概念礼装『ある歌うたいの最終公演』
最終更新：
nekomisomezasi 2023年06月17日(土) 18:34:43履歴
昔から、何をやっても続かなかった。
一人で生きることすらまともに出来なかった。
歌を歌うのだと飛び出して、だけど一向に芽は出ないまま、こんな年齢になっていた。
何か他に、自分にあった天職とでもいうものがあるのではないかと、そう夢を見ることにも疲れていた。
自分はどうしようもなくダメな人間なのだと、ずっとそう思っていた。
だけど、自分の歌に足を止めた男が、違うのだと言ってくれた。
男の世界では、自分は馬に乗っていて。
たくさんの馬を任せてもらえて。
大舞台でも勝つことができて。
そんな、とても腕のいい騎手というものなのだと、教えてくれた。
それが、どれだけ嬉しかったか。
自分を必要としてくれる人はいたのだ。
本気で打ち込めるものもあったのだ。
ダメ人間なんかでは、なかったのだ！
けれど男は、自分を励ましてくれた恩人は、世界を滅ぼしに来た侵略者だった。
漫画のような展開に笑ってしまう。
でも、別の世界の自分がしっかりと生きているとわかったから、全く構わなかった。
——行ってください。それで、そっちの世界の俺に、頑張れって、伝えてください。
——俺に教えてくれた、あんたの世界のために！行けや！たくさん勝ってる騎手なんやろ！負けんな！走れ！
そう叫んで、背中を押した。
馬に乗って走り去っていく男が見えなくなるまで、手を振った。
それからふと思い立って、ギターを掴んで、いつもの街角に向かった。
歌はきっと、自分にとっての天職じゃない。
だけど男も必死に戦っているのだから、どうせあと数時間で世界は終わるのだから。
自分も最後に思い切り、歌ってやろうと決めたのだ。
※※※
その街の、とある街角には、いつも歌を歌っている男がいた。
男の歌に耳を傾ける者は、ほとんどいない。
しかしその日は違っていた。
ギターが高らかに鳴り響く。
歌声が空気を震わせる。
一心不乱に歌う男に、行き交う人々の足が止まる。
誰かを応援しているようだった。
負けるなと鼓舞しているようだった。
走れと背中を叩いているようだった。
いつしか男の周りには、たくさんの観客が集まっていた。
そんなことを気にもせず、男は歌う。
日の光を浴びて黄金色に輝いている、使い込んだギターをかき鳴らしながら。
これで最後だと知りながら。
自分の全てを込めた芸術を、ただただ口から紡いでいった。
概念礼装「ある歌うたいの最終公演」
一人で生きることすらまともに出来なかった。
歌を歌うのだと飛び出して、だけど一向に芽は出ないまま、こんな年齢になっていた。
何か他に、自分にあった天職とでもいうものがあるのではないかと、そう夢を見ることにも疲れていた。
自分はどうしようもなくダメな人間なのだと、ずっとそう思っていた。
だけど、自分の歌に足を止めた男が、違うのだと言ってくれた。
男の世界では、自分は馬に乗っていて。
たくさんの馬を任せてもらえて。
大舞台でも勝つことができて。
そんな、とても腕のいい騎手というものなのだと、教えてくれた。
それが、どれだけ嬉しかったか。
自分を必要としてくれる人はいたのだ。
本気で打ち込めるものもあったのだ。
ダメ人間なんかでは、なかったのだ！
けれど男は、自分を励ましてくれた恩人は、世界を滅ぼしに来た侵略者だった。
漫画のような展開に笑ってしまう。
でも、別の世界の自分がしっかりと生きているとわかったから、全く構わなかった。
——行ってください。それで、そっちの世界の俺に、頑張れって、伝えてください。
——俺に教えてくれた、あんたの世界のために！行けや！たくさん勝ってる騎手なんやろ！負けんな！走れ！
そう叫んで、背中を押した。
馬に乗って走り去っていく男が見えなくなるまで、手を振った。
それからふと思い立って、ギターを掴んで、いつもの街角に向かった。
歌はきっと、自分にとっての天職じゃない。
だけど男も必死に戦っているのだから、どうせあと数時間で世界は終わるのだから。
自分も最後に思い切り、歌ってやろうと決めたのだ。
※※※
その街の、とある街角には、いつも歌を歌っている男がいた。
男の歌に耳を傾ける者は、ほとんどいない。
しかしその日は違っていた。
ギターが高らかに鳴り響く。
歌声が空気を震わせる。
一心不乱に歌う男に、行き交う人々の足が止まる。
誰かを応援しているようだった。
負けるなと鼓舞しているようだった。
走れと背中を叩いているようだった。
いつしか男の周りには、たくさんの観客が集まっていた。
そんなことを気にもせず、男は歌う。
日の光を浴びて黄金色に輝いている、使い込んだギターをかき鳴らしながら。
これで最後だと知りながら。
自分の全てを込めた芸術を、ただただ口から紡いでいった。
概念礼装「ある歌うたいの最終公演」
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