せっかくの祝日だから書きかけだったものを仕上げてみた
ダーク成分配合なので口に合わない人はトリでNGを


滝川春樹は今、全力で自転車のペダルをこいでいた。
夜の街の光が風に乗ってどんどん後ろに流れていく。
春樹が行こうとしている場所は、街外れにある物寂れた廃工場だった。
大分前に所有していた企業が倒産したらしく、機材などを運び出してからはほとんど放置されたまま。
近所の小学生からはオバケ工場と呼ばれ、大人にも子供にもわざわざ出向こうとする者はいないところだ。
何故そんな場所に春樹が行こうとしているのか。それはある人物からの手紙が原因だった。
その手紙には、特徴的なカクカクとした鋭い筆跡でこう書いてあった。

『今日の午後10時、オバケ工場まで来てくれ

                椎名晶』

線が入っただけの真っ白な便箋のど真ん中に、一行と差出人のものらしい名前が書かれているだけの内容の薄い手紙。これが今朝、春樹が通う高校の下駄箱に入れられていたのだ。
体育館裏に呼びつけるような甘い香りがするものではなく、街外れに、しかも夜に来てくれという怪しいもの。普通の高校生ならイタズラだろうと流していたところだが、春樹は違った。
場所と時間はさして問題では無い。春樹が手紙の場所に行こうと思ったのは、差出人の名前のせいだ。
“椎名晶”というのは、幼稚園からの付き合いになる春樹の親友の名前なのだ。そしてその幼なじみは、2ヶ月ほど前から行方不明になっていた。
晶が消えたその日、所属していた野球部の活動を終えた春樹と晶の二人は、珍しいことに一緒に帰らなかった。
春樹は新発売のゲームを買うため、二人の自宅とは反対方向の店に行く予定。普段ならば晶もそれに付き合っているところなのだが、晶はそうはしなかった。
「今日は俺の愛しのファンシーキャッツがテレビに出るんだ。 録画予約も三回くらい確認したし、天変地異でも起きない限りは心配無いだろうけど、やっぱり見るなら生放送だろ? つーことで、悪いんだけど今日はお先に失礼するぜ」
そう言うと、晶は上機嫌で帰っていった。
晶がファンシーキャッツというアイドルグループの熱狂的なファンであることは春樹も重々知っていたので、大して不思議にも思わなかった。
春樹も「晶らしいな」と少し苦笑しながら晶に手を振り返し、自分の目的であるゲーム店に向かった。
売り切れ必至の人気シリーズであったが、数ヶ月前から予約済みだった春樹は問題なくゲームを入手。その後は早くプレイしようと超特急で帰宅した。



自宅に着いた春樹は、説明書をさっと読み流しゲームを起動。
新しく追加されたシステムを弄ってみたり、ボス戦に燃えているうちに止めどころを失い、結局徹夜でプレイしてしまった。
そして翌朝、睡眠不足の中で春樹が登校する準備をしていると、晶の父から電話がかかってきた。
「朝早くすまないね。 晶がまだ帰って来てないんだが、春樹君は何か知らないかな?」
夜通しゲームをしていた春樹以上に疲れた声だった。
どういうことですか、と春樹が聞くと、晶の父は、昨日学校に行ってから晶がまだ帰って来ていないのだと説明した。
晶が泊まりなどする心当たりもない春樹は、高校で別れる時、晶がすぐに家に帰ると言っていたことを晶の父に告げた。
晶の父は一言「そうか、ありがとう」と言って電話を切った。
晶のことが気になったが、俺はいつも通りに登校した。そしてその日、晶は学校に来なかった。
ほどなくして、晶の両親が警察に捜索願いを出した。
しかし警察の調べでも晶の目撃情報はほとんど無く、春樹の証言以上のものは見つからなかった。
そのままなんの進展も無く、あっという間に1ヶ月が過ぎた。
こっそりと自殺した、とか、どこかの女と駆け落ちしただとか、そんな噂も薄れてきて、学校内でも誰も晶の話をしなくなった。
そして今朝、春樹の元にあの手紙が届いた。
(あれは間違いなく晶の字だ……!)
晶の両親には伝えなかった。確信は得ていないし、誰かの手の込んだイタズラという可能性もあったからだ。
偽物にせよ本物にせよ、自分が行って確かめればいい、そう春樹は考えたのだ。
三十分ほどすると春樹は廃工場に到着した。時刻は9時50分。待ち合わせにも問題なく間に合った。
自転車を停めて敷地の中を見回すと、暗い工場の中で一ヶ所だけ明かりのついている場所があり、春樹はすぐにその場所へと向かった。
春樹が近づいていくと、明かりの下には女性が一人で立っているのが分かった。
背は女性にしてはやや高めで、闇に溶けるような黒く長い髪。そして何故か、紺色のワンピースに白いエプロン、頭にはヘッドドレスという、所謂メイドのような服を着ていた。
「お待ちしておりました」
春樹に向かってメイドが綺麗に一礼した。
誰もいないか、晶がいるかのどちらかだと考えていた春樹は、あまりに予想外の相手に少し狼狽えてしまう。
「え、えぇっと……どなたでしょうか?」
そんな気圧され気味の春樹を見て、メイドがクスクスと笑った。


