A.D.2005 
A.D.2005 極天永生航路淀 君のみたベストアルバム
A.D.2005 極天永生航路淀 君のみたベストアルバム
※この物語はフィクションです。実際の人物・作品等より着想を得ていますがそれらとは関係ございません。またそれらと設定的にそぐわない部分・意図的に誤った呼称を採用している箇所がございます。
最初に気付いたのは、早すぎたということ。
自分が何を残せたのか、どんな航路を辿って、どれほどの価値を積み上げたのか。
君の行末すら何一つ、知れることはない。
次に想ったのは、君の悲しむ顔。
ふと思い出す君の顔は、涙ぐんでいることが多かった。
嬉し泣きもあっただろうけれど、それでも晴れやかな笑顔を見られたのは、何度あったか。
もう一度くらい、例えそれが僕の隣ではなくても。見たかった。
しかし、そう願う度、一つ思う度、何かが剥がれていく。
冬の風に嘲笑われる幽木のように、静かに、そして着実に。
もう何も見えないのに、あと僅かで終着点へ沈む事実だけはわかる。
届かなかったことは、数えきれず。
間に合わなかったことは、山のように。
けれど、早すぎたなんて経験は初めてで。
過ぎ去っていくものを追うすべは知っていても、下りた幕を再び上げ、先へ先へと延ばす方法など知らない。
どうしていいかわからなくて、ぼんやりとする頭を捻っていると、目の前が急に明るくなった。
朧げな輪郭しか見えずとも何かはわかった。黄金の夢、万能の願望器、聖杯。
あの日注いだ西日のように、痛々しいくらい輝くそれに手を伸ばした。
どうして？などと考えることはなかった。これしかない。
あまり大きくないポケットを探す。見つけた。小さく、一際強い輝きがあった。僕たちのたった一つ、まだ誰にも届かないもの。
きっと奇跡を起こすには足りない。それでもいい。
世界を変えるような大それたことは望まないから、胡蝶の夢で構わないから。
どうか、どうか、お願いします。
あの場所ならきっと届くはずだから。
そう祈りながら、僕はその光を砕いた。
マシュ江「今回の特異点は2005年11月12日京都競馬場……ナリタトップロードが亡くなった約1週間後ね」
リュージ「役満すぎる……普段もこれくらいわかりやすいと、解決しやすくてええんやけど」
ユーイチ「知らんぷり)まあ渡辺先輩、ガッツリ正統派の魔術師とはちゃうし、聖杯あってもそんなもんやろ。数値もなんや安定せえへんなぁ、この座標バグか？地盤工事ゆっるゆるの手抜き工事にも程があるわ」
リュージ「プロの意見はためになるなぁ……(視線を送りながら」
ユーイチ「知らんぷり)行けて3ペアがギリか。今回誰が行く？とりあえずリュージとボンド、シゲピン姉と幸先輩、後は……」
？？？「私も参ります！！」
？？？「ぽん……」
リュージ「誰？！後ろにモース化しとるのも増えとるし！」
ウチダ「落ち着けエイシンフラッシュ」
アキラ「お邪魔します……」
リュージ「二人がこっち来るなんて珍しいですね。というか、もうすぐ種付けシーズンやっちゅうのに、ダイヤといいお前といい、なんで簡単に脱走してくんねやろな……」
ミユピー「内田さんはわかるけど、なんでアキラくんまで？」
リュウセイ「ヴェラアズールがトプロ産駒に書き変わった影響ですね！」ｼｭﾎﾞﾊﾞﾊﾞｯ
ミユピー「あっそうか、オニャンコポン！」
オニャンコポン？「ぽん……ｼｮﾝﾎﾞﾘ」
アキラ「よしよし。今朝馬房へ来てみたらこんなことになっていて……それでダイチさんにここへ行くよう送り出されたんです」
リュウセイ「エイシンフラッシュ産駒初の重賞馬ですからね、余波を受けるのも納得です。ただ、血統的な関連性は見えないので、他に誰が被害を受けているかまではわかりませんが。トップロードなら、同じディクタクスが入っているステイゴールドをそのまま乗っ取った方がやりやすいでしょうに……いや入れ替わられたら困るんですけどね」
フラッシュ「普段の特異点であれば静観します。ですが、我が子が捧げてくれた誇りまで奪われるのは我慢なりません！同行しましょう内田さん！」
ウチダ「まあそういうことで。本当はうちのユタカくんもドーベルと行きたがってたんだけど、脱走してきちゃったし、譲ってもらったんだ」
リュージ「なるほど……ダイヤは平気みたいやけど、オニャンコポンはその状態で走れそうか？」
アキラ「キャンターくらいなら問題はないんですが、特異点は揺らぎがだいぶ激しくてレースに出るのは厳しそうです……すみません」
マシュ江「じゃあ今回は、和田くんとボンド、幸くんとシゲピン姉妹、内田さんとフラッシュが出るということで。菅原くんは私の手伝い頼んだわよ！」
アキラ「えっ？あ、はい……」
ユーイチ「そんじゃまあ、行くで〜」
ディープボンド「ぷぼ〜」
ギュウウウゥゥゥン…………
A.D.2005 極天永生航路淀 君のみたベストアルバム
無事2005年の京都競馬場へ着いた一行。エリザベス女王杯前日とあって場内は賑やかである。
ウチダ「見た感じ変わったところはなさそうだね」
リュージ「今はもうこの感じやないんやろなぁ」
ミユピー「イトももう一度くらい走らせてみたかったなぁ」
職員「あっ幸さんいた！」
一行「「「？！！！！」」」(咄嗟に隠れる)
ミユピー「えっ」
職員「あと検量終わってないの幸さんだけですよ！！」
ミユピー「え？あ、スミマセンイマイキマス……」
リュージ・ウチダ「「……」」
ウチダ「……僕らも行こうか
フラッシュ「パドックにいる馬がみんなモース化してますね」
プボ「シゲピンちゃんいっぱいプボ……」
ダイヤ「この状態だと否定しきれないのが癪ね……」
リュウセイ『……』
ユーイチ『ほら帰ってこいリュウセイ。多分負かしたら戻るはずや』
アキラ『この日の京都10Rは……花背特別、幸先輩が勝ってますね』
ミユピー「じゃあ問題なさそうかな、行ってくるね」
シゲピン「ﾊｯ?!クニヒコが見てる可能性もあるってこと？！なんでもっとはやく言わないのよ！」
〜戦闘パート〜
(サポのミユピー、シゲピン単騎固定)
(開幕直後に固定デバフ【？？？？？？】)
リュージ「お疲れ様ー」
ミユピー「ただいま。あの、今のレース、特に変なとこなかったですよね？」
