2chエロパロ板の「井上堅二 バカとテストと召喚獣でエロパロ」の作品をまとめたサイトです。

僕と雄二と召喚大会 ◆kV8A9gWJuE




「翔子」
「・・・・・・雄二・・・・・・何?」
「ほら」
「・・・・・・え・・・・・・私のヴェール・・・・・。どうして・・・・・・?」
「野球大会の優勝賞品として返して貰ったんだ。それと・・・・・・悪かった。つまらないものなんて言って」
「・・・・・・雄二・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ダメ。謝っても許さない」
「ぐっ!その・・・・・・本当に悪かった!だから、そこをなんとか!」
「・・・・・・ダメ、絶対に許さない。許して欲しいなら・・・・・・」
「欲しいなら?」
「・・・・・・私に、キスして」
「しょ、翔子!?頼むからそれだけは勘弁してくれ!それ以外なら何でもするから!」
「・・・・・・本当?」
「・・・・・・何でも、とまでは行かないがある程度なら・・・・・・」
「・・・・・・じゃあ、今度また雄二と如月ハイランドに行きたい」
「あそこか、最近正式オープンしたらしいな・・・・・・分かった。それぐらいなら大丈夫だ。胡散臭い噂作りもないだろうし」
「・・・・・・噂?」
「いや、こっちの話だ。それよりお前どうしたんだ?顔が赤いぞ?」
「・・・・・・少し、恥ずかしかった」
「恥ずかしかった?・・・・・・まさかさっきのあれ、また明久のバカに何か吹き込まれたのか?」
「・・・・・・違う、吉井じゃない」
「明久じゃない?じゃあ誰に言われたんだ」
「・・・・・・瑞希の案」
「・・・・・・あいつら、揃いも揃って俺を何だと思ってやがる・・・・・・!」

