守美と朔耶(仮題)
高牧真一は、疲れ切っていた。
「……あのなぁ、お前ら」
ベッドに横たわる真一の左右には、愛らしい少女が二人、裸身のまま寝転がっている。
右側にいるのは、真一の通う大学でも滅多にいないだろうと思われるほどスタイルの整った少女。
肩口ほどの金髪をツインテールにして、真一の脇腹にその豊かすぎる双丘を押し当ててくる。
当たってるんだけどと言ったとしても、表情だけで当ててんのよと返してくるであろう義妹・李守美の姿に溜息を吐く。
同時に、左側から伸びた繊手が股間に伸びてきたことに気づいて、その手を押しとどめた。
左側に向けた視界には、年齢相応の蕾のような愛らしさを残す体型の、腰まである長い金髪をストレートに下ろした少女が、楽しそうに笑っていた。
李守美と同じ顔立ちの少女、言うまでも無く双子の片割れ、朔耶の愛らしい笑みに、こめかみが痛みを覚える。
「ったく……」
「〜〜!」「――?」
なんか文句でもあるの! と、言いたげな表情で睨んでくる李守美と、
まだ欲しいんですか? と、剣呑な意志を笑顔にくるむ朔耶に、
更に深い溜息を吐いて。
真一は今日の事を思い出した。
ここ数日、ゼミが異様に忙しくて、ついでにバイトも鬼のように忙しかった。
女顔に華奢な体躯、身長も男性平均を下回っているとは言え、真一は体力だけは人に数倍するのだ。
それでも疲労でノックダウン寸前になっていた辺り、その忙しさは想像するにあまりあると言うもの。
だから、今日は早くても昼過ぎまでは眠っておこうと思ったのも故ないこと。
だけど、ソレを許してくれるほど運命は甘くなかった。
ぴんぽーんっ、といきなり電子音が響く。
「……んだよ」
外見に似合わない言葉遣いだなと、友人一同に言われる荒い言葉遣いのまま、真一は枕元の時計に視線を向ける。
時刻はまだ八時を少し回ったところ。
こんな時間に、わざわざ此処に来る知り合いなどいない。
だから、無視してもう一度まぶたを閉じた。
ぴんぽーん、ぴんぽーん。
二回もわざわざ鳴らす人間の非常識ぶりを無視して、眠りに落ちようとする真一。
ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん。
断固無視する。その決意を表すようにしっかりと瞼を閉じて、布団を頭まで引き上げる。
ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽ……
「だーーっっ! 五月蠅ぇっ!」
とうとう布団を跳ね上げた真一は、未だにやかましく鳴らされるチャイムに苛立ちながら、玄関に向かう。
こういうときワンルームの構造は便利だなと、そんなことを考えながらばんっとドアを一気に開けた。
「うっせえぞ、この野郎! ……って」
ジーパンにラグランTシャツ姿でむーっとふくれっ面を浮かべる李守美と、
真っ白なワンピースを着てにこにこと笑ってる朔耶が立っていた。
「……なんでこんな時間にウチに来るんだよ、お前ら」
「〜〜っ!」「――――」
わざわざ来てやったのにその態度は何なのよ! と両手をぶんぶん振り回して顔を真っ赤にする李守美。
お兄様のお疲れを解しに参りました、とにこにこ笑顔を浮かべる朔耶。
そんな対照的な二人に溜息を吐く。
「良いから帰れ」
「! っ!! っっっ!!」「――ぅ」
速攻で返した瞬間、李守美が顔を真っ赤にして詰め寄ってきて、今にも泣き出しそうな表情で朔耶が見詰めてくる。
「帰れ」
「っっっっ!!!」「――っく」
二人同時に目尻に涙を浮かべる。
放っておくと必ず泣き出す。
それが理解できたから。
「あ〜もう、解ったから入れよ」
言った瞬間、仕方ないから入ってあげると表情で告げてくる李守美とにゃぱっと嬉しそうに笑う朔耶。
まいどの事ながら、結局この二人の言うとおりに動かされている自分に苛立ちながら、ベッドに戻る。
「好きにすればいいが、俺は寝るからな」
それ以上は何も言わずに、ベッドに戻る真一。
背後でばたばたと暴れている二人を無視してパイプベッドに横になる。
