7話分投下します。
今回の作品、一応強制女性化では有りますが、一歩踏み外してます。
早い話が人間では無いんですよね。
獣姦っぽいですが、決してグロくは書いてません。
人間の女でなきゃ嫌だって方はスルーでお願い。

東雲麗也【19】
トマス山川【】
山川和夫所長
デューク、ラッセル副所長
洞穴ライオン、レイオウ

その他




◆◇金獅子銀獅子物語◇◆

==ライオンと青年==

人跡未踏の広大な密林。
日本列島が何十も入るその地は、まだまだ不思議がいっぱいだ。
漸く人類も森林伐採による愚行を改め、彼の地は南極大陸と同じ人類遺産とし、保存される事となった。
その密林地帯に、寄り添う様に林立する国連機関環境研究所が有る。
東雲麗也は、若干19才にして飛び級で大学を駆け抜け、入所を果たした。
所長にもその人柄と飲み込みの良さを愛され、将来の次期所長として嘱望されている。
しかし、問題はその所長の息子であるトマス山川に有った。
息子の自分より、赤の他人の麗也を大事にする父を、そして麗也に憎悪すること限り無い。
完全に逆恨みで有るが、トマスにとって麗也は居てはならない人物だった。
そんな憎悪が向けられているのも知らず、麗也は体が空けば密林の中に居る事が多い。
その密林には、絶滅したと思われている、洞穴(ほらあら)ライオンが居た。
そのライオンをレイオウと名付け、ライオンも麗也にだけは心を許している。
洞穴ライオンは、アフリカのライオンより頭一つ大きく、なたてがみはより豊かだ。
その気高い姿から洞穴ライオンは、森林部族の神と崇められている。
今日も麗也はレイオウの金毛の腹に背中を預け、ゆったりたたずんでいた。
レイオウも目を瞑り、ゴロゴロ喉を鳴らす。
麗也はこの気高い獅子を何とか守り、増やしたいと思っていたが、良い思案は浮かばない。
「こんなに優しく、格好いいのにね・・・」
麗也はレイオウの頭をぐりぐり撫でた。
レイオウはただ気持ち良さそうにされるがまま。

その時、密林の中から褐色の逞しい肌に、飾り彫が美しい森林部族の戦士がやってきた。
しかし麗也もレイオウも慌てる様子は無く、軽く手を上げ挨拶を交す。
戦士も麗也と同じ様にレイオウに背中を預けた。
「アカム、飲む?」
麗也は傍に有る氷水を、コップに入れ差し出す。
「すまない・・・んぐんぐんぐ・・・ふう美味い!」アカムは、槍と弓を前に置き、遠慮無く氷水を喉に流し込む。
密林内での一番のご馳走はやはり水だ。
麗也もそれを一番良く知っていた


アカムも、腰にぶら下げた袋から乾燥肉を麗也とレイオウに差し出す。
麗也もそれを遠慮無く齧り付き、レイオウは小さく目を開け二噛みした後、ごくりと飲み込んだ。
森林部族は排他的で人を寄せ付けなかったが、麗也だけは別だ。
多分それは、神と崇める洞穴ライオンと仲が良いからかもしれないが。

二人共お互い余計なお喋りはしない。
ゆったり過ぎるこの時間が麗也は好きだった。
「アカム、レイオウ、そろそろ帰るよ」
「神と共に有る麗也よ・・・気を付けろ・・・お前に闇が忍び寄ってる」
「ありがとう」
森林部族の信心深さを今一理解出来ない麗也だったが、否定する気は無い。
立ち去る麗也をアカムは不安そうに見送る。
レイオウもゆっくり起き上がり、密林に消えた。

