俺は鬼になった。
頭には二本のツノが生え、八重歯が発達し、虎の毛皮(これは後付)をまとっている、
鬼門の方角──艮(うしとら)の名を体現した姿。

 今日は2月3日──節分。

 節分には鬼が必要だ。絶対というわけではないが、あるならあるに越したことはない。
それに日本人だから豆をぶつける対象をほしがる理由はわかる。
「だからって女にすることはないだろうが!」
 ただ問題なのは、俺が女になってしまったということだ。前後の繋がりも理由もまっ
たく全然ひとつも見えてこない。
視線を落とすだけでおがめる胸の谷間から、胸についている物体が大きいことがわかる。
それから全身この季節にあるまじき太陽によく焼けた小麦色の肌になっていた。健康
的といえば健康的だ。顔は微妙に“俺”が残っていた。パーツごとにこの身体に合うよ

うカスタマイズされでもしたのか妙にしっくりくる。しかし──別人であることには変
わりがない。
「だって相手が男じゃつまらん。それにあんまり背が高いやつだと面白みに欠ける……
というわけで、そんなに背が高くないお前に白羽の矢が立ったわけだ。てかお前だって
喜んでたじゃん」
 背の低さと体格は俺──楠木未晴(くすのきみはる)の人生で一番深刻な問題だった。
二十歳目前で150台、どうやっても筋肉のつかない身体。だからこの話が持ち上がり
、「身体に劇的な変化が起こる」と聞いたとき、鬼というくらいだから劇的な変化=背
が伸びて猛々しいと解釈し、この薬を飲むことを了承した。
しかしそれは完全な誤算だった。背も体格もそのまま変わらなかった。唯一劇的に変わ
ったのは性別。なんだこのオチは。
「結果的には分相応な身長になったんじゃないか? 女でその身長なら文句ないだろ」
「論点をずらすな!」
 俺を納得させる方向で話を進めようとしているのが気に食わない。鬼の特徴は承知の

上で許容できるが──、女にまでなったことまでは無理だ。
 しかし、こいつは俺がこうなっても動揺ひとつ見せなかった。重村俊樹(しげむらと
しき)という男はもともと計算高いやつだが、まさか──
「お前……、俺がこうなるってわかっててやっただろ」
「うん」
 疑念を、こいつはあっさり肯定しやがった。
「じゃあなんでこうしたかったのか、その理由を言ってくれ」
「嗜虐心をそそられるから」
 とんだSもいたもんだ。しかも隠そうとか一切なく明朗に言い切った。変態だ。世の
中の女子を惑わす甘いマスクを持っていたとしても、中身は変態だ。いつか捕まれ。



「とりあえずお前の頭をこの金棒でかち割りたいから、そこに座って頭差し出してくれ
るか」
 破壊の衝動に襲われた。そうだ俺は鬼だ。だからこの最初からクライマックスな殺意
も自然なことだ。鬼は破壊の権化といっても言い過ぎじゃない。そして幸いにもそれを
行うに足る武器も持っていた。鬼に付き物──金棒だ。
この金棒の名称はエスカなんとかで、致命傷になるまで叩いても一瞬で復活できるマジック
なアイテムとかいう設定らしい。なんのことだかさっぱりだが。
「ミハルちゃん、そんな物騒なこと言わはらんと。仲ようしよう、な? それよりそこ
に立ってポーズ取ってくれはります? せっかくそんな可愛く巨乳になったんゲフゥ!」
「お前は黙って恵方巻きでも食ってろ! それからちゃんづけするな」
 馴れ馴れしく肩を抱いてきた関西人の脇腹に体重を乗せた肘を打ち込んで静かにさせる。
さっきからカメラを構えていたが、そんな邪念を持っていたのか。
 関西人(エセ)である寺田健吾(てらだけんご)の言うとおり今の俺の乳はでかい。
密かに計測したところ88もあった。アンダーは65。つまりはFカップ。夢のような大き
さだ。ヒップもほどよく発達していて背の割に体つきは成熟の段階に達している。
「……ふう」
 金棒を持ってないほうの手で指通りがよくなった髪をかき上げながら大きくため息の
ような深呼吸をした。なってしまったものはしょうがない。今さら過去の追及や責任の
なすり付け合いをしたところで話は前に進まない。前向きだ、前向きに行こう。
「それより本当に1日で元に戻るんだろうな」
「大丈夫だって。ちゃんと説明書には効果は24時間って書いてあるし、そんなに心配す
るなよ」
 それにしてもいったいどこからそんな怪しい物品を持ち込んだんだ。購入担当の俊樹
からはネットで買ったと聞いているが。