くいっとパジャマの背中を引っ張られても、あくまで無視する。
くいくいと、布団を引っ張られても相手にしない。
下手に反応すれば調子に乗るのが目に見えているからだ。
「〜〜〜〜」「――」
微妙に不穏当な気配を感じて、ゆっくりと振り返る。
「だーっ! お前ら何やってんだー!」
二人して、床に突っ伏してベッドの下に頭を潜り込ませていた。
思わずベッドから降りて、二人の襟首を掴んで無理矢理引きずり出す。
「あー、何持ってんだ! 良いからしまえ、もとあった場所に置き直せ!」
「〜〜」「――」
ニヤリと口元をゆがめる李守美と恥ずかしそうに顔を赤らめる朔耶。
その手に持っていた真一秘蔵のエロマンガ――特に近親ネタで有名な的吉未来の『夢幻相克』――を奪い返す。
「どっからそんな無駄知識を仕入れたんだ、こら」
布団の中にソレを放り込みつつ、二人を同時に睨み付ける。
「〜〜っ」「――」
こっちが先に言い出したと、指先を突き付け合う二人。
……まともに聞いても答えが返ってこない事だけは理解できた。
「ったく、いいから大人しくしてろ。言っとくが、どこかに出掛ける気もないし、お前らと遊ぶ気は当然ない。俺は疲れてんだ」
「〜〜〜〜〜〜」
遊んでくれないアンタが悪いんでしょ、と思い切りふくれ面で睨んでくる李守美。
溜息を吐きながら首を左右に振る。
「そんな不機嫌そうな顔をしたって、駄目なもんは駄目だ」
「――――? ――」
そんな変なことしてないですよ? むしろお疲れを解しにきたんですから、とにこにこ笑いながらマッサージの仕草をする朔耶に、こめかみを押さえた。
「あのなぁ、お前らが来てる時点で余計に疲れるだけだろうが」
「〜〜! っ! っっ!!」「――――すん」
途端に、顔を真っ赤にして怒り始める李守美と、泣き出しそうな上目遣いで見詰めてくる朔耶。
「お前らな」
抵抗する気力すら消え失せて。
真一は渋々体を起こした。
「ったく、あのばばぁも来させるなってのが解ってないのかよ」
二人に聞こえないように小さく呟き、義母優美の事を思い出す。
どんなに上に見てもせいぜい二十代前半にしか見えない外見と、どう考えてもおかしいとしか思えない十代前半としか思えない言動。
どちらかというと、まだ李守美と朔耶の方が年上に感じられるときさえある優美に、真一は自分が家を出る理由をはっきりと伝えているのだ。
……血が繋がっていないとは言え、妹に異性を感じたから家を出たのだと。
普通、そんなことを聞いたら、絶対に近寄らせたりしないだろう。
実際、あれ以降真一は一度も実家には近寄っていない。
だと言うのに。
「……ほとんど毎週来やがるし」
深い溜息を吐く。
「〜〜」「――」
不機嫌そうな李守美とにこにこと笑う朔耶の視線を受けて、もう一度深い溜息を吐いた。
「飯、何喰う気だ? 言っとくが、俺はオケラでインスタントも一人分しかないんだぞ」
「〜〜!」
顔を赤くした李守美が、取り出した携帯の画面を見せつけてくる。
「……何々、ドミンゴピザ、携帯メール注文二十パーセントオフ。って、お前なぁ」
聞いた話だが、産声すら上げなかったと言う程に徹底した無口――身体機能に異常はないらしいのだが――の癖に、時々出前を注文していた理由が理解できた。
「って、無駄なことにばっかり知恵回しやがって」
「――――」「っっ!! っっっ!! 〜〜〜〜〜〜!」
お兄様の為ですからとジェスチャーする朔耶に、耳まで真っ赤になりながら李守美がくってかかる。
「はぁ……」
全く持って人の話を聞く気のない二人に、真一はもう一度深い溜息を吐いた。
真一のパソコンを勝手に立ち上げて、ネットの対戦パズルをはじめる二人。
その襟足から覗く項に心臓が高鳴って、また溜息を吐く。
本音を言えば、李守美と朔耶と顔を合わせるだけでも嬉しいのだ。
ただソレを認めるわけにはいかないだけ。
「ったく」
これじゃ、実家にいた頃と変わらないな、と苦笑を浮かべて二人を見詰める。
そう、初めて会った時から何故かなつかれて、ずっといつでも側にひっついていた。