==トマスの陰謀==

「東雲君、道半ばだが何と送れる様にはなった」
「電送機ですか?」
「うむ、これが一般化出来れば燃料要らずだな」
副所長のデューク・ラッセルは、電送機の完成に人生をかけていた。
燃料を使わずに移動が可能になる。
一石が二鳥にも三鳥にもなる効果を与える筈だ。
麗也はデューク副所長の片腕としても認められ、それがまたトマスの黒い嫉妬を呼んでいた。
副所長の後ろに居るトマスの深い闇に、麗也が気付く筈も無い。
『こいつさえ居なければ!こいつさえ居なければ!こいつさえ居なければ!』
「でも、送れない訳では無いでのしょう?」
「うむ、一々送先に送られる内容を指示しなければならないからな」
そう、送先に細かい内容を指示しなければ、使い物にならなかった。
「教授!是非私で試して下さい!」
「ん!?しかしだな」
「霊長類では成功したじゃ無いですか、私は教授を信じます!」
「わしもそれは絶対駄目だと言えないのが心苦しいが・・・良いのかね?」
「はい!」
麗也はデューク副所長を信じていた。
絶対人体実験でも成功すると。
それに幼くして家族を亡くした麗也には、万が一の恐れも無いのは事実だ。
「分かった・・・打ち込みに時間がかかるから、明日昼過ぎに開始しよう」
「絶対大丈夫ですよ」

二人は気付かなかった。
最大のチャンスにトマスがほくそ笑んだ事を。


麗也は二頭の洞穴ライオンの雌を飼っている。
家族と言えるのはこの二匹だけだ。
親が死に、孤児になっていた子ライオンを引き取り、自室のケージで面倒を見ていた。
大きくなったら密林に離さなければと思っていたが、次第に成長する我が子を見ると躊躇が有る。
可愛くて仕方ないのだ。
しかしこのままで良いとは思ってはいない。
じゃれる少し大きくなった子ライオンを、あやしながら、麗也は眠りに入っていった。

その頃電送機の部屋に、トマスが居た。
「へひひ・・・これで邪魔なあいつを・・・しかし消すだけじゃ恨みは消えないしな」
じーっと打ち込み画面を見るトマス。
「これか・・・慈悲深い俺様だ、獣達も一緒にしたら面白いか・・・ひひ」
嫉妬と焦りにトマスは完全に正気を無くしていた。
後先など全く考えている余裕も無い。
ただただ苦しめたい。
それだけがトマスを動かしていた。

次の日、麗也はデューク副所長に説明を受け、裸で電送側の筒の中に居た。
中からは何も見えず、麗也は副所長を信じ立って待っている。
副所長は最後の内容打ち込み確認を終え、スイッチを押そうとしていた。
トマスは焦っていた。
副所長に隙が無いのだ。
『くそ・・・貴様も俺様を邪魔しやがるか!』
全てがトマスのマイナスに見えてくる。
だから・・・トマスは遂に副所長を巨大なレンチで殴り飛ばした。
脳挫傷を負ったデューク副所長が、結局この研究所に戻ってくる事が無かったのは後の出来事だ。
副所長を別室に放り込み、トマスは打ち込みを細工しだした。
「ひひ、ただ消すだけじゃ面白く無い・・・喜べ!別の人生を送らせてやる」
トマスは麗也の部屋に行き、二匹の雌子ライオンを引っ掴んだ。
そしてそれを麗也が居る電送側の筒に無理矢理押し込め、扉をレンチで固定し、閉じ込めた。
「トマスさん!何が有ったんですか!副所長!副所長ー!!出して下さい!」
麗也はただならぬ事に必死に扉を開けようとしたが、びくともしない。
下では白毛の子ライオンがみーみー鳴いている。
何が有ったのか、一体何が起きようとしてるのか、全く分からない。
遂にトマスは哄笑しながら、スイッチを押した。
「ひゃーはっはぁ!どうなるか俺も分からんぞ!」
ブーンと唸りをあげ、電送機が作動する・・・


「う・・・」
麗也は自分の体が細かく細分化されるのを感じた。
下にはライオンが居る。
『このまま電送される?』
もう逃げようが無い。
麗也と二匹の雌子ライオンが細分化され、電送ケーブルに吸い込まれた。
受信側の筒が鈍く唸り、ランプが点滅する。
何かが受信側に電送されてきた証拠だ。
「ひへへ、さぁて何が出て来るのかなぁ?」

ガシャリ
そこに・・・見た目はライオンに似た長い尻尾を持った生物が気を失っていた。
黒と白の艶やかな短毛が密集し、全身が銀色に輝いている。
目は猫科特有のつり目と細い瞳。
感覚毛が鼻の横と顎下と眉毛の辺りに生えている。
赤い唇からは長い切り歯が四本目立っていた。
二匹の女性ホルモンが勝った故、体付きは大人の女性そのものだ。
女性器は赤い淫肉がその存在を誇示している。
大きな乳房とは別に副乳が二対。
麗也は一匹の若い雌洞穴ライオンに変わってしまっていた・・・。

