医療ミス系のお話3
最終更新：
eroparolibrary 2012年12月02日(日) 21:48:26履歴
ここから後編に入ります。
� �270日目
あの日から4日が経った。そろそろ生理が始まる頃だ。
何度目かの生理で、あの酷かった不快感や気持ち悪さが多少薄らいだ。
だけどやはり、自由に活動するには辛いものがある。多分あと数日で経血が出始める。
飛んだりはねたりと、動き回るには辛い日々。早く始まって、そして、終わってくれと祈る時期。
あまり身体を動かしたくないから、出来る限りジッとしている。
そうすれば、この不快な鈴の音も響かないで済む……
なにをしても音のする状況が実は物凄くストレスになるのだと知った。
何か良い方法はないかと色々試して、鈴口からセロテープを差し込んで玉を止めてみた。
瞬間接着剤で止める方法も考えたけど、音がしないと気が付いて、あの下衆男が逆上するのが怖かった。
ただ。
やはりあの男は学校に来ていない……
「おい！佐藤！」
薄らぼけっとしていた教室で、後から声を掛けられた。
ろくに人の居ない昼休み。あまり動きたくないから、本を読んでいたのだけど。
後からやってきたのは嶋田だった。
クラスでも指折りの大柄な男だ。
……元々、あまり良い付き合いのある男じゃなかった
どっか薄ら笑いを浮かべて、私の隣にあった椅子に座った。
なにか企んでるのはすぐに分かった。それも、あまり良い企みじゃない。
そっと顔を近づけて小声で話を切り出すのだけど……
「お前、長田と5万でヤッたって本当か？」
深い溜息がこぼれた。
あの下衆男のやりそうな事だ。
舌先三寸で出任せを言ってるんだ。
あまりのダメ人間ッぷりに反吐が出そうだ。
「あのバカ男…… 見栄張ってるだけだ」
声音は女だけど口調は男。
知らない間に随分とメンタルが女側へ振れてしまっている。
だからこそ、努めて男っぽく振舞うようにしている。
そうしないと自分が何者だか忘れてしまうから。
10年経って男に戻る時、男のアイデンティティを失わないように頑張らないと。
だけど、ふとした仕草とか、咄嗟の振る舞いはほぼ女になっているらしい。
余計にドギマギとしてる部分があるのは自分でも分かっている。
そしてどうやら。そのギャップに男たちが萌えてるらしいのだけど……
「だろうな。そんな事出来るような根性ねーだろうさ」
「この前、印刷室でいきなり抱きつかれて頭にきて引っ叩いたんだ」
出来る限り男が話をするように、油断するとボロッと出てくる女っぽい部分が顔を見せないように。
細心の注意を払ってるつもりなんだけど、どうもそれも逆効果っぽいのにも気が付いていた。
「へぇ、やるじゃん。だけどそりゃ女の反応だな」
「自分でもそう思ってるけどさ。でも、咄嗟の時の反応がねぇ」
「女っぽくなってる？」
「あぁ、そうなんだ。で、頭にきて足踏んづけたら骨折したって文句言われた」
一瞬の静寂。ジッと私の目を見つめるている。
ハッハッハ！と、いきなり笑い出した嶋田。
そりゃ傑作だ！と豪快に笑っている。
男の時にはあまり良い印象を持たなかったけど。
だけど、どこか今は不思議な気持ちになっている。
スパッと竹を割ったような表裏の無い性格だ。
「だけどさぁ あの野郎が変な事言うんだよ」
「なんだって？」
「佐藤はもう俺のもんだ。左の乳首に鈴付けといたから、嘘だと思ったら振ってみろってよってさ」
一瞬の冷めた空気。
いや、凍てついた空気。
多分、顔に出た筈だ。
自分でも気がついている。
誤魔化さなくちゃ！
誤魔化さなくちゃ！
誤魔化さなくちゃ！
「お…… おい。 マジなのか？」
「……あ、悪い」
どっかのAAで見た『アチャー』の姿そのままな自分に気がつく。
「あんまりショックなんでリアクション取れなかった。馬鹿馬鹿しいにも程がある」
ふと顔を起こして教室を見回すと、碌に人が居なかった。
しかもこっちにはあまり関心を示していない。
ある意味チャンスだ。既成事実を作っておきたい……
「ちょっと耳を澄ましてみ」
そう、注意を喚起してから、なるべく目立たないように自分の胸を下から持ち上げて、上下に振ってみせる。
ユサユサと見事なまでに豪快に揺れるバストに、嶋田の目が釘付けになった。
「音したか？」
「聞こえなかった。つか、分からなかった」
「わからなかった？」
「目が釘付けってこういう事か」
うんうんと頷きながら嶋田が立ち上がった。
「音はどうでも良いよ。良いもん見せてもらった。ラッキー♪」
「おっ お前…… だましたろ？」
「ちゃうちゃう。マジだって。お詫びにあの野郎をもう一発ぶっ飛ばしてくるわ。じゃな」
ニコッと笑って手を振る。
学校の中で逢引するカップルの別れ際みたいなものだろうか。
教室を出て行く時に、嶋田がもう一度小さく手を振り返している。
その姿を見て、一瞬胸の中のどこかがキュッとなったのだけど……
それには気がつかなかった事にしよう。そうしよう。
自分でそう線を引いて考えない事にした。
そして、別のドアの向こうから一部始終を見ていた眼差しには気が付かなかった……
面倒な事になってきたな。この鈴を早くどうにかしなきゃ。
とりあえず生理が終わるまで待とうか。あまり動きたくないし。
そんな風に考えていたのだけど、事態は想像より悪い方向へ加速し始めていた。
�◆�273日目
嶋田から聞かれたのは始まりに過ぎなかったと気が付いたのは3日目だった。
おそらく、学年中の全ての男子生徒から同じ質問をされた。
あまりのショックに食事が喉を通らなかった。
もうベッドから起き上がる気力も無かった。
「調子が悪いときは寝てなさい。女には時々あるのよ」
母親が気を使ってくれて学校に電話してくれた。
なにかもう全てが嫌になって自分のベッドで寝ていた。
だけど、無情にも電話が鳴って、出なければ良いのについ反射的に電話を取ってしまった。
電話の相手は長田だった。
「お前とは話をしたくない。じゃな」
問答無用で電話を切った。
ふざけんな！と、そんな気持ちで携帯をベッドマットの下にしまった。
無性に腹が立ってきてもう一度携帯を取り出したとき、同じタイミングでメールが届いた。
未読１ [爆乳女子高生の生着替え動画]
携帯を持つ手が震えた。
恐る恐るメールの本文を見に行くと、添付ファイル2件と、そして、手短な文章が。
―― 10分後にYoutubeへ投稿するから 気に入ったら電話くれ
take1とタイトルを付けられた動画を見る。
……写っている。私が写っている。はっきりと！
―― ほら、きがえなよ
―― ダメだよそれじゃ
―― もっと笑顔で
―― だめだなぁ
―― これじゃ取って上げられないな
―― それ付けて帰んなよ
―― 俺はそれで良いから
―― しょうがないなぁ じゃぁtake2撮るよ
考えるより早くtake2を見に行く。
手の震えも心臓の鼓動も感じない。
嘘…… 嘘だ…… だけど……
―― はい、着替え
―― 長田君ありがとう
笑顔で写っている私がいる。
瞳孔が開きっぱなしになる。
ワナワナとあごが震えた。
―― ねぇ ホックとめて
背中のホックを止めさせるシーン。
全然覚えてない。全く覚えてない。
途中で見るのをやめて電話を掛けた。
10回以上コールしてから留守番電話になった。
「おまえって最低な奴だ…… 今から警察行って来る」
そう言って電話を切った。そそくさと起き上がって服を気がえた。
午前11時を回ったこの時間に制服でうろつくのは抵抗があった。
すっぴんの顔だけど気にしないで部屋を出ようとしたとき、再び電話が鳴った。
「おいおい、癇癪起こすなよ。生理中か？」
どこか抜けた声で電話を掛けてくる下衆男。
さて、どうしてやろうかと考えが渦巻く。
「言いたい事はそれだけか？」
「脅してるつもりか？」
「最後通告だよ。絶対許さない」
「おぉ 怖い怖い んじゃ遠慮なくアップするから」
「あぁ、好きにすれば良い。この会話も全部録音している。全部、所轄警察署と弁護士にぶちまけてくる」
「･････････おいおい、冗談だろ？」
「首を洗って待ってろ。お前だけは絶対に許さない」
再び問答無用で電話を切った。
なにかもう悲しいとか悔しいとかそんな感情はどこかへ消し飛んだ。
純粋に復讐してやるとしか頭が回っていない。
再びベルが鳴る。
相手を確認して電話に出る。
「うるせーなー！もうおせぇ！」
「お前も恥をかくんだぞ？」
「だからなんだ。いずれ男に戻るから関係ない。この姿を幾らばら撒かれても一時の辛抱だ」
「え？」
「だけどお前の人生は全部パーだ。逮捕されて裁判に掛けられると良いさ。人生棒に振って終わりだ」
「おい！ちょっとまてよ！」
「今更おせー！お前のやった事を全部暴露してやる。キモヲタの犯罪だぞ？マスコミが喜んで飛びつくさ」
流石に長田も言葉を失ったようだ。
調子に乗ってやりすぎた。どうやらそれを悟ったらしい。
ただ、許してやるとか、そんな感情は一切湧かない。
とにかくもう、絶対に許さないとしか、頭が回らない。
怒りの空気だけが漂う痛いほどの沈黙。
ややあって長田が口を開いた。
「……分かった。悪かった。俺が悪かった。好きにしてくれ。この動画も今消すから」
「今更謝ってもおせー！ 首荒って待ってろよ」
「あぁ、そうする。むしろ自主するから」
「はぁ？」
素っ頓狂な声が漏れる。
予想外の展開に一瞬うろたえる。
だけど、ここで引いたら負けだ。
畳み掛けろ！隙を見せるな！
自分の中の誰かが鼓舞してくれるようだ。
「自分から行くよ。それで良い」
「……じゃぁそうしよう。1時間後に警察署の前で待ち合わせだ」
手首に巻いた腕時計を確認しながら念を押した。
とどめの一撃を考え始めたのだけど……
「その前に、そのリング取ってやる」
「え？」
「警察に行ってお巡りのおっさんにジロジロ見られたくないだろ」
「そりゃ見られたくないけど……」
「それは材質がチタンだから専用工具でないと切れないし、焼き切るにしても径が小さすぎる」
「････････････」
「結局、俺しか取れない。だから取ってやる。俺ん家(ち)まで来てくれ」
「･････････本当だな？」
「嘘はつかない。本当だ。俺しか出来ない」
再び沈黙の時。
色々な事が凄い速度で頭の中を駆け巡っている。
最悪の状況も頭の片隅を掠めた。
「ちょっとまて、今パソコン立ち上げる」
「何するんだ？」
「タイマー掛けて警察にメールを送る。被害届けと捜索願だ」
「俺を信用しろよ」
「後から抱きついてくるような変態を信用できるか」
「……分かった。とりあえず道具用意して待ってる」
一方的に電話が切れた。
信用するべきか否かで逡巡して、やはり信用できないと思った。
あの下衆男が何をするか想像が付かない。
小一時間経って長田の実家の前に到着した時、工場は絶賛稼動中の状態だった。
大型機械の賑やかな音が響き渡り、国道を走るトラックの音が伴奏を添えている。
いつ来ても煩くて喧しくて面倒な場所だ。
見上げると3階にある自室の窓から長田が手招きしている。
1階2階が作業場になっているから、3階までの階段が恐ろしく長い。
ソロリソロリと上がって行くと、玄関のドアは開きっぱなしになっていた。
「入ったら閉めてくれ。鍵も掛けて」
部屋の奥から声がする。
言われるままにドアを閉め鍵を掛けた。
家族4人が暮らす筈の長田家だが、当人以外に家族の姿は無い。
「今日は誰も居ないんだよ。親も兄貴も機械の据付に出かけてる」
そうか。納品に行ったのか。
だから家に来いと呼んだんだな。
……なんか嫌な予感しかしない。
ガチャガチャと賑やかな音を立てる工具箱を出してきた長田が手招きしている。
自室に来いと言うのだろうか。余り行きたくは無いが、仕方なく付いて行った。
そして、一歩長田の私室へと入った瞬間、眩暈がした。
そうだそうだ。こいつの部屋はこうだった。今思い出した。
裸の女が両足広げて秘部をパックリと広げているポスターが壁一面に何枚も張ってある。
大小さまざまなエロゲーメーカーの販促品ポスターばかりだ。
寝床の上には知らないキャラの抱き枕。パソコンデスクにはおっぱい型のマウスパッド。
その並びには際どい衣装なフィギアが幾つも並んでいて、中には全裸もある。
壁の本棚には膨大な量のエロ本と薄い本と、そしてエロゲのパッケージが鎮座していた。
なにより……
今更気が付くのが自分でもどうかと思ったけど……
多分今まで気が付かなかったと言うより気にならなかったんだろうけど……
臭い…
臭いんだ…
何とも言えない悪臭。気持ち悪い悪臭。何かが腐ったような悪臭。
何が腐ったのかは考えなくてもすぐに分かる。嫌でも分かる。
最低だ……
思わず壁に寄りかかって溜息をついた。
「どうした？」
「お前の部屋、臭いわ。どうしようもなく臭い。窓を開けてくれ」
「臭い？何が？」
男って最低だ。女をおかずにオナニーしてるんだよ。
なんかもうこいつが、このダメ男が。最低の下衆男が。
息を荒くしながら、壁とかパソコンのモニターとか本とか見ながら、シゴイてる姿がリアルに想像できる。
当の本人は？マークを沢山頭の周りに浮かべながら窓を開けている。
「窓開けるとエアコンきかねーから暑いな」
「暑い方がマシだ」
「ふーん」
小さなテーブルに様々な工具を並べて椅子を用意した。
手招きしてここへ座れのポーズだ。
なんかあの椅子に座ったら、高い思いをして買ったサブリナパンツに白い液のカスがべったりと付くような錯覚を覚えた。
だけど、座らざるを得ないし、立ったままなのは自信がない。正直、今にも蹲りそうな程だ。
「窓開けっ放しだと外から見えるけど、いいか？」
「･････････そうか」
仕方ないって仕草をしたら、長田は慌てて窓を閉めた。
なんで慌てて閉めたのか理由は分からなかったけど……
「んじゃ外すから。上半身裸になってくれ」
「またお前に見せるとは。これ以上無いくらい屈辱的だ」
「キモイ系の俺で悪かったよ」
ちょっとふて腐ってるけど、職人の息子と言うのは道具を持つと顔つきが変わるもんだ。
真剣な目で工具を操作してリングを外し始める。
乳首の先をぐりぐりと動かされると、嫌でもジリジリと感触が伝わってくる。
恥ずかしいけど。こんな奴に見せたくも無いけど。でも、生理現象だ。
乳首が立ち始めた。もうとにかくそれが恥ずかしくて恥ずかしくて。
そして死ぬほど悔しいんだけど、されるがまま……
それより、ちょっと凛々しい位の真面目な顔をガン見している自分がおかしい。
真面目な顔をした時の男を見れば、ＯＫかＮＧかの線引きがしやすいと言った女友達を思い出した。
「よし。外れた」
「それ、よこせよ」
「なんで？」
「証拠品」
一瞬の間が開いて、しぶしぶと手渡されたリングと鈴。
がっくりうな垂れてボリボリと頭を掻く長田の姿を少しだけ痛々しいと感じた。
だけど、情けは無用だ。
「じゃぁ行こうか」
「どこへ？」
「警察行くんだよ。自首するんだろ？」
「そうだったな」
椅子から立ち上がって長田に背中を見せて、外していたブラを胸にしようともう一度手に取ったとき。
ドアの影にあって部屋へ入るときに気が付かなかった物が目に入った。信じられない物が目に入った。
持っていたブラを床にボトリと落として、一瞬、意識が遠くなる。
クラッとよろめいて必死に倒れないように頑張ったんだけど、張り詰めていた意識がブチッと切れたのを感じた。
まるで糸の切れた操り人形のように倒れ込みそうになったとき、すかさず後から長田が手を回して身体を支えてくれた。
こいつの寝床にだけは倒れ込みたくなかった。臭いだけで妊娠しそうな程に精液臭い寝床だ。
後から抱きかかえられて、嫌でもバストを持ち上げるようなアングルになったけど、あそこへ倒れ込むよりはマシだった。
ただ、その、視界へ飛び込んできたものが……
「お前、あれ、まさか」
「え？あ、アレ？」
自分と身体格好が大して変わらない姿をした大型ドール。
それも、高級ダッチワイフメーカーな会社の作っている球体関節模型。
まだ男だった頃に、こいつが集めていたカタログを自慢げに見せてたっけか。
身の丈が170cmに満たない女の胸は、立派に実ったＩカップくらいある。
大きさと良い形と良い、まるで自分の胸を見ているようだった。
ただ、その人形が着ている服が……
「お前に着てもらおうと思って一揃え用意したんだぜ。高かったけど高級品ばかりだ」
えっと…… なんだっけ、この手のコスチューム。
そうだ、ボンデージだ。レザー調な光沢のある素材で作られた、女の陰部と胸が丸出しになっている服。
しかも割れ目に食い込むようなＴバックのショーツが無茶苦茶にエロい空気だ。
これを着せる？俺に？嘘だろ？
「なぁ、どうせ俺は逮捕だよ。もう逃げられないんだから。後生だ。最後の頼みだ。一回だけ着てみてくれ」
頭の中の何かがブチッと音を立てて切れた。
後から抱えていた長田を突き飛ばし、ブラとブラウスを持って部屋を飛び出た。
とにかく逃げなくちゃ！ それしか無かった。
慌てて玄関まで行って、すばやくブラをしてブラウスに袖を通した。自分でも驚くほどすばやかった。
突っ掛けるようにして靴を履きドアノブを押したのだけど……
「開かないよ」
テレビのリモコンみたいな物を持った長田が立っていた。
「空き巣対策で電磁ロックになってるんだ。単なる締め込み錠じゃなくて……」
ピッ！
耳障りな電子音がすると、ドアの周りからガチッと金属同士のぶつかる音がする。
「ドア自体が電磁石で枠に張り付いて開かなくなってる。20t掛けても開かないようになってる」
ロックを掛けたリモコンを自分の部屋方向へポイッと投げて、そしてポケットから別の機械を取り出した。
どう見てもスタンガンだ。それも、刃先がやたらに長いタイプ。スイッチを押したらバチバチと火花が飛ぶ。
いつぞや、自衛用にと買ってもらったと自慢してたっけ。
「もう手荒な事はしたく無いんだよ。ただ、どうせ逮捕されるんだ。おれはそのまま刑務所行きだ」
気が付けば長田が半べそになっている。
「どうせそのまま童貞のままオッサンになんだよ。クラスの連中が女とイチャイチャしてるの見ながら」
とうとう本泣きモードに入った。
「おれはどうせ生の女にも触れられないし、手も握ってもらえないし話も出来ないキモ男だよ」
持ってたスタンガンまでポイッと放り投げて、そのまま腕を目頭に当てて泣いている。
まるで子供のように泣いている。悔しさに肩を震わせて泣いている。
「俺が何したって言うんだよ！そんなに嫌わなくても良いじゃないか！俺だってこんなに生まれたく無かったよ！」
あぁ、だめだ。全くダメだ。もう話にならない。小さな子供が駄々をこねてるようなものだ。
こいつの頭の中には自分を変えるとか自分が悪いとか言う発想が全く無い。
悪いのはいつも全部相手なんだろう。そうしないと自分が保て無いんだろう。
キモイとか臭いとか言う前に、だんだんと面倒臭くなって来た。
こんな最低の奴だったのか、こいつは……
気が付くと女視点で長田を見ている自分に気がついた。
「な？頼むよ。一回で良いから。後生だから。哀れんだ目で見て良いから。徹底的に蔑んで良いから」
床にペタリと座って土下座しはじめた。
つい発作的に足蹴にしてやりたくなった。
このまま踏みつけてやろうか……
「寝言は寝て言えバカヤロー！」
つい大声で怒鳴ってしまった。
周囲に声が漏れたかな？と一瞬考えて、冷静に考えればこの家の外はもっとうるさいのだと気が付く。
むしろ家の中のほうがよほど静かだ。相当防音が行き届いてるんだろう。
「着て見せてくれるまでドアは開けない！」
「じゃぁ警察が来てお前を逮捕されるまで待ってるよ」
「あぁ、そうすれば良い！むしろ、どうせ逮捕されるなら……」
ふと頭を上げた長田の目にゾクッとするような狂気があった。
ヤバイ！ヤバイ！ヤバイ！
こいつ！覚悟決めやがった！
「そうだよ、なんで気が付かなかったんだろう。どうせ逮捕されるんだ。男になってから逮捕されれば」
部屋の方に放り投げたスタンガンをもう一度構えて。
長田がジリジリと距離を詰めてきた。
「思い通りになら無いからって諦めちゃダメだ。思い通りになるように努力しなきゃ」
気持ち悪いくらいの真面目な顔だ。
さっき見せた凛々しい顔とは比較にならないくらい気持ち悪い顔。
背中に金属製のドアの感触を感じた。
これ以上下がれない所まできた。
「来るな！」
どれほど叫んでも、無駄な努力だった……
ヘビに睨まれたカエルの様に、全身が硬直し始めた。
狂気を含んだ眼差しに、身体中全ての細胞が悲鳴を上げているようだった。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
�� 274日目
どれほど泣いたかわからない。
泣き疲れて眠ってしまって、凄く生臭いにおいに気が付いて目を覚ました。
自分のベットに倒れ込むようにして、服を着たまま突っ伏して寝ていた。
お気に入りだったサブリナパンツにどす黒い模様が浮かび上がっている。
濃い柄のブラウスにも染みてしまっている。
あぁ……
やっちゃった……
洗って捨てなくちゃ……
そっと立ち上がってゆっくりと服を脱ぐ。
ブラウスのボタンを外して、サブリナパンツを脱いで。
そして……
艶かしいボンテージルックな姿の自分が、姿見の鏡に映っていた。
お尻の割れ目に食い込むＴバックショーツの紐の隙間から、真っ赤な経血が膝まで流れていた……
