「本日付で、この学校はTS法の定めるところにより、国の管理下に置かれます」

朝のHRが始まった直後、担任に続いて入ってきたびしっとした
スーツ姿の男は教壇に立ち、はっきりとそう宣言した。
温和そうな顔立ちと口調はその台詞とひどくちぐはぐな印象を残した。
「現在、我が国は超がつくほどの少子化傾向にあり、
人口が減少に歯止めがかからず亡国の
危機に瀕して久しいのはご存知の通りです。
その対策として定められたTS法により、
この学校にシステムの適用が国により認められました。
来年2年生となるこの学年5クラスから何人か
出てもらい性転換していただきます。」

 いつからか日本は人口の減少に歯止めがかからなくなっていた。
環境汚染により25歳以上のほとんどの女性の生殖能力が奪われたためである。
出生率は急激に落ち込み、出生数が限りなく0に近い年が10年続いていた。
急激な人口減は経済の活力を根こそぎ奪い、社会不安を生みだし、
日本の国力を大きく落とした。
異常な少子化は学校現場にも影響をおよぼし、
この学校(男子校)も空き教室がいくつもできるほど生徒数が減少している。
労働力や社会保障の問題も限界に来ており短期間での人口の増加は急務であった。
そこで政府は汚染の影響を受けていない
若い男性を性転換させ子を生ませるのが効率的で確実と判断し
TS法案を強行可決させた。
TS法とは対象に選ばれた全国の高等学校で
17歳の男子生徒の中から性転換に適正のある者を選び女に性転換させ、
10代のうちから出産させ、劇的に出生率を上昇させるシステムである。
性転換された男子生徒は卒業までの2年間に最低一人は生まなければならない
人権や倫理などという言葉を口にできないほど切羽詰った末の苦肉の法律。
それがTS法なのだ。



「このクラスのTS適格者を発表します。」
「井川優児」
教室が異様な雰囲気に包まれ不気味な静寂。
「呼ばれた者!立ちなさい」
 言われるまま、俺は席を立つ。視線が集中する。
 教壇の前に立たされる。そこから見渡したクラスメイトは、
皆一様に安堵の表情を浮かべ、俺には憐れみの混じった視線が見て取れた。
もし俺が逆の立場だったらまったく同じことをしただろう。
「今後この井川優児はお国の為に身を挺して
この日本国を支える貴重な人的資源を作り出す母体となることになった。」
 スーツ姿の男が何か説明しているのも、俺の耳には届かなかった。
ただ、目の前の光景を見て、俺が女になって戻ってきたら
クラスの連中はどんな顔をするだろうか、と考えていた。

 校門の前には窓が鉄線で覆われた黒塗りのバスが止まっていた。
 他のクラスからも数人の男子が連れ込まれた。
その中の一人松田は不安げにあたりを
キョロキョロしきりに見回し、顔色はどんどん青くさせていた。
 バスに乗り込むときもしり込みをし、近くにいた
ごつい別のスーツの男に強制的に押し込まれた。



 2時間ほどかけて移動し、その間、松田は震えてばかりいた。
どこに連れて行かれるかわからない不安からだろう。
かくいう俺も不安を感じていたが、着いた先が国立の普通の総合病院だった。
車は裏手に回りこみ、入り口の前でピタリと止まる。
 病院の中もいたって普通だった。入ってすぐのところにある
エレベーターに乗るよう指示される。
全員が乗ったことを確認すると、扉が閉まる。
エレベータが動き出す。下に向かっていた。
表示にはB1Fとしかないのに、明らかにそれ以上の深さに潜っている。
また松田が震えていた。どこに連れて行かれるかわからない不安が再燃したようだ。
扉が開いて通された部屋には透明なカプセルが並んでいた。
その中には緑色の液体が入っており中に人が入っているようだった。
病院で患者が着るガウンのような診察服に着替えさせられた。
ガウンの下はTシャツだけ、下はパンツを穿いていなかった。
 通された部屋は診察室で、いろいろと検査をされた。
身長、体重、視力、聴力、レントゲン、血液検査といった基本的なことから
つま先から髪の毛、挙句にはペニスにいたるまで
ありとあらゆる箇所を検査をされた。
「君たちは健康状態に問題がないことが確認されTS処置適任者と認定された。
よって、TS法にのっとり性転換を執行する」
部屋が緊張につつまれる。
一体どうやって性転換するというんだろう。外科的手術なものなのか?
でもそれじゃ子供を産めるようになんてのは……。
「この薬を飲んで下さい。飲むとすぐ眠くなると思いますが、問題ありません。
そして次に目が覚めたときには、すべての“処置”が終わっているはずです」
 透明なピルケースと水の入ったコップが手渡される。
ケースを開けると、青色のカプセルが3錠入っていた。
痛いことされる思ったら、案外あっけない。
しかし、カプセルを取り出したところで、動けなくなった。
これを飲んだら男じゃなくなる。もう立ちションできない。
しかし、飲まないわけにはいかない。国の意向には逆らえない。

人口減少につれて国の荒廃が進み政界のカオスによって、
TS法とほぼ同時期に提出された治安維持法は可決、
国民の監視役となる治安維持警察が新たに設置された。
だからどこに逃げようとも必ず捕まる。
 
意を決して、3錠を一気に水で飲み込む。隣にいた
松田も俺の行動を見て覚悟を決めたようだった。
「ご苦労様です。では、ごゆっくりお休み下さい」
 まだ正午になったばかりだ。眠くなんかならない
と思っていたが、すぐにまぶたが重くなった。

