小学校の高学年くらいになると、さすがにいろんな事情・・・
中学受験のことや、単純に気恥ずかしくなるからという理由で
隣に住んでいても、だんだんに疎遠になっていた。
でも、こんなときに一番に飛んできてくれた・・・うれしかった。

香澄さんは、名門私立女子中学から、受験して、大学までエスカレーターの
K女子高に合格し、今年一年生だった。
あたしは・・・男の子だったころ、大学まで進めるW中学に通っていた。
W中学は、男子校だったから・・・辞めなくてはいけなかったけれど・・・

「地元の中学校に行くの?それはたいへんだ。受験勉強しなきゃいけないんだ・・・」
そう、今年の春まで受験なんて必要なかった僕にとって、それは結構な重荷だった。

「でも、あたしが助けてあげるよ。なんとかなるって。あたしと同じ高校にくる?」
はい、と答えたかった。
でも、高校受験って、そんなにかんたんなものだろうか?
中学受験だって、あんなに頑張ってようやくだったのに
そんなにかんたんなはずがない、ともおもった。

そして、もうひとつ・・・重大な事実があった。
「実は・・・あたしの・・・W高校が、来年から共学になるんです。」
「えっ、それなら、それもいいかもね。」

香澄さんは、ちょっと驚いたようだった。
いま、辞めたばかりの学校に、半年後に、何とかしたら入れるかもしれない。
来年から、男子校だった学校が共学になる。
そのタイミングで僕は・・・女の子になってしまった・・・

それは、何かの運命にも思えた。
もし・・・受験してW高校に入って・・・そしたら、
今までずっと過ごしてきた仲間たちとも再会できる・・・
そして・・・豪とも・・・

胸がいっぱいになるような希望・・・僕の生きる、女の子として生きる希望・・・
それは、今の僕にとって一番大切なものだったかもしれない。

「まぁ、とにかく、明日は女の子のものを買いに行こうね。それから、
受験勉強もがんばろう。」
香澄さんはそう言って、僕を励ましてくれた。



現実的には、僕の置かれた状況って、かなり厳しいものだとおもう。
女の子になって、学校も変わらなきゃいけなくて、しかも中学3年生で、
僕に起きる大事件にかかわりなく、時間は刻々と流れていくのだから。

「受験勉強かぁ、あたしも去年の今頃から頑張りだしたなぁ。」
香澄さんが少し遠い目をしてそんなことをつぶやく。
「あたし、がんばります。」
そう、この大事件を嘆いても始まらない。
女の子に生まれ変わった僕の、とりあえずの目標、それは
高校受験の突破ということになるだろう。

その意味で、香澄さんの存在は、きっと大きなものになりそうだった。
する必要のなかったはずの高校受験を突破するために、
一年前にそれを経験したお姉さんの存在は、大きいはずだった。

「もう、夏本番だね。夜でもこんなに暑い・・・」
香澄さんは隣の家に住んでいる。玄関を一歩出たところでそんなことをつぶやいた。
いつもより少し長かった梅雨明けが発表されたその日、熱帯夜の空気が
生まれたばかりの女の子の肌にも、じんわりと汗をにじませた。

「それじゃ、明日の朝ね。おやすみなさい。」
「おやすみなさい、かすみさん。」
ぼくは笑顔で手を振り、明日の約束を確認して
香澄さんが隣の家に入るのを見届けると、カギを閉めて
自分の部屋へと駆け上がっていった。

女の子になって、初めて、うれしい気分だった。
憧れの香澄さんが・・・僕のことを妹だって・・・
少し時間がたって、うれしさがこみ上げてくる。
女の子も、わるくない。

まだ、女の子の世界のことを何も知らない、無邪気な少女に、
その日、僕は生まれ変わった。



「男の子のにおいだ・・・」
自分のベッドのふとんやまくらが・・・もはや今の自分のものじゃない。
自分のにおいなのに・・・どうしてだろう、何か違和感を覚えてしまう。

僕って、こんなにおいしてたんだ・・・
他人のにおいならわかるけど、自分のにおいってなかなか分からない。
でも、今僕の鼻に入ってくるのは・・・今の自分のにおいじゃない。

男の子のにおい・・・それは、女の子に生まれ変わった僕にとって
初めて、体験するものだった。

「いいにおいじゃないけど・・・でも・・・なんていうか・・・」

その先の感想を、生まれ変わったばかりの女の子だった僕は、
心の中でつぶやくことすら、恥ずかしくてできなかった。

ただ、不思議だった。ただの汗のにおいが、異性に・・・男の子に包まれているような
不思議な気分だった。言いようのない気分だった。
そのときの感覚は、今でもはっきり思い出せる。


女の子なんだ・・・僕は・・・もう男じゃないんだ・・・
何度も思ったことをまた思いながら、眠りについた。




「おはよう、紗希ちゃん。」

「お・・・おはようございます。かすみさん・・・」
「香澄、でいいよ。今日からは友達にもなろうよ。」

「・・・」
僕の心は揺れる。なんだかとても不思議な感じだった。

女の子になって初めての外出。
一日の始まりは、外出の準備。

初めてのお化粧。でも、まだ僕用のメイク道具はないから
香澄さんの部屋で香澄さんにメイクしてもらった。
ファンデーションから始まって、まつげをマスカラで整えたり
唇にグロスリップを塗って、かわいく顔が変わっていく。

「女の子って、たいへんだね。」
ぼくはいくつもいくつもやることのある女の子の外出前の準備を
一通り、香澄さんの力を借りてやってみた。

「かわいい・・・」
自分の顔が、確かに変わっていく。女の子って、すごい、と思った。
少女・・・というよりも15歳とは思えないほど、
すっぴんのままだとただの子供にしか見えなかった僕は
ほんのすこし、目をはっきりさせて、肌の色をいじっただけで
カラダは小さくても、ギャルになってしまったかのように変身した。
香澄さんは、まるでお人形ででも遊ぶかのように僕をあっというまに
子供から小柄なギャルに変身させていく。
ショートカットの髪も、ちょっとリボンを結んだだけで全然かわって見えるし、
ひまわりの柄のプリントされたひざ上までのスカートを借りて
ビーズで文字が書かれたピンク色のTシャツの上に
袖のないカーディガンみたいなのを着せられた。

「かわいい・・・これ、本当に、あたし・・・?」
一時間近くもかかっただろうか。そのあいだ僕は何度この言葉を口にしたかわからない。
魔法のように変わっていく自分が信じられなかった。

「さぁ、行こうか。」
実は、今日はやることがたくさんある。
お金はうちのお母さんからもらってある。
女の子としての生活を始めるための準備。お金はすごくかかるはずだけど
それはどうやら心配ないようなのだ。

夏の日差しがふりそそぐ街にでて、女の子のものをたくさん買った。
今日だけじゃ買いきれないくらい。服だって、最低限必要な数すらまだ足りないし・・・

そして、その日から僕はお化粧や、服装や、アクセサリーで
自分を飾るということを覚えた。

「かわいい!」
香澄さんは自分の好みのショップに入っては
僕を着せ替え人形のようにいろいろ試して、何度も何度もかわいい、と褒めてくれる。



そして、それは僕の目にもその通りだった。
女の子の、楽しみ。初めて覚えた、自分をかわいく見せるための努力。

男だった僕の価値観で、かわいい女の子になること・・・
それって、とても楽しいことだと、気づいてしまった。

「今日は忙しくて髪の毛まで気が回らないね。」
お昼ごはんはファミレスだった。午前中だけじゃもちろん足りない。
一日、香澄さんは僕の買い物を手伝ってくれた。
僕の女の子としての身の回りのものを、いっぱい、いっぱい。

「たくさん買っちゃったね。」
帰りの電車の中で、両手に抱え切れないほどの荷物を持った
二人の少女は・・・疲れているはずなのに疲れを感じていなかった。
すくなくとも、僕はこの一日が地元の駅について、
そして僕のうちに・・・もし香澄さんを家まで送ってもそこから10秒で・・・
終わってしまうのがとってもいやだった。

駅に着くと、ゆっくり歩きながら、僕は思い出話を始めた。
「かすみさん・・・思いだした。」
「なぁに?」
「むかし・・・むかしから香澄さんはお人形で遊ぶのが大好きだったよね。
じつは・・・香澄さんのあのお人形たち、すごくかわいかったのを
ぼく・・・あたし・・・覚えてる。あのころ・・・本当はかすみさんと
お人形で遊びたかったんだ。」
かすみさんは、少し驚いたような笑顔で
「へー、そうだったの。あたしは・・・かずくん・・・じゃないあなたが
あたしのお人形遊びに付き合ってくれないの、すごく淋しかったんだよ。」

「あ、あのころは・・・男の子がそんなことするなんて・・・恥ずかしくて・・・
それに、女の子と遊ぶのも・・・香澄さんと遊ぶのも、恥ずかしくて・・・」
「じゃあ、今はもう恥ずかしくないの?」

「お人形遊びが?」
「ぷっ・・・ちがうよ。あたしと一緒にこうして、一日過ごしたことがだよ。」

「えっ?それは、男の子でも、今は恥ずかしくないよ。かすみさんと一緒なら・・・」
「そうじゃなくて・・・女の子と一緒に遊ぶのも恥ずかしかったのに、
お人形で遊ぶのも恥ずかしかったのに、今日は自分のための
スカートとか、ヘアバンドとか、ファンデーションとか・・・いっぱい買ったでしょ?」



「う・・・うん・・・一人じゃムリだったかも。」
「じゃあ、紗希ちゃんはあたしのあたらしいお人形かな?」
どきっ・・・とする笑顔でさらっと、香澄さんがそんなことを言う。

「お・・・お人形?」
「こんなかわいいお人形なら、あたし、ずっと大切にするんだけどな?」

さらに僕はどきっ、とする。
「あた・・・あたし・・・そんな・・・」
「ばか、なに想像してんの?」

かぁ、っと僕の顔が赤くなる。

「女の子になって、いろんなことを教えてあげるよ。いっぱいね。」
香澄さんのいったことは、すごくいやらしくも聞こえたし、
すごく温かくも聞こえた。

憧れの香澄さんの・・・お人形になるのなら・・・
女の子も悪くないかも、ってそう思ってしまう。
「なあに想像してんの?」

「な・・・なにも・・・べつに・・・」
「ぷっ。そういうところは、まだ男の子のまんまだね。」
「えっ?」

普通にドキッとすることを言われると、普通に顔を赤らめながらも
普通にいやらしいことを想像してしまう僕。
でも、それって、女の子にはあまりないことなのかな・・・?