「あらあら、どなたでしょうか? だなんて、ちょっとショックです」
「いや、そう言われてもメイドさんに知り合いなんていないんですけど……」
「それはまぁ、そうでしょうね」
いまいち流れの掴めない会話で春樹少々混乱していたが、メイドは春樹を見て笑うばかりで要領を得なかった。
このままでは埒があかないと春樹が口を開いた。
「俺は友達に会えるって聞いてここに来たんですけど」
「やだなぁ、目の前にいるじゃありませんか」
「………は?」
思わず春樹の顔が固まるが、メイドはまだ笑みを崩さない。
「………くっ、あはははは! やっぱり分かんないよな。 そりゃ当然だよな」
突如メイドの口調が砕けたものに変わった。上品に感じられた含み笑いも、歯を見せた無邪気なものに変わる。
メイドが放つその雰囲気に、春樹はなんとなく既視感を覚えた。
ふいに、混乱している春樹の頭の中で、春樹を見て笑うメイドの顔がいなくなった友の顔と重なった。
何故だと春樹が思うのと同時に、メイドの短い会話の内容を思い返した。
「あの……まさか……」
「ああ、そのまさかだよ春樹」
「う、嘘だろ、本当に、本当に晶なのか?」
「信じられないのも無理ないさ。 そういえば、男の話し方をするのも随分と久しぶりだなぁ……」
メイドは否定する様子も無く、自分に投げ掛けられた春樹の言葉に頷いた。
だが春樹は素直にそれを飲み込めない。当然だ。晶は男で、目の前にいるメイドは女性。体格、背丈、顔、声のどれを取っても女装とは思えないし、このメイドに晶の面影など無いに等しい。
春樹は当然のように疑惑の視線を送ってしまう。それを受けたメイドは苦笑いをしながら頭を掻いた。
「まぁ、お前のことだからそう簡単には信用してくれないは思っていたさ。 そうだな……俺しか答えられないような質問してみろ」
メイドはそう言って自分の胸元を叩いた。
自信満々、どんなことでもドンと来い!とでも言いたげな顔をしている。
そう言われた春樹は少しの間考えを巡らし、
「いや、いいよ。……多分、君は晶だ」
「……はぁ?」
「信じるって言ってるんだよ」
晶しか答えられないような質問と言われても、春樹にはそう多くは思い付かなかったが、それすらも口にしなかった。
「偽物がそんなこと言うわけないし、何より君からなんとなく晶の雰囲気を感じるからね」
「春樹……」
「ちょっと馬鹿っぽいところなんか特に」
「……あぁそーかい」


