真夏の市民プールは人でそこそこの盛況といえた。
 競泳用の50メートルプール、ドーナツ型の流れるプールと高さ二メートルのスライダーが施設のすべての、どこにでもある田舎の市民プールだ。
「ほら、流れるプール、もう一周しよ?」
 僕は姉さんに手を引かれてプールサイドを歩く。
 姉さんとは四歳違い。けっこう歳がはなれているせいか、僕が中学生になった今でも扱いは小学生の時とあまり変わらない。
 けれど、姉さんの扱いが変わらなくても、僕はもう中学生で、姉に手を引かれて歩くのは恥ずかしいし、それに――ちょっと前まで気にならなかった、姉さんの胸。
 歩くたびに揺れる胸に視線が吸い寄せられてしまう。それにともなって僕のある場所が反応して、海水パンツを盛りあげそうになっている。
「あ、いたいた。こっちだよ〜。私も一緒にいくね〜」
 プールに半身を沈めてこっちに声をかけるのは、姉さんの友達で、僕にとっても小学校に入ってからの幼馴染みだ。
 水の中にいてよく見えないけど、類は友を呼ぶのか、彼女も胸が大きい。
 胸が見えないことにちょっと落胆している自分に、まずいと思った。あんまり意識すると、股間が硬くなって姉さんや彼女にバレてしまう。
 そんなことになったら、姉と手をつなぐよりも恥ずかしい。
 プールに入って、泳いでればバレないし、落ち着くはずだ。
 そう思った僕は、少しだけ急ぎ足でプールに入った。
 助かった。これで大きくなったアソコは見えにくくなるし、泳いでいればそのうち治まる。
「よいしょーっと!」
 安堵していた僕の背中に、彼女はしがみついてきた。おんぶしているような格好。
 背中に当たる、胸の感触。柔らかく潰れた薄い布越しの感触に、僕の股間は完全に硬くなった。
「えへへ〜。弟くん、力持ち〜。私をおんぶして、一周ねー」
 そんなことを言い放った。
「ええっ、そんな……」
 外そうとしても、いっそう腕の力を強め、足も絡めてくる。彼女の太腿が僕の股間近くに寄る。
 ――ダメだ。暴れたら、触られて、バレちゃう!
 おとなしくおぶったままプールを一周するしかなかった。



 一周まわって満足したらしい彼女は離れ、僕はしばらく一人で泳いでいたけど、股間は治まらなかった。
 背中に触れた胸の感触が忘れられない。
 僕は周りの隙を見てプールを出、トイレに急いだ。
 なんとかして、コレを治めなきゃ……。
 前屈みになりながら個室の扉を開け、洋式便器の前で水着を脱いだ。案の定カチカチだ。人目がなくなって、遠慮なく斜め上に突き出ている。
 脱いだ水着を備え付けの棚に置こうとして、すでに何かが置いてあることに気づいた。
 前の人の忘れ物だろうか。手に取ってみると――。
 女の人の水着だった。紺色に白のラインが入ったワンピースで、じっとりと濡れている。
「な、なんで男子トイレに女子水着が……?」
 はっとした。そういえば、トイレに入って小用の便器を見ていない。
 急いでいた僕が、入るトイレを間違えたのだ。
 トイレに入ってきた女の人の話し声が聞こえてくる。今出て行ったら、間違いなく痴漢に思われてしまう。かと言ってこのまま入っているわけにも――。
「そうだ、この水着……」
 僕の髪はやや長めで、ショートカットに見えなくもない。それほど背も高くないし、水着を着ていれば、ぱっと見て男だとはわからないはずだ。
 海パンを持って人気のないところで着替えればいい。
 心臓がドクドクなる。濡れた女子用水着を広げて足を通す。
「あ、どうしよう……。小さくならない……」
 股間が大きく突き出したままだった。コレでは水着の股間をもっこりとさせてしまう。
 手を止めたのは少しだけだった。とりあえず着て、ごまかす方法を考えよう。
 肩の部分を引っ張って両腕を通した。
「……? この水着、内側がぬるぬるしてる……?」
 シャボン液が内側に塗ってあるみたいに、水着と体の間がぬるぬると滑るし、なんだか水着自体が生温かいような……?
 でも気持ち悪くはない。むしろこのぬるぬるが気持ちいい感じだ。
 そして股間はどうなふうに見えるのかと、首を曲げて見下ろして、僕は首をかしげた。
 水着の胸の部分が大きく突き出て、そこから下の視界をふさいでいたからだ。
 胸にパットでも入っていたのだろうか。それにしては大き過ぎるような。
 触ってみる。手の平全体を圧迫する弾力と質量。さっき背中に触れていた姉の友達の胸と同じ感触。そして、水着の内側で、触られている感触。
「え――? どういうこと……?」
 思わず周りを見わたして見ても、変わらないトイレの個室だったが、首を回して、肩に触れる何かの感触に、僕は頭に手を伸ばした。
 髪が伸びている。長さはセミロング――いや、まだ伸びてる。背中の半ばほどまであるロングヘアー。
 胸を見下ろすと、さっき見たよりも大きく視界を遮っており、水着の胸元から谷間が覗いていた。
 変化したのはそれだけではなく、肩も腕も、さっきよりも心なしか細く、肌が白くなっている。腕に少し生えていた毛もまったくなくなっている。
「そうだ、下は……!」


