こんにちは。

なんか空気読めないことしてしまいました・・・すみません。

変わらないこと作者さん、私こそ申し訳なかったです。

ということで、今日こそ投下します。
というか今から投下します。

以下の注意書きを読んでいただき、苦手な方はNGまたはスルーしてください。
よろしくお願いします。

※注意!
・エロくないです。
・♀→♂への変化あります。
・説明大杉。
・台本形式です。
・24レスくらいあります。

以上、スタートです。



一見平穏に思える日常、しかしそれは彼らの生活を少しずつ削り取るように蝕み始めていた。
最初はよくある日常の風景として見過ごされており、その日常の中の異常が積み重なっていく。
それが異常なことであるとはっきり認識できたときにはもう既に手遅れであるということは往々にしてある。
侵食の速度は遅くともじわり、じわりと脅かしていく・・・

 紗英「みゃこ、帰りに洗剤買ってきてって言ったのに・・・どうしたの?」
 美夜子「ありゃ?言われたっけ?ごめん、忘れちゃったみたい。おっかしいなぁ・・・」
 紗英「ふふふ、大丈夫?まあいいわ、また明日買えばいいし。」
 美夜子「うん、ごめんね。」
美夜子はこのような単純な忘れ物がここ数日多くなってきていた。
もともと美夜子はうっかりしていたことがあったため、父も母もいつものうっかりであると気にも留めていなかった。
そして先日の海水浴での意識不明事件であるが、念のために病院で検査したところ特に何の問題もなく、
医者からは疲れとか強烈な日差しに眩んだだけとか特に気にすることではないと言われたのだった。
実際あの時以来、同じように気を失うといったこともなく、体調もすこぶる良好であった。

しかし、夏休みも終盤に差し掛かろうかという頃、それは起きた。
再び意識不明の状態に陥る現象が起こったのだ。
美夜子が夕食後いつものように冷凍庫からアイスを出してきて袋を開けたときである。
突然バターンという大きな音がした。
テレビを見ながらビールを飲んでいた大樹が驚いて後ろを振り向くと、
そこには眼を開いたままアイスを片手に倒れている美夜子の姿があった。

 大樹「まさかっ!?」
大樹は海水浴のときのことが思い出され、座っていたソファーを飛び出すように立ち上がり美夜子に近づく。
そして台所に立って洗い物をしていた紗英は水道を止めるのも忘れ美夜子に声をかけた。

 大樹「みゃこ!!起きろっ!どうしたんだ。何でだ!大丈夫だったはずじゃなかったのか!!みゃこぉっ!」
大樹はユサユサと美夜子を揺すって起こそうとするが起きる気配はない。
美夜子は意識はないものの脈も呼吸も乱れておらず、意識だけがどこかに置き忘れてしまったのではないかと思えた。
手に持ったアイスが溶けかかっている。

そして、美夜子の部屋へ連れて行こうと抱きかかえたときだった。意識が突然戻ったのだ。
 紗英「みゃこ・・・良かった・・・良かった・・・」
大樹は安堵の溜息を漏らし、紗英にいたっては涙を浮かべていた。
その様子を下から見上げて不思議そうな表情を浮かべている美夜子。
やはり今回も本人は何が起きたかわかっていないようだ。
しかし、今回は前回と決定的に違うことが起きたのだ・・・


 美夜子「ふふふっ・・・二人してどうしたのぉ?そんな顔しちゃってさぁ。」
 大樹「みゃ・・・こ?だ、大丈夫なのか?」
 美夜子「大丈夫に決まっているでしょう。おかしなお父さん・・・ふふっ、ふふふっ。」
 紗英「み、みゃこ?どうしたって言うの?」
 美夜子「どうもしないよ?私は私・・・くはっくはははっ・・・」
 大樹「疲れているのか?立てるか?」
大樹が美夜子に手を差し伸べようとしたときである。
冷たく手を払いのける美夜子。

 美夜子「ふふふっ・・・”私”に・・・触らないでくれる?」
 大樹「え?み、みゃこ?」
戸惑う大樹・・・娘の冷たい感情にとてつもない違和感を覚える。
そして紗英は心配そうに美夜子の肩に手を回し、顔を覗きこもうとする。

 美夜子「私に・・・私に触るなといっているだろう?」
 紗英「きゃっ!」
 大樹「紗英!?」
美夜子は紗英を突き飛ばす。
よろけた紗英を支えるように抱きしめる大樹、その顔は困惑の表情を浮かべていた。
大樹はその場から立ち去ろうとする美夜子の手をつかもうとすると、ありえないような力でねじり上げられた。

 大樹「痛っ・・・み、美夜子ぉっ!」
 美夜子「ふんっ・・・本当の親でもないくせに・・・私に構うな・・・偽善者め・・・」
 大樹「な・・・なんだ・・・って?美夜子・・・美夜子?」
ねじりあげている腕を離し、氷のような眼差しで大樹と紗英を見下ろした後、
スタスタと無言のまま自室へ歩いていった。
お互い本当の親子ではないということは十分承知していたが、本当の親子のような関係になってから
そのことで美夜子は憎まれ口を叩くようなことは一度もなかった。
にもかかわらず憎しみをこめて言い放った美夜子、そのようなことを言うとは二人は信じられなかった。


しかし、信じられないといっても放っておくわけにはいかない。
すぐに大樹と紗英は部屋に入って行った美夜子を追いかけてドアをノックする。
 紗英「みゃこ?みゃこ?何か悩みでもあるの?ちょっと出てきてお話しましょう?」
 大樹「お父さんたちはいつでもみゃこの味方だからな。悩みがあるなら力になってやるぞ。」
部屋の中からゴソゴソ音がしてしばらくすると部屋のドアがゆっくりと開いた。
二人は固唾を飲み込んで少々身構える。

ところが・・・
 美夜子「なあに、お父さんお母さん。」
その先ほどとは打って変わって美夜子の穏やかな表情を見て二人は拍子抜けしてしまった。
二人はつい今しがた起こったことを説明するも美夜子はピンとこない表情をしているのだった。

 美夜子「ええっ?なんで?あたしがそんなことするわけないじゃない。
 お父さんもお母さんもおかしなこと言うなぁ。あはは、ありえないって。」
 大樹「え?いやだってみゃこ・・・さっきお父さんの腕をねじりあげたんだぞ?」
 美夜子「えー?あたしそんな力持ちじゃないよう。うーん・・・じゃ、ちょっとお父さんの手貸してみて。
 ふんっ!よいしょーーーっこんにゃろー!!うりゃぁぁぁ!まいったかー!!はぁはぁ・・・ね?」
美夜子は大樹の腕を持ち上げようと顔を真っ赤にしながら捻ろうとするが、
腕が普通に曲がるだけで捻るなど到底できそうになかった。
それは演技やわざとできないようにしているのではなく、本気でそこまでの力はないように見えた。

 紗英「ほんとになんともないのね?」
 美夜子「うん、大丈夫だよ。」
 紗英「つらくなったり、悩んでいることがあったらすぐに私たち・・・
 ううん、お父さんに言いづらいことだったらまず私にだけでも言ってね。」
 美夜子「うん、ありがとう。」
美夜子には何が起きているのかよくわからなかったが、両親の優しい声かけに素直に返事をしたのだった。

二人はリビングに戻り、美夜子の異常行動について話し合った。
 大樹「美夜子のこと、どう思う?明らかにおかしかったよな?」
 紗英「ええ、あの時の美夜子の目・・・ここに来たときの目に近かった・・・
 あの子何かつらいことでもあるのかしら。」
 大樹「普段はいつものみゃこなんだが・・・俺たちの知らないところで何か深い悩みを抱えているのかもしれないな。」
 紗英「なるべく一人にしないで誰かが付いていられたらいいんだけど・・・」
 大樹「そうだな・・・俺もなるべく一緒にいるようにするよ。
 みゃこの友達にもそれとなく話してみる。」