メイドが気に入らなそうに、しかし少し嬉しそうに溜め息をついた。
だが晶は実は女でした、なんて言うには顔も体格も変わりすぎだし、実は男のままで女装しているということもないだろう。大きく膨らんだ胸が、こいつは女だと主張しているのだ。
では何故晶は女になってしまったのか。
「説明してくれ。何で今まで姿を眩ましていて、しかも女になっているのか」
「おう、焦らなくてもちゃんと話すって」
そう言って晶が近くにあった鋼材に腰かけた。春樹も晶に指示されて隣に座った。
「これはな、所謂ナノマシンのせいだ」
「……ナノマシンって、映画とか漫画に出てくるアレか?」
「それだそれ」
春樹の言葉を受け、メイドが気に入らなそうに、しかし少し嬉しそうに溜め息をついた。
しかしこのメイドが晶だとすると、何故男だった晶が女に、それもこんな美人になっているのか。
ナノマシンとは、大きさが細菌のように超小型の機械のことである。医療目的、あるいは兵器として、世界中から注目されている最新技術だ。
晶は真剣な面持ちでさらに続けた。
「あの日お前と別れた後、俺はある奴等に捕まって、体にナノマシンを注射された。その時は抵抗する間もなく気絶させられてしまってな。次に眼を覚ました時には1ヶ月が経っていて、オマケにこんな体になっていた」
淡々と話しながら、晶は女という部分を強調するように自分の乳房を両手で揉んだ。
メイド服の上からでもそのメロンのような大きさが見てとれてしまい、春樹は思わず赤面してなんとか視線をずらした。
胸以外に視線を移すが、スカートから見える生足や髪に隠れたうなじも魅力的に見えてしまう。
春樹は“ある奴等”というのが気になったが、晶の胸の画が目に焼き付いたのと、晶が流れるように語り続けるせいで、口を挟むことが出来なかった。
「なんでも、俺が注射されたナノマシンは人体の改造が出来るもので、1ヶ月近くかけて俺の全身の細胞を女に作り替えたらしい。内臓からホルモン、果ては遺伝子まで完璧にな」
人間の体の構造を変えてしまうナノマシンなど、春樹は聞いたこともない。
だがそれは聞いたことがないだけで、目の前に証人がいるならば信じざるを得なかった。
「だからこれは本物だぞ。なんなら触ってみるか?」
「ばっ、馬鹿言うな!誰がお前の胸なんか!」
「ったく、そんなに嫌がることはないだろうに」
「あぁうるさい! 体のことはもういいから、お前を拐った奴等について話せ」


晶の性格は春樹も知っているので、本気なのか冗談なのか春樹には分からなかった。それだけに余計に質が悪い。
春樹をからかうのにも飽きたのか、晶はまた続きを話し始めた
「柿原だよ」
「柿原? 柿原って、うちのクラスの柿原勇也か?」
「そう、その柿原」
晶が口にしたのは、春樹達と同じ高校に通う、プライドの高さがちょっと鼻につくクラスメイトだ。
何処かの金持ちの息子らしく、そのせいか学校でも友達は多いが少し浮いている印象の男子で、春樹と晶も交友が無いわけではないが深くもない。
春樹が何故柿原勇也の名前が出てくるのか、それ問う前に晶の口が開いた。
「柿原の家でナノマシンの研究をしていて、その実験台が必要だんたんだ。それで俺を」
「……拐ったんだな」
「……そうだ」
春樹の中で怒りが沸き上がる。
晶が消えてから、春樹自身も街を回ったり、近所の人間や友人に聞き込みをした、もちろん勇也にも。だが返答は“知らない”というものだった。
勇也のことだ。春樹が晶を探している間、勇也は心の底で笑っていたに違いない。
「女になってからは柿原のとこにいたんだ。女の作法や言葉遣いを教えられてさ、服も……こんな感じで」
晶が俯き加減で自分が着ているメイドの生地を撫でた。
なるほどあのしゃべり方とメイド服はそのせいか、と春樹は一人合点する。
「あのクズ野郎、絶対に目にもの見せてやる!」
春樹が怒りで声を震わせながら言った。
「……春樹、怒ってるのか?」
「当然だろ!お前は自分が女にされて平気なのかよ!」
それを聞いた晶が体を震わせて拳をギリリと握りしめた。顔は俯いているので見えないが、自分と同じく怒りに震えているのだと春樹は思った。
「晶をモルモットにしやがって!絶対に許さない!」
晶がいなくなって悲しんでいたのは春樹だけではない。部活の仲間や友人は当然、そして特に晶の両親がどれだけ苦しんだことか。
勇也にはその報いを受けてもらわなければならない。
そして春樹がなんとかして勇也を縛り上げ、晶を助けて元に戻すのだと決意した、その瞬間、