 恐る恐る右手をお腹から滑らせるように股間へ近づける。水着から染み出しているようなぬるぬるの感触を右手に感じながら、股間を撫でた。
 あるはずの膨らみはまったくなかった。でも、触られている感触はある。
 手を戻し、あるはずの場所を強くまさぐると、硬くなったアレの形を見つけた。
「ふあぁ……!」
 ぬるぬるの内側に擦れ、声を上げてしまう。間違いなく、ある。
「どうなってるの……?」
 僕は外に誰もいないことを祈りながら扉を開け、手洗いの鏡の前に進んだ。
 歩いていても水着の内側が擦れて、じわじわと気持ちよくなってくる。
「女の人みたいだ……」
 鏡に映った姿は、さっきまでの僕とはまったく違う、女の人。
 いや、顔になんとなく面影があるだろうか? 姉さんにも似ている。
 歳は二十歳くらいで、背はどのくらいだろう。目線の高さはそんなに変わってないから、さっきまでとあまり変わってないと思う。
 色白な肌と光沢のある長い黒髪。細い肩と腕に、大きく突き出た胸は少しかがむと深い谷間が見えてしまう。
 平らなお腹とくびれた腰に、左右に張り出した腰骨とそれを包む肉が丸みを描くライン。
 股間には、あるはずの膨らみがまったく見えない。
 外見は、完全に女の人だった。
 背後に感じた人の気配に肩をびくりと震わせ、振り返る。
「ッ――ぅ……!」
 胸が揺れる。ぬるぬるの生地に胸が擦れ、感じたことのない刺激に声が漏れそうになった。
 トイレに入ってきた高校生くらいのお姉さんは僕の姿を一瞬だけ見たあと、個室に入っていった。
 僕が男だと気づいた感じはまったくない。
「とにかく出ないと……」
 僕は海パンを掴み、トイレを出た。どこか人気のない場所で着替えなきゃ。
「あ、くぅ……」
 けれど、歩くたびに胸が揺れ、ぬるぬると水着と擦れる。胸の揺れに水着が引っ張られ、微妙な振動が股間を覆う生地も上下させて硬いままの男の部分と擦れる。
 早く移動しなきゃいけないのに、胸と股間の刺激に体が上手く動かない。
 けれど、僕は動きを止めることも出来なかった。
 ――こ、これ、気持ちいい……!
 股間はもちろん、胸が擦れる刺激も、同種の快感となって体に響き、僕はぎこちない動きでゆっくり歩き続けた。
 早く歩いたら、男の方の快感が暴発してしまいそうだった。
「はぁ、はぁ、あ、ふう……」
 息が上がり、飛び散りそうになった快感に歩みを止める。一息吐いて落ち着かせ、周りを見わたすと、僕を見ている視線を感じた。
 中学生くらいの男の子が胸を凝視してる。二十歳くらいのお兄さんが胸や脚の周りをちらちらと。四十くらいのおじさんが髪のかかった肩から腰までを探るように見つめている。
「ぼ……僕……」