第二十二話「Visible!あなたたちの世界って・・・」

彼らの心配をよそにして何事もなく二学期が始まった。
そう、本当に何事もないのだ。魔法少女たちの世界は平和そのものだった。
しかし、あの時以来イオやミーヤからのアプローチが全くなかったのが魔法少女たちを余計に不安にさせていた。
それから大樹は明日美に美夜子の様子の変化を話し、美夜子との接点をなるべく多く持ってもらうようにした。

そして学校は通常授業が始まり、美夜子が通う塾も通常スケジュールに戻ったため、
大樹・・・絵梨も塾の授業に参加できるようになった。
美夜子にああいうことが起きてからというもの、大樹は美夜子の様子を見るためなるべく塾に出席するようにした。

 絵梨「久しぶりの塾だからついていけるか心配だったけどなんとか大丈夫だったぁ。」
 明日美「あたしの特訓のおかげね。」
 美夜子「絵梨ちゃんっていつも塾ではひぃひぃ言っているけど、テストの結果とか意外と良いもんねぇ。
 うらやましいなぁ。」
 絵梨「(そりゃ昔にやったことだからある程度はね・・・)明日美にしごかれているからかなぁ。」
 明日美「最初の頃はひどかったけど、結構今じゃ余裕よね。」
 絵梨「そんなことないよぉ、毎回ギリギリです・・・」
 美夜子「ふふっ絵梨ちゃん面白いよ。さて・・・っとそろそろ帰りますか。」
 絵梨「うん、そうだね。」
 美夜子「あ、帰りにちょっとだけお茶していかない?すごくのど渇いちゃった。」
 明日美「うん、いいよ。絵梨もいくでしょ?」
 絵梨「うーん・・・じゃぁ、いこっかな。」
 美夜子「んじゃぁ決まりねー。」

塾を出てから美夜子と明日美は賑やかにおしゃべりをしながら歩いていた。
おしゃべりをしていると、彼女たちの背後から声をかける人物がいた。
 明人「あれ?絵梨ちゃんたち、こんばんは。塾の帰り?」
 絵梨「ひゃっ・・・あ、明人・・・さん・・・こ、こんばんは。」
 明日美「こんばんは明人さん。そうよ、塾の帰り。明人さんは?」
 明人「僕は部活の帰りだよ。今日はもうクタクタだよ。」
 美夜子「そうだ、これから皆でちょっとお茶してから帰ろうと思うんだけど、一緒にどう?」
 明人「え?いいの?僕なんかが混ざっちゃって。」
 明日美「いいに決まってるじゃないですか。ね、絵梨もいいわよね?もちろん。」
 絵梨「え・・・う、うん・・・」
 美夜子「ほら、絵梨ちゃんそんな後ろに隠れてないで。」
明日美の後ろに隠れていた絵梨を明人の前まで引っ張ってくる美夜子。
少しよろけながら明人の前に出されてしまった。


 絵梨「い、行こっか・・・」
 明人「う、うん。」
あたりはすっかり暗くなっていたが、絵梨の顔が真っ赤になっているのは容易に想像できた。

 明日美「ほら、何いまさらモジモジしてるのよ。早く行こう。」
 美夜子「うひひひ。行こう行こう。あれ?絵梨ちゃん、手を繋がないのぉ?うふふふ。」
 絵梨「な、何を言ってるの!!手は繋がないよ・・・ほら、明人さんも・・・困ってるでしょ・・・」
 美夜子「えー困ってる感じはしないけどなぁ・・・」
 絵梨「美夜子ちゃんからかわないで〜」
 美夜子「あははは、ごめんごめん。」
絵梨と明人をからかいながら、そしておしゃべりをしているとあっという間に時間は過ぎ、
彼女たちのお目当てのカフェはいつの間にか目の前だ。
そのまま流れるように入店し、席についても二人のおしゃべりは止まらず、
飲み物を飲みながらも様々な話題が途切れることなく続いている。
絵梨と明人は止め処なく続く二人のおしゃべりに半ば感心しつつ眺めていた。

 美夜子「・・・ちゃん、絵梨ちゃん、聞いてる?」
 絵梨「あ、ああ、ごめん。なんだっけ?」
 明日美「ええー?聞いてなったの?あなたのこと話してたのに。」
 絵梨「え?私のこと?何?」
 美夜子「絵梨ちゃんって英語得意だよね?英語も結構ぺらぺらだし。海外に住んでたことあるとか?」
 明人「へぇ、絵梨ちゃん英語得意なんだ。なんか意外だなぁ。」
 絵梨「意外って・・・明人さん何気にそれひどいよ。」
 明人「え?そうかな?ごめんごめん。あはははは。」
 明日美「あはは、でも、本当に英語のときはいつもの絵梨とは違うよねぇ。
 これはあたしも敵わないわ。」
 絵梨「え・・・ああ、あのうーんっと・・・あはは〜。えーっと、そうだ、お、お父さんに英会話教室通わされたの。
 (海外のお客さんを相手にすることあるから昔、駅前英会話でがんばったなんて言えないよねぇ。)」
 美夜子「うちのお父さんも英語ぺらぺらなんだけど、いっつも同じところで言い間違えするんだよね。
 絵梨ちゃんも同じところで間違えるからびっくりしちゃった。おかしいよね簡単なところなのに。」
何気に美夜子の観察眼は鋭いのである。
絵梨と大樹の比較をして似通っている部分があると感じたのだった。
その似通った部分と言うのがよほど印象深いところなのだろうか。


 明日美「え・・・あっ!そうだっ!この前・・・えっと、この前の海の写真印刷したの。み、見る?」
 絵梨「わー、みたいみたいーーどんな写真かなーーあははは・・・」
 明人「本当?見る見る。」
 明日美と絵梨は美夜子の鋭い指摘にびくびくどきどきしながら無理やり話題を変える。
そして、明日美はたまたま持ち歩いていた海の写真をカバンから取り出してテーブルの上に広げた。
その無理やりな話題転換に美夜子は少々疑問に感じながらもテーブルに広げられた写真を眺めた。

 美夜子「あははっ、これ絵梨ちゃんが水着着て出てきたときの写真だね。すっごい恥ずかしがってるね。」
 絵梨「客観的に自分の水着姿見るとやっぱり恥ずかしいなぁ・・・
 あ、これビーチバレーしたときのやつ。明日美が顔面でボール受けて悶えてたときのやつだ。」
 明日美「まったくなんでこんなの撮ったのよって感じよね。これ萌波が撮ったのよ。ひどいと思わない?」

 絵梨「あっ!」
 美夜子「どうしたの?」
 絵梨「ううん、ちょっとピンボケの写真だったからさ。」
 明日美「ピンボケの写真なんて印刷してないんだけど・・・ああ、そういうこと。」
そして絵梨はある一枚の写真を見つけ、慌てて奪い取って隠した。
あからさまな慌てように二人は訝しむ。
美夜子と明日美は目で合図し、絵梨からその写真を逆に奪い取った。
その写真を見た美夜子と明日美はニヤニヤと笑いながら顔を見合わせたのだった。

 絵梨「や、やめてぇぇ。見ないでぇ。ああっ恥ずかしすぎる・・・もうっいつ撮ったの?」
その写真とは、明人が絵梨の手を取っているところを背後から撮影したものだった。
明人は真剣な眼差し、絵梨は困惑した表情。それがとても対照的で微笑ましい構図である。

 明日美「でも、とてもいい写真よ。」
 美夜子「うんうん、すごい青春してるなーって感じが表れているよ。」
確かに二人の前面には海、空には大きな入道雲、写真の中央には少し逆光気味の初々しい男女。
本人でなければすばらしい構図であったろう。
でも、絵梨にとってはそれは恥ずかしいものという認識でしかなかった。

