スピカ「みんな・・・この子、もう魔法少女になってるわ。」

絵梨明日美「「えっ!?」」

絵梨「どういうことなの!?」

スピカは灯莉の意識を探り、彼女が現在どういう状況になっているか調べた。
結果として、既に灯莉は魔法少女であるということであった。

スピカ「ちょっとこの場所だと・・・私が出てきても大丈夫な場所に移動できないかしら。」

絵梨「うん。わかった。」

絵梨「ごめん、灯莉ちゃん、近くの公園に行くけどいいかな?」

灯莉「は、はい。」

彼女たちはカフェを出て、公園へと向かった。

明日美「ここなら大丈夫ね。」
絵梨「そだね、スピカ、出てきても大丈夫だよ。」

スピカ「ええ、今そっちに行くからね。」

灯莉「えっ!・・・さっきの・・・どうやって・・・」
突然現れたスピカに灯莉は信じられないと言った様子で目を白黒させて驚いていた。

絵梨「この子がもう魔法少女って言ってたね。
どういうこと?」

スピカ「この子が魔法少女になったのは、レグルスが行方不明になった
8年前・・・レグルスとコネクトした痕跡があったの。」

絵梨「でも、適性因子反応?っていうのもあったんでしょ?」


スピカ「適性者を魔法少女にする時は、コネクトした後に出現した
ハーティジュエルを使ってすぐに魔法少女に変身するんだけど・・・」

スピカ「最初の魔法少女への変身のときに適性因子は陽の魔力へ変換、昇華されるの。」

スピカ「でも、この子の場合は魔力の変換途中で強制的に停止しているようなのよ。」

萌波「つまり・・・誰かの手によって変身を邪魔された可能性があるということかしら?」

明日美「で、でも!変身中は絶対防御が展開されているから、
邪魔されるなんてありえないんじゃ・・・」
明日美は以前自分が絶対防御を使った攻撃を思い出していた。
そう、かつて明日美は無獣に握りつぶされそうになった時、
変身時の絶対防御を展開させて反撃のきっかけを作っている。

スピカ「そうね・・・変換途中で強制停止するなんてことは普通では考えられないんだけど、
並みの力なら絶対防御が破られるなんてことはないわ。」

スピカ「これを破れるとしたら・・・絶対防御の術式を知っていて・・・
かつ強大な力を持つものではないと・・・」

絵梨「強大な力・・・あっ!ミーヤのパートナー・・・?」

スピカ「たしかにあいつはミーヤ以上の力を持っている。
でも、力だけではこの術式は破られない。敵がこの術式を知って・・・いるわけ・・・」

スピカ「!!!!」

スピカ「コネクトしたのが8年前・・・そしてレグルス・・・
絶対防御・・・術式・・・リゲル・・・そうか・・・そういうことね!」

明日美「何か心当たりがあるの?」


スピカ「私たちの仲間に魔法少女システムを開発した人がいたんだけど・・・
9年前にトラブルが起こってそれ以来行方不明になったの・・・」

スピカ「その開発者と一緒に研究していたのが・・・その子のパートナー・・・
レグルスよ。」

スピカ「そして、開発者の名は・・・リゲル・・・」

スピカ「彼ならば術式を解除することなんて造作もない・・・」

スピカ「と言うことは、リゲルが敵方に捕えられているのか・・・それとも寝返ったか・・・」

絵梨「じゃ、じゃあレグルスも同じように捕まってしまった可能性があると?」

スピカ「ええ、そうね・・・恐らくレグルスはリゲル失踪に危機を感じ・・・
魔法少女を作ろうとした。そこでリゲルの術式を知った敵の攻撃を受けたのだと思うわ。」

スピカ「でも、不幸中の幸いだったのが、既にコネクトしたあとだったことね。」

スピカ「このコネクトの痕跡をたどればレグルスにたどり着けるかもしれない。」

スピカ「明日美、萌波、アルとスウドの力を借りるわよ。」

明日美「うん。」

萌波「よろしくてよ。」

スピカは目を閉じ、彼らを呼び寄せた。

スピカ「アル、スウド・・・ここにきて・・・理由は・・・わかるわよね。」

アルデバラン「もう来てるよ。」

サダルスウド「同じく。」


灯莉「あ・・・またねこ・・・今度は茶トラと灰色のねこだ・・・」

明日美「紹介するわね。この茶トラが私のパートナー、アルデバランよ。私はアルって呼んでるわ。」

アルデバラン「よろしく。」

萌波「こっちはサダルスウド、私のパートナー。」

サダルスウド「こんにちは。」

スピカ「さ、詳しい自己紹介はあとあと。」

スピカは彼らの自己紹介の間に割って入った。

スピカ「早速コネクトの痕を追跡するわよ。うまくいけばレグルスとリゲルの居場所がわかるかもしれない。」

スピカ「灯莉さん、もう一度お願いね。」

灯莉「は、はい・・・」

灯莉は左手をアルデバランの右手に繋ぎ、右手をサダルスウドの左手に繋いだ。
そしてスピカは両手を灯莉の額に当てた。
客観的にみると3匹の猫と女の子が奇妙な格好でじゃれている様にしか見えなかった。