「随分と怒っているみたいだねぇ春樹」

晶と春樹とは別の、第三者の声が廃工場に響いた。
突然聞こえた聞き覚えのある声に、春樹と晶の視線が声のした方向に集中する。
二人の視線の先には、今の今まで話題になっていた、柿原勇也が立っていた。



「お前───!」
「おいおいそんなに睨むなよ、目付きが悪くなるぞ」
「柿原、お前が何故ここにいる!」
「そりゃここはうちの土地だからね。むしろ聞きたいのはこっちだよ」
勇也がわざとらしく肩を竦めて見せた。
ここの工場が勇也の家のものだというのは、春樹には初耳だった。
「さてだいたい事情は聞かされたみたいだから、お互い細かい話はよそうじゃないか。 さて春樹、お前はこれからどうしたいんだい?」
勇也がやけに芝居がかった様子で言った。
それを見た春樹は苛立ちと怒りを押さえきれなかった。
「決まってる。お前に一発入れてから、晶をこいつの家に連れていく!」
晶が女になったことを信じてもらえるかどうかは分からないが、春樹が分かったことが実の両親に分からない筈がない。
ダメでもどこかの病院で検査すれば、ナノマシンのことが分かるはずだ、と春樹は考えていた。
「邪魔をするなら、お前を殺してでも連れていくぞ!」
「おいおい物騒だな。しかし心配しなくていいぞ、俺はお前の邪魔をするつもりは全くない」
無抵抗をアピールするように勇也が両手を挙げた。
しかし春樹はそれを全く信用しない。武器を隠し持っていたり、後ろに仲間が控えていたり、これが罠だという可能性は十分にある。
勇也は警戒を解かない春樹を見て呆れたように嘆息すると、今度は春樹ではなく晶の方を見た。
「晶」
勇也の言葉で晶の体がビクンと跳ねた。
「こいつはお前を助けたいらしい。こいつについて行けば、もしかしたら元に戻れるかもしれないな」
「黙れ柿原!」
「お前には聞いてないだろ? 俺は晶に聞いてるんだよ」
「テメェ────!」
怒りにかられた春樹が鋼材から立ち上がり、勇也に掴みかかろうと動き出す。しかし春樹の手が勇也に届くよりも早く、隣にいた晶が春樹の手を掴んでいた。
「離せよ晶!」
春樹は激情のままにその手を振りほどこうとするが、晶の手は万力のように春樹の手をガッチリと掴んで放さない。
その痛みと女の体とは思えない力に、血が昇った春樹の頭が急激に冷めていく。
「おい、晶、どうし────ぐっ!?」
晶が春樹の首に手をかけて締め上げ、春樹の呼び掛けを中断した。