 こうして、俺の男としての人生はたった17年で終わった。



 目を覚ますと、そこは見覚えのない場所だった。
部屋は白一色で統一され、病室みたいだ。
 ──病室?
 こんなところにいる理由を考えて、すべてを思い出した。
「そうか俺、TS法で……」
 スーツの男は目が覚めたらすべての処置は終わっていると言った。
でも髪の毛は伸びていない。しかし、
 ベッドから起き上がり、まず目に飛び込んできたのは胸だった。
着ていたTシャツが盛り上がっている。、起き上がると胸が下に引っ張られる感覚があった。
ベッドから降りてみる。股間に違和感。
ブラブラする物が無い。歩いても太腿に挟まったりぶつかったりのあの感触が無い。
「…………」
あたりを見回すと、ベッドの脇にあるテーブルの上に
手鏡を発見した。おそらく、これで確認しろということだろう。
そんなに鏡に映った俺は、俺のようで俺じゃなかった。
頬と唇が少しふっくらとしてぱっと見かわいい女の子になっている。
「これが、俺……あれ?」
 声質が高く鈴の音のようなか弱い声に変わっていた。
これから俺はこの顔、この声、この身体で、生きていくことになる。
最初に選ばれたときは「大したことない」と思っていたが、
性別が変わるということはそう簡単なものじゃないと痛感する。
今まで男として生きてきた俺が女として生きていかなければならないことが
どんなに自分や回りを変えてしまうのかこのときは気づかなかった。

 ふと、手鏡のあった机の上に紙が置いてあるのが目に付いた。
「井川 茜」
新しい俺の名だった。
俺には親がつけてくれた優児という名がある。
この俺が茜なんてフェミニンな名前にされるなんて…
その後訓練所と呼ばれる施設に移され女子として
生活するための教育を受ける。

訓練所に到着すると着ていた服を全部脱がされた。
そのとき初めて自分に降りかかった状況を肌で理解した。
俺も含めみんな胸が膨らんでいた。
どの膨らみも乳輪が男の倍大きく、肥大化した乳首を先端につけていた。
体つきも腰が細くくびれ、尻が丸くでかくなっており、大きく後ろに突き出ている。
身体全体が柔らかな曲線を描いたような体つきになっていて
毛深い男らしい筋ばった要素が無くなり、
いわゆるセクシーな身体つきになっていた。
もちろんセクシーさに個々の差があった。
太い奴もいれば細い奴もいて、胸がでかくなった奴もいれば前とあまり変わらない奴もいた。
しかし誰一人として例外が無かったのは
股間にチンチンがついていないことだった。



まず最初の講義としてブラジャーとパンティーが支給され着け方を教えられた。
パンティーの股間に張り付いたような、ぴっちりフィットした感触に、
もう自分にペニスはないことを実感させられた。
そしてブラジャーをつけたときには自分はもう女の子にされたんだという
観念に近い気持ちが芽生えた。

その後はさまざまな女の子として生きていくためのレクチャーを受けさせられた。
髪の結い方、メイクの仕方、服の着替え方、料理から細かいしぐさやコトバ遣い。
無駄毛の処理やさらにはお風呂での身体の洗い方や、
オシッコの仕方までも教えられ極めつけは
性教育の時間。
女の子の身体の仕組み、生理用品の使い方からセックスの仕方、
そして妊娠、出産、育児について。
どれも生々しい内容でところどころで俺は目をそむけた。

授業の中で俺たちの身体についての説明があった。
俺たちはあの薬を飲まされた後深い眠りにつき
病院の地下で見た緑の液体のカプセルに入れられていた。
その緑の液体が性転換の薬品だったのだ。
その緑の液体には俺たちの身体のすべての細胞の性染色体を
YからXに書き換える能力があった。
俺たちは手術とかホルモン剤なんていうものではなく根本から女に変えられたのだ。
そしてこうも付け加えられた。男から女に性転換できても逆は出来ない」と

そして3ヵ月後俺も含めみんな髪の毛が耳を覆い隠すほどに伸びた頃、
すべてのレクチャーが終わり外界に返される日が来た。
「これからはそれぞれが一女性としてお国の為に早急に健康な子を産むための
様々な義務が皆さんに課せられます。
今後卒業までに政府に指定された健康を保持している者とのセックスが義務付けられ
そして卒業までに最低一回の妊娠が義務付けられます。」
ブロイラーの鶏のような家畜同然の子供を産むためだけの器になってしまった自分。
これからどうなってしまうのだろう。
「皆さんだけではなく残された男子も双方守るべき法があります。」

TS法第3箇条
一、生徒は母体提供者の同意なく性行為をしてはならない。
 一、生徒は母体提供者の要望があれば可能である限りそれに応えなければならない。
 一、母体提供者はいかなる要望をも通すことができるが、健康な子を為すことを第一義としなければならない。

これを何度も唱和させられた後制服が配られた。
赤いリボンに白いブラウス、下は紺のスカート。女子用の制服だった。



ひさしぶりに学校に戻った。
原則授業はすべて一緒だが、体育は男女に分かれさせられ、
トイレも更衣室も女子用を使うよう厳命が下った。
それが俺らを女子として扱うことで、女子としての自覚を持たせようとする
プログラムの一環だということは薄々感づいていた。