絵梨「この格好・・・なんかシュールだ・・・」

明日美「ふ、ふざけないで・・・彼らは真剣なのよ。ぷっ・・・くくくっ・・・」

萌波「明日美さん、そういうあなたも肩が震えているわよ。」

スピカ「もう少し・・・もう少しで・・・っく!・・・どうして・・・・」

スピカ「出力を上げれば・・・」


バチッ・・・バチバチバチバチィ!

灯莉「きゃあっ!」

アルデバラン「うわっ!」

サダルスウド「ぐっ!」

スピカが探索出力を上げた途端、電流のような衝撃が彼らに返ってきた。

絵梨「灯莉ちゃん、大丈夫!?」
灯莉はその衝撃に倒れてしまい、気絶してしまった。
慌てて絵梨が駆け寄り、抱きかかえて介抱している。

スピカ「し、しまった!気付かれた!」

明日美「いったいどうしたっていうの?」

スピカ「コネクトの痕跡を辿ったけど、ノイズで特定ができなかったから出力を上げたら反撃された・・・
防御が間に合わなくて接続元である彼女に大きな衝撃が行ってしまった。」

スピカ「そして・・・反撃されたってことは・・・ここに私たちがいるって気付かれたのよ。」

萌波「それじゃあ・・・」

スピカ「ええ・・・来るわよ・・・ここに。」

明日美「ええっ!?来るって・・・ダークウィッチが?」

スピカ「そうね、無獣かダークウィッチか・・・それともミーヤか・・・」

彼女らは周囲をキョロキョロと見回し、警戒した。
静かだった。
日も傾きかけて夕方になろうという時間、公園内は彼女たち以外に人はおらず、
鳥のさえずりに交じってカラスの鳴き声が響いていた。


萌波「来ない・・・?」
スピカ「いいえ・・・来る・・・!これは・・・!?」

いつの間にか鳥のさえずりも、カラスの鳴き声も聞こえなくなっていた。
異様な静けさに耳が痛くなるほどだった。
と、そこにそよそよと心地いい風が吹いて彼女たちの髪を揺らす。
そして一気にウィッチーズスペースが展開された。
スピカ「!」
???「はじめまして。」
景色に溶け込むようにスピカの目の前に”それ”がいた。
まばたきもせずにずっと前を見ていたはずなのに気が付かなかった。
スピカが”それ”を認識すると驚いたように後ろへ飛び退く。

???「そんなに驚かないでくださいよ。
私はエウロパ・・・イオ様がしもべ・・・以後お見知りおきを。」

エウロパと名乗ったモノは首にボタンのついたチョーカーを巻いたうさぎのぬいぐるみの姿をしていた。

スピカ「エウロパ!?イオの仲間!?」

エウロパ「強い探索魔法を使ってくださって感謝いたします。
こちらから探す手間が省けましたから。」

そのうさぎのぬいぐるみは丁寧に深々とお辞儀をした。

エウロパ「今日は挨拶がてら遊びに来ましたので、
楽しく死んでくださいね。」

そのエウロパの口がニヤリとゆがむとエウロパを中心としてウィッチーズスペースが広がった。

明日美「楽しく死んでくださいって・・・」

萌波「面白いこと言いますのね。」

明日美「絵梨は・・・その子をお願い!」


明日美「アクセプト!」
明日美が叫ぶと首の黄色いハーティ ジュエルが光り、手がハートの形に動いていった。
明日美「キューティメタモルトランスレーションアーシィアップ!」

萌波「アクセプト!」
萌波が叫ぶと首の水色のハーティ ジュエルが光り、手がハートの形に動いていった。
萌波「キューティメタモルトランスレーションアクエリィアップ!」

アーシィ「大地の優しさで包んであげる!キューティアーシィ!おまたせっ」
アクエリィ「癒しの水音奏でてあげる!キューティアクエリィ!おまたせっ」

エウロパ「遊んでいただけるのですね。感謝いたします。」

アクエリィ「アーシィ、気をつけた方がいいわよ。」
アーシィ「そうね、相手の力は未知数。」

アクエリィ「アクエリィフュエ。」
アーシィ「アーシィハンマー。」
彼女らはそれぞれ武器を出現させ、エウロパへと向かっていった。
アクエリィ「アーシィ、あなたは左、私は右から。」
アーシィ「了解!」