『米国製SETSUBUNセット』

 節分の日から3日前に届いた20×30センチのパッケージ表にはどう見ても男鹿半島のナ
マハゲな絵が劇画調に描かれ、右下あたりに「NASA謹製」とプリントされていた。裏面
のところどころカタコトで間違った日本語で説明書きがしてあるあたり怪しさ大爆発だ。
こんなパチ物のようなものにNASAとなんの関係があるんだか。実は中国製でロゴも
MASAとかNÅSÅとかじゃないのか、これ。
 箱の中身は厳重に緩衝材(プチプチ)で囲まれた薬ビンと鬼の衣装(虎の毛皮)と取扱
説明書。
 俺はパッケージとは違いALL英語で書かれた説明書を読むのを放棄し英語に長けた(自
称)俊樹に一任。後日(今日)、4人で俊樹の家(1LDK)に集まり、解読された用法で
怪しい薬を飲んだ。
 で、効果はこの通り。
 劇的な変化という点では確かに起こった。さっきも言ったように俺の望んだ結果は得
られず、鬼娘という奇怪なジャンルにカテゴライズされるような姿になったが。
 黄と黒という自然界なら警告を意味する色合いの大事な部分だけを覆った下着のよう
な布切れをブラとパンツのように身に着け、手にはトゲトゲのついた金棒を持ち、周囲
を威嚇する。パーフェクトだ。色んな意味でパーフェクトだ。……悪い意味で。



「よし、始めるか。──おーい、持ってきてくれ」
 俊樹はキッチンに向かって呼びかける。すぐに重低音な声で「おう」と返ってきた。
声の主は撒くための豆を煎っているのだ。その豆も、本格的にやるなら豆も本格的にと
いうコンセプトでわざわざ国産の大豆を大量購入したのには頭が下がる。
 区切りの戸が少し開いただけで濃密な豆の匂いが漂ってきた。キッチンに長戸武蔵(な
がとむさし)が消えてから1時間半。ずっと作業していたのには恐れ入る。いつも思う
が、長戸という男は、その名前が示すように寡黙で無骨で誠実な古きよき日本人を体現
したようなやつだ。一度結んだ約束は絶対に違えない。
 そういえばこの金棒は長戸の私物と言っていた。なんの思う所があってこんなものを買っ
たのかわからない。夜な夜なこの金棒を振り回したり愛でたりして悦に入っているわ
けでもないだろうに。寡黙で自分語りをしないやつだから謎が多い。この件も迷宮入り。
「……持ってきた」
 引き戸が全開にされ、両手に豆でパンパンになったスーパーの袋を持った長戸の巨体
が現れた。
 節分には豆を撒く。なぜなら、追い払うべき鬼は豆が嫌いだからだ。遺伝子組み換え
がそんなのに怖いのか、鬼は。健康志向だが臆病だ。ヒイラギの枝の先にイワシの頭を
突き刺すハッタリも効く。金棒という凶悪な得物と剛健な肉体を持っていても精神的に
弱ければどうしようもない。
 今日はそんな鬼をイジメ抜く日だ。イコール鬼になった俺がそんな憂き目に遭う日だ。
 おのおのに豆が配られる。スーパーの袋に詰め込まれた大量の豆がこれからを物語る。
情景を簡単に思い浮かべることができた。あれが俺にぶつけられる。ぶつけ……
 ──!?
 背筋がゾクっとした。なんだこれは。手が──いや全身が細かに震えている。
「どうかしたか?」
「い、いや、なんでも……」
 口ではそう言ったが──一体全体どうなってるんだ? あの丸い物体を見るだけで怖
気が走る。
「それ、鬼は〜外、福は〜内」
「鬼……外、福……内」
 定型句のコピペか携帯の予測変換しているみたいに同じ句が繰り返される。今日に限って
は全国各地で話される言葉のうち、挨拶に次ぐ頻度で使われていることだろう。
 それにしても馬鹿な光景としか言いようがない。男3人が女(俺)に向かって豆を投
げつける。ホンモノの鬼に豆をぶつけようと考えたやつは誰だったか。俺じゃないこと
は確かだ。
 犯罪チックに豆がそれなりの勢いでもって俺に降りかかる。軽いが硬い豆が点描のよう
に小麦色の肌をさらに日焼けさせるみたいに赤くしていく。次第にえもいわれぬ不快感
が吐き気のように身体の表面に込みあがってきた。
「お前ら……強……!」
 レバーを左下に入れて(右向き時)小さく縮こまって豆から身を護る。しかしそれは
精神に対してはなんの妨げにもならなかった。悪寒は増殖し続ける。
 そしてとうとう──耐え切れなくなった。
「やめて! いや、まめ怖い、怖いの!」
 俺は、ひとりでにそんなことを口走っていた。