一緒にお風呂に入りたがったり、同じベッドで寝たがったり、正直、色々と精神的に追いつめられる原因でもあった。
それでも、二人に手を出せるはずが無くて。
「〜〜?」「――?」
いきなり振り向いてきた二人に胸が高鳴る。
「なんでもねーよ」
「〜〜〜〜」「――」
別に私も何にも想ってないとそっぽを向く李守美。
朔耶はなぜかにこにこと笑っている。
「ったく、いい年して兄貴の家になんか入り浸ってんじゃねぇよ」
「〜〜っ」「――」
李守美が不機嫌そうな表情で、折角来てやってるのに、その言葉は何? と睨んでくる。
一方、迷惑なんですか? と、少し身を屈めて上目遣いになった朔耶が見詰めてくる。
その仕草に、思い切り深い溜息を吐く。
「大体だな。お前らその気になればどれだけでも男捕まえられるくらい可愛いだろうが。わざわざ兄貴ん所に来るんじゃねぇよ」
「!? 〜〜!!」「? ――――!」
いきなり、二人が顔を真っ赤にして、思わず自分の失言に気づいた。
「あー、いや、可愛いってのは一般論の話だぞ! ってこら、人の話を聞け!」
二人が立ち上がったかと想うと、いきなり真一に向かってにじり寄ってくる。
その目が本当に可愛いと思ってる? と問いかけていた。
だから、慌てて視線を逸らす。
「だから、まぁ、一般的な視点では可愛いなと見えるだけの話だ! それだけだっての!」
思い切りあさっての方向を向いて怒鳴りつける。
そうでもしなければ、二人の嬉しそうな笑顔を見れば、一線を越えてしまいそうだったから。
「〜〜〜〜」「――――」
傍らでコクコクと頷き合う気配を感じながら、真一はそれでも二人の方を向く気にはなれなかった。
時々、こんな失言が無かったわけではないけれど、しらばっくれていればまた元に戻る。
そう思っていた。
「〜〜っ」「――」
不穏な空気と同時に、なぜか衣擦れの音が聞こえた。
イヤな予感と共に顔を向けて。
「な、なんて格好してる、お前ら!」
下着姿になっていた二人がいきなり抱きついてきた。
作者 1-644
「……あのなぁ、お前ら」
ベッドに横たわる真一の左右には、愛らしい少女が二人、裸身のまま寝転がっている。
右側にいるのは、真一の通う大学でも滅多にいないだろうと思われるほどスタイルの整った少女。
肩口ほどの金髪をツインテールにして、真一の脇腹にその豊かすぎる双丘を押し当ててくる。
当たってるんだけどと言ったとしても、表情だけで当ててんのよと返してくるであろう義妹・李守美の姿に溜息を吐く。
同時に、左側から伸びた繊手が股間に伸びてきたことに気づいて、その手を押しとどめた。
左側に向けた視界には、年齢相応の蕾のような愛らしさを残す体型の、腰まである長い金髪をストレートに下ろした少女が、楽しそうに笑っていた。
李守美と同じ顔立ちの少女、言うまでも無く双子の片割れ、朔耶の愛らしい笑みに、こめかみが痛みを覚える。
「ったく……」
「〜〜!」「――?」
なんか文句でもあるの! と、言いたげな表情で睨んでくる李守美と、
まだ欲しいんですか? と、剣呑な意志を笑顔にくるむ朔耶に、
更に深い溜息を吐いて。
真一は今日の事を思い出した。
ここ数日、ゼミが異様に忙しくて、ついでにバイトも鬼のように忙しかった。
女顔に華奢な体躯、身長も男性平均を下回っているとは言え、真一は体力だけは人に数倍するのだ。
それでも疲労でノックダウン寸前になっていた辺り、その忙しさは想像するにあまりあると言うもの。
だから、今日は早くても昼過ぎまでは眠っておこうと思ったのも故ないこと。
だけど、ソレを許してくれるほど運命は甘くなかった。
ぴんぽーんっ、といきなり電子音が響く。
「……んだよ」
外見に似合わない言葉遣いだなと、友人一同に言われる荒い言葉遣いのまま、真一は枕元の時計に視線を向ける。
時刻はまだ八時を少し回ったところ。
こんな時間に、わざわざ此処に来る知り合いなどいない。
だから、無視してもう一度まぶたを閉じた。
ぴんぽーん、ぴんぽーん。
二回もわざわざ鳴らす人間の非常識ぶりを無視して、眠りに落ちようとする真一。
ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん。
断固無視する。その決意を表すようにしっかりと瞼を閉じて、布団を頭まで引き上げる。
ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽ……
「だーーっっ! 五月蠅ぇっ!」
とうとう布団を跳ね上げた真一は、未だにやかましく鳴らされるチャイムに苛立ちながら、玄関に向かう。
こういうときワンルームの構造は便利だなと、そんなことを考えながらばんっとドアを一気に開けた。
「うっせえぞ、この野郎! ……って」
ジーパンにラグランTシャツ姿でむーっとふくれっ面を浮かべる李守美と、
真っ白なワンピースを着てにこにこと笑ってる朔耶が立っていた。
「……なんでこんな時間にウチに来るんだよ、お前ら」
「〜〜っ!」「――――」
わざわざ来てやったのにその態度は何なのよ! と両手をぶんぶん振り回して顔を真っ赤にする李守美。
お兄様のお疲れを解しに参りました、とにこにこ笑顔を浮かべる朔耶。
そんな対照的な二人に溜息を吐く。
「良いから帰れ」
「! っ!! っっっ!!」「――ぅ」
速攻で返した瞬間、李守美が顔を真っ赤にして詰め寄ってきて、今にも泣き出しそうな表情で朔耶が見詰めてくる。
「帰れ」
「っっっっ!!!」「――っく」
二人同時に目尻に涙を浮かべる。
放っておくと必ず泣き出す。
それが理解できたから。
「あ〜もう、解ったから入れよ」
言った瞬間、仕方ないから入ってあげると表情で告げてくる李守美とにゃぱっと嬉しそうに笑う朔耶。
まいどの事ながら、結局この二人の言うとおりに動かされている自分に苛立ちながら、ベッドに戻る。
「好きにすればいいが、俺は寝るからな」
それ以上は何も言わずに、ベッドに戻る真一。
背後でばたばたと暴れている二人を無視してパイプベッドに横になる。
くいっとパジャマの背中を引っ張られても、あくまで無視する。
くいくいと、布団を引っ張られても相手にしない。
下手に反応すれば調子に乗るのが目に見えているからだ。
「〜〜〜〜」「――」
微妙に不穏当な気配を感じて、ゆっくりと振り返る。
「だーっ! お前ら何やってんだー!」
二人して、床に突っ伏してベッドの下に頭を潜り込ませていた。
思わずベッドから降りて、二人の襟首を掴んで無理矢理引きずり出す。
「あー、何持ってんだ! 良いからしまえ、もとあった場所に置き直せ!」
「〜〜」「――」
ニヤリと口元をゆがめる李守美と恥ずかしそうに顔を赤らめる朔耶。
その手に持っていた真一秘蔵のエロマンガ――特に近親ネタで有名な的吉未来の『夢幻相克』――を奪い返す。
「どっからそんな無駄知識を仕入れたんだ、こら」
布団の中にソレを放り込みつつ、二人を同時に睨み付ける。
「〜〜っ」「――」
こっちが先に言い出したと、指先を突き付け合う二人。
……まともに聞いても答えが返ってこない事だけは理解できた。
「ったく、いいから大人しくしてろ。言っとくが、どこかに出掛ける気もないし、お前らと遊ぶ気は当然ない。俺は疲れてんだ」
「〜〜〜〜〜〜」
遊んでくれないアンタが悪いんでしょ、と思い切りふくれ面で睨んでくる李守美。
溜息を吐きながら首を左右に振る。
「そんな不機嫌そうな顔をしたって、駄目なもんは駄目だ」
「――――? ――」
そんな変なことしてないですよ? むしろお疲れを解しにきたんですから、とにこにこ笑いながらマッサージの仕草をする朔耶に、こめかみを押さえた。
「あのなぁ、お前らが来てる時点で余計に疲れるだけだろうが」
「〜〜! っ! っっ!!」「――――すん」
途端に、顔を真っ赤にして怒り始める李守美と、泣き出しそうな上目遣いで見詰めてくる朔耶。
「お前らな」
抵抗する気力すら消え失せて。
真一は渋々体を起こした。
「ったく、あのばばぁも来させるなってのが解ってないのかよ」
二人に聞こえないように小さく呟き、義母優美の事を思い出す。