===雌===

トマスはデューク副所長を病院に送致し、麗也を自室に鎖で繋ぎ、完全に自由を奪った。
麗也は自分の変わり果てた体を見て、愕然とし混乱の極みに居る。
「何で・・・こんな・・・姿に・・・」
トマスは何も言わず餌を置いていくだけ。
「トマス!私に何をしたんだ!言えよ!」
「餌だ、食え」
聞いても必要な事は何も言わない。
次第に諦め、麗也はどうでもよくなっていった。
ふと寝てる時に気付くと、子ライオンの様に体を丸めて寝ている。
夜目が信じられない程きき、暗闇でも見える。
体が異常に柔らかい。
『正に猫だな・・・』
裸で居るのに、少しも寒くないのだけ有り難かった。
数日が過ぎても、トマスはただ麗也を飼い殺しにしている。
あれ程憎んでいた麗也が、自分に飼われている事に、トマスは歪んだ優越感を感じていた。
餌は穀物類が殆んど。
次第に麗也は衰弱していった。
『肉が喰いたい・・・血の滴る生の肉・・・』
そんな麗也の無防備な姿に、トマスが欲情するのは無理もない話。
寝ている元男の麗也の手足を縛り、四つんばいにさせ、ロープで暴れない様に固定。
衰弱し始めていた麗也は、気付くのに遅れる。
気付いた時は、既に性器をトマスに高く曝した姿にされていた


「トマス!な、何をするつもりだ!」
「さすが雌ライオン、しっかりプッシーは有るんだな・・・俺がお前とさかってやろうかとな」
トマスは雌と成り果てた麗也を犯し、身も心も砕こうとしていた。
「雌ライオンじゃない!男だ!人間だ!!」
「静かに、しろ!」
トマスが麗也の首筋をぎゅっと掴むと、雌ライオンの本能で瞬時に身動きが取れなくなった。
「止め、ろ・・・何が、恨みなんだ・・・」
それには答えず、指で淫肉に有る淫核を摘んで刺激しだした。
「あぅ!ぐ・・・や、止め・・・くっ、あぁ」
身動きが取れず、刺激されるがままの雌の体は簡単に高まっていく。
それはとりもなおさず、動物の本能が関係した。
今は春・・・野生動物が盛る季節だ。
そう、少なくとも野生動物界には、レイプと言うのは無いのだから。
ぬらぬらと淫肉が濡れ光っていく。
簡単に受け入れ態勢に入った麗也は屈辱に震える。
トマスは怒張を淫肉に添え、一気に埋めた!
「あああぁ!痛い!止めろ、痛・・・」
怒張が血に染まり、処女で有った事を示している。
醜く歪み笑い、トマスが遠慮会釈無しに突き入れていく。
望まぬ蜜と血が、突かれる度にじゅぽじゅぽと音を奏でた。
「くぅ・・・なんで、なんでこんな事・・・あっ!あぁっ!」
人為らぬ身故、盛りの体は燃え上がる。
交わっている事を示す様に銀のたてがみが揺れる。
『駄目!体に逆らえない!いきそう!いく!』
ふうふうと熱い吐息が牙の間から漏れる。
「さすが獣だな!はしたく犯されていくか?」
麗也は・・・いった。
甲高い鳴き声が夜の静寂を伝わっていく。
「ぐるなあああぉ!!」
「何だ何だ?今のは、いった声か?ひへへへ」

ピクッ・・・
その時、洞穴で寝ていたレイオウが飛び起き、その声に向かって駆け出した。

『このままじゃ、慰み物で終わる!何とかロープだけでも』
「いきました・・・ライオンは性交した雄に忠誠を誓います・・・ロープが痛いから解いて下さいませ」
麗也は静かに艶の有る声で語り掛けた。
「へへ、そ、そうか?もっと楽しみたいのか?」
「はい!この姿じゃ悶えられません!」
「よし分かったぞ」
正気を無くしている悲しさか、トマスは麗也を屈伏させたと思い込んだ


