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膝上が指定席

 今日も従妹が遊びに来た。
 はいはい、今日は何ですか?
 お膝に乗っけて? しょうがないなぁ。
 軽い体を抱っこして、よいしょ、と。
 組んだ膝の上に座らせると、彼女は背中から体を預けてくる。
 僕はその体に、シートベルトのように腕をかけながら、タンスに持たれかかる。
 あ、背中痛くしないようにクッション一枚。

 彼女は本を持っていた。
 ”やさしい落語・千両みかん”
 ちなみに昨日は”時そば”だった。
 読み聞かせには些か、易しくない題目だけど、まぁ良いや。
 それじゃあ、読みますよ?
 僕は彼女の頭越しに、そんな落語の本を開いて、朗読を始めた。
 
 彼女は時々、姿勢を整えようと体を動かす。
 その度、黒い髪が首の辺りを触る。
 くすぐったいよ? と、読むのを中断して言ってみる。
 ふふ、と小さく笑う彼女。
 気を取り直して、話を続ける。
 読み進めていくと、少し喉が渇いてきた。
 みかんでも食べたいなって思うけど、まぁここは我慢。

 最後に三袋のみかんを持ってドロン、というオチ。
 これで終わり。面白かった?
 横顔を向けて、彼女は頷いた。
 そうだよね。換金出来ないのにね。
 本を閉じ、一息吐く。
 え? まだ何か、本があるの?
 ”まんじゅうこわい”

 読んでいる内に、彼女の体がかく、かく、と振れだした。
 呼びかけても反応は薄い。
 やがて、穏やかな寝息が漏れ始めると、僕も読むのを止めて目を瞑った。
 本を置いて、もう一度腕をシートベルトして、柔らかな幸せを独り占め。
 夕食を作らないといけない時間だけど、もう少しだけ。
 もう少しだけ。

 手首を揺すられて、目が覚めた。
 何? 放して?
 あら残念。もうお帰りですか。
 いや、違った。
 彼女は体を返すと、重そうな目蓋のまま、前から僕に乗っかかってきた。
 反るような格好で、くっつく。

 器用だけど、これじゃかわいそう。
 しょうがないので僕は、タンスを諦める。
 彼女の体を抱いたまま、徐々に仰向けになるように、体を倒す。
 お昼寝準備完了。
 ん? なーに?
 もぞもぞと、よじ登ってきた。
 眠たげな顔がにゅっと登場し、僕を見下ろす。
 彼女は目を閉じると、そのまま首元に顔を埋めて、力尽きた。
 ただし、一度だけ、僕の唇を奪った後に。
 全く、あまり物は言わない癖に、どうしてこうも、愛しくさせてくれるのか。 
 でも、ありがとう。
 おやすみ。



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2011年08月24日(水) 10:31:32 Modified by ID:uSfNTvF4uw




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