ガチャッ

ドアが動く音が聞こえ、俺はベッドから慌てて起き上がった。
そしてドアを開けた白衣の人物に体当たりをしようとした。……が、サングラスをした黒服の男が目の前に立ちはだかると突進する俺の脚を払い、その場で転倒させると俺の腕を捻り上げた。
「いってぇぇぇっ、またお前かよっ!!」
黒服の男には見覚えがあった。バイトに向かう途中の路上で突然俺の鳩尾に強烈な一撃をくらわせた男だった。
俺はその場で気絶し、気がつくとベッドと便器以外は何もない部屋に閉じ込められていた。
「くっそーっ、なんで俺にこんな事をっ!!」
捻り上げられた腕の痛みに耐えながら俺が叫ぶと、白衣の人物が近づいてきた。
「それは自業自得というものだよ」
「お前……女か?」
高く澄んだ声に首を捻って見上げると細身の身体に白衣の胸の部分が大きく膨らんでる。……間違いなく女だった。
黒縁メガネで髪は頭の後ろで無造作にまとめ、白衣の下はよれよれのズボンなのがマイナスポイントだが、顔のつくりは悪くないしスタイルも良さそうだ。
「ほう、こんな私を見て欲情するか?」
少し呆れたように女が苦笑する。どうやら顔がにやけていたらしい。
「ふんっ、俺がなにをしたって言うんだよ?」
「ほう、身に覚えがないと?」
女の目がメガネの奥で冷たく光る。
「今月の5日の夜、君は自分が何をしたか憶えているか?」
「っ!! そっ、その日の夜は……コンビニでバイトだったよ」
「問題はバイトが終わってからの話だ。午後9時過ぎ、君は帰宅途上ですれ違った女性に襲い掛かり、廃ビルの中へと引きずり込んだ」
「…………」
「そこで君は女性の服を引き裂き、抵抗する彼女を殴りつけて……」
「ちがうっ、俺じゃないっ!!」
「女性の膣内に残っていた精液と気絶している間に君の身体から採取したDNAが一致した。言い逃れはできないよ」
冷徹な女の言葉に俺は歯軋りをする。
「可哀想に、彼女は強烈なショックを受けて入院したよ。……ようやく社会復帰できたっていうのに」


「だからってこんな取調べがあるか、畜生っ!!」
黒服の男に顔を床に押し付けられた状態で俺は叫ぶ。すると女は俺に言った。
「君は勘違いしている。私たちは警察ではなく厚生労働省の人間だよ」
「厚生労働省?」
「そうだ、厚生労働省直轄の特殊疾病対策プロジェクト。私はそこの委託を受けた医師だ。ちなみに君を押さえつけている男はれっきとした国家公務員だ。一流国立大出身のバリバリのキャリアだぞ」
「…………馬鹿な」
どう見てもヤクザにしか見えない黒服黒メガネが国家公務員だとはとても信じられなかった。いや、それよりも……
「どうしてそんな奴らが俺をこんな所に?」
「説明してやろう。君が襲った彼女はあるウィルスに感染していた。感染力は弱く性交渉を行なわなければまず感染しないが、その症状が社会に与える影響を考慮して存在は極秘とされている。ウィルスに感染した者は強制的に隔離することになってるんだよ」
「ウィルス? 感染? ……まさか?」
「そう、君にもしっかりと感染している。気絶している間に行なった血液検査で陽性反応が出たよ」
「そんな……」
俺の顔が一気に青ざめる。
「まったく、体内からウィルスが除去されるまであと半年、自分からセックスすることはないだろうと経費削減で早期に退院させていたんだが……まさかレイプされるとはね。君のおかげで対策を根本から見直さなきゃならないって上へ下への大騒ぎだよ」
女がやれやれといった感じで首を左右に振った。
「症状って……どうなっちまうんだよ?」
「こうなっちまうんだよ」
俺の問いに女は顔を俺に近づけながら答えた。女の顔のすぐ下でFカップくらいのバストが揺れ、俺の股間が熱くなった。
「ふふん、私を見て欲情しているか? では、これを見ても君は欲情するかね?」
そう言って女はポケットから一枚の写真を取り出し、俺に近づけてきた。
「けっ、こんなもんで欲情なんかする訳ねえだろ」
熱くなった股間が萎える。なぜならそこに映っていたのは服装と雰囲気は目の前の女と似ていたが、明らかに男だったからだ。
すると女はニヤリと笑う。
「そうか。だが、この写真が一年前に撮影した私自身の写真だ、としたら?」
「なに?」
「この写真を撮った一ヵ月後だったかな? 街で出会った女性と意気投合してベッドインしたんだが、この女性が彼氏持ちで彼氏も浮気性でウィルスに感染していた。つまり彼女はウィルスのキャリアだったわけだ」
「…………」
「で、気づいた時には手遅れ。間抜けな話さ。女の身体ってのは結構面倒だぞ。特にこんなでかい胸だとすぐに肩が凝っちまう」
「まさか……症状って……」
「そう、ウィルスに感染し発症すると……女性化するのさ」
「そ……そんな」
「言っておくが胸だけじゃないぞ。股間のペニスはクリトリスへと変化し、身体の中で膣や子宮、卵巣が形成される」
「クリトリス? 膣? 子宮? 馬鹿なっ!!」
「信じようが信じまいが勝手さ。だが君もいずれはこうなる。ブラジャーで乳房を安定させないと歩くのにも不便で毎月月経が訪れ、男に身体を貫かれ、射精されれば妊娠する可能性がある存在……女へと君はなるのだ」