===逃げる===

果たして、トマスはロープと首枷まで外した。
首枷を外されたのは麗也にとって有難い誤算だ。
自由になれば、勝つ自信は麗也には有った。
瞬時に飛び退き、トマスに向かって唸る。
牙を剥き、爪を出し床を引っ掻く。
「貴様騙したな!」
「トマス・・・来るか?一息で首の骨くらい折る事が出来るぞ」
麗也はやはり、人間として殺す事は出来なかった。
爪でトマスの体に傷を負わせ、麗也は窓から飛び降りる。
しかし衰弱した体は中々動かない。
「逃げなきゃ!ぐっ」
ふらふらと脚を進めた時。

バシュッ!
トマスが消音銃で後ろ足を撃ち抜き、麗也はその勢いで林の中に吹っ飛んだ。
「ギャンッ!」
人間じゃない悲鳴が麗也の口をついて出る。
今逃げなければ殺される。
麗也は密林の中を四つ脚で駈けに駆けた。
夜目がきくのは有難い。
まるで昼の様に見える。
トマスがその後を追う事は不可能だ。
川辺に付き、後ろ左足脚を見る。
「痛い・・・」
どうやら弾は抜けたみたいだが、血が止まらない。
周りには布も無いし、縛る紐も無い。
麗也は・・・それを本能で舐めだした。
血の味にぞっとしながらも、痛みが不思議に消えていく。
『動物が舐めて治すのは、意味が有ったんだ』
心の奥底でそう思う。
しかし、出血と走りぬいた疲れは予想以上に体力を奪っている。
舐める元気も無くし、麗也は横たわり、舌を出したまま大きく息をつく。
「私は・・・ライオンで死ぬのか・・・」
麗也はそのまま意識を失ってしまった。

===金獅子===

麗也は飛び起きた。
「あれ?何処だ?」
死んだと思っていたが、どうやら助かった事にほっと一安心する。
しかし体が動かないのは変わらず、傷はまだ痛んだが血は止まっていた。
首だけを起こし、周りを見渡すと、そこは洞穴だと分かる。
そして鋭くなった嗅覚で、そこの主も分かった。
麗はその事実に心から安心し、再び眠りにつく。

脚が誰かに舐められている・・・。
優しく、気遣う様に。
目が覚め、そこに居たのはレイオウだった。
しきりに傷を治すかの様に舐めてくれている。
「レイオウ・・・」
レイオウはこちらを見、生肉の固まりを口でくわえ、麗也に差し出した


目の前の、血の滴る生肉に思わず唾を飲む。
人間の時だったら食欲も失せるそれも、今の麗也には何よりのご馳走。
噛り付き、切り歯で肉をちぎり、喉に流し込む。
「はぁ・・・な、何て美味しいんだろ」
血の味と肉の味が、心身に染み渡る快感。
夢中で食べる麗也の傷ついた脚を、レイオウは再び舐め始めた。
全部食べ終え、麗也は血と油で汚れた口周りを、元の右手である右前脚でごしごしと舐めて掃除。
ついでにヤスリの様な舌で、汚れた体の毛繕い。
レイオウが優しい目で麗也を見ている。
麗也は躊躇無くレイオウの体や顔を舐め、精一杯の謝意を表した。
自然と喉がゴロゴロ鳴り、レイオウの喉もそれに共鳴する。
同じ種族になった近しさが、心を溶かす。
こうなってしまったのだ・・・麗也には今はもうレイオウしか頼れない。
それは打算的な物では無く、そうしたい気持ち。
レイオウはずっと傍に居て麗也を気遣い、彼の優しさが伝わってくる。
そして夜はレイオウに身を預けて眠りに入った。
『レイオウは私をどう思っているのだろう・・・雌ライオンとして?前の麗也として?』
確かめるすべは無いが、守ってくれているのは確か。
それを些かも否に思わないし、身を任せても良いとも思っている。
麗也は少しずつ雌ライオンに成ろうとしていた。

何度も朝が来て、麗也の傷が治るまでレイオウは狩りに出掛け、洞穴で待つ麗也に獲物を届けた。
それを一緒に食べ、互いの体の身繕いをする。
それが凄く心地いい。
ただ種族が違うだけで、その気づかいや優しさは人間と何ら違いは無い。
まだ人間の方が種として狂ってきていると、麗也はそう思う。
そして徐々に、麗也は雌として強い雄のレイオウにひかれていった。