「男だったらともかく、女でそんなこと想像する子は、あまいいないかもね。」
「じゃあ、どういう風に・・・さっきの、お人形・・・ってやつ・・・」
「だから、ただのお人形なんだって。いやらしい意味とかはないの。」
「ふ・・・ふぅん・・・」
「ほら、やっぱりいやらしい想像してたんだ。」
僕は、日に当たって赤くなった顔を、もっと真っ赤にする。

「さぁ、帰ったら女の子の部屋作りだよ。」
「えっ?今日これから?」


「そうだよ。急がないと、女の子として生きていくのは大変なんだから。
勉強もしなきゃいけないし、あなたは忙しいんだよ。」

「でも、これから・・・あたし・・・病院に帰らなきゃ・・・」
夜でもいいんでしょ?まだ2時間くらい大丈夫。
「えっ・・・?うん・・・」
強引な香澄さんだったけれど、僕はうれしかった。
あと2時間は香澄さんと一緒にいられる。
もうすこしいろんな検査をしたら、僕は退院できる。
そしたら・・・本当の女の子の生活が始まるんだ。

まだ女の子の体に慣れてない僕にとっては、
一日歩き回っただけでもかなり大変なことだった。
かなり疲れて・・・でも心地よい疲れだった。

女の子になって、一番明るくて、甘い気持ちになることができた日曜日。
「女の子って、わるくないかも・・・」
僕の部屋を、ほんの少しだけ改造した。女の子の部屋に・・・
香澄さんが持ってきてくれた枕カバーから・・・かすかに香澄さんの香りがした。
これからの女の子の生活に、僕は始めて期待を抱いた。

病院に帰った僕を待っていたのは、検査と女の子として生きていくための教育の
連続だった。
でも、いろんなことを教えてくれたのは、女の子として普通に生きていくために
確かに役に立った。役に立つこともたくさんあったけれど・・・
女の子として・・・どうやって男の子と付き合っていったらいいか・・・
女の子として一番大切な何かが・・・この教育には根本的に欠けていたと
後になってみてわかる。

男の人との関係で・・・安易に女を武器にしてはいけないって・・・
誰も、教えてくれなかった。
女の子どうしの関係は、男どうしのそれとは違うって、もっと
疲れるものだって、誰も、教えてくれなかった。
何で教えてくれなかったんだろう・・・

カラダは女の子になって・・・ココロも女の子に近づいている。
先生は確かにそういった。



でも、僕は・・・女の子であるということがどういうことか、
何一つ・・・何一つ知らないまま、女の子として生きはじめることになり
そしてその意味をまだ全然知らなかった。

ましてや、自分が・・・男の人たちの、欲望の対象になりやすいくらい
かわいいこと、その欲望から逃げるために自分の身を守るには
自分がか弱すぎること・・・そんなことを、本当は教えて欲しかった。

「何も問題ないね。明日退院しましょう。」
先生がそう言ってくれたのを僕は喜んで聞いて、そして
香澄さんにもすぐにメールで知らせた。

「おめでとう」というメールが帰ってきた。
僕の、女の子としてのはじめての日常は、もう夏休みになった7月に始まった。

とは言っても、この夏休みは勉強勉強で過ぎていった。
高校受験・・・本来だったら必要なかったはずの過程を
僕は女の子になってしまったばっかりに、挑むことになっていた。

運命って不思議なもので、僕の通っていたW学園の高等部は
中学校と一緒に、来年から共学化する。
だから、頑張れば元の学校に戻れるのだ。
でも、こうも思う。
もう一年早く共学になっていれば、苦労せずにすんだのに。

泣き言を言っても始まらない僕は、頑張って勉強した。
W学園の入試では、多少おまけをしてくれることを
なんとなく、退学するときに先生に言われていたから、
その意味では少しだけ気楽ではあったのだけれど。

そして、夏の話をする前に、僕はもうひとつ断っておかなければならないことがある。
女の子になって、2週間以上たったけれど、
そのあいだ、いや、男の子から女の子に体が変わり始めてからしばらくのあいだ、
僕はいやらしい・・・エッチなことを考えることを忘れていた。
オナニーできなくなった、男として最後の数週間・・・
女の子に完全に生まれ変わってからも、不思議とエッチなことは考えていなかった。
そんな暇・・・なかったから。



とにかく、僕の夏休みは、ほかの中学生よりもほんの数日遅れて始まった。
と、言っても・・・女の子に生まれ変わって、学校もかわらなければならない。
小学校は同じだったとはいえ、突然女の子になった僕に
一緒に夏休みを過ごす友達などいるはずもなかった。

そして、塾に女の子として生まれ変わったばかりの僕が・・・
女の子として、受験のための夏期講習のために、塾に行くというのも
ちょっと冒険が過ぎるだろう、ということで、
夏休みは家で勉強することになった。

香澄さんの力を借りて、とにかく半年後に迫った高校受験を
僕は突破しないといけない。

自分がどのくらい偏差値取れるかとかは、考えなかった。
とにかく、男として通っていたW学園か、同じランクの、そして香澄さんが
通っているK女子高、そのあたりを目指すことにした。

自分の偏差値を知らないという不安は、かえって僕にとって良かったかもしれない。
僕は、毎日、とにかく勉強しまくった。

それしかすることがなかったとも言えるかもしれない、
女の子として外に出るのも・・・正直言うと怖かったし
女の子として振舞わなければならないのもストレスだった。
香澄さんと一緒に、外出するときにはかわいい格好をさせてもらって
一緒に受験勉強のための参考書や問題集を買いあさったりした

そして、香澄さんが忙しい日は、それを家でとにかく潰しまくる
それが・・・僕の夏休みだった。

つまらないとおもいますか?
つまらないと思うかもしれないけれど、女の子に生まれ変わるということは
僕が考えている以上に・・・きっと大変なことだったと思う。

勉強している方が気が楽だった。家に篭って・・・
外の世界と隔絶した環境の中で・・・
Tシャツがキャミソールに、短パンがミニスカートに変わっても
同じように他人の目を気にすることなく、
勉強だけしてればいい時間は、男の子だったころと何の変化もない日々だった。


夏休み・・・僕はまだ女の子であることから逃げようとして・・・
現実から逃げようとして、受験勉強に没頭しただけなのかもしれない。
今から思うと・・・あのころが一番幸せだったのかも。

香澄さん以外の友達もいない、本来の友達とも会わない・・・
女の子の世界なんて、女の子としての世界なんて・・・
見ないほうが、幸せだったかもしれない。

「おはよう、紗希。」
毎日のように勉強ばかりしていた僕の生活に変化が訪れたのは、
もう夏休みも終わりかけの8月24日のことだった。
「おはよう、香澄さん。」
朝、いつものように勉強を始めた僕の部屋に香澄さんが入ってきた。
「どう、勉強はかどってる?」
「はい。おかげさまで・・・でも、もう夏休みも終わりですね。」
「そうだね。そういえば、制服、できた?」

「はい・・・一応・・・」
地元の公立の中学校の古めかしいセーラー服がすでに僕の部屋にあった。
「あっ、これだね。ふーん。なんだか、不思議だね。」
「はい・・・とっても不思議です・・・」
「いや、紗希が女の子の制服を着ることがじゃなくて、この辺の公立中学校に
紗希が通うことが・・・不思議だね。」

小学校まではともかく、この辺のちょっと気の利いた家庭に育った子供は
中学校ではほとんど私立か国立の大学の付属中学校に行く。
僕も香澄さんも、中学校から私立だった。
小学校の同級生で、公立の中学校に行った人たちは、
今となっては別の世界の住人に思えた。



「でも・・・しかたないから。」
中学校3年生だし、男子校の中学校に通い続けるわけにも行かない僕は
1学期をもって今までの中学校を退学して、
2学期と3学期は地元の公立中学に通う。
男の子だったころ、少年時代をともにすごした同級生も
その中学校にはたくさん居る。

「あたし・・・正体ばれたらどうすればいいんだろう・・・」
そのことを思うと、正直言って気が重かった。

「友達には連絡したの?」
「ともだちって・・・中学校の友達には一応・・・」
「会ったりとかしないの?」
「まだ・・・そんな気分にはなれなくて・・・」

「ふーん。ごーくんがあたしに電話してきたよ。」
「えっ?」
ごーくん、とは僕の親友、豪のことだ。同じ小学校から中学校でも同級生だった豪は、
僕の親友だった。一方的に手紙やメールを送って、僕のことを知らせた。
でも、電話がかかってきても出なかったし、
会いたい、っていうメールにも答えなかった。

「すごく心配してたよ。だめじゃない。」
「分かってはいるんですけど・・・まだ、女の子として、男の子とあう勇気が・・・」
僕の頭の中には、得体の知れない恐怖があったのだ。

「男の子が、こわいの?」
「・・・はい・・・」
「なんで?」

「・・・僕は・・・あ、あたしは・・・男だったから・・・
男の子たちがあたしをどんな目で見るのか・・・怖くて・・・」
「・・・それって?いやらしい目で見られるっていう意味?」

「そ、それもあるけど、それだけじゃなくて・・・今までみたいに
友達として、付き合ってくれるかどうかとか・・・それに・・・それに・・・」
女の子である自分を、僕自身頭の中で整理できていないのだ。
うまくいえないけど、自分がすっかり、違う存在になってしまったことを
認めるのがとっても怖かった。



豪の見る目が・・・僕を見る目が、女の子を見る目に変わっていたら
僕はどうすればいいんだろう・・・
そう考えると、まだ、豪だけじゃなくて、男のころの友達とは
会いたいと思わなかった。

「そっか、そのほうがいいかもね。」
「はい・・・きっと・・・」
何かが通じているのかどうかも良く分からないこの会話で
香澄さんに納得してもらえたかどうかはわからない。
でも、僕にとっては、まだ・・・香澄さんのような女の子に
生まれ変わることと、それから高校入試という二つの目標だけで
頭の中がいっぱいだったのだ。

そして、この際・・・高校入試のほうが重大なことに思えた。
だから、夏休みは勉強ばかりした。外に出るのが怖いというのもあったかもしれないけど
とにかく・・・没頭できる目標があってよかった、と思っていた。

「この部屋も随分女の子の部屋っぽくなってきたよね。」
香澄さんは話題を変える。周りをぐるっと見回して、部屋が全体に
ピンク色っぽくなってきたような気は、確かにするし、
男の子のにおいを感じさせるものは・・・
「あとは、このカーテンくらいかな。」
隣の香澄さんの家に向いている窓にかかるカーテンは、香澄さんの部屋からも見える。
「気になってはいるんだけど、どうしようか?」

「でも、これはあんまり・・・女の子の部屋でも使えるんじゃないかな・・・って。」
「うーん。分かってないなぁ。まぁ、いいか。そのうち変えよう。」
分かってない、って、何が?

「ところで、さぁ・・・」
香澄さんはまたくるくると話題を変える。
「紗希・・・かずくんは、彼女とかいたの?」

「そ・・・そんなの、いません!」
男子校で2年と4ヶ月、彼女なんて、そう簡単にできなかった。
「あっ、ごめんごめん。そんなにあわてないで。」
「べつに、あわててなんか居ないですけど・・・」



はっきりと、感じていた。
香澄さんがこの部屋にやってくるだけで、僕は、心を揺らす。
香澄さんどうこうじゃない。
僕は女の子であることから、逃げて、勉強に没頭していただけなのだ。
そして、僕に女の子のあれこれを教えたり、女の子のものをくれたりする
香澄さんがやってくると、すごくどきどきする。

自分が、女の子に変わっていく・・・心まで変わっていくことって
もう、嫌でもない・・・しょうがない・・・でも、
すごく、落ち着かない・・・どきどきする。

「勉強もいいけど、女の子になり損ねないようにしなきゃね。」
香澄さんが、どきっとするようなことを、また言う。
女の子に、なり損ねる?