マシュ江『観測していたけど、見た限りそれっぽいのはなかったわね』
フラッシュ「私たちも見ていましたが、いたって普通のレースでしたよ」
リュージ「ゲートも今日は嫌がらんかったしなぁ」
シゲピン「何よ」
ウチダ「理想的なレース運びだったと思うけど、どうかした？」
ミユピー「上手くは言えないんですが、ほんの少し変な感じが……」
リュージ「他の特異点で似たヤツ感じたことある？」
ミユピー「うーんわかんない、なんだろう」
ユーイチ『揺らぎのせいで数値に多少幅があるから、それか？とはいえ、KAGOSHIMAの勘は洒落にならんしなぁ……』
ミユピー「とにかく、これといった異変が見られない以上、ナベちゃん探して聞くしかないね」
ウチダ「ここは別れよう、一時間後に裏手の駐車場合流で」
リュージ「じゃあ、また後で」
クニヒコを探しながら、かつての京都競馬場を眺めるリュージ。自分にとってもさまざまな思い入れのあるこの風景は、次の春が来れば全く新しい「京都競馬場」に塗り替えられていく。待機室への廊下を歩いていると、探していた相手を発見した。
若いクニヒコ「あれ、わっくん」
リュージ「……ナベちゃん」
この時のクニヒコは、本来であればトプロを亡くして数日しか経っていない。訃報が舞い込んできた直後トレセンで見かけた、今にも吹き消えてしまいそうなクニヒコの後ろ姿を思い出す。けれど、今目の前にいる彼は何も知らないのだ。そう思うと、なんとも辛いものがある。
見た限り、クニヒコは何かを隠したりしている様子はない。普段のクニヒコは照れたり、困ったときに鼻を触る癖があるが、それも見られない。
若いクニヒコ「明日は福島行く言うてたのに、まだ出なくてええん？」
リュージ「いやまあ色々あって……あはは」
リュージ(なんやこの違和感、幸先輩が言ってたのはこれか？)
若いクニヒコ「じゃあ僕、厩舎寄るから。また火曜に」
リュージ「あ、うん。また……」
(柱の影から立ち去る謎の人影)
リュージ「……なんや？ちょっと追ってみるか」
たった一つが、一つきりである限り、この夢は夢のまま
ずっと終わらないと信じていた
だって世界でたった一つ、八つ先で見つけたものだから
あの凱歌も聞こえない
あの星影も映らない
あの白波も砕けない
あの巨塔も届かない
あの咆哮も轟かない
きっと誰も開かせることのできない蕾
僕と君だけにしか咲かない千紫の大輪
そう、思っていたのに
◼️◼️◼️◼️◼️◼️
僕たちのこれ、
もう、宝物じゃないんだって
宝物が宝物で失くなった
永遠に変わらない価値はない
国が滅びれば金貨は屑鉄となり、
聖剣聖鎧もその色を燻ませ、砕け散り
絢爛を誇った不夜城もいつか、荒涼とした風に崩れゆく
栄枯盛衰
その道理を、僕はよく知っていたはずなのに
天窓の崩れる音がする
偽物の星が落ちて、ぶらぶらと揺れている
見上げることが、とても嫌なことだったのを思い出す
心許ない瓦礫を踏み締める
僕を責める様に、積み重ねた残骸が軋む
足元を見るのが、こんなにも怖いことだったのを思い出す
輝きを失った物語に、終幕がひたひたと、近づいてくる
でもこの泡沫を閉じたくない
まだ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎にもらった分すら、返せていないのに
こんなので終わるなんて、認めたくない
終わりたくない
どうしよう、どうしよう
どうしたら……
あ。
────見つけた
人目を避けるように進んでいく人影、認識阻害のジャミングをかけられているのか、顔はノイズがかったように、ぼんやりとしている。自分と変わらないくらいの背丈、スーツ姿、騎手上がりの調教師と思われるが、それ以上はわからない。しかし、わざわざ隠れて自分とクニヒコの様子を伺っていたのだから、到底無関係とは思えなかった。角を曲がろうとしたとき、わずかに男の顔のノイズが薄れた。隙間から見覚えのあるたれ目が覗く。
リュージ(……てことは、やっぱりこの特異点は……)
さっきとは髪色も服装も見た目の年齢も違うが、特異点なのだから同じ顔が2人いても、何も不思議はない。別時空のどこかの誰かさんはナンバリング必要なくらいいるし。とにかくこの特異点について聞きたいことは山ほどある。
リュージ「ナベちゃん！」
しかし、クニヒコがリュージの声に振り返るより早く、彼の足元近く、壁に生じたひび割れから何か黒煙のようなものが噴き出した。黒煙は馬の形をとると、嘶きを上げながらこちらへ向かってきた。
リュージ「モース馬ちゃう、なんやこれ！」
？？？「────！」
アキラ『敵性反応です！えっずんこさんコレ大丈夫なやつですか？！』
マシュ江『大丈夫じゃないわね！』
オニャンコポン『ぽん！？』
マシュ江『ちょっと目を離した隙にこうなるとは。和田くん、二人が来るまでなんとか持ち堪えて！』
アキラ『和田さんごめんなさい……！』
リュージ「せめて話の途中とかになるよう、後輩のフォローせえよ！？」
ボンド「アキラくんどんまいプボ……」
〜戦闘パート〜
(開幕直後、自陣固定デバフ【？？？？？？？】)
少し時間を巻き戻して、リュージたちと別れたあと。裏手から場内へ戻ったヒデアキとシゲピンは、壁際に沿ってゆっくりと歩いていた。
シゲピン「ねえ幸、何してんの？」
ミユピー「ナベちゃんの魔力の痕跡ないかなぁ、と思って」
シゲピン「それって簡単にわかるもの？誰がどれとか、判別つくの？」
ミユピー「誰でも彼でもは無理かなぁ、よく知ってる人だけ。ユタカさんとかわっくんとか、ケンちゃんとか。あと、同期のみんな」
シゲピン「ふーん、警察犬みたい」
ミユピー「あはは、確かに。……あ、あった」
見つけたのは、金平糖のような形をした白菫色の淡い光。辿っていくと廊下の角を曲がる度に、ぽつ、ぽつと一定の間隔で落ちている。横にいるシゲピンもふんふんと鼻を寄せると、ピンと耳を立てた。間違いない。残滓のすぐ近くには、パスを繋いで何かを修復したような跡があった。
ミユピー(何をしてたんだろう、ナベちゃん……)
ﾋﾟﾋﾟｯ
ミユピー、シゲピン「「！？」」
マシュ江『幸くん、シゲピンちゃん！和田くんとディープボンドが敵性反応と交戦中よ、応援お願い！』
