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初々しいふたり

 どうやら彼女は逡巡している様だった。
彼女の目の前で、友達とだろうか、談笑している彼の、
いや背負ったバックをじっと見つめては
口を開きかけ、何か発するのかと思えばそのまま閉ざし俯きがちにリュックを見る。
 なんて事はない、ただバックのジッパーが開いているだけなのだ。
それを彼女は伝えたい、それだけなんだろう。ただそれだけの事を彼女は迷っている。
何度かそんな事を繰り返した後、何か決意めいたものを顔に浮かべてまっすぐ彼を見た。
追い詰められた鼠は猫を噛む、の格言通り彼女は実力行使に出たのだ。
いきなり、それも乱暴にリュックの取っ手を引っ張って手繰り寄せ、
ジッパーを閉め始めた。
 された男の子は始めこそ驚いた様子だったもののすぐに彼女がしている事に気付き
彼女が閉め終わるまで大人しくしている。
「開いてたか、すまねえな」
 向直って礼を言う彼に、彼女はただ首を振って少し笑うだけだった。
「もう食い終わったろ、行こうぜ」
 周りの仲間に声をかけ、そのまま彼等はたこ焼き屋の前から歩き出す。
彼女はまたも彼の後ろに付け、今度は彼の赤くなった耳を見ているみたいだ、
そうして見ている彼女の頬もまた赤い。
彼が彼女の視線に気付くのはいつになるのかな、なんて他人事ながらそんな風に思った。
 思ったところでふと、自分の彼女は如何しているのかと振り返る。
果たして、いつも通りか想像通りか、こっちを見ている顔に会った。
 漠然と、そう本当に、何となく嬉しかった。
 そんな照れ隠しに彼等が歩いていった方を見て、
「いや、初々しいと思ってね」
 何に言い訳しているかわからないそんな言葉をはいた。
いつも通り彼女は何も言いはしなかったけれど、多分、頷いてくれているのだろう。
見てはいない、でも雰囲気で判る、そう思いたい。
まあ、どちらにせよ大した問題ではない。
彼女がこうして傍にいて、自分を見ていてくれるなら。
 それから彼女に向直って、手を差し出した。
少し笑いながら手をとってくれた彼女と歩き出す。
「あったかいね」
 久しぶりに顔を出した太陽を手で透かしながら彼女は言った。
 僕はその横顔を見ていた。
2011年03月13日(日) 23:02:25 Modified by ID:xKAU6Mw2xw




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