==金獅子と銀獅子==

麗也の傷も全快し、体も何だか凄く軽く、全身に力が漲る。
外に出て、高い岩の上にジャンプ。
「わ、凄い!」
下に降りる時は、長い尻尾をフリフリしながら飛び降りる。
それを見ているレイオウにじゃれ付き、まるでそれはカップルの様だ。
傷が治ったと見たレイオウは、麗也をとある場所に案内した。
そこは密林に住む、気高い森林部族の村。
そこにレイオウは麗也を案内したのだ。

妻として・・・。
麗也もその意味を悟り、それを受ける気になった




森林部族の村に金毛の獅子が入り、その後をしなやかな体躯に美しい銀毛の獅子が付き従う。
村民達は、その少し変わったライオンに騒めいたが、どうやら金獅子の伴侶だと気付く。
人間が無理矢理四つんばいになると滑稽だが、四肢の付き方と関節が変化している為自然な動きだ。
そして艶めかしささえ感じる肢体と輝く銀毛。
まさに神の獅子の伴侶だと村民も認める。

そこにアカムが近づいてきた。
「麗也じゃないのか?」
「あぁ、そうだよ」
喋る銀獅子に再び村民が騒めく。
麗也はアカムに事の顛末を告げたが、細かい所は伝送筒の中に居たため、説明はしきれない。
「そうか・・・闇はその男だったか」
「でも、今はこれで良かったのかもと思ってる」
「なら何も言うまい・・・しかし気を付けろ、まだ闇は去っていないぞ」
今度は麗也もそのお告げを信じざるをえない。
実際こうなったのだから。「肝に命じる」
「で、どうだ?夫は優しいか?」
アカムが微笑む。
「強く逞しく優しいよ」
「これも天が麗也に与えた運命だったのだろう」
「そうかもしれないね」
その時、レイオウが一吠えし麗也を呼んだ。
「呼んでるから帰るよ、いつでも遊びに来てくれ」
アカムはにこりと頷く。
御披露目を済ませ、麗也とレイオウは帰途に着いた。
「何と、美しい・・・」
その銀毛とたおやかな肢体に、村民達は一様に尊崇の念さえ感じた。

『闇は去っていない』
トマスの事だろうか。
見つかるとは思えないが、正気を失った者は何をするか分からない。
レイオウさえ怪我をしなければ良いと麗也は願う。
男だったと言う矜持は今はあまり残っていない。
夫の無事をただ祈る妻の気持ちが膨らんだ。

その帰り、麗也は初めてレイオウと一緒に狩りを体験した。
はぐれの牡鹿をレイオウが追い詰め、麗也が頸骨を噛み砕き息を止める。
生物は他の命を奪わなければ生きていけない。
それは仕方の無い事だ。
だから、あまり可哀想とは思わなかった。
巣に帰り付き、麗也は久々の出歩きに節々をぐいと伸ばす。
レイオウと狩りで得た獲物を貪り、お互い毛繕いをしあう時間にたまらない幸せを麗也は感じる。
ゴロゴロゴロゴロ・・・
そこには、つがいの仲睦まじい雄と雌が居るだけ


===死線===

麗也は体調を崩していた。
どうやら風邪らしく、今一鼻がきかない。
レイオウは一舐めし、一匹だけで狩りに出た。
『これを食べろって出されたけど・・・』
レイオウが出した苦そうな草を、麗也はしげしげ眺めている。
既に肉しか受け付けなくなった身には、草はいかにもまずそう。
『仕方ない、好意を無には出来ないよね』
薬草らしきそれを口に入れ、一噛み二噛み・・・。
「に、苦ああぁ」
人間の時ならいざ知らず、今の麗也には拷問。
折角出してくれたのだからと、我慢して飲み込む。
あまりの苦さについバリリと爪研ぎしてしまった。
『寝てよ・・・』

ガサッ・・・
レイオウが帰るにしてはまだ少し早い。
顔を上げ、入り口を見て麗也は愕然とする。
完全に目がいったトマスが猟銃を手に立っていた。
「探したぞ・・・ひへへ・・・こんなとこに居たか・・・殺してやるよぉ」
「トマス!私はもう人間には戻れない、このまま見逃してくれないか」
しかし言葉を素直に聞く精神は消え失せていた。
「安心しろ、簡単には殺さないよー」