ミユピー「場所は……この先か、近いね」
シゲピン「OK、それじゃあ飛ばすわよ！」
場面は戻って、謎の黒煙馬と交戦中のリュージとディープボンド。
リュージ「くっそ、すり抜けられるんは厄介やな。追っても追ってもキリがない！」
ボンド「リュージ、ちょっと疲れてきたプボ……」
リュージ「すまんボンド、みんなが来るまでもーちょい踏ん張ってくれ！」
シゲピン「リュージ！」
ウチダ「すまない遅くなった！」
リュージ「いやこっちこそすみません！」
ウチダ「さて、京都はあまり好きじゃないと思うけど、頼んだよ」
フラッシュ「ええ。息子の前ですからね、推して参りましょう」
アキラ『だって、頑張ってお父さん応援しような、オニャンコポン』
オニャンコポン『ぽん！』
〜戦闘パート〜
(開幕直後、自陣固定デバフ【？？？？？？】触れるとHPが減少)
(HP半分以下でデバフ解除【クニヒコ「……！」】、バトル終了)
シゲピン「すごい強いわけじゃないのに、何よコイツ！」
フラッシュ「体が重い、不甲斐ないです……」
ボンド「ここ、雨のロンシャンだったりするプボ？なんでこんな疲れるプボ？」
急速に疲弊していくお手馬たち。煙の馬はブルル、と鼻息を荒くし地面をかくと、一行目掛けて突進してきた。
ミユピー「まずい！」
クニヒコ「だめだ……！」
リュージ「えっ？」
途端に黒煙の馬は、クニヒコの声に弾かれるように霧散していった。文字通り煙に巻かれた一同が顔を再び周囲を見渡すと、煙馬もクニヒコも跡形もなく消え去っていた。
煙馬とクニヒコの行方は気になるものの、カルデアの追尾も振り切られてしまった。一旦裏手の駐車場の一角に移動した一行は人払いの魔術を張り、ここまでの情報をまとめることにした。
リュージ「あれ、そういえばユーイチは？さっきからおらんよな」
アキラ『福永さんなら、皆さんが単独で探索出た辺りから、坂井先輩連れ込んでなんかやってます』
リュージ「……始めよか」
マシュ江『じゃあまず特異点の構造について。今回の特異点は、下にあるわね』
リュージ「下？」
ウチダ「普段の特異点へのレイシフトが分厚い辞書をめくるようなものだとすると、今回はコピー用紙の束を積んだまま抜き取る感じかな」
マシュ江『まあ、虚数空間に到達しているわけでもないし。限りなく誤差の範囲だから、覚えておくくらいで大丈夫かと。あと、強度についてだけど、正直維持できてるのが不思議なくらい。観測した限りだと、しばらく前からこの状態で存在してたんだと思う。保って、明日の17時までね』
ボンド「時間ないプボ……」
ウチダ「エリザベス女王杯が終わるまでに片付けないと、僕らも危ないな」
マシュ江『全体の揺らぎも相変わらずひどいし……最悪途中での撤退も視野に入れてね』
ミユピー「……」
リュージ「トップロード産駒の歴史改変って、今どれくらいまで調べてる？」
マシュ江『それなら坂井くんにお願いして……あ、ちょっと福永くーん、坂井くん借りるわよ〜』
ユーイチ(遠くから)『ちゃんと返せよ〜』
リュウセイ『というわけで続いて、僕です！』ｼｭﾎﾞﾊﾞﾊﾞｯ
アキラ(イキイキしてるな……)
リュウセイ『まず正史のトップロード産駒についてですが、合計279頭、重賞馬はベッラレイア、ニックバイエフォーなど。中央G�気砲浪薪戮�出走していますが、あまり目立った成績は挙げられていません。BMSも同様で、現在は稀に見かけるくらいになってしまっています』
リュージ「2000年代は強い種牡馬がばかすか出てきてたし、色々厳しかったんやろなぁ」
リュウセイ『で、この特異点内ですが、全くの正反対です。シバでこの先15年分を観測しましたが、初年度から重賞馬を輩出し、ほぼ毎年G�気鮴�覇。その多くを渡辺先生が騎手として騎乗、もしくは調教師として管理したことになっています』
リュージ「種牡馬、産駒関係の特異点でよく見るパターンやな。……はー、旧八大競争制覇して騎手引退したことになってる」
リュウセイ『ただ今回、一つだけ違う点が。初年度産駒のところ、わかりますか？』
ミユピー「あれ？初年度産駒って、2006年デビューだよね。ここ、『2002年 ベストアルバム』って」
リュウセイ『はい。本来なら産駒が生まれているはずのない年まで、書き換わってるんです。色々調べてはみましたが、牡系も牝系も内国産馬も外国産馬も、とにかくバラバラで、共通項は見当たりませんでした』
リュージ「これもナベちゃんが軸と見て間違いないな」
アキラ『で、最後にその渡辺先生についてですね』
ウチダ「僕とフラッシュは見ていないけど、和田くんたちは渡辺くんに遭ったんだね？」
リュージ「はい、俺は今のと若い頃の両方。あれは絶対俺らの知ってるナベちゃんでした」
ミユピー「僕も拾った魔力を辿った先に、わっくんたちといたので、間違いないかと」
アキラ『わかりにくいんで、俺たちが知ってる方をA、和田さんが接触した若い方をBとしますね。カルデアのデータベースと照合してみたところ、魔術属性、魔術回路のパターン、量、質、魔術刻印、A・B共に全て合致しました。幸さんが回収した魔力の残滓も含め、どちらも本物の渡辺先生です』
リュージ「どっちかは俺が騙されてるんかなと思ったんやけど、違ったな。ナベちゃんが2人か」
シゲピン「……この特異点直さなくってもいいんじゃないかしら？だめ？」
ミユピー「いや、直さないとナベちゃん帰ってこれないから。ルビーちゃんたちが困るよ？」
シゲピン「なら仕方ないわね……両手にクニヒコしてみたかったのに、残念だわ」
マシュ江『逆ハー……一度は憧れるわよねぇ』
アキラ『スルー)俺、美浦なんで先生とあんまり関わりないんですけど、福永さんみたいにすぐ特異点作るような人なんですか？』
全員「「「いや、全く」」」
ユーイチ(離れたところから)「おーーーい！！聞こえてんねんぞーーー！！」
ウチダ「ちょっと凝り性なとこあるけど、真面目だよねぇ」
マシュ江『この前の枠順抽選会のときも、ぽわぽわしてたわねぇ』
フラッシュ「アズールも手紙で、自分で調教をつけてくれる、優しい先生だと書いていましたね。親としてはありがたい限りです」