 ──いや、本当に俺が叫んでいるのか?
 男の俺が叫ぶにはファンシーで幼児的だ。子供のように怯え、ガタガタと震える。言葉
遣いといい、これじゃまるで本当の幼女だ。
 しかしそんな俺を見ても演技だと思ったのか3人は意も介さず豆を投げ続ける。
「やめて、お願い! まめはいや! いやあああああっ!」
 恥も外聞もなく俺は泣き叫んでいた。そして感情の正体がわかった──恐怖だ。怖く
てたまらない。ただの物体に過ぎないものが殊のほか恐ろしい。過去に暴力的に投げつ
けられるとか食あたりで死に掛けたとか先物で失敗したとかトラウマがあるわけでもな
い。それなのに、天敵であるかのように思考とは別のところで恐怖する。
 鬼は豆が怖い。
 その価値観を俺は共有しているらしい。──って、そんな馬鹿な!
「未晴、鬼なんだからもっとちゃんとしてくれよ」
 むせび泣き、ちゃんとどころか平静でさえいられない“俺”と乖離しまくった俺に、
非情とも思える叱咤が飛ぶ。
「そうですよ。もっとしっかり鬼やってくれはらんと」
「…………」
「もう……やめてくれ」
 豆の攻撃が途切れて、本来の俺が戻ってくる。しかしあふれ出た情動の中からわずか
に顔をのぞかせただけにすぎない。いつ再開されるか暗い未来を予測して、震えは止ま
らなかった。
「そんなに豆は嫌か?」
 俊樹の問いかけに俺は首を縦に振った。あんな恐怖はもう味わいたくない。チキンと
罵られてもいい。だから豆だけは、駄目だ。やばすぎる。
「なんでもするんならやめてもいいぞ」
 なんでも、という言葉に引っかかった。その言葉の意味するところは膨大だ。たとえ
ばパシリだったり、たとえばレポートの代筆だったり、思いつくだけでも多種多岐にわ
たる。それでも──首を縦以外に振ることはない。
「じゃあフェラしてくれ」
「そ、そんなこと──! できるわけ……ないだろ」
「じゃあ、続きをやってもいいんだな」
 おさまりかけていた恐怖が再燃した。もう理性なんか吹き飛んでいた。
「や、やるから! やめて……くれ」
 突き出されたペニスを舐める。竿に舌を絡め、刺激を与えていく。豆の恐怖が頭から離
れない。もう一度あれをされるくらいなら、男のを舐めたって構わない。どっちも嫌だ
が、どちらかと選ぶなら比べるべくもない。



