Jeux interdits : 00


 光の洪水だった。
 スタジオに組まれた室内セットに、真夏を思わせるライトがたくさん輝いている。
 僕は目を細めながら、乾いた唇をなめた。
 せめてサングラスをかけさせて欲しい。
 まともに開けていたら視力が悪くなりそうだった。
「いいね、その表情。男の嗜虐心をそそるよ」
 ライトのむこう、カメラの側にいる監督から声をかけられる。
 嗜虐心ってどういう意味だったかな。
 考えても思い浮かばない。
 それに、これは作った表情じゃない。
 本音が出てるだけなんだから。

 まさか僕がバニースーツを着る日が来るなんて……。

 Hなグラビアモデルをしている姉が旅行に出かけている間、顔のそっくりな僕が、どういうわけか代役をさせられている。
 他の女優をみつけることができなかったのか、高額なギャランティーを支払いたくないのか。
 あるいは、姉の『森咲ひと美』でなけれならない理由があるかのどれかだろう。
 おっぱいと股間のライン、体型も姉とそっくりに見えるようにと、華奢な体にスタッフがとりつけた特殊メイク。
 まるで本物みたい。
 ただでさえ、普段から写真を撮られることには慣れていない。
 写真だけでなく、動画まで撮られるなんて恥ずかしい……。
 グラビアモデルでは、物怖じした態度がなによりよろこばれる。
 あらがいながら屈服しかけの顔こそ、そそるのだ。
 監督の言葉を聞き入れてはみたものの、どう表現すればいいのかわかるはずもない。
 ただ言われるポーズをしながら、カメラとスタッフの目から少しでも逃れようとしているだけなのだ。
「両手で胸をはさんでみながら、笑顔をくれるかな」
「こうですか?」
 僕は言われるまま、大きな果実を抱えるように人工乳房を両手ではさみ、笑ってみせる。
「それだと引きつってるよ。はにかむ感じで」
 作り笑顔は苦手だな。
 にしても、作り物とはいえこの胸、よくできている。
 重く垂れ下がる感覚やコスチュームに締めつけられる感じ、両手ではさみながら持ち上げる感触も、まるで本物。
 女ではないので、実際の感覚はわからないけど。
 でも、どうしてかわからないけど、どきどきしてくる。
 恥ずかしさのせい、かもしれない。
 自分の胸を強調しながら笑うと、背筋がぞくっとして、一瞬からだが震えた。
「いいよ、その表情。すてきだね」
 褒められるとうれしくなる。
 肩の力が抜けて、素直に少し笑った。
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