リュージ「特異点に巻き込まれはするけど、作ったのもたぶん1、2回くらい？少なくとも、気分転換で作るような人やないな」
ミユピー「後輩に部屋乱入されたり、いじり倒されたり、良いところは？って聞かれた人が『優しくて優しい』って構文で答えたり、独身寮の寮長押し付けられるような子だからねぇ……はぁ……。あ、美浦帰ったら、お兄さんの方の吉田さんにも聞くといいよ。面白い話聞けると思うから」
アキラ『わ、わかりました……？』
リュージ「あ、あとあの煙の馬！あれ何やった？」
マシュ江『あの謎のエネミーね。思念体みたいなものかしら。そんなに強くはないけど、接触してきた相手の回路に介入して魔力とか精気の類を吸い取るみたい』
リュージ「あー、だからボンドが疲れやすかったんか。おかしいと思った」
ウチダ「じゃあ、遮断魔術があった方がいいかな」
マシュ江『すぐ福永くんに作らせます』
ウチダ「よろしく。明日の11R、エリザベス女王杯まで時間はないけれど、渡辺くんと聖杯の探索、並行して進めていこう」
(頷く一同)
ブリーフィング後の小休憩。リュージは1人、他のみんなから少し離れた、駐車場の隅で車止めに腰掛けていた。自販機で買ったお茶を飲みながら、先程のことを思い返す。突然湧き出てた黒煙の馬。まるでリュージたちとの接触を阻むかのように出てきたそれを、クニヒコは動揺しながらも止めようとした。
特異点の主なら修正にきた自分たちを邪魔するものだし、自分で嗾けていないとしても、これ幸いと利用してもいいはずだ。でも彼はそうしなかった。「だめだ」と言ったのは、何に対してだったのだろう。
リュージ(もしかしてナベちゃんが自分で喚んだのとちゃうんか……？)
何か理由が、と考えるも、判断できる材料は現状ではとても少ない。わかりやすくていい、と言ったレイシフト前の自分の甘さにため息をついていると、MAXコーヒー片手にヒデアキがやってきた。
ミユピー「ここ、いい？」
リュージ「ああ、どうぞどうぞ」
リュージ「幸先輩は、今回のこと、どう思います？」
ミユピー「そうだなぁ……とりあえず、僕も何回かやってるし、あんまり責められないよね」
リュージ「それはまあ、みんなそうですよ」
困ったことに、今や栗東、美浦の両トレセンで特異点を作ったことがない人間を探した方がはるかに早いのだ。そろそろ自分とダイチの胃が薬に耐性を持ちかねないので、いい加減自重してくれないもんだろうか。主に去年のダービー勝った人とか、今レイシフト観測しないでなんかやってる人とか。思わず腹をさすると、先輩からの視線がちょっと生温かった。
ミユピー「あと正直、やりにくいかな。誰かの大事なお手馬が絡んでる特異点だし、同期が作ったんじゃ、余計にね」
リュージ「……はい。何回やっても、慣れんもんですね」
愛馬が生きていたら、あのレースを勝てていたら、乗り替わりがなかったら。愛馬を理由に作られる特異点は数多い。突拍子もない理由で作られることもあるが、どれも偏に愛情と祈りからなる切実な夢幻だ。それを競馬史に影響があるからと、当人たちの目の前で叩き壊す。残酷なことだと思うし、修正する方も出来ることならやりたくはない。
壊す側と壊される側、両方を経験しているから、尚の事だ。11月の冷たい風が吹き抜ける。ミユキが少しぬるくなったコーヒーを一口啜った。
ミユピー「……乗ってた頃から、トップロードのこといつも話してくれてたし、厩舎のマークとか馬着とか、誰が見たってそうじゃない？だからさ、最初に、ルビーちゃんから連絡もらったとき、どこかで勝手に納得してた。ああ、やっぱりあの馬なんだな、って」
そう話すヒデアキの声は、ほんの少し寂しそうに聞こえた。
世代最後の砦として、1人と1頭が歩んできた道のり。ナリタトップロードという馬に対する、クニヒコの思い入れの深さ。好敵手として、後輩として、友人として、リュージもよく知っている。出来るならそっと見守ってやりたいが、それは、どうしても許されない夢だ。ならせめて、よく知る自分たちの手で壊す方がいい。
リュージ「早いとこ連れ戻して、一杯奢らせましょ」
ミユピー「騎乗馬も多めに回してもらわないとね」
リュージ「ほんまですよ」
現在のクニヒコと、若い頃のクニヒコ。原因はどちらかなのか、どちらもなのか、まだわからない。けれど、彼が何を思ってこの箱庭を作ったのか、それを知った上でこの特異点を修復しよう。リュージはそう思った。
翌朝、2005年11月13日、エリザベス女王杯当日。一行は京都競馬場の屋上に召喚サークルを敷き、カルデアからの補給を受け取っていた。
マシュ江『頼まれてた遮断礼装も入ってるわ、一応確認してね』
リュージ「へー薄い板金か、軽いしバレにくくてええなぁ」
ボンド「プボたちのはポンポンプボ！」
リュージ「お、ええやん、可愛い可愛い」
ウチダ「……あの、細江さん。もしかしてだけどこれ、大井で作った礼装では？」
マシュ江『えっ』
アキラ『それなんですが、矢作先生が以前ちょっと見せたことあったらしくて。そのときにパクっｺﾞﾎﾝｺﾞﾎﾝ、解析したんじゃないかって、坂井先輩が』
ウチダ「うーん、僕が作ったやつより痒い所に手が届く……」
リュージ「うちの略奪公がほんとすみません……」
ウチダ「ははは、技術の進歩に、誰が作ったかなんて些細なことだよ」
マシュ江『特許出願書類見かけたら処分しておきますね……』
ミユピー「それで、今日はどういうふうに動こうか」
リュージ「まあ手がかりもないし、場内をしらみ潰しに聖杯捜索するのが妥当やな。ナベちゃんと煙馬のデータは？」
マシュ江『もちろん登録済み、サーチ範囲も広げたわよ。全体の監視はアキラくんが、魔力検知とか索敵は私が担当するから』
ミユピー「当時京都にいた僕はともかく、福島にいるはずのわっくんと中央にまだ移ってない内田さんは、見られると何かとまずいからね。頼りにしてるよ、アキラくん」
アキラ『はい！』
屋上を出て、非常階段を降りていく一行。
マシュ江『階段出てすぐ9時の方向、敵性反応あり。あの馬型エネミーよ』
ナビゲート通り、曲がり角のひび割れから昨日と同じ黒い煙が溢れ出し、姿を変えていく。今日は全部で3頭、前回は後手を踏んだが今度は抜かりない。
リュージ「全員戦闘準備！昨日のリベンジや！」