明人もその写真を絵梨の横から覗き込んで気恥ずかしそうにしている。
そして、思わず同時に明人と絵梨お互いの方を見る。
すると偶然にも二人は向き合って見詰め合う形になってしまった。
見詰め合っている時間はほんの二、三秒であったが、恥ずかしさからすぐに二人は写真の方を向きなおした。
その姿を美夜子と明日美はニヤニヤしながら見て、時折二人でこそこそ話をしていた。
絵梨は何とか話題を逸らすためにテーブルの上に散らばっている写真をガサガサといじっている。


 絵梨「つ、次の写真見よ!ねっ!えーっと・・・あれ?・・・この写真・・・
 なんだろこれ・・・美夜子ちゃんのずーっと上にあるやつ・・・」
 明日美「え?あ・・・ほんとだ・・・美夜子ちゃんのちょうど上に何かキラキラしたものがある・・・
 印刷したときには気が付かなかったわ。」
 美夜子「どれ?・・・あ・・・ほんとだ。なんだろこれ?太陽の光が反射したのかな?」
 明日美「あっ・・・これも同じの写ってる・・・やっぱり美夜子ちゃんの上・・・
 さっきの写真とは方角が逆だから太陽ってことはないと思うんだけど・・・なんなのかしら。」
 明人「どれ?ほんとだ・・・なんだろうねこれ。」
 美夜子「ふっふっふっ・・・心霊写真だったりしてぇ。」
美夜子は両手を前に出し、手首をだらりと下げて幽霊の真似をしてぺろりと舌を出す。
その姿を見て三人は思わず噴出した。

 絵梨「ぷふっ。美夜子ちゃん面白い顔だよ。」
 明日美「うんうん、最高。」
 明人「ふふっリアルリアル。」
 美夜子「えへへ、そんな面白い顔だった?お〜ば〜けぇ〜。」
美夜子は再び同じように幽霊の真似をする。

 絵梨「あー面白い。あはは、こうやってお話しするの楽しいね。」
 明日美「うんうん、楽しいっ。」
 美夜子「・・・・・・」
絵梨と明日美はうれしそうに笑っていた。
しかし、美夜子は・・・無言・・・

 明日美「美夜子ちゃんもそう思うでしょ?・・・?美夜子・・・ちゃん?」
 絵梨「・・・まずい・・・明日美・・・いつものやつかも・・・」
 明日美「えっ?」
 絵梨「美夜子ちゃん!みゃこ!みゃこぉ!」
絵梨は美夜子の肩を持ち揺さぶり、周囲の目も気にせず叫ぶ。
美夜子は絵梨に揺さぶられガクガクと頭が揺れている。
明人は絵梨のただならぬ様子に心配そうな表情を浮かべる。


 明日美「絵梨、そ、そんなに揺らしたら・・・」
 美夜子「ふふっ・・・ふふっ・・・明日美ちゃん・・・大丈夫よ・・・
 ”私”はさっきからちゃんと意識あるから。」
 絵梨「よ、よかった・・・」
 美夜子「ええっと、なんだっけ。楽しいか・・・だっけ?」
 明日美「えっ・・・」
美夜子は下を向いたままボソボソとしたしゃべり方で話した。
明らかに今までとは様子がおかしい。
三人はその異常さに強い違和感を覚える。

 美夜子「ああ、楽しいねぇ・・・これから起こることを考えるとさ。
 うふふ・・・ふはは・・・」
 絵梨「みゃ・・・こ・・・?」
美夜子は肩を揺らしながら不気味な笑いを続ける。
そして絵梨と明日美はその違和感が増大していくのを感じた。
カフェの厨房でガラスの割れる音がする。

 美夜子「あなたたちをずっと見てるとさ、楽しくって可笑しくって・・・
 幸せそうで、おめでたくて・・・」

 美夜子「ふふっ・・・反吐が出るわ。」
今度はいくつかの座席に置いてあるグラスが次々と弾けるように割れる。
店内は悲鳴が響き渡る。

 明人「な、なんだ?!」
明人は何が起きたのかわからず音のしたほうをキョロキョロと見回していた。
対して二人はその違和感をはっきりと感じることができた。
しかし、絵梨は・・・それを信じることが・・・認めることができなかった。
認めてしまったら・・・自分の気持ちが折れてしまうだろうから・・・

その違和感とは・・・

魔力であった。

彼女たちは少しずつであるが美夜子から発せられる魔力を感じ取っていた。


 絵梨「みゃこ?な、何を言ってるんだ?ほら、いつもの笑顔は・・・
 どうした?ほら、この・・・この写真・・・可笑しいよね・・・はははっ。」
 明日美「え、絵梨!この美夜子ちゃんは・・・美夜子ちゃんはもうっ・・・」
 絵梨「違う!!!そんなんじゃない!そんな・・・そうであるはずないんだ!!」
 明人「絵梨・・・ちゃん?美夜子ちゃんはいったい・・・」
 絵梨「明人さん、みゃこ・・・美夜子ちゃんは、ちょっと疲れちゃっただけなの、何でも・・・ないの。」
相変わらず美夜子は下を向きくすくすと笑っていた。
下を向いているため顔には影がかかっており、はっきりと表情を窺い知ることはできない。
しかし、その笑っている口だけは血が滴るような赤で大きく裂けるようにその影に切れ目を入れていた。

この異常な魔力上昇はいつしか美夜子を中心として竜巻のように風が集まってきていた。
魔力の揺らぎによって店内・・・いや外の街灯、周囲のビルの明かりまでもが揺らめいていた。
この騒ぎに店内にいた人々は既に逃げ出してしまっており、
その場には絵梨、明日美、明人そして美夜子の四人だけが残されている。
そしてその魔力の異常上昇を感じて絵梨たちの前にスピカとアルデバランが現れる。

 明人「うわ!?ね、ねこ?急に??」
 スピカ「絵梨っ!この魔力・・・今までの比じゃないわっ!」
 アルデバラン「まずい、まずいぞ・・・明日美!!」
 絵梨「ははは・・・ス、スピカ・・・こんな・・・こんなところに出てきちゃ・・・だめじゃない・・・
 明人さんもいるのに・・・」
 スピカ「絵梨っ!美夜子ちゃんは!」
 絵梨「違うよ・・・違うよ・・・そんなんじゃない・・・みゃこは・・・ちょっと疲れているだけなんだ・・・」
 明人「何が起きているかわからないけど、この店にいると危ない!外に出なきゃ!!」
明人は絵梨の手をとり、外へ出ようと促す。
しかし、絵梨はその場から離れようとせず、明人の顔には目もくれず美夜子の方を向き続けた。

 絵梨「ねぇ、みゃこ?ちょっと長居しちゃったよね。そ、そろそろ帰ろうか。」
絵梨は下を向き続ける美夜子に手を差し伸べる。
すると、美夜子はゆっくりと顔を上げた。
そこには、今までと変わらない穏やかでにこやかな美夜子の顔があった。
しかし、絵梨にはその顔は今までとはまったく違うことがわかってしまった。


 美夜子「そうね・・・そろそろ帰る時間よね・・・本来の”私”に還る時間が来たわ。」
 絵梨「みゃこ・・・君は・・・」
 美夜子「さっき、写真に写っていた光は何かって言ってたわよね・・・
 ふふふ・・・私が教えてあげる。魔法少女さんたち・・・」
その”魔法少女”という言葉に絵梨の全身にぞわぞわと悪寒が走る。
鳥肌が立ち、瞳孔が開き、過呼吸気味に苦しくなる。
どうしても
信じられない、信じたくない・・・

