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短編@台詞なし

静かな図書館に小説のページをめくる微かな音が響く。
本は一冊だが、その本に落ちる影は二つある。
やや大きな影が一つと、小さな影が一つ。
小さな影が少し動き、もう一つに寄り添うようにする。
寒いのかと問うと、小さな少女は微かに否定の動きをする。
彼女は自らの口では滅多に言葉を紡がない。
まるで何かの戒めでもあるかのように。
喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも。
その小顔に合った小さな口からは表現されることはない。
腕を反対側の肩に回して、彼女を優しく抱き寄せる。
彼女は少し擽ったそうに身じろいだが、そのまま大人しくしていた。
長く、艶やかな髪を撫でる。
少し青っぽい色の黒髪は、なんの抵抗もなく指の隙間から抜けて行く。
そうしてしばらくの間楽しんでいると、少女は小説のページを可愛らしい指でつついた。
そろそろ続きを読みたいということだろう。
二人は再び本の上に影を落とす。
小説では丁度主人公がヒロインに告白をする場面で、主人公はヒロインをしっかりと抱きしめ、耳元で愛を囁いていた。
少女の横顔を見遣ると、可愛らしい瞳を輝かせて小説に没頭していた。
少年はそんな少女を見ながら、今日の夜はどんな台詞にするか、密かに心の中で決めたのだった。


続き
2011年08月24日(水) 10:10:16 Modified by ID:uSfNTvF4uw




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