バカテスト、世界史
第一問
( )に入る言葉を答えなさい
破壊されたことにより、東西ドイツ統一のきっかけとなった壁の名前は( )壁である


姫路瑞希の答え
(ベルリンの)壁
教師のコメント
正解です


土屋康太の答え
( バカの )壁
教師のコメント
某ベストセラーは関係ありません


吉井明久の答え
(  完  )壁
教師のコメント
完璧です

夏という季節は一年で一番素晴らしい時期だと思う
しかし、だからと言っていつまでも続いていて欲しいものでもない。移り変わるからこそ、その素晴らしさがより一層強調されるものである
太陽の日差しに変化が見られず、セミの鳴き声も全く衰えてない様子は、夏健在と言ったところか
体育祭が終わって週末を挟んだ今日は月曜日、未だ続く陽光に辟易しながら僕は教室のドアを開ける
「おお、明久。おはようじゃ」
「あ、秀吉。おはよう」
教室に入って最初に声を掛けてきたのは、Fクラスにおける数少ない異性の一人、木下秀吉だった
端正な顔立ちと、それに似合わない爺言葉がギャップになって男からの人気が非常に高い。本人は男だと主張してるけど、人生諦めが肝心だと思う
「おはよう、アキ」
「美波、おはよう」
次に声を掛けてきたのは秀吉に同じく、数少ない異性である島田美波さん
勝ち気な目とポニーテールやすらりとした長い手足がが印象的な女の子。趣味は僕を殴ることらしいけど、最近はあまり殴られることがない
飽きてきたのだろうか?それはそれで助かるからいいけど
「二人とも、体育祭お疲れ様。没収品は返ってきた?」
「うむ、ワシのところにはもう戻ってきておった。お主らはどうじゃ?」
没収品というのは、2学期二日目に実施された持ち物検査で取り上げられたものである。野球大会で優勝したら返却してもらうという約束をし、無事優勝したわけなんだけど・・・・・・
「僕のところにはまだだけど・・・・・・出来れば一生届かないで欲しい・・・・・・」
「お主も大変じゃのう・・・・・・」
返却方式が郵送でしかも家族宛だったりする
あれが姉さんに見られたら、僕の寿命がある程度縮むのは間違いない。そう考えると、自然に体から負のオーラが滲み出てしまう
「ウチは届いたけど・・・・葉月に取られちゃった・・・・」
と、僕と同じく負のオーラが滲み出ている美波が呟いた。葉月ちゃんに?没収品の中に葉月ちゃんが欲しがるものがあったのだろうか
「はぁ・・・・気が滅入る・・・・」
「ウチも・・・・アレ高かったのに・・・・」
「お主ら、朝っぱらから随分と沈んでおるの」
「秀吉には実害がないからそうだろうけど・・・・・・」
こちらとしては生命の存続がかかっているんだ。どうやったって溜息の一つや二つは出てしまう
「明久君、美波ちゃん、木下君。おはようございます」
美波と負のオーラをシンクロさせていると、ふと後ろから声を掛けられた。この声は・・・・・・姫路さんか
「おはよう姫路さん」
「あ、瑞希。おはよう」
「うむ、姫路。おはようじゃ」
彼女はFクラスにおける数少ない異性の最後の一人である姫路瑞希さん。今日も可憐な容姿と凶悪な胸部が目に眩しい。全身から精神安定効果のある物質が出ているのではと専らの噂だ
「姫路さんも体育祭お疲れ様・・・・・・ってどうしたの?」
彼女にも労いの言葉を掛けようとしたところで、ふと異変に気付く。何やら誰かを探しているような
「あ、いえ、明久君もお疲れ様でした。えっと・・・・・・坂本君を見ませんでしたか?」
「雄二?雄二なら今日はまだ来てないみたいだけど」
姫路さんの言う坂本というのは、言わずと知れた僕の悪友、坂本雄二のことだ。どうやら雄二のことを探しているらしい。何か雄二に用でもあるのかな
「そうですか・・・・・・それじゃ私、翔子ちゃんとお話ししたいことがあるので」
そう言って姫路さんは鞄を置いて教室から出ていった。どうやらA組の霧島翔子さんに用があるらしい
霧島翔子さんはA組の代表で学年首席でもある。運動にも秀でていて、おおよそ欠点の見当たらない人なんだけど、何を間違えたのか雄二のことが好きだったりする。姫路さんとは肝試しの一件で親しくなったらしい
「姫路も大変じゃの、雄二と霧島の仲を取り繕うとは」
「あ、それで姫路さんは雄二のことを探してたんだ」
雄二と霧島さんは本来仲がいい(?)んだけど、野球大会のときに雄二の勘違いが原因で喧嘩してしまっている。二人の仲を修復するために姫路さんが色々と手を回しているみたいだ
「瑞希は優しいからね。きっと上手くいくわ」
「そうじゃな。雄二と霧島なら大丈夫じゃろ」
「うん。霧島さんはともかく、雄二だっていくら何でもそこまでバカじゃ―――」
バァン!
バカじゃないと言いかけたところで教室のドアが勢いよく開いた。一体何事だろうか
「あれ、雄二?」
音の発生原因は件の人物、坂本雄二だった
しかし、どうしたんだろう?授業開始まで結構時間があるから急いで来たって訳でもないだろうし、それ以前に息を切らしている様子もない
そうなると考えられるのは霧島さん関係しかない。心なしか、怒りのオーラが見えているし。また何かあったのだろうか
「明久、姫路を見なかったか?」
「え、姫路さん?姫路さんなら霧島さんに話があるからってAクラスに行ったけど」
「・・・・・・やっぱりか・・・・・・!」
雄二が苦虫を噛み潰したような顔で呟く
「雄二、姫路さんがどうかしたの?姫路さんも雄二のこと探してたみたいだけど」
「どうしたもこうしたもあるか!翔子のところに行ってくる!」
そう言うや否や直ぐさまFクラスをあとにする雄二
「んむ?雄二が明久や霧島以外にあのような態度を取るとは珍しいのう。しかも相手は姫路のようじゃが・・・・・・」
「確かに、坂本にしてはちょっと珍しいわね」
二人の言う通り、雄二の態度はいつもと全然違うものだった
しかも相手は温厚な姫路さんのようだし、あれから霧島さんと何かあったと見て間違いないだろう
・・・・・・うーん、霧島さんには悪いけど、ちょっと気になる
「僕も霧島さんのところに行ってみようかな。美波と秀吉はどうする?」
「ワシも少々気になるの、ついていくとしよう」
「そうね、ウチも行くわ。まだ授業まで時間もあるし」
「じゃあ三人で行こうか」
こうして僕たちもAクラスに向かうことになった
「姫路!やっぱりお前の仕業か!」
Aクラスに着くとそんな声が聞こえてきた。この声は雄二か。Aクラスの教室は広いというのに、相変わらずよく通る声だ
声のした方に目を向けると、霧島さん、姫路さん、雄二の三人がいた。雄二が姫路さんに何か言い寄ってるみたいだけど・・・・・・
「な、何のことでしょうか?」
「とぼけんな!翔子本人がお前の案だと認めてるんだ!」
「翔子ちゃん、もしかして坂本君に話しちゃったんですか・・・・・・?」
「・・・・・・うん」
話を振られた霧島さんが小さく頷く。どうやら雄二にとっては大事のようだ
「雄二、どうしたのさ。少し落ち着きなよ」
「明久・・・・・・それに秀吉に島田も、何しに来たんだ」
「何しに来たって言うか・・・・・・雄二こそどうしたの?そんなに怒るなんて」
「怒ってるんじゃねぇ、呆れてるんだ!どいつもこいつも人を何だと思ってやがる!」
どう見ても怒っているようにしか見えないんだけど・・・・・・
「坂本、一体どうしたって言うのよ」
「島田の言う通りじゃ。雄二よ、何があったというのじゃ?よかったら、ワシらにも話してみては貰えんかの?」
そんな雄二を見かねたのか秀吉が提案する
確かに何があったのか聞かないとどうしようもないよね
「・・・・・・姫路が翔子に余計なことを吹き込みやがったんだ」
「余計なこと?」
「ああ。俺が謝っても許すな、とでも言ったんだろう」
謝っても許すなって、それを姫路さんが霧島さんに言ったってこと?
「姫路さん、それ本当なの?」
「えっと・・・・・・はい」
どうやら本当に言ったらしい。しかしあの姫路さんがそんなことを言うとは・・・・・・霧島さん、そんなに傷ついてたんだ。まあ確かに、あんなこと言われたら無理ないよね・・・・・・
「あの、霧島さん?」
「・・・・・・何?」
「雄二もさ、悪気があって言った訳じゃないから・・・・・・その、許してもらえないかな」
僕から霧島さんにお願いしてみる。はっきり言って野球大会のときの雄二は見ていられなかったし、それに、借りを一つ返しておくのもいいかもしれない
「・・・・・・うん。もう、許した」
「え、そうなの?」
「・・・・・・うん」
どうやら霧島さんは既に雄二のことを許していたらしい
それなら雄二は何に対して怒っていたのだろうか、全く予想がつかな———
「翔子ちゃん!それならもしかして、坂本君にキスして貰ったんですか!?」
「は?キス?」
今姫路さんが何か言っていたような
「ばっ、姫路!余計なこと言うな!」
「キスって・・・・・・瑞希、霧島さんに何て言ったの?」
「えっと、坂本君が謝ってきたら、何も知らないフリをしてキスをせがんじゃいましょうって」
「ほう・・・・・・姫路もなかなかの策士じゃのう」
ああ、成る程。だから雄二は姫路さんに怒ってたのか
それともう許したってことはつまり既に解決策をとったってことで霧島さんの顔が少し赤いのもそういう訳で殺意が沸いて来るのも自然なことであって・・・・・・!
「イヤッシャアアァ!」
「あっぶねぇ!?」
渾身のハイキックをギリギリのところで回避される
「てめえ、何しやがる!」
「黙れこの邪教徒め・・・・・・!異端審問会の血の盟約に背いた罪・・・・・・死をもって償うがいい!いでよ!盟友召喚!(サモン)」
さあ、この異端者を処刑するんだ!出てこい、僕の———
「バカかお前は!フィールドもないのに召喚獣を召喚出来る訳が———」
『これより異端審問会を執行する』
僕のクラスメイトたちよ!
「お、お前ら!いつの間に!」
『異端審問会会長、須川亮の名において命ずる・・・・・・殺れ』
『イエス、ハイエロファント』
「ちょっ、待て!これは誤解・・・・・・ぎゃあああああ!」
四十数名のクラスメイトを相手に抵抗するも、あえなく撃沈。今日もまた、世界の平和が守られた
『連れていけ』
『ハッ』
雄二を十字架に縛り付け、数人で運んでいく。流石はFクラスだ。どんな小さなことでも他人の幸せは見逃さない
「ま、待て!俺はキスなんかしていない!嘘だと思うなら翔子に聞いてみろ!」
「え、そうなんですか?翔子ちゃん」
「・・・・・・うん」
小さく頷く霧島さん
・・・・・・うーん、そうなると雄二は無罪放免になるだろう。しかし、それならどうして雄二を許したのだろうか
「・・・・・・その代わり、今度一緒に如月ハイランドに行くって約束した」
『連れていけ』
『ハッ』
やはり雄二の死は免れないようだ
「ま、待て!それなら明久はどうなる!俺と違って未遂じゃねーぞ!」
「さ、坂本!?何言ってるのよ!」
雄二が未だ抵抗し続ける
未遂じゃないって・・・・・・美波とのあれのこと!?
「ゆ、雄二!何で今になってあのことを蒸し返すのさ!」
『その通りだ坂本。あの件は、清水美春の協力を得て既に刑を済ませてある。往生際が悪いぞ』
「島田とじゃねえ!姫路とだ!」
「さ、坂本君!?どうして知ってるんですか!?」
ああ、ごめん姫路さん。僕が仕掛けられてない地雷を勝手に踏んだだけなんだ・・・・・・それと、今ので全部認めたことになるよね。事実確認がいらなくなったよね・・・・・・