「そう、ただスカートはいて、髪を伸ばせば女の子、ってわけじゃないからね。
あたしは、それを教えるために来てるんだから、あんまり
勉強ばかりされると、女の子として、紗希を本当に女の子にできないでしょう。
あたし、そんなのいやだから。」

「本当の・・・女の子・・・」
香澄さんの言葉は、僕をどきどきさせる。
そして、勉強に打ち込みすぎてた僕には、そのどきどきはとても刺激的で
単調だった、女の子として、退院して最初の一ヶ月を
一瞬にして塗り替えるのに充分な刺激だった。

「まだ男にこだわってるの?」
僕は、きっとその言葉にどきどきとしただけなんだけど、
香澄さんには、僕の表情が不機嫌そうに見えたのかもしれない。
「そ、そんな・・・そんなことないですよ。」
「それにしては、やっぱりなんか男くささが抜けないような気がするんだよね。」
「かすみさん、そんなこといわれても・・・」

「ちょっと見せて。」
「きゃっ、なにするんですか!」
香澄さんが僕のスカートをめくる。
「ほら、やっぱりしっかり無駄毛の処理をしてない。こんなんじゃだめだって、
前にもいったでしょう?」
「ご、ごめんなさい。で・・・でも・・・」
「なに?夏休みだったから?外に出ることがなかったから?
そんなの言い訳にならないわよ。女の子なら・・・当然のことなんだから。」



「・・・」
僕はまた戸惑った表情を作る。
それが、香澄さんには不満な表情に見えたようだった。
「すこし、荒療治が必要かな・・・」
「えっ?」
荒療治って、なに?
瞬間的に、胸がどき、と鳴った。

「ふふ、冗談だよ。なんだかんだいっても、明日から学校だもんね。
そしたら、制服着て、女の子のグループに入って、
でも、2学期だけじゃそんな余裕もないかもね。」

「香澄さん・・・学校行くの、不安かも・・・」
「そうなの?大丈夫だよ。とりあえずおとなしくしておけば。」
「でも、僕・・あたしが・・・男のころから知ってるやつもたくさんいるし
家がおんなじだからいずればれるだろうし、
どうしたらいいのかな・・・?」

「ばっかねぇ。どうせ何ヶ月かのはなしじゃない。
あっという間だよ。それに、男の子だったあなたが女の子になったからって
それが、なんだっていうの?あたしは知ってるけど、
それで嫌なことなんかあった?」

「か・・・香澄さんはいいけど・・・でも・・・」
「もう、男だったのに男らしくないなぁ。大丈夫だって。
女の子に慣れようとがんばってるうちにすぐに高校入試だし、
あなたが入ろうとしてる高校に、公立の中学校からなんて
同級生はこないし、心配するところがちがうとおもよ。」

「そ・・・そうなのかなぁ・・・」
僕は何か実体のない不安を抱えたまま、明日になれば、中学校に
女の子として登校する。
それは、社会との接点なく、体だけ女の子に生まれ変わった
男だったころとあまり変わらない日常が、
女の子の日常へと劇的に変化する、そのことを
なんとなくではあるが感じ取っていたから、
だから不安でたまらなかった。

女の子の日常が、始まってしまう。本当に、男だった自分とサヨナラしないといけない
そのさびしさというか、やりきれない気持ちも僕は抱えきれずに
処理しきれないまま、女の子として、社会の中に・・・デビューする。
明日は、その日だった。



今日は、転入生を紹介する。

そう、僕にとって、女の子としての初めての学校生活が始まる。

下山・・・紗希です。よろしくおねがいします。
3年性の2学期に転入生なんて、しかも小学校時代の同級生もいるし
僕の素性は別に隠されていたわけではなかった。

あえてそこに触れないようにするというお達しもなかった。
だから、僕の正体はあっという間に広まった。
複雑な事情を抱える・・・でもかわいい女の子。

自分で思ってるよりも、ミステリアスな存在に、僕はなってしまっていた。

いずれにせよ、公立の中学校は、ぼくにとってあまり居心地のいいところではなかった。
はやく、高校入試を突破すれば、前居た世界に戻れる。
そのことばかり考えるようになっていった。

かわいい女の子を、周りが放っておいてくれるはずのないことなんて、
まだ、僕は知らなかった。

「そんなことも知らなかったの?」
2学期が始まってからも、毎夜香澄さんが僕の部屋にやってきて
勉強やいろんなことを教えてくれる。

考えてみれば、生まれたときから女の子で、
女子校育ちの香澄さんにしてみれば、常識であることも、僕にとっては
未知のことばかりだった。
「だって・・・そんなこと・・・関係なかったもん・・・」
あたしはまだ始めての生理すら来ていなかったから、そのことは
知る必要もなかったのだ。あれだけ時間をかけて
女の子のことをたくさん教わっても、どこかに信じられない穴があるもので
今日は、女子トイレの個室にある箱がわからず、
香澄さんを驚かせた。

「ブラジャーのつけ方はわかっても、そんなことも知らないんだ。
難しいもんだね。」
笑いながらため息をつく香澄さんに、僕は顔を赤らめる。

「いいじゃないですか・・・そんなこと・・・」
「ふふふ、かわいいじゃないの。
ところで、豪くんのほうはどうなったの?」

「えっ・・・?どうって・・・なにも・・・」
「すきなんじゃないの?」
「えっ?」
僕は、ものすごく意外な言葉に顔をかぁっと赤らめた。



「そんな、そんなことないです。いい加減なこと言わないでください。」
ムキになって、僕は否定する。
いや、実際にそんな、好きとかそんな風に考えたことはなかった・・・とおもう
でも、急にそんなことを言われると・・・まごついてしまう・・・

「でも、この手紙は?」
香澄さんの手に握られていた一枚の紙を見て、僕は心臓が飛び出そうだった。

「えっ?それ、どうして!」
それは、女の子になるために入院する前の日に
本当のことを全部書いて、豪に充てた手紙の中の
途中まで書いて出すのをやめた部分だった。

わすれてた・・・たぶん、捨てたと思ったんだけど・・・
「退院の日にみつけたの。でも、このおかげで
紗希ちゃんがこころも女の子になってるんだってこと
ちょっと分かったんだけどね。」

「かすみさん・・・かえしてぇ!」
「返すのは、別にいいけど。」
強引に奪い取ったその紙・・・「もし、女の子として生まれ変わった俺をかわいいと思ったら、俺をお前の彼女にしてくれ」
と、そんなことを書いて、線で消して・・・捨てたはずなのに・・・

「豪くんのこと、好きなの?」

「す・・・すきとかそんなんじゃ・・・あの時は、
どうしていいかわからなかったから・・・だから・・・」
「ふぅん。まぁ、いいか。これ以上いじめても仕方がないし。
でも、豪くん、紗希に会いたがってるよ。それこそ、
すごく心配してるし。」

「豪・・・そりゃ、あたしもあいたいです・・・でも・・・」
「でも?」

「豪の目が・・・あたしをどう見るのか・・・それが怖くて・・・
中学校の男の子たち・・・やっぱりあたしを女の子としてしかみてないし・・・
当たり前だけど・・・でも、豪もそうだったらとおもうと・・・
ちょっと・・・怖くて・・・」




「ふぅん?なんだか良くわかんないけど。まあいいわ。そのうち
会う気になったらあってあげてね。さぁ、勉強勉強。」

香澄さんは僕のことをいじめるために来ているわけじゃないし、
男と女の間を行ったりきたりしている
不安定なあたしの心を良く分かっているから、それ以上突っ込んだりはしなかった。
あの手紙の書き損じを適当に捨てたことは、確かにまずかったかもしれないけど
見つかったのが香澄さんでよかった。

でも、僕のことを何も知らない男の子が、まだ女の子として
何も知らない僕に、「遊んでやろう」みたいな気持ちで接してきたら・・・

なんにも知らない女の子である僕にとって、悲しい出来事が待っているのは
今から思えば当たり前のことだった。

下山って、あの和宏くんなんだって?
ストレートな質問を、小学校の同級生だったある女の子が投げかけてきたのは
僕が転入して何日目かの昼休みのことだった。

「・・・・・・」
僕は別に答えられないわけでなかった。
「どうしたの?ちがうの?」
別に、口止めされているわけでもない。言ったら命を失うわけでもない。
でも、半年間の間、できたらそこには触れて欲しくないとも思っていた。
勝手な、僕の願いは崩れ去った。

「そうだよ・・・元気だった?笠井さん。」
ぼくは、観念したように口を開いた。
教室の向こうのあたりがざわついている。

「そうか、やっぱりニュースでいってたのは下山さんだったんだ。
女の子に、もう慣れた?」

「まだ・・・あまり・・・」
「ふうん。まぁ、いいや。じゃ、またね。」



「あっ、かさいさん。」
それだけ聞くと彼女は向こうのほうへ行ってしまった。
何が変わったというわけでもない。
その日も次の日も、自分の正体はばれても、
男の子も、女の子も、まるで腫れ物を扱うように僕のことを見続けていた。

孤独な、中学生活だった。
だから、勉強はたくさんできたし、集中もできた。
塾にも通いだした。高校受験はすぐそこに迫っていた

それはそれでかまわなかった。友達なら香澄さんもいたし、
本当の女の子としての生活は、高校に入ってからだ、となんとなく感じていた。
そう、あの日・・・放課後のあの時間までは・・・・

僕にとって、突然、女の子としての運命が回り始めたのは
この中学校に入って1ヶ月くらいたったある日のことだった。

いつもは授業が終わってすぐに帰る僕は、この日に限って
担任の先生と進路についての相談があって、
なぜか他の生徒が長引いた結果、僕の番は4時半過ぎにようやく終わった。

「さて、帰ろうかな。」
一階の、トイレに行こうと思った。

それが・・・僕の運命だった。
玄関近くとか、職員室の近くとかだったら、あんなことにはならなかったかもしれない。
でも、あの日、2者面談は普通の教室じゃなくて
担任の先生が理科の先生だったから、理科室で行われて、
理科室のある棟の一回まで降りてから、僕は玄関に向かって、
その途中のトイレによろうとした。

今まで、女の子になってから2ヶ月とちょっと
ずっとこの瞬間だけは、間違えて男子トイレに入らないように
細心の注意を傾けてきた。


でも、2学期の最初にやったテストとか、いろんな成績が良くて
W高校やK女子高でも、頑張ってくださいね、といわれたあたしは少し気が緩んでいたのかもしれない。

「あっ・・・ごめんなさい・・・」
初めて・・・この学校で初めて、男子用のトイレのドアを一瞬開けてしまった。

それが・・・僕の運命だった。

一瞬の気のゆるみ・・・
それが、女の子としての僕と、そして、いろんな人の運命を、
永遠に変えてしまうことになる。

ぎぃ・・・と木製の扉が音を立てて開き
そして、男子トイレの青を基調にした色彩、僕にとっては
ちょっと懐かしい・・・ピンク色が基本の女子トイレにまだ違和感を感じていた
僕にとって、その瞬間、なぜか・・・安心感を感じて