 あの日から、俺とその周りの世界は一変した。

  悪夢のような日々に。



しゃがんでする女のションベン。ションベンで股間とおしりが濡れる感覚にいまだに慣れることが出来ない。
それも当然だろう。つい最近までおれ「井川 茜」は男だったんだから。
TS法。その執行の結果としておれは女にされた。
そうしておれは17年間慣れ親しんだ男の身体を失い。
そして、下腹部内に子供を作る機能が備えられ、男たちの欲望を注ぎ込まれるための器にされたのだ。

今のおれは大きな瞳と美しい黒髪を持った可憐な女の子になっていた。
上から87、59、89。自分で言うのも嫌になるほどかなり可愛くスタイルもいい。
こんな女が目の前にいたら、そして、それを自由にしていいといわれたら。
それだけで大抵の男なら理性を失い、自らの欲望を注ぎ込もうとするだろう。
おれは、それを実現してしまった。
問題は、今のおれが「男」ではなくなってしまったことだった。
おかげで、それまで色々と妄想の種にしてきた女の子の小便を間近に見ているにもかかわらず、
まったく興奮を覚えることはなかった。

これでも心は男のままだから自分が美少女になったのなら裸になれば自分が即オカズになるのではないか。
そんなことは無い。裸の美少女は自分自身。
自分に興奮しないし仮にしたとしても、股間にはもう扱くモノが無い。
理不尽な法から処置を施され、実際に自分の身体を見るまでの
わずかな間抱いたそんな希望めいたものは、絶望でもって報いられた。

肩まで伸びた髪がうっとうしい
ちょっと走ると跳ね上がる乳房も重くてジャマで肩こるし、動きにくい、
でかくて丸く後ろに突き出た尻が恥ずかしかった。
それに生理。あれが最悪。生理の間ずっと、下腹部にずんとくる痛み、
そして股間からの出血。股間に当てるナプキンであそこが蒸れるし痒くてうっとおしい。
変わり果てた自分の体。これから女としてこの体と一生付き合わなければならない。
いずれ男にこの体を捧げ、股間に肉棒を貫かれ、
精液を流し込まれる体を妊娠するまで抱えこまなければならない。

母体提供者は男子生徒とのセックスを義務付けられている。相手は選べるが
TS法の定めにより起算日から3ヶ月過ぎても誰ともセックスしない母体提供者は
強制的にクラスの男全員とセックスさせられる。
起算日とは最初の生理、つまり初潮があった日のことであり
俺は初潮をすでに3週間前に経験している。
また特定の男子とセックスして2ヶ月以内に妊娠が確認されない場合も同様に
全員と強制的にさせられるのである。

このままいけばクラス全員がこの身体を犯すことになる。
おれは、ひとりでそれに耐えなければならない。
そんな現実を前にすると、整った顔は瞬く間に曇り、
自分のきれいな女の体をつぶさに見ても、それは自分の絶望を増す材料にしかならなかった。

自分は男に抱かれて、男に愛嬌を振りまかなければならない可愛い女の子にされた。
それをトイレのたびに心に刻み付けられるのが何より嫌だった。
男は立って前のファスナーを開けて出すだけだが、女はそれが出来ない。
男だった俺にはしょんべんでいちいち、パンツを脱ぐのは面倒だし、
パンツを膝まで降ろしスカートをまくり上げ、尻を丸出しにしてしゃがむ格好がどこか屈辱的に感じた。
また、終わったあと男はチンコを数回振るだけだが、
女子はトイレットペーパーで、閉じた割れ目に残った雫を丁寧に拭かなければならない。
しかもおれの場合、排尿のたびにションベンが股間を伝わりおしりを尿のしずくで濡らしてしまう。
股間にトイレットペーパーをあて、自分の尻や女の部分を拭くたびに
自分はペニスを奪われもう一生、立ちションが出来ない身体にされたということを再認識させられる。
トイレのたびに女になった現実を刻み付けられるのだった。



沈んだ表情で手を洗い、トイレから出る。そこでハンカチを忘れたことに気づいた。
あわてるおれにさっと出されるハンカチ。驚いて振り向くと、そこに見知った顔がいた。
「ほら、まったく女になってもドジは変わんないんだから苦労するぜ」
そこにいたのはおれの小学生からの親友の山河 隆だった。学年は同じ。ついでにいうと同じクラス。
いままでそんな感じで同じような人生を歩んでいたのにこんなところで分かれてしまうとは思わなかった。

「サンキュー」

ついつい昔通りのしゃべり方で返すが、声が女の子の声なのでどうしても違った感じになる。
それでも、隆といるうちは男に戻ったような感じになった。
ハンカチで手を拭くと、早速クラスメートからいつもの「挨拶」が来る。


「俺とどう? よかったら今からでもいいぜ」
同じクラスの川元が後ろから抱きつき耳元でささやきかけてきた。
母体提供者は「お誘い」と呼ばれる性行為の誘いを受け、相手を受け入れる。
もちろん断ることもできるが起算日から3ヶ月以内にセックスをしなければそれも出来なくなる。
しかしいまだに女としての自覚のないおれにとって男からの「お誘い」に乗る気にはならない。
「どうせヤルことになるんだから、さっさと終わらせようぜ。俺ならそうするけどな」
セックスを気軽に誘う発言にうんざりする。男たちに犯される。
あのションベンを出して洗いもしない汚らしい棒を俺の股間に入れようというのだ。
最初はすごく痛くてつらいと聞く
さらに、そしてこの腹に誰かの子供を孕み、出産しなくてはならない。出産で死ぬこともあるのに、
その恐怖を想像すらしないことに苛立ちを覚える。