『・・・・・・』
審問会の皆が無言で僕を見る
こういうときに使うべき諺を最近聞いたことがある。二十四でも三十八でもなくて、あれは確か・・・・・・ああ、そうだ。思い出した
「アキ、どういうこと———」
「三十六計逃げるに如かず!」
『逃がすな!追え!』
思い出すと同時に廊下へ脱出し、全力疾走する。それに続いてFクラスの皆も廊下に出ようとするが、人数が多いせいで上手く動けていない。咄嗟の判断だったが、我ながらナイスだ!
廊下を全力疾走しながらどうしたものかと考える。1対40ちょっとは分が悪すぎる。やはり時間はかかるが、ここは各個撃破するしかない!
「って、あれは・・・・・・ムッツリーニ?」
渡り廊下近くまで来るとFクラスから一人の生徒が出てきた。その生徒の小柄な体格から、性的欲求の満足に人生を捧げる男、土屋康太こと寡黙なる性識者(ムッツリーニ)であることがすぐに分かった
しかし、手に持っているものはどう見ても奴の得意武器であるスタンガンにしか見えない。さては、盗聴器でAクラスでの会話を聞いていたな・・・・・・!
・・・・・・待てよ、もしかしたらムッツリーニは僕を助けに来てくれたのかもしれない
いや、そうに決まってる!仲間を疑うなんて・・・・・・僕は間違っていたよ!
「・・・・・・・・・・・・明久・・・・・・覚悟・・・・・・!」
問題はヤツが仲間じゃないってことだ
「くっ・・・・・・!」
しかし、これはかなり厳しい。前方にはムッツリーニ、後方には多数の敵。いくら前方の相手が一人とは言え、この狭い廊下で素早いムッツリーニを凌ぐのは至難の業だ。そして後方は論外でしかない。こうなったら・・・・・・
「ムッツリーニ!没収品の中に至高の一冊があるんだ!それで手をうたないか!」
「・・・・・・・・・・・・逃げるぞ明久」
懐柔作戦成功。けど、ごめん。多分戻ってこないと思う
というかムッツリーニ、海行ったときは何もしてこなかったじゃないか・・・・・・何で今回に限って・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・相手が多すぎる。一旦退くぞ」
「了解!」
ムッツリーニと合流して、そのまま走り続ける。仲間が増えたものの、圧倒的に劣勢なのは変わらない。もう少し人手がいる。そうなると頼れるのは・・・・・・
「ムッツリーニ!階段を使って上手く迂回しながらAクラスに戻ろう!雄二を仲間に引き込むんだ!」
「・・・・・・・・・・・・(こくり)」
隣でムッツリーニが頷く。雄二はおそらく縛られたままだろう。アイツがいればかなりの戦力になるはず!
『逃がすな!なんとしてでも捕まえろ!』
クラスメイトの声を背に、僕達は階段を駆け降りた
場所は変わってAクラス。中に敵がいないことを確認してから入る
追っ手に気付かれないように来たから少し時間はかかったけど、特に問題はない。途中で数名と戦闘になったが、現代の忍者ムッツリーニの敵ではなかった
「ですから・・・・・・そういうわけで・・・・・・」
「ずるいわよ・・・・・・いつの間に・・・・・・」
「でも・・・・・・美波ちゃんは私と違ってファースト・・・・・・」
「まあまあ・・・・・・これでおあいこというのはどうじゃ」
「・・・・・・二人とも、凄い・・・・・・」
姫路さん、美波、秀吉、霧島さんが集まって何か話しているみたいだけど、今はそっちを気にする余裕はない
「雄二!」
四人が話している場所から少し離れていたものの、目当ての人物を見つけその名を叫ぶ。雄二はやはり十字架に縛り付けられたままだった
というか予想はしていたけど、教室で人が縛り付けられているというのに誰も助けないとは・・・・・・Aクラス・・・・・・流石だ
しかしそれが今の僕にとって有り難いのは事実だ、一応感謝しておこう。その図太い神経に
「明久、わざわざ戻ってきたのか?」
雄二が顔だけを僕の方に向けて返事した。どうやら気絶させられた、なんてことは無いみたいだ。それならやるべきことをさっさとやってしまおう
「雄二。助けて欲しかったら、僕達に協力するんだ」
「何だ?交渉のつもりか?悪いが俺は自力で脱出するつもりだ。時間はかかるだろうが、今の連中のターゲットはお前だけだ。問題はない。それに、俺がお前に協力するメリットもないしな」
この野郎・・・・・・!そっちがその気ならこっちだって!
「協力しない、と言うのならこっちにだって考えがある」
「今度は脅迫か?バカのお前にそんなこと出来るはず———」
「今から霧島さんをここに呼ぶ。キスでも何でもされてしまえ」
「協力しよう。俺に作戦がある」
流石は元・神童。もう作戦をたてたのか
「よしっ、交渉成立だね」
「てめぇ・・・・・・いつか殺す・・・・・・」
雄二の言葉を無視して拘束している鎖の解除に取り掛かる。堅く縛られているせいでなかなか解けない
というかこのまま解いていいのだろうか。残虐非道なこいつのことだ、用が済んだら見捨てられるかもしれない
「雄二、まさか解いた瞬間『さらばだっ』とか言って逃げたりしないよね?」
「安心しろ。人を騙すのはよくやるが、約束を破るような卑怯な真似はしない。根本と一緒にするな」
成る程、雄二には雄二なりのプライドってやつがあるらしい
「それならいいや・・・・・・よし、出来たっ」
「ったく、翔子の奴、余計なこと言いやがって」
苦戦すること数分。何とか敵が来る前に解除が完了した。とりあえず第一関門クリアってところだ
「で、作戦って?」
しかしここからが問題だ。味方は3人、敵は少し倒したけどまだ40人弱いる。雄二の作戦とやらに期待するしかない
「いたって単純なものだ。相手を個別に撃破していく。さっきあいつらが、E部隊がやられたって言っていたからな。おそらく、6部隊ぐらいに別れているんだろう」
成る程、さっきの敵はE部隊だったのか
「1部隊7人で、こっちは俺と明久とムッツリーニの3人。油断しなければ問題無い。それと、援軍を呼ばれると面倒だからな、見つけ次第速攻で全員潰せ」
「「了解!」」
僕とムッツリーニが威勢よく返事をする
「明久、お前は召喚獣も出して戦え」
「え?フィールドが・・・・・・って雄二の腕輪があるか」
召喚獣というのは、ここ文月学園に設置された『試験召喚システム』によって生み出された自分の分身みたいなものである
点数によって強さが変わり、僕程度の点数でも成人男性の何倍もの力を持っていたりする
勿論、そんな危ない物がそう簡単に使える訳ではない。教師が立会人になることでその教師の担当科目のフィールドが形成され、そこで初めて召喚が出来るようになる
ただ、雄二が持っている白金の腕輪を使えば、生徒でもフィールドを形成することが出来る
科目はランダム、点数を消費する、フィールド形成中は自分は召喚出来ない等デメリットは多いけどね
それと、普通の召喚獣は特殊加工がしてある学園の床と壁と相手の召喚獣以外は触れないんだけど、僕は『観察処分者』というちょっとお茶目な16歳に与えられる称号を貰ってしまったので、机とか椅子とかも触れる召喚獣が出せたりする
疲労や痛みが何割かフィードバックするという条件付きで
「そういうことだ。いくぞ!起動!」
「それじゃ早速・・・・・・試獣召喚!」
雄二の掛け声によりフィールドが形成される。それを確認した僕が召喚獣を呼び出す
足元に幾何学的な模様が浮かび、次いで80センチ程のデフォルメされた僕の姿がいつものように———
「・・・・・・あれ?」
魔法陣のような物は出たけど、肝心の召喚獣の姿が無い。辺りを見回してみてもいないし、僕の召喚獣は何処にいったんだ?
「どうした?」
「いや、何か召喚獣が見当たらないんだけど・・・・・・」
「は?何言ってんだ?」
「いや、何って言われても・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・木刀?」
「え?」
ムッツリーニが僕の右手を見ながら言った
木刀って、そんなもの持ってる訳・・・・・あった
「・・・・・・何これ?」
「木刀じゃねえのか?」
「いや、それは分かるんだけど・・・・・・」
手に持っている木刀をじっと見る。うん、紛れも無い木刀だ。それにしても、いつの間にこんなもの持っていたんだろう。僕には木刀を持ち歩く趣味はないし
それにこの木刀、体の一部なんじゃないかってくらい違和感がない。実際、ムッツリーニに指摘されるまで気付かなかったし
『いたぞ!吉井だ!』
ふとそんな声が聞こえた。まずい、どうやら敵が戻ってきたようだ
「やばっ!見つかった!」
「ちっ!こうなったら召喚獣無しでやるぞ!」
「了解!」
予想外の事態が発生したが作戦変更はしないようだ。せっかくだからこの木刀は使わせて貰おう
『『『うおおおおっ!!!!』』』
相手が叫び声と共に突撃してくる。真っ先に誰を沈めるべきか考えていると
「召喚フィールドが形成されてると思ったら・・・・・・吉井!坂本!またお前らか!!!」
怒髪天をつく勢いで補習担当教師兼Fクラス担任の西村先生、通称鉄人が乱入してきた
「まずい!鉄人だ!」
「明久、ムッツリーニ!撤退だ!相手が悪すぎる!」
『A部隊!総員退避!それと、全部隊に退避命令を伝えるんだ!』
鉄人を見た瞬間、敵味方を問わず全員が撤退を始めた。鉄人の恐ろしさはFクラスの男なら誰でも知っている。妥当な判断だ
「性懲りもなく馬鹿なことをやりおって・・・・・・キサマら全員鉄拳制裁だ!覚悟しろ!!!」
「「「遠慮します!」」」
こうして僕、雄二、ムッツリーニ対異端審問会だった戦いは鉄人対Fクラスの男全員という構図になった
勿論、結果は火を見るより明らかなんだけど・・・・・・
「それではホームルームを終了する。全員、授業の用意をしておくように」
鉄人が出席確認を終えて教室から出ていく。さっきまで47人の男子高校生を相手にしていたとは思えない程落ち着いていた
あの教師、本当に人間なのか・・・・・・?
「いつも以上に容赦がねえ・・・・・・あの野郎・・・・・・覚えてろ・・・・・・」
隣でちゃぶ台に突っ伏しながら恨み言を言う雄二。あれから抗戦してみたもののあえなく全員撃沈となった。現在Fクラスは散っていった戦士のうめき声で溢れている
「二人とも、大丈夫ですか?」
姫路さんが心配そうに声を掛けてきた。それだけで少し痛みが和らいだ気がする・・・・・・
「いいのよ、瑞希。自業自得なんだから」
そう言いながら呆れた目で僕達を見る美波
確かに美波の言う通り自業自得なんだろうけど、僕はどちらかと言うと巻き込まれただけな気がする
そういえば、姫路さんとのキスについては、姫路さん本人が既に美波に事情を説明したらしい
それを何で雄二が知ってたのか聞かれたから正直に答えたら「なんだか明久君らしいです」と言われた
雄二に騙されるのが僕らしいってことだろうか。それはちょっと屈辱的すぎる・・・・・・
「お主らは特に殴られておったからのう」
「畜生、毎度毎度目の敵にしやがって・・・・・・俺が何をしたって言うんだ」
「全くだよ・・・・・・僕は何もしてないのに・・・・・・」
「あんた達、自覚ってものがないの・・・・・・?」
自分が被害者だっていう自覚ならある
「本当に大丈夫ですか?皆さんとても辛そうなので・・・・・・」
「有難う姫路さん。でも僕は特に問題無いかな。他の皆は結構重傷みたいだけど・・・・・・」