 こんなに人に見られてる中で、射精しそうになってる――!
 恥ずかしい。見られたくない。
 でも、動きを止めていると、胸が揺れる快感が欲しくなってくる。股間も。我慢できない。
「ちょっといいですか?」
 歩き出そうとしたところで、僕はプールの係員に呼び止められた。
「髪の毛、長いですから、まとめないと排水溝に引っかかったりして、危ないですよ」
 言いつつ、目線は僕の胸にあった。上から谷間を見下ろすように。
「は、はい。すいません。髪留めを落としてしまって……」
 姉さんがよく言うセリフを言い訳にした声も、やはり女性のものだった。
「あ、そうですか。落し物コーナーには行きましたか? なんでしたらご案内しますよ?」
「い、いえ、大丈夫で、す……」
 胸を見られて落ち着かなくなり、もじもじと動くとやはり内側で胸が擦れる。その刺激に声が震え、吐息を漏らしてしまった。
「? あの、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが?」
 そんな僕に、係員は心配そうに声をかける。
「体調が悪いようなら、医務室へ。こちらです」
 職務をこなそうとする彼の表情は真剣なもので、その雰囲気を察したまわりの客が僕に注意を向ける。
「いえ……はぅ、大丈夫です……。平気、ですから……」
 後ずさり、腰をかがめる。胸がゆさりと揺れて、快感に前屈みになって、水着の内側が擦れて――。
「ふ、うっ」
 思わず腰を突き出してしまいそうになった。水着の下腹の部分が硬くなった裏を擦り、下半身に走った快感に小さく声が漏れる。
 腰が震える。ぺたんと座り込んで先端がある下腹を押さえたが、あふれてくる快感は止まらない。
 手の下、水着の内側で脈打つ僕の男。
「あ、うぅ……」
 女子用水着を着て、その中で射精してしまった。こんなに人に見られている中で。
 射精が治まる。
「大丈夫ですか!? おーいッ、担架ー!」
「へ、平気です。立てますから、大丈夫です」
 慌てて立ち上がる。胸に遮られて股間はまったく見えないけれど、外からはわからないはずだ。元々濡れているし、臭いに気づかれなければ。
 そう思ったとき、まったくあの臭いがしないことに気づいた。プールの塩素臭にまぎれているかと思ったが、下腹を押さえていた手からもそんな臭いはしない。
 首をかしげながら、僕は医務室に連れて行かれた。



 手に持った海水パンツは怪しまれずに済んだ。むしろそこまで気を払う余裕がなかったんだと思う。
 医務室に通され、少しの間待つように言われて扉を閉められた。
 着替えるなら、今がチャンスだ。
 僕は水着の肩を外し、胸を引き下げた。同級生の女の子どころか、姉さんや友達よりも大きいんじゃないかというおっぱいがぷるん、と飛び出す。
 そのまま水着を下に降ろし、両足を抜き取った。
 股間に手を当てる。ちゃんとあることに安堵のため息を吐いたが、射精の痕跡はどういうわけかまったくなかった。
 首をかしげつつ胸を見下す。裸になった瞬間からどんどん小さくなっていく。
 一分と経たず、胸はわずかに膨らんだだけになった。
「って、膨らんだままじゃまずいよっ」
 あいにくと鏡がなかったのでちゃんと体を確認できなかったけど、髪も前より少し長くなっているような気がするし、腰骨が広くなっているように感じる。
 そもそも腕や脚にあった体毛が消えたままだ。
「戻らない……なんでっ?」
 水着を着たまま射精してしまったから? そもそも着たのがいけなかった? ちゃんとは戻れない?
 僕は心臓が激しく鼓動するなか、海パンを履いて医務室を出、すぐに更衣室へ向かった。
 女の格好をして女の体になったなら、ちゃんと男の格好をすれば戻れるかもしれない。
 そう思って僕は急いだ。水着は医務室に置いたまま。


 服を着替えて待合室で姉さんと友達を待つ。
 服の上からなら、鏡を見ても前と大して変わらないように見える。
 髪が少し伸び、艶と手触りがよくなっているくらいで、胸や腰は一見しただけではわからない。
「大丈夫。ここがあるうちは、僕は男だから……」
 そっと股間に触れる。男の象徴は確かにある。胸が少しくらい膨らんでいても、これがあるうちは男なのだ。
 と、水着の中で撒き散らした快感の残滓が腰をよぎり、僕は生唾を飲み込んだ。
 ――もう一回、あれで気持ちよくなりたい……。
「あ、いたいた。もう、なんで勝手に戻っちゃったのー?」
 姉さんと友達が更衣室から出てくる。
 僕は適当に言い訳しつつ、帰りのバス停まで歩き出した。
 頭に浮かんだ欲求を意識して考えないようにして。