アーシィ「アーシィストライク!」
シュン
アーシィ「なっ!」

攻撃が当たる直前、エウロパは一瞬で避けアクエリィの目の前に移動していた。

アクエリィ「アクエリィエギュイーユ!」
パキキキ
アクエリィ「ピケ!!」
無数の氷の針がエウロパへ全て突き刺さる。
しかし、エウロパは防御シールドを展開、針をはじき返す。


アクエリィ「くっ・・・セ ポッシェ(次はこれよ!)」
アクエリィ「アクエリィプリュイ!」
エウロパの頭上に強酸性雨がシュウシュウと音を立てて降り注ぐ。

エウロパ「あら、危ない。」
酸性雨を寸前で避ける。

アーシィ「アーシィクェイク!」
背後からエウロパの足元にズドンとハンマーを叩きこむと衝撃がエウロパを襲う。

アクエリィ「シャッセ グランジュテ。」
アクエリィ「シソンフェルメ アッサンブレ ピルエット ピルエット ピルエット」
アクエリィ「バッチュ バッチュ バッチュ!」
エウロパはアクエリィのキックを防御し、鞭打を避けていた。

アーシィ「アーシィビート!」
タタタタンとリズミカルにハンマーを打ち込む。
何発かは当たったが、急所は外れているようだ。

アーシィ「はぁはぁ・・・どう!?」

アクエリィ「危ない!」

そよそよと彼女たちの周りに風が起こり、
エウロパの方から風切り音がしたかと思うと真空の刃が襲いかかる。
刃が当たる寸前、アクエリィはリフレクシオンを展開、アーシィを刃から守った。

アーシィ「あ、ありがとう。」
アクエリィ「気を付けて。何発かは手ごたえあったけど、あまり効いてないみたい。」
アーシィ「ええ・・・そのようね。」

呆れたようにヤレヤレと両手を横にして肩をすくめていた。
エウロパ「はぁ・・・少し残念です・・・もう少し本気で遊んでほしいのですが・・・
今度はこちらから行きますわ。」


エウロパ「えい!」
エウロパはゆらりと長い耳を揺らし、腕を横に一閃。
すると、柔らかい心地よい風が彼女たちを包み込む。
その直後、先ほどよりも速い速度で真空の刃が何度も繰り出された。
アーシィ、アクエリィは一回目、二回目をリフレクシオンで攻撃を反射。
しかし、三回目の刃でリフレクシオンは破壊され、
四回目の刃では何とか寸前で避けたものの、僅かに二人の髪の毛が切られてしまった。
そして五回目の刃でアーシィの腕に当たる。六回目でアクエリィの足に当たる。
そこからは避けることも逃げることできず何十もの刃が彼女たちを襲った。

絵梨「アーシィ!アクエリィ!!」
絵梨は反撃できずにただやられるだけの二人をみて叫んだ。

灯莉「ううう・・・絵梨・・・さん・・・?」
絵梨の声で抱かれている灯莉の意識が戻り、半身を起して呟いた。
そして彼女はうさぎのぬいぐるみの前で倒れているアーシィとアクエリィを見て息をのんだ。

灯莉「え・・・どういうこと・・・?」

絵梨「敵よ・・・敵の強いやつが来て・・・二人は攻撃を受けてしまった。」

灯莉「そんな・・・どうして・・・」

倒れていた二人は何とか立ちあがっていた。
致命傷にはなっていないようだが、どう見てもまだ戦える状態ではなかった。
しかし、二人はエウロパに向かっていこうとしていた。

絵梨「あいつ・・・強いね・・・やっぱり私も出て行かなきゃならないかな。」

スピカ「!今のあなたじゃ無理よ!」

絵梨「じゃあ、黙って見ていろっていうの!?
無理って言われても・・・」
絵梨は唇をぐっとかみしめた。

絵梨「やるしかないじゃない!」


灯莉「ま、待ってください!」

絵梨「灯莉ちゃん・・・」

灯莉「この子たちが私に触れて、わかったの・・・長い間何なのかわからなかった
けど感じていた・・・すごくすごく・・・暖かいもの・・・」
灯莉は胸に手を当て、これまでのことを目を閉じて思いだしていた。