「…………不味い」
プラスチック製のスプーンで冷えたスープを口に流し込みながら俺は不満を口にする。
(ステーキよこせとは言わないが、せめてカップラーメンくらい食わせてくれないかなあ?)
などというたあいもない考えが頭の中をよぎる。

この部屋に入れられて一週間が過ぎた。

部屋の中にある物といえばベッドと枕と毛布、それと排泄用の便器だけだ。
この部屋を出ることができるのは3日に1度の検査のときだけだ
その検査だってヤクザまがいの体格と強面の男二人が両脇についている。おまけに部屋や廊下には窓がない、検査室の向こう側には鋼鉄製の扉が閉じられ、検査が終わると部屋の近くの廊下も同様の扉が閉じられる。脱出はどうも不可能っぽい。
検査は身長、体重、胸囲、胴囲、それに尻の周りを測り、尿を取り、血液を採取してエコーだとかCTスキャンとかをやらされる。
初日の検査のときに嫌がって抵抗したら顔を思いっきり殴られた。痛いのは嫌なのでその後はおとなしくしている。
検査が終われば5分だけシャワーを浴び、タオルで水を拭き取って身体の汚れを洗い落とす。これだって監視つきなんだからやりにくい。
で、それが終わると次の検査まではずっとこの部屋で待ち続けなきゃならんのだ。
食い終わるとトレーとスプーンをドアの横にある専用の出し入れ口に置いておく。10分ほどすると出し入れ口の奥からトレーを引っ張り出す音が聞こえてきた。
「…………ふうっ」
自分自身が息を吐き出す音がはっきりと聞こえてくる。
静かすぎる。
テレビもない、ゲームもないプレーヤーもなければスマホもない。そして話し相手になる人間がどこにもいないのだ。
やがて部屋の照明が消える。俺はあらかじめ確保しておいたトイレットペーパーを手にベッドに入ると毛布をかぶる。
右手をズボンの中に入れ……

シュッ、シュッ――

部屋の中にカメラのような物は見えなかったが……隠しカメラがあったところでかまうものか。
なにもない、光すらない部屋の中で、できることといったらこれぐらいしかない。
あの白衣の女の肢体を思い出しながらペニスを扱く。
(けっ、なにが病気だ? なにが女になるだ? なってたまるかってんだ!!)
頭の中で白衣の女の衣服を剥いでいく。廃ビルの中で犯した女とイメージがダブり、身体の昂ぶりがクライマックスを迎えた。
「ううっ!!」
うめき声と共にペニスから熱い迸りが飛び出してきた。