 あれから三日。
 いまだに膨らんだ胸は戻らない。意識して見なければ男の胸と変わらない程度なのだが、触ってみると女の子の乳房としての柔らかさがある。
 そして、あの時に感じた胸の快感も。
 あの大きさで感じたものよりもずっと軽く、浅いけれど、確かに同じ感覚が僕の胸にある。
 水着を着て、女性の姿でいた時のことを思い出して、僕は何度か胸と股間をイジってあの快感を呼び出そうとしたけれど――射精しても、あの時の快感には及ばない。
 あの時は、もっとたくさん出たように思うし、もっと気持ちよかった。
 また、あれで気持ちよくなりたい。
 でも怖い。取り返しがつかないことになるような気がする。
 でも気持ちよかった。もう一回やりたい。女の子になってしまってもいいから――
 でも――。
 自分でも結論が出せないまま、僕は市民プールに向かうバスに乗り込んだ。
 水着は医務室に放置したままだ。行ったとしても手に出来るとは限らない。
 もしもなかったら、諦めよう。そう思いながら更衣室に入って、ロッカーを開けた瞬間だった。
 ロッカーの中に、紺色の水着が入っていた。広げて確かめる。あの水着だ。
 でもなんで男子更衣室のロッカーに、しかも僕が開けた場所に狙ったように……。
 そんな疑問が浮かんだけれど、僕は再び水着を手に出来た興奮でそんなことは気にならなくなった。
 手にした水着は以前と同じように湿っていて、ぬるぬるした粘液が染み出していた。
 すぐに着ようと思ったけど、僕は気持ちを抑えて水着をカバンに押し込んだ。
 プールで水着を着るより、もっとしたいことがあったのだ。その用意もしてきてある――。



 市民プールの出入り口を通り、バス停へ歩く。
 一歩踏み出すごとにゆさりゆさりと胸が揺れ、水着のぬるぬるした内側と擦れた。
「はぁ、はぁ……んっ……」
 水着の上に、黒いTシャツとブルゾン。下は膝丈のスカート。どれも姉さんの物だ。
 といってももうほとんど着ていない、タンスの奥にしまわれていたもので、僕はそれをカバンに詰めて来たのだ。
 水着の上に着て、女の姿で外を歩くために。
 Tシャツの胸元はパンパンに張り詰めていて、水着から染み出している粘液でうっすらと濡れ、胸の形が浮き出ている。
 それがゆさゆさ揺れるたびに、すれ違う人たちの視線が集まるのだ。
「んっ……。はぁ……」
 胸の揺れに合わせて、股間も擦れる。ただ歩いているだけなのに、息が上がって、熱っぽい声を漏らしてしまう。
 どうしよう……バス停まで歩くだけなのに、もう気持ちいい……。
 じわじわと立ち上ってくる、射精の感覚。じっと立ち止まっても、ちっとも治まらず、その時がどんどん近づいていく。
 バス停にたどり着き、ベンチに座った。間に合った。安心して腰を降ろし――。
「はぅぅッ」
 ずりずりと、股間と水着の内側が擦れ、腰がびくん、と震える。
 力がぬけてベンチに座り込み、そのまま痙攣を繰り返した。
「あ、うぅ、ふぁぁ……」
 スカートの中、水着の内側で脈打ち、白い濁液が放たれている熱い感触と、快感。
 バス停には他にも何人かの小中学生がいて、ベンチに座って息を漏らす僕に視線を注いでいた。
 やっぱり胸や脚への視線が多いけど――まさか、こんな所で今僕が射精してるなんて、誰も思わないだろう。
 そんな言葉が浮かんだら、なんだか気が楽になった。
 僕が女の人の格好をして、その中で射精しても、近くにいる人は誰も気づかないのだ。
 恥ずかしいことなんてない。だってバレないんだもの。
 ベンチに座ったまま、思いっきり射精する。周りのみんなに見られている中、僕は長く、気持ちのいい射精を味わった。
 息を荒げ、やがてバスが到着する。
 水着の内側を刺激しないように慎重に歩いたけど、そんなのは無理だ。射精したばかりで敏感になった股間も胸も、水着に擦れてまた気持ちいのがやってくる。
「はぁ、はぁ、はぅぅ……」
 座席につき、Tシャツの上からそっと胸に触った。手を広げて押し当てても、球体の三分の一も覆えない、大きなおっぱい。
 さっきから胸がすごく気持ちいい。股間よりも強く感じる時がある。
 ――このまま揉んだらどんなに気持ちいいんだろう?
 おっぱいに押し当てた左手を動かす。ずっしりとした質量感に、どこまでも沈みこんでしまうような柔らかさと力を込めたぶん押し返す弾力感。
 そして、水着からの粘液で、手が、胸が、水着がぬるぬると滑る。
「ん、はぅん……!」
 いつの間にか右手がスカートの中に入り込んでいた。触ってやっとわかる男の証、硬い感触に右手で包み、ぬるぬると扱く。
「ん、んん、ぁん――!」
 射精するまであっという間だった。それこそ、まだバスが走り出す前。
 声を殺していたおかげで、誰も僕に注意を向ける人はいない。こんな狭くて大勢がいる場所で気持ちよくなったのに、誰も気づかない――。
 胸に湧き上がってくる優越感、秘密を守れる安心感。その二つが、体の奥からせり上がって来る欲求を素直に発散させるよう、僕の手の動きを促す。
 バスが走り出す。
 大きなおっぱいに触る幸せな感触。敏感な胸を激しく弄られる、じわじわと響く快感。
 股間から導き出される気持ちのいい粘液が、水着の内側にあふれていく。
 射精している間も、手が止まらない。
 家に着くまで、何回出してしまうだろう――?