Fクラスの皆はちゃぶ台に突っ伏したり横になったり腰をさすったりしている。うめき声のせいでゾンビにしか見えない
・・・・・・辺り一面にゾンビしか見当たらない光景はちょっと不気味だ
「んむ?それにしては雄二はかなり弱っておるようじゃが・・・・・・」
「うーん、でも本当に何ともないんだよね。むしろ、いつもより痛くなかったぐらいだよ」
殴られたから当然痛いけど、いつもよりは酷くなかった。僕より体を鍛えているはずの雄二が痛そうにしているのが不思議に思える
・・・・・・もしかして、脳が痛みをシャットアウトしたのだろうか。許容範囲を超えた痛みを受けると自己防衛本能が働くだとか
・・・・・・そうだとしたら、僕の体かなりまずいことになってるんじゃ・・・・・・
「それより明久。お前、木刀はどうした?」
自分の体を本気で心配していたら雄二がふとそんな質問してきた
木刀・・・・・・。そういえば、そんなものを持っていたような気がする。確かあれは・・・・・・
「気付いたら消えてた」
「・・・・・・なんだそれ?」
「なんだそれって言われても・・・・・・」
いつの間にか持っていた木刀はいつの間にか消えていた。結局あれが何なのか分からなかったなあ・・・・・・
「お主らは何の話をしておるのじゃ?」
「そういえば秀吉達は知らなかったっけ。さっき召喚獣を召喚しようとしたら木刀が出てきたんだ」
「木刀・・・・・・ですか?」
「うん。しかも、肝心の召喚獣は出てこなかったし、何だったんだろ・・・・・・?」
以前も似たようなことはあったけど、出るタイミングが遅かったり、いつもと違う姿だったりしただけで召喚獣自体はきちんと出てきた
召喚獣がいればある程度どんな不具合か予想出来たかもしれないけど、今回のようなケースは見たことがない
「そういえばアキの召喚獣って木刀持ってなかった?」
「持ってるけど・・・・・・何か関係あるのかな。雄二はどう思う?」
こういう時は雄二に聞くのが一番早い。コイツならもう全部分かってるんじゃないか
「そうだな・・・・・・」
肝心の雄二は顎に手を当てていた。これは雄二が何か考え事をするときの癖みたいなものだ
・・・・・・どうでもいいけど、ちゃぶ台に突っ伏しながら顎に手を当てている光景はなかなかにシュールだ
「ある程度予想はつくが・・・・・・分からないことが多すぎる」
どうやら流石の雄二も今回のことは分からないらしい。それでもある程度予想出来ているんだからたいした男だ
「ここで考えていても仕方ねえ。ババアんとこ行くか」
「そうだね。僕も行くよ」
僕と雄二が同時に立ち上がる。開発者である学園長なら何か知っているかもしれない
試験召喚システムは僕達にとって大事なことだ。放っておく訳にはいかない。善は急げってやつだ
「お主ら、もうそろそろ授業が始まるのじゃが」
「心配しなくても大丈夫だよ」
授業開始まで時間が無いと言いたいのだろう。うん。大丈夫、大丈夫。
『それでは授業を始める。全員席に———吉井!坂本!キサマら何処に行く!!!』
「しまった雄二!鉄人が来た!」
「明久、走れ!ババアんとこ行けばこっちのもんだ!」
「了解!」
だって授業サボるのが目的だから
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・んで、どういうことだ。クソババア」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・教えてください。ババア長」
追ってくる鉄人からなんとか逃げ切って学園長室に入る。これで一安心だ
「・・・・・・アンタたち、本当に教えて欲しいと思ってるのかい?」
学園長が溜息混じりにそんなことを言う。何を言ってるんだろうか、きちんと教えてくださいって言ったじゃないか
「召喚獣が出てこないなんて前代未聞じゃねえか。今度は何をやらかしたんだ」
学園長の質問を無視して雄二が聞く
確かに文月学園は試験の点数による召喚獣が特徴なのに、肝心の召喚獣が出てこないってのは致命的だ
「システムを変更したんだよ。バカなアンタらにも分かるようにね」
「システムを変更って・・・・・・召喚獣がいなくなったのに?今回はどう見ても失敗じゃないですか?」
「これが失敗に見えるようなら、アンタの目は相当な節穴さね」
こ、このババア・・・・・・!
「まあ待て、明久」
「雄二、どうしたの?」
「ババアの言う通りだ。失敗なんかしていない」
あれ?雄二は失敗だとは思ってないのかな。さっきは前代未聞なんて言っていたのに
「そうなの?」
「ああ。生徒と教師の心温まる交流を計画してくれた学園長(笑)がシステムの調整ミスなんかするはずないだろ?」
「一言多いんだよクソジャリ」
一言多いのは学園長もそうだと思う
「大方、あの自慢の野球仕様から元に戻そうとして失敗したってところか。歳を考えないではしゃぐからこうなるんだ」
「本当に一言多いガキだね!」
あ、やっぱり失敗だったんだ
「で、結局どういうシステムになったんだ?」
「・・・・・・召喚者が召喚獣になったようなもんだよ。召喚獣は召喚武器っていう扱いになってるさね」
「成る程。やっぱりそうだったか」
「成る程って、雄二はもう分かったの?」
僕はまださっぱり分からないんだけど
「ああ。今、召喚バトルをやろうとしたら召喚者同士の戦いになるってことだ。お互いに自分の召喚獣が持ってた武器を持ってな。さっきお前が持ってた木刀はまさにそれってことだ」
「召喚者同士の戦いって・・・・・・殴り合いの喧嘩ってこと?それって危ないんじゃないの?」
普段の召喚バトルは召喚獣同士の戦いだから危険性は無いけど、今度の仕様では話が別だ。相手が怪我する可能性だってある
「接触直前にシステムのほうが衝撃を計算して、召喚者を吹き飛ばすようになってるさね。召喚獣のように力が強くなってるから勢いよく吹き飛ぶよ。
衝突も、壁に施された特殊加工が衝撃を吸収するから安心しな」
何がなんだか分からない
「どういうこと?」
「つまり、ジャンプすれば普段の何倍も高く飛べるし、相手を殴れば相手は勢いよく吹き飛ぶ。そして、殴られた相手は痛みを感じないし、体に害は無いから大丈夫ってことだ」
「・・・・・・何だか随分派手になったね」
「召喚システムの特殊仕様だよ。戦闘不能になるとシステムロックがかかって行動不能になるし、まだまだ研究の余地がありそうだよ」
そこまでリアルな仕様になってるんだ・・・・・・何処かの少年漫画みたいな戦いになりそうだ
「ちなみに、さっき明久が鉄人に殴られてもあまり痛くなかったのはこれのせいだな」
「何で?」
「お前の召喚獣は痛みを何割かフィードバックするだろ?逆に言えば、召喚獣状態のお前はいつもの何割かしか痛みがないってことだ」
何でそこまで忠実に再現するんだろう・・・・・・これで召喚バトルをやったら僕にとってはただの喧嘩じゃないか
というか相手の力が強くなってるせいでいつもより酷い目にあうんじゃ・・・・・・
「さて、今度はどんな催し物をやってくれるんだ?」
新システムでの戦いを想像していたら雄二がそんなことを言っていた
「催し物?」
「前にも言っただろ。仕様を変更したからには、何か目的があるはずだって」
目的?もしかして肝試しや野球大会のことかな
「そろそろ来ると思ってたからね、ほとんど準備は終わってるよ」
「土日の間に隠蔽工作を済ませたのか。手慣れたもんだな」
「いちいちうるさいんだよクソガキ。ほれ」
そう言って学園長は一枚の紙を渡してきた。なになに・・・・・・
「第2回召喚大会リターンマッチ?召喚大会って学園祭のときにやったアレですか?」
「それ以外に何があるって言うんだい」
それもそうだ
「ほう・・・・・・上手く考えたもんだな」
「何が?」
「今回の仕様をよく考えてみろ。今召喚バトルをやれば、いくら痛くないからって第三者が見ればただの喧嘩にしか見えないだろ」
確かにその通りだ。僕だけは普通に痛いけどね
「当然倫理的に問題有りって文句が出てくる。しかし、新システムに興味のある奴だっている。
だから『新システムを公表しろ。そうすれば倫理的な問題には口出ししない』っていう連中を黙らせるために召喚大会をやるって訳だ」
「・・・・・・色々と大変だね」
「どっかのクソガキどもが学園の評判を下げるからね」
そうだったのか。それならきちんと謝らないと
「うちのバカ雄二が迷惑をかけてスミマセン」
「何で俺なんだよ。お前のせいだろクズ」
「アンタら両方だよクソガキ」
「「なんだとこのクソババア!」」
雄二と同じだなんて学園長は何を見ているんだ。そろそろ老眼鏡をかけた方がいいんじゃないか?
「それにしても明日と明後日とは急な話だな。参加者は集まるのか?」
学園長の視力を心配していると雄二がまた別の質問をしていた。システムの急な変更に召喚大会。疑問は絶えないね
「今回は他校の学生も参加することになってるからね。他校の枠はすぐに埋まったよ。その代わり、この学園の3年は受験を考えて出場出来ないけどね」
「3年ってことは・・・・・・常夏は出ないのか」
「あの二人は何かと僕達を目の敵にするからね・・・・・・」
学園長が3年の出場を禁止してなかったら多分出場してきたと思う。野球大会のときも僕達相手のときだけわざわざピッチャーとキャッチャーやってたし、そんなに恨み買ったかなあ・・・・・・?
「アイツらは出る気が無かったみたいだよ」
「え?そうなんですか?」
あの二人ならまた僕達を馬鹿にするために出ると思ってたのに、心を入れ換えたのだろうか
もしかしたら深くなってしまった2年と3年の溝を埋めるために努力しているのかもしれない
いや、そうに違いない!あの二人もそれが先輩としての在り方だとようやく気付いてくれたのか!感動で涙が止まらない!
「『あの女怖えよ!もう召喚獣なんか見たくねえ!』って言ってたけど、何のことやら」
涙が止まらないのはきっと感動してるからだ
「ん?・・・・・・おいババア・・・・・・この優勝商品の如月ハイランドプレミアムペアチケットってなんだ・・・・・・」
「なんだも何も、これのことさね」
そう言って学園長が机の引き出しから2枚のチケットを取り出して雄二に渡す
・・・・・・『如月ハイランドプレミアムペアチケット』・・・・・・うん。確かにこれのことだ
「そういうことを言ってるんじゃねえ!何でまたこんなもん持ってるんだって聞いてるんだ!」
「結婚させるのは失敗したらしいけど、ウェディング体験が思いの外好評だったみたいだね。感謝の印としてまたくれたんだよ」
学園長が言ってるウェディング体験というのは、如月ハイランドを訪れたカップルは幸せになれるというジンクス作りのことである
そのために企業として、多少強引な手を使ってカップルを結婚まで持って行こうとしたことがあった
前回の大会で優勝した僕は、そのチケットを霧島さんにあげて霧島さんと雄二でウェディング体験をやったんだけど、途中で色々あって結局失敗しちゃったんだっけ
けど、あれ好評だったんだ。まあ霧島さん綺麗だったし、あれに憧れる女の子も多そうだしね
「・・・・・・例のふざけた話はあるのか?」
雄二が言ってるのはウェディングシフト(命名:僕)のことだろう。またあるのなら、今度こそこの男を人生の墓場に送り返せるかもしれない
「いや、今回は聞かないね。何も無いみたいだよ」
「そうか・・・・・・それを聞いて安心した」
僕は非常に残念だ
「そういえば霧島さんと如月ハイランドに行く約束したって聞いたけど」
「ああ。多分、アイツは出場するだろうな。まあ例の噂作りも無いみたいだし、今回は俺はパスだな」
「あれ?雄二は出ないの?」
まあ興味の無いことにはかなり冷たい雄二のことだから出ないってのは予想してたけど
「なんだ、お前は出るのか?」
「うーん・・・・・・僕もパスかな」
前回は姫路さんの転校を阻止するっていう目的があったけど、今回は違う。優勝しなきゃいけない理由は無い
新システムに興味が無いって言えば嘘になるけど、わざわざ痛い思いをするのは御免だ
「悪いけど、アンタらは強制参加になってるさね」
何を言ってるんだこの老婆は
「おいクソババア。何勝手に決めてやがる」
「そうですよ。僕達の都合も考えてください」
「アンタらの都合なんか知らないよ。これは学園の行事だ。生徒は参加義務がある。リターンマッチだから、前回の優勝者であるアンタらは強制出場って訳さ」
「ったく。面倒なことしやがって・・・・・仕方ねえ一回戦だけは付き合ってやる。あとは適当に手抜いて負けるとするか」
「そうだね。はあ・・・・・・面倒臭いなあ・・・・・・」
まさか前回の優勝がこんなところで響くとは
「おや、吉井はいいとして坂本はそれでいいのかい?」
「あん?何が言いたいんだ?」
「優勝商品にさせて貰う関係もあるからね、如月ハイランドグループには今回の大会のことは知らせてあるよ。文月学園からは2年しか出ないってこともね」
「だが、今回は変な噂は聞かないんだろ?」
「ああ。だが、またアンタが来たらどうするだろうねえ。一回でダメでも二回で成功したとなれば、いい宣伝文句になるんじゃないかい?」
「なっ!?そんなこと———」
「無い。とは言い切れないとアタシは思うけどね」
「ぐっ・・・・・・!」
学園長の言葉に雄二が黙ってしまう。そうやって僕を会話からおいていかないで欲しい
「雄二、何を言ってるのかよく分からないんだけど・・・・・・」
「・・・・・・以前、俺と翔子が変な噂作りのターゲットにされたのは覚えてるよな?」
「うん」
だって僕も参加してたから
「前回はなんだかんだで失敗した訳だが・・・・・・今回はどうなると思う?」
「どうなるって・・・・・・今回は何も無いんじゃないの?学園長も何も聞いてないって言ってるし」
「ああ。だが俺と翔子なら話は別だ。俺達は一度ウェディング体験をやっている。もし二回目で成功すれば『訪れる回数が多い程、より幸せになれる』というふざけた暗黙の了解が出来上がるってことだ。
それに3年が出てこない以上、2年の学年首席である翔子が優勝することも容易に想像出来る。向こうがまた何か仕掛けてくる可能性はかなり高い・・・・・・」
えっとつまり、プレミアムチケットを使ったのが他の誰かなら何もしないけど、雄二と霧島さんだったらウェディングシフトリターンズってことかな
・・・・・・もしそうなら、今度こそこの男を人生の墓場に送り返せるってことじゃないか
「明久、事情が変わった。何としてでも翔子の優勝を阻止するぞ」
「へいへい、りょーかーい」
霧島さんのためにも、ここは一肌脱ごう。一途な女の子は報われるべきだよね
「・・・・・・お前、わざと負けて俺と翔子を結婚させよう、何て考えてないか?」
「え?やだなぁ、そんなこと考えてないって。僕は一途な女の子を応援してるだけだよ」
「・・・・・・アキラさんっていつ頃戻ってくるんだ?」
「え?姉さん?うーん・・・・・・分からないけど、もうそろそろじゃない?それがどうかしたの?」
「翔子の優勝を阻止出来なかったらお前の学校生活をバラす」
「外道!この外道!」
前にも似たような感じで脅迫されたような気がする。そろそろこの男の口を封じておいたほうがいいかもしれない・・・・・・
「どうやらやる気になったみたいだね。それじゃ、負けないよう頑張りな」
「くそっ。何で俺がこんな目に・・・・・・」
「それはこっちの台詞だよ・・・・・・」
こうして文月学園最低コンビが再結成した