「ふっ、相変わらず元気そうだな」
俺がここに入れられてから22日目、検査を終えた俺に白衣の女がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「うるせえよ、馬鹿」
俺は女を軽く睨みながら言った。相変わらずでかい胸だ。黒服の男どもがいなけりゃ部屋の中で妄想しているように白衣を剥ぎ服を裂いて胸を揉みしだき……
「最近は昼夜なくオナッているいるようだな?」
「ちいっ!」
俺は大きく舌打ちをする。やはり、というべきか、部屋の中に隠しカメラが仕込まれていて俺の行動は監視されていたらしい。
「もしかして『使い続けていれば小さくなるのを防げる』とか考えてるのか?」
「っ!!」
俺は息を飲み、女から視線を逸らせた。
最近、俺のペニスが少しずつ小さくなってきている。最初は気のせいかとも思ったが、今では以前の半分以下の大きさにまで縮んでいた。
俺は何とか縮むのを阻止しようとしてペニスを使い続けた。そう、さっきの女の言葉は図星を突いていたのだ。
「はははっ、わかるわかる。私も今の君の状態の時は同じようなことを考えていたもんなあ」
そんな俺を見て女は大笑いをした。俺は女を睨みつける。
「まあせいぜい抵抗してみたまえ。今日の検査はこれまでだ、シャワーを浴びて部屋に帰りたまえ。ああ、やりたけりゃシャワールームでオナッてもいいぞ。あははははっ」
女の嘲るような笑い声が俺の頭の中でこだました。




俺がここに入れられてから31日目……だったろうか?
カレンダーも記録する物もない部屋で過ごしているうちに日数の記憶があいまいになってきていた。
相変わらず俺は暇さえあればオナッていた。が、ペニスは日に日に縮み続けていた。それに……
「さて、君には今日からもう一つ検査を受けてもらおう」
いつもどおりの検査を終えた後で白衣の女がニヤリと笑みを浮かべながら俺に言った。
女の背後はカーテンで仕切られていた。女はカーテンの端をつかむと勢いよくカーテンを開けた。
カーテンの向こう側にあったのは脚の部分が左右に分かれた風変わりな診察台(?)だった。
「診察着と下着を全て脱いでこの診察台に身体を乗せなさい」
女の言葉に俺は嫌な予感を覚えた。
「い、いやだ」
逃げようと身体を動かそうとした俺を黒服の男が左右からがっちりと押さえ込んだ。
抵抗もむなしく俺は男たちに全裸にされると診察台に乗せられた。
両手、両脚、そして胴体が拘束され診察台に固定された。
「ふっ、ずいぶんと小さくなったな。小指よりも小さくなってるぞ」
女が俺の股間に視線を向けながら言った。
俺の顔が怒りと羞恥心で熱くなった。
女は視線を股間から胸の方へと移動させながら言葉を続けた。
「おやおや、少し腫れているぞ。どこかにぶつけたのかな?」
そう言って女は俺の胸板……に指を這わせた。むず痒さに身体がゾクゾクするのを必死でこらえる。……が、
「こんなにぷよぷよになって、先っぽなんか赤く……いやピンクになって」
女が俺の胸の先端の突起物をピンッと弾いた。

「あんっ!!」

俺は自分の喉から飛び出た声に驚愕した。それは有り得ないくらいに高く、そして艶かしかった。……まるで女のよがり声のように。


「あははははっ、やはり声帯の方もかなり変化が進んでいるようだな」
女が身をよじりながら大笑いをする。しばらく笑い続けた後、黒服の男から封筒を受け取ると俺の顔のそばまで近寄ってきた。
「さて、これはさっきの超音波検査の映像だが、ここに大きな塊があるだろ。これがなにかわかるかな?」
そう言って女は白黒映像の一点を指差した。
「知るかっ!!」
「じゃあ今度はCTスキャンの結果を使って君の腹部から脚の付け根までの部分の縦方向の断面図だ。これなら形がはっきりわかるだろ?」
「っ!! ま、まさか……」
体内の臓器の形がわかりやすいように着色された画像。その形を見た俺の表情が強張り、顔色が一気に青ざめた。
「臍の下のこれが子宮、左右のこれとこれが卵巣で卵管により繋がっている。子宮の下にあるこれは膣だ。こちらも股間まで伸びていてほとんど完成しているな」
女が俺に恐れていた事実を冷酷に告げる。
「そんな……俺は男だっ!! 膣とか子宮とかそんなものが俺の身体にあるはずがないっ!!」
俺は認めたくなくて首を左右に振り絶叫する。
女はそんな俺を嘲るような表情で見ながら言った。
「君の体内の卵巣は既に正常に機能していて成人女性レベルの女性ホルモンを分泌している。これからどんどん女になっていくぞ。そうなったらもう認めるしかなくなるさ」


