ここは冷たい祠の牢獄……

 重厚な石積みの塔の中は、どこまで行っても出口の無い迷宮だった。今日も少女たちの嬌声が漏れる玄室。粗末な
寝台の上で声も嗄れるほどに叫ぶ少女が一人。身を捩り、声を嗄らし、突き抜ける快感に涙を流しながら悶えている。
    ―― さぁ もっと叫んで もっと喚いて もっと もっと
 冷たい石の張型を突き刺され、様々に捩られながら、少女は悶え続けている。出口の無い塔の中でたった一つの救い
を求めて少女を攻め続けるその……攻め手もまた可憐な少女の姿をしている。豊満な膨らみを揺らしながら、一糸纏わ
ぬ姿で、無表情のままに、悶え苦しみ声を嗄らす少女の反応を確かめながら。そしてもう一人の少女にあれこれと指示
を、どう攻めるかを指示しながら。時折鬼気迫る薄ら笑いを浮かべている。
    ―― 可愛い
 どこからか。艶っぽい熟れた女の声が聞こえる。低い声音が石の中から漏れて来る。まるで塔全体が震えて言葉を発
するように。目に見えぬその存在こそが、この塔の主。そして、この少女達―かつて少年達だった―の終わり無き恥じら
いの遊びを眺め続ける存在。
 何万年と年月を重ねすっかり年老いた淫魔。サッキュバスともサキュバスとも呼ばれるその存在は、悶え苦しみながら
嬌声を上げる少女の中に入り、その快感の波を味わいながら舌舐め啜りする様に、獲物を見極めている。
 塔の最上階ですっかり抜け殻になったサキュバスの身体へ、一心不乱に精を注ぐ男の目に光は無く、ただただ壊れた
人形の様に動き続けるその姿は、若かりし頃の面影すらない醜く年老いた男の姿。この男も僅か一月ほど前には、若々
しく草原を駆けた羊飼いの少年だった筈なのだが。
 今はもう年老いた淫魔の魔力を維持する為の、その精魂の供給源として搾り取られ続けている。この男の魂が全て淫
魔に吸い尽くされて死を迎える頃。淫魔は新しい少女の体に入り、下界の何処かで開発された少女の身体を使って精気
を吸う為に何処かへ旅立つのだった。
    ―― 頑張りなさい 一人だけ男に戻してあげる 女を悦ばせる事の出来る子だけ 戻してあげるから
 そんな声を聞いて一心不乱に少女を開発し続けた元少年の少女は、自分の勝利を確信し続け、最後まで女の悦びを
知らずに見知らぬ少女をまさぐり続けていたのに。少年に戻った時。淫魔に騙された事を知った。
 残された淫魔の古い身体へと押しやられたのは、開発し尽くされた少女でも開発し尽くした元少年でもない、中途半端
な存在だった元少年。彼は淫魔のその熟れた躯身の満たされぬ疼きを抱き、少年へと戻った少女が命果てるまで精を
注ぎ込まれながら次の新月を待っていた。満たされぬ思いに身を焦がしつつ、姿無き存在となって塔を出て行き、次の
贄を探してこの塔へ連れてくる。
 街の中を彷徨い、同じ様に満たされず疼く女の身体を乗っ取り、うら若く逞しい少年を探して歩くのだった。何も知らず
行きずりの女と寝た少年が目を覚ます頃、逞しい身体は豊満な少女のそれへと変わり、見ず知らずの女達と、いつ果
てるとも知らぬ救い無き夜を越えていく。
    ―― 一人だけ塔から出してあげるわよ 一番女になった子だけ 出してあげる
 ここは冷たい祠の牢獄。石積みの塔の何処にも出口は無く。ただただ、終わり無き闇の果てで少女達は声を嗄らす。
偽りの救いとも知らず、騙されているとも知らず。淫らな悪魔の誘惑を拒む事も出来ずに。
 
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