 先走りの苦味を感じながら男をイカせるために奉仕を続ける。感じるところはどこか
探る。裏スジを舐め上げると、ビクンと竿が震えた。手でしごきながら裏スジを責める。
「その大きな胸も使ってくれよ」
 さらなる要望があった。パイズリ。拒否権のない俺は毛皮を脱ぎ、胸を露出させる。
そのとき聞こえた口笛は健吾のものか。その気持ちもわからなくもない。自分のものだ
が、この大きさには感心してしまう。
 ずっしりと重い胸を持ち上げてベッドに座る俊樹の前にひざまずいて──動けなくなっ
た。男の俺が拒否していた。普通に考えればできることじゃない。
「どうしたんだ? なんでも言うことを聞くんじゃなかったのか?」
 何も答えられずにいると、俊樹は実力行使に出た。
 まずベッドに押し倒された。それから強引に馬乗りにされ、マウントポジションを取られた。
「な、なにを──」
「できないんならこっちでやろうと思ってさ」
 カチカチになったペニスが谷間に収まる。不可解な光景だった。あるはずのない胸に男
のを挟んでいる。意識と認識が乖離していた。現実味がなく、夢のように思う。
 俊樹が腰を動かす。俺の唾液でぬめったペニスはスムーズに胸の谷間を滑る。胸から
飛び出てきた亀頭を舌と口腔で受け止める。
「あむ……むふ……」
 何度も往復する。ベッドがギシギシ軋む。ふと自分がなにをしているのか把握できな
くなる。まるで夢でも見ているみたいに現実感を失う。
「しっかり口の中で受け止めろよ」
 その声の一瞬あとにどろりとした液体が喉の奥に放たれた。口内射精。生臭い、あの
臭いが口の中いっぱいにわだかまって、なんともいえない気分にさせた。
 蜜がたれて内股を濡らしていた。どうしてだか脳が興奮していると勘違いしていた。
 隠したいところを健吾が下を脱がすことによって晒した。
「すごい濡れてますよ。もしかしてミハルちゃん、フェラして感じはったんですか?」
「そんなわけ……ひゃっ! はっ……ん、ああ……」
 俺の言葉は途切れさせられた。馬乗りになったまま俊樹が俺の膣を弄る。熱っぽい声
が抗議の代わりに漏れ出て慌てて手で塞ぐ。しかしそれも胸に愛撫の手が伸びると用を
為さなくなった。俺の胸は粘土のようにこねまわされた。そのときなにか化学反応でも
おきるのか痺れが胸の表層に生まれ、特に乳首のあたりは反応が活発だった。付近を触
られるだけで声を出さずにはいられなくなる。
「そんなに気持ちいいのか? すげーとろけてるぞ、お前」
「はぁ、はぁ……んん……」
 気持ち悪いわけがなかった。上も下も感じまくっていた。特に下からは下腹部あたり
のシーツに水溜りができてしまいそうなほど蜜が滴っている。なんでこんなに気持ちい
いんだ?