そして・・・



女の子になって・・・夢中で新しい性に順応しようとして
気が緩んだ一瞬。
それは、男から女の子に生まれ変わったときと同じくらい、
いや、ひょっとしたらそれ以上に、
僕自身・・・それに他の人たちの運命を、永遠に変えてしまった一瞬だった。

「あっ・・・ごめんなさい・・・」
初めて・・・この学校で初めて、男子用のトイレのドアを一瞬開けてしまった。

そこには、何人かの男の子たちが居た。
「待てよ、下山。」

どきっ、とした。
山崎君だった。小学校の同級生で、なんていうか、親友だった。
「ごめんなさい・・・それじゃ。」
「おい、待てって。」

そのひとに腕を掴まれた。

顔は変わってないけど、小学校のころより20センチ以上も大きくなったその親友を
僕はなぜか今まで避けるように生きてきた。
自分自身、同じ人間なのかどうか自信がなかったし
それに・・・得体の知れぬ怖さがあったから・・・

「や、やめて・・・」
僕は腕を掴まれて2ヵ月半ぶりに男子トイレに入った。
「ご・・・ごめんなさい。間違って・・・だから・・・」
山崎君のほかに、知ってる男の子が一人と、知らない男の子が二人いた。

「別にいいよ。下山、おまえ下山なんだって?」
「は・・・はい・・・」

「お前・・・元気そうじゃん。それと、豪は元気だったか?」
「うん・・・元気だった。」



「そうか、やっぱり下山らしいな。ところで、何で俺のことを無視するわけ?」

「えっ?そ・・・それは・・・」
「おまえ、女の子になっちゃったらしいけど、本当?」

「そ・・・それは・・・本当・・・」
「じゃあ、なんで男便にはいってくんの?」
そんな、見れば分かること・・・聞かないで・・・返して・・・おねがい。
そこまで言う前に、山崎君は次の質問を重ねてきた。
「だから・・・まちがえて・・・ごめんなさい・・・」
「ふうん、間違えたねぇ。」
雲を掴むような会話が続く。僕だけでなく、山崎君も相当に混乱していることを
このとき気づければよかった。でも、僕は・・・女の子に生まれ変わった僕は
目の前にいる男の子たちがもう怖くて仕方がなかった。

山崎君は小学校のころから悪くて有名で
中学校に入ってからはかなり手のつけられないようになっていると
聞いていた。僕は、かなり運悪い扉を開けてしまった。

逃げようと思ってドアの方を向くと、そこはすでに一人の男の子が固めていた。

「女の子になっちゃったか。でも、結構かわいいじゃん。」
「あ・・・ありがとぅ」
なんて答えていいかわからなくて、僕は適当に返した。

「でも、男便に入ってくるようじゃ怪しくねぇか?顔も昔の面影あるし。」
「ちょ、ちょっとまって・・・無視したわけじゃない。挨拶しなかったのは
あやまる・・・だから。帰らせて・・・ください・・・」

「そうはいかねえな・・・」
もう、僕の目の前は真っ暗だった。

「本当に下山が女の子になっちまったのかどうか、この俺が確かめてやるよ。」
その瞬間、カラダがこわばった。
人間、本当に恐怖すると、意外に声が出なくなる。
それに、この空間は結構学校のほかの部分からは離れていて、僕が叫んでいたとしても
意味はなかった・・・かもしれない。



「確かめる・・・って・・・なに?」
「こういうことだよ。」
次の瞬間、二人の男が僕の両腕を押さえつけた。

「やめて、やめて、山崎君・・・やめてよ。」
「おお、気が強いな。でも、声や言葉遣いが女の子でも、女とは限らないからなぁ。」

山崎君が僕の目の前に近づく。
「だめ・・・だめだって・・・」
男の子の匂い・・・恐怖とともに僕を包む・・・女の子になって
初めて自分の部屋に戻ったあの日、ベッドの布団から、枕から匂った
あの匂いと同じ種類の・・・今は、恐怖とともに僕に襲い掛かった。

「や、やめて・・・」
制服の上から、彼は僕の胸を触った。
ふにゅ、と小さいけどもしっかりとした弾力のある僕の胸が
彼の指をはじく。
「だめ・・・だめぇ・・・」
恥ずかしくて・・・悔しくて涙が出始めて、泣き叫びたかったけれど
なぜか声はそれほどでなかった。

「感触はいいな。まだまだガキのおっぱいだけど。」
「山崎君・・・こんなの、やだよ。昔は一緒に遊んだじゃない!ずっと、友達だとおもってたのに・・・」

「だから、お前が本当の女の子かどうか確かめてやってるんだよ、だまってろ!」
大声ですごまれると、僕は黙ってしまう。
しかも、このくらい大きな声で叫んでも、誰にもばれない。
ここは・・・職員室からも離れた場所にある。この時間、もう誰も来ない
転入して一ヶ月の僕にも分かることだった。彼らには
そのことが充分に計算できてるのだ。
だから、この瞬間は僕にとって地獄の始まりでもあった。



「山崎君・・・だめだってばぁ・・・」
ぼくは、昔山崎君と豪と三人でお祭りに行ったり、みんなでサッカーしたりして遊んだ
小学校の日々のことをなぜか思い出していた。
残酷な思い出をめぐらすそのあいだ、両手を押さえられていた
僕のブラウスのボタンは一つ一つ、丁寧に外され続けていた。

昔から、確かに悪ガキだった。でも、僕や豪にとっては、本当にいい友達だった。
喧嘩もしたし、でも、その数だけ仲直りもした。
僕や豪にとっては、この中学校は、山崎君が通っている中学校だと思っていた。
そのくらい、つい最近・・・確かにこの1年くらいはあまり話してなかったけど
親友だと思っていたのに・・・
「ちゃんと、下着もつけてるんだな。」
真新しい純白のブラジャーは少しずつ膨らんでくる胸を、ゆるく押さえていた。
初めは大きかったカップも、急速に成長する女の子のカラダには
もうちょうどよい大きさになっていた。
そのブラジャーを山崎君が、ちら、とめくった。

「へぇ、普通におっぱいじゃん。」
「だから・・・やめてよ・・・おねがい・・・」
もう、僕の目には涙があふれ出始めていた。

「こっちはどうかな?」
胸はひらっきぱなしのまま、山崎君は僕の太ももに手を伸ばした。
「あっ・・・」
敏感な部分をやさしい手つきでなでられると、嫌でも声が出てしまう。
しまった、とおもった。でも、遅かった。

「感じちゃったの?」
うまい・・・そのことは認めなきゃいけない。それでも、声が出ないように抵抗しなきゃ

「そんなことない・・・やめてよ・・・」
でも、彼の手はぼくの言うことなんか聞いてくれない。
「あれ、もうぬれてるじゃねえか。」



そういうと、彼は僕のパンティに手をかけて、両手で一気に下まで下げた。
「ほら、左足からあげろ!」
「やめて・・・やめて・・・」
もはやうわごとのように、やめて、と繰り返す僕。しかし
彼は言うことなど聞いてくれない。

「次は右足だ。」
抵抗するだけの腕力のない僕はただ言うことを聞くだけしかできない。
なんとか、早くこの時間が終わってくれることを祈っていた。
そして、女の子になって日の浅い僕は
この期に及んでまだ犯されない可能性に期待をかけていた。

そう・・・この期に及んでエッチなことをしなくてすむように願っていた。
「どれ、スカートも邪魔だな。」
同じようにスカートも剥ぎ取られた僕は、下半身ハダカになった。

「も、もうわかったでしょう?だから・・・おねがい・・・」
「何を?何をお願いするんだ?」
「かえして・・・おねがい・・・かえして・・・」

僕は・・・恥ずかしさでいっぱいでただただ「かえして」と懇願する。
「かえしてやるよ、おとなしくしてればな」

どうして、こんな言葉に乗せられたのか分からない。
「おとなしくする・・・だから、かえして」
「それじゃ、このままおとなしくしてな。」

次の瞬間、僕のブラジャーは剥ぎ取られて、山崎君が胸をもみ始めた。
「おお、いい感触じゃん。まだまだ小さいけどな。」
むき出しになった胸は・・・そのとおりまだまだ小さかったけど
女の子に生まれ変わったその日からみれば
随分大きくなったのに・・・
小さい・・・そういわれたことが僕の心に小さな傷を刻んだ・・・


「あっ・・・」
でも、そんなことお構いなしに彼は僕の胸をもみ始めた。
優しい手つきで、胸の先端・・・乳首を弄られると、
まだ敏感すぎる僕の感覚中枢は過度に刺激されて・・・つい、望みもしない
声が出てしまう。
女の子になって間もない僕は、がまんするということをしらなすぎた。

「きもちいい?」
「そ・・・そんなことありません!」
気持ちよくなんかないのに・・・声が出る。

「あっ・・・」
別にきもちいいわけじゃない。ただ、いつのまにか僕の両脇を抱えてた二人の男の子が
足を使って僕の足を広げて・・・その間の割れ目にまた、山崎君の指が優しく触れた。
どうしても、声が出てしまうのだ・・・

「ほんとに・・・もうやめてぇ・・・」
本能的に、自分がおかしくなってしまう・・・そう、感じた僕は
この行為をやめてくれるように哀願する。
でも、そうやって哀願している時点で、山崎君に対して、
下手に出ていたという意味では。もう間違っていたのかもしれない。
「ちゃんと、確かめてやるからな。まってろよ。」
「えっ・・・なに・・・やめてぇ」

やめて、と叫びながらも、「女かどうかを確かめる」という単純な言葉が
不安な僕になぜか説得力を持って響いたことも事実だった。
女の子として上手く振舞えているかどうかを
ずっと気にしていた僕にとって、その言葉は・・・不思議に響いて
そして・・・僕には・・・
女の子にとって、そこが大切な部分だという認識が・・・決定的に欠けていたのだろうか。

「あ・・・あぁっ・・・」
山崎君の指は僕のアソコをなぞり続けた。
「へぇ。ぬれてきたじゃん。確かに女の子みたいだな。」
「そ・・・それがわかればいいじゃない・・・やめてよ・・・」



「まだまだ。触るだけじゃ分からないからな。」
「どういうこと・・・あっ・・・」

どうしてだかわからなかった。でも、この期に及んでも僕には危機感が欠けていた。
相手は小学校時代には親友だった男だ。
たしかに、中学校に入ってからは疎遠だったし、
随分と悪くなってしまったといううわさも聞いてはいた。
でも、僕がここまで泣いて懇願すれば、やめてくれる男だと、信じていた。

「ん・・・あぁ・・・」
僕は、アソコの一番上のあたり・・・とっても弱いところが
なんと呼ばれるところかすら知らなかった。
そして、じかに触られると・・・自然と声が出るほど敏感なその部分を
山崎君は・・・集中して責めるようになった。

「も・・・う・・・やめて・・・充分でしょ?友達でしょ?」
「友達?どうして、俺のところに一度も挨拶に来なかったんだ?」

「・・・」
それは・・・口では上手く説明できない・・・
でも、豪にも一度も会ってないし・・・この状況を、誰かに説明しようなんて
そんなことはできたらしたくなかったから・・・