しかし,いずれ男とセックスをし、卒業までに妊娠しなければならない。

いまだに股間がスースーし頼りないスカートの感覚。朝起きてブラジャーをつけなければならない煩わしさ、
突き出した胸の重み。でかくて丸い尻、スカートから覗く白い太腿。
それらに注がれる男たちからの視線。隠しても女であることを主張する今の自分の体。

時々、自分がどうしても男としなきゃいけないなら誰とするかと自問自答してみるが、答えは出ない。
服を脱ぎ裸を晒して股を開き、女として男に犯される。
そんな恥ずかしくて屈辱的な光景が頭をよぎり、あわてて想像をかき消す。
そんな日々が数週間続いた。



トイレ、風呂、着替え、そして生理。
女の体を確認させられる日常行事と、数知れない「お誘い」が繰り返された。
かつてはよく間違って男子トイレに入ろうとして赤面しつつも、
自分の中の「男」が健在であるのにどこか安堵していた。
しかし最近は徐々に女の体に慣れてきて
風呂場で服を脱ぎ全裸になり鏡に映る自分の女の身体が不自然に感じなくなった。
そして、いつしか男性器の形が思い出しにくくなっていった。

「お誘い」を繰り返す男たちの視線の中に妙なものが混じり始めたのはこの頃だった。

「どうしたんだ。いきなり映画見に行こうなんて」
隆が驚いたように言う。
「この映画、面白いんだって。たまには映画館で見るのも面白いと思うぜ」
本当は、少しいたずらしてみたかったからだ。
女っけのない隆がこんな映画なんか見たらどんな顔するか。
今かかっているのは話題の恋愛映画だった。

上映

この体が女の子だからってけして精神まで女性になったわけではない。
この映画を選んだのは話題になるだけあってつい引き込まれたからだ。
おれの目に涙が浮かんでいるのも、
気がついたら女性側の心境で映画を見ていたのも、演出のせいだ。そうに違いない。
ふと隣を振り向くと、隆が真剣な面持ちでスクリーンを見つめていた。
その表情に心のどこかでじくりと来るものを感じた。

「意外と面白かったな、やっぱり迫力が違うんだろな」
映画館の中で知らず知らずにこみ上げた感情と頬の火照りを隠そうと、
必死に男らしさをだして話しかける。

「あのな、気持ちはわかるけど、もすこし自然に話してみたらどうだ、
俺はお前が無理してるように見えるぜ。
別におまえが女の子言葉で話したって構わないと思ってるんだ。こんなことになったしな」
ふと映画館で感じた疼きが蘇った。
夕焼けに映る隆の横顔を見て思った。

隆となら、後悔しないかもしれない。
隆とすれば当分他の男たちとセックスする必要が無くなる。
あの野暮ったい男たちの子供を生まなくて済む。




その日からこっち、おれの中で何かが変わった。
女の子言葉でしゃべることに抵抗がなくなったのだ。
自分のことをあたしという回数が増えた。
それでも、まだ男に抱かれたいと思うことはないが、
とりあえず自分の体に嫌悪感を抱くことはなくなった。
それと平行して、妙な視線を感じていることも多くなった。



「井川持って来たか」
職員室に呼び出された俺は担任に小さな四角いケースを渡した。
俺はうつむいてそそくさと出て行った。
TS法によって性転換された者は月に一回生理が訪れたことを報告し、
使用後のナプキンの提出を義務付けられている。
渡した白いケースにはさっきトイレで外したナプキンが入っている。
17歳の女子にとってはこれほど恥ずかしいことはない。
しかし法で定められている以上守らないわけにはいかない。

そしてHRのときだった
目を疑った。担任があのケースを教室に持ち込み、
クラスの男たちの目の前でケースを開け始めたのだ。
「皆さんにお知らせがあります。昨日このクラスの井川 茜さんに生理が訪れました。」
ついさっきまで俺の股間に貼り付いていて経血を吸い赤く染まったナプキンを広げ高く上に掲げた。

おおっ
男子たちが色めきだす。
「お前のかよあれ、すっげえ血ぃ出てんじゃん。」
「あの血どっから出したんだよ、教えてくれよ」
「ほんとに女なんだなお前。早くやらせてくれよ」
男供の心無い野次が飛ぶ。
もう直ぐ3ヶ月か経つ。それなのに誰ともセックスをしようとしない俺へのあてつけらしい。
「あと2週間ごろが果実のもぎ取り時だな井川」と担任が言った。
女子は生理開始から約2週間ごろ排卵が訪れるのだ。
その時期を狙えと男どもに促しているように思える。
俺はうつむき顔を赤らめ涙ぐんだ。

クラスが異様な雰囲気に包まれた。
ただ一人を除いて。
「みんなよせよ!井川がかわいそうだろ」
隆だった。
「そういうけどよ井川は義務をまだ果たしていないだろ」
「わすれたのか」
「?」
 一、生徒は母体提供者の同意なく性行為をしてはならない。
 一、生徒は母体提供者の要望があれば可能である限りそれに応えなければならない。
隆の発言に担任も含め
誰も文句は言えなかった。