「そろそろ、メインといくか」
 仰向けにされた。力なく開いた股の間から俊樹の顔を見る。喜色に染まっていた。こ
れからすることを考えればそんな顔になるのも無理はない。
 じらすように先で膣口を弄られる。いつまで経っても中には入ってこなかった。もど
かしい。俺のはもう準備ができているというのに。
「どう…して……?」
 俺の口から切なげな声が漏れた。それから俺はなにを言った?
 なぜ挿入してくれないのかと疑問を投げかけたのか、あるいは挿入してほしいと懇願
したのか──
 どちらにしても、結果はひとつだった。
「ああっ、はいって……くる……!」
 異物が本来そこにあるべきようにと俺の膣内に納まろうとする。そして最後の引っか
かりを突き抜けて──俺は女になった。
 初めては痛いと聞いていたが、俺の場合、最初から快感を覚えていた。それも前戯の
とき以上の快感。数度動かれただけで喘いでいた。
「おいおい、お前初めてだろ? なんでそんなに感じてるんだ?」
「だ、だって……」
 気持ちがいいんだからしょうがない。初めてだろうがなかろうが、そんなことは瑣末だ。
「もっとぉ、もっとしてぇ! 奥までもっとぉ!」
 体格の差もあってペニスは最奥まで届いた。奥が押し上げられると測定不能なくらい
の快感が身体を埋め尽くした。もしあの薬で背が伸びていたとしたら、届かなかったか
もしれない。そう考えるとこの小さな身体のままでよかったと思える。こんなに気持ち
よくなれるんだから。
 その気持ちよさも頂点にたどり着こうとしていた。
 俊樹の動きも速度を増し、俺の膣内をかき回す音も大きく室内に響いた。
 そのとき、パシャパシャっと断続的なフラッシュに見舞われた。すぐ横で報道カメラ
マンさながらに健吾がファインダー越しに俺を見ていた。
俺の淫靡な記録が残されようとしている。ハメられ、よがり、喘いでいる俺の痴態を。
「撮っちゃ…いやぁ……」
 拒絶の合間にも俺は快感に打ち震えていた。さぞかしエロい顔をしているんだろうな
と思う。
 その顔を想像するのと、俊樹がラストスパートをかけたのはほぼ同時だった。外と内
からの攻撃であっという間に俺は上り詰めた。
「だっ、俺……イクぅ──。んんーーーーーーーー!!」
 イってしまった。その上…………失禁までしてしまった。シーツに広がるシミを呆然
と見送る。
 うつろな視界の中、様子を見る。撮られていたのは写真だけじゃなかった。ビデオも
回っている。しかしそれをどうでもいいと思ったのは、女の快感が男のを数倍上回って
いたからだ。まだ痺れている。すべてが初めての経験だ。破瓜のことも絶頂のことも。
いやがっていた女の身体もいいかもと思い始めていた。どうせ1日で戻れるという保身
が前提条件だが。



「よーし、第2回戦だ」
「まだ…やるのかよ……」
「とりあえずは全員な。2番バッターはもう準備万端みたいだから早くやってやれよ」
 仰向けに寝た長戸の上に跨る。布団のように面積が広い。俺があと数人乗っても大丈
夫そうだ。イって震える腰を保ちながら太いペニスに膣口をあてがい──腰を沈めた。
「んんーーーー!!」
 見た目どおりだった。そそり立ったペニスは無機物のように硬かった。しかしお腹の
中の脈動と熱がそれが無機物でないことを知らせる。接合部分で俺の膣口は驚くほど拡
がって剛直を飲み込んでいたが、全部入らなかった。ぎちぎちに埋まり、動くこともで
きない。
「……動いていいか」
 確認とも伺いにも取れる一言の直後に真下から衝撃があった。
「あっ、くぅ…っ!」
 俊樹とはまた違ったリズムとペース。俺の両腰を持って上下運動がゆっくり大きな動
きで繰り返される。
 表情ひとつ変えない長戸。でかい手がでかい俺の胸をすっぽり覆った。手のひらで乳首
ごと潰され、痛みとそれ以上の快感が生まれた。
「あんっ、おっぱい、イイ! もっと、おっぱい、いじってぇ」
 だから求める。卑語を連発して求めるものが得られるなら何回だって言う。俺の肉欲
は我慢の限界にきていた。
「──もぉ、ガマンできません! オレも混ぜさせてもらいます」
 我慢の限界にきていたのは俺だけじゃなかった。突然俺の背後に回った健吾にアヌス
を拡げられた。そこに肉棒が押し当てられる。
「だめっ! そんなのはいらないよぉ!」
 もうすでに太いのが1本入っている。それなのに、また新しいのが入ろうと──!
「だ、だめえええええ!!」
 感じるのは痛みのはずだった。痛みもあったんだろうと思う。
「な、なに、これぇ!?」
 各々違ったタイミングで抽挿が行われる。もう俺のマ○コは成熟した性器だった。そ
こから感じるのは快感しかない。そしてアヌスもそれに引きずられるように快感を吐き
出し始めた。これも勘違いだ。痛みを快感と錯覚するただの勘違い。しかしそれは身体
にとって好都合だった。
「あっ、あっ、あっ、あっ、だめ、そんな、うご、いちゃ…!」
 細切れになった嬌声が、強く鋭く息継ぎのように断続する。
「奥で太いのが、うんっ、こすれてぇ! いいの! すっごくきもちいいの!」
 吐き出されるひとつひとつの声が艶っぽくなっていた。感じて感じて感じて──それ
でもなお感じようとわずかにしか動かせない腰をひねる。貪欲に、とにかく貪欲に。
「…………!」
 長戸の顔がほんの少し歪んだ。
「もうアカン……出る…ッ!」
 図ったように二本同時に俺の中で弾けた。
 俺もイった。