「いやぁ・・・」
僕が頭の中で言葉をまとめようとしているうちに
ブラジャーの中に山崎君の手が伸びてきた。

「お前、処女か?」
山崎君の質問が変わった。パニックになってる僕の頭は、多くのことを考えることが
できない。
「処女・・・処女だよぉ・・・やめてよ・・・こういうことは・・・」

「処女?この年で処女なんて恥ずかしいだろう。俺が奪ってやるよ。」
「なに、なにいってるの?やめて・・・」
「おとなしくしろ!」
大きな声で一喝されて、僕はようやく知った。
目の前にいる男が、小学校時代の親友では、もはやないことを。


そして、自分が男から女の子へと生まれ変わったよりも
もっと激しく、この男は、小学校のときと比べて、変身していることを・・・

くちゅ・・・くちゃ・・・そんな音を僕のアソコが立て始めた。
「あぁ・・・あぁん・・・」
目を閉じて下を向き、涙を流し続ける。くやしかった。
でも、きもち良いところを弄られると・・・声がどうしても出てしまう・・・
その法則をようやく僕は発見し・・・しかも認めたくなかった。

「お前らも俺の後でやらせてやるからな。しっかり抑えてろよ。」
「あぁ・・・ん・・・いやぁ・・・どうして・・・」
「お前、知らなかったのか?放課後のこのトイレのことを。」
「なに・・・なに・・・?」

「ここは良く先生の目を盗んでこうやって遊ぶ場所なんだよ。
今日は面談の終わった後で誰も来なくて、溜まってたんだ。
そんなところに処女が入ってくるなんて、度胸あるな。」

なにそれ・・・こんなエッチなことをするために張り込んでたってこと?
どっちにしても、僕はそんなこと知らない・・・誤解だ・・・許してもらわなきゃ・・・

「あ・・・あぁん・・・」
でも、声が止められない・・・どうすればいいのかわからない・・・
「お前も、これからはやって欲しかったらここに来るといい。」
「だ・・・だれが・・・あぁ・・・ん」

「ふふ、カラダは正直じゃん。いやいやいってても、
こんなにぬれてるぞ。」
僕の目の前に・・・少し白いぬるぬるした液体でぬれた指を差し出す山崎君・・・
僕の内ももには・・・すでに熱い液体が伝わっていたから、
なにかが流れていることは分かってはいた。
でも、こうやって目の前に見せ付けられると・・・ショックは何倍にも増した・・・

「だめ・・・もう・・・ごめんなさい・・・」
「次にどうすればいいか知ってるか?」
「知らない・・・もう・・・やめて・・・お願い・・・」

「知らないなら教えてやるよ。」
山崎君は・・・僕から手を離したと思うと
自分のズボンとパンツを一緒に脱いで、下半身裸になった。



「めんどうだ、そいつを裸にしろ。」
「きゃぁっ!いやぁ!」
僕の腕を掴んでいた二人が、ブラウスとブラジャーを一気に剥がして、
その瞬間、僕の身につけているものは上履きと靴下と、髪を結んでいたゴムだけになった。

「ふぅん、さすがに綺麗なハダカだな・・・」
生まれ変わったばかりの僕のカラダを褒められても、嫌悪が消えるわけではない。
「だめぇ・・・みないでぇ・・・」
泣いて懇願しても・・・無駄なのは分かっていた。
むしろ、ハダカのまま泣き続ける少女・・・犯すには格好の素材だっただろう。
僕は、涙を止めることができなかった。左手で両方の胸を
右手でアソコを隠したまま、しくしくと泣いた。

「こっちに来るんだ」
手は離されたまま、拘束は解けたが逃げようとしても出口の前には4人の男が立ちはだかる。そして、僕はハダカのままで、もし逃げたとしても・・・

「いやだぁ・・・」
「こっちに来いよ。おとなしくしてたほうが楽だよ。」
女の子に生まれ変わる過程で、自分の腕力がものすごく落ちたことは良く分かっていた。
この男の子たち全員を相手にして逃げられるだけの体力が・・・僕にはない。

この、悪夢が早く終わってくれれば・・・これは・・・夢でしかなければ・・・
むしろ・・・女の子に生まれ変わったこと自体が夢であって欲しい・・・

そんな現実逃避を見つけ出した瞬間が、女の子としての僕の運命をきめたのかもしれない。
一歩、トイレの一番奥で僕を呼ぶ山崎君の方に歩き出した。
いけないことをしている。分かってはいながらも、どこかで、
これは夢・・・夢に違いないと決めてかかっていた。

4歩、小さな足取りでたどった。ハダカの僕は、右手でアソコを
左手で胸を隠しながらくねくねと歩いた。
「山崎・・・くん・・・」
友達だったのに・・・親友だったのに・・・そう訴えた。せめてもの抵抗だった。
涙がそのときに一瞬止まった。



「下山、ほら。」
そんなふうに真剣に目で訴える僕を上から見下ろす山崎君は、冷たい目で
アゴを下の方へと動かした。
その先には・・・もう大きくなっている山崎君のおちんちんがあった。

ごくん・・・と息を飲んだ・・・
まさか・・・まさか・・・こんなものを舐めろと言っているとは信じたくなかった。
そういう行為があることは知っていたし、女の子になったときに
いつかはそんなことをするのだろうかと考えたことがないわけじゃなかった。
でも・・・こんなに早く・・・こんな形で・・・

「ど・・・どうしろっていうの?」
この期に及んで・・・僕は外面では女の子の言葉遣いを換えようとしなかった。
どうしてなのかはわからない。

信じたくないその命令の意味を聞き返すことが、山崎君の・・・汚らしい男の
欲望をかえって燃え上がらせることなど、まだ知らない純な少女は
まだ、どこかで止めてもらえる期待を持っていたのかもしれない。

「わかんないの?しゃぶるんだよ。フェラチオだよフェラチオ。
昔、教えてやっただろ?」
「・・・そんな・・・やめてよ、山崎君。」
「心配するな。俺の言うとおりにすればいいんだ。」

「そうじゃ・・・なくて・・・」
どんな懇願も、無駄だということはもう分かっていたのに、どうしても
諦めがつかなかった。
「お前本当に下山なのか?いやなら力ずくでやってもらうけど、いいのか?」
「・・・・・・」

昔、小学校6年生のころ、
山崎君が持ってきたエロ本を豪と3人で見てたことを思い出した。
あれは、卒業の直前だったから、あのあと、僕がエッチな本を手に入れたり
オナニーを覚えたりするには、もう少し時間がかかった。
そのとき見せてもらったエロ本の中に、女の子が男の人のおちんちんを
くわえている写真が何枚もあった。それは・・・直感的に
気持ちよさそう、という程度の感想でしかなかったけれど
でも、とっても、どきどきする内容ではあった。
僕も、彼も、その写真を夢の世界のように見ていた。



あれから3年近く・・・山崎君は中学校のトイレに女の子を引っ張り込んで
フェラチオを強要し、僕は病気で女の子に生まれ変わった。
そして・・・対等な立場で同じエロ本に興奮していた少年二人は
今、まったく逆の立場に立たされていた。

もう、観念するしかないことはとっくに分かっていた。
「早くしゃがめよ。山崎さんに恥かかせるのか?」
さっきまで僕の右腕を抑えていた男が、後ろから僕の背中を小突く。

「うぅ・・・分かりました・・・」
僕はトイレの床にひざをつくことはできなくて・・・
しゃがんだまま彼のおちんちんに向かい合った。

「これ・・・なめるの?」
しゃがんだまま上を向いて、山崎君に問いかけた。
「そうだよ。分かりきったことを聞くなよ。そうだ。舌を使うんだぞ。歯立てたら殴るぞ。」

「・・・分かった・・・」
山崎君とは、友達でいたかった。だから、今度は敬語を使わなかった。
やることなすこと全て裏目だった・・・
上目遣いで問いかけるのも彼を興奮させただけだったし、
敬語を使わなかったのも・・・いつの間にか自分の意思で・・・その行為をしているような錯覚に僕を陥らせた。

「ん・・・うんん・・・」
むぅっとした匂いの立ち込めるそのおちんちんの先を唇で
ほんのちょっとだけくわえてみた。

そして、また、上目遣いで、止めたい、と訴える。
「おお、下山・・・そんなにおねだりするような目つきするなよ。
もうちょっと、しゃぶっていてくれよ。」
それが無駄どころかかえって山崎君の汚らわしい欲望を増幅させるなんて
考えても見ない清純な少女は、その訴えが届かないと見ると
再び観念して、ほんの少しずつ彼のおちんちんを
口の中深くに収め始めた。


「ん・・・ぅん・・・」
「うっ・・・舌を使えよ、下山。ほら・・・」
「うぅ・・・ん・・・ん・・・」
匂いはそれほど気にならなくなっていた。
屈辱・・・それだけが深く僕の心に刻まれて・・・
自分の存在がそこにあるのかないのかわからないほど・・・ふわふわした感覚が
体中を走っていた。

「そうだ・・・そうそう。心をこめて、しゃぶってくれよ。」
どうしていいかわからない僕は、とにかく恐ろしくて
山崎君に言われるとおりに舌を使っていた。

「どう、山崎君、きもちいい?」
何が僕にそういわせたのか・・・今でも分からない。
山崎君と対等でありたいという思いが作ったフィクションだったのか
単に早く終わらせるためには気持ちよくなってもらわなければ困るからだったのか
それとも・・・僕が犯されながらも感じてしまう・・・ヘンタイ女
とんでもない淫乱女だからなのか・・・今になってもわからない。

「あぁ・・・うまい。そ、そこを・・・そうだ・・・裏を・・・」
「こう?」

僕はいつの間にか調子に乗って・・・口を離して舌で裏すじをなめて・・・
左手はいつの間にか胸を隠すのを止めて・・・
そうだ・・・このまま終わらせてしまえば・・・処女だけは守れるかも・・・

そんなことを考えていた。

「ああ、下山、きもちいい。もう、ストップストップ」
強引にしゃぶるのを止めさせられた・・・
その瞬間、僕は深い後悔に襲われた。

「やるじゃない。さぁ、次はこっちがお返ししてやるよ。」
「だ・・・だめ・・・しゃぶってあげるから・・・それは・・・だめ・・・」
考えが甘かった。



「ほら、壁に手をつけろ。」
「そんなぁ・・・だめぇ・・・しゃぶってあげるから・・・山崎君・・・」
何を言っても、全て裏目に出る。
「そんなにしゃぶりたきゃ、別のやつのをしゃぶらせてやるよ。」

「そうじゃなくて・・・だめ・・・だめ・・・」
そういってるうちに、僕は腰をしっかり握られて、壁側には、
さっき右手をおさえていた男が立った。

「さぁ、俺のもしゃぶってもらおうか。」
強引に男が僕の口に、大きくなったおちんちんをねじ込もうとする。

「いや・・・いや、いいやぁ!」
同じ瞬間、下半身の真ん中・・・僕の大切なところの裂け目に
何かが当たった。
あたった、と思うと激しい衝撃と・・・びりびり・・・めりめりという音が
僕の体の中に響いた。

「いや、いやぁ!」
「おとなしくしてろよ。」
もう、口にはさっきと微妙に大きさも形も違うおちんちんが入ってきていた
そして、大事な・・・女の子の穴を・・・
割ってはいるのは、山崎君の・・・僕がさっきまでしゃぶっていたおちんちんだった。

「んん・・・んぐぅ・・・んはっ・・・」
痛い・・・痛い!でも、そう叫ぶことができない。
なぜか僕は口に他の男のおちんちんを含ませたまま
必死に痛みをこらえていた。

「うぅ・・・ん」
口の中で、大きくなった、他の男のおちんちんは、僕の意思とは関係なく
勝手に動き始めていた。
しゃぶる、ではない。もう、勝手に僕の口から出たり入ったりして・・・
舌や・・・口の中のあちこちに・・・おちんちんが当たって
視界が揺れて・・・それで・・・痛い!