バンッ!ガキンッ!
足元に一発撃たれ、牙を剥いて後ずさる。
「フーッ!!」
バンッ!ガキガキンッ!
跳弾が爪先を掠めた。
『死にたくない・・・助けて・・・』
「ひひ、終〜わりぃ」
銃口が向けられ、麗也はただ丸くなり震えるしか出来なかった。
尻尾が恐怖のあまりぶわっと膨らむ。
幸せをだったのに、こんな事で終わるのかと、絶望に涙が零れた。
「助けて・・・いやだ・・・怖い」

ガチャ・・・バンッ!!
・・・しかし弾は麗也には届いていない。
「・・・え?」
トマスが倒れた後ろに、トマスの父である所長、山川和夫が麻酔銃を構え立っていた。
その顔は苦渋に満ち、我が子を見つめている。
「東雲君・・・だね」
「所長」
「息子の狂気に気付いていれば」
「ふぅ・・・」
命が助かった事にがっくりと力が抜けた。
「東雲君、戻って来ないか?わしが責任持って君を守るぞ!」
「良いんです・・・私はもうレイオウの」
「レイオウ?あぁ、あのライオンかね」
その時レイオウが慌てふためいて戻ってきた。
麗也の体をしきりに舐め、労りの情を示す。
所長はその姿に二匹がどういう関係か理解した


「そうか・・・もうそういう関係なんだね」
「はい・・・人間の男の東雲麗也はもう居ません」
諦めと言う感情とは違い、自ら望んで今の状況を受け入れている。
所長はそう見た。
「私はレイオウと生きて行きます」
「ふむ、ならわしからプレゼントを持ってきてやろうか?」
「プレゼントですか?」
それは寿命の違い。
麗也は後少なくとも五十年は生きるだろう。
しかし純粋ライオンのレイオウは十年位しか残されていない。
だからプレゼントとして、老化遺伝子のテロメアの鎖を人タイプに書き替えると言う事。
麗也は有り難くその申し出を受けた。
所長はレイオウの頭をぐりぐりと撫でる。
「東雲君の事を頼むよ」
所長は後日来る事を告げ、トマスを二度と外には出さない事を約束。
そして息子を所員に引き摺らせ、山川所長は去っていった。

レイオウと二匹だけになると、銃口を向けられ死の危機にあった恐怖が甦る。
震えが止まらない。
今や夫となった金獅子にぴったり寄り添う。
そんな恐怖に震える妻となった麗也を優しく舐め、慰める。
自分が元人間とか、相手がライオンだと言う事は最早どうでも良い問題。
もう離れられないと麗也はそう心に決めた。

==レイオウとレイヤ==

「さすが獅子王だね」
大きい注射二本。
びくともしない豪胆さに所長は敬意を表した。
「これで、彼も長生き出来ますか?」
「間違いないが、これを世に出す事は無いだろう」
ただ命を伸ばすだけではメリットが無い。
若年性老化症にだけ使うつもりとの事だ。
「じゃ又来るからね」
所長が帰ってすぐ、レイオウはずっと蹲っていた。
「大丈夫?」
それにも答えず、ただ目を瞑りじっとしている。
「傍に居るからね」
寄り添いながら麗也は舐めていたが、いつしか寝入ってしまっていた。

「お・・・」
「お・・・つ・・・」
「起き・・・妻・・・」
声が聞こえる。
夢だと思ったが、どうも実際に声が耳に届く。
飛び起きてキョロキョロと見渡す。
「な、何?何?」
ふとレイオウを見ると。
「おはよう、我が妻よ」
「え?レ、レイオウ?」
「漸く話が出来るな・・・我が名はレイオウと言うのか」
その声はレイオウから発せられていた