灯莉「まだ見たことはないけどすごく懐かしく感じた・・・
ずっと一人だった私を見てくれていた。」

灯莉「でも・・・この子レグルスは・・・今すごく苦しんでる・・・もがいてる。
逃げ出そうとしているけど・・・逃げられない・・・」

灯莉は涙を流しながら、しかしその眼鏡の奥の瞳は決意を込めたように光を輝かせていた。
その姿は先ほどまでのオドオドした雰囲気は感じられなかった。

灯莉「スピカ・・・さん?私・・・力もなくって・・・臆病だけど・・・
こんな私でも、みなさんの力になれるでしょうか?」

スピカ「・・・今はハーティジュエルもないし、
あなたのパートナーがいないから本来の力は出せないけど・・・」

灯莉「それでもいいんです。少しでも皆さんの力になりたい。
そして、今まで私を守ってくれていたレグルスさんを助けたい!」

灯莉「だから・・・だから私を魔法少女にしてください!」

スピカはその少女の決意を聞いて少し考えた後、
アルデバランとサダルスウドに目配せをした。

スピカ「わかったわ。あなたを魔法少女にします。
でも、さっきも言ったように本来の力は使えない。
腕力と耐性力はあがるけど魔法は使えない。それでもいいの?」


灯莉「はい。」

スピカ「わかった。アル、スウド、あなた達の力借りるわね。」

アルデバラン「わかった。」
サダルスウド「了解した。」

スピカ達は灯莉の周りに座ると各々が光り始めた。
スピカ「クリエイト!我らはこの者の精神、肉体、時間を束ねレグルスに成り代わり、魔法少女として再接続を行う!」

そして光が大きくなり始め灯莉をも包み込む。

次の攻撃をしようとしていたエウロパは、少し離れた場所で儀式が始まっているのに気がつき、
攻撃の手を止めた。

エウロパ「なるほど・・・四人目ですか。
面白そうなので少し待ちますね。」

エウロパは遠くの方で輝く光を見て呟いた。

アーシィ「はぁはぁ・・・ずいぶん余裕かましてくれちゃってるじゃないの。」
アーシィはフラフラになりながらもハンマーをエウロパに叩きつける。
エウロパ周辺に防御シールド展開。

エウロパ「ちょっとあなた、せっかく魔法少女誕生の瞬間を鑑賞しているのですから邪魔しないでいただけますか?」
エウロパは叩きつけられたハンマーをつかみ、ポーンと押し返した。
するとアーシィはごろごろと地面を抉りながら弾き飛ばされた。

アーシィ「ぐっ!きゃぁぁぁぁ!」
アクエリィ「アーシィ!!こ、これはまずいわね・・・」

灯莉を包んでいた光が小さくなっていき徐々に灯莉の姿が見えてきた。
光の中から現れた灯莉の手には一つの指輪が握られていた。


灯莉「これは・・・?」

スピカ「ハーティリング。本来はハーティジュエルが変身アイテムなんだけど、
私たちはあなたのパートナーじゃないからなんとかレグルスの痕跡を集めてこれしか作れなかった。」

スピカ「これを指につけて、
アクセプト!キューティメタモルトランスレーションフレアーアップ!
と叫びながら指で術式を描いて。あなたは魔法少女キューティフレアーになるわ。」

灯莉「は、はい。」

スピカ「いい?正直あなたの力は未知数なの。
どうしても危なくなったら逃げて。」

灯莉「逃げるなんて・・・」

スピカ「いいえ、逃げることさえできたらまた反撃のチャンスを伺えばいいのだから。」

灯莉「は、はい!」

十五話「Obedience!あなたの優しさ感じてた。」

灯莉は決して逃げまいと強い思いを抱きながらも、スピカの言葉の意味も噛み締めた。
そして、彼女の指にはめられた炎のように真っ赤に燃えるハーティリングを手のひらで優しく包み込む。

灯莉(レグルス・・・一人ぼっちの私をずっと守ってくれていたんだね。
あなたの優しさ感じることができたよ。今度は私があなたを助ける番。)

彼女の胸に決意を込めて、灯莉は大きく深呼吸をした。

灯莉「私に勇気をください!」

灯莉「アクセプト!」
灯莉が叫ぶとハーティリングが赤く光り、指がハート型を描いた。
灯莉「キューティメタモルトランスレーションフレアーアップ!」


ハーティリングから赤色の光が出てリボンのように灯莉の体にまとわりつく。
パキィンと光が弾けると赤いハート型の花びらが舞う。
花びらの中から現れるのは・・・

肘まである篭手のような黒いグローブ。
足は膝まで覆うグラディエーターのようなヒールの高い編みこみブーツ。
髪は赤く染まりロングヘアがさらに長くなり、一本の腰あたりまである三つ編みに編みこまれた。
最終的にハーティリングからリボンのようなものが出て全身を包み込む。
黒地に真っ赤な炎をあしらった様な柄の和服のような振袖。
裾の広がった黒地に赤いリボンのついたミニスカート。
リボンが腰に巻きつき背中で赤い大きなリボンが結ばれた。

