまったらしい。
状況を理解したので、対策に移る。グラスに水を入れ渡す、が両手で口を押さえて受け取ってくれない。仕方ないからいったん置いて背中をさすろうとした。
と、途端抱きついてきた。両腕に重みが伝わると同時に、視界も急に塞がった。
…辛い。彼女の舌に残っているだけの唐辛子だけで十分辛い。唇は甘いのに絡む舌に伝わる味は辛い。そのギャップに頭がクラクラする。まさに夢の中にいるような…
やがて、舌から伝わってきた辛さが消え、さらにしばらくして唇同士が離れる。
そして、一言言われた。「口直し」…と。
まずい、かわいすぎる。
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2008年09月25日(木) 20:38:00 Modified by n18_168