「待って！待って！待って！やめて！」
「どうせ通報するんだろ。どうせ警察来るんだろ。なら一緒だ」
突き出されたスタンガンが首元に押し付けられた。
喉を押されて息が出来ない。
「ヤ…… メテ……」
「どいつもこいつも！俺の事をバカにしやがって！」
次の瞬間、視界が全部青く眩く染まった。
一瞬で全ての感覚が無くなって、次の瞬間に全身が悲鳴を上げるほどの痛みが襲ってきた。
息を吸う事も吐く事も出来なくなって、全身の力が抜けて、そのまま前に倒れて床に崩れた。
厚めの防音カーペットがクッションになってくれたのはラッキーだったけど……
「どうせなら死んじまえ！そうだ！死んじまえ！死ね！死ね！死ね！」
首の骨が折れるほど後頭部に押し付けたスタンガンが充電をはじめている。
まるでカメラのストロボをチャージするような音だ。
あの音が聞こえなくなったら、俺、死ぬんだ……
全く身体が動かなくて、抵抗できなくて、音だけを聞いていた。
恐怖も怒りも憎しみも全部消し飛んだ。ただ、音だけを聞いていた。
甲高くなって可聴帯域を越えて聞こえなくなるまで……
「佐藤？さとう？おい！佐藤！本当に死んだのか？」
ガクガクと肩を揺さぶられて、少しからだの感覚が戻ってきた。
身体中が痺れてるような錯覚だ。皮膚の表面全部に静電気を感じてるような感じだ。
猛烈にみぞおちの辺りが痛くなり始めて、ガクガクと揺さぶられている間に、胃液を全部吐き出した。
「おい！本当かよ！マジかよ！おい！しっかりしろよ！」
手荒く担ぎ上げられて長田のベッドに放り込まれた。
あぁ、このまま丸裸に剥かれて姦られるんだ。
抵抗できないまま挿れられて、ファーストキスだけじゃなくてバージンもこいつに取られるんだ。
本当に最低だ……
薄らぼんやりしか見えない視界が滲んだ。
涙が溢れてるんだと気が付いた。
「ごめんよ！ごめんよ！俺が悪かった！ごめんよ！許してくれ！頼むから目を開けてくれ！」
ガクガクと全身が痙攣を始めて、もう一度胃液を吐き出した。
泣き声で介抱している長田の声がだんだんハッキリ聞こえるようになってきた。
関節とか筋肉の痛みが治まってきた。頭の真ん中辺りとか歯茎の痛みだけが残っていたけど……
なんとか自分の意思で身体が動くと気が付いたとき、考えるより前に悲鳴をあげながら壁際に転がって行った。
押さえつけようとしていた長田の手を振り払って。
「大丈夫か？痛かったか？」
「やめて！こないで！あっち行って！もうイヤァァァァァァァァ！！！！！！！！」
部屋の隅で蹲って自分の両肩を自分で抱いて、ガタガタと音を立てて震えながら長田を見上げていた。
右手にスタンガンを持ったまま、長田は呆然とこっちを見ていた。
「もうやめて 痛い事しないで なんでもするからヤメて……」
泣きじゃくってガタガタと震えながら。気が付くと、おしっこを全部漏らしていた。
半年以上の間に染み付いてしまった女側のマインドがそのまま現れた。
あの日。半ばトイレの中で正体が抜けて言われるがままにしていた事を、全部ハッキリと鮮明に思い出した。
口の効けない状態のまま右の乳房が潰れるほどに握り締められ、砂の入った袋で殴打された。
痕を残さずに痛みだけ残す拷問の仕方。長田のもっとも根暗な部分を垣間見た。
「そうか。身体に染み込んだ恐怖は早々簡単に抜けるものじゃないよな」
泣いたり笑ったり忙しい奴だ……
恐慌状態に陥りながらもそんな分析をしている自分がおかしい。
だけど、恐怖と言う感情は中々制御しきれるものじゃない。
ニヤリと笑って立っているその姿に、スタンガンでは無いスパークが頭の中を弾けていた。
「なんでもする？」
「するから…… するから…… だから痛くしないで」
「じゃぁ裸になってみろ」
首を振るより早く目で拒否したつもりだが、長田の手にあったスタンガンが再びバチバチと言い始めた。
途端に全身が震えて震えてどうしようもなくなって、どれほど頭の中で嫌だと叫んでも、勝手に服を脱ぎ始めた。
ガタガタと震えながら、僅かな間に一糸纏わぬ姿に……
あぁ……
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
長田がジリジリと迫ってくる。
それが怖くて目を閉じた。
床に蹲ったまま、目を閉じた。
ガサガサと服を脱ぐ音が聞こえる。
何でこんな事に。
あのまま警察へ行けばよかった。
こんな男を信用する方が間違いだった。
でも、もう遅い……
「これを穿いてみろ」
え？
顔を上げると、病的にニヤ付く長田がいた。
膝立ちになって、ろくに布の付いてないショーツを持っている。
「早く立って穿いてみろ」
姦られるよりはマシだ。
力尽くで姦られるよりは。
「それを穿いたら許してくれる？」
「さぁ、どうかな。早くしろ」
右手のスタンガンが再びバチバチと言い始めた。
仕方が無く、力なく、ヨロヨロと立ち上がって、そして長田の肩に手を置いて、そのショーツを穿いた。
お尻の割れ目に紐が食い込むのを感じた。一瞬だけゾクッとしたのだけど……
「次はこれだ」
ワンピース構造になったパンツ部分に足を通す。
一番きつい所が編み上げ構造になっている。
足を通したら、紐が肉に食い込むくらいきつく締められた。
腿を全部覆っても股部分が露出していて、そしてそのまま腰から両胸を覆って首の所で交差する。
背なの肩甲骨が全部見えるようなドレスのような作り。
各部の紐を引いて行って、首裏のフックに全部集まって、そして。
「この南京錠でロックすると、紐は外れないよ」
首裏でカチャリと音がした。
中指部分にループの付いた、二の腕半ばまで包むグローブをはめられて、長田が満足そうに眺めている。
「あぁ、やっぱおっぱいデカイ女だと似合うなぁ」
いきなり抱き寄せられて、丸見えになった胸に谷間に顔を埋められた。
なんだかもう興奮してるのか恐慌状態なのか分からない。
ただ、目だけはバチバチと音を立てるスタンガンだけを凝視していた……
手を伸ばした首裏の南京錠はどうやっても外れそうに無い。
自分の股座がどうしようもなく気持ち悪くて、丁寧にティッシュで拭いてから立ち上がった。
家の中には誰もいない。昨日の夜、自宅へ帰ってきたとき、母親の書置きがテーブルにあった。
父親が急な出張になったらしく、最終の飛行機に乗せる為に空港まで送ったそうだ。
遅くなるから空港で泊まって午後には空港へ帰ってくる父親を待っているらしい。
こんな姿を見せなくて良かった。泣きながら帰ってきたのだから。
きっと卒倒したかもしれない。ショックの余り寝込んだかもしれない。
風呂場へと歩いて行って、そして口に指を突っ込んだ。
どうしても吐き出したかった。あの拭い難い恐怖感と屈辱感と被征服感を。
この服を着せられて、そして「奉仕」させられた。
口の中にあの嫌な感覚が甦って、指を入れなくても吐き気を催してきた。
黄色い胃液が出なくなるまで吐き続けた。
嫌な臭いのするザーメンの味を思い出して、なおも吐き続けた。
スタンガンで脅されて、あの悪臭しかしない、いきり立った長田のペニスを咥えた時に、自分の中で何かが壊れた。
分厚いレザー製のこの服は、普通の鋏では切る事すら出来なかった。
裁縫用の裁ちばさみで時間を掛けてゆっくりと切って行って、全部脱ぐまでに1時間掛かった。
恐ろしいほどに丁寧に作られているのだけど、今は気持ち悪いだけ。
風呂場の中でバサバサと切り刻んだ。タラタラと経血を垂らしながら切り刻んだ。
猛烈に胃がムカムカとして、胃液の影響か食道が焼けて痛い。
だけど、水を飲もうとしてもお茶を飲もうとしても、口の中に長田のザーメンの味が甦ってくる。
どうにかして飲もうと色々探して最終的に飲み込めたのは、父親のウィスキーだった。
着ていた物を全部処分して、生理用品をサニタリーショーツに挟んで。
そして、グラスに一杯、ストレートでウィスキーを煽って、再び眠りに付いた。
嫌な夢だったと自分に言い聞かせて。
強引に眠りに付いた。
長田から携帯で呼ばれてるのすら気が付かずに……
�ぁ�275日目
何もしたく無い……
動けないほど重い生理。
精神的なストレスから来ている事は分かっていた。
やつれ切った真っ青な顔を見て、母親が病院へと連れてきた。
担当だった男性は異動でいなくなり、変わって担当になったのは女医さんだった。
「生理が重いのは個人差ですから仕方が無いですけど、ちょっと酷すぎますね」
アレコレと検査が始まり、脳の一部に血栓の障害があるかもしれないと診断が下された。
週末と言う事もあって土日の二日間、検査入院をかねて点滴を受けた。
何を食べても、何を飲んでも、全部あの味を思い出してしまう。
何も受け付けなくなっていた身体に染み込んでいくように、ブドウ糖を幾つもうたれた。
「ひかり…… 大丈夫？ 何かあったんでしょ」
見舞いに来てくれたクラスメートの女友達２人が心配そうに覗き込んでいる。
げっそりと頬のこけている顔を見られるのが恥ずかしかった。
「もしかして長田じゃない？原因は」
ボソボソと喋る友達がいきなり核心を突いた。
「ひかりが来ない間に学校の中で乱闘があってね。嶋田が長田を窓から投げ落としたの。３階から」
「うそ……」
「木の枝に引っかかって地面へ直接は落ちなかったんだけど、その後も嶋田がずっと殴り続けて」
思わずニヤリと笑みがこぼれた。
ザマーミロ！と心の中で喝采を叫んだ。
「その後どうなったの？」
「途中から佐野まで加わって、本当に酷い事になって、救急車を呼ばれたんだけどね」
「うん」
「その後で……
話の続きを聞こうとした時、カーテンの向こう側に人の気配を感じた。
こんな時の女の感覚は本当に鋭い。
自分でも気がつかないうちに出来る様になっていたのだけど……
「ちょっとごめんなさいね。佐藤さんはコチラでよろしいですか？」
「はい……」
女性の声がして、誰だろう？と思案してる間に、ビシッとスーツを決めた女性がカーテンを開けた。
「○○警察署の捜査一課から来ました。ちょっとお話を聞かせてくれる？」
「……はい」
友達が揃っている環境だったけど、女性の性被害担当部署だと言う事で構わずにアレコレ聞かれた。
どうやら、長田を徹底的に締め上げた嶋田と佐野が、洗いざらい全部吐かせたらしい。
全ての事件が一直線に繋がって、そして、所轄警察署が動き出したようだ。
救急車で病院へと担ぎ込まれた長田は最初、意識不明の重態だったらしい。
脊椎骨折とか頭蓋骨陥没骨折とか脳挫傷とか、そうとう長田は酷いようだ。
快復を待って補導されるそうだが、おそらくその前に立件されて逮捕の流れに向かうでしょう……との事。
傷害致死未遂の現行犯だった嶋田と佐野は、観察処分と言う事で自宅謹慎らしい。
「佐藤さん。申し訳ないんだけど」
証拠画像が必要とのことで、左乳首の写真を撮られた。
孔が塞がり掛けているのだけど、その傷口を見て友人たちが一様に怒り始める。
「ひかり！何で言ってくれないのよ」
「そうよ。相談してくれたって良いじゃない」
プンプンと怒りながら、友人の一人が傷口に薬を塗ってくれた。
「女の大事な部分になんて事するんだ。あのバカ男」
「本当にデリカシーが無い男って最低よね」
ぷりぷりと怒っている姿を見ながら、実は自分が大事にされているんだと気がついた。
「後日改めて裁判調書を取る事になるけど、今日はこれ位にしておくから。まずは早く良くなってね」
「有り難うございます」
「警察は常に被害者の側に立っているから、心配しないで恥ずかしがらないで、なんでも相談してください」
颯爽と立ち去っていく後姿を見送って、そして今度は友人たちの厳しい尋問が始まった。
あれこれと聞かれるのだけど、最終的に聞きたい事は一つだと分かっている。
「……色々嫌なことされたけど、でも、結局はヤられなかったよ。まだ未開通」
「そうなんだ。じゃぁ良かったね。まだ綺麗なままで」
「うん」
二人して顔を見合わせたのだけど、そこから先は男とは違うスケベモードな顔だった。
「あのね。嶋田ね。絶対ひかりに気があるよ」
「うん、間違いないよ。だって長田が自慢げにヤったのなんだのと言い始めたとき」
「もう凄い表情でさ。いきなり椅子を持ち上げて長田が飛んでく位に殴り始めて」
「ほら。長田って口先番長でしょ？出任せ番長。いつも上から目線だし。だから嶋田がぶち切れたのよ」
「ヤっても無いのに自慢するな！とか言い始めて」
「長田が慌てて携帯出して証拠画像が！とか言い出してね。嶋田がそれ見たらもう大爆発で」
「そのまま携帯奪い取ってガンガン踏みつけて粉砕してさ」
「長田の襟をグッと掴んで持ち上げて、もう大変だった。鼻血とか飛び散って」
「いざとなると長田って結局何も出来ないのよ。みっともないくらい。殴られっぱなし」
「５分くらい殴り続けて、挙句に窓からポイッって。本当にゴミでも捨てるみたいにポイッて」
半ば興奮して喋り続ける女友達二人。
同じ部屋に入院中のおばちゃんやらおねーさんまで話を聞き始めた。
「そのまま教室飛び出して行ってさ。なんか傘立てとかゴミ箱とかで殴り続けて」
「校庭の辺りで長田が勘弁してくださいとか何とかって言ってたんだけど、嶋田が収まらなくて」
「そのうち佐野がどっかから鉄パイプみたいなの持ってきてさ」
「顔とかもう何がなんだか分からない位だったよ」
「それでさ、嶋田が言うのよ『てめぇ！何やったか洗いざらい言いやがれ！』って」
興奮しながら一気に話が進んで、しばらくはウンウンと頷きながら話を聞くだけだった。
「だけどさぁ 長田も恥ずかしくないのかなぁ」
唐突にそう言った友人の言葉が理解できなかった。
恥ずかしがる要素が思い浮かばない。
「なんで？」
かなり素直にそんな言葉が口を突いて出た。
本当に意味がわからない。
「だってさ。ちょっと調べれば出任せって分かるじゃない。嘘ついてるってばれるでしょ」
「で、しかも、悪いのは全部お前で自分は何も悪くないって言い切るタイプでしょ？」
「厚かましいとか図々しいとか、そんなもんじゃ無いよね、あれは」
「自分の痛さは自分が一番分からないのよね。結局」
結構言いたい事を言うもんだなぁ……
口さがない友人のエンドレストークを聞きながら、少しずつ心の中にあった滓の様な感情が消えていった。
他愛も無い雑談だけど、その中にあるもので随分と癒されるのだと気が付いた。
クラスの女たちが教室の中で輪になったり、或いは少人数で顔を突き合わせたりしながら。
延々とおしゃべりする理由をちょっとだけ理解した。
なにより初めて、こんなエンドレストークなおしゃべりを楽しいと感じていた。
その日の夜。
検査結果を持って担当の女医さんがやってきた。
「佐藤さん。ちょっと良いですか？」
ベッドから起き上がって話を聞く体制になった。
女医さんは封筒の中から何枚もの検査結果が出ている資料を取り出した。
書き込まれた数字を一つ一つ丁寧に説明しながら、私の反応を見ていた。
「でね、結論から言うと。各種ホルモンの分泌異常です。ただ、これは治療出来ません」
別の資料が出てきた。
そもそも人間は誰だって各種のホルモンを脳が分泌しているそうだ。
私の場合は遺伝子が書き換えられた女の部分と、僅かに残るオリジナル遺伝子な男の部分が共存している。
だから、両方に対応しようとして脳が頑張っているらしい。
通常の10倍以上の女性ホルモンが分泌されているので、どんどんバストが大きくなったようだ。
ただ、現状ではそれも落ち着いてきたらしく、これからはあまり体の変化が無いと予想しているとの事。
多分バストはこれ以上大きくならない筈。生理が重いのは、異常ともいえる女性ホルモンの分泌量によるもの。
その他、内蔵類には異常が無さそうだけど、骨格的な部分、女性的な骨盤に変化して行く過程で成長痛のような反応が出る可能性を指摘された。
「とにかく言える事は、バランスよく栄養を取って、そして良く寝ることです。あと……」
何種類か薬を出したのだけど、同時に言われたショッキングな一言が胸に突き刺さった。
「服用すると身体のだるさや生理痛などの諸症状を改善できますけど、終りきってない女性化が一気に進みます」
「一気に？」
「そうです。おそらく排卵期が終ってから一気に様々な部分がガクッと変わるはずです」
「例えば、どんな部分ですが？」
「そうですね。私もあなたの身体を隅々まで把握してる訳じゃないのではっきりした事は言えませんが」
言葉を濁しているな……
そんな部分が嫌と言うほど伝わってくる。
「例えば、爪とか髪とか、些細だけど男女間で大きく差が付きやすい部分に影響が出るはずですし、あとは」
「あとは？」
「肌とか或いは、骨格や基礎筋量的な部分ですね」
「そうですか」
「で、最終的には……」
書類を封筒に納めながら女医さんが言葉を選んでいる。
どんな言葉が出るんだろう。息を殺して待っていると……
「再び遺伝子レベルで肉体を再構成したとき。要するに、男性に戻る時、元に戻りきれない可能性があります」
モトニモドリキレナ……イ？
「感覚的な部分ですが、神経密度的に女性のほうが濃い部分が有るんですよ。要するに、色んな所が敏感のままって事です」
「････････････････････」
「あと、男女間で大きく差が出る骨盤回りとかね。広がったままかもしれません」
書類を綺麗に揃えてベッドサイドの引き出しへと収め、女医さんが立ち上がった。
ややラフに羽織った白衣と首から提げた聴診器が凛々しくもあり美しくもあった。
素敵な女性の理想像とも言うべき姿。
「まぁ、余り深刻に考えないで、まずは体力回復させましょう」
ニコッと笑って部屋を出て行くのだけど、妙な部分で変な胸騒ぎを覚えて、何となく寝付けなかった。
先々を思うと、気分的にまた重くなり始めていた。
自分がどうなってしまうのか。
再生カプセルから出てきた最初の頃の、あの漠然とした不安に押しつぶされそうな日々を思い出した。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
�ァ�277日目
何事も無かったように月曜日が来た。
全てを知る事になった両親は酷くやつれていたが、自分自身は案外ケロッとしている。
なんと言うか。まだ男だった頃に年がら年中嫌がらせをされていた頃に鍛えられたのかもしれない。
負け犬だなとも思ったのだけど、だけど……
自分自身が努めて明るく振舞わないと、両親はもっと落ち込むだろう。
心労から身体を壊しかねない。これ以上迷惑を掛けたくは無い。
それに、友達の励ましとかエンドレストークが思った以上に元気にしてくれる。
学校に行ってる方が楽しいから全然平気だと強がって、そして元気良く家を出て行く。
これしかない。そう思っていた。
そして。
「……よう」
家を出てしばらく行った先で私を待っていたのは嶋田だった。
乱暴な口調で私服だったけど、すぐに分かった。
「……おはよう」
はにかんで頬を赤らめている自分が可笑しい。
なぜかまっすぐに嶋田を見られない。ちょっとモジモジしつつ上目遣いにしていた。
「私のことで…… ごめん」
「あ、いや、あの、うーん」
「謹慎中なんじゃないの？」
「そうだけど、まぁ、いいんじゃね？学校まで送るわ。アブねーから」
コクッと頷いて歩き始める。カバンを自分の前にして、両手でぶら下げるようにして。
最初はスカートがなびく位の速度だったけど、だんだんと遅くなっていく。
「あのクソ野郎。アチコチに言いふらしたらしくて……
どこか遠くを見ながら話し続けている嶋田を見上げていた。
前はそれほど思わなかったけど、自分より結構背が高い。
もしかして縮んでるんじゃ？と思うほどだけど……
「話聞いてる？」
「え？ あ…… もちろん！」
「んなら良いけど。そんな訳で気を付けろよ。変なのが狙ってんぜ」
ごめん。話全然聞いてなかった。横顔に見とれてた。こんなに良い男だったんだ。気がつかなかった。
クラスの女たちから人気の筈だよ。だって今わたしがキュンキュンしてるもの！
校門近くまで送ってくれた嶋田に手を振って学校へ入る。
彼は謹慎中と言う建前なので学校の近くには近づかなかった。
朝からラッキーだな〜♪
上機嫌で歩いていると、見舞いに来てくれた友人たちが駆けて来た。
「おはよー！ひかり！朝からお熱い事！」
「コクられた？ねぇ！ハッキリ言いなさいよ！」
ヒューヒューと囃し立てられて赤くなるんだけど、まぁ、まんざらじゃないな。
恥ずかしいからヤメテ欲しいんだけど、あれこれ言われるのは、まぁ、悪くない。
職員室へ呼び出され、アレコレと質問されたのだけど、正直な所を全部答えるのはちょっと恥ずかしい。
だって、あんな衣装着せられたとか、どんな衣装だったとか、根掘り葉掘り聞かれるのは困る。
まぁ、とりあえず肝心な部分はぼかして答えて、教師達の判断に任せる事にした。
あとからみんなが居る前でアレコレ言われるのもいやだったし。
この日一日はジェットコースターのように過ぎて行き、下校の段になってどこからとも無く佐野が現れた。
「家まで送るわ」
「え？」
「いや、まぁ、なんだ。アレ見ちゃうとな」
「アレって？」
無防備に聞き返したのだけど、佐野はどこかちょっと困ったように周囲を確かめた。
かなりショッキングな映像だからと、携帯の画面に手をかざして、そっと見せてくれた。
トイレの中で上半身裸になって、そして、左の乳首に鈴をぶら下げるわたしの写真。