フレアー「熱い心を燃やしてあげる!キューティフレアー!」

スピカ「こ、これは!どうして?」
サダルスウド「確かに・・・これは・・・しかしありえるのか?」

フレアーは自分が変身した姿をキョロキョロ見回す。
そして一息大きく深く息を吐き出す。

フレアー「ふぅ・・・これが・・・アタシか・・・力が・・・沸いてくるようだ・・・」

スピカ「フレアー!あなた・・・大丈夫?」

フレアー「ん?アタシは大丈夫だ・・・すごく気分がいい。」

絵梨「すごい力を感じる・・・これが四人目・・・フレアー・・・私もサポートしなくちゃ・・・」
絵梨「灯莉ちゃんだって決意したんだ・・・私も・・・
望美さん、私あなたの分まで精一杯生きるから!あなたの気持ち無駄にしないから・・・もう一度勇気を!」
絵梨は折れそうだった心を奮い立たせ、変身する決意をした。

絵梨「アクセプト!」
絵梨が叫ぶと首のピンクのハーティ ジュエルが光り、手がハートの形に動いていった。
絵梨「うん、変身できる!」
絵梨「キューティメタモルトランスレーションエアリィアップ!」

エアリィ「そよ風のように幸せ運ぶ!キューティエアリィ!おまたせっ」


エウロパ「ほら見て御覧なさい、四人目が変身したわよ。
あら?エアリィさんもいるようね。」
エウロパは倒れているアーシィの髪をつかみフレアーの方に顔を向けた。

アーシィ「だめよ・・・こっちきちゃダメ・・・」

エウロパ「でも二人ともこっちに来てますわよ。」

アクエリィはこちらに向かってくるエアリィとフレアーの前に立ちはだかる。
アクエリィ「ここは一旦退くのよ。態勢を整えてから・・・」

フレアー「いいや・・・そんなことしてもあいつは逃がさないだろう。
それに・・・なんでかな・・・今のアタシあいつに負ける気がしないんだ。」

アクエリィ「初めて戦うのに無理よ!」

フレアー「そんなもん、やってみなくちゃわかんねぇだろうよ。」

フレアー「魔法は使えないけど。武器は出せるみたいだし・・・力も何十倍になった感じだ。」

エアリィ「それに私もいるから!」

とそのとき、遥か彼方から空気を地面を震わせながら近づいてくるものがあった。
その場にいるもの全員の体が心がビリビリと震える。

エウロパ「おや、あの方も遊びに来られるのですか。
まだ万全じゃないと思うのですが・・・」

エアリィ「!こ、これは!!!??ま、まさか・・・そんな・・・この状況で?」

轟音を轟かせエアリィの目の前に降り立つ。
降り立つ際の衝撃で地面にクレーターができる。


ミーヤ「お祭り騒ぎのようね。このお祭り私も参加させてもらうわよ。」

エアリィ「ミーヤぁぁぁ!!あなた!まだ懲りてなかったの!!」

ミーヤ「懲りる?どうして懲りる必要があるの?意味がわからないわ。」

エアリィ「少しは大人しくしてなさい!」

エアリィのその言葉にミーヤはくすくすと笑っていた。

ミーヤ「ふふふ、私もまだ調子良くないのよ。
だから今日は元より大人しくしているつもりよ。」

エアリィ「信じられるもんですか。」
エアリィは歯をギリリと食いしばりミーヤを睨む。

エアリィ「あの・・・エウロパってなんなのよ!」

ミーヤ「ああ、エウロパ?かわいいでしょ。最近来た私のうさちゃんよ。」

エアリィ「そういうことを聞いているんじゃない!」

ミーヤ「まあ、良いじゃない。ほかの子達はエウロパに任せるから。
ね、私はあなたとお話に来たの。」

じりじりとエアリィに近づいていくミーヤ。
その表情はミーヤの実際の年齢には似つかわしくないほど妖艶な笑みを浮かべていた。

エアリィ「うくっ!こ、来ないで!」
ミーヤが近づくほど後ずさりしてしまうエアリィ。
そして、自身の力が今は弱体していることもあったが、
何より彼女は以前とはまったく違うミーヤのプレッシャーを感じていた。


ミーヤ「あら、どうしたの?そんなに怖がらないでよ。
ほんとに今日はあなたに危害は加えないから。私、あなたのことをもっと知りたくなっただけだから。」

エアリィ「フレアー!こっちは・・・何とかするから・・・」

ミーヤ「そうそう、こっちは何とかなるからあなたはエウロパと遊んであげてね。」

エアリィ(フレアー・・・なんとか耐えて・・・すぐ助けに行くから!)