「うっ、くっ……くうっ」
密室のベッドの上で俺はペニスを扱く。
小指の先ほどになったペニスはもう握ることはできず、指先で摘まむのがやっとだった。
それでも俺は暇さえあればオナッていた。……もし、それを止めてしまえば、その瞬間に俺の身体が完全に女へと変貌するような気がしたから。
しかし……
「あ…あんっ、また揺れちまった」
上半身を動かさないように気をつけてはいても、油断すると野球ボールほどの大きさになった胸の膨らみが揺れ、下着と擦れた乳首から激しい感覚が脳天へと突き刺さる。
それに……最近、身体の昂ぶりと共に臍の下から未知の感覚を感じるようになってきていた。それはだんだんと強くなりつつあり……
「ううっ!!」
ペニスの先から液体が飛び出てくる。だが、それは以前とは違い無色透明であった。
俺はぐったりとなってベッドの上に身を横たえた。腹の中から広がる甘い波動に身を委ね……いや待て、いつの間に俺はペニスではなく腹の中で感じるようになって……

プチッ

その時、なにかが裂ける……というか破れるような感触が……

プチプチッ

胸……ではない。腹……でもない。もっと下の……股間?
俺はぐったりした身体を無理やり起こして視線を股間へと向けた。
視線の先には萎縮して小さくなったペニス。その向こう側には睾丸が入った袋が……
「え? 裂け……てる?」
袋の中央の縫い目の部分、そこがピンク色になって内側から広がってきていた。そしてところどころから体液のようなものが漏れ始めていた。
「だ、だめだ。裂けるなっ!!」
俺は裂けるのを防ごうとして右手で袋を包んで護ろうとした。が、結果としてはそれがダメ押しとなってしまった。

プチプチプチッ!! ドバッ!!

手のひらが縫い目に触れたことで裂け目が一気に広がり、縫い目は完全に開き中の液体が流れ出た。
液体の中に黒く小さな物体が二つあった。手の平の上でボロボロに崩れ落ちていく物体。それは……かつての睾丸のなれの果て。

「は……はは……はははは…………」

睾丸だった物体が崩壊していくのを見ながら俺は意識を失った。




検査の日、白衣の女は笑いを堪えられないといった表情になりながら俺に言った。
「じゃあ裸になって診察台に乗って」
一瞬躊躇ったが、言われるままに診察台の上で身を横たえる。女は俺の身体を拘束すると診察を開始した。
女が診察台の両脚の部分を開くと手袋をはめて指で俺の股間を押し広げた。
「陰嚢は完全に大陰唇と小陰唇へと変化したね」
裂けてしまった袋は襞へと変化した。そして周りの部分が盛り上がり、柔らかな丘が出来上がると襞は縦溝の中へと埋もれていった。
「尿道口が移動してるね。クリトリスの形状にも異常は見られないね」
ペニスだった物体は豆粒ほどの大きさになって縦溝の中に埋もれてしまった。小便も少し下にできた穴から出るようになり、立小便ができなくなっていた。

ショックだった。

男としてのシンボルを失った俺は今ではすっかり気力をなくしていた。……が、
「外陰部には特に異常はなし。じゃあ次は膣内部の検査を行なうよ」
無気力状態で女の言葉を聞いていた俺は検査の内容を聞いて一気に覚醒した。
「ちょ、ちょっと待てっ!! 今なんて言った? 膣内部の検査だってっ!?」
「ああ、ちゃんと膣口もあるからね。中に異常がないかクスコを入れて調べるんだよ」
「じょ、冗談じゃないっ!!」
縦溝の中の尿の出口と肛門の間にもう一つの「穴」があるのは気がついていた。だが、怖くて「穴」を調べることはおろか触れることすらできていなかった。
そこに器具を入れて検査する?
「や、やめろおっ!!」
必死で抵抗するが、拘束された身体はまったく動かない。
女は先が細くなった金属製の漏斗のような器具を手に俺の股間へと近づいてくる。
ヒヤリ、と股間が感じるとほぼ同時にスウッと冷たい物質が身体の中へと入ってきた。
「あああああっ」
初めて「挿入」される感触に俺は思わず声を上げた。

俺の股間に挿入した器具を女が操作すると、先端が俺の体内で広がり固定される。
「膣壁の形成には問題なし。うん、襞が多くあって感じやすそうだ」
俺の股間に顔を近づけた女が中を覗き込みながら言った。
女はさらに器具を動かし、角度を変えて覗き込む。
「……ん、あったあった」
女がそう言うとカチャカチャと小さく金属がぶつかる音がした。

ビクンッ!! 「ひゃうっ!!」

金属製の物体が触れ、俺の腹の中の「袋」が震えた。俺の身体がベッドの上で反り返ろうとして激しく動いた。
「子宮膣部を確認。ちゃんと膣と繋がっているね。今、身体の中で動いたのが君の『子宮』だよ」
女の言葉が俺の脳に突き刺さる。膣、そして子宮、俺の身体の中の「女」の存在を俺は今、知覚させられていた。