さすがにあの衣装を着て、長田の前で膝まづいて奉仕させられている写真は無かったが……
「これ、どうしたの？」
「長田の野郎が自慢げに送ってきたんだよ」
「……ほんとに？」
「うん」
流石にこの時は頭に来た。外にもれ出ているとは思わなかった。
だけど、確かにこれは……
「これ、誰かに転送した？」
「するわけねぇって。第一、やったら嶋田に殺される」
「そう……」
少しホッとした。
だけど、その後で佐野の口から出てきた言葉が、心臓を止めてしまうほどの威力だった。
「ただ、インターネットの掲示板に貼ったとか何とか言ってたぜ」
「……そんなバカな」
「神扱いされて最高に気持ちよかったとか何とかって」
「････････････････」
言葉が出てこなかった。もう本当に絶句していた。
「嶋田がそれを聞いてあちこち調べたらこれが出てきて、で、次の日に長田を捕まえて聞いたんだよ」
「じゃぁ他にも出回ってるの？」
「俺は知らない。けど、長田が例によって良い調子でペラペラやりやがって、で、嶋田がぶち切れたって訳さ」
下駄箱へ促され外履きに履き代えて校舎を出た。
なんか正門側で人だかりがしていて、誰かが何かをやっている。
なんだろう？と足を向けようとしたのだけど、その人だかりの中から前田が出てきてこちらへやって来た。
「おぃ！佐藤！ こっちから出んなや！ スゲーぜ」
「どうしたの？」
「なんかキメーおっさんとかがカメラ持って結集してんのや。目当てはお前やろ」
佐野がセーラー服の袖をぐいと引っ張って物陰へと隠れた。
通りの側からおびただしい量のレンズがこっちを向いていた。
―― おう！邪魔だ！クソガキ！どけや！
居並ぶキモい連中の誰かが罵声を飛ばしてきた。
その声にブチッときたのか、前田が一目散に走って行って、そのまま飛び蹴りモードに入った。
「おぃ！ 喧嘩や！ 喧嘩！ 男集合！」
前田が声をあげると、アチコチから男子生徒が飛び出して行って、校門前で大乱闘になってしまった。
ちょっと唖然としながら眺める先で、男子高校生が一方的にキモヲタを蹴散らしている。
そして、チャライ印象しかなかった前田だけど、実はかなり真面目な男なんだと気が付く。
ただ、とにかく面倒な事になったと、実際それしか印象が沸かなかった。
�Α�287日目
学校の周囲に始まり、登下校中の街中から、はては自宅の周辺まで。
四六時中誰かが監視してるように見られている日々。
自宅から一歩も外へ出られない窮屈さに辟易としていた。
ただ、その中でも良いことが一つだけあって……
♪ピンポーン
「はーい」
朝8時半。お母さんが玄関のドアを開けると男子高校生三人組が立っている。
「おはようございます」
「ピンカラ兄弟です」
「なんでやねん！」
とりあえず自宅謹慎が解けた嶋田を中心に、佐野と前田が自宅へとやってきていた。
金属バットやら鉄パイプやら、とにかく物騒なものを手にして一緒に学校へ通っている。
監察処分中な筈なんだけど、そんなの持って歩いてて平気なのかな？と妙な心配をする母親が可笑しい。
また、それだけでなく途中からわざわざ遠回りしてまで……
「おはよう！ひかり！」
「あ、おはよう」
何人かの女友達が合流してくる。
気が付けば7人8人と人が増えていき、気が付くと20人近い団体で学校へと歩いていた。
「おい、アレ見ろよ」
「あー 今朝もぎょーさん居(お)るなぁ」
「一発殴ってくるわ」
突然佐野が走り出した。途中の歩道橋で、上からレンズを向けているおじさんが居た。
高校生と親父の足では速度が違いすぎる。難なく補足され、手痛い洗礼を受けている。
そんな事が繰り返されて、10日目の朝。
目に見えてパパラッチャーの数が減っていた。
「お前らあんまりやりすぎるなよ」
教師もあまり追及はして居ない。
学校に電話が掛かってきても、学校側は登下校時の件は把握して無いので警察へ行ってくれと取り合わない。
当の警察は根掘り葉掘り追及してきて、事件性的な部分の前に、なんでそうなったのかを追求される。
もうちょっとしたら落ち着くかな？
そんな風に期待しつつ、賑やかな登下校を楽しんでいた。
しかし……
授業の合間の休み時間。
トイレに行って用を足しているとき、隣の個室から携帯で通話する声が聞こえた。
―― うん うん
―― でもさぁ 毎朝あんなの見せ付けられたらさぁ
なにかの相槌なんだろうけど……
毎朝？なんか有ったの？
わたしの与り知らない所で？
―― そう 男たくさん連れてさぁ 見てて腹立つじゃない
え？ それってもしかして……
―― しかも嶋田とか前田とかでしょ 腹立つわねぇ……
私のこと？やっぱり私のこと？ この声誰だろう？多分わたしのクラスじゃないと思うけど。
でも……
―― ちょっと胸がでかくて美人だからってさぁ ムカつくのよ
……望んでこうなった訳じゃ無いんだけどなぁ
って言うか、代われるもんなら代わりたい。
普通の女子高生やってみたいよ。わたしだって。
―― そうそう 商売上がったりなの それが一番問題
……商売？
え？商売？ しょーばい……
あ、そうか。第2保健室のアレか……
―― もうすぐ夏休みでしょ 今が稼ぎ時じゃない おじさん相手は面倒だしさ
おじさん相手って。もしかしてエンコーしてんの？
この人誰だろう。声を覚えておかなくちゃ。
―― うん そう そうしよう
何か相談がまとまったらしい。
声のトーンがいきなり変わった。
―― 場所のセッティングは任せるね そう そうなっちゃえば男も諦めるよ あ チョイ待ち
……？
もしかしてこっちに気が付いたかな？
ただ、個室の中身は向こうも分からないはず。
先に出てしまおう。そうしよう。
そそくさとトイレを出て教室に戻りつつ、女子トイレが見える位置で立ち止まって外を見るフリをしていた。
3回の廊下から見ると、向かいのマンションの階段踊り場から望遠レンズを向けている人が見えた。
あんな所にも居るのか……
はぁ…… 面倒くさい……
プイッとそっぽを向いて再びトイレ側を見たのだけど、既に誰も居なかった。
一瞬の間に居なくなった声の主が誰だか確かめる術が無かった。
なんとなく嫌な予感がしたのだけど……
さしあたって問題は常にアチコチから向けられているレンズから、いかにして逃げるか？だった。
�А�291日目
明らかに体調下り坂だ。理由は分かっている。もうすぐ生理だ。
下腹部の不快感と慢性的な重さも始まった。とにかくダルい。
ハードワイヤーなブラの中に鎮座する巨大なバストも張ってきて、ちょっと擦れるだけで乳首が痛い。
もしかしてまた少し大きくなったんじゃ？と不安になるけど、でも仕方が無いらしいし……
微妙に不機嫌な朝だったけど、母親は気にせず何かの支度をしていた。
「お父さん2ヶ月ほど出張になったから、お母さん2週間だけ付いてくね。一人で留守番だけど大丈夫よね」
「……うん。大丈夫」
「しばらく居ないけどあまり無茶しちゃだめよ。まぁ、遠慮なくデートして来れば良いんじゃない」
フフフ……
あぁ、そうか。お母さんにもこういう頃が有ったんだ。
デートして誘われて、一緒に朝を迎えたい彼氏がいたんだ。
だけど帰って来いっておじいちゃんとかおばあちゃんが煩くて……
「お母さん」
「なに？」
「デートしてる時って楽しかった？」
「勿論じゃない。夢のようなひと時よ。眩しいくらいの朝もね」
フンフンと鼻歌まで歌いながら支度しているのだけど、お父さんは心配そうだった。
「お前を連れて行くべきなんだが……」
「子供じゃないから大丈夫」
「もう夏休みだからなぁ」
「今日で終わりだから、変なのに狙われるのも今日で終わり」
努めて明るく言ったつもりなんだけど。
お父さんの目がいつもより酷く暗い眼差しに見えた。
「だから心配なんだ」
何がどう心配なのか。それを理解出来ない訳じゃない。
ただ、問題の発生源はまだ病院の中だし、パパラッチは減ってきたし。
それに、今現状なら毎朝確実に……
♪ピンポーン
―― はい
ガチャ……
「おはようございます！」
「ちゃんばらトリオです！」
「なんやん！そっちかい！ って、あ…… おはようございます」
……あの三人は毎朝ネタ合わせして来てるとしか思えない。
毎日のようにやってくるあの3人が居れば、とりあえず怖くない。
怖くないどころか楽しい毎日だ。
「行ってきます」
「留守中は家の事を宜しくね」
居間から手を振るお母さんをチラリと見て家を出た。
お父さんは奥に居て見えなかった。
2週間か……
ウッカリしているとあっと言う間だな。
妙な期待に胸を膨らませていたのだけど、正直、バストはこれ以上大きくなって欲しくない。
あっと言う間に学校へ着いて、終業式前の大掃除をこなして。
隅々まで掃除しつつ周りを見ていると、女の目って凄いなと実感するようなシーンを幾つも目撃する。
ここまで気がつかないよ……って所まで掃除している友人たちは、まるで自分の母親のように思えた。
世の中の女って、こういう能力が必要なのか……と。
変なところを感心しながら更衣室へ戻ったら事件がおきていた。
ロッカーがひっくり返って、中身が全部出ていた。
どうやってひっくり返したのか疑問だったけど、どうやらロッカーの上を掃除中にやったらしい。
小柄で軽量な女の子とは言え、ロッカーの上に乗って動いてバランスを崩せば、ロッカーごとひっくり返るって事だ。
全部撒き散らされた中身をみんなで手分けして元に戻してから着替えたのだけど……
「あれ？」
「どしたの？」
「上が小さい」
「あ、ほんとだ」
セーラー服が2サイズくらい小さくなっていて、大きな胸が制服から突き出すように膨らんでいる。
「誰かのと間違えたかな？」
「そうだね」
「誰のだろう？」
探そうにも残っているセーラー服には無記名が無い。
実は自分の着ているセーラー服は名前の刺繍が入っていないのだった。
終業式の時間が迫っているから、とりあえず講堂へと向かった。
キツいサイズのセーラー服だから嫌でも胸が目立つ。
「最終日で福眼福眼♪」
「あっち向いてろスケベ！」
そんな調子で冗談を言いながら、夏休みに突入した。
やたらキツいセーラー服のまま帰宅したのだけど、今日もアチコチで隠れながらレンズを向けてる人が居た。
全部承知で胸の大きさを見せびらかすように、無駄に振り返ったりしながらの帰り道。
こんなのも楽しい。
ちょっと不機嫌だった筈だけど、やっぱり学校生活は楽しかった。
夏休みは何しようか……
誰かとデートしたいな……
ちょっと良い関係になっちゃったりして……
ウフフ……
ハッと気がつき我に返る。俺は男だ。女じゃない！
油断していると女側のマインドに埋められている。
これは拙いな……
アレコレと思案しながら歩いていたら、あっと言う間に自宅へ付いた。
「ありがとう」
「おう！良いって事よ」
「何か有ったら電話くれよ」
「なんならワテ一人だけでもエエよ」
抜け駆けすんなコラ！……
そんな掛け合いの3人組。
とりあえず、いつもよりキツいセーラー服を脱ぎたい。
やっぱりどこにも名前が無い。誰のだろう？
なんか三人組の掛け合いを眺めつつアレコレ考えていたら、携帯の呼び出し音が聞こえた。
注目を浴びつつ無意識に電話を取ったら聞き覚えのある声が……
―― あ、やっと繋がった！どこにいんのよ！
ちょっと不機嫌な声。
えっと…… あ、そうだ。
「渡辺……さん？」
―― そうよ！あたしの制服返して！
「あ、そうだったんだ」
―― そうよ！こんなでっかい制服着てんのあなた位なものよ！
「え…… あ…… ごめん。気がつかなかった」
―― 気付きなさいよ！ちょっと胸が大きいからって良い気になってんじゃないわよ！
「ごめん。でも好きでこうなった訳じゃ……
―― とりあえず、あんたのこの牛胸サイズのは預かっておくから
「うん」
―― あしたで良いからウチまで届けて！あたし今から部活の合宿で出かけちゃうから！
「あ、わかった。そうする。ごめんね」
―― あんた中身男なんでしょ！キモイ！
ブツッ……
なんでこんなに怒ってるんだろう？だんだんこっちまで腹が立ってきた。
だけど、女の子には無性に不機嫌になる時がある事を今は知っている。
今の自分がまさにそうだから、余計に腹が立つんだろう。
きっとそうなんだろう。
そう思うことにして深く考えるのをやめた……
とりあえずバイバイと手を振って家に入れば蛻の殻。
お母さんはお父さんの出張先へ一緒に行ったようだ。
―― おーい！佐藤！
外から呼ばれている。
「なに？」
ドアを開けたらまだ三人組が立っている。
「今の電話、相手誰や？」
「あ、渡辺さん……」
「なんだって？」
「セーラー服返せって」
「なんだ、そんな事か」
「うん」
三人組が顔を見合わせている。
どうやら男からの電話を疑ったらしいが……
「暇になったら電話するね」
「おう！」
男って案外単純だな。
自分が男だったことを一瞬忘れて、そんな事を思っていた。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
�─�292日目
携帯を片手に足を運んだ事の無いエリアをウロウロする。
酷く暑い日だけど、最近やっと慣れてきた薄着での外出だから多少快適だ。
日焼けどめや制汗スプレーや、女の子は身だしなみの為の持ち物が多いのにも慣れた。
そろそろ生理が来そうだからと、あれやこれやが増えてるのもあるんだけど。
送られてきたショートメッセージの住所情報を頼りにやってきたのは、郊外の高層マンションだった。
ここの3階の一室。ここが彼女の自宅らしい。
入り口でインターホンを押すと、明るい声で応答があった。
―― はい、どちらさま？
「あ、あの。佐藤と言います。制服を渡しに来ました」
―― あ〜 聞いてます。入ってきて。
ガチャリと鍵の空く音がして、玄関の自動ドアが開いた。
どこか寒々しい雰囲気のエレベーターに乗って3階へと上がる。
デジタル表示される階数の文字を一つずつ数えながら。
13階段を上がって行く自分をどこかイメージした。
小さな踊り場の向こうにある玄関は二つ。このフロアには二部屋しか無いらしい。
一戸当たりが相当広く作ってある高級マンションだ……
何となくそんな事を理解した。
金銭的な物は分からないけど、でも、きっとそうなんだと。
直感的にそう思った。
ピンポ〜ン♪
どうぞー
重厚なドアを開けると、中から賑やかな音楽が聞こえた。
ドアの外では全く聞こえなかった位だから、そうとう防音がしっかりしているのだろう。
すこしだけ長田の家を思い出した……
「あのー」
「良かった上がってって。今ちょっと手が離せないから」
「……お邪魔します」
いつもより丁寧に靴を揃えてお邪魔した。
幅に余裕のある長い廊下の左右に二つずつ大きな部屋があり、それを過ぎるとキッチンとトイレ･バスルーム。
その奥には大きなリビングがあって、大きなつくりのソファーが幾つか置いてあった。
「ちょっと腰掛けて待っててね」
唐突に声を掛けられて驚くと、リビングの奥の部屋からキャミソール一枚な女性が出てきた。
「妹のなの。ゴメンね。わざわざ持ってきてもらってさぁ」
ネイルアートの真っ最中なのか。両手の爪に様々な柄が入っていて、それを乾かしていた。
パッと見たときには花柄にも見えた。だけど、一瞬の間に良く見たら花ではなく不思議な模様だった。
「もう乾くから、ちょっと待って」
再び部屋の奥へと引っ込んで、そして奥のほうでガサガサと音を立てて何かをやっている。
「ゴメンね。こんな暑いのに。これ飲んで待ってて」
トレーに乗った大き目のグラス。
中にはウーロン茶か麦茶か、そんな物が入っている。
脇には小さなお菓子が添えてある。
「なんも無くってさぁ。 そんなのしかないんだ。子供だましでゴメンね」
笑顔のかわいい人だなぁ…… 一瞬、そんな事を思った。
電話を貰った渡辺さんに余り似ていないようにも見えるお姉さん。
再び部屋の奥へ行って何かをやっている。
少々時間が過ぎ、手持ち無沙汰になったのでお菓子を貰った。
ちょっと舌に薬っぽいような味が残る不思議な焼き菓子だった。
たまらずグラスの中身を一口飲む。麦茶のようでもありほうじ茶のようでもある味だ。
ただ、不味くは無いので、大目に飲んで一息ついた。
何をやってるのだろう？随分待たされてる。
ただまぁ、他に予定は無いし、自分の家に人も来ないし。
のんびり待つか…… 良い天気の窓の外へ目をやって、雲を眺めていた。
刹那、目蓋が急に重くなって意識が一瞬遠くなる。
なんか急に眠くなってきた。
これはまずいな……
なんとかしないと……と思うまもなく意識が遠くなり始めた。
椅子に座ってられない程の眠気がやってきて、そのまま崩れるようにソファーに倒れこんだ。
生活感の無い天井が見えた。
それが最後だった。
�� ???日目
どこからか女の熱い吐息が聞こえる。
なんとなく意識が戻ってきて、最初は全く事態が飲み込めない。
一瞬、パニックを起こして身体が猛烈に震えたのだけど、思うように動かせない事に気がついた。
全く目を開けられない。何かが張り付いている様な、何かでふさがれている様な、そんな感覚。
段々とパニックが収まっていって、自分の状況を確認していく。
まず、目だけでなく口も空けられないことが分かった。長田に張られたガムテープと同じ感覚だった。
変なところで長田の責め苦が役に立ったのを笑いたくなるほどだが……
なぜか息が出来る。舌先を動かすと、僅かに細い管が数本通してあるようだ。
完全に口を塞ぐと鼻が詰れば窒息死する。
つまり殺す気は無いんだな……と理解して、どこかちょっとホッとする。
膝を抱え両手で抱きしめるような姿勢なのだけど、両手が自由にならない。
手首と足首を何かで縛られているのがわかった。
意識を集中していくと、膝頭も縛られていると気がつく。
つまり、全く身動きが出来ない状態。
そのままどこか衣類の積み重なった狭い場所へ押し込まれている。
この感覚は何度か感じた事がある……
なんだっけか……
そうだ。押入れとかタンスの中だ。
まだ小さな頃に入って隠れた洋服タンスの中。
そう気がつくと、衣類の臭いが鼻を突いてくることにも気がつく。
自分の状況が分かってくると、今度は外の音が気になってくる。
さっきから断続的に続く、女たちの嬌声と熱い吐息。艶っぽい喘ぎ声。
第2保健室で垣間見た、男と女の色恋の現場と同じ声。
更に言えば、全部聞き覚えのある声ばかりだ。
幾つもの声が折り重なって、それに男たちの獣染みた呼吸音が入り混じって。
なんとなくこの閉じ込められている所の中まで、男女の営みのあの臭いまでが入ってくるようだ。
―― あ！ぅんぅんん…！ ぅあぁぁぁ！ イクゥッ！
あれ？この声は……
渡辺だ。電話を掛けてきた渡辺の声だ。
そして今気がついた。
トイレの個室で隣から聞こえてきた声だ。
あ…… ！！！
嵌められた。罠に嵌ったんだと気がついた。
何で気がつかなかったんだろう。
あの時、自分の身に降りかかろうとしている危険を気付けなかった。
全身がブルッと震えて、恐怖に身を硬くした。
ホッといてもカタカタと小刻みに震えだして、そして自分が裸でいることに気がついた。
両手に衣類の感触があったから気が付かなかったんだ。
もっと言えば、両手の着衣の感触は、軍手のような手袋のような不思議な感覚だった。
綿の詰ったぬいぐるみに手を突っ込んだような……
指が使えない……
全く身動きできない上に、もし手と足を拘束しているものが取れても、指が使えないから……
状況として完全に詰んでる事を理解した。
もうどうしようもない。
ある意味、長田の仕打ちの方が生ぬるかったのだ。
―― おらぁ！いくぞ！
―― あﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞ いい！ すごい！ あﾞ！あﾞ！あﾞ！
獣のような声が幾つも響いて、やがて部屋が静かになった。
甘い吐息が幾つも聞こえている。肩で息をするような、そんな吐息。
―― 取ってあげる♪
メリメリと音がして、何をしているのかすぐに分かった。
―― おいおい、どーすんだよソレ
―― 記念に取っておくの。この夏最初の乱パ記念
―― ふーん……
―― 綺麗にしてあげるね
ピチャリネチョリと淫猥な水音が聞こえる。
幾つもそれが聞こえてくる。
途端、長田のアレを加えて舐めさせられた時に自分が発した音を思い出す。
耳の中でそれが甦って、そして、何処か身体の中が熱くなってくるのが分かった。
思い出したくないのに思い出してしまった嫌な記憶。
口の中に蘇る生臭い最低の味。
だけど……
どこか自分の中が熱くなっている。
嘘だ。
絶対嘘だ。
あんな奴……
―― おう！俺 先に帰るわ
―― また来てね！
なんかシャワー浴びたりする男女やら、そのまま帰っていく男やら、色々だな……
どれ位時間が経ったか理解出来ないけど、そろそろ丸めている背中の痛みが限界に近かった。
いくつかドアあの開け閉めする音を聞きながら気を紛らわしていたのだけど……
―― ミカ！
―― あ、ごめん
―― それは今日の主賓用よ
―― そうね♪
なんか楽しそうだなぁ……
何やってるんだろう？
現実逃避していたのだけど、突然なにかこうフワッとした感触が全身を襲った。
「おまちどうさま」
上のほうから声がする。
なんだろう？と思っていたら、身体中のあちこちがあ一斉に触られた。
一瞬身を硬くしたのだけど、持ち上げられているのが分かった。
