人間は難しい
高校から自宅に帰ると、玄関の前に身長160cmくらいの綺麗な女性が立っていた。
うちの玄関の扉に背を向け『ボーーー』と空を眺めている。
何してるんだろ……、ちょっと怖いな……。
「あのー、うちに何か御用でも……?」
僕が尋ねると、その美人さんは眠そうな目をこちらに向け、
「……………」
向けただけだった。無言。超無言。
整った表情から滲み出す『無口』オーラがハンパない。
美人に見つめられるのは決して悪い気はしない。が、このまま見つめ合っていても話が進まない。
「ひょっとして訪問販売か何かですか?」
美人さんが足下に置いている大きなバッグを指差しながら聞く。
すると美人さんは僕の指先をチラッと見て、すぐに視線を僕の目に戻した。
うわっ、気まずい!何この人!
「あの……?僕の顔に何かついています?」
僕が言うと、『ハッ!』と何か重要な事を思い出したかのような顔をした美人さんは、唐突に地面に座り込むと大きなバッグをゴソゴソやり始める。
そしてバッグの中からスケッチブックのようなものと黒のマジックペンを取り出すと、
『やっほー、おにいちゃん』
スケッチブックにペンで大きくそう書いた。
……あぁ、そうか。この娘は喋れないのか。気まずいとか思ってしまって申し訳ない……。
……ん?おにいちゃん?
『私、15才になりましたので。おにいちゃんと結婚をしにきました』
15才?結婚?……確か結婚って女性は16才からじゃ……。
『16才までの1年間は花嫁修行期間です』
あ、そうなんだ。……凄いな、どちらも一言も声を出していないのに話がテンポよく進んでいく。
『えへへ、きっと私たち、相性がすっごく良いんだね』
「おいおい、極々自然に人の心を読むなよ」
「…………顔を見てたら、わかる」
平坦な声で言う美人さん。
「喋れたの!?」
今までの筆談は何!?
「…………これでもう、今日の事を、おにいちゃんは忘れない」
「へ?」
「…………おにいちゃん、結婚の約束。忘れてた」
「結婚の、……約束?」
「…………私の顔見ても、気付いてくれなかった」
顔。顔。……うーん、こんな美人の知り合いなんて僕には……、僕よりも年下なら僕の物心の付く前って事も無いだろうし。
「…………おにいちゃん、昔、私を助けてくれた」
助けた……?余計にわからん……?
「…………近所の、怖い子供たちから。凄く、嬉しかった」
それ本当に僕か……?人違いなんじゃ……。
「…………人違い、じゃない。ずっと近くで、おにいちゃんの事、見てた」
「やっぱり心読んでるだろ」
「…………うん。読んでる」
「まさかの肯定!?」
なにその特殊能力!
「…………私は、あの日、公園でおにいちゃんに助けられた」
公園……?
「…………猫です」
「猫!?」
猫ってお前そりゃないわー。あ、もしかしてこの娘、ネコって名前なのか?
……でもネコなんて名前に覚えは無いよなぁ。
「えーと、ネコちゃん?ごめんね、全然思い出せないや」
「…………名前はルキ」
「え?じゃあネコは名字?」
「…………名字は無い。猫は種族名」
「……種族名?」
「…………猫は猫でも、猫又だけど」
「猫又って、……化け物の?」
「…………その言い方は、ひどい」
「あ、あぁ、ごめん」
「…………わかってくれた?」
「何を?」
「…………私、猫。猫又。」
「自分を猫だと主張していることはわかった」
「…………信じてくれた?」
「僕の心が読めるんだろ?」
信じてないです。
「…………変身」
突然、目の前からルキが消えた。
「にゃーん」
消えた彼女の場所には何故か、銀色の毛をした綺麗な猫。
「……イリュージョン?」
「いや、いい加減信じろにゃ」
「猫が喋った!」
うわ!よく躾られた猫だなぁ!
「躾で喋れるようになると本気で思うのかにゃ?」
「いえまったく」
そりゃそうですよね。
「やっと私の事を信じてくれたかにゃ」
「……はい」
「変身!にゃ!」
耳に馴染むかけ声の後、銀色猫から黒髪美人へと変わるルキ。
「…………おにいちゃん、大好き」
そういうと僕に抱きついてくるルキ。猫とは思えない甘い香り。
「…………ずっとずっと、こうしたかった」
ルキは二重の目を細め、僕の胸に顎をこすりつける。
「少し気になったことがあるんだけどさ」
「…………何?」
鼻をひくつかせながら上目遣いのルキ。
「猫の時の方が流暢に話せているよね?何で?」
「…………人間は、まだ慣れない」
言いつつ僕の背中に両腕を回すと、僕の胸に左頬をペタリとつけ『…………ほー』と安心したような息を吐く彼女。
とりあえず僕はそんな彼女の顎を指先で軽く撫でてやった。……猫だし。
人間は難しい(2)
うちの玄関の扉に背を向け『ボーーー』と空を眺めている。
何してるんだろ……、ちょっと怖いな……。
「あのー、うちに何か御用でも……?」
僕が尋ねると、その美人さんは眠そうな目をこちらに向け、
「……………」
向けただけだった。無言。超無言。
整った表情から滲み出す『無口』オーラがハンパない。
美人に見つめられるのは決して悪い気はしない。が、このまま見つめ合っていても話が進まない。
「ひょっとして訪問販売か何かですか?」
美人さんが足下に置いている大きなバッグを指差しながら聞く。
すると美人さんは僕の指先をチラッと見て、すぐに視線を僕の目に戻した。
うわっ、気まずい!何この人!