フレアーはミーヤのことを睨み、エアリィの方を見ると無言で頷いた。

そして前を向きなおしスタスタとエウロパに近づくフレアー。

アーシィ「これがフレアー?変身前と雰囲気がぜんぜん違う・・・」

フレアー「始めまして・・・だよな・・・アタシはキューティフレアー。
出来立てほやほやの魔法少女・・・見習いだ。」

エウロパ「こちらこそ始めまして。
私はエウロパと・・・!?」

ズドォォォォン!!!

エウロパ「くっ!!!」

フレアー「おっしぃ・・・」

何がおきたのだろうか。フレアーの拳がエウロパのいた場所に突き刺さっていた。

エウロパ「卑怯な!まだ私が名乗っている途中だというのに!」

フレアー「くっくっく・・・だれが貴様の口上なんかぼけっと待つんだよ?」


フレアー「フレアーサイズ」
フレアーの手には彼女の身長よりも長い炎のような装飾が施された真っ黒い棒が握られていた。
フレアー「ふーん・・・これは棒・・・?これがアタシの武器か・・・?まあいいか。」
フレアーはクルクルと棒を回して構えた。

フレアー「そこのうさぎ。あんたからかかってきな。」

エウロパ「見習いなのにずいぶん偉そうですわね。
後悔しますよ?」
エウロパの声は明らかに動揺しているようで震えていた。

エウロパ「では、遠慮なく行かせていただきます。」
エウロパが両腕を前に出すとその前でぐるぐると光が渦を巻き、それが光球になった。
エウロパ「当たると痛いですよ。ふふふ、下手したら死んじゃうかも。それ!」
出来上がった光球をぐぐぐっと押し出してふわふわとシャボン玉のようにゆっくり動き出したかと思うと、
それは目にも留まらぬ速さで打ち出された。

そして・・・

ドドォォォォォン!!!

直撃

その光球はフレアーの体に直撃した。
モウモウとあがる爆煙。

そして爆煙の中からかすかに見えるフレアー
どうやらまだ倒れていないようだ。
倒れていないことがわかると次の攻撃態勢に入るエウロパ。

エウロパ「あれで倒れないなんてなかなか頑丈ですわね。えい!」
光球を連続で打ち出すエウロパ。
そのすべてが猛スピードでフレアーに直撃。


ドドドドドドドッ!!!

アーシィ「フレアぁぁぁぁぁー!!」
アクエリィ「そんな!速すぎて避けられないの?」

さらに爆煙が立ち上り、再びフレアーの姿は見えなくなった。
この状態では生きているのか・・・死んでいるのか・・・わからなかった。

爆煙が晴れ・・・フレアーの姿は・・・

埃だらけではあったが・・・立っていた。
二本の足でしっかりと地面に立っていた。

エウロパ「そ・・・そんな・・・あの攻撃を・・・避けたの?
それともシールド展開した?」

フレアー「いいや・・・あのスピードを避けられるほど速くはないし・・・
ましてやアタシは魔法は使えないから・・・全部当たったよ。アタシに。」

エウロパ「当たったですって?それじゃあ、な、なんで立っていられるの。」

フレアー「さあ?どうやらアタシはトンでもなく頑丈にできているらしい。」

エウロパ「じゃあ・・・これならどうかしら!?それっ」
エウロパが腕を横に一閃。
心地よい風とともにエウロパから何十もの真空の刃がフレアーに迫る。

フレアーはクルクルとフレアーサイズを回転させその刃を全てはじき返す。

そのままフレアーサイズをエウロパに叩き込む。
ズドンと地面が震える。
エウロパはその攻撃を腕で防いだ。
しかし・・・衝撃が強すぎ防御が役に立たない。
エウロパ「ぐふっう・・・なんて重い攻撃!」


フレアーはゆっくりと二撃目を突き入れる。
その攻撃はシールドを展開するもやはり防ぎきれずエウロパは後方に弾き飛ばされる。

アーシィ「す、すごい・・・あれで魔法使っていないの?」

エウロパ「こ、攻撃力もかなりあるようね・・・でも・・・スピードは無いのよね。」
フレアーの目の前からエウロパは一瞬にして消えた。
そしてフレアーの背後に現れ、すかさず打撃を加え、魔法攻撃で追撃。
フレアーは思わずよろけるが傷は無いようだ。
振り向きざまフレアーサイズでエウロパをなぎ払う。
しかし攻撃は当たらずエウロパの居た場所の空を切った。

