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短編@台詞なし(2)

今年はとても寒い。
例年は滅多に雪が降らないこの町でも、それなりの雪が積もった。
我が家でも早々に炬燵を出して、春がやってくるのを今か今かと温もりの中で待つ。
今日も小柄で無口な少女と二人で炬燵で温まって居た。
少女の小さな手が差し出される。
少女の手からオレンジ色を受け取り、丁寧に皮を剥いていく。
やがて丁度いい具合に熟れた果肉が顔を出す。
皮を剥き終えると再び小さな手が差し出され、その上に剥き終えたばかりの蜜柑を乗せてやる。
彼女はそれを口にいれるのかと思いきや、白く残った筋を一本一本丁寧に剥いていく。
丸裸にされたオレンジ色はひとつ、またひとつと解体されていく。
少女の小さな手が差し出される。
手の中には丁寧に解体された蜜柑の一房。
それを受け取ろうとすると、ひょい、と遠ざかる。
少女の顔をみると首をふりふりと横に振り、次に口をぱくぱくとして見せた。
なるほどと思い、口を開けて待つ。
少女の手から解体された果肉が口の中に放り込まれる。
咀嚼すると、確かな甘みと仄かな酸味が口の中に広がる。
嚥下し終わると、再び少女が蜜柑の一房を差し出す。
口を開けると、少女はまた首を横に振った。
訝しんでいると、手首を掴まれ、掌の上に蜜柑の一房を置かれた。
少女を見やると、口を小さく開けて待っている。

少女の口に蜜柑を入れてやる。
それを飲み込み、少女は満足そうに薄く微笑むと、再び蜜柑の一房を差し出してきた。
口を開けると、再び口の中に甘味と酸味が同時に広がる。
4つ目は少女へ。
5つ目は少女から。
6つ目は少女へ。
7つ目は少女から。
8つ目は少女へ。
最後に、一つだけ残った。
少女は何かを考えるような顔をして、それから何故か頬を染める。
少女の考えていることは何となく読めたが、可愛らしく頬を染める彼女を見て、あえて黙っておく。
少女は頬を染めたまま、最後の一つをおずおずと口へ運び、咥えた。
そして、咥えたままこちらへ擦り寄ってくると、潤んだ瞳でこちらを見上げる。
少女の顔が近づき、それにつられてこちらも近づけてしまう。
少女が咥えたままの蜜柑を咥え、軽く押し潰す。
果汁が口の中に広がるが、この甘味は蜜柑だけのものだろうか。
何時の間にか、互いに口の中に舌を差し込み、蜜柑の果汁と、お互いの唾液を啜りあっていた。
名残惜しく口を離すと、ほんの少しの間だけ橋が架かり、途切れる。
少女を抱きしめ、少女に抱きしめられる。
そうして今日も、春がやってくるのを今か今かと待つ。
小さな少女との温もりの中で。
2011年08月24日(水) 10:09:56 Modified by ID:uSfNTvF4uw




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