慌てて振りほどこうと春樹が全力で暴れるが、晶の腕はやはりびくともしない。
晶は腕の力を緩めることなく、そのままギリギリと春樹の首を締めた。
混乱して目を白黒させる春樹を見て、勇也がさも愉快なものを見たかのように手を叩いて笑った。
「お前さ、俺が犯人だとして、こんな簡単に晶を逃がすわけないじゃん。 晶はもう俺のものなの、分かる?」
勇也が何を言っているのか、春樹は言葉は理解できても意味が頭に入ってこなかった。
ただ晶が勇也ではなく自分を攻撃していることが、春樹には衝撃的だった
「いいよ晶、合格だ! お前は死ぬまで俺のメイドとして可愛がってやるよ」
「ありがとうございますご主人様!」
命懸けで暴れる春樹の首を掴みながら、晶が心から嬉しそうに笑顔で勇也の言葉に答えた。
その表情は親友の春樹に向けるものでも、勇也に憎しみをぶつけるものでもなく、乙女が想い人を見るような熱のこもったものだった。
「あ……き、ら……!」
肺から何とか空気を絞り出して呼び掛けたが、晶の手の力は強くなるばかりた。
遂に春樹の足が地面から離れた。
脳の血と酸素が欠乏し、段々と春樹の気が遠くなっていく。
「ごめんなさい春樹。これは私の忠誠心を試すテストだったの」
「テ、ス……ト……?」
「そうテスト。私がご主人様のものになれたかどうかの」
晶の口調はいつの間にか最初の女のものに戻っていた。
春樹は晶の言葉で虚を突かれたが、次第に自分が騙されていたことに気付いていった。
晶は体が女になっただけではない。心まで勇也の女にされている。勇也は晶が男を捨てられたのか試していたのだ。
そして晶は男と自分ではなく、女と勇也を選んだのだと春樹は悟った。
先程までのは全て演技だったのだ。
「今の私はご主人様のもの。でも安心して、春樹は友達だから殺したりしないからね」
晶は殺人的な力で春樹の首を片手一本で絞めながらニコリと笑った。
首を絞められながら安心しろといわれてもできるはずもなく、春樹は死の恐怖から必死にもがいた。
しかし晶の腕は鋼鉄のように春樹の首を捕らえ続け、やがて呼吸を止められた春樹の目の前から色が失われていく。
勇也の高笑いと晶の笑顔をバックに、春樹の意識は闇に落ちた……。





春樹は気絶していたのが嘘のように一気に覚醒した。寝起きのようにぼんやりと意識を朦朧とさせることもない。
テレビの電源を入れるように、体のどこかのスイッチを入れられたかのようだった。
脳の動きも快調そのもので、晶と話したこと、勇也のやったこと、そして自分が何故気絶していたのかがハッキリと思い出せた。
目を開くと真上には真っ白な天井と蛍光灯が見え、この場所があの工場ではないことは直ぐに分かった。
あの後放って置かれて誰かに発見されたのか、勇也達に捕まったかのか。
恐らくは後者だろうと春樹は考えた。体は動かないが、肌に空気が触れる感覚で自分が裸だということがわかったためだ。
自分の置かれた状況を飲み込み、起き上がろうと体に力を入れた。
(………動か、ない?)
春樹は体を起こすどころか、腕も足も、指の一本ですら金縛りにあったかのようにピクリとも動かせない。かろうじて動かせるのは瞼と瞳だけだった。
「起きたね春樹」
必死で体を動かそうとする春樹の耳に、女になった晶の声が聞こえた。
声がした隣の方向を確認しようとするが、顔を向けることも出来ない。
しかしすぐに晶が春樹の視界に入る場所へ動いたのでその必要はなかった。
(なっ───!?)
「あっ、今驚いたでしょ。分かるよ、私と春樹の仲だもん」
晶は工場でのメイド服姿ではなく、一枚も服を着ていなかった。
大きく実った乳房と、その頂点に積み重なる乳輪と乳首が春樹の視界に飛び込んできた。
更衣室で見た筋肉のついたがっちりとした体ではなく、滑るように緩やかな曲線を描くしなやかな体。
動けない春樹には見えないが、股間のペニスは跡形もなく消え失せ、その変わりに女性の性器であるヴァギナも出来ている。
メイド服を脱いだことで、晶の女になったことをいっそう意識させられた。
男であったことなど微塵も感じさせない女の裸体に、春樹の体が自然と熱くさせられる。
「あっ、おっきくなってきたね。私の裸で興奮してるんでしょ……」
「あ……う………」
否定しようにも、口から出たのは赤ん坊のような情けない声だった。
晶はそんな春樹を見てニコっと笑い、仰向けに寝ている春樹の胸にに覆い被さるように、横から春樹に体を重ねた。