〜戦闘パート〜
(開幕直後自陣固定デバフ【？？？？？？】触れるとHP減少)
(自陣固定バフ【アトラス院礼装：ブロッケン・マーク�供杠蚤�HP1500アップ＋ターン終了時にHP残比率が最も少ない味方単体のHPを500回復＋弱体無効1回)
フラッシュ「ふぅ……戦闘終了しました」
ボンド「ポンポンあるだけで全然違うプボ！走りやすいプボ！」
シゲピン「すごいわねこれ！」
ウチダ「いやぁ、すごいね。オリジナル版はただの干渉遮断だけだったんだよ？」
リュージ「ほんとあいつは……まあ助かったけども」
ウチダ「そういえば、福永くんは昨晩から何を？」
マシュ江『おかしいおかしい言いながら、一晩中演算繰り返してます』
リュージ「おかしい？」
マシュ江『この特異点、核も器もないのになんで在るんだ、って』
フラッシュ「核……聖杯ではないのですか？」
マシュ江『その聖杯から流れる魔力をまとめるためには、土台になるような何か……人でも物でも概念でもいいんだけど、核か器が必要になるの』
リュージ「なかったとしたら、ここまできちんと成立しない、影響も出ない。大黒柱なしで家立てるようなもんやな」
ウチダ「核か……それは、何であれ、価値が証明されていれば、なんでもいいのかな。例えば、概念とか」
マシュ江『ええ、そういう特異点の例もあります』
ウチダ「なら簡単だ、彼が使うのは一つしかない」
ミユピー「価値のある……一つ……」
ウチダ「2001年阪神大賞典。斤量59キロと8馬身差のおまけ付きで叩き出した、世界レコードだ」
リュージ「ナベちゃんの、トップロードへの復帰戦……」
アキラ『あの、渡辺先生は菊花賞も獲ってますよね？G�気諒�がレーティングも高いですし、そっちじゃダメなんですか』
ウチダ「ダメではないよ。ただちょっとだけ、今回の特異点ではこっちの方が都合がいい」
マシュ江『神秘は古ければ古いほど、それだけで力を持つの。菊花賞馬は毎年生まれ、名前を更新され続ける。それに対して世界レコードは、ちょっとやそっとじゃ破られない。その分神秘が増すから強度が段違いになる。古い木の方が、丈夫な柱になるでしょう？硬くて太いことはいいことよ』
リュージ・ミユピー「「最後」」
アキラ『は、はぁ……』
ウチダ「加えて同じ条件で走った馬がいればいるほど、難度が補強されていく。神秘とは、永く、得難く、手が届かないからこその価値だからね」
ユーイチ『さすがアトラシアの継嗣、ご明察です。あー、アラフィフ間近に徹夜は答えるわぁ……どっこいしょ』
ウチダ「いやいや、門外漢の錬金術師の当てずっぽうさ。福永くんこそ、僕より先に気づいてただろう」
ユーイチ『まあ、渡辺先輩とトップロードの時点で目星はつけてました。けど、確信したのはこっち飛んでからです』
リュージ「で、お前はずっと何やっとったんや」
ユーイチ『ああ。なんでこの特異点が、今になって表面に出てきたか気になってな。検証してた』
フラッシュ「表面化、ですか。我々に影響が及び始めた時期に問題があるのですね」
ユーイチ『うん。本来核を失った特異点は沈みつつ、もっと静かにひっそり消えるはずや。でもここはそうはならんかった』
リュージ「つまり、なんらかのトラブルがこの特異点に起こったっちゅうことやな」
リュウセイ『トラブルですか。核が損傷したか、もしくは核自体が機能しなくなったか……価値を、奪われた』
アキラ『……アスクビクターモアの菊花賞』
ミユピー「レコード、更新されちゃったもんね」
ユーイチ『核が消滅したとしたら、それしかない。で、その影響で浮上してきた……と言いたいとこやけど、まだ引っかかるところがある。ここの状態、ずんこから聞いたやろ』
リュージ「核がない、今にも崩壊寸前で存在し続けている、って」
ウチダ「穴の空いた割れ瓶に水を注ぎ続けているようなものかな」
ユーイチ『それどころか、ヒビも穴もどんどん大きくなって、形も保てず、底の部分だった破片に水ぶっかけとる状態や。リュウセイ』
リュウセイ『はい。みなさん、こちらをどうぞ』
ユーイチ『教えて福永先生リモート版、開講や』
アキラ『元々リモートですよねあれ……？』
リュウセイ『いいからいいから』
カルデアからの通信画面に、横棒グラフのホワイトボードが滑り込んでくる。ユーイチは指示棒を伸ばし、それをパシッと叩いた。
ユーイチ『トップロードが3分2秒5を叩き出したんは2001年、それをトーホウジャッカルが更新したのが2014年、コースレコード更新は去年。今回核になってるのは、この記録帯に蓄積された概念と魔力や。レコードとして機能したのは、長く見積もって21年分とちょっと。使うとして、なくなった時点で崩壊は急速に進むから、多少のラグを考慮しても、頑張っても一週間が限度。本来であれば、とっくの昔に消滅しとるはずや』
フラッシュ「それだけあれば十分なのでは？」
アキラ『聖杯の力でなんとかなるんじゃないですか？』
ユーイチ『いや、これだけ成長してるならもう、核なしに特異点を成立させるのは無理や。エネルギーがあってもそれを正しく運用するシステムが失われている状態で、9月の菊花賞から今まで、維持できる訳がない」
ミユピー「……考えたくはないけど、自分を特異点の核にしてる可能性は？できなくはないでしょう？」
ユーイチ「それは俺も考えました。でも、渡辺先輩の魔術回路だと聖杯からの魔力量に耐えきれんで、1日と保たずに死にます。リュージの話と記録映像確認しても、意思も自我もはっきりしてて、会話もできる。どっちか分霊体か意識体かとも思たけど、両方本物みたいやし。そもそもここ、ただでさえカッツカツなんやから、そんなん出してる余裕もない。なので十中八九ないですね』
ミユピー「そっか……よかった」
ユーイチ『ここさえわかれば、全部解決できる気がするんやけどなぁ。そっち、渡辺先輩見つかったか？』
リュウセイ『Bの若い方だけですね、普段僕らがレース当日にいるのと同じ所を行き来してます』
リュージ「動きなしか……先に聖杯探した方がええな」
マシュ江『わかった。福永くんたちも戻ってきたし、サーチをできる限り広げて、聖杯の魔力検知に当たるわ。その間、全体モニタリング以外サポートできないけどいい？』