 一、生徒は母体提供者の同意なく性行為をしてはならない。
 一、生徒は母体提供者の要望があれば可能である限りそれに応えなければならない。
 一、母体提供者はいかなる要望をも通すことができるが、健康な子を為すことを第一義としなければならない。

このうちの上2つの原則。これがある限りレイプされることはないと思う。
しかし、それがどこまで通用するかはわからない。
ついこないだも法が犯されて一人の母体提供者の女の子がレイプされたのだ。
自分もいつそうなるかわからない。
こんな恐怖感を抱いて生きていかなければならないのも女にされた者の苦痛の一つだった。

一つの決意が生まれた。
こんな男どもに抱かれるくらいなら、隆に抱かれる。
隆もこの学校の男子生徒。禁止されるいわれなどない。
隆の子供なら、産んでもいい。
今日の隆の行動でそう思うようになった。

2週間が過ぎた。
授業が終わると、学校唯一の女子トイレに駆け込んだ。
個室のドアを閉め、スカートをめくりショーツを降ろした。
ショーツに貼り付けたおりものシートを確認する。
「よし、おりもの出てる。」
あたしはウェットティッシュで手を丹念に拭いた後、股間に手を入れた。
そして膣内のおりものを中指ですくい取り、粘り具合や透明度を確認した。
また携帯に毎日記録している基礎体温もチェック。
それらをから判断して、あたしは自分の身体が排卵期に入ったと確信した。

よし、明日こっちから誘ちゃおう。女子から誘っちゃいけないなんて法はないし
そう決意を固めると、生理用ナプキンを入れるポーチからカプセルを出す。
支給された排卵誘発剤だ。特殊な排卵誘発剤で服用後24時間後に排卵させることができる。
排卵という言葉も自分が女にされたと実感させられる。
なぜなら自分の下腹部は精子ではなく卵子を作り出すということだからだ。

そして翌日
放課後誰もいない廊下を歩く隆のうしろ姿が見えた。
「あの、たか…」
隆に声をかけようとしたときだった。
唐突に後ろから何者かの手が伸びて、あたしを乱暴にトイレに引きずりこんだ。



「いけないなぁ、そんなことしちゃ」
その顔に見覚えがあった。同じクラスの鳶上という男。
どこか暗い雰囲気と、陰気そうな目をしていた。
その視線は、間違いなく今まで後ろをつきまとってきた視線と同じものだった。
「な、なによ。やめてよ!」
自分を見下ろす冷たい視線に恐怖を覚えながらも必死に虚勢を張る
「とぼけちゃこまるよ。隆とヤろうとしてたんだろ。一目でわかるよ」
自分の今しようとしたことを言い当てられ、
あたしは恥ずかしくなりつつも全身に冷たいものが走った。
「だからどうだっていうの。あなたにどうこう言われる筋合いはない……」
忘れたかい? TS法第3原則

──母体提供者はいかなる要望をも通すことができるが、健康な子を為すことを第一義としなければならない。

つまり、キミが誰とするかはキミの意思にゆだねられるけど、隆とだけはそれが許されない。
「どうして?」
「奴は親族に遺伝病の者がいる。」
「そ、そんな…」
たしかにそんな話を隆から聞かされたことを思い出した。
「・・・で、残念ながらキミの第一志望である隆は候補から除かれる。
そこで、僕がキミの処女をいただきに上がったというわけだよ」

「誰が・・・あんたなんか・・」
「いいのかい期限はもうないぜ」
「ゥ…」
TS法第41条母体提供者は起算日から3ヶ月以内に最初のセックスを遂行しなければならない。
「期限まで2週間ないんだぜ。それが過ぎたら全員と強制セックスだ。」
「・・・」
「だからいいだろ」
おもわず頷いてしまった。
「これで交渉成立。では、お言葉に甘えて」
鳶上がブラウスのリボンに手をかける。はらりとリボンが男子トイレの床に落ちる。
そのとき脳裏に隆の顔が浮かぶ。
「いやっ。やっぱり嫌っ!」
あたしは逃げだしたがトイレのドアに鍵がかかっている。



「このままだとクラス全員とセックスだぞ」
「うう、・・・」
「どの道俺に抱かれることになるんだ」
あたしはへたり込んだ。しかし何とかこの場を逃れようとあとずさる。しかし、
あとずされない。壁がある。
追いつめられたあたしは手を彼方此方にさまよわせてなにか捕まるものを捜す。
女の子としての本能的な行動。その動きは男としては滑稽であるが、そんなこと気にしてられない。