 絵梨「いや・・・いやだ!そんな!そんなわけないんだ!!
 あんまり遅くなると、お母さんも心配するから帰ろう?」
もはや自分が今絵梨であるとか大樹であるとか意識している場合ではなかった。
ただ、その事実を受け入れたくないという気持ちその意識で発言していた。
そして絵梨は美夜子の顔が何なのかもうわかっていた。
今まで魔力によってカモフラージュされていたものが認識できるようになってしまった。
その顔は確かに美夜子であるが、美夜子ではない・・・ミーヤであると。

美夜子を中心としてゴウッっと空間を震わせて勢い良くウィッチーズスペースが展開される。
そこには絵梨、明日美、ミーヤ、スピカとアルデバラン、そしてなんと明人が入り込んでしまっていた。
本来であれば通常の人間ははじき出されてしまう空間であるが、
絵梨との接触、無獣であった過去から半ば巻き込まれる形でウィッチーズスペースに取り込まれてしまった。

 明人「うわぁぁぁぁ!な、なんだここは?何が起きてるんだ?」
 美夜子「あら、あなたはここに来るのは初めてじゃないはずよ。ふふふ。」
 明人「み、美夜子ちゃん?何を言っているんだい?こんなおかしい場所・・・」
そう、明人はこの場所は初めてではない・・・
と言っても正確には明人から発生した”モノ”がこの空間で暴れたと言うことなのだが・・・

絵梨を見ながらにやりと笑い、美夜子が・・・ミーヤがゆっくりと手を上に伸ばす。
 スピカ「この巨大な魔力は・・・ミーヤからじゃない?どこ?どこなの?」
 アルデバラン「スピカ!上だっ!なにか巨大な魔力が近づいてきている。」
スピカとアルデバランは巨大な魔力を感じ取った天井側を見上げた。

すると天井がミシミシと揺れ、小さな衝撃音が断続的に店内に響いてくる。
衝撃音はドスンドスンと何かを突き破るような音が聞こえてきて徐々に大きな音になっていった。
そして、一際大きくガシャァァァァンと音がすると、何か光るものが天井を突き破ってきた。
それはミーヤの伸ばした左の手のひらの少し上をふわふわと浮いている。
大きさはテニスボールくらいの大きさか。


 明日美「それは・・・」
 ミーヤ「ふふふっやっと精製できたの・・・あなたたちの欠片を集めた私のハーティジュエル。
 これがあれば私は次のステージへ進める・・・」
 明日美「あれが・・・ハーティジュエル?そんな大きすぎる・・・」
 アルデバラン「明日美、変身するんだ!!」
 明日美「でも・・・」
明日美は明人をちらりと見る。

 アルデバラン「もはやそんなことを言っている場合じゃない。」
 明日美「わかったわ・・・(正体ばれると戻れなくなるんじゃ・・・そうか・・・嘘・・・なのね・・・)」
明日美を黄色い光が包み、アーシィとなる。
 明人「明日美ちゃん・・・君はいったい・・・」
 アーシィ「明人さん・・・ごめんなさい。今は何も聞かないで。
 お願い、絵梨のそばにいてあげて・・・」
 明人「わ、わかった。」
へたり込んで茫然自失となっている絵梨の肩を明人は抱きしめた。

 絵梨「嘘だ・・・みゃこが・・・そんな・・・そんなはずがない・・・」
絵梨は事実を信じることができず、ただつぶやくことしかできなかった。
 明人「大丈夫、大丈夫だ、何が起きているかわからないけど、僕がついているから!」
 絵梨「・・・明人・・・さん?どうしよう・・・私・・・」

 ミーヤ「ふふふ、絵梨ちゃん、信じられないといった表情ね。
 でもね、本当の私はこっちなの、ホント美夜子の状態であなたたちの相手するの疲れるのよ。」
 絵梨「みゃこは・・・嘘だというの・・・じゃあ・・・今まで・・・」
 ミーヤ「そうだ、もうひとつついでにいいこと話してあげましょうか。」
 絵梨「えっ・・・?」
 ミーヤ「ふふふ、一応お礼は言っておかなきゃねぇと思っていたのよ。」

 絵梨「お・・・礼?」

 ミーヤ「今まで育ててくれてありがとう。”お父さん”。
 ・・・といっても私はこの八年間一度たりともあんたをお父さんと思ったことなんてないけどねぇ。
 きゃははははははははははははははははっ!」

 絵梨「思ったことない?何を・・・おと・・・お父さん・・・って・・・そんな・・・そんな・・・私・・・絵梨だ・・・よ?
 うっ・・・うええええええぇぇぇぇぇ・・・うぷっ・・・うげぇぇぇぇぇ。」
絵梨の意識、大樹の意識、二つの意識と一つの肉体が事実を受け入れられず拒否、
それに耐えられなくなって彼女は嘔吐する。
 明人「え、絵梨ちゃん!!大丈夫だ、落ち着いて、落ち着いて・・・僕がついているから。」
取り乱す絵梨を力強く抱きしめる明人。


 ミーヤ「はぁーー。もう・・・いいよ。下手な三文芝居みせないでよ。」
 スピカ「絵梨!絵梨!!もう・・・あきらめて・・・しっかりして!意識を集中して!!
 あなたもエアリィに変身して!!!」
スピカが絵梨に魔法少女に変身するよう促す。

 絵梨「だって・・・そんな変身してどうしようって言うの?
 この子はみゃこなんだよ?戦えるわけ・・・ないじゃない・・・ははは・・・私、今まで何やってたんだろ・・・」
 アーシィ「絵梨!!!もう、ここには美夜子ちゃんはいないのっ!目の前にいるのは・・・ミーヤなのっ!!」
 お願い!!お願いよ・・・変身して・・・このままじゃあなたは・・・」
アーシィは絵梨の前に立ち、ミーヤと対峙する。
改めて絵梨の状態を見ると、絵梨に変身を促したものの、今変身するのは無理と判断。
アーシィは覚悟を決める。

 アーシィ「そう・・・わかった・・・絵梨・・・安心して、あなたは何もしなくていい・・・
 ミーヤはあたしが食い止めるわ。あなたたちはあたしが守る。ミーヤに指一本触れさせやしないんだから。」
背後にいる絵梨と明人をやや振り向きながらニッコリと笑いながら言った。

 ミーヤ「なんか勘違いしてるみたいだけど・・・まあいいわちょっとだけ遊びましょ・・・それっ!」
ミーヤの背後が光り、銀色の輪が形成される。
その銀色の輪からバチバチと静電気を帯びながら光球が浮かび上がってくる。
ブーンブーンと帯電音を響かせながらゴルフボールほどの大きさの光球が10個。
それが一斉にアーシィに向かって放たれる。

 明人「うわぁぁぁぁぁ!?」
 アーシィ「!?ハイディメンションモードっ!」
アーシィは白銀の光に包まれ、一瞬でHDモードへと変化した。
ミーヤから放たれた光球はアーシィに当たる直前、体の前に展開された防御魔方陣によって弾かれる。

 ミーヤ「あーあ、その姿厄介なのよね・・ま、四人いっぺんに相手をするならいざ知らず・・・
 貴方だけなら余裕ね。」
 アーシィ「あたしを舐めないほうがいいわよ。」
アーシィの全身を球状魔方陣が包み込む。
キュィィィィッ
魔方陣が回転を始めるとアーシィの立っている床がボコンとへこむ。
どうやらアーシィは重力場を変化させているようだった。
その超重力を生み出した魔方陣のエネルギーをアーシィハンマーに注ぎ込む。


 アーシィ「ミーヤ、これ、すごーく重いから気をつけなさい・・・」
その言葉と裏腹にハンマーを軽々と片手でくるくる回す。
それから大きく振りかぶり、ミーヤに向けて小さな魔方陣を突き破りながら振りぬいた。
しかし、ミーヤとアーシィは少し離れているため、ハンマーの攻撃範囲に届いていない。
空振り、ミーヤはそう思った。