リュージ「ボンドたち、いつもより周り気をつけてもらえるか？」
ボンド「任せるプボ」
リュージ「よし、フロア調べながら降りてくぞ」
(頷く一同)
ユーイチ『ん？これ俺もやることになってへん？』
リュウセイ『まあまあ、いつもは発生させる側なんですから。今日ぐらい、いいじゃないですか』
〜戦闘パート〜(エネミー3×1、6×2)
(開幕直後自陣固定デバフ【？？？？？？】触れるとHP減少)
(自陣固定バフ【アトラス院礼装：ブロッケン・マーク�供杠蚤�HP1500アップ＋ターン終了時にHP残比率が最も少ない味方単体のHPを500回復＋弱体無効1回)
ボンド「リュージ、来るプボ！」
リュージ「おっし行くぞ！」
〜戦闘パート〜 (エネミー3体×1、6対×3)
(開幕直後自陣固定デバフ【？？？？？？】触れるとHP減少)
(自陣固定バフ【アトラス院礼装：ブロッケン・マーク�供杠蚤�HP1500アップ＋ターン終了時にHP残比率が最も少ない味方単体のHPを500回復＋弱体無効1回)
シゲピン「来たわね！えっ後ろも！？」
フラッシュ「こちらは私たちが、ウチダさん！」
ウチダ「よし、任された」
〜戦闘パート〜 (エネミー6対×3)
(開幕直後自陣固定デバフ【？？？？？？】触れるとHP減少)
(自陣固定バフ【アトラス院礼装：ブロッケン・マーク�供杠蚤�HP1500アップ＋ターン終了時にHP残比率が最も少ない味方単体のHPを500回復＋弱体無効1回)
アキラ『そのまま行くと行き止まりです！』
ミユピー「前進して露払いしつつ、そのまま後ろを誘い込んで返り討ちにしましょう」
ウチダ「わかった。……ん？」
〜戦闘パート〜 (エネミー6体×3＋最終追加5体)
(開幕直後自陣固定デバフ【？？？？？？】触れるとHP減少)
(自陣固定バフ【アトラス院礼装：ブロッケン・マーク�供杠蚤�HP1500アップ＋ターン終了時にHP残比率が最も少ない味方単体のHPを500回復＋弱体無効1回)
アキラ『敵性反応消滅を確認、戦闘終了。お疲れ様です……』
リュージ「あー、疲れたキッツい……。敵の量と遭遇する回数増えてへん？」
ミユピー「増えてるねぇ。さっきのとか、礼装ないときに不意打ちで来られたら、ちょっと危なかった」
ウチダ「でもよかった。警戒が厳しいなら、その先に何かあるってことだからね」
リュージ「だと良いんですけどねぇ」
ユーイチ『待たせたなー、聖杯の場所わかったで。優勝レイと馬着が飾られてるウインドウや』
ウチダ「また、なんとも目立つところに……」
リュージ「人目も監視カメラあるし、今すぐ持ち出すのは厳しいなぁ。エリザベス女王杯のあと、表彰式準備のときにすり替えるか」
リュウセイ『替え玉はどうしましょう』
ウチダ「僕が用意しよう。礼装でお株を取られてしまったからね、いいところ見せないと」
ユーイチ『……』
リュージ「じゃあ、聖杯のとこ行ってみよう。突かれて嫌なんやったら、向こうから何かしら来てくれるはずや」
(頷く一行)
シゲピン「ねえ幸、昨日やってたみたいなのってできないの？」
ミユピー「探してはいるんだけどね。思った以上にあちこち落ちてて、昨日みたいに上手く手がかりにはできなさそうなんだ」
シゲピン「ふーん」
ミユピー(あれ？)
ふと後ろを振り返ると、ついさっき倒した煙馬の残り滓が動いていた。綿ほこりほどの大きさになって、後は溶けるだけのそれは、もぞもぞと廊下の行き止まりの隅へと這いずっていく。そして昨日と見つけたのと同じ、白菫色の欠片にくっつくと、次の瞬間には掻き消えていった。
ミユピー(魔力を捕食して、延命しようとしていた？……いや、違うな。あれはどちらかというと……)
リュージ「幸先輩ー？」
ミユピー「ごめん、今行く」
もう一度振り返ると、小さな魔力の欠片は跡形もなくなっていた。
僕たちのたったひとつが終わるまで、たったひとつが失くなるまで
そういう約束で、そういう結末で終わるはずだった
でも、僕はそれを破った
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に、何もあげられてないから
あげたいもの、まだまだあるんだ
両手に溢れるくらい、まだまだあげたいんだ
だから僕は、ひとつ、ふたつ、幾らでも手放そう
今日も聖杯に焚べる、大事なものをかき集めて焚べる
続けるために必要だから
燃料としては効率が悪くて、たくさん焚べなきゃいけないのが難点だけど
世界にとって『コレ』は宝物ではないので、仕方ない
約束を破っているのだから、自業自得だ
はらり、棄てた分だけ明日になる
はらり、燃した分だけ遠のいていく
渇いた仏花が、花弁を落とすように
喰い千切られた鳥の遺骸が、羽を撒き散らすように
はらり。はらり。はらり
はらり
せんせい、ごめんなさい
東さん、ごめんなさい
おとうさん、ごめんなさい
みんな、みんな、みんな、みんな
ごめんなさい
もらったものは全て焚べました
焚べた分だけ、広がっていきました
その枝葉の先で、ギヤマンの華が咲く
その根の奥で、鍍金が張り巡らされてゆく
ひとつ、ふたつ、たくさん、窓の外を埋め尽くす
華と根が互いに傷つけ軋む音は、聞こえないふりをした
こんなじゃ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に、何も返せないままだから
春を、秋を、灼を、暮を、倖を、杯を
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に、あの喝采と祝福を何度でも
君に、君に
君に。
……ごめんなさい、うそです
君じゃないです、僕のためです
僕が、覚えていてほしいのです、忘れないでほしいのです
僕があげられた、たった一つの破片を握りしめて
手のひらが傷だらけになっても、離さないでほしいのです
わがままなんて呼べるような可愛げはない、
あさましい、あさましい自己満足です
いくら満開になっても、いくら礎を深く刻んでも
不安は拭えない、当然です
だって、何をしたって
絶対に忘れられない確証は、ないのですから
だからたくさん時間がほしい
もっとたくさん、もっと遠くへ連れていくために