「さぁ、こっちにこいよ」
鳶上が更に詰め寄る。
手で襟元を押さえ「やめて!」叫ぶ。
すると、「うるせぇ!」平手で殴られ軽い身体が横に飛び床に倒れた。
倒れたあたしの肩をつかみ床にたたきつけ、あたしの身体を床に押し付けた。
抵抗しようにもまったく鳶上の力にかなわず動けない。
男との腕力の差を見せ付けられ、ここでも自分が女にされたことを刻み付けられる。
鳶上がブラウスに手を掛け、左右に引き裂く。ボタンが飛び散りあっさり制服が中央から割れた。
「次は下だ」
ブラウスを脱がされた後、鳶上がスカートの中に手を伸ばし、
次の瞬間にはショーツは引き抜かれていた。
現れたブラジャーの上から乳房を大きな手がまさぐる。
気持ちいいなどと感じるわけがない。あるのは嫌悪──と恐怖。
乱暴な手つきでブラジャーをはずされた。胸のふくらみが鳶上の目に晒された。
あたしは反射的に手で胸を隠す。
しかし、すぐ鳶上に手をどかされ今度はじかに触られる。
鳶上の体温を感じて嫌悪感が増す。
その後鳶上はあたしの上に身体を重ね、
あたしの胸の膨らみを口で吸い乳首を舌先で転がし体中を嘗め回した。
屈辱で涙があふれた。でもあたしは唇を噛み締め泣くのをこらえた。
でもすでに恐怖で足腰が立たなくなっていた。
鳶上はあたしの身体を起こし背後に回り、腰を上げて、子供におしっこをさせるような体勢に導く。
朦朧とする意識の中ではじめて女の子としておしっこをした日の羞恥が蘇る。
 指が無防備にさらされた割れ目をなぞりあげる。
あたしは股を閉じその侵攻をとどめようとするが、所詮は無駄な足掻きだった。
やすやすとこじ開けられ、手を差し込まれる。
「しっかり濡れてきたぜ? 感じてんだな」
 触れられ、あたしの中から熱い何かが分泌されていた。だがそれは感じているからじゃない。
本人の意思とは関係なしに“準備”を始める女の生理現象だ。
 くちゅ、くちゅ、くちゅ……  湿った音がだんだんと大きくなる。
「スカートじゃま。」
鳶上はスカートを引き抜こうとする。
これを奪われたら一糸纏わぬ女の身体を鳶上に晒すことになる。
「いやっ」
あたしはスカートを抑えた。
しかし、鳶上の2発目をくらい戦意喪失。
鳶上はあたしの手を後ろ手に自分のネクタイで縛った後ゆっくりスカートを脱がした。
ついにあたしのすべてを鳶上に晒してしまったのだ。
あたしは恥ずかしさの極みでついに泣き出した。



しかし我関せずとばかりにあたしの股を割り開く鳶上。
じっくりあたしのオンナを鑑賞した後股間の割れ目を指で開いた。
鳶上が顔を近づけた。
「いやッ!なに?やめて!!」
その直後男のときには感じたことがない感覚に朦朧となり身体に力が入らなくなった。
鳶上の舌があたしの割れ目の中にうごめきクリトリスを充血させる。

男子トイレでの長い時間が流れた。
「じゃぁそろそろ……挿入れるぜ?」
 パンツを下げ、下半身をさらけ出す鳶上。
ギンギンにはちきれんばかりの鳶上のモノが現れた。
久しぶりに見る男のペニス。
しかしそれはおぞましいグロテスクな物体にしか見えなかった。
「いやっ!やめて!それだけはいやっ!」
 床に寝転ばされ、両足を持ち上げられ、ひかがみをつかまれ股を開かされた。
両手は後ろ手で鳶上のネクタイに縛られていて抵抗できない。
ペニスから逃れようと必死に腰を揺すったが無駄な足掻きだった。
そしてペニスが割れ目にあてがわれた。
「いやぁぁぁーーーーーーーーーーッ!!」



女になってしまってからの人生は覚めない悪夢でも見ている心地だった。
何かの拍子で夢から覚めれば、いつも通りの生活に戻れる。
そんな儚い希望も持っていた。
そんな希望は今、この瞬間、消滅した。目の前にあるのはただ、現実。
そして、気が狂わんばかりの痛み。
ついにペニスを挿入されてしまった。
 ──痛い!
 激しい痛みで現実を思い知り、助けを呼ぶことよりも先に思い出したのは、隆の事。

ごめんね、隆。あたし…

でももうこんな痛みに耐えられない。早く楽になりたい。痛みが思考を狂わす。
「痛い! 痛い!!!」

「そうだ。お前処女だっけな。まだ全部挿入れてないってのにすげぇ締め付けだぜ。お前のそんなのを見てると──」
 背筋が凍るような冷酷な顔だった。相手を痛めつけることに快感を見つけるタイプの人間の笑み。
「痛い、抜いて、痛い、お願い」
 あたしの言葉を歯牙にもかけず、鳶上は最奥までペニスを押し入れた。
泣き叫ぶあたし。ペニスを貫かれあたしの奥で何かが破れた。
「病み付きになりそうだ。すぐに終わってはもったいねぇな」
 膣口寸前まで引き抜かれ、奥まで突く。
 膣口まで引き抜かれ、奥まで突く。
「あ゛ッ、やッ! あ゛ッ、やめてくださ…やめ…ああっ!」
 恥も外聞も捨てて涙ながらに懇願する。痛い。灼けるような痛みが股間に蓄積される。
快感なんてひとかけらも感じない。あたしの悲鳴を聞くと、鳶上は好きな音楽でも聴いているように愉悦に顔を歪めた。
今のあたしにできることといえば、早く終わってくれとただ祈るだけだ。
大きなモーションで、時にはゆっくりと、あたしの中を確かめるように、遊ぶように、なぶるように、グラインドする。
「あッ、あッ、あッ」
 一突きごとに出したくもない声が出た。嬌声でもなんでもなく、苦しみの呻き声。それを鳶上は感じているのと勘違いし、
 ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ……
 ピッチがあがる。痛みから身体の防衛のために多量に分泌された愛液が挿入と抽出をスムーズにさせる。
その生理現象もあたしのためじゃなく、レイプする鳶上の悦ばすためにやっているようにしか思えなかった。
鳶上の腰の動きにあわせ、あたしの乳房もプルプル上下に揺れていた。