何処かへ運ばれている。身体の表面を風が流れる。
目を開けられない状態では、今どんな状況か全く分からない。
歩いているのだけは分かったのだけど……と、一瞬気を抜いた時に、放り投げられた。
弾力のある所にお尻から着地してごろりと横に転がった。
間違いなくベッドの上だ。
それもちょっと湿っているベットの上。
「いつもいつも第二保健室で私達を覗いている佐藤さん」
「中身は男な佐藤さん」
「実は凄くスケベな佐藤さん」
「女に興味津々な佐藤さん」
「牛並みおっぱいひけらかして喜ぶ佐藤さん」
「真っ黒ブラで男を誘う佐藤さん」
「人工美女な人造人間の佐藤さん」
「私たちの秘密の花園へようこそ！」
周囲から順番に色んな声がした。
最低でも8人いるのが分かった。
「あ、ほら！みて！」
「あぁ！」
「何この変態！」
「もう濡らしてるよ！」
「なんだぁ 身体はやっぱり女なんだね」
「音だけ聞いて濡れ濡れだよ」
「さすが第二に入り浸ってるだけの事はあるね」
「私たちの声だけ聴いてオナッてたんでしょ」
周囲からの敵意に満ちた恥辱的な声が聞こえる。
だけど回りは何も見えない。
「ちょっと確かめてみなよ」
「そうね」
身体を伸ばせないまま、ベッドに仰向け姿勢にされた。
「あ〜 もうビショビショ」
「ほんとだ。垂れてきてる」
「しかもほら」
刹那。全身を突き抜けるような、痺れるような感触が駆け抜けた。
「もうパンパンに膨らんでるよ」
「久しぶりに勃ってる感じどう？男は勃ってるだけで気持ち良いんでしょ」
真っ暗な視界の中に幾つも星が飛んだ。
突き抜ける様な痺れる様な刺激が背骨を駆け抜けた。
クリトリスを弄られている。
指先でグリグリと弄られている。
拘束されている両手足がガクガクと不如意に暴れた。
「あはは！やっぱ気持ち良いんだ！そうだよね！」
「じゃぁ、こうしてあげる」
指とは違う刺激が脳天のその先端を突き抜けるようにして駆け抜けた。
「ぅんんんんんんんんん！！！！！！！！！！！！！！」
思わず声が漏れた。
何をしてるのかすぐに分かった。
誰かが舌先で転がすように舐めている。
「さっすが牛並な胸の佐藤さんね」
「ほんとね。声まで牛みたい」
「鈴つきの首輪でも巻いてあげようか」
カラカラと音のする物が首に巻かれた。
鈴と言うより小さな鐘の付いた紐…… 違う、首輪…… かな？
「ほら。もっと鳴きなさいよ！牛みたいに！」
ピチッ！
何かを弾く音が聞こえると同時に、言葉に出来ない衝撃が身体を突き抜ける。
「ぅんﾞんﾞんﾞんﾞんﾞんﾞんﾞんﾞっっっっっっっっっっっ！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
ガクガクと身体が震えて止まらない。
乳首が起き上がって痛いくらいに硬くなっている。
「ほら、もう一回！」
ピチッ！
「！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
もう声も出ない。
突き刺さるような刺激が股間を直撃している。
ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチャッ！
「あー もう駄目だ 洪水みたい びしょびしょだよこの淫乱女」
「淫乱男でしょ？」
「そーだね」
「足を広げちゃおうよ」
モゾモゾと何かが動いて、膝を縛る物がとられた。
途端に左右から押し広げられて股関節が痛い。
もうやめて！ 痛い！
何かを叫ぼうとしたのだけど、口が完全に塞がれてる状況では「んん！！！！」としか……
ピチッ！
「んひぃ！」
甲高い声が出た。
さっきとは比べ物にならない位の刺激。
激痛とも言えるのだけど、でも、どこか痺れるような衝撃。
「クリトリス弾かれて真っ赤にしてそれでも喜んでるんだから、筋金入りの変態だ」
周りの女たちが一斉に笑い出した。
「ねぇお腹空いたね」
「そーだね」
「男と4時間も遊んでればそうなるよ」
「何か食べようか」
「その前に……」
どこからか音がする。鈍いモーター音と、何かが震える音。
ウィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンンン・・・・・・・・・・
……あ これ知ってる
「あ！そうだね！」
「変態の佐藤さんにはこれが良いよ！」
「好きなだけイっていいよ！」
セロテープかガムテープか、どっちだか分からないけど粘着テープを伸ばす音。
まず左の乳首が挟まれた。続いて右。一体いくつ持ってんだ？
最低でも4つある。そして、下腹部にも嫌な感触。
「せーの！」
「「「「「「「「えい！」」」」」」」
「ぅんんﾞググググンンンンンッ！！！！！！！！！！･･･････････････」
途中から声もで無くなった。
身体中に電撃が走るような衝撃。
鈍い振動がアチコチから一斉に襲ってくる。
頭の中が真っ白になって張り裂けそうな程に心臓が高鳴った。
身体中の筋肉が一斉に緊張したような弛緩したような……
あぁ…… これがイクって事か……
変なところに感動を覚えたのだけど、同時に意識が遠くなっていくような錯覚だった。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::
�� ???日目
「アハハハハ・・・・・・・」
どこからか聞こえた笑い声にふと意識が返ってきた。
どれ位の時間が経ったのか、全く見当がつかない。
自らに押しつぶしているバスト先端の不快感と、体重の掛かっている首の痛みが我慢の限界だ。
何でこんな目に……
自分の勘の悪さを呪うしかないのだけど、とりあえず窓の外が真っ暗なのは理解できた。
ベッドの上に膝を立て頭から突っ込むようにして、いやらしく尻を突き出すようにして。
腰の裏辺りで両手が縛られているガラスに映った哀れな自分……
あれ？
「あ、気が付いたみたいよ！ 変態の牛乳女さん」
目隠しが取られたのか、部屋の中が見えるようになっている。
キャミ1枚だったりＴシャツだったりとラフな格好の女達。
えっと…… 4… 5… 6… 7…
7人…かな？
どうしよう……
絶望的な表情を浮かべていたらしく、腕組して見下ろすように立つ女達が邪悪なまでの笑みだ。
こんな表情は前に長田が浮かべていたな……
変なところで冷静な自分が恨めしい。
「さて」
「何して遊ぼうか」
居並ぶ女達がニヤニヤとする中。再びあの音が聞こえてきた。
ウィィィィィィン･････････
「ヒャッ！ アゥンンンンンン！！！！！！！！」
いきなりバイブがクリトリス辺りに押し付けられた。
思わず艶っぽい声が出て、口が自由になったのを知った。
「ヤッ！ヤメテ！」
手首は腰の辺りに拘束されている。
そのまま両膝と胸辺りをベッドに接地させて、牛乳のテトラパックみたいになっている。
……お尻を天に突き出して誘うような格好で。
執拗に執拗にクリトリス周辺を攻められておかしくなりそうだ。
だんだん色んな所の筋肉が弛緩してきたのに自分で気が付く。
「あらあら。牛さんはおしっこまでし始めましたよ」
お尻の辺りから声が聞こえた。ガラスに映っていて丸見えだ。
この声は最初にこの部屋に居たあの女性(ひと)だけど……
「ほら、ちゃんと録らなきゃ」
さっきまで気が付かなかったけど、そもそもの渡辺……あれ？
居ない筈の彼女が立っている。ビデオカメラを持って立っている。
赤いランプが点いてると言う事は、録られている。
「ヤメテ！録らないで！ヤメテ！」
「あんた男でしょ？女みたいじゃない」
「ヤメテ……」
悔しさに涙が流れた。
全く抵抗できないままにバイブで攻められ続けておしっこを漏らしている。
チャパチャパ････ チョロロロロロ・・・・・
もうダメ！
止まらない！
「あ〜もう ダダモレね 牛さんじゃ恥ずかしく無いわよねぇ」
そんな声が聞こえて女達が大爆笑している。
「ねぇさま私にもやらせて！」
原田……？
そうだ、原田だ。
第2で売春してるグループのボス役。
調整役でもあるらしいけど……
「ァアンッ！ ゥン！ ンンンッ！！！」
もはやどこにどう当てられてるのか、自分でも把握できなくなっている。
下腹部からさざなみのように湧き上がってくる衝撃のような波。
背骨沿いにゾクゾクとした、くすぐったい様な感触を何百倍にも増幅したような、そんな感触が迫ってくる。
無意識に身体が動いて逃げようとするのだけど……
「あら こっちが良いの？ それともこっち？ 大胆ねぇ」
お尻を左右に振って逃れようとするのだけど、全く逃がしてくれない。
そのまま攻められ続けて、足の裏まで鳥肌が立つようになってきた。
「さて、じゃぁそろそろ支度して」
「はいねぇさま」
見ている前に女達が集まってきて、それぞれの胸の間からコンドームが出てきた。
中身の入っている…… そうか、さっきまでここでやってた乱交パーティの時の。
「ほら、爆乳牛女の分を貯めておいて上げたよ！」
「温めておいたからまだ精子死んでないよね」
「たっぷり有るからじっくり味わってね！」
「どっちの口が良いかなぁ」
「そりゃぁもう！」
「「「「「下の口よね♪」」」」」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガクガクと身体が震え始めた。
「ヤメテ…… お願いだから……」
ベッドまで一緒に震えだすように震えているのだけど。
「あらやだ。このバカ男女。本気で感じてるみたい」
なになに！と女達が自分を後から見ている。
「あ〜ほんとだ！」
「本気で感じてるんだ！」
「淫乱ねぇ」
「もう何本咥えたのよ」
「言ってごらんなさいよ。あのキモい長田のでかき混ぜてもらって気持ちよかったんでしょ！」
アハハハ！と心底楽しそうに笑う女達。
どこまでも陰湿で恨み深い女の嫉妬。
渡辺がどっかから持ってきたのは、針のついてない注射器。
シリンダーからピストン部を抜いて、底に密封してあった使い終わってるコンドームの中の精液を流し込んでいる。
5個も6個注いでいって、気がつけば10個分は溜まっているのだろうか。
再びピストン部が差し込まれて空気を抜くべく抽送されている。
「これだけ入れれば」
「どんな石女だって妊娠するわよ」
「はい、ねぇさま」
さっきのあの女性が再び自分のお尻側へと座った。
「はい、佐藤さ〜ん あ〜〜〜〜〜〜んして」
「ヤメテ！ お願いヤメテ！ やめて！ やめ！」
女達の勝ち誇ったような笑顔に見下ろされながら……
プチッ･････
「イタッ！ィタイ！イタイ！アﾞァァァァァァァ！！！！！！！」
獣のような声で叫びを上げた。
両膝がガクガクと震え、とめどなく涙が流れた……
「あれ？もしかしてあなた」
プチュッ……
焼け付くような感触が残る中、ガラスに反射した向こう側でシリンダーが引き抜かれたのを見た。
「うっそー！」
「どうしたの？」
「ほら、血がついてる」
「あなたまさか……」
「「「「「「「「「「 バージンだったんだ！ 」」」」」」」」」」」」
一斉にハモッてそんな声が聞こえた。
しゃくる様に泣いているのだけど、アハハと笑うのやら失笑しているのやら。
どこまでも冷たい、見下すように冷たい眼差しが降り注いでいる。
「人造人間な人工美女の佐藤さんだもの。初めての相手が注射器のシリンダーなんでお似合いよねぇ」
「どうせならしっかり広げてあげれば良いんじゃない？なんせほら、人工物でしょ」
「そうだようねぇ…… どうせならこれ位は」
名前を知らない女が持ってきた注射器を見て『ヒィィ！！！』と悲鳴を上げた。
ペットボトルより多少細い程度に太く見得る大きな注射器がやって来た。
「このままじゃ入らないね」
「美香！ローション！」
「オッケー！」
密封キャップの蓋を取ると、ダラリと流れ出る粘性の液体。
たっぷりと注射器に塗りたくられて、ポタリポタリと垂れている。
「さぁ佐藤さん。セカンドバージンよ。力抜いてたほうが良いわね。力んでるとかえって痛いから」
「ぃヤァァァァァァァァァァァァァァァ！！！！！！！！！！！！！！！！！」
まるで筋肉の塊な部分に杭でも打ち込まれたような激痛が走った。
メリメリメリと何かが裂けていく感触が身体の中を走った。
流した涙でビショビショになったベッドのシーツに胃の中の物を全部吐き出した。
「イタイ！痛いの！ヤメテ！イタイ！」
何度も何度もシリンダーを抜き差しされているのがガラスに映っている。
何かが見えた。何かが吹き出している。なんだろう？激痛の中でそれが血である事を理解した。
膣内が裂けて鮮血が漏れ出して、シリンダーを押し込まれたときに膣外へ吹き出していた。
その返り血を浴びて、ニヤニヤとしながらあの女性が何度も押し込んでいた。
「そろそろ広がったかしらね」
ズボッと音を立てて引き抜かれた極太の注射器。
「あ〜もうビロビロだよ！」
「ほんとだぁ！なんかペットボトルの飲み口みたい」
「完全に緩んでるわね！これじゃ少々大きなモノ持ってる男でもさぁ」
「緩いって言われるわね」
「残念だなぁ」
指を刺して笑われているのだけど、衝撃的な激痛と、そして悔しさと悲しさでそれどころじゃなかった。
「じゃぁこっちいきましょうか！」
「あぁ！！！ あぅあぅ・・・・ あぅぇ・・・・ぅんんんん・・・・・ ィタィ……」
言葉に成らない呻き声を上げながら泣き続けている向こう。
最初の小さな注射器がもう一度膣内に侵入してきた。
激しい痛みをだんだん奥へ感じながら、その痛みがフッと消える。
ガラスに映る自分の姿を見ていられなくて、悔しいけれど目を閉じた。
「ほら、一番奥まで行ったよ。ここが子宮口」
なんとなくグリグリされてるようだけど、何も感じない。
「男にここをツンツンしてもらうとね 鳥肌立つくらい気持ち良いのよ 届いてる！って感じ」
何かが入ってくる！
上手く言えないけど、そんな感触を感じた。
「全部入った！ほら！」
引き抜かれ、鮮血と透明な粘性の液体に塗れた注射器が顔の前へとやって来た。
ピストンが一番奥まで押し込まれ、シリンダー内のモノが全て吐き出されている。
「好きな男が注いでくれたらさ、零すのも勿体無いって思うのよ、女なら」
「そうよね。自分のお腹の一番奥で出してくれると……」
「それだけで、もう3回はイける気がするよね」
何か口々に楽しそうな事を言っているけど……
最低だ……
背中が痛い…
背骨が痛い…
首筋が痛い…
足首が痛い…
手首が痛い…
膣内が痛い…
もうやだよ…
もう死にたい……
「早く妊娠してね♪」
「24時間あれば受精から着床までするって言うからさ」
「大丈夫！あなたの好きな嶋田は私があなたの代わりに抱かれて、あ・げ・る♪」
僅かに頷いたような気がした。
自分が誰なのか。ここがどこなのか。何が起きているのか。
その全てが把握できなくなっていた。
世界が色を失った。
いろんな事が頭の中を駆け巡って収拾がつかなくて。
そして私は考えるのを止めた……
�� ???日目
私は誰？……
ここは何処？
今日は何日？
お腹すいたな…
喉渇いたな…
私…
まだ死ねないんだ…
「ハァ… アァン… ウゥン… アゥン…」
艶っぽい喘ぎ声に意識を取り戻した。
横向きにベッドへ身体を投げ出して、そのまま部屋の反対側を見ている。
あの最初の女性が壁際に裸で座っていて、膝を立てて居る。
その前で渡辺が大きなペニス型のディルドを持って、あの女性(ひと)の膣内を掻き混ぜていた。
「ねぇさま 綺麗」
背骨を撓らせて悶えているねぇさまの乳首を、ねちっこく執拗に舐めて攻めるのは原田かな。
「アァァ！ イク……」
ゾワゾワと鳥肌の立つのが見えた。
上手く出来たねと子供を褒めるように渡辺の頭を撫でた。渡辺は手にしていたディルドを手放した。
ねぇさまは、まだ差し込まれたままのディルドを自らに引き抜いて、今度は渡辺のショーツを下ろして、そのまま膣内へと突き刺した。
「アァァアァァ！ ねぇさまの…… 暖かいのが残ってる……」
百合の花咲く現場。男臭くない姿。
だけど、何も身体が反応しない。
興奮もドキドキもない。
ただ、まるで。
魂のないマネキン人形が一部始終を眺めるように。
ボーっと眺めるだけだった。
8人の女達の胎内を順番に掻き混ぜていって、やがてヌラヌラと艶かしく光るそのディルドがこっちへやって来た。
原田や渡辺がねぇさまのその股の部分へ、何かを取り付けてベルトを締めている。
きつく締められ動かなくなったそこに、さっきまで女達の胎内を掻き混ぜたディルドが取り付けられた。
まるで男のペニスが聳え立つように。
ねぇさまの股座でいきり立っている。
「ひかり」
ベッドの上で微動だにしない私の頭に、ねぇさまが触れた。
魂が抜けたように、されるがままになっているのだけど…
「今日からあなたも私の妹達の一人よ」
優しく肩を押されて、仰向けになった。
両足を持ち上げられて、しとどに濡れる痴蜜の壷と痴丘が露になった。
「可愛いじゃない…」
持ち上げた両足を抱えるようにして、真正面からディルドを差し込まれた。
再び鈍い痛みを感じて体を硬くしたのだけど、でも、もう抵抗する気すらなくなっていた。
「だんだん気持ちよくなるのよ。女はそう言う風に作ってあるんだから」
あぁ、マグロ女ってこういう事か……
死にたい……
「みんな忘れて、気持ち良さだけ探しなさい」
両足を抱え込んで、そのまま両胸を揉みしだかれながら、ねぇさまの腰が動いた。
グチュッ！グチョッ！グチュッ！グチョッ！グチュッ！グチョッ！グチュッ！グチョッ！
「あぁぁぁ・・・・」
自分の口から艶っぽい吐息が漏れた。
「そうそう。出来るじゃない。気持ち良いところを探してごらん」
違う。違うの。痛いの。まだ痛いの。凄く痛いの。
焼けた鉄の棒を突き刺されてるようなもの。
「っあぁぁぁ････ いっ・・・・・・ いたい……」
グチュッ！グチョッ！ グチュッ！
グチョッ！ グチュッ！グチョッ！
突き抜けるような痛みと敗北感と。
そして腹腔内の全部がなにか得体の知れない気持ち悪さで埋め尽くされている。
「あなた達、ほら。新しい妹を可愛がってあげなさい」
「はい、ねぇさま」
周りに女達がやって来た。
アチコチを舐められたり、或いは優しくマッサージしてくれたり。
自由になった両手も両足もそれぞれが別の女達に触られたり舐められたり。
「あなたも女ね。可愛いわ。綺麗だし」
耳元で渡辺がそう囁いて、耳たぶを全部口の中に入れてねっとりと舐められた。
耳の中にまで舌が侵入しそうなほどに執拗に攻められたとき、身体の奥底からビクッと震えるような衝撃が走った。
「さぁ、気持ちよくイきなさい。抱かれてイく気持ちよさは、他には無いから」
言葉までもが耳から流れ込む媚薬のようだ。
激しい痛みと屈辱感の向こう側に、見た事も無いような何かが潜んでいるのを感じた。
なんだろう？ これ、なんだろう？
なんだかこう…… 空を飛んでる様な海に浮いてるような……
不思議な浮遊感……
何かがこみ上げてきて、駆け上がってきて、その何かが顔を見せそうになったとき。
「はい、あっち向きなさい」
ズボッと抜かれてビクッと震えた。
なんだったんだろう？いまのは。
自分で制御できない不思議な感覚が……
さっきまで全ての思考が止まっていたのが嘘のようだ。
急に世界が色を取り戻したような、全てが色鮮やかに見えるような。
極彩色に彩られた、目が滲むような彩度の高い世界。
うつぶせにされて、そこからお尻を持ち上げられて。
後から勢い良く突き刺されて、背骨沿いに電撃が走った。
「あﾞぁぁぁぁぁ！！！！！！！！
左右から一斉に幾つもの手が襲い掛かってきて、身体中を揉み揉みとされながら。
そのまま後から再びグチュッ！グチョッ！と淫猥な水音が部屋に漂った。
言葉に成らない気持ち悪さを感じていた胎内が、不思議と物凄く熱く感じ始めた。
「あﾞん！ぅんんん！」
身体中に力が漲ってきて、爪が剥がれるほどにベッドのシーツを握り締めた。
「ゥン！ ンンン！！！ ンアァァァァァンンンン！！！！！！！ アァン！ アァン！ アァン！……
リズミカルに響く水音にあわせて、いやでも声が漏れる。
シーツを握り締め、クッションを抱きしめ、猫のように背骨を撓らせて。
そして。
「イったね…… 気持ちよかったんでしょ」
身体をまさぐる全てから開放されて。
力尽きるようにベッドへ突っ伏して。
股の間から何かがどろりと零れるような錯覚を感じて。
「こっちを向きなさい」
力の入らない身体をなんとか起こして、そしてねぇさまの方を向いた。
ベッドの上に膝立ちになったねぇさまが下を指出している。
「あなたの中を散々かき混ぜたのよ？あなたが綺麗にしなさい」
まともな思考が出来なくなっていて、言われるがままにそのディルドへ手を伸ばそうとしたその時
バチン！
「2度は言わないわよ。言われたら返事をしなさい」
最初は何が起きたのか分からなかった。
鈍い首の痛みを感じて、右の頬を叩かれたのだと悟った。
「はい…… ねぇさま……」
白濁した大小さまざまな泡のついたような、その黒々するディルドを口に入れた。
丁寧に舐めながら、ちょっとスポンジ状になっている部分も絞って飲み込んだ。
上手く言えないけど、不味くは無かった。
きっと錯覚だと思ったのだけど…… でも……
「今日から私の遊び道具よ。良いわね」
「はい、ねぇさま」
綺麗に舐めきって、口の端から零れかけた涎をすくって舐めて。
まるで壊れた人形のように笑みを浮かべて眺めていた。
