「まったく、ファンシーな部屋になっちまったもんだよな」
「母さんの趣味だ、勝手に私物まで捨てられたよ」
その部屋は見紛うかたなき女の子の部屋だった。
ピンク色のカーテンにクッションがいくつも散らばる床。
ベッドには大きなヌイグルミまで置いてある。
「前のお前からしたら考えられないよな悠二」
「もう悠二じゃないよ、弘」
そうだった。
悠二はかつては男だった。
甲子園を目指す高校球児。補欠ではあったが
毎日毎日キツい練習に耐えて頑張っていたっけ。
でも、運命の神様はそんな悠二に酷な運命を叩きつけた。
肺ガン、全身に転移、余命二か月。
俺の前で血反吐を吐いて病院にかつぎ込まれたのは半年前だ。
そんな悠二を救ったのは認可前の遺伝子治療。
はっきり言って違法。人体実験に等しかった。
結果として悠二は健康体に戻りはしたが、
医師ら13名が逮捕され、そして悠二は女になった。
「そうだな、千秋」
「うん」
千秋は、はにかんだように笑う。
完璧に、女になってしまったんだな。
「まあ座れよ、話があるんだ」
「お? ああ」
手近なクッションの上に座る。
すると千秋はすぐ真横に座って来た。



(近い……)
肩と肩が触れ合うまであと2cm。
なんだか良い香りがして来た。
「この部屋に弘を入れるのも半年ぶりか、
なんだか緊張しちゃうな」
「俺は別になんとも思わんがな」
そうは言ってみるものの、女の子にこんなに近づかれた経験はない。
なんだか顔が熱い。
「どうした弘、熱でもあるのか」
額に当てられる手、柔らかくてひんやりしている。
「やめろよ、恥ずかしいだろ」
「友達だろう、遠慮するなよ」
遠慮するなって……
こいつは今の自分が見えているんだろうか。
ちょっとアイドルでもかなわないくらいには可愛いと思うんだが。
そんな女の子にべったりされると、なんだか気恥ずかしくなってくる。
「そういや、今日は何の用で呼んだんだ?」
「お前に会いたかったから」
「ははっ、冗談はよせよ」
「冗談なんかじゃないさ、本当にお前に会いたかったんだ」
真剣な眼差しに思わず気後れを感じてしまう。
「もうすぐ死ぬと分かって、私はお前のことだけ考えてた。
もう二度と会えないなんて怖くて怖くてたまらなかった。
でもまた会えた」
ドサッ
俺はいつの間にか千秋に押し倒されていた。



「ちょ……千秋……」
「都合のいい女でいいんだ、お前のそばに置いてくれればそれだけで」
「待てよ千秋!」
その時、部屋の戸が開いた。
「何をしている」
「お父さん! ノックしてって言ったでしょ、着替えとかしてたらどうすんの?」
「お前は男を連れ込んで着替えをするようなことをするつもりか?」
明らかにイライラした様子のお父さん登場。
視線が痛い。
「あの……」
「君は帰りなさい、もう夕飯の時間じゃないか?」
まだ夕飯には早いとは言い出せず、俺はすごすごと部屋を出ていかざるをえなかった。
「また明日、学校でね」
そう言って手を振る千秋はやっぱり女の子らしかった。

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