 ミーヤ「ふん、どこ狙ってるの?これじゃ空振りする・・・!?」
確かにハンマーの頭部はどこにも当たらず空振りをした。
しかし、振りぬいた後の衝撃波が尋常ではなかった。
ビリビリとミーヤの体を震わせ、何も当たっていないはずなのに体に鈍くて重い衝撃を感じた。
 ミーヤ「うぐうっ、な、なによこれ・・・こんなのまともに当たったらミンチになって弾け飛ぶじゃない。」
 アーシィ「だから言ったでしょ、あなたはあたしたちに・・・いいえ絵梨たちに近づけさせない。
 わかったらとっととあたしたちの前から消えなさい・・・」
 ミーヤ「ふんっ・・・本当はちょっといじってからすぐ消えるつもりだったんだけどねぇ。
 ここまで舐められちゃ相手しないわけにはいかないわ。」
 アーシィ「っ!」
ザシュッ
アーシィは足を少し開いて腰を落とし、これからくるミーヤの攻撃に備えた。
そしてくるくるとハンマーを回して長い柄を脇に抱える。

 ミーヤ「ふふふ、全部防げるかしら?がんばってね。」
ミーヤはアーシィの目の前から霞のように消えた。
その直後、アーシィの右側にミーヤが現れた。

アーシィを殴りつける。
ズドン
しかし、アーシィは先ほどと目線を前に向けたまま変えず、ハンマーだけ動かして柄の部分でミーヤの拳をはじいた。
次に左、上、前とほぼ同時に攻撃をするが、全てハンマーを振るって払い落としていた。
ミーヤは再びアーシィの目の前に立つ。
 ミーヤ「全部防ぐなんてその姿は伊達じゃないわね。」
 アーシィ「魔力の流れを感じ取ればあなたがどこを攻撃しようとしているかわかるわ。
 さあ、ミンチになりたくなければ消えることね。」
ミーヤ「冗談でしょう?まだまだこれからよ。」
ミーヤは右手を上から下へ振り下ろす。
すると空間が断裂。無数の空間の刃がアーシィを・・・そして絵梨たちを凄まじいスピードで襲う。


 アーシィ「しまった・・・!」
アーシィは絵梨たちを覆い隠すように球状魔方陣を展開、襲い来る全ての空間の刃を弾き返した。
しかし・・・
 アーシィ「ぐっ・・・」
ポタッポタタッ
アーシィは二人を守ることに集中してしまい、自分への防御まですることができなかった。
刃はアーシィの体を裂き、血を滴らせる。

再びミーヤはアーシィの目の前から消える。
ミーヤは縦横無尽にアーシィの体へ攻撃を加えていった。
ミーヤの攻撃はパンチやキックだけでなくエネルギー弾をアーシィへ繰り出す。
そして、それだけでなく魔法によって操られたテーブル、椅子、ナイフなど店内にあるあらゆるものが、
思いもよらない方角からアーシィめがけて飛んでくるのだ。
それら自体は当たってもダメージはないのだが、それによって意識がそがれると、
たちまちミーヤの攻撃がアーシィに当たってしまう。
そのため、アーシィは全方位からの攻撃に意識を集中して全てを弾き返さなくてはならない。
絵梨たちを同時に守りつつ、である。

 アーシィ「いい加減に・・・しなさっ・・・い・・・よ・・・ぐっ・・・」
ヴゥゥゥン
ハンマーの柄に環状魔方陣が形成される。
 アーシィ「アーシィ!グラヴィティバレット!!!」
ハンマーをくるりと回転させ、周囲の空間をハンマーで叩く。
すると叩いた空間の後方に魔方陣がいくつか現れるた。
チュイィィィン
魔方陣一つ一つから弾丸が飛び出す。
その弾丸にはかなり強い重力場が作用しているのだろう、弾丸の通り抜けた跡は空間がグニャリと歪んでいた。
ズドドドドン
アーシィから放たれた重力の弾丸はホーミングミサイルのようにミーヤを追跡していき、全弾命中した。

 ミーヤ「がはっ!!ふふっやるじゃない・・・」
 アーシィ「はぁはぁ・・・あたしもやられてばっかりじゃないのよ。
 次、いくわよ、覚悟してなさいね。」
 ミーヤ「いいわ、とことんまでやってやろうじゃないの。私とあなたは腐れ縁だしねぇ。」
アーシィはぐぐっと足に力をこめると足元に巨大な魔方陣が描かれる。
そして手に力を込めるとハンマーの頭部が光り輝き始めた。
対してミーヤは自身の周囲に円状に複数の光球を作り出す。
その光球が前方に向かってエネルギーを集中させ、巨大なエネルギー球を作り出した。
二人の魔力は強大でお互いが反発しながらバチバチと放電しあっていた。


 アーシィミーヤ「「いくわよっ!!」」

二人が攻撃を繰り出そうとしたその瞬間のことであった。

 明人「絵梨ちゃん!!!危ない!!」
二人の間に発生した凄まじい魔力の渦の間に絵梨が飛び出し、両手を広げ立ち塞がった。

 アーシィ「絵梨!!??」
 ミーヤ「!?」

 絵梨「やめて!!これ以上・・・争わないで・・・意味のない戦いはやめて・・・」
 アーシィ「絵梨、危険よ!そこをどいて!!」
 ミーヤ「これは好都合だ。ふははははっ!
 アーシィ、あなたは絵梨がいて攻撃できない、でも私は二人まとめて攻撃できる。」
ミーヤはエネルギー球に魔力をさらに注ぎ込んでいく。

 絵梨「みゃこ・・・もう落ち着きなさい。今までのあなたが全部嘘だったなんて私は信じない。
 だって、あなたのあの笑顔は、目は嘘で作り出すことなんてできないから。」
 ミーヤ「なっ!?」
 絵梨「確かに私たちは完璧な親じゃないかもしれない、失敗もたくさんした、
 あなたに間違った選択をさせたこともあったかもしれない・・・でも・・・」
絵梨はミーヤに近づき優しくぎゅっと抱きしめた。

 ミーヤ「・・・」
 絵梨「でもね、あなたを思う気持ちは誰にも負けないよ?
 お父さんも、お母さんも・・・あなたを誰よりも愛している。」
ミーヤが作り出していたエネルギー球は少し小さくなっていた。
絵梨は腕に力を込めて力強く抱きしめる。
 絵梨「私たちはミーヤであるあなたも・・・あなたの抱える心の闇も全て受け入れるよ。
 だから、こんなこと・・・やめて。」

 ミーヤ「お・・・お父さん・・・やめっ・・・やめろっ!!!私に・・・さわるなぁぁぁぁぁ!!!!」
 絵梨「きゃっ!!」
 明人「絵梨ちゃん!!」
 アーシィ「絵梨!!」
一瞬だけミーヤは瞳に優しい光を宿したが、すぐに邪悪に染まる。
そしてミーヤは絵梨を突き飛ばした。
アーシィは絵梨に怪我がないことを確認して安堵する。


 ミーヤ「ふふふっ・・・ふはははははっふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁ!!
 私を受け入れるだと!?だからお前たちは偽善者なんだ!!もう死ね・・・お前ら死んでしまえ!!」

 アクエリィ「そうはさせないわ!!」
 フレアー「絵梨さん、もう大丈夫ですよ、今のうちに変身を。」
 絵梨「違うの・・・違う・・・私は・・・ミーヤとは戦えない・・・」
ミーヤが次の攻撃態勢をとろうとしたとき、絵梨を守るようにアクエリィ、フレアーが現れた。
しかし、絵梨の言葉に二人は耳を疑う。