自分が壊れたのも気がつかずに……
� �270日目
あの日から4日が経った。そろそろ生理が始まる頃だ。
何度目かの生理で、あの酷かった不快感や気持ち悪さが多少薄らいだ。
だけどやはり、自由に活動するには辛いものがある。多分あと数日で経血が出始める。
飛んだりはねたりと、動き回るには辛い日々。早く始まって、そして、終わってくれと祈る時期。
あまり身体を動かしたくないから、出来る限りジッとしている。
そうすれば、この不快な鈴の音も響かないで済む……
なにをしても音のする状況が実は物凄くストレスになるのだと知った。
何か良い方法はないかと色々試して、鈴口からセロテープを差し込んで玉を止めてみた。
瞬間接着剤で止める方法も考えたけど、音がしないと気が付いて、あの下衆男が逆上するのが怖かった。
ただ。
やはりあの男は学校に来ていない……
「おい！佐藤！」
薄らぼけっとしていた教室で、後から声を掛けられた。
ろくに人の居ない昼休み。あまり動きたくないから、本を読んでいたのだけど。
後からやってきたのは嶋田だった。
クラスでも指折りの大柄な男だ。
……元々、あまり良い付き合いのある男じゃなかった
どっか薄ら笑いを浮かべて、私の隣にあった椅子に座った。
なにか企んでるのはすぐに分かった。それも、あまり良い企みじゃない。
そっと顔を近づけて小声で話を切り出すのだけど……
「お前、長田と5万でヤッたって本当か？」
深い溜息がこぼれた。
あの下衆男のやりそうな事だ。
舌先三寸で出任せを言ってるんだ。
あまりのダメ人間ッぷりに反吐が出そうだ。
「あのバカ男…… 見栄張ってるだけだ」
声音は女だけど口調は男。
知らない間に随分とメンタルが女側へ振れてしまっている。
だからこそ、努めて男っぽく振舞うようにしている。
そうしないと自分が何者だか忘れてしまうから。
10年経って男に戻る時、男のアイデンティティを失わないように頑張らないと。
だけど、ふとした仕草とか、咄嗟の振る舞いはほぼ女になっているらしい。
余計にドギマギとしてる部分があるのは自分でも分かっている。
そしてどうやら。そのギャップに男たちが萌えてるらしいのだけど……
「だろうな。そんな事出来るような根性ねーだろうさ」
「この前、印刷室でいきなり抱きつかれて頭にきて引っ叩いたんだ」
出来る限り男が話をするように、油断するとボロッと出てくる女っぽい部分が顔を見せないように。
細心の注意を払ってるつもりなんだけど、どうもそれも逆効果っぽいのにも気が付いていた。
「へぇ、やるじゃん。だけどそりゃ女の反応だな」
「自分でもそう思ってるけどさ。でも、咄嗟の時の反応がねぇ」
「女っぽくなってる？」
「あぁ、そうなんだ。で、頭にきて足踏んづけたら骨折したって文句言われた」
一瞬の静寂。ジッと私の目を見つめるている。
ハッハッハ！と、いきなり笑い出した嶋田。
そりゃ傑作だ！と豪快に笑っている。
男の時にはあまり良い印象を持たなかったけど。
だけど、どこか今は不思議な気持ちになっている。
スパッと竹を割ったような表裏の無い性格だ。
「だけどさぁ あの野郎が変な事言うんだよ」
「なんだって？」
「佐藤はもう俺のもんだ。左の乳首に鈴付けといたから、嘘だと思ったら振ってみろってよってさ」
一瞬の冷めた空気。
いや、凍てついた空気。
多分、顔に出た筈だ。
自分でも気がついている。
誤魔化さなくちゃ！
誤魔化さなくちゃ！
誤魔化さなくちゃ！
「お…… おい。 マジなのか？」
「……あ、悪い」
どっかのAAで見た『アチャー』の姿そのままな自分に気がつく。
「あんまりショックなんでリアクション取れなかった。馬鹿馬鹿しいにも程がある」
ふと顔を起こして教室を見回すと、碌に人が居なかった。
しかもこっちにはあまり関心を示していない。
ある意味チャンスだ。既成事実を作っておきたい……
「ちょっと耳を澄ましてみ」
そう、注意を喚起してから、なるべく目立たないように自分の胸を下から持ち上げて、上下に振ってみせる。
ユサユサと見事なまでに豪快に揺れるバストに、嶋田の目が釘付けになった。
「音したか？」
「聞こえなかった。つか、分からなかった」
「わからなかった？」
「目が釘付けってこういう事か」
うんうんと頷きながら嶋田が立ち上がった。
「音はどうでも良いよ。良いもん見せてもらった。ラッキー♪」
「おっ お前…… だましたろ？」
「ちゃうちゃう。マジだって。お詫びにあの野郎をもう一発ぶっ飛ばしてくるわ。じゃな」
ニコッと笑って手を振る。
学校の中で逢引するカップルの別れ際みたいなものだろうか。
教室を出て行く時に、嶋田がもう一度小さく手を振り返している。
その姿を見て、一瞬胸の中のどこかがキュッとなったのだけど……
それには気がつかなかった事にしよう。そうしよう。
自分でそう線を引いて考えない事にした。
そして、別のドアの向こうから一部始終を見ていた眼差しには気が付かなかった……
面倒な事になってきたな。この鈴を早くどうにかしなきゃ。
とりあえず生理が終わるまで待とうか。あまり動きたくないし。
そんな風に考えていたのだけど、事態は想像より悪い方向へ加速し始めていた。
�◆�273日目
嶋田から聞かれたのは始まりに過ぎなかったと気が付いたのは3日目だった。
おそらく、学年中の全ての男子生徒から同じ質問をされた。
あまりのショックに食事が喉を通らなかった。
もうベッドから起き上がる気力も無かった。
「調子が悪いときは寝てなさい。女には時々あるのよ」
母親が気を使ってくれて学校に電話してくれた。
なにかもう全てが嫌になって自分のベッドで寝ていた。
だけど、無情にも電話が鳴って、出なければ良いのについ反射的に電話を取ってしまった。
電話の相手は長田だった。
「お前とは話をしたくない。じゃな」
問答無用で電話を切った。
ふざけんな！と、そんな気持ちで携帯をベッドマットの下にしまった。
無性に腹が立ってきてもう一度携帯を取り出したとき、同じタイミングでメールが届いた。
未読１ [爆乳女子高生の生着替え動画]
携帯を持つ手が震えた。
恐る恐るメールの本文を見に行くと、添付ファイル2件と、そして、手短な文章が。
―― 10分後にYoutubeへ投稿するから 気に入ったら電話くれ
take1とタイトルを付けられた動画を見る。
……写っている。私が写っている。はっきりと！
―― ほら、きがえなよ
―― ダメだよそれじゃ
―― もっと笑顔で
―― だめだなぁ
―― これじゃ取って上げられないな
―― それ付けて帰んなよ
―― 俺はそれで良いから
―― しょうがないなぁ じゃぁtake2撮るよ
考えるより早くtake2を見に行く。
手の震えも心臓の鼓動も感じない。
嘘…… 嘘だ…… だけど……
―― はい、着替え
―― 長田君ありがとう
笑顔で写っている私がいる。
瞳孔が開きっぱなしになる。
ワナワナとあごが震えた。
―― ねぇ ホックとめて
背中のホックを止めさせるシーン。
全然覚えてない。全く覚えてない。
途中で見るのをやめて電話を掛けた。
10回以上コールしてから留守番電話になった。
「おまえって最低な奴だ…… 今から警察行って来る」
そう言って電話を切った。そそくさと起き上がって服を気がえた。
午前11時を回ったこの時間に制服でうろつくのは抵抗があった。
すっぴんの顔だけど気にしないで部屋を出ようとしたとき、再び電話が鳴った。
「おいおい、癇癪起こすなよ。生理中か？」
どこか抜けた声で電話を掛けてくる下衆男。
さて、どうしてやろうかと考えが渦巻く。
「言いたい事はそれだけか？」
「脅してるつもりか？」
「最後通告だよ。絶対許さない」
「おぉ 怖い怖い んじゃ遠慮なくアップするから」
「あぁ、好きにすれば良い。この会話も全部録音している。全部、所轄警察署と弁護士にぶちまけてくる」
「･････････おいおい、冗談だろ？」
「首を洗って待ってろ。お前だけは絶対に許さない」
再び問答無用で電話を切った。
なにかもう悲しいとか悔しいとかそんな感情はどこかへ消し飛んだ。
純粋に復讐してやるとしか頭が回っていない。
再びベルが鳴る。
相手を確認して電話に出る。
「うるせーなー！もうおせぇ！」
「お前も恥をかくんだぞ？」
「だからなんだ。いずれ男に戻るから関係ない。この姿を幾らばら撒かれても一時の辛抱だ」
「え？」
「だけどお前の人生は全部パーだ。逮捕されて裁判に掛けられると良いさ。人生棒に振って終わりだ」
「おい！ちょっとまてよ！」
「今更おせー！お前のやった事を全部暴露してやる。キモヲタの犯罪だぞ？マスコミが喜んで飛びつくさ」
流石に長田も言葉を失ったようだ。
調子に乗ってやりすぎた。どうやらそれを悟ったらしい。
ただ、許してやるとか、そんな感情は一切湧かない。
とにかくもう、絶対に許さないとしか、頭が回らない。
怒りの空気だけが漂う痛いほどの沈黙。
ややあって長田が口を開いた。
「……分かった。悪かった。俺が悪かった。好きにしてくれ。この動画も今消すから」
「今更謝ってもおせー！ 首荒って待ってろよ」
「あぁ、そうする。むしろ自主するから」
「はぁ？」
素っ頓狂な声が漏れる。
予想外の展開に一瞬うろたえる。
だけど、ここで引いたら負けだ。
畳み掛けろ！隙を見せるな！
自分の中の誰かが鼓舞してくれるようだ。
「自分から行くよ。それで良い」
「……じゃぁそうしよう。1時間後に警察署の前で待ち合わせだ」
手首に巻いた腕時計を確認しながら念を押した。
とどめの一撃を考え始めたのだけど……
「その前に、そのリング取ってやる」
「え？」
「警察に行ってお巡りのおっさんにジロジロ見られたくないだろ」
「そりゃ見られたくないけど……」
「それは材質がチタンだから専用工具でないと切れないし、焼き切るにしても径が小さすぎる」
「････････････」
「結局、俺しか取れない。だから取ってやる。俺ん家(ち)まで来てくれ」
「･････････本当だな？」
「嘘はつかない。本当だ。俺しか出来ない」
再び沈黙の時。
色々な事が凄い速度で頭の中を駆け巡っている。
最悪の状況も頭の片隅を掠めた。
「ちょっとまて、今パソコン立ち上げる」
「何するんだ？」
「タイマー掛けて警察にメールを送る。被害届けと捜索願だ」
「俺を信用しろよ」
「後から抱きついてくるような変態を信用できるか」
「……分かった。とりあえず道具用意して待ってる」
一方的に電話が切れた。
信用するべきか否かで逡巡して、やはり信用できないと思った。
あの下衆男が何をするか想像が付かない。
小一時間経って長田の実家の前に到着した時、工場は絶賛稼動中の状態だった。
大型機械の賑やかな音が響き渡り、国道を走るトラックの音が伴奏を添えている。
いつ来ても煩くて喧しくて面倒な場所だ。
見上げると3階にある自室の窓から長田が手招きしている。
1階2階が作業場になっているから、3階までの階段が恐ろしく長い。
ソロリソロリと上がって行くと、玄関のドアは開きっぱなしになっていた。
「入ったら閉めてくれ。鍵も掛けて」
部屋の奥から声がする。
言われるままにドアを閉め鍵を掛けた。
家族4人が暮らす筈の長田家だが、当人以外に家族の姿は無い。
「今日は誰も居ないんだよ。親も兄貴も機械の据付に出かけてる」
そうか。納品に行ったのか。
だから家に来いと呼んだんだな。
……なんか嫌な予感しかしない。
ガチャガチャと賑やかな音を立てる工具箱を出してきた長田が手招きしている。
自室に来いと言うのだろうか。余り行きたくは無いが、仕方なく付いて行った。
そして、一歩長田の私室へと入った瞬間、眩暈がした。
そうだそうだ。こいつの部屋はこうだった。今思い出した。
裸の女が両足広げて秘部をパックリと広げているポスターが壁一面に何枚も張ってある。
大小さまざまなエロゲーメーカーの販促品ポスターばかりだ。
寝床の上には知らないキャラの抱き枕。パソコンデスクにはおっぱい型のマウスパッド。
その並びには際どい衣装なフィギアが幾つも並んでいて、中には全裸もある。
壁の本棚には膨大な量のエロ本と薄い本と、そしてエロゲのパッケージが鎮座していた。
なにより……
今更気が付くのが自分でもどうかと思ったけど……
多分今まで気が付かなかったと言うより気にならなかったんだろうけど……
臭い…
臭いんだ…
何とも言えない悪臭。気持ち悪い悪臭。何かが腐ったような悪臭。
何が腐ったのかは考えなくてもすぐに分かる。嫌でも分かる。
最低だ……
思わず壁に寄りかかって溜息をついた。
「どうした？」
「お前の部屋、臭いわ。どうしようもなく臭い。窓を開けてくれ」
「臭い？何が？」
男って最低だ。女をおかずにオナニーしてるんだよ。
なんかもうこいつが、このダメ男が。最低の下衆男が。
息を荒くしながら、壁とかパソコンのモニターとか本とか見ながら、シゴイてる姿がリアルに想像できる。
当の本人は？マークを沢山頭の周りに浮かべながら窓を開けている。
「窓開けるとエアコンきかねーから暑いな」
「暑い方がマシだ」
「ふーん」
小さなテーブルに様々な工具を並べて椅子を用意した。
手招きしてここへ座れのポーズだ。
なんかあの椅子に座ったら、高い思いをして買ったサブリナパンツに白い液のカスがべったりと付くような錯覚を覚えた。
だけど、座らざるを得ないし、立ったままなのは自信がない。正直、今にも蹲りそうな程だ。
「窓開けっ放しだと外から見えるけど、いいか？」
「･････････そうか」
仕方ないって仕草をしたら、長田は慌てて窓を閉めた。
なんで慌てて閉めたのか理由は分からなかったけど……
「んじゃ外すから。上半身裸になってくれ」
「またお前に見せるとは。これ以上無いくらい屈辱的だ」
「キモイ系の俺で悪かったよ」
ちょっとふて腐ってるけど、職人の息子と言うのは道具を持つと顔つきが変わるもんだ。
真剣な目で工具を操作してリングを外し始める。
乳首の先をぐりぐりと動かされると、嫌でもジリジリと感触が伝わってくる。
恥ずかしいけど。こんな奴に見せたくも無いけど。でも、生理現象だ。
乳首が立ち始めた。もうとにかくそれが恥ずかしくて恥ずかしくて。
そして死ぬほど悔しいんだけど、されるがまま……
それより、ちょっと凛々しい位の真面目な顔をガン見している自分がおかしい。
真面目な顔をした時の男を見れば、ＯＫかＮＧかの線引きがしやすいと言った女友達を思い出した。
「よし。外れた」
「それ、よこせよ」
「なんで？」
「証拠品」
一瞬の間が開いて、しぶしぶと手渡されたリングと鈴。
がっくりうな垂れてボリボリと頭を掻く長田の姿を少しだけ痛々しいと感じた。
だけど、情けは無用だ。
「じゃぁ行こうか」
「どこへ？」
「警察行くんだよ。自首するんだろ？」
「そうだったな」
椅子から立ち上がって長田に背中を見せて、外していたブラを胸にしようともう一度手に取ったとき。
ドアの影にあって部屋へ入るときに気が付かなかった物が目に入った。信じられない物が目に入った。
持っていたブラを床にボトリと落として、一瞬、意識が遠くなる。
クラッとよろめいて必死に倒れないように頑張ったんだけど、張り詰めていた意識がブチッと切れたのを感じた。
まるで糸の切れた操り人形のように倒れ込みそうになったとき、すかさず後から長田が手を回して身体を支えてくれた。
こいつの寝床にだけは倒れ込みたくなかった。臭いだけで妊娠しそうな程に精液臭い寝床だ。
後から抱きかかえられて、嫌でもバストを持ち上げるようなアングルになったけど、あそこへ倒れ込むよりはマシだった。
ただ、その、視界へ飛び込んできたものが……
「お前、あれ、まさか」
「え？あ、アレ？」
自分と身体格好が大して変わらない姿をした大型ドール。
それも、高級ダッチワイフメーカーな会社の作っている球体関節模型。
まだ男だった頃に、こいつが集めていたカタログを自慢げに見せてたっけか。
身の丈が170cmに満たない女の胸は、立派に実ったＩカップくらいある。
大きさと良い形と良い、まるで自分の胸を見ているようだった。
ただ、その人形が着ている服が……
「お前に着てもらおうと思って一揃え用意したんだぜ。高かったけど高級品ばかりだ」
えっと…… なんだっけ、この手のコスチューム。
そうだ、ボンデージだ。レザー調な光沢のある素材で作られた、女の陰部と胸が丸出しになっている服。
しかも割れ目に食い込むようなＴバックのショーツが無茶苦茶にエロい空気だ。
これを着せる？俺に？嘘だろ？
「なぁ、どうせ俺は逮捕だよ。もう逃げられないんだから。後生だ。最後の頼みだ。一回だけ着てみてくれ」
頭の中の何かがブチッと音を立てて切れた。
後から抱えていた長田を突き飛ばし、ブラとブラウスを持って部屋を飛び出た。
とにかく逃げなくちゃ！ それしか無かった。
慌てて玄関まで行って、すばやくブラをしてブラウスに袖を通した。自分でも驚くほどすばやかった。
突っ掛けるようにして靴を履きドアノブを押したのだけど……
「開かないよ」
テレビのリモコンみたいな物を持った長田が立っていた。
「空き巣対策で電磁ロックになってるんだ。単なる締め込み錠じゃなくて……」
ピッ！
耳障りな電子音がすると、ドアの周りからガチッと金属同士のぶつかる音がする。
「ドア自体が電磁石で枠に張り付いて開かなくなってる。20t掛けても開かないようになってる」
ロックを掛けたリモコンを自分の部屋方向へポイッと投げて、そしてポケットから別の機械を取り出した。
どう見てもスタンガンだ。それも、刃先がやたらに長いタイプ。スイッチを押したらバチバチと火花が飛ぶ。
いつぞや、自衛用にと買ってもらったと自慢してたっけ。
「もう手荒な事はしたく無いんだよ。ただ、どうせ逮捕されるんだ。おれはそのまま刑務所行きだ」
気が付けば長田が半べそになっている。
「どうせそのまま童貞のままオッサンになんだよ。クラスの連中が女とイチャイチャしてるの見ながら」
とうとう本泣きモードに入った。
「おれはどうせ生の女にも触れられないし、手も握ってもらえないし話も出来ないキモ男だよ」
持ってたスタンガンまでポイッと放り投げて、そのまま腕を目頭に当てて泣いている。
まるで子供のように泣いている。悔しさに肩を震わせて泣いている。
「俺が何したって言うんだよ！そんなに嫌わなくても良いじゃないか！俺だってこんなに生まれたく無かったよ！」
あぁ、だめだ。全くダメだ。もう話にならない。小さな子供が駄々をこねてるようなものだ。
こいつの頭の中には自分を変えるとか自分が悪いとか言う発想が全く無い。
悪いのはいつも全部相手なんだろう。そうしないと自分が保て無いんだろう。
キモイとか臭いとか言う前に、だんだんと面倒臭くなって来た。
こんな最低の奴だったのか、こいつは……
気が付くと女視点で長田を見ている自分に気がついた。
「な？頼むよ。一回で良いから。後生だから。哀れんだ目で見て良いから。徹底的に蔑んで良いから」
床にペタリと座って土下座しはじめた。
つい発作的に足蹴にしてやりたくなった。
このまま踏みつけてやろうか……
「寝言は寝て言えバカヤロー！」
つい大声で怒鳴ってしまった。
周囲に声が漏れたかな？と一瞬考えて、冷静に考えればこの家の外はもっとうるさいのだと気が付く。
むしろ家の中のほうがよほど静かだ。相当防音が行き届いてるんだろう。
「着て見せてくれるまでドアは開けない！」
「じゃぁ警察が来てお前を逮捕されるまで待ってるよ」
「あぁ、そうすれば良い！むしろ、どうせ逮捕されるなら……」
ふと頭を上げた長田の目にゾクッとするような狂気があった。
ヤバイ！ヤバイ！ヤバイ！
こいつ！覚悟決めやがった！
「そうだよ、なんで気が付かなかったんだろう。どうせ逮捕されるんだ。男になってから逮捕されれば」
部屋の方に放り投げたスタンガンをもう一度構えて。
長田がジリジリと距離を詰めてきた。
「思い通りになら無いからって諦めちゃダメだ。思い通りになるように努力しなきゃ」
気持ち悪いくらいの真面目な顔だ。
さっき見せた凛々しい顔とは比較にならないくらい気持ち悪い顔。
背中に金属製のドアの感触を感じた。
これ以上下がれない所まできた。
「来るな！」
どれほど叫んでも、無駄な努力だった……
ヘビに睨まれたカエルの様に、全身が硬直し始めた。
狂気を含んだ眼差しに、身体中全ての細胞が悲鳴を上げているようだった。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
�� 274日目
どれほど泣いたかわからない。
泣き疲れて眠ってしまって、凄く生臭いにおいに気が付いて目を覚ました。
自分のベットに倒れ込むようにして、服を着たまま突っ伏して寝ていた。
お気に入りだったサブリナパンツにどす黒い模様が浮かび上がっている。
濃い柄のブラウスにも染みてしまっている。
あぁ……
やっちゃった……
洗って捨てなくちゃ……
そっと立ち上がってゆっくりと服を脱ぐ。
ブラウスのボタンを外して、サブリナパンツを脱いで。
そして……
艶かしいボンテージルックな姿の自分が、姿見の鏡に映っていた。
お尻の割れ目に食い込むＴバックショーツの紐の隙間から、真っ赤な経血が膝まで流れていた……
「待って！待って！待って！やめて！」
「どうせ通報するんだろ。どうせ警察来るんだろ。なら一緒だ」