「はぁ、あぅ……! んん! あぅ……」
 バス停から歩きながら、僕はまた絶頂に体を震わせた。
 バスに揺られながら、何度も何度も果て、そしてバスを降りたあと、家までの道を歩きながらも、僕は気持ちよくなり続けた。
 股間の方は、もう全部出し切ってしまったのか、歩き始めてからしばらくして、射精は止まってしまった。
 けれど胸の快感はずっと続いている。
 胸だけでイクと、放つのとは違う、気持ちよさが入ってきて体中に広がっていくような感じなのだ。
 終わりがない。何度でも感じたい。我慢できず、道端で両手を胸に運んでしまったのも一回や二回じゃない。
「はぁ、もう、すぐ……」
 家が見えた。思わず足早になり、玄関の取っ手を掴んだ時にまた胸から快感が入ってきた。
 声を殺し、扉を開けて家に入る。
 向かった先はお風呂場。
 まずは服を着替えないと――。
 脱衣所兼洗面所の大きな鏡の前で、ブルゾンを脱ぐ。Tシャツは水着から染みてきた粘液がすっかり濡れ、上半身に張り付いて胸の膨らみの先端を浮き立たせていた――。
「あれ?」
 おかしい、プールを出る時にはこんな事はなかった。水着を下に着てるんだから、濡れたって乳首が浮き出るなんてことはない。
 じゃあ、なんで――?
 Tシャツを脱いだ。その下に着ていたはずの紺色の水着は、存在しなかった。シャツを脱いで現れたのは、綺麗に丸く膨らんだ大きなおっぱい。
「え、えぇ?」
 スカートのホックをはずして床に落とす。膨らんだ胸が邪魔で下が見えず、僕は鏡を見た。
「なッ!?」
 股間から、男の象徴が消えていた。
 代わりにあるのは、薄い体毛の奥の、一本の筋――。
「女の子に、なっちゃった……?」
 よく見れば、水着を着ていた時とは少し違う。顔はずいぶんと幼くなっているし、お腹も少し出ていて腰のくびれが緩くなっている。
 胸も前より若干――それでも十分大きかったけど――小さくなっていた。
 髪の長さも、ロングからセミロングくらいになっている。
 中学生くらいになっている。わたしの歳に合わせて変わったんだ――。
「あれ、わたし?」
 何かおかしいだろうか? どこも、いつもと同じはず。
「あれ、そもそもどうしてわたし、裸でいるんだろう?」
 床に落ちているのはTシャツにスカート、ブルゾンだけで下着の類が見当たらない。
「やだわたし、下着なしで歩ってたの!?」
 慌てて床の服を抱え、わたしは自分の部屋に戻り、タンスから下着を出して身に着けた。
「んーでも……」
 なんだか、とっても気持ちいいことがあったような気がするのだ。
「下着なしで歩いたことが……?」
 いやいや、まさか、そんな変態的なこと……。
 思い出そうとして、胸の辺りから、じわりと何かが広がったような気がした。
「ただいまー!」
 あ、お姉ちゃんが帰ってきた。
「おかえりー」
 部屋から出てお姉ちゃんを出迎える。
「あれ、あんた、何でわたしの昔の服着てるの?」
 お姉ちゃんに言われて気づいた。そういえばこれ、お姉ちゃんの服だ。
「ホントだ。どこかで間違えたのかな?」
「ふーん、まぁいいけど。それより、おみやげにアイスかってきたよー」
「え、ホント? さすがお姉ちゃんっ」
 何か大切なことを忘れているような気がしたけれど、わたしはお姉ちゃんが買ってきたアイスを受け取り、スプーンを取りにキッチンへと向かった。
 大事なことだったような気がするけど、アイス食べてからでもいいよね。

おわり
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