「あ・・・あぁ・・・ん・・・」
下半身の方は、ゆっくりと山崎君がピストン運動を始めていた。
時々・・・ものすごい痛みが走る。そして、ゆっくりと、だんだん、奥まで
山崎君のおちんちんは、僕の体の中に入ってきている。

「あぁ・・・ん・・・いや・・・ふぅ・・・」
もう、これ以上はいらないというところまで来ると、痛みが和らいだような気がした。
不思議と、出血はなかった。まだ初潮すらきていなかった僕には当然だったかもしれない。

「うぅ・・・ん・・・」
口の中にはおちんちんがまだあった。なぜか必死でしゃぶり続けた。
おなかに力を入れて・・・痛みに耐える。
どうして・・・おしゃぶりの方まで必死で続けたのか・・・
今考えても分からない。

「あぁ・・・ん・・・あぁ・・・」
そして、再びゆっくりと、山崎君が動き出す。

「うぉ・・・気持ちいい・・・しめつける・・・」
僕は・・・何か意識していたわけではない。
ただ、山崎君はとにかく、きもちいい、と連呼しながらゆっくりと僕を犯し続けた。
上手く出たり入ったりしないからだろう。慣れてくると、
少しずつスピードが・・・

「ああぁ・・・あぁん・・・」
山崎君が腰を振る速度が速くなると・・・それに比例するように僕がおちんちんをしゃぶるスピードも上がる。

「あぁ、いく!」
前の男は、そういったと思うと、すぐに僕の顔を白く濁った液体で汚した。
鼻いっぱいに、独特のにおいが広がって、自分が犯されたことを・・・実感した。
それでも、腰の方は止まってくれない

「あぁ・・・あぁん・・・いやあ・・・あぁ、いたぁい・・・」
本気の声が出てしまう。



「下山・・・いくぞ!あぁ、きもちいい!」

「はぁん、あぁ!」僕は前方に投げ出され、さっきまでしゃぶっていた男に倒れこんだ。
今まで太いおちんちんが入っていた、アソコに・・・不思議な喪失感が残った。
「あぁ・・・あぁん・・・」
次の瞬間、お尻に温かいものがかかってきたのがわかった。
再び、僕のカラダは男の欲望で汚された。

「はぁ・・・山崎君・・・もう・・・ゆるしてぇ・・・」
だが、山崎君は許してくれなかった。
僕の髪をむんずと掴んで自分のほうを向かせる。

僕はスペルマと唾液にまみれ、焦点の合わない目線と、ピンク色に紅潮した顔を
山崎君と、他の男の子たちにさらしていた。
もちろん、ハダカのまま・・・小さな3枚の鏡に少しずつ映った
僕の姿は・・・全身を映し出さなくても、とんでもなくいやらしいものだった。

少女・・・まだ成熟し始めてすらいない少女の体が
それに似つかわしくないほどいやらしく発情したことを示す
男の体液に汚され・・・そしてそれでもかすかにピンク色に染まっていて
男を楽しんだいやらしいオンナ・・・僕は・・・
その姿を、男の心に戻ってなぜか客観的に眺めていた。
その姿が、まるで他人のものであるかのように。

「だめだ。約束だからな。残りのヤツもしゃぶるんだ。」
「うぅ・・・も・・・もう・・・やめてよ・・・」
泣いても、どうにもならないことくらい分かってる。でも、泣かずにはいられなかった。

その先は・・・ほとんど感情もなく、ただ事務的に残りの男の子の
おちんちんをしゃぶっただけで・・・もう思い出したくもない。

解放されたとき、意外に時間はたっていなくて、せいぜい5時を回ったところだった。
「帰らなきゃ・・・」
呆然としたまま歩いて家まで帰り・・・自分の部屋に入って・・・
そして、泣いた。

「あぁん・・・うわぁーん」
でも、意外にも泣いたのはほんの一瞬だった。

「はぁ・・・」
何が起こったのか、考えたくもなかった僕は、
ただ、天井を見上げて床に寝そべり、ほうけていた。



「いたい・・・」
小学校のとき・・・ずっと友達だった山崎君に・・・
学校のトイレで、強引に・・・やられた・・・
家に帰ったぼくは・・・自分のベッドの上で、呆然としているしかなかった。
「いたい・・・よぉ・・・どうして・・・」

時々・・・強引に引き裂かれた割れ目のあたりに痛みが走った。
「う・・・ぅん・・・」
時々、泣きたくなった。でも涙が出るところまでいかなかった。

親に心配をかけたくないからだっただろか。なぜそんな風になったのかは
わからなかった。とにかく、何もする気が起きなかった。
明日からの学校のことなんて、考えたくもなかった。

「考えが・・・甘かったんだ・・・」
僕は、自分が女の子になった瞬間から、まるっきり新しい人生が始まったような
そんな錯覚に陥っていたのだ。

むかしの、ある出来事を思い出していた・・・
「女って、どうしてセックスとか嫌がるのかな?
むこうも気持ちよくなれるんだからいいじゃん。」
「おい、山崎、でもやっぱり裸になるのは恥ずかしいんじゃないかな?」
「でも、もしお前が女だったら、どうだ?やっぱり俺にやらせてくれないのか?」
「そんなことないよ、バンバンやらせてやるよ。」
「そうだよなぁ。何で女はやらせてくれないんだろう。」

小学校6年生の最後の数ヶ月間、山崎君は狂ったように
女の子を追い回していた。しかも、中学生やら高校生やらを。
ずっと3人で仲の良かった豪と僕が中学入試で忙しくなる時期と重なっていたので
その系統の・・・エロい話には適当に答えていただけだった。
かまっている暇もなかった。

でも、そんな会話が確かにあったことを・・・いま、思い出した。
僕は・・・まだ小学生の山崎君に、「もし女の子だったら」という
仮定で、セックスをOKして、今、まさにそんな状況がおとずれた。

山崎君にとっては、ただそれだけのことだ。僕がいくら嫌がっても
それより前に・・・ずぅっと前に約束があったのだから・・・



僕を犯したことなんて、ただ、約束を果たしただけのことに過ぎないのかもしれない。

「痛い・・・」
山崎君のおちんちんが強引に割って入ってきた割れ目が
そして、その中が・・・
ちょっと動くたびにすれて、痛い。

僕は、その約束を果たすのが嫌で、自分の正体を山崎君に明かさなかったわけではない。
ただ、あまりにも変わってしまった彼と、それ以上に変わってしまった僕とが
なにも話すことがない・・・だから、話をしなかっただけだった。

でも・・・それは僕のほうからの勝手な思い込みで
こっちに用がなくても・・・向こうには用があった。
「もし、お前が女だったら・・・」
そのありえないもしもが現実になったとき・・・
それは、僕にとっての悲劇で、山崎君にとっては・・・

・・・いったい、どんな意味を持っていたのだろう?
「うぅ・・・わぁ・・・ん」
僕は考えがまとまらなくなると、涙が止まらなくなって、
机の上で突っ伏して泣いた。
処女と強制的に決別した日・・・長い一日はまだ終わらなかった。

「紗希、どうしたの?」
香澄さんがいつものように僕の部屋にやってきたとき、
香澄さんはいちはやくただ事ではない僕の表情に気づいたようだった。

「かすみさん・・・なんでもないの。」
「なにいってるの?泣いてたんじゃないの?」
僕は首を横に振って、何度も振って、そして今日起きたことを否定するかのように
そして、香澄さんに知られたくない、でも、聞いて欲しい・・・
どうしようもない・・・恥ずかしいから、これ以上聞かないで。
そう思って首を振った。


「紗希・・・何かあったのね。学校で?」
「だから、なんでもないって・・・」
「ウソ、あたしに隠し事なんてしないで。紗希はまだ女の子になった
ばっかりなんだから、いろんなことがあるのは、ちっとも恥ずかしいことじゃない。
ちゃんと、あたしには話してよ。」

「う・・・うわぁーーん」
その瞬間、僕の涙腺が爆発して、香澄さんの胸に抱きついて
号泣した。

「紗希・・・」
香澄さんは、それきりしばらく何も聞かず、ただ僕の頭をなでて
体を強く抱きしめて、K女子高校の制服が僕の涙で汚れることも
気にせずに、ただ、僕を暖め続けた。

人の温かさ・・・母たる存在である女性の温かさを・・・これほど
強く感じたことは、なかった。

「そう・・・それは、災難だったね。」
明かりをつけた部屋の真ん中で、僕は香澄さんに今日起きたことを全て話した。
「かすみさん・・・あたし・・・くやしい。どうして・・・こんな・・・」
「紗希・・・気にしちゃだめだよ。女の子にとっては、
なんていうか、事故みたいなものだからね・・・」
「事故?じゃあ、仕方がなかったって、済ませっていうんですか?
あたし・・・あいつら・・・殺してやりたい。でも・・・」
「でも?」
「・・・・・・」

「紗希?黙ってちゃわからないよ。」
「悔しい・・・」



「紗希・・・実はね、あたしも最初はちょっと無理やりだったの。」
「かすみさん?」
思いもかけない香澄さんの告白・・・香澄さんが処女じゃないことすら
僕はまだ知らなかった。

「いったでしょう?それって、女の子には結構よくあることなんだよ。
そりゃ、にくくてたまらないだろうけど、それはそれとして、
強く生きていかなきゃ、これくらいのことでくじけてたら
女の子として生きていけないよ。しかも、あなたみたいに
かわいい女の子なら・・・それは、仕方ないこともあるの・・・」

「かすみさん・・・そんな・・・」
「紗希、あなたが犯されたその悔しさを、あたしが吸い出してあげるね。」
「かすみさん・・・あぁっ・・・」
香澄さんは、抱きしめていた僕を反対側に仰向けにゆっくりと倒すと
制服のままの僕のスカートの中に手を伸ばす。

「かすみさん・・・どうしたの?やめて・・・あっ・・・」
「紗希を汚したものを・・・あたしが吸い出してあげる。」
そういうと、香澄さんは僕のパンティをずり下ろして、
強引にスカートの中に頭を突っ込んだ。