「あっ、おっきくなってきたね。私の裸で興奮してるんでしょ……」
「あ……う………」
否定しようにも、口から出たのは赤ん坊のような情けない声だった。
晶はそんな春樹を見てニコっと笑い、仰向けに寝ている春樹の胸にに覆い被さるように、横から春樹に体を重ねた。
柔らかな脂肪が押し付けられる感触と、肌と肌とで直接感じる晶の体温が春樹の熱を加速させた。
「何で体が動かないが知りたいんでしょ? それはね、ご主人様が春樹にもナノマシンを注射したからなの」
(なんだって!?)
春樹の心にうすら寒いものが走った。
ナノマシンといえば晶をこんな姿に変えてしまった原因そのものだ。
「春樹の脳から体への命令を遮断して、一時的に運動機能を麻痺させてるんだって。 あくまで一時的にだから、しばらくしたらちゃんと治るから心配してね」
春樹が心配しているのは体が動かないことではない。
体に入れられたナノマシンによって、自分も晶のように女されてしまう。
体だけでなく、心までも変えられてしまうかもしれない。
春樹がそんなことを考えているとは思っていないのか、晶は自慢するように説明を続けた。
「麻痺させているのは運動機能だけだから体の感覚はちゃんとあるでしょ? だから───」
春樹の目が、晶が片腕を自分の下半身に伸ばすのを捉えた。
そして止める間もなく春樹は自分のペニスが掴まれるのを感じた。
「あっ……」
「こういう感覚はちゃんと残ってるの……」
晶が片手で器用に春樹のペニスを弄り始めた。
握る力を変えてみたり、亀頭を揉んでみたり、カリの部分を指先で撫で上げてみたりと、晶の手付きは男を責めることに慣れたものだった。
自慰とは全く違う快感に春樹の脳がしびれる。
「あっ……あっ……」
「うふふ、可愛いなぁ春樹のおちんちん……」
晶の指が肉棒を滑る度に、春樹の口からは気の抜けた吐息が漏れた。
春樹の意思ではなく、快感に対する反射として体がピクン、ピクンと痙攣する。
晶は春樹の反応を楽しむように竿を扱き、睾丸を手の中で弄んだ。
春樹は女性に、それも親友からの愛撫される羞恥心と快感で、顔から火が出そうだった。
体が動かないために抵抗もできず、春樹の体は晶によって徐々に高められていった。
ペニスからカウパー線液が漏れだし、それが晶の手でにちゃにちゃと音を立てた。



(こん……な……!)
春樹は快感に遊ばれ、絶頂に達する寸前の場所をさ迷っていた。
春樹は体に力が入らないために、射精を我慢することが出来ない。
それなのに未だに春樹が射精まで達していないのは、ひとえに晶の技量によるものだった。
晶は春樹が達しそうになると愛撫する場所をズラして春樹の意識をそらし、肉体に余裕ができると春樹の弱点を重点的に責めた。
晶は春樹の体を把握し、春樹の快感をほとんど完全にコントロールしていた。
「春樹、涎が垂れちゃってるよ」
「ふぁ、はっ………んむっ!」
「ん……ちゅ……」
晶が弛緩した春樹の口から溢れた唾液を舐めとり、そのまま春樹と唇を重ねた。
開きっぱなしの口に舌を滑り込ませ、春樹の脱力した舌に絡ませて唾液を混ぜ合う。
晶のざらざら舌が口腔を蹂躙し、春樹の心もそれに蕩けさせられていく。だが、それでもまだ春樹は絶頂を迎えることが出来なかった。
晶の一方的なキスが終わり、春樹から晶が離れると、晶が潤んだ瞳で春樹を見つめた。
「上手でしょ? これもご主人様から教えてもらったんだ」
この一言が、快感に飲まれつつあった春樹の意識をかろうじて踏み止まらせた。
晶は春樹のペニスから手を離し、今度は仰向けの春樹の顔に股がるような位置に体を動かした。
春樹の視界を晶の股間が埋め尽くし、女性器のツンとした臭いが鼻を突いた。
「こんなに近くで見たことないでしょ? これが私のオマンコだよ」
そう言って晶は自分のヴァギナに指を這わせ、春樹に見せつけるように開いた。
盛り上がった双丘の内側にはヒダが幾重にも重なりあい、晶の体内へと続く穴を囲んでいた。
うっすらとトロリとした液体が漏れ、糸を引きながら春樹の頬へと垂れ落ちた。
「奥にはちゃんと子宮も卵巣もあるから妊娠もできるんだよ。生理はちょっとしんどいけどね」
晶が自分の生器に指を這わせ、小さな喘ぎ声を上げた。
それによって晶から溢れる愛液が増え、今度は春樹の口の中へと吸い込まれた。
しょっぱい味がする親友の愛液を、体を動かせない春樹は吐き出すことが出来ず、そのまま飲み込むしかなかった。
自分の性器を見せ終わると、晶は腰の位置をそのままに頭を春樹の下半身へと動かしてシックスナインの体勢へと動いた。