バカテスト、召喚バトル
第二問
システムの変更により、現在適用外となっている試験召喚戦争の第七ルールを答えなさい

姫路瑞希の答え
戦闘は召喚獣同士で行うこと。召喚者自身の戦闘参加は反則行為として処罰の対象となる
教師のコメント
正解です。今回の仕様変更は、姫路さんには厳しいものかもしれませんね

土屋康太の答え
書きたいが余白が足りない
教師のコメント
そうですか。それではあとで補習室で反省文と一緒にじっくりと書いてもらうことにします

吉井明久の答え
戦闘は好きなキャラ同士で行うこと。他作品キャラの戦闘参加はコラボバトルとして妄想の対象となる
教師のコメント
君は一体何を言ってるんですか

日付が変わって火曜日、今日は召喚大会の一、二、三回戦がある。今回も前回と同じで、一日目に一回戦と二回戦と三回戦。二日目に四回戦と準決勝と決勝をやることになった
「ほら、姫路、島田。トーナメント表だ」
「あ、坂本君。有難うございます」
「また変な細工してないわよね?」
「安心しろ。今回は本物だ」
姫路さんと美波が雄二からトーナメント表を受け取る。美波は前回、トーナメント表に細工されたせいで負けたから警戒しているのだろう
「それにしても意外だね。姫路さんと美波も参加するなんて」
前回は僕達と同じで、事情があったから出場せざるを得なかったけど、今回は違う。美波は見世物みたいで嫌だとまで言っていたのに。それに、今回の仕様変更は女の子にはつらいんじゃないかな
「もしかして、チケットが目的?」
「!?え、えぇ。まぁ・・・・・・そんなところよ・・・・・・」
「は、はい。私もです・・・・・・」
どうやら二人とも、如月ハイランドのチケットが目当てらしい。学園長の言ってた通り、意外と好評みたいだ
「お前らが優勝してくれれば、俺にとっても最高なんだがな・・・・・・」
「組み合わせが悪かったね・・・・・・」
64のペアがそれぞれABCDのブロックに分けられて、ABブロック、CDブロックそれぞれの勝者が準決勝、さらにその勝者が決勝に進める訳なんだけど

坂本雄二、吉井明久・・・・・・Bブロック2番
姫路瑞希、島田美波・・・・・・Bブロック9番
霧島翔子、工藤愛子・・・・・・Aブロック15番

となってしまったのである。霧島さんは今回は工藤さんと出るらしい
「霧島さんの優勝を阻止するには準決勝まで行かないとね・・・・・・」
「姫路と島田がAブロックならよかったんだがな。四回戦が日本史、準決勝が世界史なのが唯一の救いか」
今回は教科の指定は出来なかったけど

一回戦:数学
二回戦:化学
三回戦:保険体育
四回戦:日本史
準決勝:世界史
決勝:総合科目

となっているおかげで、姫路さん、美波ペアと当たる可能性のある四回戦、霧島さん、工藤さんペアと当たる可能性のある準決勝がかなり楽になった
「お、秀吉にムッツリーニ。ほら、トーナメント表だ」
トーナメント表を眺めていたら、いつの間にか近くにいた秀吉とムッツリーニが雄二から同じ物を受け取っていた
「おお、有難うじゃ」
「あれ?秀吉とムッツリーニも出るの?」
「・・・・・・・・・・・・(こくり)」
「うむ。今回の大会は面白そうじゃからな。ワシとムッツリーニで出ることにしたのじゃ」
秀吉とムッツリーニのエントリーナンバーを確認してみたら、Dブロック16番だった。どうやら霧島さんの優勝阻止には貢献できないようだ
「っと、そろそろ俺らの試合か」
「あれ?もうそんな時間?」
「じゃあワシらは生徒用の観客席で応援しておるからの、頑張るのじゃぞ」
「おう。行くぞ、明久」
「了解っ」

