無口で世話好きな彼女(2)
俺、川越陸斗は両親共に海外にいるため、今は姉さんと二人で暮らしている。
平穏に過ごしているけど、困ったこともある――姉さんの世話好きだ。
「あのさぁ姉さん」
「……?」
夕食の席、問題の我が姉、海澄(みすみ)が箸を止め顔を上げた。
ちなみに姉さんは黙々と(元から無口ではあるが)二人分の魚の骨を取っている最中。
昔から筋金入りの世話好きの姉さんにとって魚の骨取りは氷山の一角だ。
その内自分でやると言わないとな、でも今は保留としておこう。
…とにかく今は弁当のご飯をハートマークで彩るのをやめてもらうのが先決だ
たしかに姉さんのハートは芸術作品とも言える腕前。
けど、昼休みの弁当タイムをこそこそ過ごす日々にさよならしたい気持ちの方が強い。
「姉さん、弁当のことなんだけど…」
「…おいしくなかった?」
…え?いや、そんなはずない。とても美味しかった。料理には俺も自信があるが姉さんには遠く及ばないし
…というか姉さんの声久しぶりに聞いたな。
「………」
首を横に振る俺を見て姉さんはさぞ嬉しそうに笑みを浮かべた。
友人曰く天使を連想させる優しい微笑みに弟である俺までドキドキさせられる。
やっぱり姉さんは可愛いなぁ…っと危ない。また変な考えにいく所だった。
まったく…ここ最近どうかしている。
姉さんの一挙一動に鼓動が速くなるのを感じる。まさか恋じゃないよな…
もしそうだったら俺は最低な人間だ。
「…りっくん?」
呼びかけられ我に帰ると姉さんが心配そうな顔をしていた。
「あ、ああ大丈夫何でもない」
姉さんに見とれてました。なんて言えるはずもなく、なるべく姉さんと目が合わないように答えた。
「……」
安堵のため息をつくと姉さんはテーブル越しに手をのばし、ポンっと俺の頭に乗せる。
そしてその小さい手で撫で始めた。
これは昔っからの姉さんの癖、頭なでなで。無口な姉さんなりのスキンシップだ。
この前なんか学校でやり始めたから後が大変だった。
とはいえ俺もこればっかりは止めさせるつもりはない。
姉さんの掌から伝わる優しさを感じ、心安まる瞬間でもあり心地よいから。
俺は無言になり姉さんに身を任せた。
しばらく経つと姉さんは満足したらしく、ぼさぼさになった俺の頭から手を離し目を細めて笑った。
「……食べよっか?」
通常なら食べてしまう小さな骨まで綺麗に取られた魚を俺に渡し、姉さんは再び箸を手にした。
夕食後も姉さんは上機嫌だった。
一週間に一回聞けるかどうかの声が今日だけで三言も聞けたのがそれを物語っている。
弁当がおいしかったと伝えただけなのに…単純な人だ。
後片付けをし、皿を洗う(俺も手伝うと言ったが拒否された)姉さんに目を向ける。
鼻歌混じりに軽くステップを踏んでいるのは俺の見間違い…か?
とはいえ姉さんには世話になりっぱなしだから、ここまで喜んでもらえるなら俺も嬉しいさ。
弁当の件は結局言えなかったがまた次の機会にしよう。
「…ん?どうした姉さん?」
いつの間にか片づけを終えた姉さんが、エプロンを外しながら袖をクイクイ引っ張ってきた。
「……」
プレゼントを貰う前の子供のように、期待に満ちた姉さんの表情。
言葉はない、けど俺には姉さんの言いたいことがわかってしまった。
『テスト近いから勉強見てあげよっか?』
…………ナンダッテ???
いくら世話好きな姉さんとはいえ何を言い出すんだ?
俺が小中学生の時ですらそんなことは言わなかったぞ。
それに悪いが姉さんに教えてもらわなければならないほど俺はバカじゃない。
自慢じゃないが学年で十番以内に入るくらいだ。
…そりゃ確かに姉さんは三番以内だったけどさ。
「正直言って一人で勉強できるけど――」
いくらなんでも断るしかないだろ。
するとどうだろうか。俺の言葉に呼応して姉さんの期待に満ちていた表情が曇っていく。
喜びでキラキラと輝いていた瞳も今度は涙で光り出しそうな勢いだ…
「――英語が心配だから見てもらおうかな…」
次の瞬間、考えるよりも先に言葉が口を割って出てくる。
後悔しても手遅れ。
しかも何を思ったのか姉さんがギュッと抱きついてきた。
体をピタっとくっつけた姉さんは「ありがとう」と小さく口を動かした。
「あの〜、姉さん?」
このままだと俺の理性が崩壊するんだが。
慌ててパッと離れた姉さんの顔は少し赤くなっている気がする。
「……」
姉さんは満面の笑みを浮かべ、軽くスキップしながら勉強道具を取りに行った。
「やってしまった…」
よりによって英語はテスト期間最終日、それまで姉さんから解放されることはない。
俺の平穏な日々が奪われていくなこりゃ。
でも抱きついてきた姉さんの感触、匂い、押し付けられた柔らかな胸、
そして何より破壊力抜群の天使の微笑みを思うと十二分に元はとったかな。
ちなみに翌日の弁当には過去最大のハートマークでご飯が飾らていた。
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作者 こたみかん ◆8rF3W6POd6