どんなに上に見てもせいぜい二十代前半にしか見えない外見と、どう考えてもおかしいとしか思えない十代前半としか思えない言動。
どちらかというと、まだ李守美と朔耶の方が年上に感じられるときさえある優美に、真一は自分が家を出る理由をはっきりと伝えているのだ。
……血が繋がっていないとは言え、妹に異性を感じたから家を出たのだと。
普通、そんなことを聞いたら、絶対に近寄らせたりしないだろう。
実際、あれ以降真一は一度も実家には近寄っていない。
だと言うのに。
「……ほとんど毎週来やがるし」
深い溜息を吐く。
「〜〜」「――」
不機嫌そうな李守美とにこにこと笑う朔耶の視線を受けて、もう一度深い溜息を吐いた。
「飯、何喰う気だ? 言っとくが、俺はオケラでインスタントも一人分しかないんだぞ」
「〜〜!」
顔を赤くした李守美が、取り出した携帯の画面を見せつけてくる。
「……何々、ドミンゴピザ、携帯メール注文二十パーセントオフ。って、お前なぁ」
聞いた話だが、産声すら上げなかったと言う程に徹底した無口――身体機能に異常はないらしいのだが――の癖に、時々出前を注文していた理由が理解できた。
「って、無駄なことにばっかり知恵回しやがって」
「――――」「っっ!! っっっ!! 〜〜〜〜〜〜!」
お兄様の為ですからとジェスチャーする朔耶に、耳まで真っ赤になりながら李守美がくってかかる。
「はぁ……」
全く持って人の話を聞く気のない二人に、真一はもう一度深い溜息を吐いた。
真一のパソコンを勝手に立ち上げて、ネットの対戦パズルをはじめる二人。
その襟足から覗く項に心臓が高鳴って、また溜息を吐く。
本音を言えば、李守美と朔耶と顔を合わせるだけでも嬉しいのだ。
ただソレを認めるわけにはいかないだけ。
「ったく」
これじゃ、実家にいた頃と変わらないな、と苦笑を浮かべて二人を見詰める。
そう、初めて会った時から何故かなつかれて、ずっといつでも側にひっついていた。
一緒にお風呂に入りたがったり、同じベッドで寝たがったり、正直、色々と精神的に追いつめられる原因でもあった。
それでも、二人に手を出せるはずが無くて。
「〜〜?」「――?」
いきなり振り向いてきた二人に胸が高鳴る。
「なんでもねーよ」
「〜〜〜〜」「――」
別に私も何にも想ってないとそっぽを向く李守美。
朔耶はなぜかにこにこと笑っている。
「ったく、いい年して兄貴の家になんか入り浸ってんじゃねぇよ」
「〜〜っ」「――」
李守美が不機嫌そうな表情で、折角来てやってるのに、その言葉は何? と睨んでくる。
一方、迷惑なんですか? と、少し身を屈めて上目遣いになった朔耶が見詰めてくる。
その仕草に、思い切り深い溜息を吐く。
「大体だな。お前らその気になればどれだけでも男捕まえられるくらい可愛いだろうが。わざわざ兄貴ん所に来るんじゃねぇよ」
「!? 〜〜!!」「? ――――!」
いきなり、二人が顔を真っ赤にして、思わず自分の失言に気づいた。
「あー、いや、可愛いってのは一般論の話だぞ! ってこら、人の話を聞け!」
二人が立ち上がったかと想うと、いきなり真一に向かってにじり寄ってくる。
その目が本当に可愛いと思ってる? と問いかけていた。
だから、慌てて視線を逸らす。
「だから、まぁ、一般的な視点では可愛いなと見えるだけの話だ! それだけだっての!」
思い切りあさっての方向を向いて怒鳴りつける。
そうでもしなければ、二人の嬉しそうな笑顔を見れば、一線を越えてしまいそうだったから。
「〜〜〜〜」「――――」
傍らでコクコクと頷き合う気配を感じながら、真一はそれでも二人の方を向く気にはなれなかった。
時々、こんな失言が無かったわけではないけれど、しらばっくれていればまた元に戻る。
そう思っていた。
「〜〜っ」「――」
不穏な空気と同時に、なぜか衣擦れの音が聞こえた。
イヤな予感と共に顔を向けて。
「な、なんて格好してる、お前ら!」
下着姿になっていた二人がいきなり抱きついてきた。
作者 1-644
2008年01月20日(日) 09:47:05 Modified by n18_168