レイオウの声が言葉として聞こえるのか、麗也の声がレイオウに言葉として聞こえるのかは分からない。
「私が名付けました」
「我が妻よ、名は何と言うのだ?」
「麗也・・・」
「レイヤか、良き名だ」
今更ながら名前が分かった事に何か不思議な気分。
「愛しき妻よ・・・」
レイオウが妻レイヤの頬を愛しげに舐める。
「私の夫・・・」
返礼にレイヤがレイオウの頬をぺろり。
種族の違いって何だろう・・・こんなに愛しい。
レイヤになった元麗也は暖かな気持ちになる。
「レイヤよ、狩りに出掛けるぞ」
「はい、分かりました」
夫婦獅子は連れ立って狩りに出掛け、見事獲物を仕留める事ができた。
今晩も立派な牡鹿だ。
満腹になり、一緒に居て、舐め合う。
ごく単純な幸せがこんなに大事な事を知った。
「毛繕いをします」
「頼む・・・」
どんな生物の夫婦にも深い繋がりが有るのだと、レイヤは確信する。
その証拠にレイヤはレイオウを愛していた。
レイオウからお返しに体を舐められ、その思いに感動さえ覚える。
体をくっ付け合って眠り、日が昇ると起き、腹が減ると狩りをした。
所長やアカムもたまに遊びに来て、レイオウの通訳をする事も有る。
穏やかな蜜月の日々が過ぎていった。

一年後の春、レイヤは急に体が異常に疼きだした。
尻尾をピンと上げ、切なげに鳴き悶える。
「レイオウ、熱い!!体が燃えるぅ!」
人間の言葉も出るが、異様な鳴き声を出す事の方が多かった。
「ぐるるわあああぉぉ」
尻尾の根元から甘い匂いがぷんぷん漂い、とろとろと粘液が溢れる。
ぐねぐねと体をレイオウにすり付けてしまう。
今は春真っ盛り。
レイヤに盛りが来た。

「レイオウ!来て!!」
「妻よ、我の子を成せ」
尻尾を横に寝かせ、尻をレイオウに向ける。
猫科の本能故、レイオウがレイヤの首を背後から噛んだ。
レイヤの動きがその瞬間ストップし、バックスタイルで背面に覆い被さる。
太い陰茎が、後ろからレイヤの性器に入っていく。
人間の言葉は最早喋れず、切ない鳴き声が出た。
「なああおぉぉ!」
突き込みが、レイヤを何度も絶頂に登らせ、膣壁がぎゅうぎゅう締まる。
それは射精を促す本能の絶頂。
麗也は今は一匹の雌だった


射精の瞬間、猫科は亀頭が膨らみトゲが立つ。
それは抜けない様にする為と、確実に子宮に精液を届ける為だ。
しかし、雌に対しては痛みを伴うらしい。
急激な刺激にレイヤは、悲鳴をあげた。
「ギャオォゥ!」
たっぷりと子宮に精液が注がれ、その瞬間自分は妊娠したと分かった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
そして、抜く時は更に痛みが走り抜ける。
また悲鳴をあげるレイヤだった。
「我が妻よ、立派な子を産んでくれよ」
レイオウはレイヤに労いの言葉をかけた。
「はい・・・」
妊娠・・・今はもう不思議とも何とも思わない。
早く母になりたい。
その思いでいっぱいだ。

===母レイヤ===

レイヤの腹は日増しに膨らみ、乳が大きく張る。
そうなると大変なのはレイオウで、お腹の子とレイヤの為に狩りに精を出す。
そしてその頃、森林部族が神の獅子の為に洞穴の門番に立つ様になった。
神の獅子に子供が産まれるのは、部族にとっても重大な出来事だ。
所長以外は動物も、近くに立ち寄らせなかった。

そして、レイヤが母親になるその日が来た。
洞穴の中、レイヤは一匹で唸っている。
初産の上、元人間の男だったのだ。
やはり不安がつのる。
雄は入れないのは、動物界では当たり前。
しかし有難い助っ人が森林部族から到来。
産婆代わりの部族の老婆が膨らんだ腹を撫でる。
レイヤのお産は一晩中かかり、レイオウは洞穴の外で門番と待っていた。

長い夜が過ぎ、小鳥が鳴く頃・・・洞穴の中からは数匹のみーみーと可愛い鳴き声が聞こえる。
雄二匹と雌三匹。
レイヤは遂に母ライオンに生まれ変わった。
母によく似てすらりと長い脚だ。
乳首に食らい付く五匹の赤ちゃんライオン達。
「銀の獅子様よ・・・良く頑張りなさったの」
老婆がレイヤの頭を優しく撫でる。
「ありがとうございます」
可愛い・・・何て可愛い。
この子達を守る為なら何でもするとレイヤは誓う。
下の世話はお尻を舐めて刺激し、直接舐めとる。
それが本能だから、汚いなんて思わない。