ひととおり検査を終えると女は診察台の拘束を外した。
「じゃあこれを着けて」
そう言って女は俺に下着を渡した。だがそれは俺が今まで履いていたブリーフとは感触が違っていた。
俺は渡された下着を左右に広げてみる。布地は想像以上によく伸びた。そしてブリーフにあるはずの中心部の穴が存在せず、なぜか小さなリボンが一つ……
「これ……女物じゃ?」
「そうだよ、君は女なんだから問題ないだろ」
女の言葉が俺の心を抉る。
俺は渡された下着……パンティーに脚を通すと引き上げた。パンティーが大きく広がり、脂肪がついてプリンプリンとなった尻と縦溝のある平坦な丘になった股間にぴったりと張り付く。
「じゃあ次はこれだ」
女がさらに次の下着を渡す。
「…………」
「どうした? サイズは70のDカップ。ちゃんと測ったんだからジャストフィットのはずだが?」
肩紐と凹みのある布地が組み合わされたそれは……いわゆるブラジャーと呼ばれる代物だった!!
俺は首を左右に振って手にしたブラジャーを返そうとした。だが、女はそれを拒絶すると冷たく言い放った。
「着けなさい。それともカーテンの向こう側にいる黒服の男たちに着けさせようか?」
「くっ!!」
俺は小さく呻くとブラジャーを胸元で広げた。
薄いカーテンの向こう側には黒服の男が二人待機している。俺を気絶させここへ連れてきた奴は常に終始無言で直立不動を崩していないが、もう一人の方は検査前の俺の身体を興味深そうに見ていた。
(あんな奴らに裸を見られて着けさせられるよりは……)
ブラジャーの凹みと俺の胸の膨らみを合わせる。
「…………」
胸の膨らみと乳首が柔らかな素材の布地に包まれる独特の感触に俺の顔が、全身が羞恥でほんのりと熱くなる。そんな俺の様子を女がニヤニヤしながら見ていた。
恐らく女は……いや、この施設の連中は俺にパンティーとブラジャーを着けさせることで俺が「女」だということを刻み込ませようとしているのだ。俺の心と身体に。
俺は肩紐に腕を通すと両手を後ろに回した。手探りなので少し苦労したが、何とか留め金を固定させた。
「こ、これでいいだろ?」
俺がぶっきらぼうに言うと女は首を左右に振った。
「だめだめ、そんな着け方じゃ」
そう言って女は俺のそばに寄ると突然俺の胸の周りに手を這わせた。
「まず、胸の周りを寄せてブラジャーの中に詰める。こうすることで乳房の形を整えると同時にサイズアップの効果があるんだ」
「ひゃあっ!!」
女の手が俺の胸の周りの肉をグイグイッとブラジャーの中へと押し込む。
「次に肩紐のアジャスターを調整して乳房が少し上を向くくらいに調整する。……どうだ、これで動きやすくなったろ?」
言われて俺は身体を左右にひねってみる。さっきまで暴れまわっていた胸の膨らみが固定され、スムーズに動けるようになった。
俺は女どもがブラジャーを着ける意味を初めて知った。……俺自身の身体によって。
「ふふっ、なかなかの美女になったじゃないか」
「ちっ、出鱈目言ってんじゃねえよ」
俺は女の言葉に舌打ちしながら言った。すると……
「出鱈目なんかじゃないさ。ほらっ」
そう言って女はそばにあった小さなカーテンを動かした。
カーテンの向こう側には一人の女がいた。どういうわけか下着姿で戸惑った表情でこちらの方を見て……
「お、おいっ!!」
俺は気がついた。カーテンの向こう側に女はいなかった。そこにあったのは全身サイズの鏡だった。
右手を鏡に向けてみると、鏡の中の女は左手をこちら側に向けてきた。慌てて手を引っ込めると女も左手を引っ込め、動揺で表情を強張らせていた。
「こ、これが……俺……なのか?」
俺の呟きに女がニヤニヤしながら言った。
「ここに来てから鏡で自分を見るのは初めてだったね。そうさ、これが今の君だ。もうどっから見ても完全に女性だよ。あははははっ」
密室の診察室に女の笑い声が響き渡った。
タグ

管理人/副管理人のみ編集できます