「もう焦らしたりしないよ。ちゃんとイカせてあげる」
その声と同時に、しばらく自由だった春樹のペニスを温かく柔らかな感触が包んだ。
春樹は直感的に、あの大きな乳房に挟まれているのだと理解した。
「あぁ……うぁ……!」
「いい臭い……」
晶がゆっくりと乳房を上下させ、徐々にそのスピードを上げていく。
初めの手淫とは全く違った容赦の無い責めに、春樹は一気に絶頂に近づいていった。
(ぐっ……こんな……!)
肉体の我慢が効かない以上、精神力で我慢するしかないと春樹が必死で堪える。
しかしそれも次の瞬間に無駄に終わった。
「はぁんむ!」
「あ゛あっ………っ!?」
春樹のペニスに生暖かい湿ったものが絡み付いたのだ。
さらにそれは春樹の体液を搾り取るように、強く陰茎に吸い付いく。
さらに、尿道の口を掻き回すように何かが蠢いていた。
晶が口を使ったのだと気付くより早く、それがトドメとなって春樹は遂に絶頂に達した。
目が眩むような快感で腰が跳ね、ペニスからは大量の精液が吹き上がる。
晶はその洪水のような射精を一身に受け、口に流れ込んだ精液をゴクゴクと嚥下していった。
そして絶頂に達している春樹のペニスをさらに乳房と舌で責め立て、春樹の射精を加速させた。
「はぁ……はぁ……!」
「いっぱい出たね。ずっと我慢してたからとってもよかったでしょ?」
そう言いながら、晶は春樹のペニスにこびり付いていた精液を舐めとった。
イったばかりで過敏になっている春樹の体は、そんな刺激でもビクンと震えてしまう。
愛撫をする側の晶の体の奥からも、とめどなく愛液が溢れ出していた。
やがて全ての精液を舐めとると、晶は再び春樹と正面から向き合った。
「最初は女の体もこの話し方もすっごく嫌だったの」
晶が春樹と視線を重ね、ゆっくりと口を動かし始めた。
「でもね、ご主人様に調教されてるうちに、女の子の自分が好きで好きで堪らなくなったの……」
両の瞳を子供のようにキラキラと輝かせながら晶が言った。
「だって男の体だとご主人様とセックスなんて出来ないし、おっぱいもないからパイズリも出来ないじゃない? それじゃあご主人様が喜んでくれないもの」
自分が女であることを誇るように、自信と喜びに満ちた表情だった。
晶の心が壊れているのか狂っているのか、ただそういう風に心変わりしただけなのか、春樹には分からなかった。