レイオウに顔見せ。
「レイヤ、良くやった!可愛いな・・・」
「私達の子ですよ」
昼過ぎ所長も祝いにやって来て、あまりの可愛さについ鼻の下が伸びるのだった


レイオウは大変だったが、レイヤは子育て中の為それは仕方の無い事だ。
徐々に腕白になる子供達からは目が離せない。
雄二匹は、レオとレオン。
雌三匹は、マヤとリルとマリンと命名。
特に長男のレオは、将来の群れのリーダーになる。
元気に育って欲しいと、優しくも厳しい母だった。
しかし・・・腕白だ。
ちょこまかと動き回り、その度に首を噛んで連れ戻す母レイヤ。
たまに洞穴の外に出て、門番に連れ戻される事もしばしばで、気の休まるのは夜寝る時だけの有様。
「ねえ、遊んでよぉ」
「わたしと遊ぶのよ!」
「ママー、おっぱい」
「はいはい、いっぺんに言わないの」
レイオウの尻尾でじゃれる子を見て、可愛いさに頬が緩みきる。
しっかりと母親らしくなっているレイヤだった。

==所長との別れ===

更に時が過ぎ、レイヤも三度目のお産を経験。
レオも若きリーダーとして父レイオウに厳しく訓育されていた。
そしてお産もマヤ達雌が助産婦を勤める。
門番はいつしかそれが部族にとっての名誉に変わっていた。

ある日レオがレイヤに提案をした。
「ここも手狭だ。ここから奥に入った所に大きい洞穴が有るんだけど、そこに引っ越そう」
「そうねぇ・・・レオが言うならその通りにしましょう・・・所長には、私が言うから」
レイオウ一家は引っ越しを決心する。
部族に申し伝え、所長は老齢を重ねていた為、別れを告げる事にした。
「所長・・・私達これから奥地に引っ越します」
「そうか、気にするな。わしも体が動かんからな・・・もうお前達は大丈夫だろう!元気でな」
「所長、いえお父さん!今までありがとうございました」
所長に体を擦りつけ、喉を鳴らし親愛の情を精一杯示し涙をこぼす。
「それとな、トマスの奴すっかり付き物が落ちた様で、全く変わったぞ」
「良かった・・・」
「君には会わす顔が無いと言っておった・・・罪を償った後は、この森は守るから元気でとの事だ」
「はい分かりました」
レイヤは名残惜しそうに振り返りながら、奥地に入っていく。
涙がポロポロ流れる。
いつか別れなければならないとは思っていたが、やはり淋しさは隠せない。
でも自分はもう群れの母親なのだと、涙を振り切った


==消えゆく麗也==

広い洞穴の中、レイヤは子供達にじゃれつかれ、毛繕いされながら至福の時を味わっていた。
子供達もゴロゴロ喉を鳴らし、レイヤも鳴らす。
自分は以前は何だったのかと記憶が霞む。
狩りは成長した子供達がし、レイヤは洞穴で居る事が多い。
小さな赤ちゃんライオンに乳を含ませる姿は、元人間の男とは思えない。
喋らなくなってどれだけ経っただろう。
しかしライオン同士は会話が成り立っていた。
本能が次第にレイヤを支配していく・・・。
上の娘は遠くの洞穴ライオンとつがいになり、雄数匹は独立した。
レオは今や群れのリーダーとして、レイオウの良きパートナーだ。
望んでいた洞穴ライオンの数も、次第に増えつつあるのは最早レイヤには分からない。
「わ・・・たし・・・」
何となく口を開けて喋ろうとしたが、うん?と首をかしげてしまう。
喋る?喋るって何?
別にそれに対しての悲しみとか苛立ちは無い。
だって、凄く幸福に満ちているから。
まだまだ沢山子供を産める年齢だ。
森林部族も守ってくれている。
知性に溢れた新しい洞穴ライオンの未来は、獲物次第だが明るいと言える。

たまに寝言で短い言葉を喋る事は有ったが、それはもうどうでも良い事。

一匹の女盛りの美しい雌ライオンとなったレイヤは、今日も子供達とじゃれあっている。
そして、レイヤに残された言葉はたった一つ。
夫の名「レイオウ・・・」だけだった

===END===

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