突き出されたスタンガンが首元に押し付けられた。
喉を押されて息が出来ない。
「ヤ…… メテ……」
「どいつもこいつも！俺の事をバカにしやがって！」
次の瞬間、視界が全部青く眩く染まった。
一瞬で全ての感覚が無くなって、次の瞬間に全身が悲鳴を上げるほどの痛みが襲ってきた。
息を吸う事も吐く事も出来なくなって、全身の力が抜けて、そのまま前に倒れて床に崩れた。
厚めの防音カーペットがクッションになってくれたのはラッキーだったけど……
「どうせなら死んじまえ！そうだ！死んじまえ！死ね！死ね！死ね！」
首の骨が折れるほど後頭部に押し付けたスタンガンが充電をはじめている。
まるでカメラのストロボをチャージするような音だ。
あの音が聞こえなくなったら、俺、死ぬんだ……
全く身体が動かなくて、抵抗できなくて、音だけを聞いていた。
恐怖も怒りも憎しみも全部消し飛んだ。ただ、音だけを聞いていた。
甲高くなって可聴帯域を越えて聞こえなくなるまで……
「佐藤？さとう？おい！佐藤！本当に死んだのか？」
ガクガクと肩を揺さぶられて、少しからだの感覚が戻ってきた。
身体中が痺れてるような錯覚だ。皮膚の表面全部に静電気を感じてるような感じだ。
猛烈にみぞおちの辺りが痛くなり始めて、ガクガクと揺さぶられている間に、胃液を全部吐き出した。
「おい！本当かよ！マジかよ！おい！しっかりしろよ！」
手荒く担ぎ上げられて長田のベッドに放り込まれた。
あぁ、このまま丸裸に剥かれて姦られるんだ。
抵抗できないまま挿れられて、ファーストキスだけじゃなくてバージンもこいつに取られるんだ。
本当に最低だ……
薄らぼんやりしか見えない視界が滲んだ。
涙が溢れてるんだと気が付いた。
「ごめんよ！ごめんよ！俺が悪かった！ごめんよ！許してくれ！頼むから目を開けてくれ！」
ガクガクと全身が痙攣を始めて、もう一度胃液を吐き出した。
泣き声で介抱している長田の声がだんだんハッキリ聞こえるようになってきた。
関節とか筋肉の痛みが治まってきた。頭の真ん中辺りとか歯茎の痛みだけが残っていたけど……
なんとか自分の意思で身体が動くと気が付いたとき、考えるより前に悲鳴をあげながら壁際に転がって行った。
押さえつけようとしていた長田の手を振り払って。
「大丈夫か？痛かったか？」
「やめて！こないで！あっち行って！もうイヤァァァァァァァァ！！！！！！！！」
部屋の隅で蹲って自分の両肩を自分で抱いて、ガタガタと音を立てて震えながら長田を見上げていた。
右手にスタンガンを持ったまま、長田は呆然とこっちを見ていた。
「もうやめて 痛い事しないで なんでもするからヤメて……」
泣きじゃくってガタガタと震えながら。気が付くと、おしっこを全部漏らしていた。
半年以上の間に染み付いてしまった女側のマインドがそのまま現れた。
あの日。半ばトイレの中で正体が抜けて言われるがままにしていた事を、全部ハッキリと鮮明に思い出した。
口の効けない状態のまま右の乳房が潰れるほどに握り締められ、砂の入った袋で殴打された。
痕を残さずに痛みだけ残す拷問の仕方。長田のもっとも根暗な部分を垣間見た。
「そうか。身体に染み込んだ恐怖は早々簡単に抜けるものじゃないよな」
泣いたり笑ったり忙しい奴だ……
恐慌状態に陥りながらもそんな分析をしている自分がおかしい。
だけど、恐怖と言う感情は中々制御しきれるものじゃない。
ニヤリと笑って立っているその姿に、スタンガンでは無いスパークが頭の中を弾けていた。
「なんでもする？」
「するから…… するから…… だから痛くしないで」
「じゃぁ裸になってみろ」
首を振るより早く目で拒否したつもりだが、長田の手にあったスタンガンが再びバチバチと言い始めた。
途端に全身が震えて震えてどうしようもなくなって、どれほど頭の中で嫌だと叫んでも、勝手に服を脱ぎ始めた。
ガタガタと震えながら、僅かな間に一糸纏わぬ姿に……
あぁ……
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
姦られる
長田がジリジリと迫ってくる。
それが怖くて目を閉じた。
床に蹲ったまま、目を閉じた。
ガサガサと服を脱ぐ音が聞こえる。
何でこんな事に。
あのまま警察へ行けばよかった。
こんな男を信用する方が間違いだった。
でも、もう遅い……
「これを穿いてみろ」
え？
顔を上げると、病的にニヤ付く長田がいた。
膝立ちになって、ろくに布の付いてないショーツを持っている。
「早く立って穿いてみろ」
姦られるよりはマシだ。
力尽くで姦られるよりは。
「それを穿いたら許してくれる？」
「さぁ、どうかな。早くしろ」
右手のスタンガンが再びバチバチと言い始めた。
仕方が無く、力なく、ヨロヨロと立ち上がって、そして長田の肩に手を置いて、そのショーツを穿いた。
お尻の割れ目に紐が食い込むのを感じた。一瞬だけゾクッとしたのだけど……
「次はこれだ」
ワンピース構造になったパンツ部分に足を通す。
一番きつい所が編み上げ構造になっている。
足を通したら、紐が肉に食い込むくらいきつく締められた。
腿を全部覆っても股部分が露出していて、そしてそのまま腰から両胸を覆って首の所で交差する。
背なの肩甲骨が全部見えるようなドレスのような作り。
各部の紐を引いて行って、首裏のフックに全部集まって、そして。
「この南京錠でロックすると、紐は外れないよ」
首裏でカチャリと音がした。
中指部分にループの付いた、二の腕半ばまで包むグローブをはめられて、長田が満足そうに眺めている。
「あぁ、やっぱおっぱいデカイ女だと似合うなぁ」
いきなり抱き寄せられて、丸見えになった胸に谷間に顔を埋められた。
なんだかもう興奮してるのか恐慌状態なのか分からない。
ただ、目だけはバチバチと音を立てるスタンガンだけを凝視していた……
手を伸ばした首裏の南京錠はどうやっても外れそうに無い。
自分の股座がどうしようもなく気持ち悪くて、丁寧にティッシュで拭いてから立ち上がった。
家の中には誰もいない。昨日の夜、自宅へ帰ってきたとき、母親の書置きがテーブルにあった。
父親が急な出張になったらしく、最終の飛行機に乗せる為に空港まで送ったそうだ。
遅くなるから空港で泊まって午後には空港へ帰ってくる父親を待っているらしい。
こんな姿を見せなくて良かった。泣きながら帰ってきたのだから。
きっと卒倒したかもしれない。ショックの余り寝込んだかもしれない。
風呂場へと歩いて行って、そして口に指を突っ込んだ。
どうしても吐き出したかった。あの拭い難い恐怖感と屈辱感と被征服感を。
この服を着せられて、そして「奉仕」させられた。
口の中にあの嫌な感覚が甦って、指を入れなくても吐き気を催してきた。
黄色い胃液が出なくなるまで吐き続けた。
嫌な臭いのするザーメンの味を思い出して、なおも吐き続けた。
スタンガンで脅されて、あの悪臭しかしない、いきり立った長田のペニスを咥えた時に、自分の中で何かが壊れた。
分厚いレザー製のこの服は、普通の鋏では切る事すら出来なかった。
裁縫用の裁ちばさみで時間を掛けてゆっくりと切って行って、全部脱ぐまでに1時間掛かった。
恐ろしいほどに丁寧に作られているのだけど、今は気持ち悪いだけ。
風呂場の中でバサバサと切り刻んだ。タラタラと経血を垂らしながら切り刻んだ。
猛烈に胃がムカムカとして、胃液の影響か食道が焼けて痛い。
だけど、水を飲もうとしてもお茶を飲もうとしても、口の中に長田のザーメンの味が甦ってくる。
どうにかして飲もうと色々探して最終的に飲み込めたのは、父親のウィスキーだった。
着ていた物を全部処分して、生理用品をサニタリーショーツに挟んで。
そして、グラスに一杯、ストレートでウィスキーを煽って、再び眠りに付いた。
嫌な夢だったと自分に言い聞かせて。
強引に眠りに付いた。
長田から携帯で呼ばれてるのすら気が付かずに……
�ぁ�275日目
何もしたく無い……
動けないほど重い生理。
精神的なストレスから来ている事は分かっていた。
やつれ切った真っ青な顔を見て、母親が病院へと連れてきた。
担当だった男性は異動でいなくなり、変わって担当になったのは女医さんだった。
「生理が重いのは個人差ですから仕方が無いですけど、ちょっと酷すぎますね」
アレコレと検査が始まり、脳の一部に血栓の障害があるかもしれないと診断が下された。
週末と言う事もあって土日の二日間、検査入院をかねて点滴を受けた。
何を食べても、何を飲んでも、全部あの味を思い出してしまう。
何も受け付けなくなっていた身体に染み込んでいくように、ブドウ糖を幾つもうたれた。
「ひかり…… 大丈夫？ 何かあったんでしょ」
見舞いに来てくれたクラスメートの女友達２人が心配そうに覗き込んでいる。
げっそりと頬のこけている顔を見られるのが恥ずかしかった。
「もしかして長田じゃない？原因は」
ボソボソと喋る友達がいきなり核心を突いた。
「ひかりが来ない間に学校の中で乱闘があってね。嶋田が長田を窓から投げ落としたの。３階から」
「うそ……」
「木の枝に引っかかって地面へ直接は落ちなかったんだけど、その後も嶋田がずっと殴り続けて」
思わずニヤリと笑みがこぼれた。
ザマーミロ！と心の中で喝采を叫んだ。
「その後どうなったの？」
「途中から佐野まで加わって、本当に酷い事になって、救急車を呼ばれたんだけどね」
「うん」
「その後で……
話の続きを聞こうとした時、カーテンの向こう側に人の気配を感じた。
こんな時の女の感覚は本当に鋭い。
自分でも気がつかないうちに出来る様になっていたのだけど……
「ちょっとごめんなさいね。佐藤さんはコチラでよろしいですか？」
「はい……」
女性の声がして、誰だろう？と思案してる間に、ビシッとスーツを決めた女性がカーテンを開けた。
「○○警察署の捜査一課から来ました。ちょっとお話を聞かせてくれる？」
「……はい」
友達が揃っている環境だったけど、女性の性被害担当部署だと言う事で構わずにアレコレ聞かれた。
どうやら、長田を徹底的に締め上げた嶋田と佐野が、洗いざらい全部吐かせたらしい。
全ての事件が一直線に繋がって、そして、所轄警察署が動き出したようだ。
救急車で病院へと担ぎ込まれた長田は最初、意識不明の重態だったらしい。
脊椎骨折とか頭蓋骨陥没骨折とか脳挫傷とか、そうとう長田は酷いようだ。
快復を待って補導されるそうだが、おそらくその前に立件されて逮捕の流れに向かうでしょう……との事。
傷害致死未遂の現行犯だった嶋田と佐野は、観察処分と言う事で自宅謹慎らしい。
「佐藤さん。申し訳ないんだけど」
証拠画像が必要とのことで、左乳首の写真を撮られた。
孔が塞がり掛けているのだけど、その傷口を見て友人たちが一様に怒り始める。
「ひかり！何で言ってくれないのよ」
「そうよ。相談してくれたって良いじゃない」
プンプンと怒りながら、友人の一人が傷口に薬を塗ってくれた。
「女の大事な部分になんて事するんだ。あのバカ男」
「本当にデリカシーが無い男って最低よね」
ぷりぷりと怒っている姿を見ながら、実は自分が大事にされているんだと気がついた。
「後日改めて裁判調書を取る事になるけど、今日はこれ位にしておくから。まずは早く良くなってね」
「有り難うございます」
「警察は常に被害者の側に立っているから、心配しないで恥ずかしがらないで、なんでも相談してください」
颯爽と立ち去っていく後姿を見送って、そして今度は友人たちの厳しい尋問が始まった。
あれこれと聞かれるのだけど、最終的に聞きたい事は一つだと分かっている。
「……色々嫌なことされたけど、でも、結局はヤられなかったよ。まだ未開通」
「そうなんだ。じゃぁ良かったね。まだ綺麗なままで」
「うん」
二人して顔を見合わせたのだけど、そこから先は男とは違うスケベモードな顔だった。
「あのね。嶋田ね。絶対ひかりに気があるよ」
「うん、間違いないよ。だって長田が自慢げにヤったのなんだのと言い始めたとき」
「もう凄い表情でさ。いきなり椅子を持ち上げて長田が飛んでく位に殴り始めて」
「ほら。長田って口先番長でしょ？出任せ番長。いつも上から目線だし。だから嶋田がぶち切れたのよ」
「ヤっても無いのに自慢するな！とか言い始めて」
「長田が慌てて携帯出して証拠画像が！とか言い出してね。嶋田がそれ見たらもう大爆発で」
「そのまま携帯奪い取ってガンガン踏みつけて粉砕してさ」
「長田の襟をグッと掴んで持ち上げて、もう大変だった。鼻血とか飛び散って」
「いざとなると長田って結局何も出来ないのよ。みっともないくらい。殴られっぱなし」
「５分くらい殴り続けて、挙句に窓からポイッって。本当にゴミでも捨てるみたいにポイッて」
半ば興奮して喋り続ける女友達二人。
同じ部屋に入院中のおばちゃんやらおねーさんまで話を聞き始めた。
「そのまま教室飛び出して行ってさ。なんか傘立てとかゴミ箱とかで殴り続けて」
「校庭の辺りで長田が勘弁してくださいとか何とかって言ってたんだけど、嶋田が収まらなくて」
「そのうち佐野がどっかから鉄パイプみたいなの持ってきてさ」
「顔とかもう何がなんだか分からない位だったよ」
「それでさ、嶋田が言うのよ『てめぇ！何やったか洗いざらい言いやがれ！』って」
興奮しながら一気に話が進んで、しばらくはウンウンと頷きながら話を聞くだけだった。
「だけどさぁ 長田も恥ずかしくないのかなぁ」
唐突にそう言った友人の言葉が理解できなかった。
恥ずかしがる要素が思い浮かばない。
「なんで？」
かなり素直にそんな言葉が口を突いて出た。
本当に意味がわからない。
「だってさ。ちょっと調べれば出任せって分かるじゃない。嘘ついてるってばれるでしょ」
「で、しかも、悪いのは全部お前で自分は何も悪くないって言い切るタイプでしょ？」
「厚かましいとか図々しいとか、そんなもんじゃ無いよね、あれは」
「自分の痛さは自分が一番分からないのよね。結局」
結構言いたい事を言うもんだなぁ……
口さがない友人のエンドレストークを聞きながら、少しずつ心の中にあった滓の様な感情が消えていった。
他愛も無い雑談だけど、その中にあるもので随分と癒されるのだと気が付いた。
クラスの女たちが教室の中で輪になったり、或いは少人数で顔を突き合わせたりしながら。
延々とおしゃべりする理由をちょっとだけ理解した。
なにより初めて、こんなエンドレストークなおしゃべりを楽しいと感じていた。
その日の夜。
検査結果を持って担当の女医さんがやってきた。
「佐藤さん。ちょっと良いですか？」
ベッドから起き上がって話を聞く体制になった。
女医さんは封筒の中から何枚もの検査結果が出ている資料を取り出した。
書き込まれた数字を一つ一つ丁寧に説明しながら、私の反応を見ていた。
「でね、結論から言うと。各種ホルモンの分泌異常です。ただ、これは治療出来ません」
別の資料が出てきた。
そもそも人間は誰だって各種のホルモンを脳が分泌しているそうだ。
私の場合は遺伝子が書き換えられた女の部分と、僅かに残るオリジナル遺伝子な男の部分が共存している。
だから、両方に対応しようとして脳が頑張っているらしい。
通常の10倍以上の女性ホルモンが分泌されているので、どんどんバストが大きくなったようだ。
ただ、現状ではそれも落ち着いてきたらしく、これからはあまり体の変化が無いと予想しているとの事。
多分バストはこれ以上大きくならない筈。生理が重いのは、異常ともいえる女性ホルモンの分泌量によるもの。
その他、内蔵類には異常が無さそうだけど、骨格的な部分、女性的な骨盤に変化して行く過程で成長痛のような反応が出る可能性を指摘された。
「とにかく言える事は、バランスよく栄養を取って、そして良く寝ることです。あと……」
何種類か薬を出したのだけど、同時に言われたショッキングな一言が胸に突き刺さった。
「服用すると身体のだるさや生理痛などの諸症状を改善できますけど、終りきってない女性化が一気に進みます」
「一気に？」
「そうです。おそらく排卵期が終ってから一気に様々な部分がガクッと変わるはずです」
「例えば、どんな部分ですが？」
「そうですね。私もあなたの身体を隅々まで把握してる訳じゃないのではっきりした事は言えませんが」
言葉を濁しているな……
そんな部分が嫌と言うほど伝わってくる。
「例えば、爪とか髪とか、些細だけど男女間で大きく差が付きやすい部分に影響が出るはずですし、あとは」
「あとは？」
「肌とか或いは、骨格や基礎筋量的な部分ですね」
「そうですか」
「で、最終的には……」
書類を封筒に納めながら女医さんが言葉を選んでいる。
どんな言葉が出るんだろう。息を殺して待っていると……
「再び遺伝子レベルで肉体を再構成したとき。要するに、男性に戻る時、元に戻りきれない可能性があります」
モトニモドリキレナ……イ？
「感覚的な部分ですが、神経密度的に女性のほうが濃い部分が有るんですよ。要するに、色んな所が敏感のままって事です」
「････････････････････」
「あと、男女間で大きく差が出る骨盤回りとかね。広がったままかもしれません」
書類を綺麗に揃えてベッドサイドの引き出しへと収め、女医さんが立ち上がった。
ややラフに羽織った白衣と首から提げた聴診器が凛々しくもあり美しくもあった。
素敵な女性の理想像とも言うべき姿。
「まぁ、余り深刻に考えないで、まずは体力回復させましょう」
ニコッと笑って部屋を出て行くのだけど、妙な部分で変な胸騒ぎを覚えて、何となく寝付けなかった。
先々を思うと、気分的にまた重くなり始めていた。
自分がどうなってしまうのか。
再生カプセルから出てきた最初の頃の、あの漠然とした不安に押しつぶされそうな日々を思い出した。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
�ァ�277日目
何事も無かったように月曜日が来た。
全てを知る事になった両親は酷くやつれていたが、自分自身は案外ケロッとしている。
なんと言うか。まだ男だった頃に年がら年中嫌がらせをされていた頃に鍛えられたのかもしれない。
負け犬だなとも思ったのだけど、だけど……
自分自身が努めて明るく振舞わないと、両親はもっと落ち込むだろう。
心労から身体を壊しかねない。これ以上迷惑を掛けたくは無い。
それに、友達の励ましとかエンドレストークが思った以上に元気にしてくれる。
学校に行ってる方が楽しいから全然平気だと強がって、そして元気良く家を出て行く。
これしかない。そう思っていた。
そして。
「……よう」
家を出てしばらく行った先で私を待っていたのは嶋田だった。
乱暴な口調で私服だったけど、すぐに分かった。
「……おはよう」
はにかんで頬を赤らめている自分が可笑しい。
なぜかまっすぐに嶋田を見られない。ちょっとモジモジしつつ上目遣いにしていた。
「私のことで…… ごめん」
「あ、いや、あの、うーん」
「謹慎中なんじゃないの？」
「そうだけど、まぁ、いいんじゃね？学校まで送るわ。アブねーから」
コクッと頷いて歩き始める。カバンを自分の前にして、両手でぶら下げるようにして。
最初はスカートがなびく位の速度だったけど、だんだんと遅くなっていく。
「あのクソ野郎。アチコチに言いふらしたらしくて……
どこか遠くを見ながら話し続けている嶋田を見上げていた。
前はそれほど思わなかったけど、自分より結構背が高い。
もしかして縮んでるんじゃ？と思うほどだけど……
「話聞いてる？」
「え？ あ…… もちろん！」
「んなら良いけど。そんな訳で気を付けろよ。変なのが狙ってんぜ」
ごめん。話全然聞いてなかった。横顔に見とれてた。こんなに良い男だったんだ。気がつかなかった。
クラスの女たちから人気の筈だよ。だって今わたしがキュンキュンしてるもの！
校門近くまで送ってくれた嶋田に手を振って学校へ入る。
彼は謹慎中と言う建前なので学校の近くには近づかなかった。
朝からラッキーだな〜♪
上機嫌で歩いていると、見舞いに来てくれた友人たちが駆けて来た。
「おはよー！ひかり！朝からお熱い事！」
「コクられた？ねぇ！ハッキリ言いなさいよ！」
ヒューヒューと囃し立てられて赤くなるんだけど、まぁ、まんざらじゃないな。
恥ずかしいからヤメテ欲しいんだけど、あれこれ言われるのは、まぁ、悪くない。
職員室へ呼び出され、アレコレと質問されたのだけど、正直な所を全部答えるのはちょっと恥ずかしい。
だって、あんな衣装着せられたとか、どんな衣装だったとか、根掘り葉掘り聞かれるのは困る。
まぁ、とりあえず肝心な部分はぼかして答えて、教師達の判断に任せる事にした。
あとからみんなが居る前でアレコレ言われるのもいやだったし。
この日一日はジェットコースターのように過ぎて行き、下校の段になってどこからとも無く佐野が現れた。
「家まで送るわ」
「え？」
「いや、まぁ、なんだ。アレ見ちゃうとな」
「アレって？」
無防備に聞き返したのだけど、佐野はどこかちょっと困ったように周囲を確かめた。
かなりショッキングな映像だからと、携帯の画面に手をかざして、そっと見せてくれた。
トイレの中で上半身裸になって、そして、左の乳首に鈴をぶら下げるわたしの写真。
さすがにあの衣装を着て、長田の前で膝まづいて奉仕させられている写真は無かったが……
「これ、どうしたの？」