 それから替わる替わる犯され続けた。3人が3人とも絶倫だったのは幸か不幸か。かけ
られたザーメンが乾く間もなかった。3人同時にされたときはどうしようかと思った。
上の口に下の口ふたつに
 今またふたつの穴を同時に犯されている。もう俺が男だとかそんな考えはまったくない。
「い、いくううううううう!!!」
 何度目かもわからない絶頂で俺の意識に黒い緞帳が下ろされようとしていた。
 次目が覚めたときにはもうタイムアップだろう。鬼とも女ともアリーヴェデルチだ。
結局、鬼娘になっている間の思い出は豆への恐怖とセックスしかなかった。

 ──なにやってんだ、俺。

 自分にツッコミをいれながら、ブラックアウト──。



 翌朝。
「なんだこれええええええええええ!!!」
 薬の効果が切れて男に戻れたと思っていた。しかし俺は断崖の上に建つ霧の城に生贄に
捧げられそうな姿のままだった。なにも着てないからよくわかる。性別も女だ。どうなっ
てるんだ? 効果は1日で切れるんじゃなかったのか? 説明責任だ、説明責任がいる。
「あ、悪い。説明書をよく読んだら24YEARSって書いてあった。HOURSじゃなかったんだな。
24って書いてあるからてっきりそうだと勘違いしてたよ、あははははははは」
 俊樹を問い詰めると、最初から用意してあったようなテンプレ的答えが返ってきた。
しかも棒読み。
「見間違いようもないだろそれ! それにどう責任取るつもりだ?」
「まあそう言うなよ。責任だって俺たちが一生可愛がることで取ってやるから安心しろ」
「そうです。心配しはらんでええって」
「お前らなにを言って──!」
 言いかけでの俊樹唇が俺の言葉を遮り、唇が離れた次の瞬間にはまた俺の膣にペニス
が埋め込まれた。
「くふぅっ! おまえ、ら……また……ああん」
 こうなってしまったらまた、俺は全面的に男を受け入れることしかできない。レイプ
みたいな挿入のしかたでも何回かの抽挿で濡れてきた。
 立ったまま壁に背中を押し付けられて、される。足に力が入らない。接合部分に体重が
かかって深くに埋もれる。こうなるとますます力が入らなくなる。俊樹の肩で支えると
いうことも思いつかずに、止まらない快楽に身を任せていた。
 そして、動きが途切れた直後にまたお腹に熱い感覚。
「ふー、すっかり病みつきになっちゃったなこれ。またやらせてくれよな」

 ──こんなに中出しして、妊娠したらどうするんだ。

 艶々の笑顔の俊樹に毒づきながらも、可愛がってくれるならこのままでもいいかなと夢

見心地で思っていた……。


    終
タグ

管理人/副管理人のみ編集できます