もっともっと、忘れられない僕になるために……
煙馬を払いながら、聖杯が置かれているウインドウへ向かう一同。
ユーイチ『なあリュージ、今からレース出れるか？』
リュージ「えー……俺とウチダさん怪しまれるから、あんま派手に動き回れんのやけど」
ユーイチ『特異点の詳しいデータが足らんねん。ゆらぎのせいで、こっちからじゃ上手いこと取れんものもあるし。認識阻害と、レース終わったらすぐ発動する忘却魔術は、こっちでかけてやるから』
マシュ江『あとね、パドックのモニタリングしてる坂井くんが、モース化した馬見ながら血涙流してるのよ……』
リュウセイ『あれはディープ産駒……あれは、アレハ……』
アキラ『坂井先輩！息してください！はい、ひっひっふー！』
リュージ「あー……それならまあ、仕方ないな」
マシュ江『今、朝送った礼装を通して術式送ったわ。多分これで大丈夫だと思う』
ボンド「じゃ、行ってくるプボ」
ミユピー「いってらっしゃーい」
〜戦闘パート〜
(サポはリュージ、ボンド固定)
(開幕直後に固定デバフ【？？？？？？】)
リュージ・ボンド「「一着(プボ)！」」
フラッシュ「お見事でした」
ユーイチ『んー……もうちょいほしい』
ウチダ「では僕たちも続くとしようか、フラッシュ」
フラッシュ「ええ」
〜戦闘パート〜
(サポはウチダ、フラッシュ固定)
(開幕直後に固定デバフ【？？？？？？】)
ウチダ「いやー、なんとか勝てたよ」
ユーイチ『お疲れ様です、おかげさまでデータはバッチリ揃った。じゃあ、ちょっとこれを元にまた調べてみるわ。その間は任せたで』
リュウセイ『はい、任されました！』
アキラ(復活してる……)
リュージ「よし、じゃあ改めて聖杯のとこ行こか」
ミユピー「……ごめん、聖杯の前に一カ所寄ってもいい？」
一同「？」
マシュ江『ここって幸くんが、渡辺くんの魔力片拾ったところよね』
ミユピー「確かめたいことがあって。ああ、やっぱり食われてる」
リュージ「食われてる？」
ミユピー「うん。僕とダイヤちゃんが最初に来たとき、ここに修復した痕跡があったって報告したと思うんだけど、ほら」
ウチダ「これは……すごいな」
ヒデアキが指差した壁を見ると、修復されているはずの壁に大きな穴が空いていた。物理的なものではない。壁そのものを虫が食い破ったような、大きい大きい魔力の流れが穿たれた穴、縁にはあの白菫色が光っている。
ミユピー「ここ以外にも、昨日と今朝検知できた場所は、同じことになってると思う」
リュウセイ『監視カメラの映像、ジャックしますね。……うわっ』
アキラ『あるだけ片っ端から……』
ウチダ「幸くん、どういうことかな」
ミユピー「さっき煙馬が、ナベちゃんの魔力片を取り込んでたのを見たんです。そのあと、本体が消えても、魔力片は綺麗さっぱりなくなってた。最期にどこかへ送ったんだと思う」
リュージ「普通に魔力供給してたんやない？」
ミユピー「特異点に発生した眷属なのに？」
リュージ「それもそうか……あ、特異点の維持に使ってたとか」
リュウセイ『残念ながら、あの量ではいくら集めても、1時間分の足しにもなりません。僕なら、魔力タンクそのものである渡辺先生を攫いますね』
ボンド「でも、クニヒコくんとリュージ、会ってたプボ」
フラッシュ「つまり、魔力そのものではなく、『渡辺先生のもの』という要素が重要なのでしょう」
ミユピー「多分ね」
アキラ『えーと、ということは……？』
マシュ江『典型的な感染呪術ね、ほら、藁人形に相手の髪とか爪とか体の一部を入れて、より深く相手と同一視させるでしょう？あれと同じ。魔力片なら、血液の数倍は強い因果関係が結べる』
リュージ「てことは、ナベちゃんとの間に、なんらかのパスを作るために……ん？」
アキラ『……どうして今さら、特異点の主との繋がりを作る必要があるんですか？』
ミユピー「そこなんだよ。僕らはずっと、ナベちゃんがこの特異点を作ったと思って調べてた。でも、実際は」
リュージ「ナベちゃんが作ったとしたら、噛み合わへんことが多すぎる。ここ作ったの、ほんまにナベちゃんか？」
シゲピン「……けど、この特異点ができて一番嬉しいのは、クニヒコでしょう。あの牡馬(おとこ)が生きてたおかげで、騎手だったときも、調教師になってからも、たくさんG�気鮠，辰燭海箸砲覆辰燭錙�
マシュ江『ええ、今トップロードが生きていて一番利を得ているのは、間違いなく渡辺くん。みんながレイシフトした後、沖先生と東さんに連絡をとってみたけど、特異点について隠しているような様子はなかったわ』
ボンド「じゃあ、やっぱりクニヒコくんプボ……？」
リュージ「状況証拠なら、誰かどう見てもナベちゃんが犯人や。でも、なんか、なんやろな……」
ユーイチ『あ゛ぁあ〜〜〜〜〜！！！！わかった！！！！』
リュージ「うっっっっるさ！なんやねん！」
ウチダ「どうしたの福永くん」
ユーイチ『幸先輩が感じた違和感の正体や！レース出てもらったときのデータ調べて、やっとわかった！そこ、仁川や！』
ボンド「京都じゃなくて阪神プボ？」
ミユピー「確かによく間違える人いるけど……無理がない？」
ウチダ「僕も関東だけど、さすがにコース走ったらわかると思うよ」
ユーイチ『普段やったらな。関係者やらファンやら、大勢の強い集合認知が働いとるから、阪神競馬場と京都競馬場を間違えさせることは面倒や』
リュージ「それなら、どうやって」
ユーイチ『……今、京都はどうなっとる？』
アキラ、リュウセイ『『……あ！』』
ウチダ「改修工事か！」
ユーイチ『せや。今は長期工事で、みんなの中にある淀の共通認識が揺らいで、曖昧になっとる。イメージが固定されてへん。ぐらついた土台の下に、仁川のテクスチャを忍ばせて、薄ーく貼り付ければ……』
マシュ江『写し絵をずらしているようなものね、道理で座標が安定しないわけだわ』
ミユピー「確かに言われてみれば、あのとき、服の下で何かがずれてるような感じだったなぁ」
ユーイチ『基礎ゆるゆる手抜き工事どころか、ほんまに工事中やったわけや』
リュージ「違法建築にも程があるわ！俺ら、ほんのちょっとしか違和感なかったぞ。……あ、もしかしてそれも、ナベちゃんがいるからか？」
