A.D.20XX年 
相棒入換戦線日本 魂を継ぐ者たち
KGO版聖杯戦争(正規のやつ)
※この物語はフィクションです。実際の人物・作品等より着想を得ていますがそれらとは関係ございません。またそれらと設定的にそぐわない部分・意図的に誤った呼称を採用している箇所がございます。
【プロローグ】
「くそッ、どうなってんねんいったい！」
通勤時間真っ只中の大通りで苛立ちを含んだ声が響く。しかし、誰も振り返ることはない。なぜなら、普段人で溢れかえっているはずのこの場に、自分以外誰もいないからだ。
世界の時間が止まった……いや、この言い方は正しくない。気づいたときには時間が止まっていた。
朝、家族が誰も起きてこないことに違和感を感じて寝室に向かった。まだすやすやと眠っている家族に声をかける。反応がない。肩を軽く叩く。反応がない。いくら声をかけても、揺さぶっても起きる気配がない。
触れた肌は温かい、息もしている、鼓動も確認できる、生きている。なのに、何をしても目を覚まさない。慌てて確認すると、テレビもラジオも機能していない。警察や救急に電話をしても呼び出し音が鳴るばかりで繋がらない。たまらず家を飛び出したが、街中も静まりかえっていて、誰も起きていないことが分かってしまう。
「ハァッ、ハァッ…ほんまに誰もおらん……」
「ハーッハッハッハッ！そんなに慌ててどうしたんだい？」
「誰や！！……………は？」
突然背後から聞こえた自分以外の声に驚き、勢いよく振り返った視界に入ってきたのは年端も行かない少女だった。学校の制服らしき紫と白のセーラー服を着ている彼女はパッと見どこかの学生に見える。しかしそう思えなかったのは、学生にしては明るすぎる髪色……ではなく彼女の頭にある動物の耳、腰の辺りから生えているスラッとした尻尾の存在だった。自在に動いているあたり、コスプレの類いではないようだ。
明らかにおかしい今の状況とヒトではない目の前の存在に本来警戒しなければならないはずなのに、
『本当は知っているはずのものを忘却させられている』
そんな気持ち悪さが頭を巡る。
「おや、ボクが分からないのかい？まぁ、それがこの場所のルールである以上仕方のないことか。それにしても、運命の女神すら魅了してしまうとはボクはなんて罪深いんだ！！」
誰もいない住宅街に響き渡る声量とよく分からない決めポーズで空を仰ぐ少女。まるで舞台役者のような振る舞いに呆然とするが、すぐに思考を切り替える。
「どういう意味や。というか、俺には行かなあかん場所があんねん。立ち話なら他所でやってくれ」
そう、いつもなら知らぬ間に特異点へレイシフトしてくれるボンドがいつまで経っても現れないことも焦りを生んでいた。自分(と目の前の少女)以外が寝静まっているこの異常に飲み込まれているとすれば現れないのも頷けるが、その異常を正すためにはボンドの力が必要だ。手がかりのない状況で街中を走りまわるより、とりあえず様子を見に行って損はないし、トレセンへ行けば、自分と同じく影響を受けていない誰かがいるかもしれない。……と、なるべく良い方向に考えを持っていくが、それでも一度生まれた焦りは簡単には消えてくれなかった。
その焦りからくる大人気ない苛立ちをぶつけたにも関わらず、少女は臆するどころか笑みを浮かべてまたおかしな決めポーズをとりながら声をあげた。
「ああ、分かるよ！今のキミの相棒のもとに行きたいのだろう？ならばやはり、ボクは女神に愛されている。先程『どういう意味か』とキミは問うたね。ならば答えよう。ボクがここでキミを見つけたのは運命だった、と。———この舞台で、キミの隣にいるべきは彼ではなくボクだったんだとね」
その言葉を聞いた瞬間、まるで頭を殴られたかのように目の前の景色が揺れ、酷い眩暈のような現象に思わず目を瞑り膝をつく。
段々と眩暈が治まり、恐る恐る目を開ける。視界に飛び込んできたのは、整然と並んだ椅子、少し高い天井と煌々と室内を照らす照明。そして、大きなスクリーン。その景色を知ってはいる。が、理解はできなかった。先程まで間違いなく街中にいたはずだ。膝をついたのはコンクリートの固い地面だったはずなのに、今座り込んでいるのは柔らかく赤いカーペットになっている。
「………なんや、ここ」
「見ての通り映画館さ。本当はこのボクにふさわしいオペラ座のような大劇場が良かったんだが、特異点を観測するためのスクリーンは必須と言われてしまってね。泣く泣く大箱の映画館にしたのさ」
さて、キミの映画鑑賞のお供はポップコーンかい？ボクは基本的に何も食べないんだが、キミがほしいのなら用意しよう。
呑気な少女の声を無視して、弾かれたように立ち上がり出入り口の扉へ向かう。
あの少女は確実に『特異点』と言った。やはりあの現実世界の異常は特異点由来のものだった。そして、それを知っていながら仲間との合流を妨げてきたということは現地の協力者ではないことは明白。どうやってこの映画館に連れてきたのかは分からないが、長居していいことはおそらくない。
少女は追ってこない。これ幸いと扉の前に到着し、扉に手をかける。しかし、どれだけ力を込めても扉は開かない。鍵が掛かっている時のようなガチャガチャという手応えもなく、まるでピッタリと接着剤で固められているかのようだ。それでも諦めきれず固い扉を何度か叩く。
「無駄さ。キミはもうここから出ることはできない、ボクの許しがない限りね。騎手というのは体が資本の仕事なんだろう？自分を無用に痛めつける真似はしないことだ」
背後から少女の声がする。先ほどまでの自信に満ちた声ではなく、硬い声。振り返れば表情も厳しいものになっていた。その表情に気圧されて扉を叩いていた手が止まる。
それを見た少女は表情を先ほどの舞台役者のものにパッと切り替えた。
「キミにはここで、ボクと一緒にこの舞台を鑑賞してもらうよ。主役がボクじゃないのは……まぁ残念だが、たまには観る側に回るのも悪くない。キミもそうだろう？同じ演目ばかりでは面白くない。たまには違う役回りも経験してみることさ」
特異点修正には携われず、かといって知らぬままでいることもできず、ただ見ていることしかできない。突きつけられた現実に再び崩れ落ちそうになるが、ぐっと堪えて少女を見据える。ここに囚われるというのなら、この場と少女から特異点についての情報を得るしかない。
現状について少女に問いただそうとしたその瞬間、映画館の照明が暗くなり、スクリーンに映像が映し出される。そこに映っていたのは暗めの茶髪をした小柄な少女とその少女を見て驚いた顔をするストイックなあの後輩だった。
「ユーガ…！」
「さて、それでは上映開始だ。席に座ろうじゃないか。あぁ、ボクのことは便宜上、ルーラーとでも呼びたまえ。この第一幕は、ふむ……『憧れの青いバラ』とでも名付けようか。」
A.D.20XX年 相棒入換戦線日本 魂を継ぐ者たち
プロローグ「覇王の唯一無二」
最新コメント