場所は変わって選手入場口。ここで前の試合が終わるのを待つことになっている
「ところで雄二」
「何だ?」
「霧島さんの試合は見なくてもよかったの?何か手掛かりが得られたかもしれないのに」
「ああ。残念だが、翔子の試合の直後が俺達の試合だからな」
「そういえば自分の試合の前の試合が始まるまでには、準備を終えてないとダメなんだっけ」
「そういうことだ」
組み合わせの関係もあって、霧島さんの試合は今後も見ることが出来ない。ただ、会場から生徒用観客席までが割と遠いので向こうも僕達の試合を見ることが出来ないだろう
お互いにあまり情報が無い状態で戦うことになりそうだ
「それより、今は目の前の試合に集中しろ。いきなり負けたら話にならんぞ」
「それもそうだね」
他のことを考えて足元掬われたんじゃ意味がない。今は一回戦のことだけを考えよう
『流石はAクラス!きっちり勝利を収めました!霧島、工藤ペア!』

「どうやら終わったようだな。結果も妥当なものか」
会場からアナウンサーの声が聞こえた。当然と言えば当然だが、霧島さんペアの勝利だったようだ。やはり準決勝での衝突は避けられまい

『では、次の試合の選手入場です!』

「二人とも、入場してください」
案内の先生に促されて会場に入る。それと同時に盛大な拍手が雨のように降ってきた
会場の観客席は全て埋まっていて、しかもかなりの熱気に包まれている。試験召喚システムが世界的に注目されていることを改めて実感させられる光景だ
前回は、一回戦と二回戦では観客がいなかったから余計にそう感じてしまう
「二人とも、頑張ってください!」
「負けたら承知しないわよ!」
会場の熱気に圧倒されていると、観客席から姫路さんと美波の応援が聞こえてきた
生徒用観客席は普通の観客席より近い位置にあるから、声を大きくすれば会話くらいは出来たりする。味方に作戦を告げたり敵に虚言を吹き込んだりと、色々と使い道は多そうだ

『まずは、前回、最下級のFクラスでありながら2年Aクラス、3年Aクラスを抑えて見事優勝した坂本、吉井ペアです!』

観客席がより一層盛り上がる。まさか優勝したというだけでここまで注目を浴びることになるとは思ってもいなかった
普段の僕は別の意味で注目を浴びてるけどね・・・・・・
「さて、初戦の相手はアイツらか」
雄二の言葉を聞いて反対側の選手入場口を見ると、二人の女子生徒が歩いてくるのが分かった
はて、見覚えがあるような。確かあの人は・・・・・・
「全身筋肉質の人だっけ?」
「アンタは私に喧嘩売りにきたの!?」

『対するは、2年Eクラス、中林、三上ペア!』

そうだ、思い出した。中林さんだっけ、Eクラス代表の
「ラグビー部所属だっけ?」
「離して美子!このバカは一回殴らないと分からないのよ!」
まずい、相手をヒートアップさせてしまった
「まあまあ、宏美ちゃん!落ち着いて!」
「く・・・・・・っ!いいわ、野球大会では負けたけど、私達の方が上だってことを教えてやるわ」
三上さんが宥めることでどうやら落ち着きを取り戻したようだ
Eクラスは野球大会の初戦の相手だったんだけど、代表挨拶や僕のデッドボールの影響で中林さんとの関係は絶望的になりつつある
3年生全体からも恨まれているし、僕はどうやら恨みを買いやすいタイプらしい。何もしてないのに・・・・・・
「明久、作戦を言うぞ」
「え、作戦?」
自分の不必要な体質を嘆いていたら突然雄二がそんなことを言い出した
でも一回戦は数学だから雄二はBクラス並の点数だろうし、そんなもの必要無いと思うんだけど・・・・・・
「作戦というか基本方針だな。別にこの試合に限ったことじゃない。一回戦はこの基本方針がどれくらい有効か調べる目的もある。試合時間が10分しかない以上、無駄な動きは控えておきたい」
ああ、成る程。そういうことか
試合時間が10分を過ぎたら引き分けになるんだけど、実際には両者敗退という形になるんだっけ。それだけはなんとしてでも避けないと
「で、どうするの?」
「お前が点数高いほう、俺が点数低いほうを相手にする」
何を言ってるんだコイツは
「雄二!キサマ人に面倒事を押し付けたいだけじゃないか!」
「まあ待て。話は最後まで聞け。別に相手を倒せって言ってるわけじゃない。いけると思ったら攻撃すればいいし、危ないと思ったら防御や回避に専念すればいい。分かりやすく言えば、時間を稼いでくれってことだ」
「それでどうするの?」
「その間に俺がもう片方を倒す。そうすればあとは2対1だから楽だろ。この試合なら、お前の相手は中林だ」
「成る程」
確かにそれなら割と楽に戦えそうだ。召喚獣の操作でもそうだったけど、回避に関してなら僕はそこそこ自信がある。効果が期待出来そうな作戦だ
「アンタ達、敵の目の前で作戦会議ってバカじゃないの?作戦だと分かっててそれに乗る訳ないじゃない。私は坂本を狙うわよ」
相手に聞かれてなければね

『それでは、選手の皆さん。召喚してください』

会場に数学の召喚フィールドが形成される。ちなみにこの会場限定でフィールド形成が操作可能なので、今この場には普段いるはずの担当教師がいない。フィールドの範囲も会場全体なので縦横無尽に戦うことができる
「「「「試獣召喚っ!」」」」
呼び声に反応して、それぞれの生徒の元に武器が出現する
僕の武器は以前見た木刀、雄二の武器はメリケンサックだった。召喚獣が装備していた武器がでてくるというのは本当だったのか
対する中林さんはバット、三上さんは本を持っていた
電光掲示板に全員の点数が表示される

『Fクラス 坂本雄二 & Fクラス 吉井明久
数学 179点 &  63点』

『Eクラス 中林宏美 & Eクラス 三上美子
数学 96点 &  81点』

「く・・・・・・っ!何よこの点数・・・・・・!」
中林さんが驚くのも無理はない。雄二の点数はBクラス並だからだ。相手二人の点数を合計しても雄二の点数に届いていない
これだけの点数差だし、中林さんも雄二のことを狙うって言ってたから、今回は作戦無しでいいんじゃないのかな
「まあこの点数差だし相手はEクラスだし、作戦なんか無くてもいいんだけどな」
雄二が相手を見下すように言う。あれ?さっきはどれくらい有効か調べるって言ってたのに、いいのかな?まあ僕も必要ないとは思うけど
「言ってくれるじゃないの・・・・・!」
「———と明久が言っていた」
なんてことを
「殺すわ」
中林さんが僕を睨む。まずい、ただでさえ絶望的だった隣のクラスの代表との関係が完全に修復不可能になってしまった。3年よりも隣のクラスとの溝のほうが深くなるなんて・・・・・・
「中林さん落ち着いて!これは僕を狙わせるための雄二の作戦だから!」

『では、召喚大会一回戦第9試合を開始します』
「問答無用っ!」
開始宣言と同時に中林さんが一瞬で間合いを詰める。ダメだ、完全にターゲットロックされている
「うわっ!・・・・・・っと」
相手の攻撃をギリギリで回避したあとバックステップで距離をあける
「明久!そっちは任せたぞ!」
そう言いながら雄二は三上さんとの戦闘態勢に入っていた。あの野郎・・・・・・やはり最初からこうするつもりだったんじゃないか
「覚悟しなさいっ!」
「よっ・・・・・・と」
「く・・・・・・っ!逃げ回らないで大人しく殴られなさいよ!」
それは無理な注文だ
「よっ・・・・・・ほいっと」
それにしても、脚力があがっているおかげで自分の体だとは思えないぐらい軽い。色んな方向にステップしたりジャンプで相手の攻撃を避けたりするのが結構面白い。新システム、案外いいかもしれない
「さて、割と慣れてきたし。逃げ回っていても仕方ないか」
「ふん!さっさとかかってきなさい!」
防戦から一転して反撃の準備をする
「それじゃ———」
「どっせーい!」
「きゃっ!」
反撃しようとした瞬間、中林さんは雄二の攻撃で吹き飛んでいた。反対側の壁まで吹き飛ばされたのを見ると、どうやら腕力があがっているのも本当らしい
「・・・・・・って何で雄二が!?三上さんはどうしたの!?」
「もう倒したぞ、ほれ」
雄二が指差した方向を見ると、そこには三上さんが倒れていた。システムロックとやらで動けないのだろう。しかし、あの短時間で倒したというのか・・・・・・相変わらず喧嘩だけは強いな
『電光石火のごとく敵を撃破した坂本、吉井ペアの勝利です!やはり前回の優勝者は伊達じゃありません!』