「だから女の子になってとっても幸せなの。 春樹には悪いけど、私はもう、男には戻りたくない」
そこには女になった悲しみも、勇也への怒りも、女として男を責める嫌悪感も感じられなかった。
(どうしてだ晶……お前はこんなことをするやつじゃなかったのに……!)
動かない体で一人嘆くが、肌と肌とで触れ合っている晶にそれが伝わることはなかった。
そこに晶が「でもね」と付け加える。
「ただ一つ心残りがあるとすれば、それは童貞のままで男の人生が終わったこと」
晶は再び春樹のペニスを手で掴んだ。さらに春樹の体に密着していた腰を少し浮かせた。
「女の子のオマンコってとっても気持ちいいらしいの。女の子になった私じゃもう味わえないけど、春樹には女の子になる前に、私のオマンコの味を知ってもらいたいんだ」
(女の子になる前にって!?)
晶の言葉で春樹の精神が凍りつく。
やはりこのままでは晶と同じ道を辿ってしまう。
だが晶はゆっくりと、自分の女性器に春樹の男性器を当てがった。
そのまま重力に従い、下へ下へと晶が春樹に向かって降りていく。
春樹を包み込んだ晶の熱が、春樹の思考を中断させた。
「あ゛あ゛ぁぁっ──!」
「んあっ、ふあああぁぁっ!」
すでに愛液で湿りきっていた晶の陰裂は、ズブズブと滑るように春樹を飲み込んだ。
淫らな熱を持った肉壁が春樹のペニスを擦り、ドロドロの愛液を絡ませる。
晶の膣が春樹を限界まで飲み込み、二人の腰がぶつかった瞬間、再び春樹のペニスが爆発した。
春樹の体が快感で痙攣し、かろうじて残っていた精液が搾り取られる。
完全に燃え上がっていた体に、未体験だった女の体の快感がぶつけられたことで春樹の絶頂は止まらなかった。
「すごいっ!春樹のオチンチンとってもいい!気持ちいいよ!」
(あきら……あきらっ!)
男の体の限界に達した春樹とは異なり、快感に限界の無い女の体である晶は腰を動かし続けた。
跳ねるように乱暴に腰を打ち付け、暴れるように揺れていた自分の乳房を揉みしだき、貪欲に快感を貪っていた。
それはもう完全に男の姿ではなかった。
「あ゛ああぁー!があああぁぁっ!」
(もうダメだ!止めてくれ!)
春樹の体が獣のような悲鳴を上げるが、完全に快感の虜となっている晶には届かない。
やがて射精する精液も尽き、ただ快感に弄ばれるだけになった。
春樹は晶の狂ったような喘ぎ声を聞きながら、気がふれそうな快感に必死に堪えていた。


「春樹っ、私のオマンコ気持ちいいでしょ!私も春樹のオチンチンがとってもいいの!」
答えることなど出来る筈もないのに、晶は快感に震えながら春樹に語りかけた。
晶の膣壁が春樹を擦りあげる度に、春樹の精神が少しずつ削られていった。
「ああぁイク!イクよ、春樹のオチンチンでイっちゃう!」
晶の腰使いがさらに激しく早くなる。
それにしたがって、滑らかだった晶の膣が急にキツく春樹のペニスを締め上げていく。
「イク、イっく!い、いくううううううううっ!」
晶が快感に絶叫して大きく仰け反り、一際強く腰を春樹にぶつけた。
パシン、パシンと、肉のぶつかる音が断続的に響き渡る。
愛液と精液にまみれた膣壁が痙攣し、もう既に限界の春樹にさらに快感を注ぎ込む。
「がっ……かは……」
「はぁん……いいよ春樹ぃ……」
晶は絶頂の波が引いた後も腰を微かに動かし、その余韻に身を委ねていた。
その小さな動きでも春樹の体は跳ねてしまう。
「きゃんっ」
晶が腰を上げてヴァギナからペニスを引き抜いた。割れ目から白く濁った粘液が零れ落ちた。
快感から解放された春樹の肉棒は、晶から引き抜かれたことでようやく固さを失った。
それと同じように脱力した晶が春樹の胸へと倒れこんだ。
「私の膣、気持ちよかった?」
「はっ……はっ……!」
春樹には答えを口にすることも考えることも出来なかった。
高まっていた快感の熱が一気に冷めていき、体だけでなく意識までもが休養を求めていた。
催眠術にでもかかったかのように、思考がうまく働かない。
「大丈夫、疲れたから眠くなってるだけ、怖がらないで……」
まるで母親のような柔らかな声だった。
涎と涙で汚れた春樹の顔を、晶が舌で綺麗に舐めとっていく。
ぼんやりとした春樹の頭に、慈愛に満ちた晶の声が少しずつ染み込んでいった。
「無理して起きていようとしたらだめ。今はゆっくり休むの……」
(いやだ…!眠たくなんか……!)
「次に目が覚めるときは、ちゃんと可愛い女の子になってるから」
(女になんか、なりたく……な……い……)
最早微かなものになってしまった精神力で抵抗するものの、限界の春樹の体は無理矢理に彼の意識を沈めていった。

「おやすみなさい」

闇に飲まれていく春樹に晶が小さくキスをすると、晶の意識は完全に闇に包まれた……。

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