「そろそろ出すぞ。しっかり受け止めて、俺のガキを産んでくれよ。」
 やっと終わる。もう何時間もこうやって犯されているように感じる。だが、
それももう終わる。鳶上が射精してくれれば終わってくれる。
膣内に出され鳶上の子供を妊娠させられるという不安やおぞましさより、むしろ安堵に似た気持ちがわきあがる。

「うう、ーーーーーーーッ!!!」
一際強く、膣の奥深くまでペニスが突き刺さり、そのまま熱いものがあたしの中に放出された。
ペニスがうねり、飛び出した精液があたし子宮を叩く。何度も何度も。

鳶上はようやく果てた。血を流しているあたしの膣からペニスが抜かれる。
同時に鳶上が流し込んだ精液があふれ出てきた。
鳶上が満足げな表情であたしを覗き込む。あたしは目線が合わせない。
どこか別の場所を見ようと顔を横に背ける。
しかしそこに見えたのはあたしの破れたブラウス、ショーツやブラジャーが散乱した男子トイレ。
自分がレイプされたと実感させられる光景。あたしは大粒の涙をこぼし嗚咽した。




ついに男にヤられてしまった…
もう、男ではない。あたしはあのいやらしい視線をした鳶上にオンナにされてしまった。
鳶上の下に組み伏されて、オンナの体に…無理やり処女を喪失させられたのだ。

それは自分には望んでた形ではなかった…

終わった後もずきずき痛む股間、そしてそこは鳶上の精液でぬるぬるしており、
その感触がおぞましい不安を掻き立てた。
鳶上の子供を妊娠するかもしれないという…
鳶上が出て行った後一人男子トイレに残されたあたしは
自分の股間をトイレットペーパーで拭きながら、さらにどっと目からとめどなく涙をこぼした。



その後のあたしは隆を避けるようになった。
ツラくて…
申し訳なくて…

隆もあたしに近づこうとしない。

鳶上があたしを手篭めにしたことを武勇伝のごとく触れ回っているのだ。
鳶上のあたしへの行為はTS法3原則違反の疑惑を問う声もあったが
ギリギリ合意と判定された。
一説には鳶上の父親が市会議員である影響とも噂された。

あたしはいたたまれなくなりいつしか学校にいけなくなり家に引きこもった。
しかし病気でもない母体提供者の不登校はTS法が許さない。
秘密警察の人があたしの家に来て学校に無理やり連れ出した。

悲しくも切ない日々が過ぎた。
そして2週間が過ぎ
あたしの不安は最高潮になりのしかかった。

生理が来ないのだ。

前に2、3日遅れることもあったが
1週間過ぎてもおなかの痛みもなく、割れ目からは出血もおりものもなかった。
担任はあたしの身体の異変を喜び、このことをクラスに発表した
生理と性行為のことを他人に知られる。女子にとってこれほど嫌な事は無いのに
これってあたしにとっては死ぬほど恥ずかしいことなのに、誰も気にかけない。辛かった。

生理が来ないのは不安だった。けど
生理が来たらあたしは隆以外の誰かとまたセックスをしなくてはならない。
生理がきても来なくてもあたしにとって地獄であることには変わらない。

あたしは不安と悲しみを抱え、ただ、ただ、孤独だった。



そして数週間がたったある日の午後、あたしは家に帰る途中だった。

「井川」
背後から聞き覚えのある声。
隆だった。
隆が近づいてくる。
あたしはどうしていいかわからなかった。

「…!どうしたの?その傷…」
隆は怪我をしていた。
隆はあたしの問いに答えず無言であたしを見つめる。

そして突然抱きしめた。

このあたしの身体を。

「ゴメン、井川、俺怖かったんだ。俺自身いろいろあるし井川を受け止める自信がなかったんだ。」

「でも、もう、いいんだ。」

一瞬目を瞑った後、隆は言った。

「好きだ、井川、お前が好きだ。」

あたしは涙があふれみっともないくらい嗚咽しそして声を出して泣いた。」

「ああぁぁぁあぁぁっぁn……」

隆の胸に顔を押し付け泣きに泣いた。


その夜あたしは隆と結ばれた。



翌日隆の姿は学校になかった。

あたしが学校に来る前に秘密警察が隆を連行していったのだ。

 一、母体提供者はいかなる要望をも通すことができるが、健康な子を為すことを第一義としなければならない。

TS法3箇条に違反した罪で逮捕されたのだ。
あたし自身の罪は母体保護優先という点から問われなかった。

あたしは呆然となりその場に立つこともできなくなり教室の床に崩れ落ちた。



気付いたときあたしはどこかの病院にいた。診察台の上だった。
それも妊婦用の診察台。
脚を診察台の両側に設置されている台にベルトで固定させあたしは足を広げさせられていた。

冷たい空気があたしの股間をなでている。
あたしははっとなる。
パンツを穿いていない。
あたしはここに運び込まれ、誰かにパンツを脱がされたらしく、
今あたしは下半身裸にされ、大股を開いているのだ。