フレアー「さすがに速いな・・・逃げられたら攻撃は当たらないし・・・」

エウロパ「やはりスピードについて来れないのですね。
とうとう諦めたらどうかしら?」

そしてエウロパは攻撃を続ける。
連続で打撃、打撃、打撃。
フレアーはなすがまま打たれ続ける。
本当にあまりのスピードに諦めてしまったのだろうか。

しかし・・・フレアーの目は輝きを失っていなかった。
エウロパは一方的にフレアーに攻撃していて圧倒的に優勢だったが、
その強い燃え上がるような瞳の光に逆に少しずつ恐怖を覚えていった。

エウロパ「このっ!なぜ倒れないのですか!なぜダメージを受けないのですか!」

エウロパは腕を大きく振りかぶりフレアーにパンチを叩き込む。
しかし、その腕はフレアーに掴まれた。

エウロパ「ぐっ!離しなさい!あなたはスピードが無いんじゃ・・・」

フレアー「ああ、確かにスピードは無いよ。
でも目では追えるんだ。さあ、終わりにしようぜぇ。」


エウロパ「や、やめなさい!放しなさい!!」
エウロパはじたばたともがくが、フレアーから離れられない。

フレアー「これでおしまいだ。」
フレアーサイズの底部をトントンと地面に突くと棒の先から禍々しい形の大きな鎌がジャキンと出てきた。

フレアー「へぇ・・・これって大鎌なんだ・・・そっかサイズだもんね・・・くすくす・・・死神みたいだね。」
フレアーの瞳が炎の赤色から少しずつ黒色へと染まっていく。
大きく開かれた真っ赤な口はまるで・・・悪魔のような姿であった。

エウロパ「ひっ!」
ガチャリとフレアーサイズをエウロパの首にかける。
フレアー「言え・・・お前らのところにレグルスは居るんだろう?」

エウロパ「レグルス??なんですの・・・それは・・・」

フレアー「とぼけるな・・・お前らがアタシの中から連れ去ったんだろう。」
フレアーサイズの刃をエウロパの首に強く押し当てる。

エウロパ「レグルス・・・きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突如エウロパの体がビクビクと震えだし、更に赤黒く光り始めた。

フレアー「な、なんだ!?」

さらに大きく光るとフレアーエウロパともに反発しあうように弾き飛ばされた。

フレアー「あああああっ!」

エウロパは意識が無いのかピクリとも動かず赤黒い光球に包まれ宙に浮かんでいた。

フレアー「くっくっく・・・まあいい・・・そのままじっとしてろよ・・・今仕留めてやる。」

フレアーはエウロパに近づき再びフレアーサイズを振りかぶる。
そして勢い良くエウロパに振り下ろした。
エウロパを見事一刀両断・・・


したかに思えた・・・

しかし、フレアーの手からはフレアーサイズが消えていた。
フレアー「あ?あ???」
自らの手にあったはずのフレアーサイズが消え、自分の掌を見つめ動揺する。
フレアー「どこいった・・・アタシの・・・フレアーサイズ・・・」
そしてフレアーの体から粒子状の赤い光がチラチラと拡散していく。
フレアー「変身・・・解けてる?アタシ・・・ああああそんな・・・」

フレアーの体から光の粒子が出なくなると、そこには生身の体に戻った灯莉がいた。

灯莉「あ、ああ・・・そんな・・・私・・・」
灯莉は今の状況にガタガタと震え始めた。
殺される恐怖?
それだけではなかった。
灯莉が真に恐怖していたのは変身したことによる自分の心の変化。
まるで別人のようになってしまっていた、普段の自分と正反対の性格に恐怖していた。

そして目の前には意識を取り戻したエウロパ。

エウロパ「私には何がおきたかわからないけれど・・・これで終わりね。」

エウロパは両腕を前に出し、光球を作り出した。
灯莉「いや・・・いやぁぁぁぁ・・・」
灯莉は腰を抜かしたようにへたり込み、そのまま後退りをする。

光球が放たれようとするその瞬間、その光球を握りつぶした者がいた。


エウロパ「何を!・・・はっ・・・ミーヤ様・・・」

ミーヤ「もう用事は終わったから帰るわよ。」

エウロパ「し、しかし・・・あと少しで。」

ミーヤ「何?私に逆らうのかしら??」
ミーヤはエウロパの頭を掴み、顔を覗き込んだ。
その表情は影になってよくわからないが、エウロパが戦慄した様子を見れば
ミーヤの表情がどれほど恐ろしいものだったか想像ができる。