 アクエリィ「どういうことかしら?相手はあのミーヤなのよ?今こそ倒すべきでしょう。」
 アーシィ「あのミーヤは・・・美夜子ちゃんなのよ・・・だから絵梨は・・・」
 フレアー「ど、どういうことですか!?美夜子ちゃんが?それに・・・なんでここに明人さんが?」
 アーシィ「とにかく、詳しいことは後、今は絵梨と明人さんを守ることを最優先にして。」
 フレアー「わかりました。」
魔法少女たちはそれぞれの武器を構え、絵梨と明人を守るようにミーヤと対峙する。
しかし、さすがのミーヤもハイディメンションモードの魔法少女三人と戦うのは分が悪いと感じたのだろう。
ミーヤは全ての魔力の出力を弱めた。

 ミーヤ「ふんっ。もう興がそがれた。遊びはおしまいよ。私はもう帰るわ。」

 ミーヤ「あ、そうそう。お父さん、私は夕飯はもういらないってお母さんに言っておいてね。」

ミーヤは手の上に浮いていたハーティジュエルを握り締め、自分の胸に押し当てた。
大きなハーティジュエルはズブズブと胸の中に押し込まれていく。
 ミーヤ「うっ・・・ぐふっ・・・あああああ・・・・おおおおおおっ・・・イオッ!イオぉぉぉぉぉっ!!!」
 絵梨「美夜子ぉぉぉぉ!!!!」

ミーヤは苦しみながらハーティジュエルを押し込めて全て埋没させるとイオを呼んだ。
すると、待ってましたとばかりにミーヤの前にイオが現れた。
 イオ「やあ、ハーティジュエル、体に取り込めたようだね。
 良かった。苦しかったろう・・・あとは少しの間だけ眠るといい。」
イオはミーヤに話しかけてはいるが、もはやミーヤには意識は無いようであった。
ハーティジュエルが埋め込まれた胸の辺りから光の糸のようなものがしゅるしゅると吐き出され、
ミーヤの体にぐるぐると纏わり付く。
光の糸は加速度的に増えていき、もうミーヤの姿は見えなくなってしまった。
そして最後には繭のようになってしまった。


 イオ「ふふふ、きれいな繭ができた。これで君が羽化すれば君の力を使って境界を取り払えるだろう。」
イオの言葉を聞き、スピカがはっとする。

 スピカ「境界って・・・まさかイオ!そういうことなの?そんなことをしたら・・・この世界どころか私たちの世界も・・・」
 イオ「僕はね・・・こんな共依存な世界関係は意味がないと思うんだ。
 魔法少女たちなんてこっちに漏れ出した残り滓を掃除するだけの存在じゃないか・・・」
 スピカ「でも必要な措置よ・・・」

 イオ「考えてみたことないかい?そんな面倒くさいことしなければならないなんて。
 だったら最初からそんな存在作らなければいいんだ・・・だから二つの世界を繋げる。」
 スピカ「そんな・・・極論じゃない・・・そんなことすればあなただってただではすまないわよ。」
 イオ「そんなの・・・最初から覚悟はできている。うまくいけば一つの世界になるんじゃないかな?」

 スピカ「そんなの理論的にありえない・・・不可能よ・・・あなたは狂ってる・・・」
 イオ「狂ってる?ふふっ僕が狂ってるだって?最初にこんなやり方を考え出した君のほうが狂ってるんじゃない?
 ねぇ、スピカ・・・僕が狂っているとするならば、そんな君に妄信してしまったことくらいか・・・」
 スピカ「・・・リゲル・・・あなた・・・」
 イオ「なんにせよ、運命の規定事項はここで終わり、ついでにこの世界も終わらそうじゃないか。
 とりあえずミーヤは連れて帰って羽化するまでの間少しだけ眠らせるよ・・・じゃぁね。」
 スピカ「リゲル!!!」
 絵梨「リゲル・・・美夜子を・・・美夜子を連れて行かないでくれ・・・」
絵梨とスピカの叫びもむなしくイオは繭となったミーヤを連れて目の前から消えてしまった。
呆然としたまま絵梨は床にへたり込んでしまった。
よく見るとポタリポタリと大粒の涙をこぼしているようだ。
スピカはそれを見て絵梨に声をかける。

 スピカ「絵梨・・・その・・・美夜子ちゃんは・・・ミーヤの意識が強くなったからあんなこと言ったんだと思う。
 だから、本気にしないで・・・きっと美夜子ちゃんは・・・」
 絵梨「うるさい!!!なんで・・・なんでみゃこなんだ?なんでみゃこがミーヤに・・・そもそも・・・
 魔法少女って何のために存在してるの?あなたたちのせいで・・・みゃこが・・・何のために・・・」

 明日美「絵梨・・・そうね・・・イオが言っていた・・・あたしたちの世界とあなたたちの世界って・・・
 共依存の関係と言っていたけど・・・残り滓の掃除?あたしたちはあなたたちに利用されているの?」
 萌波「明日美さん・・・どういうことかしら?」

 明人「そうだ、これはどういうことなんだ・・・美夜子ちゃんはどうしてしまったんだ・・・
 さっきからわからないことだらけだ。」

 明日美「明人さん・・・ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって・・・」

 スピカ「そうね・・・もう、あなたたちには全部説明するしかないわね・・・
 いいわ、でもここでは騒ぎが大きくなりすぎたわ。場所を変えましょう。」


通常空間に戻り、誰もいなくなった店内はあちこちが壊れひどい有様である。
外では逃げ出した客か店員が呼んだのであろうかパトカーや消防車、救急車のサイレンがけたたましく聞こえてきた。
彼女たちはもうこの場所にはいられないと感じ、全員裏口から抜け出した。

そして人気のない路地裏まで移動して来た。

 スピカ「さっきの話のことだけど・・・私たちはあなたたち魔法少女を利用していない・・・と言ったら嘘になるわね。
 うん、私たちの世界とあなたたちの世界の関係を説明するわ・・・・・・
    • 私たちの世界は人間の世界のほんの僅かだけ位相がズレた場所に存在しているの。
そうね、見る角度によって絵が変わるおもちゃあるでしょ?あんな感じ。
同じフィールドにありながら二つの世界が重なり合った状態。
それが私たちの世界と人間の世界の基本的な構造。

それぞれの世界はお互いに役割を持っている。
私たちの世界は世界を形作る芯の役割、つまり骨組みね。
対して人間の世界は骨組みの上に被さっている肉の部分。
だから私たちの世界とあなたたちの世界は骨と肉の関係なの。
どちらか一方が欠けても成り立つことはできないっていうのはわかるわよね。

そして、通常は肉は骨の存在を感知することはできない。
逆もそうだったんだけど・・・大昔骨は肉の存在を偶然知ることとなったわ。
それからこの世界全体の秩序、仕組みがわかったおかげで私たちの世界は大きく発展していった。

じゃあ、その仕組みとはなにか・・・
あなたたちの世界では全ての事象は物理法則によって成り立っているわよね。
それが私たちの世界では魔法法則によって全ての事象が成り立っているの。
私たちはこの魔法法則の源流はなんなのかというところから研究が始まったわ。
それによってわかったのが、あなたたちの世界の物理法則によって生じるエネルギーのロス。
これが私たちの世界に流れ込む過程で魔力に変換される。

そして逆に私たちの世界の魔法法則によって生じるエネルギーのロス、
これはどこに行くかというと・・・
あなたたちの世界の物理法則のエネルギーの源流となる。
つまりそれぞれの世界でエネルギーが変質転換しながらずっと循環している状態なの。
だから二つの世界は相互依存、共依存の関係にあると言っているわ。


でもね・・・この変質転換が生じるときにひずみが起きていることがわかった。
そのひずみというのが両方の法則エネルギーの残り滓、陰の魔力の存在だったの。
これがあなたたちの世界に漏洩すると世界の脅威として様々な問題を起こすわ。
魔力波導で起こる災害、
魔力によって生じるモンスター、無獣がこれに当たるわね。
そして魔力の影響による人心掌握で引き起こされる戦争。
いろいろな脅威が発生するの。
なんとか私たちはいろいろな脅威に対抗する方法を考えた。
でも、どれもうまくいかなかった。