平穏に過ごしているけど、困ったこともある――姉さんの世話好きだ。
「あのさぁ姉さん」
「……?」
夕食の席、問題の我が姉、海澄(みすみ)が箸を止め顔を上げた。
ちなみに姉さんは黙々と(元から無口ではあるが)二人分の魚の骨を取っている最中。
昔から筋金入りの世話好きの姉さんにとって魚の骨取りは氷山の一角だ。
その内自分でやると言わないとな、でも今は保留としておこう。
…とにかく今は弁当のご飯をハートマークで彩るのをやめてもらうのが先決だ
たしかに姉さんのハートは芸術作品とも言える腕前。
けど、昼休みの弁当タイムをこそこそ過ごす日々にさよならしたい気持ちの方が強い。
「姉さん、弁当のことなんだけど…」
「…おいしくなかった?」
…え?いや、そんなはずない。とても美味しかった。料理には俺も自信があるが姉さんには遠く及ばないし
…というか姉さんの声久しぶりに聞いたな。
「………」
首を横に振る俺を見て姉さんはさぞ嬉しそうに笑みを浮かべた。
友人曰く天使を連想させる優しい微笑みに弟である俺までドキドキさせられる。
やっぱり姉さんは可愛いなぁ…っと危ない。また変な考えにいく所だった。
まったく…ここ最近どうかしている。
姉さんの一挙一動に鼓動が速くなるのを感じる。まさか恋じゃないよな…
もしそうだったら俺は最低な人間だ。
「…りっくん?」
呼びかけられ我に帰ると姉さんが心配そうな顔をしていた。
「あ、ああ大丈夫何でもない」
姉さんに見とれてました。なんて言えるはずもなく、なるべく姉さんと目が合わないように答えた。
「……」
安堵のため息をつくと姉さんはテーブル越しに手をのばし、ポンっと俺の頭に乗せる。
そしてその小さい手で撫で始めた。
これは昔っからの姉さんの癖、頭なでなで。無口な姉さんなりのスキンシップだ。
この前なんか学校でやり始めたから後が大変だった。
とはいえ俺もこればっかりは止めさせるつもりはない。
姉さんの掌から伝わる優しさを感じ、心安まる瞬間でもあり心地よいから。
俺は無言になり姉さんに身を任せた。
しばらく経つと姉さんは満足したらしく、ぼさぼさになった俺の頭から手を離し目を細めて笑った。
「……食べよっか?」
通常なら食べてしまう小さな骨まで綺麗に取られた魚を俺に渡し、姉さんは再び箸を手にした。
夕食後も姉さんは上機嫌だった。
一週間に一回聞けるかどうかの声が今日だけで三言も聞けたのがそれを物語っている。
弁当がおいしかったと伝えただけなのに…単純な人だ。
後片付けをし、皿を洗う(俺も手伝うと言ったが拒否された)姉さんに目を向ける。
鼻歌混じりに軽くステップを踏んでいるのは俺の見間違い…か?
とはいえ姉さんには世話になりっぱなしだから、ここまで喜んでもらえるなら俺も嬉しいさ。
弁当の件は結局言えなかったがまた次の機会にしよう。
「…ん?どうした姉さん?」
いつの間にか片づけを終えた姉さんが、エプロンを外しながら袖をクイクイ引っ張ってきた。
「……」
プレゼントを貰う前の子供のように、期待に満ちた姉さんの表情。
言葉はない、けど俺には姉さんの言いたいことがわかってしまった。
『テスト近いから勉強見てあげよっか?』
…………ナンダッテ???
いくら世話好きな姉さんとはいえ何を言い出すんだ?
俺が小中学生の時ですらそんなことは言わなかったぞ。
それに悪いが姉さんに教えてもらわなければならないほど俺はバカじゃない。
自慢じゃないが学年で十番以内に入るくらいだ。
…そりゃ確かに姉さんは三番以内だったけどさ。
「正直言って一人で勉強できるけど――」
いくらなんでも断るしかないだろ。
するとどうだろうか。俺の言葉に呼応して姉さんの期待に満ちていた表情が曇っていく。
喜びでキラキラと輝いていた瞳も今度は涙で光り出しそうな勢いだ…
「――英語が心配だから見てもらおうかな…」
次の瞬間、考えるよりも先に言葉が口を割って出てくる。
後悔しても手遅れ。
しかも何を思ったのか姉さんがギュッと抱きついてきた。
体をピタっとくっつけた姉さんは「ありがとう」と小さく口を動かした。
「あの〜、姉さん?」
このままだと俺の理性が崩壊するんだが。
慌ててパッと離れた姉さんの顔は少し赤くなっている気がする。
「……」
姉さんは満面の笑みを浮かべ、軽くスキップしながら勉強道具を取りに行った。
「やってしまった…」
よりによって英語はテスト期間最終日、それまで姉さんから解放されることはない。
俺の平穏な日々が奪われていくなこりゃ。
でも抱きついてきた姉さんの感触、匂い、押し付けられた柔らかな胸、
そして何より破壊力抜群の天使の微笑みを思うと十二分に元はとったかな。
ちなみに翌日の弁当には過去最大のハートマークでご飯が飾らていた。
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作者 こたみかん ◆8rF3W6POd6
2009年01月05日(月) 23:23:03 Modified by ID:QoBh7SNwMg