「ま、こんなもんか。さて、帰るとするか」
「そうだね」
勝ち名乗りを受けた僕達は会場を後にすることにした
「吉井明久・・・・・・いつか殺すわ・・・・・・」
帰り際聞こえた呟きは忘れることにしよう
「二人とも、お疲れ様でした」
観客席に戻ってきたところで姫路さんが出迎えてくれた。これだけでも頑張ったかいがあったと思う。僕はほとんど何もしてなかったけどね・・・・・・
「そろそろウチらの出番ね。行ってくるわ」
「あれ?もうそんな時間?」
「アンタたちみたいにすぐ倒したペアが多かったのよ。もうそろそろ前の試合が始まるわ」
「そっか。二人とも、頑張って。ここで応援してるね」
「はい。有難うございます」
僕達と入れ違いになる形で姫路さんと美波が会場に向かった
「秀吉、ムッツリーニ。翔子の試合はどうだった?」
少し遅れて戻ってきた雄二が秀吉達にそんな質問をしていた。はて、何が気になるんだろう
「雄二、霧島さんの試合の様子聞いてどうするの?」
「少しでも情報が欲しいだけだ。対策を立てるのに必要だからな」
そこまでして勝ちたいのか・・・・・・まあ負けたら僕の命が無くなるから口出ししないけど
「そうじゃのう・・・・・・」
秀吉が顎に手をあてて呟く。一体どういう作戦、フォーメーションだったのか。それが分かれば対策も立てやすく———
「なかなか似合っておったぞい。姫路や島田もそう言っておった」
この返事は予想外だ
「似合ってた・・・・・・?どういうことだ?」
「うむ、何故か霧島も工藤もメイド服を着ておった」
成る程。確かに似合ってそうだ
「翔子は普段そういうのは着ないはずだが・・・・・・工藤の作戦か?」
「うーん、どうなんだろ・・・・・・ムッツリーニは?」
目敏いムッツリーニなら何か見つけられたかもしれない。期待してみよう
「・・・・・・・・・・・・場所が悪くて撮れなかった」
成る程。流石のムッツリーニでも無理だったようだ
「・・・・・・他に何か気付いたことはあるか?」
「勝負は一瞬で決まったからのう。服装のインパクトもあって何も分からなかったのじゃ。すまぬ」
「いや、それならそれでいい」

『———の勝利です!』

秀吉の話を聞いていたら、アナウンサーの勝者を告げる声が届いた。どうやら姫路さん達の前の試合が終わったようだ
「さて、姫路と島田の対策も必要だし、今はアイツらの試合に集中するか。明久、お前もよく見ておけ」
「了解っと」

『では次の試合の選手入場です。まずは2年Fクラス、姫路、島田ペアです!』

アナウンスの声に続いて選手入場口から姫路さんと美波が出てくる。普段と違う戦闘でどう特徴が出るか、色々と見物だ
『対するは、2年Bクラス、岩下、菊入ペア!』

反対側からは二人の女子生徒が姿を現した。はて、あの二人も何処かで・・・・・・
「んむ?姫路と島田の相手じゃが、前回お主らが一回戦で戦った相手ではないかの?」
「そう言われてみるとそうだったような・・・・・・」
秀吉に言われて召喚大会の一回戦を思い出す。雄二が、女の子の仲良しゴッコにしては上出来だなんて言ってたっけ
それにしても前回は僕達の相手で今回は姫路さんと美波の相手とは・・・・・・妙な縁がありそうだ

『それでは選手の皆さん、召喚してください』

「「「「試獣召喚っ!」」」」
掛け声に続き、武器が出現する。姫路さんと美波はお馴染みの大剣とサーベル、相手二人は剣と槍だった

『Fクラス 姫路瑞希 & Fクラス 島田美波
 数学   412点 & 171点     』

『Bクラス 岩下律子 & Bクラス 菊入真由美
 数学   189点 & 163点      』

少し遅れて電光掲示板に全員の点数が表示される。圧倒的じゃないか我が軍は
「それだけじゃねえな。確かアイツら、Bクラスとの試召戦争で姫路に真っ先にやられてなかったか」
点数に目を奪われていたら雄二がそんなことを言ってきた。言われてみれば、姫路さん相手に二人がかりで攻めたけど返り討ちにあってたっけ

『・・・・・・!』
『・・・・・・!・・・・・・!』

「さっきから何か言い争ってるみたいだし、どっちが姫路を倒すかで揉めてるんだろ」
「成る程、いいリベンジの機会になりそうじゃからな」
雄二と秀吉の言う通り、確かに二人は言い争いをしているようだった。残念ながら観客席にまでは声が届いてないから内容までは分からないけど
「・・・・・・・・・・・・これで聞ける」
そう言ってムッツリーニが取り出したのは盗聴器のようなもの、というか確実に盗聴器。いつの間にこんなものを・・・・・
まあせっかくだし、岩下さんと菊入さんには悪いけど聞かせてもらおう。どれどれ———

『律子!私は島田さんをやるから律子は姫路さんをお願い!』
『ちょ、ちょっと待ってよ!姫路さんって3年の間で殺人兵器(キラーマシーン)って呼ばれてるのよ!?3年生を3人も保健室送りにしたのよ!?怖くて戦えないわよ!』
『私だって怖いわよ!味方もろとも敵を葬ったこともあるって噂だし、島田さんが相手でも全然安全じゃないのよ!?だから点数の高い律子が姫路さんをお願い!』
『む、無理よ!相手は心の目で獲物の場所を探り当てる達人って言われてるのよ!?勝てる訳ないじゃない!』

全部事実なことに涙が出てきた
「・・・・・・妙な噂が流れておるようじゃな・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・キラーマシーンって一体・・・・・・」
「・・・・・・見事な命中率だったからな・・・・・・」
あれは今思い出しても泣けてくる。ちなみにあの件以降、僕の嫌いな食べ物にザクロが追加されていたりする
「とりあえず集中だ、集中。何でもいいから戦い方の特徴とか見つけるぞ。対策を立てるんだ」
尊い犠牲に目頭を熱くしている暇はないようだ。あの人達には悪いけど、いけにえになってもらおう

『では、召喚大会一回戦第13試合を開始します』

ついにゴングが鳴らされた。さて、お手並み拝見させてもらうと「いきますっ!」姫路さん左手を前に出して一体何を———

キュボッ!

「「・・・・・・・・・・・は?」」

『Fクラス 姫路瑞希 VS Bクラス 菊入真由美
数学 412点 VS 0点        』

『Fクラス 姫路瑞希 VS Bクラス 岩下律子
 数学   412点 VS 0点       』

ドサリという音と共に電光掲示板の表示が更新される

『瑞希・・・・・・容赦ないわね・・・・・・』
『ご、ごめんなさいっ!これも勝負ですので!』

『う、腕輪を利用して圧倒的な力の差を見せ付けた姫路、島田ペアの勝利です!』

・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・雄二」
「・・・・・・なんだ」
「・・・・・・何か分かったこと、ある?」
「・・・・・・流石の俺にも限度ってもんがある」
「・・・・・・だよね」
キラーマシーンの異名は、あながち間違ってないと思った
「あぁー、疲れた」
試験が終わると同時に、ダルそうに声をあげる。長い間同じ姿勢だったからか、背伸びしたら骨がボキボキと音を鳴らした
姫路さんと美波の試合が終わったあと、秀吉とムッツリーニの試合までは時間があるということで僕達6人は化学のテストを受けていた
先週の野球大会で消費してしまった点数は昨日の授業を潰して大体補充出来たんだけど、二回戦で使う化学だけは時間がなくて試験を受けられなかったのである
「さて、そろそろワシらの出番のようじゃな」
同じく試験を受けていた秀吉が言う。どうやら試合に間に合わなくなるなんてことはなさそうだ
「そうか。負けるなよ。秀吉、ムッツリーニ」
「・・・・・・・・・・・・(こくり)」
「うむ。では行ってくるぞい」
秀吉達を見送ったあと、残った4人で観客席に向かった。既に前の試合の決着がついていたのか、着いたときには会場に生徒の姿は見当たらなかった
「確か木下と土屋で最後だったわよね?」
「だな。アイツらはDブロックの16番だから、アイツらの次の試合からは二回戦だ」
「秀吉とムッツリーニ、勝てるかな?」
「木下君と土屋君なら大丈夫ですよ、きっと」
「でも、ムッツリーニって保健体育以外は僕より下だからなぁ・・・・・・」
正直言ってかなり厳しいと思う
「まあ召喚獣なら無理だとは思うが、今は違うからな。点数が低くてもムッツリーニ本人の運動神経である程度カバー出来るだろ」
「そうね、土屋は運動結構得意みたいだし」
「新システム様々だね」
頭が悪くても逆転出来るという要素は僕達にとって都合がよい。いつもは点数だけが勝敗を決めるからね。まあ学園としてはそのほうがいいんだろうけど
『では次の試合の選手入場です。まずは文月学園、木下、土屋ペアです!』