「あ・・・あぁん・・・」
つい数時間前、処女を失った僕のアソコを・・・
温かくて優しい香澄さんの舌が触れる。

「香澄さん・・・きたないよ・・・」
「大丈夫・・・心配しないで。」
「あぁん・・・だ、だめぇ!」
恥ずかしい。汚い。香澄さんがこんなことするなんて・・・
ショックだった。でも・・・

純白のパンティの上から、あたたかい香澄さんの舌が・・・
まだひりひりと痛む・・・その部分に触れる。
あったかい・・・その温かさは痛みをほんの少し和らげる。



「うぅんん・・・かすみさん・・・」
その部分・・・さっき、山崎君が強引に割って入ってきた、
僕のからだの真ん中にある裂け目は・・・今の僕にとって
大きな傷だった。

その部分は・・・女の子へと完全に生まれ変わる直前から、病気のせいで、
この体の中で少しずつ形成されつつあった、
子供を作り産むためにある「器官」の一部であり、
完全に裂け目となって2ヶ月ちょっと経っていた。

どんな意味でも使ったことはなかったし、だからといって
15歳の僕にとって使い方をまったく知らないということはなかった。

でも、使おうと思ったことは・・・まだ、なかった。
自分が、女の子に生まれ変わったことを、僕はまだ決して完全に受け入れられていない。
女の子の一番大切なところ・・・そこを何かのために「使って」しまったら
自分が女の子であることを認めてしまうようで、嫌だった。

僕が・・・女の子に順応していくその過程は、全て香澄さんに導かれてのもので
自発的に、女の子としての何かを望んだことは、まだなかった。

そんな僕にとって、その裂け目は、未だにただの裂け目で、
痛みを伴ってしまっている以上、それは「傷」と呼べる、ただそれだけの場所だった。

その「傷」を覆っている布一枚・・・パンティ越しに感じる温かい香澄さんの舌が
僕の傷の痛みを、ほんのりと癒す。

ちょろ、ちょろと舌の先が動くと、温もりを感じる点も同時に動く。
そして、パンティ自体があったかくなる。
「かすみさん・・・もう・・・やめて・・・恥ずかしいよ。」
香澄さんは僕が止めても、その傷を癒す行為を止めようとはしない。
女の子の心・・・癒されている・・・あの香澄さんが・・・
僕に跪いて、こんな汚い部分に顔をうずめて・・・
信じられない光景だった。
「あ・・・あぁん・・・」
いやらしい・・・女の子のいやらしいあえぎ声が、漏れてしまう。恥ずかしい・・・



「紗希・・・悔しかったでしょう?」
その香澄さんの問いかけに僕はうなずいて、答える。
「香澄さん・・・あったかい・・・ありがとう・・・」
うつろな目でしゃがんだ香澄さんを見下げて、答えた僕に香澄さんは手をのばす。
僕はその手をとって香澄さんを立ち上がらせる。

それが・・・僕がいやらしい女の子だと認めているのと同じだと、
気づくことはできなかった。

香澄さんは立ち上がると、僕の泣きそうな頬に両手で触れて、
「紗希・・・あなたの悔しさも、汚されたものも、今からあたしが吸い取ってあげるね。」
どきっ、と心臓が一瞬にしてはちきれそうな言葉を発した。

「かすみさん・・・」
僕は、香澄さんが立ち上がったときに、香澄さんのその行為が終わったことに
心のどこかで安堵を覚えていた。
でも、否定できない。安堵とともに、「これで終わってしまうの?」という
かすかな不満を覚えた心の・・・本当の自分の心を・・・

そして香澄さんはゆっくりと僕をベッドの方へと押して導く。
香澄さんの整って美しい顔と、黒くて綺麗な瞳の奥の光に
吸い込まれそうだった。

一歩、一歩、短い足取りでも狭い部屋のベッドまで、5歩もかからず
香澄さんは僕の両腕を持って座るように促し、
それに僕はおとなしく従った。

「いや・・・やめて・・・」
しばらく忘れていた言葉を僕は発した。恥ずかしい。
恥ずかしくて顔から火が出そうだった。その、恥ずかしさが僕にその言葉を・・・
でも、本当は嫌ではなかった。

僕は・・・男の気持ちを思い出していた。
もし、こんな綺麗な香澄さんが・・・憧れのお姉さんだったかすみさんが
男の僕にこんな風にしてくれたら・・・
そう思うと、心臓はむしろ高鳴っていた。
「やだぁ・・・かすみさん・・・」
そんな、恥ずかしさから出る言葉は・・・女の子に順応しつつある僕のもうひとつの顔。
香澄さんは嫌だといっても止めてくれなかった。そしてそれは僕の
望むところでもあった・・・



「紗希・・・その傷・・・見せてね・・・」
香澄さんは上目遣いにそういうと僕のパンティを下ろし始めた。
こくり、とうなずいた僕は、右足、そして左足と順番に上げて
制服のままアソコだけあらわにした状態で・・・香澄さんがその傷を
癒してくれる瞬間を・・・待っていた。

拒否をしなかった。
脚を開かれたとき、僕は・・・思った
あれ・・・今、香澄さんが見せて・・・っていうのは、
僕のおちんちんだっけ・・・それとも・・・

あっ・・・そうだった。僕は女の子だった。
だから・・・さっき・・・いや、思い出したくないのに・・・

「紗希・・・力を抜いてね。」
怯えたように体をこわばらせる僕はベッドに腰掛けて
硬く閉ざしていた両脚から、その香澄さんの一言に従って
力を抜く。

あっ、そか・・・僕は、もう男じゃないんだ・・・
女の子だった。じゃあ・・・今香澄さんが僕の脚を開こうとして・・・
その向こうにあるのは・・・
香澄さんの優しい手が、僕の力を抜いた脚を開く。
僕は心臓が高鳴るのを確かに感じながら、同時に恥ずかしさとも戦う。

「かすみさん・・・」
香澄さんは開いた脚の太ももに手をかけて閉じないように抑えると
さっき、山崎君に汚された僕の「傷」をじっと見つめていた。
「は、恥ずかしいよ・・・」
「うん・・・」
香澄さんの顔が僕の「傷」に近づく。温かい舌の温もりを想像して
僕はそれでも恥ずかしくて、目を閉じた。



そこに、男の子だったときの突起物はなくて、
その突起物・・・おちんちんを受け入れるための
そして、さっき受け入れてしまったばかりの・・・女の子の
大切な部分があった。

「あぁ・・・ん」
その瞬間、僕は・・・言いようのないほど混乱して沸騰しそうな
心の全てを、香澄さんの舌に委ねるしかないことを悟っていた。
傷を癒してもらうことで体も、心も全てを癒してもらう
女の子の決意を胸にした。

「うぅ・・・ん」
香澄さんの舌が最初に触れた部分から下に下がっていく。
思ったよりもくすぐったくて、つい腰を後ろにそらした。

「あったかい・・・」
ゆっくりと、僕の女の子の部分・・・傷を上下する香澄さんの舌
その温もりは確かに伝わって・・・傷の、ひりひりという痛みは
ほんの少しずつ癒されてゆく。

「うぅん・・・あぁん・・・」
エッチなあえぎ声をつい漏らしてしまう僕。
香澄さんの手が太ももを優しくなでている。温かくて、とても気持ちいい。

「紗希・・・きもちいい?」
香澄さんの問いかけに低いあえぎ声を漏らしながら僕は、こくりとうなずく。

「寝転んでもいいよ。」
僕は、その香澄さんの言葉に素直に従って、体を後ろに倒す。
こんなふうに・・・こんなふうにしてくれたら・・・山崎君でもよかったのに・・・
一瞬だけそんなことが頭をよぎって、すぐに理性がかき消した。


「きもち・・・いい・・・あぁん・・・」
頭の中が、夢のようにぽわ〜ん、としてくる。香澄さんは
僕の「傷」を舌で癒し続けながらも、時々両手の指で何か刺激を与えだしていた。

「うぅ・・・ん・・・」
次の瞬間、香澄さんは僕の「傷」に唇を当て・・・そして・・・
ちゅうっ、と音を立てるようにして吸い出し始めた。

「あぁん・・・香澄さん・・・きたないよ・・・」
僕の体を汚した山崎君の体液を・・・まるで本当に吸いだすように
香澄さんは時々息を止めて、「傷」の中を吸い続けた。

「うぅ・・・ん・・・」
体をのけぞらせるほど気持ちいい・・・香澄さんは
僕の「傷」の中に舌をゆっくりとねじこませて
傷の中の壁まで、癒そうとしてくれるようになった。

「かすみ・・・さん・・・かすみさん・・・」
言葉にならない思いは・・・憧れのお姉さんその人の名前を繰り返して呼ぶことで
上手くあらわせているような気がする。

「きもちいい?」
「はい・・・」
香澄さんは顔を上げて、それでも両指が僕の「傷」を癒そうとしている。

「ねぇ、紗希・・・」
「なに・・・かすみさん?」
「感じてきた?」

「・・・は・・・い・・・」
ぽわ〜ん、とした頭で、いつの間にか傷を癒されるだけではなくて
違うことを僕は期待し始めていることに気づき始めた。

「自分でおっぱいもんだら、もっと気持ちよくなるよ。」
くちゅ、くちゅ、といつの間にかいやらしい音が、傷口から聞こえるようになっていた。

「うん・・・」
僕は言われたとおりに左手で胸をもみ始めた。
「きもち・・・いい」
香澄さんはその言葉を聞くと、再び舌を傷口にやった。
「あぁ・・・ん・・・」


そして、少しずつ傷口の上の方に・・・香澄さんの舌が上ってくる。
「い・・・ひゃぁん・・・あっ・・・あっ・・・」
香澄さんの舌が・・・その部分で止まって、軽く何か、皮をめくろうとして
僕は、信じられないほどの衝撃に・・・息が止まってうまくあえぐこともできない。

「いや・・・ぁ・・・ぁ・・・」
くるん、となにかが皮の下から飛び出した感覚があって・・・
その部分に香澄さんの舌が触れた瞬間・・・
「あぁぁぁん・・・」
僕は、びくん、と全身を痙攣させた。

「き・・・きもちいい・・・」
永遠に、世界が変わってしまったほどの衝撃を・・・僕の本能は
きもちいい、と表現した。

「紗希、きもちいいの?」
「うん・・・」
それだけ聞くと、香澄さんは僕の傷口を広げて
再び舌をそこに這わせて・・・
「しょっぱい。」
と言った。

僕は、恥ずかしくて目を伏せた。何もいえなかった。
「恥ずかしがらなくていいんだよ。気持ちよくなれば、
女の子のここは、こんな汁をだすようになってるんだから。
あたし、もう少ししたら、紗希に、女の子の・・・
エッチなことも全部教えてあげようと思ってた。
でも、もう、仕方がないから、今日全部教えてあげる。」

「かすみさん・・・」
僕がかすみさんの名前を呼ぶと、かすみさんはにこりと笑って
僕の傷口に再び舌先を触れて、
そして・・・さっきものすごく気持ちよかった部分の近くまで
上がったり下がったりを繰り返した。