そんな中、私たちは新しい方法を見つけ出した。
人間世界と協力してはどうだろうかと・・・
そして研究を重ねた結果、
人間世界に漏洩する脅威は物理と魔法を融合できる存在、
魔法少女によってしか対抗できないことがわかった。

でも魔法少女になるのは誰でも良いというわけじゃなかった。
脅威の魔力に合致するような適正を持った者が必要だったの。
そこで私は脅威が発生する周期を計算した運命の規定事項を作った。
そしてリゲルにその運命の規定事項にあわせて魔法少女システムの構築を依頼したわ。

この魔法少女システムは対象者を含めた周囲の生命エネルギーと魔力を融合、
爆発させて魔法少女へと変身させるものなの。
だから・・・魔法少女となる子たちは・・・みんな・・・

それにリゲルは疑問を持ち始めたのでしょうね。
新しい魔法少女システムを開発しようとしていた。
それがミーヤという存在を生んでしまった--


スピカの独白が終わっても誰も口を開くものはいなかった。
そして絵梨がようやく重い口を開く。
最初は聞き取るのもやっとなほど小さな声だったが、徐々に大きな声になっていった。
 絵梨「・・・結局、あなたたちの面倒ごとを・・・私たちに・・・押し付けてるだけだよね・・・それ・・・
 残り滓の掃除?なにそれ・・・私たちには関係ないじゃない・・・そんなどうでもいいことで・・・なんでみゃこが・・・
 みゃこが犠牲にならなきゃならないんだ!!
 なんでこっちにそんなものがこないようにしないんだ!
 なんで俺たちがそんなこと・・・」

 スピカ「でも・・・これが一番効率のいいやり方なの・・・残り滓・・・脅威を取り除かないと・・・
 私たちの世界も、あなたたちの世界も危ないのよ。」

 アルデバラン「こうなってしまった以上、イオとミーヤを排除しないことには世界の崩壊が起こる。」

アルデバランの物言いに絵梨は激高する。
まるでミーヤが・・・美夜子が・・・障害物かのようだったからだ・・・
 絵梨「排除だなんて言わないで!!俺・・・みゃこにいっぱいいっぱいひどいことしちゃったよ・・・
 みゃこに償わなきゃ・・・俺・・・みゃこを失いたくない・・・家族を失いたくない・・・
 紗英にはなんて言ったら良いんだ・・・」

 明日美「絵梨・・・だからと言って逃げるわけにはいかないわよ。
 それに勘違いしないで。美夜子ちゃんを倒すんじゃないの、ミーヤを倒すのよ。」
 絵梨「明日美・・・でもそれって・・・」
 明日美「忘れたの?今までの無獣は倒したら元の人間に戻ったでしょ?
 きっとミーヤも倒したら元に戻るわ。」
 絵梨「元に・・・戻る・・・?」
 明日美「しっかりしてよ?あなたは魔法少女チームを引っ張ってきたでしょ。」
 絵梨「・・・」
 明日美「それに・・・何と言ってもあなたは美夜子ちゃんのお父さんなんでしょ?
 自分の娘があんなことになったのにすぐに諦めるの?」

絵梨は・・・大樹は美夜子と、娘と過ごしてきた日々を思い出していた。
今までは決して平坦な道のりではなかった、衝突もたくさんした。
でもその中で父と娘、母と娘は実際の親子以上に本音を語り合ってきた。
それが今の美夜子の笑顔、明るさ、元気さに繋がっていったのだ。
それが全て偽りであるとは思えない。
全力でぶつかり合ってきた関係だからこそ今の美夜子のつらさ、悲しみは伝わってくるはずだった。
ミーヤを倒す、いやミーヤから美夜子を取り返す、これはそういう戦いなのだ。


 スピカ「私は自分たちの世界を守ることを考えるあまり、あなたたちの世界を・・・
 いいえ魔法少女となった少女たちを蔑ろにしてきた・・・そうね・・・確かにリゲルの言うとおりだわ。」

 アルデバラン「スピカ!?君は・・・」
 スピカ「勘違いしないで・・・アル。私はどちらの世界も壊させやしない。
 リゲルとはまた違った方法で魔法少女が必要のない世界を作ってみせる。
 こちらの世界に影響の出ないようなものを作るわ。」

 絵梨「スピカ・・・確かにあなたたちが今までしてきたことは許せない。
 でも、私は魔法少女としてではなく父親として・・・美夜子を取り戻す。」

 明日美「絵梨・・・」
最後の戦いに向けて絵梨は新たな決意を胸にするのであった。
正直なところ、明日美にはミーヤを倒したからと言って美夜子に戻るかどうかはわからない。
スピカたちが明日美の意見に肯定も否定もしなかったことがその証拠だ。
でも、否定もしていないと言うことは、もしかしたら戻ることができるのではないか・・・
その僅かな望みに賭けてみることにした。

それから明日美は自分たちが魔法少女となった経緯、明人がかつて無獣という存在になっていたことを説明した。
その話に明人はショックを受けてはいたが、当時自分に起きた不可解な出来事が繋がって理解することができた。

 明日美「それと・・・あなたたちにはもう一つ聞きたいことがあるわ。」
 アルデバラン「なんだい?明日美。」
 明日美「あたしが魔法少女になったとき、アルは人に正体をばらしてはならない。
 と言ったわよね?でも、アルは明人さんの前で変身しろと言った・・・これはどういうことかしら?」
 アルデバラン「それは・・・」
 明日美「正体がばれたら元に戻れないと言うのは嘘なのね?」
 アルデバラン「嘘というわけ・・・じゃない・・・」
 レグルス「それは私が説明するわ・・・適性の無いこちらの世界の人間と
 私たちの世界の人間が接触を起こすと大きな問題が起きるのよ。」
 明日美「問題が起きる?」

 レグルス「魔法法則と物理法則はそれぞれの世界に存在し得ない相反するエネルギー法則なの。」
 レグルス「だからこちらの世界の人間と私たちの世界の人間が接触を起こすと、
 エネルギー同士で対消滅反応を起こすことがある。」
 萌波「つまり・・・両方の人間が消えてしまうということかしら?」
 レグルス「それだけならまだ良い方よ。下手をしたらどちらかの世界が消えてなくなる。」
 灯莉「え、でも、二つの世界は共依存の関係と言っていたけど・・・」
 レグルス「そう、片方が消えたらもう片方も崩壊が始まるわ。」


 明日美「だから正体をばらしてはだめなのね・・・
 でも、あたしは明人さんの前で変身したわ。でも何も起きなかった・・・」
 レグルス「それは、明人さんが一度無獣になったことがあるから・・・
 一度魔力を体内に取り込んだことがあるから反応は起きなかったのよ。」
 明人「つまり抗体みたいなものが僕の体にできているということかい?」
 レグルス「ええ、そうね。」
 レグルス「それともう一つ、魔法少女には正体がばれてしまっても対消滅反応を起こさない方法があるの。」
 明日美「その方法って・・・危険なのね?」
 レグルス「ええ、魔法少女システムの世界崩壊を防ぐ安全装置と言ったらいいかしら。
 対消滅のエネルギーを魔法少女自身へ内向きに集中させる。」
 萌波「そんなことをしたら・・・その魔法少女は死んでしまうんじゃなくって?」
 レグルス「そうね、死ぬというより消滅ね・・・でもそうしないと大変なことになるの。わかるでしょ?」
 明日美「え、ええ・・・理解はできる・・・でも・・・」