ミーヤ「私が帰るといったら帰るのよ。嫌ならこのままあなたの頭握りつぶすわよ。」

エウロパ「は、はい・・・」
表情が通常に戻っていてもその恐怖は継続しており、
ミーヤに掴まれたままガタガタと震えていた。

ミーヤ「じゃ、お邪魔したわね。エアリィちゃんにはよろしく言っておいて。
ふふふ、ご馳走様。」

エウロパはミーヤに連れられて・・・いや掴まれたまま空気を震わせながらその場を離れていった。
そしてウィッチーズスペースが解かれていく。

灯莉「私・・・助かった・・・の?」
灯莉の元に明日美、萌波が駆け寄る。

明日美「大丈夫?」

灯莉「え、ええ・・・なんとか・・・大丈夫です。」

萌波「どうなったの?」

灯莉「それが・・・私にも良くわからなくて・・・何がなんだか・・・」

明日美「絵梨は?絵梨はどうなったの!?」


絵梨の居た場所を見ると、絵梨が倒れていた。
三人は絵梨のところへ駆け寄った。

明日美「絵梨!ミーヤに何かされた!?怪我は!?」
明日美は絵梨を抱きかかえた。
絵梨は真っ赤な顔をして肩を上下させるほど息が荒かった。

絵梨「だ、大丈夫・・・危害は加えられていない・・・危害は・・・」
絵梨の顔は相変わらず真っ赤だ。

明日美「だって、そんなに息荒いし、顔が赤いし。」

絵梨「な、なんでもない、大丈夫、もう大丈夫だから。」

絵梨(い、言えるわけ無いじゃない!あんなこと・・・されたなんて・・・)

スピカ「ところで灯莉ちゃん、変身して大丈夫だった?」

灯莉「は、はい・・・体は問題ないのですが・・・その・・・私が私じゃなくなったみたいで・・・」

スピカ「そう・・・変身してわかったんだけど、どうも灯莉ちゃんの体には陽の魔力と陰の魔力が同居してるみたいなの。」

明日美「陽の魔力と陰の魔力って反発しあうんじゃないの?」

スピカ「そうなのよ。そのはずなんだけど・・・」

アルデバラン「どうも、ダークウィッチだったことが影響しているみたいだな。」

スピカ「そうね、若干陽の魔力のほうが強いから陰の魔力をうまく取り込んでいるみたい。
でも、陰の魔力の影響ね、性格が荒っぽくなっちゃってる。」

萌波「それは危険ではないのかしら?
その将来的に再びダークウィッチになってしまうとか・・・」


サダルスウド「萌波の心配は当然だが、その点は大丈夫だ。
そもそも魔法少女化は陽の魔力が強くないと変身出来ない。」

萌波「なるほど、つまり陰の魔力のほうが強くなると自動的に変身が解けちゃうのね。」

スピカ「そう、しかも人間のときは魔力が大して出力されないからダークウィッチにはなれないということ。」

萌波「もしかして、さっき変身が解けたのも?」

サダルスウド「そう、陰の魔力が少し漏れたからだろう。」

アルデバラン「灯莉の今後の課題は変身時の陰の魔力のコントロールだね。
変身してても元の性格で居られればいいんだけど・・・」

明日美「なるほどねぇ・・・それよりも・・・エウロパだっけ?
あんな強いのほかにも居るのかな・・・イオとミーヤ全員で来られたらやばいよ・・・」

絵梨「そうだね・・・はやくレグルスを助け出して全員万全の状態にしないと・・・」

灯莉「でも、さっきエウロパにレグルスのこと聞いてみたら・・・知らないって・・・」

萌波「向こうの切り札なんだから正直に言うはず無いと思います。」

絵梨「ま、なんにせよとりあえずは四人集まったんだし、これから考えて行きましょう。」

明日美「絵梨・・・なんだか吹っ切れたみたいだね。」

絵梨「うん、精一杯生きていくことにしたんだ!」

明日美「そ、よかった。ふふふ。」

一方ミーヤは・・・
高速で飛びながらエアリィとの出来事を思い出していた。

ミーヤ「うふふ・・・エアリィちゃん・・・可愛かったわ・・・
しかも、面白い秘密わかっちゃった・・・あの子女の子じゃないのね・・・男だったなんて・・・傑作だわ。」

ミーヤ「今度は男のときの姿でお相手願おうかしら・・・
ますます殺すのが楽しみになってきた・・・ふふふ・・・あはは・・・おーっほっほっほっほ!」

ミーヤの瞳は妖しくも光り輝き、いかにも楽しそうに大声をあげて笑い叫び、飛び去っていった。

次回予告
四人目の魔法少女、キューティフレアー誕生、しかしその力は未知数であり万全ではない。
レグルス探しを急ぐ一方、ほとんどの魔法少女たちは普通の女の子。
間近に迫るバレンタインはレグルス探しと並ぶ切実な問題。
初めてあげる側に回る絵梨をからかいつつもチョコの準備をする。
そんな中、ミーヤの過去が明らかに。
次回「Past!大丈夫、お父さんがついているから。」
フレアー「おまえに輝くような決意はあるか?」

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