「気がついたようだな。」
白衣を着た医者らしい初老の男性と女性の看護師が診察室に入ってきた。
男性があたしの開かされた股間の前に座り、あたしのスカートをめくりあげた。
「あっ」
下半身全体が冷たい空気に包まれた。
あたしの股間の茂みと割れ目は股間の前に鎮座している白衣を着た初老の男の目に晒されていた。
「いや!見ないで!やめて!」
あたしは首を振って訴えた。もう、男に辱めを受けるのはたくさんだった。
「おとなしくしなさい。今検査するから。」
あたしの肩を手で抑えつけ、耳元で看護師が冷たく言った。
あたしは何とか股を閉じようと足に力を入れた。

「おとなしくしろ、この非国民。」
初老の医者があたしをしかりつけるとゴム手袋をした後、
親指とひとさし指を割れ目に入れ、左右に開いた。

しばらくあたしのアソコを診察した後
初老の医師は咎めるような口調で言った。
「きれいな性器だな。こんな母体提供者の性器は見たこと無い。
お前母体提供者の癖にぜんぜんセックスしてないだろ。
その癖、遺伝子に問題がある不適格者とセックスしたらしいじゃないか。
それでもお国の為に尽くす気あるのか?この非国民が。」
初老の医師はあたしにそう罵った後、あたしの膣に指を差し込み子宮や膣の状態を調べた。
あたしは恥ずかしさと屈辱で涙が頬にこぼれはじめた。
長い冷たい時間が過ぎた。

涙も枯れ果て呆然となってるあたしに医者が宣告した。
「よかったな、妊娠5週目だ。お前は非国民だが、まあ結果良ければすべてよしか。」
といって下品に笑いながら診察室を出て行った。
絶望の宣告を受け、下半身裸で股を広げたまま病室に残されたあたし。頬に一筋の涙。

あたし…とうとう、妊娠してしまった。
でも隆の子ではない
鳶上の精子の一つがあたしのおなかの中の卵子にもぐりこみ
あたしは鳶上と結合されてしまった。
あの鳶上の子を妊娠してしまったのだ。
この世でもっとも許せない男の子供を身篭ったのだ。
あたしが隆と結ばれていた時もあの卑劣漢の分身の種があたしの子宮内で
あたしの体から栄養を吸い取りながら大きくなり続けていたのだ。


あたしは絶望のあまり自殺を謀った
が即座にあたしを監視していた秘密警察の人に止められた。

しかしあたしは生きるしかばねだった。



暗くてじめじめした部屋に一人座っているあたし。
あたしのおなかは大きく膨らんで遠目からでも妊婦とわかるくらい目立つようになっていた。
もともと大きかった乳房もはちきれんばかりにずっしりと重くたわわに膨らんでいた。
あたしの身体はあたしの意思には関わりなく勝手に鳶上の子供を生む準備を進める。
今はもう安定期に入ったので体調も安定しているが妊娠初期はつわりが酷く食べ物を見ただけで吐いてしまう日々が続いた。
あたしは犯された上にこのような目にあわされる女の体の不条理を感じた。

部屋の中央はガラスで仕切られ、マイクが備え付けられていた。
ガラス越しに座っているのは隆だった。

あまりにも絶望が深いあたしを学校側は見かね
母体に影響が及ばないように
あたしの希望をかなえてくれた。

隆に逢いたい。

10分間だけの面会を許された。
隆はあたしとの短い時間の間にあたしにこういったのだ。

「生きろ」

「生きてくれ。俺のためにも。そしてそのおなかの赤ちゃんを産んで欲しい。

おなかの子供には罪がない

命を産み出すこということは凄いことなんだ。
茜にとって鳶上の子供を産まされるのは理不尽で辛いことだろう。
でも今この汚染された日本で出産できるわずかなチャンスを得たんだ
そのおなかの子供を俺の子だと思って生んでくれ。」


隆はTS法違反以外にも法を破っていた。
鳶上に襲い掛かり、意識不明の重傷を負わせていた。
暴行傷害の罪も併科されていたのだ
あたしと結ばれたあの日の隆の怪我はそのときのものだった。

どうして…
どうして…こんな汚れたあたしなんかの為に…

ガラス越しの愛しい人の言葉を聴き、あたしは生きることにした。
そして、このおなかにいる子供を生むことを決心した。



4ヵ月後
病院

下腹部に激痛が襲う
あたしが泣き叫ぶ声が響く。
陣痛の痛みは想像をはるかに超えていた。
出産は命を賭けた女の戦いであるということをこのとき身をもって知った。
陣痛に苦しみ泣き叫び、苦痛に苦痛を重ねた12時間後、
難産の末にあたしは元気な男の子を産んだ。


両親の前であたしは自分の股間から出てきた赤ちゃんに授乳中。
あたしのおっぱいを必死で吸っているあたしの赤ちゃん。
今はこの子が愛しくて仕方が無い。
一時期はこの子が隆の子であったらどんなにいいかと思ったときもあった。
しかし今はこの子が憎い鳶上の子であろうが関係ない。
この子は精子は鳶上のものだが、あたしの卵子から育ったのだ。あたしの子でもあるのだ。
もうこの子の父親が誰かなんてどうでもいい。
今は母としてこの子を守るだけ。

女の子は大変である。

成長期に体が大きく変化し
生理や出産と肉体的に苦痛なことが多い。
そしてその苦痛が時には精神的にもつらくさせることがある。
でも生命を生み出せる神秘を下腹部に備えているのは女なのだ。
子を産み育て愛する権利を自動的に与えられるのも女
確かに子供を育てるのはかなり大変である。しかし愛すればこそ、それも楽しい。
あたしは自分を誇らしく女であることに喜びと輝きを感じていた。
おわり

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