 スピカ「でも、たった一つだけ魔法少女が消滅しない例外があるわ。」
 レグルス「例外?そんなものは無いはず・・・あっ・・・なるほど、そうね。」
 スピカ「そう、絵梨の存在よ。」
突然自分の名前が出てきたことに驚く絵梨。
自分自身が例外とはどういうことなのだろうか。

 絵梨「私が・・・例外?どういうことなの?私は正体がばれても消滅することは無いの?」
 スピカ「ええ、”絵梨”は消滅することは無いわ。でも・・・もう一方は消滅してしまう。
 絵梨「ええっ?ど、どういうこと?」
 明日美「つまり・・・絵梨の体には人間としての命が二つ存在しているということね。
 だから片方だけが消滅してしまう・・・」
 絵梨「そ、それは絵梨のほうが消滅するって言うことはないの?」
 スピカ「・・・あくまでも消滅するのはベースとなっている人間の方・・・
 ある意味本当の意味で絵梨は元に戻れなくなるということね。」
 絵梨「そんなことが・・・」
 スピカ「だから、紗英さんのためにも絶対に正体を見せちゃだめよ。」
 絵梨「わ、わかった。」


明人は彼女たちの話を聞いていて疑問に思っていたことを口にする。
ただでさえ混乱しそうな話である上に、彼にとって一点だけ腑に落ちない部分があったのだ。
 明人「君たちが大変な運命を背負っているのはわかった。
 ただひとつ疑問なのは・・・絵梨ちゃんがなぜ美夜子ちゃんの父親なんだ?父親ってこの前の・・・」
 絵梨「!・・・ごめんなさい・・・明人さんにはもう隠せないよね・・・実は私・・・美夜子の父親なの。」
 明人「・・・やっぱり理解できない・・・君は明らかに女の子じゃないか・・・それが・・・まさか・・・
 二つの命って・・・そういう・・・ことなの?」
 絵梨「うん・・・明人さん、あなたを騙すつもりなんてなかった・・・でも・・・女の子になった私の心は・・・
 どうしても抑えることができなかったの・・・最初から思わせぶりな態度取らなければよかったよね・・・」
 明人「つ、つまり・・・本当の君は・・・女の子じゃ・・・ない?」
絵梨は静かに頷いた。
その絵梨の肯定に信じることができないという意思の現われだろうか、絵梨の顔をまともに見ることができない。

 絵梨「実際に・・・見せたほうが理解できるよね・・・ちょっと待っててね。」
絵梨は自分の服が入っているカバンを抱え、着替えできる場所に移動していった。
明人はやはり信じられないといった様子で放心状態だった。
その場にいる者みな明人に声をかけることができなかった。

しばらくすると、小さな体には不釣合いな程、大きなスーツを着た絵梨が戻ってきた。
姿は滑稽だが絵梨の顔は悲しそうにうつむいていた。
 絵梨「遅くなってごめんね・・・こうしないと・・・服、破けちゃうから・・・
 はは、灯莉ちゃんに正体見せたときとは・・・大違いだね・・・ぐすっ・・・」
 明人「え、絵梨ちゃん・・・」
 絵梨「・・・いくよ・・・これが・・・本当の・・・私っ・・・リリース!」
キューーーン
絵梨の体がピンク色の光に包まれ、徐々に体が大きくなり、体の線が太くしっかりしてくる。

 明人「・・・絵梨・・・ちゃん・・・」
体全体を覆う光が収まるとそこにはスーツを着た大樹が立っていた。

 大樹「これが、俺・・・絵梨の正体、美夜子の父親の大樹だよ。
 ごめんな・・・君にとっては相当なショックだったろう・・・」
 明人「・・・」
 大樹「はは、そうだろうな。声も出ないよな・・・男だったなんて・・・気持ち悪いよな。
 これがあの時君の気持ちに応えられなかった最大の理由・・・許してくれとは言わない・・・
 ただ・・・俺に謝らせてほしい。悪かった。」
大樹は明人に対して深々と頭を下げた。
しばらく明人は頭を下げた大樹を呆然と見つめていた。
実際に目に入ってくる情報と脳で処理する情報に齟齬が発生しているのだろう。
理解するのに時間がかかっていた。


 明人「や、やだなぁ・・・そんな頭を上げてくださいよ・・・ぼ、僕は大丈夫です・・・
 その・・絵梨ちゃんが・・・何か隠していることがあるんだろうなって言うのはわかっていましたし・・・」
 大樹「明人君・・・今の俺が何を言っても信憑性ないかもしれないが・・・
 絵梨は、本当は・・・本当に君のことを・・・」
 明人「それ以上は言わないでください!!!そんなこと知ったところで・・・
 何の意味があるというんですか。そんなの・・・つらすぎます・・・」
明人は拳をギリギリと握り締める。
ぐちゃぐちゃになって溢れ出しそうな気持ちを必死に抑えるように・・・

 明人「む、むしろ・・・絵梨ちゃんが他の人のことを好きなわけじゃなくって・・・良かった・・・
 ごめんなさい・・・もう・・・遅いのでか、帰ります。み、美夜子ちゃんを必ず助けてくださいね。」
 大樹「あ、ああ・・・必ず・・・」
そう言うと自分の鞄を抱えて明人は走り去っていった。
本当なら泣きたいくらいだろう、でも明人は一切涙を見せず、唇を噛み締めていた。

 大樹「つらいことに巻き込んでしまったな・・・あの場で明人君に会わなければ・・・
 なんで・・・男に戻ったって言うのに・・・くそっ!こんなに胸が締め付けられるんだよ・・・
 なんで・・・心が痛いんだよ!・・・絵梨・・・」
 明日美「大樹・・・あなた・・・」
大樹は悲痛な表情を浮かべていた。
涙こそ流してはいなかったが、大樹の中の絵梨の悲しみが表情に表れていたのだろう。

 大樹「そろそろ・・・帰らないといけないな・・・しかし紗英には・・・みゃこが帰ってこないなんて・・・」
 明日美「そ、そうだ・・・美夜子ちゃんはしばらくうちに泊まっていると言うことにしたら?」
 大樹「恐らく、あの様子からするとみゃこはもう帰って来ないつもりだ・・・それまで隠し通せるか・・・」
 明日美「なに言ってるの・・・二、三日で何とかするしかないでしょう!
 なんとしても美夜子ちゃんを取り戻すのよ!!」
 大樹「あ、ああ。そうだな。そんな何日もかけてられない!ぱっと取り返してやるぞ!」
 明日美萌波灯莉「「「ええ!」」」
魔法少女たちは早期解決への決意も新たに一致団結の誓いを立てたのだった。

そして一方・・・

 紗英「〜♪そろそろみゃこが帰ってくる頃ね。あの子おなか空かしているだろうな・・・
 ふふふ。今日はみゃこと大樹さんの大好きなハンバーグ。」
紗英は現在の状況を何も知らず夕食の準備に忙しかった・・・
自分の娘に起きた悲劇・・・彼女は知らないほうが幸せなのかもしれない・・・

次回予告
何も知らずに家族の帰りを待つ紗英。
彼女もついに魔法少女たちの戦いに巻き込まれてしまう。
そして遂にミーヤは光の繭から羽化し、覚醒状態となる。
大樹は娘を、美夜子を取り戻すことができるのか。
次回「Warrant!さよなら・・・」
アクエリィHD「あなたは深い絆を結ぶ仲間がいるかしら?」




以上で終了です。

今回は正体バレがテーマです。

ミーヤの正体を認識しました。
そして明人に正体ばらしちゃいました・・・

いろいろフラグが立ってます。
全部回収できるのかな?

ってことであと四話です。

今二十三話執筆してますが、これも少し時間をいただくと思います。

ではでは、また次回まで。

今度は確実に投下できるときだけ書き込みしよう・・・

管理人/副管理人のみ編集できます