「長田の野郎が自慢げに送ってきたんだよ」
「……ほんとに？」
「うん」
流石にこの時は頭に来た。外にもれ出ているとは思わなかった。
だけど、確かにこれは……
「これ、誰かに転送した？」
「するわけねぇって。第一、やったら嶋田に殺される」
「そう……」
少しホッとした。
だけど、その後で佐野の口から出てきた言葉が、心臓を止めてしまうほどの威力だった。
「ただ、インターネットの掲示板に貼ったとか何とか言ってたぜ」
「……そんなバカな」
「神扱いされて最高に気持ちよかったとか何とかって」
「････････････････」
言葉が出てこなかった。もう本当に絶句していた。
「嶋田がそれを聞いてあちこち調べたらこれが出てきて、で、次の日に長田を捕まえて聞いたんだよ」
「じゃぁ他にも出回ってるの？」
「俺は知らない。けど、長田が例によって良い調子でペラペラやりやがって、で、嶋田がぶち切れたって訳さ」
下駄箱へ促され外履きに履き代えて校舎を出た。
なんか正門側で人だかりがしていて、誰かが何かをやっている。
なんだろう？と足を向けようとしたのだけど、その人だかりの中から前田が出てきてこちらへやって来た。
「おぃ！佐藤！ こっちから出んなや！ スゲーぜ」
「どうしたの？」
「なんかキメーおっさんとかがカメラ持って結集してんのや。目当てはお前やろ」
佐野がセーラー服の袖をぐいと引っ張って物陰へと隠れた。
通りの側からおびただしい量のレンズがこっちを向いていた。
―― おう！邪魔だ！クソガキ！どけや！
居並ぶキモい連中の誰かが罵声を飛ばしてきた。
その声にブチッときたのか、前田が一目散に走って行って、そのまま飛び蹴りモードに入った。
「おぃ！ 喧嘩や！ 喧嘩！ 男集合！」
前田が声をあげると、アチコチから男子生徒が飛び出して行って、校門前で大乱闘になってしまった。
ちょっと唖然としながら眺める先で、男子高校生が一方的にキモヲタを蹴散らしている。
そして、チャライ印象しかなかった前田だけど、実はかなり真面目な男なんだと気が付く。
ただ、とにかく面倒な事になったと、実際それしか印象が沸かなかった。
�Α�287日目
学校の周囲に始まり、登下校中の街中から、はては自宅の周辺まで。
四六時中誰かが監視してるように見られている日々。
自宅から一歩も外へ出られない窮屈さに辟易としていた。
ただ、その中でも良いことが一つだけあって……
♪ピンポーン
「はーい」
朝8時半。お母さんが玄関のドアを開けると男子高校生三人組が立っている。
「おはようございます」
「ピンカラ兄弟です」
「なんでやねん！」
とりあえず自宅謹慎が解けた嶋田を中心に、佐野と前田が自宅へとやってきていた。
金属バットやら鉄パイプやら、とにかく物騒なものを手にして一緒に学校へ通っている。
監察処分中な筈なんだけど、そんなの持って歩いてて平気なのかな？と妙な心配をする母親が可笑しい。
また、それだけでなく途中からわざわざ遠回りしてまで……
「おはよう！ひかり！」
「あ、おはよう」
何人かの女友達が合流してくる。
気が付けば7人8人と人が増えていき、気が付くと20人近い団体で学校へと歩いていた。
「おい、アレ見ろよ」
「あー 今朝もぎょーさん居(お)るなぁ」
「一発殴ってくるわ」
突然佐野が走り出した。途中の歩道橋で、上からレンズを向けているおじさんが居た。
高校生と親父の足では速度が違いすぎる。難なく補足され、手痛い洗礼を受けている。
そんな事が繰り返されて、10日目の朝。
目に見えてパパラッチャーの数が減っていた。
「お前らあんまりやりすぎるなよ」
教師もあまり追及はして居ない。
学校に電話が掛かってきても、学校側は登下校時の件は把握して無いので警察へ行ってくれと取り合わない。
当の警察は根掘り葉掘り追及してきて、事件性的な部分の前に、なんでそうなったのかを追求される。
もうちょっとしたら落ち着くかな？
そんな風に期待しつつ、賑やかな登下校を楽しんでいた。
しかし……
授業の合間の休み時間。
トイレに行って用を足しているとき、隣の個室から携帯で通話する声が聞こえた。
―― うん うん
―― でもさぁ 毎朝あんなの見せ付けられたらさぁ
なにかの相槌なんだろうけど……
毎朝？なんか有ったの？
わたしの与り知らない所で？
―― そう 男たくさん連れてさぁ 見てて腹立つじゃない
え？ それってもしかして……
―― しかも嶋田とか前田とかでしょ 腹立つわねぇ……
私のこと？やっぱり私のこと？ この声誰だろう？多分わたしのクラスじゃないと思うけど。
でも……
―― ちょっと胸がでかくて美人だからってさぁ ムカつくのよ
……望んでこうなった訳じゃ無いんだけどなぁ
って言うか、代われるもんなら代わりたい。
普通の女子高生やってみたいよ。わたしだって。
―― そうそう 商売上がったりなの それが一番問題
……商売？
え？商売？ しょーばい……
あ、そうか。第2保健室のアレか……
―― もうすぐ夏休みでしょ 今が稼ぎ時じゃない おじさん相手は面倒だしさ
おじさん相手って。もしかしてエンコーしてんの？
この人誰だろう。声を覚えておかなくちゃ。
―― うん そう そうしよう
何か相談がまとまったらしい。
声のトーンがいきなり変わった。
―― 場所のセッティングは任せるね そう そうなっちゃえば男も諦めるよ あ チョイ待ち
……？
もしかしてこっちに気が付いたかな？
ただ、個室の中身は向こうも分からないはず。
先に出てしまおう。そうしよう。
そそくさとトイレを出て教室に戻りつつ、女子トイレが見える位置で立ち止まって外を見るフリをしていた。
3回の廊下から見ると、向かいのマンションの階段踊り場から望遠レンズを向けている人が見えた。
あんな所にも居るのか……
はぁ…… 面倒くさい……
プイッとそっぽを向いて再びトイレ側を見たのだけど、既に誰も居なかった。
一瞬の間に居なくなった声の主が誰だか確かめる術が無かった。
なんとなく嫌な予感がしたのだけど……
さしあたって問題は常にアチコチから向けられているレンズから、いかにして逃げるか？だった。
�А�291日目
明らかに体調下り坂だ。理由は分かっている。もうすぐ生理だ。
下腹部の不快感と慢性的な重さも始まった。とにかくダルい。
ハードワイヤーなブラの中に鎮座する巨大なバストも張ってきて、ちょっと擦れるだけで乳首が痛い。
もしかしてまた少し大きくなったんじゃ？と不安になるけど、でも仕方が無いらしいし……
微妙に不機嫌な朝だったけど、母親は気にせず何かの支度をしていた。
「お父さん2ヶ月ほど出張になったから、お母さん2週間だけ付いてくね。一人で留守番だけど大丈夫よね」
「……うん。大丈夫」
「しばらく居ないけどあまり無茶しちゃだめよ。まぁ、遠慮なくデートして来れば良いんじゃない」
フフフ……
あぁ、そうか。お母さんにもこういう頃が有ったんだ。
デートして誘われて、一緒に朝を迎えたい彼氏がいたんだ。
だけど帰って来いっておじいちゃんとかおばあちゃんが煩くて……
「お母さん」
「なに？」
「デートしてる時って楽しかった？」
「勿論じゃない。夢のようなひと時よ。眩しいくらいの朝もね」
フンフンと鼻歌まで歌いながら支度しているのだけど、お父さんは心配そうだった。
「お前を連れて行くべきなんだが……」
「子供じゃないから大丈夫」
「もう夏休みだからなぁ」
「今日で終わりだから、変なのに狙われるのも今日で終わり」
努めて明るく言ったつもりなんだけど。
お父さんの目がいつもより酷く暗い眼差しに見えた。
「だから心配なんだ」
何がどう心配なのか。それを理解出来ない訳じゃない。
ただ、問題の発生源はまだ病院の中だし、パパラッチは減ってきたし。
それに、今現状なら毎朝確実に……
♪ピンポーン
―― はい
ガチャ……
「おはようございます！」
「ちゃんばらトリオです！」
「なんやん！そっちかい！ って、あ…… おはようございます」
……あの三人は毎朝ネタ合わせして来てるとしか思えない。
毎日のようにやってくるあの3人が居れば、とりあえず怖くない。
怖くないどころか楽しい毎日だ。
「行ってきます」
「留守中は家の事を宜しくね」
居間から手を振るお母さんをチラリと見て家を出た。
お父さんは奥に居て見えなかった。
2週間か……
ウッカリしているとあっと言う間だな。
妙な期待に胸を膨らませていたのだけど、正直、バストはこれ以上大きくなって欲しくない。
あっと言う間に学校へ着いて、終業式前の大掃除をこなして。
隅々まで掃除しつつ周りを見ていると、女の目って凄いなと実感するようなシーンを幾つも目撃する。
ここまで気がつかないよ……って所まで掃除している友人たちは、まるで自分の母親のように思えた。
世の中の女って、こういう能力が必要なのか……と。
変なところを感心しながら更衣室へ戻ったら事件がおきていた。
ロッカーがひっくり返って、中身が全部出ていた。
どうやってひっくり返したのか疑問だったけど、どうやらロッカーの上を掃除中にやったらしい。
小柄で軽量な女の子とは言え、ロッカーの上に乗って動いてバランスを崩せば、ロッカーごとひっくり返るって事だ。
全部撒き散らされた中身をみんなで手分けして元に戻してから着替えたのだけど……
「あれ？」
「どしたの？」
「上が小さい」
「あ、ほんとだ」
セーラー服が2サイズくらい小さくなっていて、大きな胸が制服から突き出すように膨らんでいる。
「誰かのと間違えたかな？」
「そうだね」
「誰のだろう？」
探そうにも残っているセーラー服には無記名が無い。
実は自分の着ているセーラー服は名前の刺繍が入っていないのだった。
終業式の時間が迫っているから、とりあえず講堂へと向かった。
キツいサイズのセーラー服だから嫌でも胸が目立つ。
「最終日で福眼福眼♪」
「あっち向いてろスケベ！」
そんな調子で冗談を言いながら、夏休みに突入した。
やたらキツいセーラー服のまま帰宅したのだけど、今日もアチコチで隠れながらレンズを向けてる人が居た。
全部承知で胸の大きさを見せびらかすように、無駄に振り返ったりしながらの帰り道。
こんなのも楽しい。
ちょっと不機嫌だった筈だけど、やっぱり学校生活は楽しかった。
夏休みは何しようか……
誰かとデートしたいな……
ちょっと良い関係になっちゃったりして……
ウフフ……
ハッと気がつき我に返る。俺は男だ。女じゃない！
油断していると女側のマインドに埋められている。
これは拙いな……
アレコレと思案しながら歩いていたら、あっと言う間に自宅へ付いた。
「ありがとう」
「おう！良いって事よ」
「何か有ったら電話くれよ」
「なんならワテ一人だけでもエエよ」
抜け駆けすんなコラ！……
そんな掛け合いの3人組。
とりあえず、いつもよりキツいセーラー服を脱ぎたい。
やっぱりどこにも名前が無い。誰のだろう？
なんか三人組の掛け合いを眺めつつアレコレ考えていたら、携帯の呼び出し音が聞こえた。
注目を浴びつつ無意識に電話を取ったら聞き覚えのある声が……
―― あ、やっと繋がった！どこにいんのよ！
ちょっと不機嫌な声。
えっと…… あ、そうだ。
「渡辺……さん？」
―― そうよ！あたしの制服返して！
「あ、そうだったんだ」
―― そうよ！こんなでっかい制服着てんのあなた位なものよ！
「え…… あ…… ごめん。気がつかなかった」
―― 気付きなさいよ！ちょっと胸が大きいからって良い気になってんじゃないわよ！
「ごめん。でも好きでこうなった訳じゃ……
―― とりあえず、あんたのこの牛胸サイズのは預かっておくから
「うん」
―― あしたで良いからウチまで届けて！あたし今から部活の合宿で出かけちゃうから！
「あ、わかった。そうする。ごめんね」
―― あんた中身男なんでしょ！キモイ！
ブツッ……
なんでこんなに怒ってるんだろう？だんだんこっちまで腹が立ってきた。
だけど、女の子には無性に不機嫌になる時がある事を今は知っている。
今の自分がまさにそうだから、余計に腹が立つんだろう。
きっとそうなんだろう。
そう思うことにして深く考えるのをやめた……
とりあえずバイバイと手を振って家に入れば蛻の殻。
お母さんはお父さんの出張先へ一緒に行ったようだ。
―― おーい！佐藤！
外から呼ばれている。
「なに？」
ドアを開けたらまだ三人組が立っている。
「今の電話、相手誰や？」
「あ、渡辺さん……」
「なんだって？」
「セーラー服返せって」
「なんだ、そんな事か」
「うん」
三人組が顔を見合わせている。
どうやら男からの電話を疑ったらしいが……
「暇になったら電話するね」
「おう！」
男って案外単純だな。
自分が男だったことを一瞬忘れて、そんな事を思っていた。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
�─�292日目
携帯を片手に足を運んだ事の無いエリアをウロウロする。
酷く暑い日だけど、最近やっと慣れてきた薄着での外出だから多少快適だ。
日焼けどめや制汗スプレーや、女の子は身だしなみの為の持ち物が多いのにも慣れた。
そろそろ生理が来そうだからと、あれやこれやが増えてるのもあるんだけど。
送られてきたショートメッセージの住所情報を頼りにやってきたのは、郊外の高層マンションだった。
ここの3階の一室。ここが彼女の自宅らしい。
入り口でインターホンを押すと、明るい声で応答があった。
―― はい、どちらさま？
「あ、あの。佐藤と言います。制服を渡しに来ました」
―― あ〜 聞いてます。入ってきて。
ガチャリと鍵の空く音がして、玄関の自動ドアが開いた。
どこか寒々しい雰囲気のエレベーターに乗って3階へと上がる。
デジタル表示される階数の文字を一つずつ数えながら。
13階段を上がって行く自分をどこかイメージした。
小さな踊り場の向こうにある玄関は二つ。このフロアには二部屋しか無いらしい。
一戸当たりが相当広く作ってある高級マンションだ……
何となくそんな事を理解した。
金銭的な物は分からないけど、でも、きっとそうなんだと。
直感的にそう思った。
ピンポ〜ン♪
どうぞー
重厚なドアを開けると、中から賑やかな音楽が聞こえた。
ドアの外では全く聞こえなかった位だから、そうとう防音がしっかりしているのだろう。
すこしだけ長田の家を思い出した……
「あのー」
「良かった上がってって。今ちょっと手が離せないから」
「……お邪魔します」
いつもより丁寧に靴を揃えてお邪魔した。
幅に余裕のある長い廊下の左右に二つずつ大きな部屋があり、それを過ぎるとキッチンとトイレ･バスルーム。
その奥には大きなリビングがあって、大きなつくりのソファーが幾つか置いてあった。
「ちょっと腰掛けて待っててね」
唐突に声を掛けられて驚くと、リビングの奥の部屋からキャミソール一枚な女性が出てきた。
「妹のなの。ゴメンね。わざわざ持ってきてもらってさぁ」
ネイルアートの真っ最中なのか。両手の爪に様々な柄が入っていて、それを乾かしていた。
パッと見たときには花柄にも見えた。だけど、一瞬の間に良く見たら花ではなく不思議な模様だった。
「もう乾くから、ちょっと待って」
再び部屋の奥へと引っ込んで、そして奥のほうでガサガサと音を立てて何かをやっている。
「ゴメンね。こんな暑いのに。これ飲んで待ってて」
トレーに乗った大き目のグラス。
中にはウーロン茶か麦茶か、そんな物が入っている。
脇には小さなお菓子が添えてある。
「なんも無くってさぁ。 そんなのしかないんだ。子供だましでゴメンね」
笑顔のかわいい人だなぁ…… 一瞬、そんな事を思った。
電話を貰った渡辺さんに余り似ていないようにも見えるお姉さん。
再び部屋の奥へ行って何かをやっている。
少々時間が過ぎ、手持ち無沙汰になったのでお菓子を貰った。
ちょっと舌に薬っぽいような味が残る不思議な焼き菓子だった。
たまらずグラスの中身を一口飲む。麦茶のようでもありほうじ茶のようでもある味だ。
ただ、不味くは無いので、大目に飲んで一息ついた。
何をやってるのだろう？随分待たされてる。
ただまぁ、他に予定は無いし、自分の家に人も来ないし。
のんびり待つか…… 良い天気の窓の外へ目をやって、雲を眺めていた。
刹那、目蓋が急に重くなって意識が一瞬遠くなる。
なんか急に眠くなってきた。
これはまずいな……
なんとかしないと……と思うまもなく意識が遠くなり始めた。
椅子に座ってられない程の眠気がやってきて、そのまま崩れるようにソファーに倒れこんだ。
生活感の無い天井が見えた。
それが最後だった。
�� ???日目
どこからか女の熱い吐息が聞こえる。
なんとなく意識が戻ってきて、最初は全く事態が飲み込めない。
一瞬、パニックを起こして身体が猛烈に震えたのだけど、思うように動かせない事に気がついた。
全く目を開けられない。何かが張り付いている様な、何かでふさがれている様な、そんな感覚。
段々とパニックが収まっていって、自分の状況を確認していく。
まず、目だけでなく口も空けられないことが分かった。長田に張られたガムテープと同じ感覚だった。
変なところで長田の責め苦が役に立ったのを笑いたくなるほどだが……
なぜか息が出来る。舌先を動かすと、僅かに細い管が数本通してあるようだ。
完全に口を塞ぐと鼻が詰れば窒息死する。
つまり殺す気は無いんだな……と理解して、どこかちょっとホッとする。
膝を抱え両手で抱きしめるような姿勢なのだけど、両手が自由にならない。
手首と足首を何かで縛られているのがわかった。
意識を集中していくと、膝頭も縛られていると気がつく。
つまり、全く身動きが出来ない状態。
そのままどこか衣類の積み重なった狭い場所へ押し込まれている。
この感覚は何度か感じた事がある……
なんだっけか……
そうだ。押入れとかタンスの中だ。
まだ小さな頃に入って隠れた洋服タンスの中。
そう気がつくと、衣類の臭いが鼻を突いてくることにも気がつく。
自分の状況が分かってくると、今度は外の音が気になってくる。
さっきから断続的に続く、女たちの嬌声と熱い吐息。艶っぽい喘ぎ声。
第2保健室で垣間見た、男と女の色恋の現場と同じ声。
更に言えば、全部聞き覚えのある声ばかりだ。
幾つもの声が折り重なって、それに男たちの獣染みた呼吸音が入り混じって。
なんとなくこの閉じ込められている所の中まで、男女の営みのあの臭いまでが入ってくるようだ。
―― あ！ぅんぅんん…！ ぅあぁぁぁ！ イクゥッ！
あれ？この声は……
渡辺だ。電話を掛けてきた渡辺の声だ。
そして今気がついた。
トイレの個室で隣から聞こえてきた声だ。
あ…… ！！！
嵌められた。罠に嵌ったんだと気がついた。
何で気がつかなかったんだろう。
あの時、自分の身に降りかかろうとしている危険を気付けなかった。
全身がブルッと震えて、恐怖に身を硬くした。
ホッといてもカタカタと小刻みに震えだして、そして自分が裸でいることに気がついた。
両手に衣類の感触があったから気が付かなかったんだ。
もっと言えば、両手の着衣の感触は、軍手のような手袋のような不思議な感覚だった。
綿の詰ったぬいぐるみに手を突っ込んだような……
指が使えない……
全く身動きできない上に、もし手と足を拘束しているものが取れても、指が使えないから……
状況として完全に詰んでる事を理解した。
もうどうしようもない。
ある意味、長田の仕打ちの方が生ぬるかったのだ。
―― おらぁ！いくぞ！
―― あﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞ いい！ すごい！ あﾞ！あﾞ！あﾞ！
獣のような声が幾つも響いて、やがて部屋が静かになった。
甘い吐息が幾つも聞こえている。肩で息をするような、そんな吐息。
―― 取ってあげる♪
メリメリと音がして、何をしているのかすぐに分かった。
―― おいおい、どーすんだよソレ
―― 記念に取っておくの。この夏最初の乱パ記念
―― ふーん……
―― 綺麗にしてあげるね
ピチャリネチョリと淫猥な水音が聞こえる。
幾つもそれが聞こえてくる。
途端、長田のアレを加えて舐めさせられた時に自分が発した音を思い出す。
耳の中でそれが甦って、そして、何処か身体の中が熱くなってくるのが分かった。
思い出したくないのに思い出してしまった嫌な記憶。
口の中に蘇る生臭い最低の味。
だけど……
どこか自分の中が熱くなっている。
嘘だ。
絶対嘘だ。
あんな奴……
―― おう！俺 先に帰るわ
―― また来てね！
なんかシャワー浴びたりする男女やら、そのまま帰っていく男やら、色々だな……
どれ位時間が経ったか理解出来ないけど、そろそろ丸めている背中の痛みが限界に近かった。
いくつかドアあの開け閉めする音を聞きながら気を紛らわしていたのだけど……
―― ミカ！
―― あ、ごめん
―― それは今日の主賓用よ
―― そうね♪
なんか楽しそうだなぁ……
何やってるんだろう？
現実逃避していたのだけど、突然なにかこうフワッとした感触が全身を襲った。
「おまちどうさま」
上のほうから声がする。
なんだろう？と思っていたら、身体中のあちこちがあ一斉に触られた。
一瞬身を硬くしたのだけど、持ち上げられているのが分かった。
何処かへ運ばれている。身体の表面を風が流れる。