『さて、行くとするかの』
遠くのスピーカーからアナウンスの声が聞こえ、近くのスピーカーからは秀吉の声が聞こえた
雄二の提案で秀吉とムッツリーニは盗聴器と小型スピーカーを持って試合をすることになっていたりする
相手の会話を聞いて作戦を立て、それを瞬時に伝えるためらしい。スピーカーから秀吉の声が聞こえたのはそのせいだ
「———って文月学園?」
「?アキ、どうしたの?」
「いや、今文月学園、木下、土屋ペアって聞こえたような」
「なんだ明久。お前もババアの話聞いていただろ。もう忘れたのか」
学園長の話?一体何の関係が———

『対するは、聖条学園、天野、井上ペア!』

反対側の選手入場口からは長い三つ編みや胸元のターコイズブルーのリボン、そして線の細さが特徴的な女子生徒と、サラサラの髪や女の子みたいに整った顔をしている男子生徒が歩いてきた
———ってあの二人はまさか!?
「い、井上君に天野先輩!?どうしてここに!?」
秀吉とムッツリーニの相手は、ここ文月学園から割と離れた聖条学園に通う井上心葉君、と彼の先輩の天野遠子さんだった
天野さんは姫路さんの知り合いだったらしく、ある日、落ち込んでいた姫路さんのために後輩である井上君を連れて文月学園に来たことがあり、それがきっかけで僕達とも知り合いになった訳なんだけど・・・・・・
「今回は他校の奴も参加するってババアが言ってただろ。他校が相手なら所属クラスを紹介しても意味ないしな」
「そういえば他校の枠はすぐに埋まったって言ってたっけ」
こういう機会は滅多に無いから募集が殺到したのだろう

『瑞希ちゃーん、久しぶりー!』

「遠子さん!お久しぶりです!」
会場から天野先輩の声が届く。子供のようにピョンピョン跳ねている天野先輩の隣では、若干緊張気味の井上君が軽く手を振っていた。流石常識人の井上君だ。態度が大人びている

『吉井君!今日は吉井君が瑞希ちゃんを放って坂本君とイチャイチャしていないかを見に来たのよ!』
『遠子先輩!大勢の観客の前で変なこと言わないでください!』

常識人というよりは苦労人のほうが正しいかもしれない。というか天野先輩の言っていることがよく分からない
「・・・・・・雄二。吉井とイチャイチャってどういうこと」
「し、翔子!?お前いつの間に!ま、待て!それは誤解・・・・・・ぎゃああああ!」
突然現れた霧島さんのアイアンクローで悲鳴をあげる雄二。いつもならこのままでもいいんだけど、今回は秀吉とムッツリーニの司令塔としての役目を担っている以上、気絶されるわけにはいかない
「霧島さん、あのさ」
「・・・・・・吉井。雄二は渡さない」
安心してください、僕もいりません
「いや、そうじゃなくて・・・・・・雄二に秀吉達の作戦を任せているから折檻はあとにしてもらえると———」
『・・・・・・・・・・・・作戦は既に聞かされている。問題ない』
「続きをどうぞ」
「お、お前ら!俺を見捨てる気・・・・・・」
パキュ
雄二の顔から景気のいい音が響く
「・・・・・・向こうで話を聞かせてもらう」
そう言って霧島さんは雄二を引きずりながら観客席を後にした。あの程度なら二回戦までには生き返るだろう

『それでは選手の皆さん、召喚してください』

「「「「試獣召喚っ!」」」」
掛け声に続いて秀吉には薙刀、ムッツリーニには小太刀二刀、井上君と天野先輩には巨大ランスが出現した
しかし、本当に秀吉とムッツリーニで井上君と天野先輩を倒せるのだろうか
前に見たときは、井上君はAクラスのトップレベル、天野先輩に至っては保健体育がムッツリーニ並の点数だったはず
本人の運動神経である程度カバーできると言っても限界があるのでは・・・・・・?
『文月学園 木下秀吉 & 文月学園 土屋康太
数学 76点 & 25点      』

『聖条学園 天野遠子 & 聖条学園 井上心葉
数学 2点 & 336点     』

こういう時、どんな顔すればいいか分からない

『心葉君・・・・・・後は任せたわ・・・・・・』
『先輩!まだ始まってすらいませんよ!』

試合開始前から遺言を遺す天野先輩。そういえば、天野先輩って数学がかなり苦手だったっけ・・・・・・
「に、2点って・・・・・・ウチの古典より低い・・・・・・」
隣で何とも言い難い表情をした美波が呟く。どっちもどっちとは言わないでおこう
しかし、これで勝負はほとんど2対1になったものの安心は出来ない。戦力差は3倍以上あるし、無策で勝てるような相手ではない。雄二の作戦に期待するしか———
『では、召喚大会一回戦第32試合を開始します』

ヒュッ(ムッツリーニが小太刀を投げる音)

ザクッ(小太刀が天野先輩に刺さる音)

ドサッ(天野先輩が力無く地面に倒れる音)

この間、なんと僅か2秒。あまりの早業に我々観客席も驚きを隠せない

『先輩!?遠子先輩!?』

パートナーのあまりに早い死亡報告に戸惑う井上君。流石に開始2秒で沈むとは誰も思わないよね・・・・・・
『・・・・・・・・・・・・覚悟・・・・・・っ!』
『隙有りじゃ!』
秀吉が薙刀で、ムッツリーニが残ったもう一本の小太刀で井上君に攻撃を仕掛ける

『うわっ!』

秀吉の薙刀は腹に、ムッツリーニの小太刀は首にそれぞれヒットした。その反動で大きく吹き飛ぶ井上君とそれを追いかける秀吉。ムッツリーニは天野先輩に投げた小太刀の回収に向かっている
『聖条学園 井上心葉
数学 152点』

掲示板の点数が更新されるが、点数差が大きいせいで急所にあてても半分ちょっとしか減らせていない。ここから先は雄二の作戦の出番か・・・・・・?
「ムッツリーニ。聞かされていた作戦ってどういう内容?」
スピーカーに向かって問い掛ける。雄二がいない今、僕が司令塔だ。作戦実行のタイミングをはかるためにも内容を把握しておかないと・・・・・・!
『・・・・・・・・・・・・最初のアレが作戦だ。点数の減りが少ないのは想定外』
「なっ・・・・・・!」
ムッツリーニから告げられる衝撃の事実。ってことは、ここから先は完全な実力勝負!?未だ相手の点数は秀吉の2倍近くあるというのに・・・・・・!
今は秀吉一人で井上君と戦っているけど、このままでは負けてしまう!何か別な作戦を考えないと!

『井上!ワシは女子が相手とて容赦はしない主義じゃ!悪く思うでない!』
『女子って・・・・・・僕のこと!?僕は男だよ!』
『はっはっは!井上の冗談は相変わらず面白いの!いくら演劇バカのワシでも、お主のような美人が男でないことぐらい分かるぞい!』
『何言ってるのさ!木下さんの方が何倍も魅力的だよ!それに僕だって、木下さんみたいな可愛い女の子が相手でも遠慮はしないよ!』
『ワシは見ての通り男じゃ!井上!そう自分を卑下するでない!』
『木下さんが男?木下さんって本当に冗談が好きなんだね!』

ダメだ、突っ込み所が多過ぎて集中できない
「どうしよう・・・・・・」
いい案が思い浮かばなくて思わず呟く。こんなことになるなら、雄二の処刑を止めておけばよかった・・・・・・
『・・・・・・・・・・・・任せておけ。必ず勝つ』
スピーカーからそんな声が聞こえてくる。ムッツリーニは小太刀の回収を終えていたが、攻撃を仕掛ける様子がない。何をするつもりなんだろう・・・・・・?
「ムッツリーニ、何か作戦があるの?」
『・・・・・・・・・・・・元々俺も作戦を立てていた。それを今から実行する』
そう言うと同時に、秀吉が井上君への攻撃を中断しムッツリーニのもとへ駆け寄る。深追いしてこないのは、井上君の穏和な性格のおかげだろう
『・・・・・・・・・・・・行くぞ・・・・・・!』
『了解じゃ!』
ムッツリーニの合図により突撃する二人。それにあわせて槍を構える井上君
数で圧倒出来ないのは分かっているはずだ。そうなると、ムッツリーニの考えた作戦って一体———
『すまぬ!ムッツリーニ!』
『・・・・・・・・・・・・ぐっ・・・・・・!』
ムッツリーニの体が突然宙に浮く
いや、違う。あれは・・・・・・浮いているんじゃない!秀吉がムッツリーニを蹴ったんだ!まさか、捨て身作戦!?

『えっ・・・・・・うわっ!』

秀吉に蹴られたムッツリーニはそのまま井上君に激突し、二人はもつれるように地面に倒れた。井上君はムッツリーニの予想外の加速に反応出来ず、持っていた槍を手放してしまっている
『とどめじゃ!』
ムッツリーニの下敷きになっている井上君に、秀吉が薙刀を叩き込む
これは完全に勝負ありだ。勝利のためなら自分の命を捨てる、現代の忍者ムッツリーニならではの作戦と言える・・・・・・

『文月学園 木下秀吉 VS 聖条学園 井上心葉
数学 76点 VS 0点    』

『味方を蹴るという奇抜な戦術を駆使した木下、土屋ペアの勝利です!』

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