「あの……?僕の顔に何かついています?」
僕が言うと、『ハッ!』と何か重要な事を思い出したかのような顔をした美人さんは、唐突に地面に座り込むと大きなバッグをゴソゴソやり始める。
そしてバッグの中からスケッチブックのようなものと黒のマジックペンを取り出すと、
『やっほー、おにいちゃん』
スケッチブックにペンで大きくそう書いた。
……あぁ、そうか。この娘は喋れないのか。気まずいとか思ってしまって申し訳ない……。
……ん?おにいちゃん?
『私、15才になりましたので。おにいちゃんと結婚をしにきました』
15才?結婚?……確か結婚って女性は16才からじゃ……。
『16才までの1年間は花嫁修行期間です』
あ、そうなんだ。……凄いな、どちらも一言も声を出していないのに話がテンポよく進んでいく。
『えへへ、きっと私たち、相性がすっごく良いんだね』
「おいおい、極々自然に人の心を読むなよ」
「…………顔を見てたら、わかる」
平坦な声で言う美人さん。
「喋れたの!?」
今までの筆談は何!?
「…………これでもう、今日の事を、おにいちゃんは忘れない」
「へ?」
「…………おにいちゃん、結婚の約束。忘れてた」
「結婚の、……約束?」
「…………私の顔見ても、気付いてくれなかった」
顔。顔。……うーん、こんな美人の知り合いなんて僕には……、僕よりも年下なら僕の物心の付く前って事も無いだろうし。
「…………おにいちゃん、昔、私を助けてくれた」
助けた……?余計にわからん……?
「…………近所の、怖い子供たちから。凄く、嬉しかった」
それ本当に僕か……?人違いなんじゃ……。
「…………人違い、じゃない。ずっと近くで、おにいちゃんの事、見てた」
「やっぱり心読んでるだろ」
「…………うん。読んでる」
「まさかの肯定!?」
なにその特殊能力!
「…………私は、あの日、公園でおにいちゃんに助けられた」
公園……?
「…………猫です」
「猫!?」
猫ってお前そりゃないわー。あ、もしかしてこの娘、ネコって名前なのか?
……でもネコなんて名前に覚えは無いよなぁ。
「えーと、ネコちゃん?ごめんね、全然思い出せないや」
「…………名前はルキ」
「え?じゃあネコは名字?」
「…………名字は無い。猫は種族名」
「……種族名?」
「…………猫は猫でも、猫又だけど」
「猫又って、……化け物の?」
「…………その言い方は、ひどい」
「あ、あぁ、ごめん」
「…………わかってくれた?」
「何を?」
「…………私、猫。猫又。」
「自分を猫だと主張していることはわかった」
「…………信じてくれた?」
「僕の心が読めるんだろ?」
信じてないです。
「…………変身」
突然、目の前からルキが消えた。
「にゃーん」
消えた彼女の場所には何故か、銀色の毛をした綺麗な猫。
「……イリュージョン?」
「いや、いい加減信じろにゃ」
「猫が喋った!」
うわ!よく躾られた猫だなぁ!
「躾で喋れるようになると本気で思うのかにゃ?」
「いえまったく」
そりゃそうですよね。
「やっと私の事を信じてくれたかにゃ」
「……はい」
「変身!にゃ!」
耳に馴染むかけ声の後、銀色猫から黒髪美人へと変わるルキ。
「…………おにいちゃん、大好き」
そういうと僕に抱きついてくるルキ。猫とは思えない甘い香り。
「…………ずっとずっと、こうしたかった」
ルキは二重の目を細め、僕の胸に顎をこすりつける。
「少し気になったことがあるんだけどさ」
「…………何?」
鼻をひくつかせながら上目遣いのルキ。
「猫の時の方が流暢に話せているよね?何で?」
「…………人間は、まだ慣れない」
言いつつ僕の背中に両腕を回すと、僕の胸に左頬をペタリとつけ『…………ほー』と安心したような息を吐く彼女。
とりあえず僕はそんな彼女の顎を指先で軽く撫でてやった。……猫だし。
人間は難しい(2)
2011年08月24日(水) 10:38:07 Modified by ID:uSfNTvF4uw