目を開けられない状態では、今どんな状況か全く分からない。
歩いているのだけは分かったのだけど……と、一瞬気を抜いた時に、放り投げられた。
弾力のある所にお尻から着地してごろりと横に転がった。
間違いなくベッドの上だ。
それもちょっと湿っているベットの上。
「いつもいつも第二保健室で私達を覗いている佐藤さん」
「中身は男な佐藤さん」
「実は凄くスケベな佐藤さん」
「女に興味津々な佐藤さん」
「牛並みおっぱいひけらかして喜ぶ佐藤さん」
「真っ黒ブラで男を誘う佐藤さん」
「人工美女な人造人間の佐藤さん」
「私たちの秘密の花園へようこそ！」
周囲から順番に色んな声がした。
最低でも8人いるのが分かった。
「あ、ほら！みて！」
「あぁ！」
「何この変態！」
「もう濡らしてるよ！」
「なんだぁ 身体はやっぱり女なんだね」
「音だけ聞いて濡れ濡れだよ」
「さすが第二に入り浸ってるだけの事はあるね」
「私たちの声だけ聴いてオナッてたんでしょ」
周囲からの敵意に満ちた恥辱的な声が聞こえる。
だけど回りは何も見えない。
「ちょっと確かめてみなよ」
「そうね」
身体を伸ばせないまま、ベッドに仰向け姿勢にされた。
「あ〜 もうビショビショ」
「ほんとだ。垂れてきてる」
「しかもほら」
刹那。全身を突き抜けるような、痺れるような感触が駆け抜けた。
「もうパンパンに膨らんでるよ」
「久しぶりに勃ってる感じどう？男は勃ってるだけで気持ち良いんでしょ」
真っ暗な視界の中に幾つも星が飛んだ。
突き抜ける様な痺れる様な刺激が背骨を駆け抜けた。
クリトリスを弄られている。
指先でグリグリと弄られている。
拘束されている両手足がガクガクと不如意に暴れた。
「あはは！やっぱ気持ち良いんだ！そうだよね！」
「じゃぁ、こうしてあげる」
指とは違う刺激が脳天のその先端を突き抜けるようにして駆け抜けた。
「ぅんんんんんんんんん！！！！！！！！！！！！！！」
思わず声が漏れた。
何をしてるのかすぐに分かった。
誰かが舌先で転がすように舐めている。
「さっすが牛並な胸の佐藤さんね」
「ほんとね。声まで牛みたい」
「鈴つきの首輪でも巻いてあげようか」
カラカラと音のする物が首に巻かれた。
鈴と言うより小さな鐘の付いた紐…… 違う、首輪…… かな？
「ほら。もっと鳴きなさいよ！牛みたいに！」
ピチッ！
何かを弾く音が聞こえると同時に、言葉に出来ない衝撃が身体を突き抜ける。
「ぅんﾞんﾞんﾞんﾞんﾞんﾞんﾞんﾞっっっっっっっっっっっ！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
ガクガクと身体が震えて止まらない。
乳首が起き上がって痛いくらいに硬くなっている。
「ほら、もう一回！」
ピチッ！
「！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
もう声も出ない。
突き刺さるような刺激が股間を直撃している。
ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチッ！ ピチャッ！
「あー もう駄目だ 洪水みたい びしょびしょだよこの淫乱女」
「淫乱男でしょ？」
「そーだね」
「足を広げちゃおうよ」
モゾモゾと何かが動いて、膝を縛る物がとられた。
途端に左右から押し広げられて股関節が痛い。
もうやめて！ 痛い！
何かを叫ぼうとしたのだけど、口が完全に塞がれてる状況では「んん！！！！」としか……
ピチッ！
「んひぃ！」
甲高い声が出た。
さっきとは比べ物にならない位の刺激。
激痛とも言えるのだけど、でも、どこか痺れるような衝撃。
「クリトリス弾かれて真っ赤にしてそれでも喜んでるんだから、筋金入りの変態だ」
周りの女たちが一斉に笑い出した。
「ねぇお腹空いたね」
「そーだね」
「男と4時間も遊んでればそうなるよ」
「何か食べようか」
「その前に……」
どこからか音がする。鈍いモーター音と、何かが震える音。
ウィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンンン・・・・・・・・・・
……あ これ知ってる
「あ！そうだね！」
「変態の佐藤さんにはこれが良いよ！」
「好きなだけイっていいよ！」
セロテープかガムテープか、どっちだか分からないけど粘着テープを伸ばす音。
まず左の乳首が挟まれた。続いて右。一体いくつ持ってんだ？
最低でも4つある。そして、下腹部にも嫌な感触。
「せーの！」
「「「「「「「「えい！」」」」」」」
「ぅんんﾞググググンンンンンッ！！！！！！！！！！･･･････････････」
途中から声もで無くなった。
身体中に電撃が走るような衝撃。
鈍い振動がアチコチから一斉に襲ってくる。
頭の中が真っ白になって張り裂けそうな程に心臓が高鳴った。
身体中の筋肉が一斉に緊張したような弛緩したような……
あぁ…… これがイクって事か……
変なところに感動を覚えたのだけど、同時に意識が遠くなっていくような錯覚だった。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::
�� ???日目
「アハハハハ・・・・・・・」
どこからか聞こえた笑い声にふと意識が返ってきた。
どれ位の時間が経ったのか、全く見当がつかない。
自らに押しつぶしているバスト先端の不快感と、体重の掛かっている首の痛みが我慢の限界だ。
何でこんな目に……
自分の勘の悪さを呪うしかないのだけど、とりあえず窓の外が真っ暗なのは理解できた。
ベッドの上に膝を立て頭から突っ込むようにして、いやらしく尻を突き出すようにして。
腰の裏辺りで両手が縛られているガラスに映った哀れな自分……
あれ？
「あ、気が付いたみたいよ！ 変態の牛乳女さん」
目隠しが取られたのか、部屋の中が見えるようになっている。
キャミ1枚だったりＴシャツだったりとラフな格好の女達。
えっと…… 4… 5… 6… 7…
7人…かな？
どうしよう……
絶望的な表情を浮かべていたらしく、腕組して見下ろすように立つ女達が邪悪なまでの笑みだ。
こんな表情は前に長田が浮かべていたな……
変なところで冷静な自分が恨めしい。
「さて」
「何して遊ぼうか」
居並ぶ女達がニヤニヤとする中。再びあの音が聞こえてきた。
ウィィィィィィン･････････
「ヒャッ！ アゥンンンンンン！！！！！！！！」
いきなりバイブがクリトリス辺りに押し付けられた。
思わず艶っぽい声が出て、口が自由になったのを知った。
「ヤッ！ヤメテ！」
手首は腰の辺りに拘束されている。
そのまま両膝と胸辺りをベッドに接地させて、牛乳のテトラパックみたいになっている。
……お尻を天に突き出して誘うような格好で。
執拗に執拗にクリトリス周辺を攻められておかしくなりそうだ。
だんだん色んな所の筋肉が弛緩してきたのに自分で気が付く。
「あらあら。牛さんはおしっこまでし始めましたよ」
お尻の辺りから声が聞こえた。ガラスに映っていて丸見えだ。
この声は最初にこの部屋に居たあの女性(ひと)だけど……
「ほら、ちゃんと録らなきゃ」
さっきまで気が付かなかったけど、そもそもの渡辺……あれ？
居ない筈の彼女が立っている。ビデオカメラを持って立っている。
赤いランプが点いてると言う事は、録られている。
「ヤメテ！録らないで！ヤメテ！」
「あんた男でしょ？女みたいじゃない」
「ヤメテ……」
悔しさに涙が流れた。
全く抵抗できないままにバイブで攻められ続けておしっこを漏らしている。
チャパチャパ････ チョロロロロロ・・・・・
もうダメ！
止まらない！
「あ〜もう ダダモレね 牛さんじゃ恥ずかしく無いわよねぇ」
そんな声が聞こえて女達が大爆笑している。
「ねぇさま私にもやらせて！」
原田……？
そうだ、原田だ。
第2で売春してるグループのボス役。
調整役でもあるらしいけど……
「ァアンッ！ ゥン！ ンンンッ！！！」
もはやどこにどう当てられてるのか、自分でも把握できなくなっている。
下腹部からさざなみのように湧き上がってくる衝撃のような波。
背骨沿いにゾクゾクとした、くすぐったい様な感触を何百倍にも増幅したような、そんな感触が迫ってくる。
無意識に身体が動いて逃げようとするのだけど……
「あら こっちが良いの？ それともこっち？ 大胆ねぇ」
お尻を左右に振って逃れようとするのだけど、全く逃がしてくれない。
そのまま攻められ続けて、足の裏まで鳥肌が立つようになってきた。
「さて、じゃぁそろそろ支度して」
「はいねぇさま」
見ている前に女達が集まってきて、それぞれの胸の間からコンドームが出てきた。
中身の入っている…… そうか、さっきまでここでやってた乱交パーティの時の。
「ほら、爆乳牛女の分を貯めておいて上げたよ！」
「温めておいたからまだ精子死んでないよね」
「たっぷり有るからじっくり味わってね！」
「どっちの口が良いかなぁ」
「そりゃぁもう！」
「「「「「下の口よね♪」」」」」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガクガクと身体が震え始めた。
「ヤメテ…… お願いだから……」
ベッドまで一緒に震えだすように震えているのだけど。
「あらやだ。このバカ男女。本気で感じてるみたい」
なになに！と女達が自分を後から見ている。
「あ〜ほんとだ！」
「本気で感じてるんだ！」
「淫乱ねぇ」
「もう何本咥えたのよ」
「言ってごらんなさいよ。あのキモい長田のでかき混ぜてもらって気持ちよかったんでしょ！」
アハハハ！と心底楽しそうに笑う女達。
どこまでも陰湿で恨み深い女の嫉妬。
渡辺がどっかから持ってきたのは、針のついてない注射器。
シリンダーからピストン部を抜いて、底に密封してあった使い終わってるコンドームの中の精液を流し込んでいる。
5個も6個注いでいって、気がつけば10個分は溜まっているのだろうか。
再びピストン部が差し込まれて空気を抜くべく抽送されている。
「これだけ入れれば」
「どんな石女だって妊娠するわよ」
「はい、ねぇさま」
さっきのあの女性が再び自分のお尻側へと座った。
「はい、佐藤さ〜ん あ〜〜〜〜〜〜んして」
「ヤメテ！ お願いヤメテ！ やめて！ やめ！」
女達の勝ち誇ったような笑顔に見下ろされながら……
プチッ･････
「イタッ！ィタイ！イタイ！アﾞァァァァァァァ！！！！！！！」
獣のような声で叫びを上げた。
両膝がガクガクと震え、とめどなく涙が流れた……
「あれ？もしかしてあなた」
プチュッ……
焼け付くような感触が残る中、ガラスに反射した向こう側でシリンダーが引き抜かれたのを見た。
「うっそー！」
「どうしたの？」
「ほら、血がついてる」
「あなたまさか……」
「「「「「「「「「「 バージンだったんだ！ 」」」」」」」」」」」」
一斉にハモッてそんな声が聞こえた。
しゃくる様に泣いているのだけど、アハハと笑うのやら失笑しているのやら。
どこまでも冷たい、見下すように冷たい眼差しが降り注いでいる。
「人造人間な人工美女の佐藤さんだもの。初めての相手が注射器のシリンダーなんでお似合いよねぇ」
「どうせならしっかり広げてあげれば良いんじゃない？なんせほら、人工物でしょ」
「そうだようねぇ…… どうせならこれ位は」
名前を知らない女が持ってきた注射器を見て『ヒィィ！！！』と悲鳴を上げた。
ペットボトルより多少細い程度に太く見得る大きな注射器がやって来た。
「このままじゃ入らないね」
「美香！ローション！」
「オッケー！」
密封キャップの蓋を取ると、ダラリと流れ出る粘性の液体。
たっぷりと注射器に塗りたくられて、ポタリポタリと垂れている。
「さぁ佐藤さん。セカンドバージンよ。力抜いてたほうが良いわね。力んでるとかえって痛いから」
「ぃヤァァァァァァァァァァァァァァァ！！！！！！！！！！！！！！！！！」
まるで筋肉の塊な部分に杭でも打ち込まれたような激痛が走った。
メリメリメリと何かが裂けていく感触が身体の中を走った。
流した涙でビショビショになったベッドのシーツに胃の中の物を全部吐き出した。
「イタイ！痛いの！ヤメテ！イタイ！」
何度も何度もシリンダーを抜き差しされているのがガラスに映っている。
何かが見えた。何かが吹き出している。なんだろう？激痛の中でそれが血である事を理解した。
膣内が裂けて鮮血が漏れ出して、シリンダーを押し込まれたときに膣外へ吹き出していた。
その返り血を浴びて、ニヤニヤとしながらあの女性が何度も押し込んでいた。
「そろそろ広がったかしらね」
ズボッと音を立てて引き抜かれた極太の注射器。
「あ〜もうビロビロだよ！」
「ほんとだぁ！なんかペットボトルの飲み口みたい」
「完全に緩んでるわね！これじゃ少々大きなモノ持ってる男でもさぁ」
「緩いって言われるわね」
「残念だなぁ」
指を刺して笑われているのだけど、衝撃的な激痛と、そして悔しさと悲しさでそれどころじゃなかった。
「じゃぁこっちいきましょうか！」
「あぁ！！！ あぅあぅ・・・・ あぅぇ・・・・ぅんんんん・・・・・ ィタィ……」
言葉に成らない呻き声を上げながら泣き続けている向こう。
最初の小さな注射器がもう一度膣内に侵入してきた。
激しい痛みをだんだん奥へ感じながら、その痛みがフッと消える。
ガラスに映る自分の姿を見ていられなくて、悔しいけれど目を閉じた。
「ほら、一番奥まで行ったよ。ここが子宮口」
なんとなくグリグリされてるようだけど、何も感じない。
「男にここをツンツンしてもらうとね 鳥肌立つくらい気持ち良いのよ 届いてる！って感じ」
何かが入ってくる！
上手く言えないけど、そんな感触を感じた。
「全部入った！ほら！」
引き抜かれ、鮮血と透明な粘性の液体に塗れた注射器が顔の前へとやって来た。
ピストンが一番奥まで押し込まれ、シリンダー内のモノが全て吐き出されている。
「好きな男が注いでくれたらさ、零すのも勿体無いって思うのよ、女なら」
「そうよね。自分のお腹の一番奥で出してくれると……」
「それだけで、もう3回はイける気がするよね」
何か口々に楽しそうな事を言っているけど……
最低だ……
背中が痛い…
背骨が痛い…
首筋が痛い…
足首が痛い…
手首が痛い…
膣内が痛い…
もうやだよ…
もう死にたい……
「早く妊娠してね♪」
「24時間あれば受精から着床までするって言うからさ」
「大丈夫！あなたの好きな嶋田は私があなたの代わりに抱かれて、あ・げ・る♪」
僅かに頷いたような気がした。
自分が誰なのか。ここがどこなのか。何が起きているのか。
その全てが把握できなくなっていた。
世界が色を失った。
いろんな事が頭の中を駆け巡って収拾がつかなくて。
そして私は考えるのを止めた……
�� ???日目
私は誰？……
ここは何処？
今日は何日？
お腹すいたな…
喉渇いたな…
私…
まだ死ねないんだ…
「ハァ… アァン… ウゥン… アゥン…」
艶っぽい喘ぎ声に意識を取り戻した。
横向きにベッドへ身体を投げ出して、そのまま部屋の反対側を見ている。
あの最初の女性が壁際に裸で座っていて、膝を立てて居る。
その前で渡辺が大きなペニス型のディルドを持って、あの女性(ひと)の膣内を掻き混ぜていた。
「ねぇさま 綺麗」
背骨を撓らせて悶えているねぇさまの乳首を、ねちっこく執拗に舐めて攻めるのは原田かな。
「アァァ！ イク……」
ゾワゾワと鳥肌の立つのが見えた。
上手く出来たねと子供を褒めるように渡辺の頭を撫でた。渡辺は手にしていたディルドを手放した。
ねぇさまは、まだ差し込まれたままのディルドを自らに引き抜いて、今度は渡辺のショーツを下ろして、そのまま膣内へと突き刺した。
「アァァアァァ！ ねぇさまの…… 暖かいのが残ってる……」
百合の花咲く現場。男臭くない姿。
だけど、何も身体が反応しない。
興奮もドキドキもない。
ただ、まるで。
魂のないマネキン人形が一部始終を眺めるように。
ボーっと眺めるだけだった。
8人の女達の胎内を順番に掻き混ぜていって、やがてヌラヌラと艶かしく光るそのディルドがこっちへやって来た。
原田や渡辺がねぇさまのその股の部分へ、何かを取り付けてベルトを締めている。
きつく締められ動かなくなったそこに、さっきまで女達の胎内を掻き混ぜたディルドが取り付けられた。
まるで男のペニスが聳え立つように。
ねぇさまの股座でいきり立っている。
「ひかり」
ベッドの上で微動だにしない私の頭に、ねぇさまが触れた。
魂が抜けたように、されるがままになっているのだけど…
「今日からあなたも私の妹達の一人よ」
優しく肩を押されて、仰向けになった。
両足を持ち上げられて、しとどに濡れる痴蜜の壷と痴丘が露になった。
「可愛いじゃない…」
持ち上げた両足を抱えるようにして、真正面からディルドを差し込まれた。
再び鈍い痛みを感じて体を硬くしたのだけど、でも、もう抵抗する気すらなくなっていた。
「だんだん気持ちよくなるのよ。女はそう言う風に作ってあるんだから」
あぁ、マグロ女ってこういう事か……
死にたい……
「みんな忘れて、気持ち良さだけ探しなさい」
両足を抱え込んで、そのまま両胸を揉みしだかれながら、ねぇさまの腰が動いた。
グチュッ！グチョッ！グチュッ！グチョッ！グチュッ！グチョッ！グチュッ！グチョッ！
「あぁぁぁ・・・・」
自分の口から艶っぽい吐息が漏れた。
「そうそう。出来るじゃない。気持ち良いところを探してごらん」
違う。違うの。痛いの。まだ痛いの。凄く痛いの。
焼けた鉄の棒を突き刺されてるようなもの。
「っあぁぁぁ････ いっ・・・・・・ いたい……」
グチュッ！グチョッ！ グチュッ！
グチョッ！ グチュッ！グチョッ！
突き抜けるような痛みと敗北感と。
そして腹腔内の全部がなにか得体の知れない気持ち悪さで埋め尽くされている。
「あなた達、ほら。新しい妹を可愛がってあげなさい」
「はい、ねぇさま」
周りに女達がやって来た。
アチコチを舐められたり、或いは優しくマッサージしてくれたり。
自由になった両手も両足もそれぞれが別の女達に触られたり舐められたり。
「あなたも女ね。可愛いわ。綺麗だし」
耳元で渡辺がそう囁いて、耳たぶを全部口の中に入れてねっとりと舐められた。
耳の中にまで舌が侵入しそうなほどに執拗に攻められたとき、身体の奥底からビクッと震えるような衝撃が走った。
「さぁ、気持ちよくイきなさい。抱かれてイく気持ちよさは、他には無いから」
言葉までもが耳から流れ込む媚薬のようだ。
激しい痛みと屈辱感の向こう側に、見た事も無いような何かが潜んでいるのを感じた。
なんだろう？ これ、なんだろう？
なんだかこう…… 空を飛んでる様な海に浮いてるような……
不思議な浮遊感……
何かがこみ上げてきて、駆け上がってきて、その何かが顔を見せそうになったとき。
「はい、あっち向きなさい」
ズボッと抜かれてビクッと震えた。
なんだったんだろう？いまのは。
自分で制御できない不思議な感覚が……
さっきまで全ての思考が止まっていたのが嘘のようだ。
急に世界が色を取り戻したような、全てが色鮮やかに見えるような。
極彩色に彩られた、目が滲むような彩度の高い世界。
うつぶせにされて、そこからお尻を持ち上げられて。
後から勢い良く突き刺されて、背骨沿いに電撃が走った。
「あﾞぁぁぁぁぁ！！！！！！！！
左右から一斉に幾つもの手が襲い掛かってきて、身体中を揉み揉みとされながら。
そのまま後から再びグチュッ！グチョッ！と淫猥な水音が部屋に漂った。
言葉に成らない気持ち悪さを感じていた胎内が、不思議と物凄く熱く感じ始めた。
「あﾞん！ぅんんん！」
身体中に力が漲ってきて、爪が剥がれるほどにベッドのシーツを握り締めた。
「ゥン！ ンンン！！！ ンアァァァァァンンンン！！！！！！！ アァン！ アァン！ アァン！……
リズミカルに響く水音にあわせて、いやでも声が漏れる。
シーツを握り締め、クッションを抱きしめ、猫のように背骨を撓らせて。
そして。
「イったね…… 気持ちよかったんでしょ」
身体をまさぐる全てから開放されて。
力尽きるようにベッドへ突っ伏して。
股の間から何かがどろりと零れるような錯覚を感じて。
「こっちを向きなさい」
力の入らない身体をなんとか起こして、そしてねぇさまの方を向いた。
ベッドの上に膝立ちになったねぇさまが下を指出している。
「あなたの中を散々かき混ぜたのよ？あなたが綺麗にしなさい」
まともな思考が出来なくなっていて、言われるがままにそのディルドへ手を伸ばそうとしたその時
バチン！
「2度は言わないわよ。言われたら返事をしなさい」
最初は何が起きたのか分からなかった。
鈍い首の痛みを感じて、右の頬を叩かれたのだと悟った。
「はい…… ねぇさま……」
白濁した大小さまざまな泡のついたような、その黒々するディルドを口に入れた。
丁寧に舐めながら、ちょっとスポンジ状になっている部分も絞って飲み込んだ。
上手く言えないけど、不味くは無かった。
きっと錯覚だと思ったのだけど…… でも……
「今日から私の遊び道具よ。良いわね」
「はい、ねぇさま」
綺麗に舐めきって、口の端から零れかけた涎をすくって舐めて。
まるで壊れた人形のように笑みを浮かべて眺めていた。
自分が壊れたのも気がつかずに……
タグ