「あっ・・・あっ・・・ぁん・・・」
気持ちよかった。もう、声が漏れるのを止めようともしなかった。
でも、往復を繰り返す香澄さんの舌が・・・あの部分まで近づいては
触れることなくまた下がっていくのを感じると・・・
僕の心は残念な気持ちで、その度にいっぱいになった。


「か・・・かすみさぁん・・・」
何かを・・・いや、あの部分に触れて欲しい、という願いをこめて
僕は香澄さんにもの欲しそうな視線を投げる。

「ふふ、紗希ちゃん。なにかいいたそうね・・・」
「かすみさん・・・」
顔を上げて、香澄さんは、今度は指で同じように傷口をなぞり始めた。
「どうして欲しい?いってごらん。」
「かすみさん・・・」

ぬるぬるとした液体が、香澄さんの指と僕の「傷」の間にあること・・・
そのぬるぬるをやさしく、なでるようになぞられると、
僕の・・・女の子の快感になれていない体は、充分にきもちいい。
でも、さっきの・・・ものすごい衝撃を・・・もう一度感じたい・・・
「かすみさん、ばっかりじゃ何も分からないよ。それ、あたしの名前じゃん。」
「かすみさん・・・そう・・・じゃなくて・・・あそこを・・・」
「あそこ、って?」
「あの・・・もっと・・・上・・・」
「上?上ってどこ?はっきり言わないとわからないよ。」

男子校育ちで、まじめに生きてきたぼくは、残念ながら
女の子になって、自分のものを含めて・・・女の子の性器を
良く見たことがなかった。
そして、本当に・・・そこがなんていうのかも知らなかった。

「上・・・わからないの・・・さっき、香澄さんがなめてくれた・・・
こりっとした・・・あぁん・・・」
ぬるぬるとした液体が潤滑油になって、スムーズに動く香澄さんの指・・・
でも、もう知ってしまった。もっと、気持ちいいところが
その近くにあることを・・・

「あれ、もしかして・・・知らないの?」
「知らない・・・かすみさん・・・その上・・・なめて・・・あぁん・・・」
僕は、そこがなんという部分かも知らないまま、
とにかくもう一度その部分をなめて欲しくて、喘ぎながら哀願し続けた。


「教えてあげる。さっきのところはね、クリトリス、っていうの。」
「くり・・・とりす?」
聞いたことがある・・・そうか、あそこがクリトリスっていうんだ。
「わかったら、お願いしてみて。紗希の、くりちゃんなめて、って。」

「かすみさん・・・あぁん・・・」
そういいながらも、香澄さんは指を止めない。気持ちいい。
気持ちいいけど、欲求不満も・・・その度に増し続けた。

「ほら、なめてほしいんでしょ?」
「うん・・・でもぉ・・・」
恥ずかしさがよみがえってくる。その気持ちを押し殺してお願いするなんて・・・
「紗希、いってごらん?」

「はい・・・くりちゃん・・・紗希の・・・くりちゃん・・・なめて・・・」
「ふふ、すごいかわいい。」
香澄さんはそういうと、再び「傷」に舌を這わせ
そして・・・少しずつゆっくりとその舌を上に動かした。

「あ・・・あぁん・・・」
その瞬間が近づくと、もう、それだけで頭が爆発しそう。そして・・・
「ん・・・ん・・・ぁ・・・」
体が・・・全身が痙攣した。
僕の傷口からあふれ出たねっとりとした液体を拾って香澄さんの舌は
僕の・・・クリトリスに触れた瞬間。あまりの気持ちよさに
喘ぎ声すら出ない。呼吸ができなかった。

「ぁ・・・ん・・・ぅ・・・」
香澄さんが僕の体を太ももでしっかり抑えている。
僕は上半身をくねらせながら、香澄さんが舌の先で
僕の体の中で、一番気持ちいいところ・・・クリトリスを
ちょろちょろと嘗め回している間
体中に流れる強烈な電流と、クリトリスに走る猛烈な快感に
翻弄され続ける。

「ぁ・・・ぅ・・・」
息ができない・・・でも・・・きもちいい・・・
条は新を必死にくねらせて・・・ばたばたとして・・・きもちいい



「あぁぁん!」
香澄さんが舌を話した瞬間・・・僕はそれまで溜めていた息を
全て吐き出すように喘ぎ声を上げた。

「はぁ・・・はぁ・・・」
僕は、息を激しく荒らして、その場にへたり込んだ。

「きもちよかった?紗希ちゃん。」
「・・・」
今にして思えば・・・僕はこのとき、どうしてもうちょっと素直になれなかったのだろう。

「ねぇ、どうだった?」
「・・・」
僕は何も答えられない。そして、少し息が落ち着き始めると
なぜか・・・山崎君に犯されたときの悔しさがよみがえってきた。

「ねぇってばぁ。」
「・・・かすみさん・・・」

「なぁに?どうだった?」
「帰って・・・」
「えっ?」

僕は・・・女の子になってしまった現実を受け入れないばかりか、
認めたくないけれど・・・香澄さんをまるで、
僕を犯した山崎君と同じような目で見るようになってしまっていた。
香澄さんは、僕を犯した・・・そんな・・・錯覚を起こしていた。

「帰って・・・帰ってよ。僕は・・・女の子じゃない・・・なのに、どうして?
僕は、男だ!うまれたときから、ずっと、ずっと。なのに、どうしてなんだよ!」

「紗希ちゃん・・・」
「紗希じゃない。和宏って・・・そう呼んでよ。かすみさん、帰ってくれよ!もう、女の子なんてたくさんだ!」
僕は、近くにあった枕を香澄さんに投げつけた。
「きゃあ!」

思いっきり香澄さんにぶつかった枕の行方を見る前に、僕はふとんをかぶって
その下で涙を流し始めた。



「帰って・・・帰ってよ。」
「紗希・・・」
「紗希じゃない。僕は・・・紗希じゃない!香澄さんは、山崎くんと同じだ!僕を無理やり女の子にして!僕は、男なのに・・・勝手だよ。勝手すぎるよ!」

「わ、わかった、帰るよ。じゃ・・・じゃあね・・・」
「はやく、帰って!」

香澄さんが立ち上がって歩き始めたのが分かった。
「ごめん。あたし、もう少しゆっくり女の子のこと・・・教えてあげればよかったのに・・・」
僕は、その言葉が耳に届いたとき、もう、布団の舌で泣きはじめていた。

ぱたん、と部屋の扉がしまった音とともに、僕はひとりになった。
「ごめんね。紗希・・・」
そう、部屋の外から一言いって、香澄さんが階段をおりていった。

「うぅ・・・僕は・・・俺は・・・」
そう言って泣き続けた。
どのくらい、泣いただろう。

なんて卑怯な・・・僕・・・自身を悔いた。
僕から見て・・・女の子の体に生まれ変わって、体も小さくなって
体力的にも弱くなった僕は、
力で男にかなわないことを知っていた。
だから・・・男の子たちには従うしかなかった。

そして、ぼくの言うことも聞いてくれる、僕でも抵抗できる
香澄さんには、悪口雑言を思う存分浴びせて・・・
そうして、心の中に溜め込んだ鬱憤を晴らそうとした。
「ごめんなさい・・・」
そうつぶやきながら泣き続けた。



泣きつかれて布団の下から起き上がると、窓の向こうで明かりがつく瞬間だった。

「かすみさん・・・」
その明かりは、窓二枚隔てたところにある香澄さんの部屋の、東向きの窓だった。
僕の部屋の西向きの小さな窓から、そのあかりが差し込むと、
自分が、なにか香澄さんにひどいことをしてしまったような気がした。

「でも・・・俺は・・・でも・・・」
男・・・僕は男だ、と信じたかった。でも、香澄さんにたいして
ものすごく申し訳ないことをしたという意識も生まれてきた。

「うぅ・・・かすみさぁん・・・」
低くうなるように・・・そう、できるだけ女の子っぽくないように声を出して
そして、泣き続ける。

「かすみさん・・・ごめんなさい・・・」
僕は・・・僕は・・・男の勝手な自我で自分を守ろうとして・・・
香澄さんを、あの汚らしい男たちと同じように扱ってしまったことに
気がついた。

「ごめんなさい・・・」
そう言って泣き続けた。でも・・・僕はやっぱり、男で
女の子じゃない・・・香澄さんはその僕を
強引に女の子にしようとして・・・だから、やっぱり香澄さんも悪くて・・・
「うぅ・・・」
整理できない感情・・・そして、頭の中では
今日一日に起きた二つの出来事、山崎君たちに犯されたことと
香澄さんに癒されたこと・・・二つが同時にフラッシュバックする。

「かすみさん・・・」
少し、泣くと、頭の中で少しだけ整理がついてきた。
犯されたことと・・・香澄さんが一生懸命に僕を癒そうとしてくれたことの
区別がついてきた。

「ごめんなさい・・・」
温もりが・・・香澄さんの手から・・・抱きしめてくれた体から・・・そして、
「傷」を癒そうと必死で暖めてくれた、舌の温もり・・・



「わぁ・・・ん・・・」
体の中心から・・・じんわりと温かい感覚が全身に伝わってくるような気がした。

「ごめんなさい・・・かすみさん。」
犯された悔しさよりも、香澄さんが僕の「傷」を癒してくれた
あの温かい時間のことを思い出せるようになっていく。

「すごく・・・温かかった・・・なのに・・・」
涙が止まらない。僕は窓の向こうの明かりに向かって何度も
ごめんなさい、と繰り返した。

僕は・・・男だ・・・女の子じゃない。でも・・・
香澄さんは少しも悪くない・・・僕を必死で癒そうとしてくれたのに・・・

机の上においてあった携帯を手に取る。
どうやって謝ろう・・・なんていったらいいんだろう。

「さっきはごめんなさい。とってもあったかかったよ。」
それだけの文面をメールにすると、送信ボタンを押した。



返事はすぐに返ってきた。
「かすみさん・・・ありがとう・・・」
その中身は、香澄さんと僕だけの秘密だから、ここには書けない。
でも、最悪だったはずの一日の終わりに
僕はとっても温かい気持ちになれた。

男・・・僕は男・・・でも、女の子の姿をしているのは現実だし
その現実と向き合わなければいけない・・・
そして・・・まだ、女の子として知らなければいけないことがいっぱいある。

あんな形で、永遠に処女でなくなってしまったことは記憶の奥底にしまいこんでおこう。
そして・・・もっと前を向いて生きなきゃ。
香澄さんは・・・僕にそう思わせてくれた。

「おやすみなさい、かすみさん。」
窓の向こうを見ながら何通めかのメールをしたときに
時計は深夜を示していた。
「おやすみ。」
そんな短いメールがきた直後、
窓の向こうから、カーテンを開けて、香澄さんが僕の部屋の狭い窓に向かって
笑顔を見せてくれた。

「おやすみなさい」
僕自分が男か女か・・・そんなことは小さなことかもしれない。
香澄さんが教えてくれたあの温もり・・・その温かさだけを
思いながら、僕はその、いろんなことがありすぎた一日を終えるために
パジャマに・・・いつものように女の子のパジャマに着替えて、眠りについた。

次の日・・・ぼくにどんな運命が待っているかなんて
考える余裕はなかった。

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