ユーイチ『正解！初G�気�菊花賞、連覇と世界レコードの阪神大賞典。ああ、落馬もあったなぁ。理由は何でも、これだけ結びつきの強い同一人物が2人もおったら、弱いテクスチャでもがっちり補強して止められる。ましてやここは、俺らがいる世界から薄皮1枚下に潜った場所や、感覚も鈍る。肌に留まった蚊は認識できても、腹ん中に虫がいるかどうかなんてわからんわ。……くっそ、気づかんかった』
ウチダ「獅子身中の虫とは、正にこのことだね……」
マシュ江『煙馬が渡辺くんを起点に発生してたのは、聖杯の防衛本能みたいなものかしら。天幕の支柱を外されたら困るものね』
リュージ「それなら、最初に煙馬が出たときのナベちゃんの反応も説明がつく。自分が使役してるんとちゃうからな」
リュウセイ『そもそも特異点の主であるならば、自分をテクスチャを留める楔にする必要なんてありません。聖杯に願えばいいんですから』
アキラ『ということはやっぱり、この特異点を作ったのは渡辺先生じゃない？』
ミユピー「……そこら辺含めて、本人の口からきっちり聞かないとね」
アキラ『でも、どこを探しましょう？朝からずっとサーチしてはいますけど、全然引っかかりませんよ』
ウチダ「それなんだけど、一個試してほしいことがあるんだ。あの煙馬が出た場所マッピングして、その付近を生体反応無視して渡辺くんの魔力検知。何か引っかかる気がする」
アキラ『わかりました、やってみます』
〜数分後〜
アキラ『お待たせしました、解析結果が出ました！』
リュウセイ『いやー、内田さんすごいですね、ドンピシャです』
リュージ「どうやった！？」
リュウセイ『赤が煙馬と遭遇したところ、白が渡辺先生の魔力が検出できたところです』
モニターに京都競馬場の各階の地図が映し出され、順々に重なっていく。地下馬道よりさらに下、競馬場のバックヤードにいることが多い、リュージたちも行くことはないさらに奥。赤い点……煙馬たちに守られるように囲まれて、大きく強く光る場所があった。
ミユピー「これだけの魔力を使わずに、ずっと……パス繋ぐどころじゃないよ、これ」
アキラ『一際魔力が強く出てるのがここ、そしてピンポイントで生体反応をかけてみたら……』
ボンド「誰かいるプボ！」
ウチダ「木の葉を隠すなら森の中、強すぎる魔力の近くだと検知されないことがあるからね。位置は聖杯の真下、ボイラー室か」
リュージ「時間もあんまないな、行こう」
地下階に向かって非常階段を降りていく一同、外からは福島8Rの枠入りを伝える中継アナウンスが聞こえる。
ユーイチ『前方8メートル先、煙馬来てる！今までのものより反応が強い！』
ボンド「リュージ！」
リュージ「っ急いどんねん、退け！！」
ボンド「着いたプボ！」
ミユピー「だめだ、鍵がかかってる」
ユーイチ『爆破するか？』
リュージ「んなことしてみろ、即警備員来るわ！」
ウチダ「ちょっと待ってて。ああ、ここがこうで……これでいいかな」
ユーイチ『お、さすが。即席で鍵が出てきた』
リュージ「開いた！」
扉を開けた先には薄暗い中光る白菫色の山。そしてその麓には、沖厩舎のジャージとスーツの、2人のクニヒコがいた。
リュージ「……ナベちゃん」
クニヒコ「わっくん……ヒデアキ……みんな」
スーツ姿……行方不明になった方のクニヒコがリュージたちに向いているのに対し、若い方のクニヒコは意識が朧げなようで、何の反応も見せない。
あちらの本丸と踏んで乗り込んでみたものの、今までのように煙馬たちが襲ってくるわけでもない。どうするべきか、と思案していると、シゲピンが何度か鼻をひくつかせた。途端に耳を絞り、若い方のクニヒコに対して唸りだした。
ボンド「シゲピンちゃん？」
シゲピン「……アンタ、だれ？どうしてクニヒコの中にいるの？」
一同「「「！？」」」
シゲピン「クニヒコだけどクニヒコじゃない！ほんの少しだけど、違う牡馬(おとこ)が混じってる！！」
マシュ江『魔力反応がダブってるのがずっと気になってたのよ！シゲピンちゃんナイス！』
シゲピン「当たり前じゃない、私はクニヒコに選ばれたオンナよﾌﾌﾝ」
ウチダ「女の人の勘はすごいなぁ」
シゲピン「私よりその牡馬(おとこ)が大事なの……？どうなのクニヒコ……ｷﾞﾘｷﾞﾘｷﾞﾘｷﾞﾘ」
ボンド「シゲピンちゃん、今真剣なお話ししてるから落ち着くプボ」
リュージ「……ナベちゃんと混じれるくらい関係の深い馬なんて、1頭しかおらん」
フラッシュ「考えてみれば、今回の特異点の改変で最も利を得るのは渡辺先生だけでなく、『あなた』もでしたね。牡として父として、口惜しかったのでしょう、気持ちはわかります。もし生きていたのなら、競馬史に聳える長い長い系統樹として、名を残せたやもしれないのですから」
若いクニヒコ「……」
リュージ「お前……トップロード、なんか……？」
問いかけに引きずられるように、若いクニヒコから何かががずるりと這い出てきた。墨色の煙が溢れ出し、白菫色に目を爛々と光らせ、嘶きながら部屋を覆い尽くし馬の形を成していく。吐き捨てられた若いクニヒコの体は、シゲピンが咄嗟に受け止めた。
シゲピン「クニヒコ！」
ウチダ「大丈夫、気を失ってるだけだ」
リュージ「とにかくアレを抑えな、上にいるお客さんが危ない！戦闘開始！」
〜戦闘パート〜
(開幕直後自陣デバフ【？？？？？？】)
(開幕直後自陣固定デバフ【？？？？？？】触れるとHP減少)
(自陣デバフ解除【階層判明：仁川】)
(自陣固定バフ【アトラス院礼装：ブロッケン・マーク�供杠蚤�HP1500アップ＋ターン終了時にHP残比率が最も少ない味方単体のHPを500回復＋弱体無効1回)
(1ゲージ・ブレイクで終了)
ウチダ「霊核までは仕留められなかったか……」
アキラ『追尾振り切られました、すみません』
ユーイチ『いや、ここまで追い詰められとるんや、もう後を付けんでもええ』
ウチダ「こっちの渡辺くんは、僕が救護室へ連れて行こう。念のために忘却魔術もかけておくよ」
リュージ「お願いします」
ミユピー「………………で。詳しくお話ししようか、ナベちゃん」
クニヒコ「ﾋｯ」
他一同「ﾋｯ」
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